説明

抄紙用フェルト

【課題】基体と、基体に一体化されたバット繊維層とからなる抄紙用フェルトにおいて、基体の製造工程が簡略化でき、製造コストが安価な抄紙用フェルトを提供する。
【解決手段】基体20と、基体20に一体化されたバット繊維層30とからなる抄紙用フェルト10において、基体20が、フェルトの幅よりも狭い幅の糸列21を螺旋状に周回し無端状に形成されてなる螺旋糸列層を少なくとも1層含み、螺旋糸列層の糸列21の糸材、及び糸列21の側面41同士が連結されている。又は、糸列21の表裏の少なくとも一方に接着性シート54が隣接して配置され、糸列21はこの接着性シート54により保持されている。このような基体20に、バット繊維層30を積層してニードルパンチにより交絡一体化させて、抄紙用フェルト10を製作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用フェルトに関し、特に、製造工程が簡略で製造コストが低い抄紙用フェルト(以下、単に「フェルト」ということがある。)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抄紙工程のプレスパートにはフェルトが使用され、プレスパート内に設けられたプレス加圧部内へフェルトと湿紙とを通過させ、湿紙の水分をフェルトへと移行させることにより湿紙から水分を搾水している。
なお、プレス加圧部は、一対のプレスロールにより構成されるものや、プレスロールとプレスロールの周面に対応した形状を有するシューとにより構成されるものが一般的である。
【0003】
この抄紙用フェルトの構成を図1に基づき説明する。フェルト10は、基体20と、基体20に絡合一体化されたバット繊維層30とで構成されている。
なお、基体20は、フェルト全体10の強度を発現させるために必要不可欠である。そして、基体20としては、経糸と緯糸とを製織することにより構成される無端状の基布が、通常、使用されている。
【0004】
そして、フェルト10の製造にあっては、まず、完成されるフェルト10の幅とほぼ同幅で、且つ、所望の長さを有する無端状の織布である基体20が製造される。この基体20の製造にあっては、経糸と緯糸を織機により袋織にして無端状の基布を製造したり、有端状の織布を製織した後、両端部を縫合して無端状とするのが一般的である。基体20を製造した後、基体20にバット繊維層30を載置し、ニードルパンチによりバット繊維と基体20とを絡合一体化させ、フェルト10を完成させる。
【0005】
使用される抄紙機のプレスパートには様々なサイズや機械構成があるので、上記構成の従来のフェルトは、プレスパート毎にそれぞれ別個に製造されなければならない。しかし、フェルト製造業者にあっては、通常、一台の織機で様々なサイズの基布に対応しなくてはならない為に、基布の製造に非常に時間と工数が掛かり、工程の簡略化及びコストダウンを図ることが非常に困難であった。
【0006】
この問題を解決すべく、完成されるフェルトよりも狭い幅の織物ストリップ(以下、「ストリップ」という。)を予め製造しておき、ストリップを螺旋状に周回することにより、通常のフェルトに使用される比較的広い幅(例えば、6m〜20m)の基体20を構成する技術が特表平6−503385号に開示されている。
【0007】
この技術を図2に基づき説明する。
まず、完成されるフェルトの性能に対応して選択された糸材等により、ストリップ23を形成する。ストリップ23の好ましい幅は0.5m〜1.5mである。
次に、一対のガイドロールGR同士の間隔を、完成されるフェルトの長さに合わせて調整する。
そして、一対のガイドロールGRを駆動することにより、ストリップ23が両ガイドロールGR上へ繰出される。この際、ストリップ23は、螺旋状に周回されストリップ23の側面同士が隣接して配置されるように、ガイドロールGR上に対する繰出し角度が調整される。
なお、この周回作業は、隣接するストリップ23同士により構成される幅寸法が、所望のフェルトとほぼ同寸法になるまで継続される。
そして、螺旋状のストリップ23の側面同士を接合し、フェルトの基体20を製造した後、この基体20にバット繊維層を形成し、抄紙用フェルトを完成させている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図2の技術においては、織物ストリップは予め織機を使用して製織しなければならないから、製織準備の手間と時間が掛かることは、従来の抄紙用フェルト用の基布(製織布)を製織する場合と変わらない。
本発明は、上述の問題に鑑み、製造が容易、且つ、製造工程が簡略化でき製造コストを低減することができる抄紙用フェルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基体と、該基体に一体化されたバット繊維層からなる抄紙用フェルトにおいて、
前記基体が、前記フェルトの幅よりも狭い幅の糸列を螺旋状に周回し無端状に形成されてなる螺旋糸列層を少なくとも1層含み、
前記糸列の糸材、及び糸列同士の側面が連結されていることを特徴とする抄紙用フェルトによって前記課題を解決した。
本発明は、前記糸列の糸材が、熱接着性糸が芯糸に巻きつけられたカバードヤーンからなることにより、前記糸列の糸材、及び糸列同士の側面が熱接合されているのが好適である。
さらに、本発明は、基体と、該基体に一体化されたバット繊維層とからなる抄紙用フェルトにおいて、
前記基体が、前記フェルトの幅よりも狭い幅の糸列を螺旋状に周回し無端状に形成されてなる螺旋糸列層を少なくとも1層含み、
前記糸列が、糸材を揃えて螺旋状に周回するとき、前記糸列の表裏の少なくとも一方に、接着性シートが隣接して配置され、前記糸列が前記接着性シートにより保持されていることを特徴とする抄紙用フェルトによって、前記課題を解決した。
また、さらに、本発明は、基体と、該基体に一体化されたバット繊維層とからなる抄紙用フェルトにおいて、
