説明

抄紙用シュープレスベルト

【課題】製紙機械用ベルト(シュープレスベルト)において、湿紙搾水性がよく、使用中のベルト外周面の損傷(クラックや磨耗)の少ないベルトを提供する。
【解決手段】プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するするフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用シュープレス用ベルトにおいて、フェルト側表面に延設される排水溝を、不連続溝とし、かつ、その中央部が少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部よりも幅が広い溝形状とするなど、排水溝の形状を走行方向(MD方向)で溝幅や溝深さを変化させたものとする。 不連続溝の溝形状は溝幅が左右で非対称でも対称でもよく、溝幅が溝中央部で狭くあるいは深く形成されたものであっても良い。 排水溝の溝を不連続溝とすることにより、排水能力の向上と紙質や湿紙表面平滑性の向上とを同時に満足させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパート、その他の類似機械において湿紙およびフェルトからの搾水性を向上するために使用するシュープレス用ベルトに関し、特にシュープレス用ベルトのフェルト側表面に延設される溝形状に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙においては、生産性を向上させるために湿紙からの水分を脱水するプレスパートにおいていかに湿紙からの脱水量を増やすかが大きな問題となる。湿紙水分をできるだけ少なくするという目的を達成するためにプレス脱水量を多くする手段として、プレスロールの加圧を上げる、プレスロールの硬度を上げる、あるいはシュープレス用ベルトを介在させ加圧時間を多くするなどの方法が取り入れられており、プレスの際のロールとフェルトの間の加圧時間を多くし脱水効果を向上させるためにシュープレス用ベルトを介在させる方法が近年多くなってきている。
【0003】
さらに最近ではシュープレス用ベルトには搾水した水を効率よく排水するためにフェルト側表面に多数の溝を延設するものが増えてきている。たとえば、特許文献1記載のものは、広巾ニッププレス(いわゆるシュープレス)に使用するベルトの外周面に複数の排水溝を設けて、湿紙搾水性の向上を図っている。
【0004】
溝形状としては、加工のし易さ、生産性、コスト等の点から、従来は矩形状のものがほとんどであるが、溝底部を湾曲させたり(特許文献2及び3)、ランド部に凹曲した頂面を設けたり(特許文献4)したものが提案されている。
特許文献2記載のものは、断面をU字形とすることによって、シュープレスの脱水性(搾水性)と強度持続性のよいベルトを提供するもので、排水溝のランド部の端部は面取りされ、溝幅が0.5〜4mm、深さが0.5〜5mm、隣接する排水溝との間隔が1〜4mmで構成されている。特許文献3には、溝底部を湾曲させたものの他、溝の側壁が外側に向けて湾曲したものも示されている。
また、特許文献4に記載されたプレスジャケット(プレスベルト)は、その外面に複数のウエッブ(ランド部)を有し、これらのウエッブの間に溝が介在しており、各ウエッブは凹曲した頭頂面を有している。
【0005】
上記各文献における溝形状は、生産性の理由から1つの形状(溝幅、溝深さ、ランド部幅、溝数)に固定されたものであった。搾水性を向上させるためには溝幅や溝深さを大きく設定して、いわゆるベルトのボイドボリューム(排水能力)を高めたベルトが使用されてきた。
しかし、単一形状でボイドボリュームを高めたベルトを使用した場合、溝内部の亀裂やランド部の損傷・磨耗が発生し易くなりがちであった。また、プレスによる紙質や湿紙表面平滑性が悪化してくる(湿紙に溝形状の転写マークの表れる割合が大きくなる)傾向があり、逆に、溝幅や溝深さを小さく設定すると搾水性が低下するため、プレス後の湿紙乾燥消費エネルギーが増加してしまう、というような問題があった。
【0006】
【特許文献1】実願昭57−147931号(実開昭59−54598号)のマイクロフィルム
【特許文献2】実用新案登録第3104830号公報
【特許文献3】特開2001−95484号公報
【特許文献4】特開昭64−61591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、製紙機械用ベルト(シュープレスベルト)において、湿紙搾水性がよく、使用中のベルト外周面の損傷(クラックや磨耗)の少ないベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、排水溝の溝形状を不連続溝とし、かつ一本の溝内において溝幅を変化させる、あるいは溝深さを変化させることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、基本的には排水溝の溝形状において、走行方向(MD方向)の溝幅や溝深さを変化させてなる抄紙用シュープレスベルトに関する発明であり、以下の各技術を基礎とするものである。
