説明

打楽器の音調整装置

【課題】カホン等の打楽器に多くの弦を張設するような場合でも、容易に弦の調整を可能にすること。
【解決手段】 弦121a、121bの一端を箱体110の上面側で固定する固定部123と、弦121a、121bの他端を箱体110の底面側で固定する固定部125と、弦の一端に接続され、固定部123、125の内部に設けられ打面117と直交する方向に開口を有するセルの内部を打面板117と直交する方向にスライドして弦を打面板117から離接する方向又は打面板117に接触する方向に移動させるスライド部と、
弦121a、121bを打面117に対して固定した状態で支持する支持部128とを有する。スライド部に枢支されたボルトを回転させる操作ノブを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部が空洞の箱体の側面に設けられた打面を叩打するなどして共鳴音を発生させる打楽器に係り、特に、当該打楽器から発生する音を調整するための音調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
打楽器の一種として「カホン」と称するものが知られている(特許文献1及び特許文献2)。カホンは内部が空洞の箱体の側面に設けられた打面を叩打するなどして共鳴音を発生させるものであり、叩打する位置を変えることで様々な音を発生させることができる。さらに、打面の裏側に張設した弦の張力を調整することで独特の音を発生させることもできる。
【0003】
打面の裏側に張設した弦の張力を調整するため装置の構造としては、箱体に設けた六角形状のボルトを回転させて弦の張力を調整するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005‐266732号公報
【0005】
【特許文献2】特開2008‐500565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
打面の裏側に張設した弦の張力を変えることにより打面を叩打したときの音が変わることから、音楽の種類や演奏方法に応じて弦の張力を調整して使用することができる。打面の裏側に張設する弦の本数が多いほど、打面を叩打したときに弦が発する音が大きくなることから、打面の裏側に複数本の弦を張設することが一般的であり、近年ではより多くの弦を設けたいという要望がある。
【0007】
弦の張力を調整するための従来の構成は、一本の弦に対して設けられたペグやボルトを廻すことによって弦の張力を調整するものであるため、複数本の弦を張設しようとする場合はペグやボルトの数も多くなる。このような多くの弦を備えたカホンの弦の張力を調整しようとする場合は、各弦に儲けられたペグやボルトをそれぞれ操作しなければならず調整に時間がかかってしまう。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、打面の裏側に多くの弦を張設するような場合でも、容易に弦の調整を可能にすることができる打楽器の音調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の打楽器の音調整装置は、内部が空洞の箱体の一方に設けられた打面の裏面に沿って張設した弦を調整し前記打面を叩打したときに発生する音を調整する打楽器の音調整装置であって、前記弦の一端を前記箱体の上面側で固定する第1の固定部と、前記弦の他端を前記箱体の底面側で固定する第2の固定部と、前記弦の一端に接続され、前記第1又は第2の固定部の内部に設けられ前記打面と直交する方向に開口を有するセルの内部を前記打面と直交する方向にスライドして前記弦を前記打面から離接する方向又は前記打面に接触する方向に移動させるスライド部と、前記弦に接続された前記スライド部に設けられたナット部と螺合するボルト部と、一方が前記ナット部と螺合する前記ボルト部の他方に取り付けられ、前記箱体の外部から前記ボルトを回転させる操作部と、前記弦を前記打面に対して固定した状態で支持する支持部とを備える。
【0010】
上記構成によれば、弦が接続されたスライド部をスライドさせると、弦を打面から離接する方向又は密接する方向に移動させることができる。またスライド部をスライドさせると弦を緊張又は弛緩させることができる。これによって弦を打面から離接又は密接させたり、弦を緊張又は弛緩させたりして弦を調整することができる。そしてスライド部に複数の弦を接続すれば、複数本の弦の調整を一つのスライド部のスライドにより実現することができる。さらに、スライド部がボルトと螺合しているため、任意の位置でスライド部を安定的に位置決めすることができ、演奏中にスライド部が移動して弦の張力が変わることを防止することができる。
【0011】
