説明

抄紙搬送フェルト

【課題】 湿紙表面平滑性に優れ、適度の通気性と搾水性があり、抄紙機のプレスパート下流部での使用に適した抄紙搬送フェルトの提供。
【解決手段】 基層11と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層12Aと、プレス側の表面に形成された第2バット層12Bと、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成されたフラットファイバーを含む湿紙接触繊維層13とを備え、前記湿紙接触繊維層13に、バインダー樹脂14が包含されていることを特徴とする抄紙搬送フェルト。
上記抄紙搬送フェルトは、各層を絡合一体化させた後、水性樹脂を湿紙接触繊維層から含浸し、熱プレス加工して乾燥・硬化させ、あるいは湿紙接触繊維層を、フラットファイバーと熱溶融繊維とからなるものとし、熱プレス加工して熱溶融繊維を溶融・硬化させ、これをバインダー樹脂として、フラットファイバーの断面の配向が固定化するように、固着することにより製造する。
この抄紙搬送フェルトは、特に抄紙機のプレスパート最下流部のプレス機構での使用に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙搬送フェルトに関する。更に詳しくは、湿紙表面平滑に優れ、抄紙機のプレスパート下流部に配置されたプレス機構での使用に適した抄紙搬送フェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に抄紙機は、ワイヤーパート(図示せず)と、図3に示されるプレスパート1とドライヤーパート(図示せず)とを備え、湿紙はプレスパート1において水分を搾り出される。プレスパートは複数のプレス装置2、3等が湿紙の搬送方向に沿って直列に並んで配置されており、プレスパートの最下流部に配置されたプレス装置3を通過した後、最終的には、ドライヤーパートにおける抄紙搬送用具であるドライヤーカンバス上で乾燥させられる。
【0003】
図3に示されるように各プレス機構2、3には一対の無端ベルト状の抄紙搬送フェルト10、10と、該一対の抄紙搬送フェルトの一部を間に挟むように上下に対向配置される一対のロール22、22からなるプレス(ロールプレス)或いはロール22およびシュープレス23からなるプレス(シュープレス)とを有しており(図3ではシュープレスが図示)、抄紙搬送フェルト10により搬送されてくる湿紙Wを該抄紙搬送フェルトと共にロールとロール(ロールプレスの場合)またはロール22とシュープレス23(シュープレスの場合)とで加圧することにより、該湿紙から水分を搾水しながら抄紙搬送フェルトにその水分を吸収させる。
【0004】
前述のとおり、プレス装置は、複数のプレス装置が湿紙の搬送方向Aに沿って直列に並んで配置されており、湿紙は直列に配置された複数の抄紙搬送フェルト間で順次受け渡されて搬送され、搾水と同時に湿紙表面が平滑化される。したがって、プレス装置における抄紙搬送フェルトには、湿紙搬送機能および湿紙搾水機能のみならず、次工程へ湿紙を渡す際に湿紙を抄紙搬送フェルトからスムーズに離脱させる紙離れ機能、および湿紙表面を平滑化させる湿紙表面平滑化機能が要求される。更に抄紙機のプレス装置では高速操業が求められており、プレス機構における高加圧の影響が加わるのでフェルトの損傷が激しいものであった。フェルトの損傷、特に湿紙側表面は脱毛・磨耗に対して耐久性が良いものでなければならない。
【0005】
また、これらのプレス機構は、プレスパートにおける湿紙の搬送方向の上流側と下流側でそれぞれ要求機能が異なる。上流側では主として搾水機能が重要であるが、下流側では湿紙搾水機能よりもむしろ湿紙表面平滑化機能の方が重要な機能として求められる。しかし、最近の高速抄紙機械では図3のように、プレスパート内において湿紙の一方の面が常に湿紙搬送フェルトに接している、いわゆるクローズドドローの機構が発展してきており、このような抄紙機械においてはより一層の搾水性が求められている。従ってプレスパート下流側に配置されるプレス機構で使用する湿紙搬送フェルトにおいては、湿紙表面平滑化機能が優れ、しかもある程度の搾水機能も要求されてきた。
【0006】
ところで湿紙表面平滑性を向上させるために、これまでに種々の手段が提供されており、例えば厚さよりも幅が大きい断面寸法を有する平坦繊維を含む湿紙接触繊維層が提案され(特許文献1)、その効果として、使用初期からの湿紙搾水性、表面の平滑性、前段部からの湿紙ピックアップ性改良等が挙げられている。
【0007】