【0010】
(1) プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用シュープレスベルトであって、フェルト側表面に排水溝が延設されてなる抄紙用シュープレスベルトにおいて、
フェルト側表面に延設される前記排水溝が不連続溝であって、
前記不連続溝の走行方向(MD方向)中央部が、少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部と幅が異なる溝形状を有すること
を特徴とする抄紙用シュープレスベルト。
【0011】
(2) 前記不連続溝の走行方向(MD方向)中央部が、少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部よりも幅が広い溝形状を有すること
を特徴とする(1)記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0012】
(3) 前記不連続溝の走行方向(MD方向)中央部が、少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部よりも幅が狭い溝形状を有すること
を特徴とする(1)記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0013】
(4) 前記不連続溝の溝形状が、走行方向(MD方向)両端部で先細りの溝形状であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0014】
(5) 前記不連続溝の溝形状が、溝幅(MD方向溝壁面)が左右で非対称であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0015】
(6) 前記不連続溝の溝形状が、溝幅(MD方向溝壁面)が左右で対称であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0016】
(7) 前記不連続溝の走行方向(MD方向)溝長さが、プレスシューの幅より短い不連続の溝形状であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0017】
(8) 前記不連続溝の走行方向(MD方向)溝長さが、プレスシューの幅と同等か、またはプレスシューの幅の2倍までの範囲で長い不連続の溝形状であることを特徴とする、(1)から(6)のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0018】
(9) プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用シュープレスベルトであって、フェルト側表面に排水溝が延設されてなる抄紙用シュープレスベルトにおいて、
フェルト側表面に延設される前記排水溝が不連続溝であって、
前記不連続溝の溝深さが、一本の溝内において、一方の走行方向(MD方向)端部と他の部位とで異なる深さであること
を特徴とする抄紙用シュープレスベルト。
【0019】
(10) 前記不連続溝の一方の走行方向(MD方向)端部の溝深さが、一本の溝内において、少なくとも他方の走行方向(MD方向)端部の溝深さよりも深いこと
を特徴とする(9)記載の抄紙用シュープレスベルト。
【0020】
(11)前記不連続溝の中央部の溝深さが、一本の溝内において、少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部の溝深さよりも深いこと
を特徴とする(9)記載の抄紙用シュープレスベルト。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、排水溝の溝を不連続溝とすることにより、ニップ入口で水の逆流を防ぐことができ、ニップ下で水を受け入れ、出口でプレス圧の作用で水を強制脱水することができるため、低速域でバックウォーターが発生せず、プレスで正常な脱水が可能となる。
また、一本の溝において中央部の溝幅、溝深さを端部に比べ大きくすることにより、ニップ下で溝内に水が入り易くニップ出口で溝内の水がより排水され易くなるため、良好な搾水性を得ることができ、排水能力の向上と紙質や湿紙表面平滑性の向上とを同時に満足する抄紙用シュープレスベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の抄紙用シュープレスベルトの排水溝を形成(エンボス加工)する装置1の概略図である。
【0023】
まず、無端状の基体2を2本のロール3、3間に掛けわたし、所定の張力で緊張させる。このロール3は回転自在であり、基体2はロール3の回転方向に進行する。そのような状況下において基体2の上から液状ポリウレタンを適用し、硬化させることにより基体2の全周に亙りポリウレタン層を形成する。しかる後、ポリウレタン層4が設けられた基体2の外周面5に対して溝形成装置6を用いて不連続な排水溝7を形成する。