また本発明の打楽器の音調整装置は、内部が空洞の箱体の一方に設けられた打面の裏面に沿って張設した弦を調整し前記打面を叩打したときに発生する音を調整する打楽器の音調整装置であって、前記弦の一端を前記箱体の上面側で固定する第1の固定部と、前記弦の他端を前記箱体の底面側で固定する第2の固定部と、前記弦の一端に接続され、前記第1及び第2の固定部の内部に設けられ前記打面と直交する方向に開口を有するセルの内部を前記打面と直交する方向にスライドして前記弦を前記打面から離接する方向又は前記打面に接触する方向に移動させるスライド部と、前記弦に接続された前記スライド部に設けられたナット部と螺合するボルト部と、一方が前記ナット部と螺合する前記ボルト部の他方に取り付けられ、前記箱体の外部から前記ボルトを回転させる操作部と、前記第1又は第2の固定部に設けられ、前記弦を前記打面に対して固定した状態で支持する支持部と
を備える。
【0012】
上記構成によれば、 弦が接続されたスライド部をスライドさせると、弦を打面から離接する方向又は密接する方向に移動させることができる。またスライド部をスライドさせると弦を緊張又は弛緩させることができる。これによって弦を打面から離接又は密接させたり、弦を緊張又は弛緩させたりして弦を調整することができる。そしてスライド部に複数の弦を接続すれば、複数本の弦の調整を一つのスライド部のスライドにより実現することができる。
【0013】
さらに、スライド部がボルトと螺合しているため、任意の位置でスライド部を安定的に位置決めすることができ、演奏中にスライド部が移動して弦の張力が変わることを防止することができる。また2つのスライド部の組み合わせにより、弦を打面に密接させた状態で弦を緊張又は弛緩させたり、弦を打面から離接させた状態で弦を緊張又は弛緩させたりし、弦を多様に調整することができる。
【0014】
本発明において、前記第1及び第2の固定部の少なくとも一方の内部に設けられ前記打面と直交する方向に開口を有するセルの内部を前記打面と直交する方向にスライド部と、前記スライド部に設けられ、前記スライド部のスライドにより前記打面から離接する方向又は前記打面に接触する方向に移動して前記打面を押圧する突起部と、前記スライド部に設けられたナット部と螺合するボルト部と、一方が前記ナット部と螺合する前記ボルト部の他方に取り付けられ、前記箱体の外部から前記ボルトを回転させる操作部と、を備えることができる。
【0015】
上記構成によれば、打面を押圧する突起部を打面から離接する方向又は接触する方向にスライドさせることにより、打面を箱体の外側に撓ませることができ、弦が必要以上に打面に密接することを防止することができる。また、突起部が接触する部分の打面には多くに張力が加わるめ、この部分を叩打したときに発生する音の質を打面の他の部分を叩打したときの音の質と変えることができる。したがって打面を押圧する量を変えることで、多様な音を発生させることができ、かつ操作ノブをまわすだけで押圧する量を変えることができるため、演奏中の調整も容易に行うことができる。また、スライド部がボルトと螺合しているため、
任意の位置でスライド部を安定的に位置決めすることができ、演奏中にスライド部が移動して打面の押圧量が変わることを防止することができる。
【0016】
さらに本発明において、前記弦が接続されるスライド部と前記突起部が設けられるスライド部とを共通にし、1つのスライド部に前記弦と前記突起部とが設けられるようにすることができる。このように突起部と弦とを同時に動かす構成にすることにより、突起部と弦を一つの操作ノブでスライドさせることができる。さらに、突起部の突出高さを調整し、弦が打面に接触する寸前に突起が打面に接触するように設けることで、人為的な操作により必要以上に弦と打面とが密接することを防ぐことができる。
【0017】
さらに本発明において、前記弦が接続されるスライド部とは独立しスライドするスライド部に前記突起部を設けるようにすることができる。この構成によれば、
人為的な操作により必要以上に弦と打面とが密接することを防ぐことができるとともに、突起部のみが設けられたスライド部をスライドさせて打面を押すことができ、打面の張力を部分的に変えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、弦が接続されたスライド部をスライドさせると、弦を打面から離接する方向又は密接する方向に移動させることができる。またスライド部をスライドさせると弦を緊張又は弛緩させることができる。これによって弦を打面から離接又は密接させたり、弦を緊張又は弛緩させたりして弦を調整することができる。そしてスライド部に複数の弦を接続すれば、複数本の弦の調整を一つのスライド部のスライドにより実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の音調整装置が搭載される打楽器の一実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した打楽器の背面構造を示す図である。
【図3】弦の動きを説明するための図である。
【図4】弦の動きを説明するための図である。
【図5】固定部のセル内に設けられた突起部の動きを説明するための図であり、(A)は突起部と打面とが接触した状態を示す図、(B)は突起部と打面とが離接した状態を示す図である。
【図6】本発明の音調整装置が搭載される打楽器の他の実施の形態を示す斜視図である。
