説明

抄紙機/塗工機のプロフィル演算装置

【発明の詳細な説明】
<産業上の利用分野> 本発明は製紙工業で使用される抄紙機や塗工機で使用される演算装置に係り、特に抄速が定格よりも低下した場合でも適正な演算を行う改良に関する。
<従来の技術> 本出願人は、実開昭63−175,198号公報『抄紙機制御装置』等で制御装置の概要を示しており、実開平1−78,200号公報で『抄紙機制御装置のスタートアップ制御装置』を提案している。このような抄紙機制御装置で使用されるセンサは特開昭61−195,303号公報『シート状物体特性測定装置』などに開示されている。このセンサは紙の坪量や水分を測定する検出端を有しており、抄紙機や塗工機で製造している紙の紙幅方向にヘンサヘッドを走査して必要な測定値を得ている。
第3図は抄速が通常の場合の塗工機に使用される二台のセンサの軌跡を説明する図である。塗工機30においては、このプロセスの上流側及び下流側にセンサヘッド14,24を搭載しているフレーム10,20を配置して、この測定値の差を用いて塗工量を求めている。ここで、紙の流れ方向の変動を除去するために、塗工後の下流側センサヘッド24は塗工前のヘンサヘッド14の走査した軌跡を正確にトレースして測定を行う必要がある。この様な運転を「同期運転」と呼び、上流側で測定した紙が下流側に到達するまでの時間を「輸送遅れ時間」と呼んでいる。更に、センサの走査状態には2種類あり、定常状態で用いる同期スキャンと過渡的な状態で用いる同時スキャンとがある。同期スキャンは同期運転状態において、下流側センサが下流側の現在データから輸送遅れ時間前の上流側データを引いて塗工量を算出している状態を言い、同時スキャンは下流側センサが上流側とは無関係に走査していると共に塗工量演算も上下流とも現在データを用いている場合を言う。
<発明が解決しようとする課題> 第4図は抄速が異常に低下した場合の塗工機に使用される二台のセンサヘッド14,24の軌跡を説明する図である。抄速の低下による輸送遅れ時間の増大により同期スキャンでの演算に必要なスキャン数が増大する。すると、記憶すべきプロフィルデータ数が増大し、またこのプロフィルを一時記憶するデータバッファにも容量があるから、記憶をすることができず溢れてしまい同期スキャンができなくなるという課題があった。この場合、従来は同期スキャン異常を発生すると共に直ちに同時スキャンに移行してしまうので、運行状態が正確に把握できなくなると言う課題があった。
また、再度抄速が回復して同期が取れるようになった場合に、従来は非測定状態に戻して測定開始司令を出していたが、操作者側から同期スキャンに自動復帰することが望まれていた。
本発明はこのような課題を解決したもので、抄速が低下して同期スキャンができなくなっても運転状態がある程度正しく把握できると共に、再度抄速が回復したときは同期スキャンに復帰する抄紙機/塗工機のプロフィル演算装置を提供することを目的とする。
<課題を解決するための手段> このような目的を達成する本発明は、抄紙機や塗工機の上流側に配置された上流側センサと、この上流側センサの下流側に配置された下流側センサと、この上流側センサの検出値と下流側センサの検出値から当該抄紙機又は塗工機における紙質変化量を求める演算装置を備えた抄紙機/塗工機の演算装置において、次の構成としたものである。
即ち、前記上流側センサを紙の幅方向に走査させて紙質変化前の紙のプロフィルを作成する上流側プロフィル作成手段と、この上流側プロフィル作成手段で作成した各走査毎のプロフィルデータを一時記憶すると共に、この記憶容量を少なくとも通常の運転状態での紙の送り速度と前記上流側と下流側センサの間隔から定まる走査数のプロフィルデータが貯蔵できる値とするデータバッファと、前記下流側センサを紙の幅方向に走査させて紙質変化後の紙のプロフィルを作成する下流側プロフィル作成手段と、当該データバッファの記憶するプロフィル数よりも大きな値であって、前記抄紙機/塗工機の抄速が低速側で異常と見なせる値である時の抄速遅れ時間に相当するプロフィル数を定める準同期スキャン数設定部とを有している。そして、紙質変化量演算部は、所定のモード(i)〜(iii)にしたがって紙質変化量を演算している。
<作 用> 本発明の各構成要素はつぎの作用をする。上流側プロフィル作成手段は紙質変化前の紙質に係るプロフィルを求め、下流側プロフィル作成手段は紙質変化後の紙質に係るプロフィルを求めて、間に存在する抄紙機や塗工機などの紙質を変化させる装置の運転状態把握の基礎データを送る。データバッファは少なくとも定常速度における輸送遅れ時間の間に測定される上流側プロフィルを一時記憶している。準同期スキャン数設定部は、同期スキャンをするにはデータバッファの容量が不足する場合であっても、この不足数が少ない場合は準同期スキャンを行う設定値を定めている。紙質変化量演算部は抄速に応じて、同時スキャン、準同期スキャン若しくは同時スキャンのいずれかのモードで運転状態を求めている。
<実施例> 以下図面を用いて、本発明を説明する。