【0024】
溝形成装置6は、図2に示すように溝形成用のエンボス刃8が多列に配列され、駆動用モーター10と支持部材(フライホイール9)で構成されている。
エンボス加工の概略は、図3に示すように加工物12がエンボスロール刃8と対向ロール11との間を通過する際に、エンボス刃8により加工物に型付けされるものである。好ましくは200℃以上にエンボスロール刃8を加熱することで、ポリウレタン層4には容易に型付けされる。
【0025】
本発明の溝形状について、まず第一の態様例を図4、5に示す。図4,5記載の溝形状は、変形量の大きい溝中央部において、少なくとも一方のMD方向端部よりも幅を大きくしたものである。溝形状は好ましくは左右対称の方が良い(図5)。
不連続溝はプレスニップを通過する際に、プレスベルトの弾性樹脂層は圧縮されて、溝幅が狭くなるように変形する。この変形の程度はランド部から離れるほど大きくなるから、不連続溝全体は中央部が狭くなるように変形する。したがって溝の蓄水容積を維持するために、変形量の大きい溝中央部を少なくとも一方のMD方向端部よりも幅を大きくしておく。溝に掛かる変形応力は左右同一であるから、溝形状は好ましくは左右対称の方が良い。
また、第一の態様例の変形として図6記載の溝形状は、走行方向(MD方向)両端部で先細りの溝形状であるから、図5の溝形状のものよりMD方向両端部に掛かる変形応力は小さくできる。
【0026】
本発明の溝形状の第二の態様例を図7、8に示す。図7、図8記載の形状は、不連続溝中央部において、少なくとも一方のMD方向端部よりも幅を狭く形成したものである。
不連続溝のMD方向溝長さが、プレスシューの幅より短い不連続の溝形状において、プレス中央で最大圧力が得られる(閉鎖された溝に蓄積された水量に最大圧力が発生している)から、プレス出口で流水抵抗を下げて蓄水を噴出し易くするために、不連続溝中央部が、少なくとも一方のMD方向端部よりも幅を狭くする。プレス出口で、最初に開放されるMD方向先端部が不連続溝中央部よりも広いほうが好ましい。
【0027】
本発明の溝形状の第三の態様例について示す図9は、溝中央部の深さを少なくとも一方のMD方向端部よりも深くしたものである。好ましくは不連続溝中央部よりもMD方向先端部の溝を深くする。
不連続溝がプレスニップを通過する際に、プレスベルトの弾性樹脂層は圧縮されて、溝深さが浅くなるように変形する。この変形の程度はランド部から離れるほど大きくなるから、不連続溝の断面は中央部がより大きく変形する。したがって溝の蓄水容積を維持するために、変形量の大きい溝中央部の深さを少なくとも一方のMD方向端部よりも深くしておく。溝に掛かる変形応力は前後同一であるから、溝形状は好ましくは前後対称の方が良い。
また、プレス出口で流水抵抗を下げて蓄水を噴出し易くするために、好ましくは不連続溝中央部よりもMD方向先端部の溝を深くする、または湾曲した傾斜とする。
【0028】
溝寸法は、溝幅が0.5〜2mm、溝深さが0.5〜2mm、隣接する排水溝とのランド部の間隔が1〜5mmの範囲で採用され、これらの構成はベルト外周面5と溝形成装置6(エンボス刃8)との距離(クリアランス)を適宜調整する。
本発明の不連続溝のMD方向溝長さは、前述のようにプレスシューの幅(シューのMD方向長さ)よりも短い方が、閉鎖された溝に蓄積された水量により強い最大圧力が発生するので好ましい。抄紙機のプレスパート用のシュープレスでは、プレスシューの幅は多種多様であるが、おおよそ50mm〜400mmの範囲にあるので、本発明の不連続溝のMD方向溝長さは、プレスシューの幅より短いものでは40mm〜390mmの範囲内で設定し、一方プレスシューの幅と同等かそれより2倍までの範囲で長いものとして50mm〜800mmの範囲内で設定することができる。
【0029】
溝形成のないランド部の端部には、面取りを施すことで、端部の欠損や耳欠けを防止する。
ベルト外周面と切削刃との距離を適宜調整することによって、MD方向に対して連続溝または不連続溝とすることができる。溝を不連続とする場合は、エンボス刃を厚み調整モーターで一定時間毎に押し引きするなどして、機械的に押し引きする。または、固定刃の回転を楕円運動にする。
なお、不連続溝とは、MD方向に溝形成のないランド部と、溝形成のある溝底部と、ランド部から溝底部へ、および溝底部からランド部へ至る境界部を有するものであって、溝内においてMD方向に対して深さが連続して変化し、該境界部はなだらかに厚みを減ずるテーパー状の形態であることが好ましい。
【0030】
<性能評価方法>
製造されたシュープレスベルトについては、以下の試験により性能を評価し、機能順を付けて総合評価する。
【0031】
<クラック試験>