【図7】本発明の音調整装置が搭載される打楽器の他の実施の形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明に係る音調整装置を搭載した打楽器の外観を示す斜視図である。図1に示すように、打楽器100は内部が空洞の箱体110と、箱体110の内部に搭載される音調整装置120とを有する。箱体 110は、上面板111、底面板113、側面板115、打面板117及びサウンドホールと称する音出力用開口を有する背面板119で構成され、打面板117は皿ネジ119により箱体110に取り付けられている。打面板117は木製合板やアクリルボードで構成される。打面板117を皿ネジ119により取り外し可能に取り付けることで、音調整装置120を箱体内に収容する作業が容易になり、また音調整装置120を搭載した後の弦の交換などの保守作業が容易になる。さらに打面板117を透明な板で構成することで、部品の消耗状態を外部から容易に確認することができるとともに、音調整装置120の構造を外部から視認できることによる意匠的な効果を醸し出すこともできる。
【0021】
音調整装置120は、箱体110の上面板111と底面板113との間に弦121a、121bを張設して固定する一対の固定部123、125及び固定部123、125によって張設した弦121a、121bを打面板117に対して密接させて支持する支持部128を備える。支持部128はビス129により固定部125に固定される。弦121a、121bは後述するように、弦121a、121bを両端から引っ張って打面117に接触する方向又は離接する方向に移動する。このとき支持部128により弦121a、121bが打面117と密接するように支持されているため、弦121a、121bが両端から引っ張られると支持部128を支点として弦121a、121bが相反する方向に引っ張られ、弦121a、121bに張力を加えることができる。
【0022】
弦121a、121bの種類としてはギターの弦に使用されるワイヤー状のものや、スネアドラムの裏側に使用されるスナッピー状のものを用いることができる。図示例では弦121a、121bがそれぞれ3本の弦の組み合わせにより構成されているが、弦121a、121bを構成する弦の本数は1本でもよく、またより多くの本数であってもよい。また図示例では2組の弦121a、121bを設けているが、1組の弦でもよく、またより多くの弦を組み合わせてもよい。
【0023】
固定部123、125はそれぞれ打面板117と直交する方向に開口を有する複数のセルに分割され、固定部123にはセル123a〜123dが形成され、固定部125にはセル125a〜125fが形成される。図示例では固定部123に設けられたセル123aと固定部125に設けられたセル125bとの間に弦121aが張設され、固定部123に設けられたセル123dと固定部125に設けられたセル125eとの間に弦121bが張設されている。セルの数は使用する弦の組(本実施形態では2組)や後述する突起部の数に応じて適宜変えることができる。
【0024】
また固定部123のセル123bに突起部127aが設けられ、同様に固定部123のセル123cに突起部127bが設けられている。突起部127a、127bはゴム等の弾性材料で構成されている。後述するように弦121a、121bは打面117に対して直交する方向に移動して打面117と密接させることができる。弦121a、121bが打面117により密接する方が好ましいが、打面117を叩打したときなど弦121a、121bが必要以上に打面117に接触しないように、突起部127a、127bを設けている。弦121a、121bの径に応じて弦121a、121bと打面117との密接状態を変える必要があるため、突起部127a、127bは弦121a、121bと同様、打面板117に対してほぼ直交する方向にスライドさせることができる。
【0025】
なお突起部127a、127bが接触している部分の打面は、他の打面に比べて多くの張力が加わっているため、突起部127a、127bが接触している部分の打面と他の打面とでは叩打したときの音が異なる。よって突起部127a、127bをスライドさせて打面117を押圧する強さを変えることにより、打面117を叩打したときの音を調整することもできる。なお本実施の形態において「密接」とは、弦と打面とが接触している状態及び打面の振動が弦に伝達する程度の近接状態を意味する。
【0026】
図2は打楽器100の背面構造を示す斜視図である。背面板119のほぼ中央付近にはサウンドホールと称する音出力用の開口211が設けられており、背面板119の上面板111側付近には、図1に示した弦121a、121bの張力を調整して打面板117に接触又は離接させるための操作ノブ213a、213dが設けられ、突起部127a、127bを打面板117に押圧するための操作ノブ213b、213cが設けられている。背面板119の底面板113側付近には、図1に示した弦121a、121bに張力を加えるための操作ノブ213e、213fが設けられている。