また異型断面繊維のうち、繊維の断面の経寸法と横寸法とが異なるフラットファイバーからなる湿紙接触繊維層を用い、かつ基層のプレス側の表面に高分子弾性材を形成された抄紙搬送フェルトが提案されている(特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】特開昭53-58007号公報
【特許文献2】特願2004-333274号明細書
【0009】
特許文献2によれば基層および第2バット層が、高分子弾性材を含んで形成されているので、プレス機構のプレスによって受けるフェルトの損傷が少なく、優れた耐久性と適度な搾水性を備え、また湿紙表面の平滑化機能に優れた抄紙搬送フェルトを提供することができる。つまり特許文献2のフェルトでは、プレスパート下流部に配置されるプレス機構で使用する湿紙搬送フェルトとして、湿紙表面平滑化機能と、ある程度の搾水性とを併せ持つものが開示されている。例えば下流部に属するが、最下流部ではないプレス機構で使用される湿紙搬送フェルトとして、特に有効である。
【0010】
また特許文献2のフェルトにおいては、高分子弾性材を含浸する部分は第2バット層(プレス側)および基層である。つまり基層及び第2バット層に高分子弾性材を含浸することによって、プレス機構のプレスによる機械的強度を高めることができる。しかもフェルトの湿紙側には適度の圧縮・回復性を付与して、湿紙からの水分をある程度吸収するように構成すべく、湿紙接触繊維層および第1バット層には高分子弾性材を含まないように構成している。
【0011】
しかし、特許文献2のように湿紙接触繊維層にフラットファイバーのような異形断面繊維を使用しても、必ずしも湿紙表面が平滑になるとは限らないことが分かってきた。すなわち、湿紙と直接接する湿紙接触繊維層を第1バット層の上に設けても、抄紙搬送フェルトが使用される期間中は、湿紙接触繊維層は絶えず摩擦を受けるため、該フラットファイバーにおいて繊維長辺が必ずしも上向き配向(フェルト表面に対して平行になる)のまま保たれる事が少なく、絶えず配向が変わるために、目的とする平滑なフェルト表面を得る事が困難であった。
【0012】
一方、プレス機構の最下流部で使用する抄紙搬送フェルトにおいては、湿紙表面の平滑化機能が最重要課題であるが、適度な搾水機能を具備していればよい。つまり搾水機能はプレス機構の上流部において発揮され、下流部では湿紙表面の平滑性をより一層発揮するように、抄紙搬送フェルトを適宜組合わせて配置すればよい。本発明者はこのようなプレス機構の最下流部付近で使用する抄紙搬送フェルトの構造について、鋭意検討した結果、湿紙接触繊維層にバインダー樹脂を包含させて、表面平滑性を付与させ維持することにより、優れた湿紙平滑性と適度な搾水性を備えた抄紙搬送フェルトを見出した。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明の第1の発明は、基層11と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層12Aと、プレス側の表面に形成された第2バット層12Bと、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成されたフラットファイバーを含む湿紙接触繊維層13とを備え、前記湿紙接触繊維層13に、バインダー樹脂14が包含されていることを特徴とする抄紙搬送フェルトである。
【0014】
また第2の発明は、上記抄紙搬送フェルトの製造方法であり、第1の実施態様はバインダー樹脂として水性樹脂を用いた方法で、基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成されたフラットファイバーを含む湿紙接触繊維層とを、ニードルパンチングして各層を絡合一体化させた後、水性樹脂を前記湿紙接触繊維層から含浸し、熱プレス加工して乾燥・硬化させ、これをバインダー樹脂としてフラットファイバーの断面の配向が固定化するように、含浸・固着することを特徴とする抄紙搬送フェルトの製造方法である。
【0015】
また本発明製造方法の第2の実施態様は、バインダー樹脂として、湿紙接触繊維層を構成するフラットファイバーより低融点の熱溶融繊維を用いる方法であり、基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成されたフラットファイバーと、溶融してバインダー樹脂を形成する熱溶融繊維とからなる湿紙接触繊維層とを、ニードルパンチングして各層を絡合一体化させた後、熱プレス加工して熱溶融繊維を溶融・硬化させ、これをバインダー樹脂としてフラットファイバーの断面の配向が固定化するように、含浸・固着することを特徴とする抄紙搬送フェルトの製造方法である。
【0016】