第1図は本発明の一実施例を示す構成ブロック図である。図において、上流側センサ10は、紙の水分や坪量等を測定するセンサヘッドの紙幅方向の位置を検出するヘッド位置検出機構11と、このセンサヘッドの測定値に関するデータ及びその測定位置に関するデータを把握するセンサヘッド御制御部12と、このセンサヘッドの位置を諸定位置まで駆動するヘッド駆動装置13とを有している。このセンサヘッドの駆動は、例えば測定点の数を紙幅に対して360に分割して定めた位置とし、センサヘッド制御部12がヘッド駆動装置13に指示を出してセンサヘッドをステップ状に往復直線運動させ、定められた位置で測定を行っている。
上流側プロフィル作成部15はセンサヘッド制御部12より測定した位置とセンサからの信号を受け取り、プロフィルを作成する。ここにプロフィルとは横軸方向に紙の幅方向を取り、縦軸方向に測定値軸を設けたもので、各測定値はこのグラフ上にプロットされる。坪量や水分率の紙の幅方向における均一性や目標値からの乖離が容易に視認できる特徴がある。プロフィル送信部16は上流側プロフィル作成部15で作成した一走査分のプロフィルを送信する。
下流側センサ20は抄紙機の乾燥装置や塗工機の後に設置されるもので、上流側センサ10が紙質変化前の特性を測定し下流側センサ20で変化語の特性を測定して、間に介在するプロセスによる紙質変化量を求めている。下流側センサ20は上流側センサ10と共通のものとして、ヘッド位置検出機構21、センサヘッド制御部22、ヘッド駆動装置23及び下流側プロフィル作成部25を備えている。プロフィル受信部26はプロフィル送信部16から送信された情報を受けとり、データバッファ27に送る。データバッファ27は結局上流側プロフィル作成部15で作成した各走査毎のプロフィルデータを一時記憶すると共に、この記憶容量を少なくとも通常の運転状態での紙の送り速度と上流側及び下流側のセンサヘッド間隔から定まる走査数のプロフィルデータが貯蔵できる値を有しており、例えば8スキャン分ある。準同期スキャン数設定部28はデータバッファ27の記憶するプロフィル数よりも大きな値であって、測定対象になっている抄紙機/塗工機の抄速が低速側で異常と見なせる値である時の抄速遅れ時間に相当するプロフィル数を定める。この値は、同期スキャンに準じたスキャンをして、同時スキャンするよりも正しい測定値が得られそうな値になっている。紙質変化量演算部29は下流側プロフィル作成部25のデータとデータバッファ27に一時記憶された上流側プロフィル作成部15のデータから紙質の変化量を演算するもので、次の三つのモードがある。
(i) 第1はスキャン同期モードで、上流側センサの測定した位置をトレースして下流側センサが走査しており、かつ下流側プロフィル作成部25で作成した紙質変化後プロフィルとデータバッファ27にこの紙質変化後プロフィルに対応する位置の紙質変化前プロフィルが存在している状態では、データバッファ27からこの対応しているプロフィルを読出して下流側プロフィル作成部25のプロフィルとの差から紙質変化量を演算する。
(ii) 第2は準同期スキャンモードで、上流側センサの測定した位置を下流側センサがトレースするのに必要なプロフィルの数がデータバッファ27の記憶数よりも大きく準同期スキャン数設定部28の設定数より小さいときは、下流側プロフィル作成部25で作成した紙質変化後プロフィルとデータバッファ27に記憶された最も古いプロフィルを読出して、この差から紙質変化量を演算する。
(iii) 第3は同時スキャンモードで、上流側センサの測定した位置を下流側センサがトレースするのに必要なプロフィルの数が準同期スキャン数設定部28の設定数より大きいときは、下流側プロフィル作成部25で作成した紙質変化後プロフィルとデータバッファ27に記憶された新しいプロフィルを読出してこの差から紙質変化量を演算する。
このように構成された装置の動作を次に説明する。第2図2図はデータバッファ27のプロフィル記憶状態の説明図である。プロフィル送信部16から送られる各スキャン毎のプロフィルはプロフィル受信部26を経て、データバッファ27に送られる。データバッファ27の容量はここでは8スキャン分になっており、最新のプロフィルから7スキャン前までのプロフィルを順次記憶しており、従って8スキャンより前のものは棄却されている。準同期スキャン数設定部28の設定数は10とする。今、同期状態にあるとすると、通常の抄速では5スキャン前のプロフィルデータを読出して紙質変化量演算部29に送っている。抄速が低下しても、7スキャン前までのプロフィデータは存在しているから、データバッファ27中の読出す欄の位置を変更して同期スキャンを保持している。更に抄速が低下して、8スキャン以降になると同期スキャンを維持でできなくなる。そこで、準同期スキャン数設定部28を参照して10スキャンまでであればデータバッファ27の最も古いデータを読出して、紙質変化量演算部29が準同期スキャンモードで演算をする。抄速が大巾に低下して10スキャンを越えなければ同期スキャンができない場合には、データバッファ27の最も古いデータを読出して演算しても同時スキャンに比べてよい結果が得られることにならないから、データバッファ27の最新データを読出して、紙質変化量演算部29が同時スキャンモードで演算を行う。