【0027】
以下、図3及び図4を参照して弦121a、121bの動きについて説明する。なお図示例では弦121aのみを示しているが、弦121bについても弦121aと同様の動きを実現することができる。以下の説明において、固定部123にはスライド部310aから310dが設けられ、各スライド部にはナット311aから311dが埋設され、各ナットにはボルト313aから313dが螺合しており、各ボルトには操作ノブ213aから213dが取り付けられ、固定部125にはスライド部313e、313fが設けられ、 各スライド部にはナット311e、311fが埋設され、各ナットにはボルト313e、313fが螺合し、 各ボルトには操作ノブ213e、213fが取り付けられているものとして説明する。
【0028】
弦121aの両端は、それぞれ固定部123の中空内部を打面板117と直交する方向にスライドするスライド部310aと、固定部125の中空内部を打面117と直交する方向にスライドするスライド部310eにそれぞれ固定されている。スライド部310aは箱体110の上面板111に取り付けられた固定部125aに形成されたセル内に収容され、スライド部310eは箱体110の下面板113に取り付けられた固定部125に形成されたセル内に収容される。
【0029】
一端に弦121aが取り付けられたスライド部310aの他端には、ナット311aが埋設される。一端に弦121aが取り付けられたスライド部310eの他端には、ナット311eが埋設されている。各ナットの厚さは、スライド部のスライド範囲に応じて適宜設計され、各ナットに刻設されるネジのピッチは、スライド部のスライド精度に応じて適宜設計される。各スライド部に埋設されたナットには、それぞれボルトが螺合し、一端がナットと螺合するボルトの他端には、それぞれ背面板119を貫通した状態で操作ノブ213aから213fが取り付けられている。
【0030】
操作ノブを回転操作すると、ボルトが回転し、これによりスライド部が図中矢印方向にスライドする。本実施の形態では、操作ノブが一回転する毎にスライド部がそれぞれ1ミリメートルの範囲でスライドするようにボルト及びナットのネジピッチを設計している。 スライド部310a、310eがスライドすることにより、スライド部310a、310eに取り付けられた弦121aが打面117から離接する方向に引っ張られる。しかし、箱体110の底面板113側に設けられた固定部125には、支持部128により弦121aが一定の位置に支持されているため、支持部128を支点に弦121aに張力が加わることになる。
【0031】
弦121aに加える張力は主としてスライド部310eがスライドする距離に応じて変えることができ、多くの張力を加えたり、少ない張力を加えるなどして弦121aの張力を変えるとともに、弦121aと打面117との距離を変えて、打面117を叩打したときに発生する音の質を操作ノブ213a、213eの回転操作により調整することができる。本実施の形態ではスライド部をアルミニウムで構成し、各スライド部が固定部のセル内部を自在にスライドできるようにしている。スライド部の移動方向と弦の状態を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、スライド部を前方に移動させると、弦が打面に密接した状態で弦を弛緩させたり緊張させたりすることができる。またスライド部を後方に移動させると、弦が打面から離接した状態で弦を弛緩させたり緊張させたりすることができる。
【0034】
図3及び図4に示した構成では、固定部123、125にそれぞれスライド部を設け、弦121aを両端から引っ張る場合を示している。この構成では、固定部123のスライド部は主として弦を打面から離接又は密接させるために機能し、支持部128を有する固定部125のスライド部125は、主として弦を緊張又は弛緩させたりするために機能する。そして主として弦を密接又は離接させるために固定部123のスライド部がスライドする距離を本実施形態では約4mmに設定し、主として弦を緊張又は弛緩さでるために固定部125のスライド部がスライドする距離を本実施形態では約10mmに設定するため、固定部123のスライド部に螺合するボルトを固定部125のスライド部に螺合するボルトの長さよりも短くしている。
【0035】
なお固定部123、125の何れか一方にのみスライド部を設け、弦121aを一端でのみ引っ張るようにすることもできる。例えば、固定部125のスライド部のみをスライドさせて弦に張力を加えることができる。この場合、支持部128を打面117を叩打する部分以外に設けて弦を支持するようにし、ある程度の長さの弦が打面と密接するようにする。
【0036】
固定部125に設けた支持部128は、分割された状態で複数のブロックとして配置されている。弦121aの径に応じて支持部128と打面板117との距離を変える必要があるが、