図18に示す装置を用いる。この装置は、実験片Sの両端が、クランプハンドCH、CHにより挟持され、クランプハンドCH、CHが、連動して左右方向に往復移動可能に構成されている。なお、この際、実験片Sに掛けられる張力は3kg/cm、往復速度は40cm/秒である。そして、実験片Sは、プレスロールRRと、プレスシューPSとにより加圧される。この際、プレスシューPSがプレスロールRR方向に移動することにより、実験片Sは加圧される。なお、この圧力は36kg/cmである。この装置により、クラックが生じるまでの往復回数を測定する。なお、実験片における評価面は、プレスロールRR側に向けられているものである。
評価点A:クラック発生までの回数(単位;万回)が26万回以上であったもの。
評価点B:12万回〜26万回の範囲のもの。
評価点C:12万回以下であったもの。
【0032】
<搾水試験>
図19に示す装置を使用して湿紙搾水テストを行う。本テスト装置は、プレスロールPRと対向する位置にベルト本体Bを配置するとともに、該ベルト本体Bをその内周側から前記プレスロールPRに圧迫するようにプレスシューPS(シューの幅;50mm)を配置する。また、前記プレスロールPRとベルト本体Bとの間には、ナイロン6による11dtexの短繊維を、坪量が1500g/mとなるようニードルパンチ法にて基布に植毛してなるトップ側フェルトとボトム側フェルトFを配置してなる。いま、ベルト本体Bを、プレスロールPRとプレスシューPSとのニップ圧が1000kN/mの下で1000m/分の走行速度で走行させる。そして、前記プレスロールPR上にその上方に設置したノズルNから3kg/cmの圧力で15リットル/分で水流Wを噴射する。このときトップロールは水流Wの膜に覆われるとともに、該水流Wはトップ側フェルトFt及びボトム側フェルトF2に含浸された後、ベルト本体Bにも供給される。このような状態において、前記ボトム側フェルトFb上に、水分が70%含有されている湿紙シートWSを載置し、ニップを通過させ、通過後の湿紙シートWSの水分を測定する。
評価点A:湿紙水分が45%以下であったもの。
評価点B:45%〜53%の範囲のもの。
評価点C:53%以上であったもの。
【0033】
<機能順位>
試験結果については、上記各試験のそれぞれの評価点を基に総合評価し、以下の機能順位を付与する。
評価点がすべてAのもの → 順位1位
評価点が1つAで他がBのもの → 順位2位
評価点がすべてBのもの → 順位3位
評価点に1つでもCがあるもの → 順位4位
【0034】
上記構成によるシュープレスベルトについて、具体的に以下に示す工程により、実施例1〜9及び比較例1を作成した。
【0035】
工程1:図1に示す装置を用い、無端状の基体2を2本ロール間に掛け入れ、所定の張力で緊張させる。
工程2:基体2の上から液状ポリウレタンを配置し、硬化させることにより基体2の全周に亙りポリウレタン層4を形成する。
工程3:溝形成装置6にエンボス加工用のエンボス刃8を設置する。エンボス刃8は内部加熱器により250℃に保たれている。
このエンボス刃8の形状により、各実施例および比較例に記載される溝形状が形成される。
【0036】
なお、溝形状は次の範囲に調整する。
(1) 溝幅・・・溝幅の広い部分で1.2mm、狭い部分で0.8mmになること。
(2) 溝深さ・・溝深さが深い部分で1.5mm、浅い部分で0.8mmになること。
(3) CMD方向に隣接する排水溝とのランド部の間隔・・狭い部分で1.5mm、広い部分で1.9mmになること。
(4) MD方向に隣接する排水溝とのランド部の間隔・・5.0mm一定
(5) 不連続溝のMD方向長さ・・図19の本テスト装置におけるプレスシューPSのシューの幅50mmよりも短い40mmとする。
ベルト外周面への溝形成はMD方向に対して不連続溝となるように、ベルト外周面5とエンボス刃8との距離を、加工しながら適宜調整する。
【実施例1】
【0037】
図4(c)の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃を設置する。この刃は、溝中央部がMD方向両端部より溝幅が広く構成されている。この刃による加工で、溝形状はMD方向両端部に沿って湾曲した形状となる。実施例1による溝形状を図10の立体図で表す。
【実施例2】
【0038】
図5(c)の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃を設置する。この刃は、図4(c)の刃を左右対称となるように構成されており、溝中央部がMD方向両端部より溝幅が広く構成されている。この刃による加工で、溝形状はMD方向両端部に沿って湾曲した形状となる。実施例2による溝形状を図11の立体図で表す。
【実施例3】
【0039】