更に第3の発明は、上記抄紙搬送フェルトを有するプレス機構を複数備えた抄紙機のプレス装置であって、複数のプレス機構21,31等が、それらの抄紙搬送フェルト10により搬送される湿紙Wの搬送方向Aに沿って直列に並設され、複数のプレス機構のうち搬送方向の最下流部に配置されたプレス機構に、第1の発明に記載した抄紙搬送フェルトが配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は湿紙接触繊維層がフラットファイバーを含み、かつバインダー樹脂が包含されており、しかもフラットファイバーの断面の配向が固定化するように、含浸・固着していることにより、抄紙搬送フェルトの使用期間中は湿紙接触繊維層の表面平滑性が保たれ、また耐磨耗性が向上し、脱毛も少ないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の抄紙搬送フェルトを図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る抄紙搬送フェルト10の縦断面図である。
図1において、抄紙搬送フェルト10は、基層11と、第1バット層12Aおよび第2バット層12Bと、湿紙接触繊維層13とからなる。基層11の湿紙側の表面に第1バット層12A、プレス側の表面に第2バット層12Bが形成され、第1バット層12Aの湿紙側の表面には、湿紙Wと直接接触するように、湿紙接触繊維層13が形成されている。これら基層11、第1バット層12A、第2バット層12B、および湿紙接触繊維層13は、ニードリングにより絡合一体化されている。
【0019】
基層11は、抄紙搬送フェルト10に強度を付与するためのものであり、耐摩耗性、耐疲労性、伸張特性および防汚性等に優れた繊維材料、例えばナイロン6、ナイロン66等の合成繊維、羊毛等の天然繊維等を素材とした織布および糸材を織らずに重ね合わせたもの、或いはフィルム状にしたもの、等を適宜用いることができる。
【0020】
第1バット層12Aおよび第2バット層12Bは、基層11と同様の素材が適宜用いられ、好適には6デシテックス(dtex)以上の繊度(一般的には、17デシテックス程度)の、円形断面のステープルファイバーにより形成された繊維層である。
【0021】
本発明においては、湿紙接触繊維層13は、フラットファイバー13Aを含む繊維層である。フラットファイバー13Aは、図2に示されるように、その断面の形状が、縦寸法aと横寸法bの比が好ましくは1:2〜1:5、例えば、1:3の長方形断面を有する繊維であり、繊度が6デシテックス程度の細い繊維である。フラットファイバー13Aの素材については、例えばナイロン6等が挙げられる。このような繊維の具体例としては、EMS-CHEMIE社製のフラットファイバー:商品名「TM5100」等が挙げられる。フラットファイバー13Aには一般に良く使われている円形断面のステープルファイバーと混合(混綿)して繊維層を形成する。この場合フラットファイバー13Aを20%以上含むと湿紙接触繊維層の表面平滑性がより向上するので好ましい。
【0022】
このように構成される抄紙搬送フェルト100の標準的な一例の各構成要素の坪量は、湿紙接触繊維層13の坪量が200g/m2、第1バット層12Aの坪量が400g/m2、基層11の坪量が650g/m2、そして第2バツト層12Bの坪量が100g/m2である。
【0023】
そして本発明においては、フラットファイバーの断面の配向が固定化するように、湿紙接触繊維層13にバインダー樹脂14が繊維間に包含されている。バインダー樹脂としては、合成樹脂エマルション樹脂または水溶性合成樹脂等の水性樹脂を用い、これを湿紙接触繊維層に含浸して乾燥・硬化させる方法、または湿紙接触繊維層を構成するフラットファイバーより低融点の熱溶融繊維を用い、これをフラットファイバーと混合して湿紙接触繊維層を形成し、ニードルパンチングして各層を絡合一体化させた後、熱プレス加工して、熱溶融繊維の硬化によりバインダー樹脂を形成させる方法が好適である。
【0024】
水性樹脂を用いた場合は、バインダー樹脂14は通常湿紙接触繊維層13と第1バット層12Aにも包含されるが、熱溶融繊維を用いた場合はバインダー樹脂14は湿紙接触繊維層13と、一部は湿紙接触繊維層13と第1バット層12Aの境界部に包含されている。図1は水性樹脂から形成されたバインダー樹脂が湿紙接触繊維層と第1バット層に包含された状態を示す。
【0025】
湿紙接触繊維層に包含させる水性樹脂としては合成樹脂エマルション樹脂または水溶性合成樹脂が使用できる。前者としてはウレタン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、スチレンーブタジエン系エマルション、アクリル系エマルションなどが挙げられ、エマルション樹脂の安定化のために保護コロイド、界面活性剤、粘度調整剤などが加えられており、水分の蒸発で粒子が合体して固形物になるものがよい。