抄速が増大したときは、同時スキャンモードから準同期スキャンモードへ、または準同期スキャンモードから同時スキャンモードへ紙質変化量演算部29の条件判断により随時移行する。
尚、上記実施例においてはプロフィルデータの演算について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、定点測定瞬時値の同期演算に適用してもよい。
<発明の効果> 以上説明したように、本発明によれば次のような効果がある。
■ 抄速が低下してデータバッファ27の記憶している範囲で同時スキャンができなくなっても、準同期スキャン移行してデータバッファ27内の最古のデータを読出すようにしているので、プロセスの操業状態を同時スキャンに比べてよく把握でき、塗工機などの操業性が向上する。
■ 紙質変化量演算部29は同期スキャンモードにおいて、抄速が増大すると準同期スキャンモードに移行するので、従来の警報を報知して同期スキャンモードへは再スタートの必要なシステムに比較して、測定の中断がなく、また操作者の運転が容易になる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例を示す構成ブロック図、第2図R>図はデータバッファ27のプロフィル記憶状態の説明図、第3図は抄速が通常の場合の塗工機に使用される二台のセンサの軌跡を説明する図、第4図は抄速が異常に低下した場合の塗工機に使用される二台のセンサヘッド14,24の軌跡を説明する図である。
10……上流側センサ、15……上流側プロフィル作成部、20……下流側センサ、25……下流側プロフィル作成部、27……データバッファ、28……準同期スキャン数設定部、29……紙質変化量演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】抄紙機や塗工機の上流側に配置された上流側センサと、この上流側センサの下流側に配置された下流側センサと、この上流側センサの検出値と下流側センサの検出値から当該抄紙機又は塗工機における紙質変化量を求める演算装置を備えた抄紙機/塗工機の演算装置において、前記上流側センサを紙の幅方向に走査させて紙質変化前の紙のプロフィルを作成する上流側プロフィル作成手段と、この上流側プロフィル作成手段で作成した各走査毎のプロフィルデータを一時記憶すると共に、この記憶容量を少なくとも通常の運転状態での紙の送り速度と前記上流側と下流側センサの間隔から定まる走査数のプロフィルデータが貯蔵できる値とするデータバッファと、前記下流側センサを紙の幅方向に走査させて紙質変化後の紙のプロフィルを作成する下流側プロフィル作成手段と、当該データバッファの記憶するプロフィル数よりも大きな値であって、前記抄紙機/塗工機の抄速が低速側で異常と見なせる値である時の抄速遅れ時間に相当するプロフィル数を定める準同期スキャン数設定部と、以下の(i)〜(iii)のモードにしたがって紙質変化量を演算する紙質変化量演算部、を具備することを特徴とする抄紙機/塗工機のプロフィル演算装置。
記(i) 前記上流側センサの測定した位置をトレースして前記下流側センサが走査しており、この下流側プロフィル作成手段で作成した紙質変化後プロフィルと前記データバッファにこの紙質変化後プロフィルに対応する位置の紙質変化前プロフィルが存在している状態では、当該データバッファからこの対応しているプロフィルを読出してこの差から紙質変化量を演算する同期スキャンモード、(ii) 前記上流側センサの測定した位置を前記下流側センサがトレースするのに必要なプロフィルの数が前記データバッファの記憶数よりも大きく前記準同期スキャン数設定部の設定数より小さいときは、この下流側プロフィル作成手段で作成した紙質変化後プロフィルと前記データバッファに記憶された最も古いプロフィルを読出してこの差から紙質変化量を演算する準同期スキャンモード、(iii) 前記上流側センサの測定した位置を前記下流側センサがトレースするのに必要なプロフィルの数が前記準同期スキャン数設定部の設定数より大きいときは、この下流側プロフィル作成手段で作成した紙質変化後プロフィルと前記データバッファに記憶された新しいプロフィルを読出してこの差から紙質変化量を演算する同時スキャンモード。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2701486号
【登録日】平成9年(1997)10月3日
【発行日】平成10年(1998)1月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−284530
【出願日】平成1年(1989)10月31日
【公開番号】特開平3−146789
【公開日】平成3年(1991)6月21日
【出願人】(999999999)横河電機株式会社
【参考文献】
【文献】特開 平3−20801(JP,A)
【文献】特開 昭49−87806(JP,A)
【文献】実開 平1−78200(JP,U)
【文献】実開 平1−83096(JP,U)