径の異なる弦を用いる場合、用いる弦に応じてそれぞれの支持部128を移動し、支持部128と打面板117との距離を変えて密接状態を調整することができる。箱体110の上面板111側に設けられた固定部123に設けたセルの内部をスライドするスライド部310aをスライドさせることにより、弦121aと打面板117との密接量を変えることができる。固定部123のセル内をスライドするスライド部310aが固定部123から露出できる空間を打面117と固定部123との間に確保し、固定部123から露出するスライド部117の端部を打面板117に密接させることができるように、打面板117と固定部123との間には一定の空隙が設けられている。
【0037】
箱体110の上面板111側に設けた固定部123のセル内をスライドするスライド部310aを操作ノブ213aの回転操作によりスライドさせ、底面板113側に設けた固定部125のセル内をスライドするスライド部310eを操作ノブ213eの回転操作によりスライドさせる。同様に、固定部123のセル内をスライドするスライド部123dを操作ノブ213dの回転操作によりスライドさせ、固定部125のセル内をスライドするスライド部123fを操作ノブ213fの回転操作によりスライドさせる。これにより弦121a、121bと打面板117とが密接した状態から離接した状態までを実現することができる。
【0038】
スライド部には複数本の弦が取り付けられているため、複数本の弦の張力調整を1つの操作ノブの回転操作により行うことができるさらにスライド部に埋設したナットとボルト313とを螺合させているため、スライド部を任意の位置で位置決めし続けることができる。またボルトの回転運動でスライド部を直線移動させるため、スライド部がスライドする範囲を任意に決めることができる。またボルトとナットの螺刻ピッチを変えることでスライドピッチを任意に決めることができる。
【0039】
以下、図5を参照して箱体110の上面板111側に設けられた固定部123のセル内に設けられた突起部127a、127bの動きについて説明する。なお図示例では突起部127aの動きを示しているが、突起部127bも同様の動きを実現することができる。図中(A)は突起部127aが打面板117を押圧している状態を示す図、図中(B)は突起部127aが打面板117を押圧していない状態を示す図である。突起部127aは箱体110の上面板111に取り付けられた固定部123に設けられたセル内に収容されるスライド部310bの一端に取り付けられている。スライド部310bの他端にはナット311bが埋設されており、一端がナット311bと螺合するボルト313bの他端には箱体110の背面を貫通した状態で操作ノブ213bが取り付けられている。
【0040】
操作ノブを回転操作すると、ボルトが回転し、これによりスライド部が図中矢印方向にスライドする。本実施の形態では、操作ノブが一回転する毎にスライド部が1ミリメートルの範囲でスライドするようにボルト及びナットのネジピッチを設計している。スライド部がスライドすることにより、スライド部に取り付けられた突起部が打面板117に接触し(図中(A))又は離接する(図中(B))。
【0041】
これにより突起部が接触している部分の打面の張力を打面の他の部分に比べて大きくすることができる。操作ノブを回転操作しながら、突起部が打面板を押す力を大きくすることで、打面を叩打したときの音の質を変えることができる。突起部の材料は種々考えられるが、ゴムなどの弾性部材にすることで打面板と良好な接触状態を実現することができる。一方、突起部を金属、木材、プラスチック等で構成すると、打面板に接触する突起部も振動させることができ、和音を発生させることもできる。
【0042】
以上説明した実施の形態では、突起部と弦とを独立してスライドさせる構成について説明したが、突起部と弦とを同時にスライドさせるようにしてもよい。図6は弦が接続されるスライド部と突起部が設けられるスライド部とを共通にし、1つのスライド部に弦と突起部とを設けるようにした構成を示している。
【0043】
図6に示すように、固定部123のセル123a内をスライドする図示しないスライド部に弦121aを接続するとともに突起部127cを設け、固定部123のセル123d内をスライドする図示しないスライド部に弦121bを接続するとともに突起部127dを設け、弦が接続されるスライド部と突起部が接続されるスライド部を共通にする。図示例では固定部123を別体に設けたが、図1に示したように1つの固定部としてもよい。
【0044】
突起部127c、127dと弦121a、121bとを同時に動かす構成にすることで、突起部127c及び弦121a並びに突起部127d及び弦121bをそれぞれ背面板に設けた一つの操作ノブでスライドさせることができる。さらに、 突起部127a、127bの突出高さを調整し、弦121a、121bが打面117に接触する寸前に突起部127a、127bが打面117に接触するように設けることで、人為的な操作により必要以上に弦121a、121bと打面117とが密接することを防ぐことができる。
【0045】