後者の水溶性合成樹脂としては水溶性アルキド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性エポキシ樹脂など、その分子中に親水基が導入されて水溶性になっており、特にカルボキシル基や水酸基を含有したものが好適に使用できる。これら水性樹脂のうち、特に適度な柔軟性を有するために搾水性が良く、耐久性や表面平滑性の持続に優れるウレタン系エマルションが好ましい。
【0026】
また熱溶融繊維としては、フラットファイバーより低融点のものが用いられ、全溶融型のステープルファイバー、或いは芯鞘型やサイドバイサイド型の2成分からなるステープルファイバーが使用できる。これらの熱溶融繊維の材質はポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系が使用できるが、溶融温度が100℃〜180℃の範囲の成分を含むものが好適に使用できる。特にポリアミド系熱溶融繊維であって溶融温度が120℃〜160℃のものが最も好ましい。
【0027】
フェルトの乾燥・硬化によって、バインダー樹脂14は、湿紙接触繊維層13に包含され、またバインダー樹脂が水性樹脂として含浸させる場合は、湿紙接触繊維層と少なくとも第1バット層の一部、すなわち第1バット層12Aの全部または湿紙接触繊維層側の一部にも包含されるが、基層および第2バット層12Bには包含されない。基層や第2バット層までバインダー樹脂を包含すると、フェルト全体が硬くなり、可撓性がなくなるので抄紙搬送フェルトを交換する際に、掛入れが困難となる。湿紙接触繊維層中に包含されるバインダー樹脂の量は、1〜50重量%、特に2〜30重量%が好ましい。
【0028】
本発明のバインダー樹脂を包含した抄紙搬送フェルトの製造方法は、湿紙接触繊維層に包含させるバインダー樹脂の形態により異なる。
【0029】
水性樹脂を用いる場合は下記の方法により製造される。
基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成されたフラットファイバーを含む湿紙接触繊維層とを、ニードルパンチングして各層を絡合一体化させた後、湿紙接触繊維層13の表面からバインダー樹脂となる水性樹脂14をローラーまたはコーターブレードを使って塗布するか、或いはスプレーで吹き付けて湿紙接触繊維層13および第1バット層12Aの一部まで含浸させた後、熱プレス加工(熱風乾燥を併用してもよい)して、乾燥・硬化させる。これによってフラットファイバーはその断面の配向がバインダー樹脂14によって固定化される。
【0030】
また、バインダー樹脂としてフラットファイバーより低融点の熱溶融繊維を用いる場合は、上記湿紙接触繊維層を、フラットファイバーと、バインダー樹脂となる熱溶融繊維とを混合して構成し、これと第1バット層、基層、第2バット層と積層し、ニードルパンチングして各層を絡合一体化させた後、熱プレス加工(熱風乾燥を併用してもよい)して熱溶融繊維を溶融・硬化させる。この方法によっても、水性樹脂の場合と同様に、熱溶融繊維の硬化により形成されたバインダー樹脂14によりフラットファイバーはその断面の配向が固定化される。
【0031】
バインダー樹脂を包含させることによって、フラットファイバーの断面の配向が固定化するので、湿紙接触繊維層の表面平滑性はフェルトの使用期間維持されるから、紙の品質を向上させることができる。また湿紙接触繊維層の耐脱毛・磨耗性が向上する。このような耐久性は湿紙接触繊維層13と第1バット層12Aの交絡点がバインダー樹脂14によって結合されて形状が安定し、機械的強度が向上するためである。
【0032】
本発明の抄紙搬送フェルトは、湿紙表面平滑性が優れ、しかも適度な通気性と搾水性を具備しているので、抄紙機のプレス機構に使用することができる。例えば図3に示すように、複数のプレス装置2、3等が湿紙の搬送方向に沿って直列に配置されているようなプレスパート1において、上流部分は主として搾水機能が要求され、下流部分は搾水よりも平滑化機能が重視される。このような上流部分および下流部分においても、本発明の抄紙搬送フェルトを各プレス装置に使用することができる。
【0033】
ところが本発明の抄紙搬送フェルトでは、バインダー樹脂が湿紙接触繊維層に包含されているので、搾水性を適度に保ちつつ、抄紙搬送フェルトの使用期間中は湿紙表面平滑化機能を特に優れたものにすることができるので、プレス機構の最下流部やスムージングプレスにおける抄紙搬送フェルトとして、最も効果的に機能を発揮することができる。
【0034】