図6(a)の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃を設置する。この刃は、図6(a)の刃のように構成されており、この刃による加工で、溝形状はMD方向両端部が先細りの溝形状となる。実施例3による溝形状を図12(a)の立体図で表す。なお、図6(a)の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃に代えて、溝切り用の切削刃を設置することもできる。この刃は、ベルトの連続溝形状を切削する通常のメタルソーやチップソーを使うことができる。ベルト外周面と切削刃との距離を適宜調整することによって、MD方向に対して不連続溝とすることができ、しかも1本の溝内における溝深さを、MD方向両端部が中央部より浅い形状に構成できる。このような溝を不連続で先細り、かつ両端部が浅い溝形状にするため、固定刃の回転を楕円運動にすることで形成できる。この刃による加工で、溝形状はベルト走行方向(MD方向)両端部が先細りでMD方向両端部が中央部より浅い溝形状に構成できる。この溝形状を図12(b)の立体図で表す。
【実施例4】
【0040】
図7(b)の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃を設置する。この刃は、溝中央部が一方のMD方向端部より溝幅が狭く構成されている。この刃による加工で、溝形状はベルト走行方向(MD方向)先端部が後端部より溝幅を広く構成できる。実施例4による溝形状を図13の立体図で表す。
【実施例5】
【0041】
図8(c)の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃を設置する。この刃は、溝中央部がMD方向両端部より溝幅が狭く構成されている。この刃による加工で、溝形状はMD方向両端部に沿って湾曲した形状となり、溝中央部がMD方向両端部より溝幅を狭く構成できる。実施例5による溝形状を図14の立体図で表す。
【実施例6】
【0042】
図9(d)の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃を設置する。この刃は、一方のMD方向端部が他方のMD方向端部の溝深さよりも深く構成されている。この刃による加工で、溝形状はMD方向先端部の溝深さが、後端部の溝深さより、溝深さを浅く構成できる。実施例6による溝形状を図15の立体図で表す。
【実施例7】
【0043】
図9(b)の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃を設置する。この刃は、溝中央部の深さが一方のMD方向端部の深さより溝深さが深く構成されている。この刃による加工で、溝形状はMD方向中央部の溝深さが、少なくとも一方のMD方向端部よりも溝深さを深く構成できる。実施例7による溝形状を図16の立体図で表す。
【実施例8】
【0044】
実施例7と同じ溝形状であって、実施例8では不連続溝のMD方向長さを50mmに調整して、本テスト装置のプレスシューの幅(50mm)と同等に調整した。
【実施例9】
【0045】
実施例7と同じ溝形状であって、実施例9の不連続溝のMD方向長さを80mmに調整して、本テスト装置のプレスシューの幅(50mm)よりも長く調整した。
【比較例】
【0046】
一般的な矩形の溝形状になるように、エンボス加工用のエンボス刃を設置する。この刃は、溝中央部およびMD方向両端部の溝幅が一定に構成されている。この刃による加工で、溝形状はMD方向両端部に沿って矩形の形状となる。これを比較例1とし、その溝形状を図17の立体図で表す。
【0047】
実施例1〜9及び比較例1に係るシュープレスベルトについて、クラック試験、搾水試験を行い、性能を評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1の結果によれば、実施例2と実施例7の溝形状が2つの評価試験についていずれも良好な評価が得られており、最もバランスよいものであった。
また、不連続溝のMD方向長さがプレスシューの幅と同等の実施例8と、それより長い実施例9では、それと対比できる実施例7に比べて搾水試験の評価が劣るものの、機能順位としては遜色のないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によるシュープレスベルトは、排水能力の向上と紙質や湿紙表面平滑性の向上とを同時に満足させることができるので、抄紙機のプレスパート、その他の類似機械において湿紙およびフェルトからの搾水性を向上するために使用するシュープレス用ベルトとしてきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のシュープレスベルトの排水溝を形成する装置である。
【図2】本発明の溝形成に使用する切削刃の配置を説明する図である。
【図3】本発明の溝形状の形成方法を示す図である。
【図4】本発明の溝形状の第一の態様を示す図である。
【図5】同じく本発明の溝形状の第一の態様を示す図である。
【図6】本発明の溝形状の第一の態様の変形の態様を示す図である。
【図7】本発明の溝形状の第二の態様を示す図である。
【図8】同じく本発明の溝形状の第二の態様を示す図である。