また図7に示すように、弦121a、121bが接続されるスライド部とは独立しスライドするスライド部に突起部127a、127bを設けた構成と、図6に示した構成とを組み合わせることにより、 人為的な操作により必要以上に弦121a、121bと打面117とが密接することを防ぐことができるとともに、突起部127a、127bのみが設けられたスライド部をスライドさせて打面117を押すことにより、打面117の張力を部分的に変えることができる。
【0046】
以上説明した実施の形態では、弦を箱体の上面板から底面板にかけて張設した場合について説明したが、箱体の側面間にかけて張設するようにしてもよい。さらに、張設する弦の数は二組に限らず、一組若しくは三組以上でも構わない。同様に、突起部の数も2つに限らず、1つ若しくは3つ以上でも構わず、箱体の底面部に設ける他、上面部及び底面部に設けてもよい。また弦や突起部の数に応じて箱体の上面板側及び底面板側に取り付ける固定部を交換するなどして、種々の組み合わせに対応することができる。また、実施の形態では固定部123、125内に設けたスライド部により弦121a、121bを両端から引っ張る場合について説明したが、弦121a、121bの一方のみを引っ張るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
100 打楽器
110 箱体
111 上面板
113 底面板
115 側面板
117 打面板
119 背面板
120 音調整装置
121a、121b 弦
123、125 固定部
127a〜127d 突起部
128 支持部
129 ビス
211 開口
213a〜213f 操作ノブ
310a〜310f スライド部
311a〜311f ナット
313a〜313f ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が空洞の箱体の一方に設けられた打面の裏面に沿って張設した弦を調整し前記打面を叩打したときに発生する音を調整する打楽器の音調整装置であって、
前記弦の一端を前記箱体の上面側で固定する第1の固定部と、
前記弦の他端を前記箱体の底面側で固定する第2の固定部と、
前記弦の一端に接続され、前記第1又は第2の固定部の内部に設けられ前記打面と直交する方向に開口を有するセルの内部を前記打面と直交する方向にスライドして前記弦を前記打面から離接する方向又は前記打面に接触する方向に移動させるスライド部と、
前記弦に接続された前記スライド部に設けられたナット部と螺合するボルト部と、
一方が前記ナット部と螺合する前記ボルト部の他方に取り付けられ、前記箱体の外部から前記ボルトを回転させる操作部と、
前記弦を前記打面に対して固定した状態で支持する支持部と、
を備える打楽器の音調整装置。
【請求項2】
内部が空洞の箱体の一方に設けられた打面の裏面に沿って張設した弦を調整し前記打面を叩打したときに発生する音を調整する打楽器の音調整装置であって、
前記弦の一端を前記箱体の上面側で固定する第1の固定部と、
前記弦の他端を前記箱体の底面側で固定する第2の固定部と、
前記弦の一端に接続され、前記第1及び第2の固定部の内部に設けられ前記打面と直交する方向に開口を有するセルの内部を前記打面と直交する方向にスライドして前記弦を前記打面から離接する方向又は前記打面に接触する方向に移動させるスライド部と、
前記弦に接続された前記スライド部に設けられたナット部と螺合するボルト部と、
一方が前記ナット部と螺合する前記ボルト部の他方に取り付けられ、前記箱体の外部から前記ボルトを回転させる操作部と、
前記第1又は第2の固定部に設けられ、前記弦を前記打面に対して固定した状態で支持する支持部と、
を備える打楽器の音調整装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の固定部の少なくとも一方の内部に設けられ前記打面と直交する方向に開口を有するセルの内部を前記打面と直交する方向にスライド部と、
前記スライド部に設けられ、前記スライド部のスライドにより前記打面から離接する方向又は前記打面に接触する方向に移動して前記打面を押圧する突起部と、
前記スライド部に設けられたナット部と螺合するボルト部と、
一方が前記ナット部と螺合する前記ボルト部の他方に取り付けられ、前記箱体の外部から前記ボルトを回転させる操作部と、
を備える請求項1又は2記載の打楽器の音調整装置。
【請求項4】
前記弦が接続されるスライド部と前記突起部が設けられるスライド部とを共通にし、1つのスライド部に前記弦と前記突起部とが設けられている請求項1から3の何れか一項に記載の打楽器の音調整装置。
【請求項5】
前記弦が接続されるスライド部とは独立しスライドするスライド部に前記突起部を設けた請求項1から3の何れか一項に記載の打楽器の音調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−8040(P2011−8040A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151668(P2009−151668)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(305049861)有限会社ビックフォレスト (2)