すなわち本発明の第3の発明は、抄紙搬送フェルト10を有するプレス機構を複数備えた抄紙機のプレス装置であって、複数のプレス機構21,31等が、それらの抄紙搬送フェルト10により搬送される湿紙の搬送方向Aに沿って直列に並設され、複数のプレス機構のうち搬送方向の最下流部に配置されたプレス機構に、第1の発明で特定された抄紙搬送フェルト10が配置されることを特徴とする抄紙機のプレス装置である。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお実施例および比較例において、基層、第2バット層、第1バット層はすべて下記の材料を用いた。
(1)基層:ナイロンモノフィラメントからなる織物
(2)第1バット層:17デシテックスの円形断面のナイロンステープルファイバー
(3)第2バット層:17デシテックスの円形断面のナイロンステープルファイバー
【0036】
[実施例1〜5]
基層をニードルパンチング機械に掛入れ、そのプレス側表面にバット繊維を配置しニードルパンチングして第2バット層を形成し、表裏反転後引続き基層の湿紙側表面にバット繊維を配置しニードルパンチングして第1バット層を形成する。更に第1バット層表面に湿紙接触繊維層をニードルパンチングして、ニードルフェルトを完成した。
次に、該ニードルフェルトの湿紙接触繊維層上部から水性樹脂のウレタン系エマルション樹脂液をスプレーして塗布し、1対のロール間を通過して軽くプレスすることで、湿紙接触繊維層と第1バット層内部にバインダー樹脂液を含浸した。
含浸後の該ニードルフェルトに熱風を当てながら、1対の140℃の熱ロール間を布速度2m/分で2回通過させて、樹脂液を乾燥・硬化した。かくして基層と両バット層、湿紙接触繊維層とが積層され、バインダー樹脂が湿紙接触繊維層と、第1バット層の上部に含浸されたフェルトが得られた。
【0037】
湿紙接触繊維層として、7デシテックスのフラットファイバー(1:3の長方形断面をEMS-CHEMIE社製のフラットファイバー:商品名「TM5100」)を含む繊維層を用い、フラットファイバーの配合量(混綿率)、およびバインダー樹脂含有量を表1記載のように変えて、樹脂含浸フェルトを製造した。なお、フラットファイバーの配合量(混綿率)とは、7デシテックスの円形断面のナイロンステープルファイバーと7デシテックスのフラットファイバーとの混綿における、フラットファイバーの含有率(重量割合)である。
【0038】
【表1】

※バインダー樹脂含有量:湿紙接触繊維層の重量に対する包含割合(重量%)
【0039】
[実施例6〜7]
実施例1〜5で、7デシテックスの円形断面のナイロンステープルファイバーと7デシテックスのフラットファイバーを混綿(混綿率は表2記載)し、更にバインダー樹脂として7デシテックスの全溶融型のステープルファイバー(ポリアミド系で溶融温度140℃のEMS-CHEMIE社製の全溶融型ステープルファイバー:商品名「K140」)を表2記載の割合で混合してなる繊維層を湿紙接触繊維層に用い、第1バット層表面に該湿紙接触繊維層をニードルパンチングして、ニードルフェルトを完成した。
次に、該ニードルフェルトに熱風を当てながら、1対の160℃の熱ロール間を布速度2m/分で5回通過させて、バインダー樹脂である全溶融型ステープルファイバーを溶融・硬化した。かくして基層と両バット層、湿紙接触繊維層とが積層され、バインダー樹脂が湿紙接触繊維層と、第1バット層の上部に包含されたフェルトが得られた。
【0040】
【表2】

【0041】
[比較例1〜2]
湿紙接触繊維層として表3記載の繊維を用い、バインダー樹脂包含を行なわずにフェルトを製造した。
【0042】
【表3】

【0043】
各実施例および比較例で得られたフェルトの物性を測定し、評価した。結果を表4に示す。なお評価方法は下記のとおりである。
(1)仕上がり密度
熱プレス後のフェルトの密度(g/cm3)を測定。
(2)摩擦磨耗試験
JIS-L0823-I型試験機を用い、新品フェルトの試験片に対して摩擦往復数を1000回にした時の摩擦磨耗量(mg)を測定。
(3)表面粗さ試験
JIS-B0601の方法により、摩擦磨耗試験後の試験片の10点平均粗さRz(μm)を測定。
(4)搾水性(透水度)試験
150kg/cm2の加圧時の、新品フェルトの試験片の単位時間当
たりにフェルトを通過する垂直濾過水の量から求めた、透水度(cc/m2)である。
【0044】
【表4】

【0045】
表4の結果から明らかなように、実施例1〜7の抄紙搬送フェルトは、表面平滑性が優れ、湿紙接触繊維層としてフラットファイバーを用いた効果が充分に発揮されており、また摩擦磨耗試験においても磨耗量は低くなっており、従ってフェルトの使用期間中にフラットファイバーの断面の配向が固定化され持続性する機能が高いことが分かる。これに反して、湿紙接触繊維層としてナイロン繊維を用い、バインダー樹脂包含のない比較例1のフェルトは、表面が粗く、耐摩耗性も劣る。また比較例2のフェルトはフラットファイバーを用いたにも拘らず、バインダー樹脂を包含させていないため、平滑性が劣り、また耐摩耗性も良くない。