【図9】本発明の溝形状の第三の態様を示す図である。
【図10】図4(c)の溝形状を示す立体図である。
【図11】図5(c)の溝形状を示す立体図である。
【図12】図6(a)の溝形状及びその変形の溝形状を示す立体図である。
【図13】図7(b)の溝形状を示す立体図である。
【図14】図8(c)の溝形状を示す立体図である。
【図15】図9(d)の溝形状を示す立体図である。
【図16】図9(b)の溝形状を示す立体図である。
【図17】矩形の溝形状を示す立体図である。
【図18】クラック試験に使用する装置を示す図である。
【図19】搾水試験の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1:排水溝形成装置
2:基体
3:ロール
4:ポリウレタン層
5:外周面
6:溝切装置
7:排水溝
8:エンボス刃
9:フライホイール
10:駆動用モーター
11:対向ロール
12:加工物
S:試験片
CH:クランプハンド
PR:プレスロール
PS:プレスシュー
B:ベルト本体
N:ノズル
W:水流
Ft:トップ側フェルト
Fb:ボトム側フェルト
WS:湿紙シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用シュープレスベルトであって、フェルト側表面に排水溝が延設されてなる抄紙用シュープレスベルトにおいて、
フェルト側表面に延設される前記排水溝が不連続溝であって、
前記不連続溝の走行方向(MD方向)中央部が、少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部と幅が異なる溝形状を有すること
を特徴とする抄紙用シュープレスベルト。
【請求項2】
前記不連続溝の走行方向(MD方向)中央部が、少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部よりも幅が広い溝形状を有すること
を特徴とする請求項1記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項3】
前記不連続溝の走行方向(MD方向)中央部が、少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部よりも幅が狭い溝形状を有すること
を特徴とする請求項1記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項4】
前記不連続溝の溝形状が、走行方向(MD方向)両端部で先細りの溝形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項5】
前記不連続溝の溝形状が、溝幅(MD方向溝壁面)が左右で非対称であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項6】
前記不連続溝の溝形状が、溝幅(MD方向溝壁面)が左右で対称であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項7】
前記不連続溝の走行方向(MD方向)溝長さが、プレスシューの幅より短い不連続の溝形状であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項8】
前記不連続溝の走行方向(MD方向)溝長さが、プレスシューの幅と同等か、またはプレスシューの幅の2倍までの範囲で長い不連続の溝形状であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項9】
プレスロールとシューとの間に配置され、湿紙からの搾水を受容するフェルトを載置し、前記プレスロールに向かって高圧で押しつけられる抄紙用シュープレスベルトであって、フェルト側表面に排水溝が延設されてなる抄紙用シュープレスベルトにおいて、
フェルト側表面に延設される前記排水溝が不連続溝であって、
前記不連続溝が、一本の溝内において一方の走行方向(MD方向)端部が他の部位と異なる溝深さを有すること
を特徴とする抄紙用シュープレスベルト。
【請求項10】
前記不連続溝が、一本の溝内において一方の走行方向(MD方向)端部の溝深さが少なくとも他方の走行方向(MD方向)端部の溝深さよりも深いこと
を特徴とする請求項9記載の抄紙用シュープレスベルト。
【請求項11】
前記不連続溝が、一本の溝内において中央部の溝深さが少なくとも一方の走行方向(MD方向)端部の溝深さよりも深いこと
を特徴とする請求項9記載の抄紙用シュープレスベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−223168(P2008−223168A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62154(P2007−62154)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】