更に、実施例1〜7の抄紙搬送フェルトは、搾水性が適度に保たれるのでプレス機構の下流部やスムージングプレス部で要求される程度の搾水性は確保している。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の抄紙搬送フェルトは、湿紙接触繊維層にフラットファイバーを含む繊維層を用い、かつ、バインダー樹脂が湿紙接触繊維層に包含されているので、通気性と搾水性を適度に保ちつつ、湿紙表面平滑化機能を特に優れたものにすることができるので、プレス機構の最下流部やスムージングプレスにおける抄紙搬送フェルトとして、最も効果的に機能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の抄紙搬送フェルトの断面図である。
【図2】本発明の抄紙搬送フェルトの湿紙接触繊維層を形成するフラットファイバーの断面図である。
【図3】本発明の抄紙機のプレスパートの一例を示す。
【符号の説明】
【0048】
1 プレスパート
2 プレス装置(上流部)
3 プレス装置(下流部)
21 プレス機構(上流部)
31 プレス機構(下流部)
22 ロール(上流部)
23 シュー(上流部)
32 ロール(下流部)
33 シュー(下流部)
10 抄紙搬送フェルト
11 基層
12A 第1バット層
12B 第2バット層
13 湿紙接触繊維層
13A フラットファイバー
a 縦寸法
b 横寸法
14 バインダー樹脂
A 湿紙の搬送方向
W 湿紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成されたフラットファイバーを含む湿紙接触繊維層とを備え、前記湿紙接触繊維層にバインダー樹脂が包含されていることを特徴とする抄紙搬送フェルト。
【請求項2】
フラットファイバーの断面の形状が、縦寸法と横寸法との比が1:2〜1:5の長方形断面を有する繊維であることを特徴とする請求項1記載の抄紙搬送フェルト。
【請求項3】
バインダー樹脂が、水性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の抄紙搬送フェルト。
【請求項4】
バインダー樹脂が、湿紙接触繊維層を構成するフラットファイバーより低融点の熱溶融繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の抄紙搬送フェルト。
【請求項5】
バインダー樹脂が湿紙接触繊維層中に1〜50重量%包含されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抄紙搬送フェルト。
【請求項6】
基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成されたフラットファイバーを含む湿紙接触繊維層とを、ニードルパンチングして各層を絡合一体化させた後、水性樹脂を前記湿紙接触繊維層から含浸し、熱プレス加工して乾燥・硬化させ、これをバインダー樹脂としてフラットファイバーの断面の配向が固定化するように、含浸・固着することを特徴とする抄紙搬送フェルトの製造方法。
【請求項7】
基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成され、フラットファイバーと、溶融してバインダー樹脂を形成する熱溶融繊維とからなる湿紙接触繊維層とを、ニードルパンチングして各層を絡合一体化させた後、熱プレス加工して熱溶融繊維を溶融・硬化させ、これをバインダー樹脂としてフラットファイバーの断面の配向が固定化するように、含浸・固着することを特徴とする抄紙搬送フェルトの製造方法。
【請求項8】
抄紙搬送フェルトを有するプレス機構を複数備えた抄紙機のプレス装置であって、複数のプレス機構が、それらの抄紙搬送フェルトにより搬送される湿紙の搬送方向に沿って直列に並設され、複数のプレス機構のうち搬送方向の最下流部に配置されたプレス機構に、請求項1に記載した抄紙搬送フェルトが配置されることを特徴とする抄紙機のプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−204895(P2007−204895A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27909(P2006−27909)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】