前記基体が、前記フェルトの幅よりも狭い幅の糸列を螺旋状に周回し無端状に形成されてなる螺旋糸列層を少なくとも1層含み、
前記糸列が、糸材を揃えて螺旋状に周回された後、前記糸列の表裏の少なくとも一方に、接着性シートが隣接して配置され、前記糸列が前記接着性シートにより保持されていることを特徴とする抄紙用フェルトによって前記課題を解決した。
本発明では、前記糸列の幅が、3cm〜15cmの範囲、好ましくは5cm〜10cmの範囲であるのが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、糸列を螺旋状に周回して螺旋糸列層を構成し、前記螺旋糸列層を少なくとも1層含む基体によって、所望の寸法の抄紙用フェルトを短い時間と工数で製造することができる。また、所定の狭い幅の前記糸列を螺旋状に周回するだけで拡幅された螺旋糸列層が構成されるので、基体の製造工程が簡略化され、製造コストの安価な抄紙用フェルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
抄紙用フェルトの従来の基布(基体)を製織する工程について説明する。
製織工程には、まず、製織準備(段取り)が必要である。最初に外段取りがある。外段取りは、織機の経糸(フェルト基布としてはCMD方向糸)が巻かれたボビンの多数本を準備し、クリールへ仕掛ける。そしてクリールに仕掛けられたボビンから糸を引き出し、ワープビーム(整経ロール)に糸を引き揃えて巻きつけるビーミング作業がある。そして、織機の緯糸(フェルト基布としてはMD方向糸)は木管に巻装する管巻き作業がある。これらのビーミング作業と管巻き作業の外段取りが終了した後、引き続き内段取りに移る。
内段取りは、ワープビームを織機に設置し、ワープビームから整経糸(織機の経糸)を引き出し、綾通しと筬通しして織機に整経糸を装着する。以上の内段取りが終了してから製織が開始される。製織では、管巻きした木管をシャトルボックス内に装着し、シャトルを往復飛走させて経糸と緯糸とで織成する。
通常の製織は無端状の袋織りで織成される。従って、織機の経糸はフェルト基布としてはCMD方向糸となり、また織機の緯糸はフェルト基布としてはMD方向糸となる。
本発明では、上記のような外段取りと内段取りを簡略化した無製織(不織布)の螺旋糸列層を少なくとも1層含む基体に特徴があり、以下、実施形態を説明する。
【0012】
図3は、本発明の抄紙用フェルトの製造方法の一例を示す。図3のように、フェルトMD方向の糸材が巻かれたボビン51をクリール52に設置しておき、必要な糸本数をクリール52に設置されたボビン51から引き出し、筬53で引き揃えて糸列21とし、一定間隔を隔てて対峙する一対の平行なロール50に対して、前記糸列21を一定の傾斜角度で螺旋状に周回するように前記ロール50を回転駆動する。そして、糸列21の側面同士が隣接して配置されるように、糸列21のロール50に対する角度が調整され、この周回作業は所望のフェルトとほぼ同じ寸法になるまで継続される。
そして、一対の平行なロール50付近に配置される熱処理装置56によって螺旋状の糸列の糸材と、糸列21の側面同士を接合する。又は、筬53を通した後の糸列21の表側又は裏側に、接着性シート供給装置55から接着性シート54を接着して、螺旋状の糸列21を保持し、且つ、糸列21の幅より若干大きく供給された接着性シート54の幅方向の端部同士を重ならせて接合する。このようにして螺旋糸列層を製造した後、前記螺旋糸列層を少なくとも1層含む基体にバット繊維層を形成し、抄紙用フェルトを完成する。図4は、このようにして完成したフェルトの斜視図である。
【0013】
図4のフェルト10は、図1に示したように、基体20と、基体20に絡合一体化されたバット繊維層30で構成されている。バット繊維層30は、湿紙側に位置する湿紙側バット繊維層31と、抄紙機のプレスロール又はシュー側に位置するマシン側バット繊維層32からなり、それぞれ、基体20の外周面及び内周面に形成されている。
基体20は、糸列21と糸列側面41とを連結することにより製造される螺旋糸列層を含んでいる。
なお、図中、矢印MDは、抄紙用フェルトが抄紙機に使用された際の進行方向を示し、矢印CMDは、MD方向に対する直交する方向を示す。
【0014】
糸列21は、MD方向糸からなる螺旋糸列層を構成し、完成されるフェルトの幅よりも狭い幅を有し、螺旋糸列層を形成した後に、一枚、又は複数枚の螺旋糸列層を積層してフェルトの強度を発現させたものを基体とするが、螺旋糸列層には、どのような材質の糸材をも採用することが可能である。また、上述したMD方向糸で構成された螺旋糸列層を少なくとも1層と、さらに、この螺旋糸列層をMD方向長さが所定のフェルト幅と一致する長さでCMD方向に切断し、この切断片を90°転回したもの(切断片のMD方向をCMD方向に配置した無端状の)少なくとも1層とを積層した基体であってもよい。
【0015】
或いは、上述したMD方向糸で構成された螺旋糸列層を少なくとも1層含み、他に簡易な製織布、例えば、1/1の平組織で完成されたフェルト幅と同じ幅の製織布とを積層した基体であってもよい。この場合は、簡易な製織布を作製するための準備と時間が掛かるため、できるだけ作製工数の少ない簡易な製織布であることが肝要となる。
【0016】
さらに、上述したMD方向糸で構成された螺旋糸列層を2層以上積層して基体とすることもできる。この場合は、図3のように糸列が一対の平行なロールに対して右方向に螺旋状に周回するものと、その逆の左方向に螺旋状に周回するものとを積層して基体を構成すれば、後工程のフェルト製造過程で基体がMD方向に移動するときに一方の側に片寄る問題がなくなるので好適である。
【0017】
本発明では、糸列21と糸列側面41とを連結する接合手段としては、様々な手段を採用することができる。例えば、糸材として熱接着性糸が芯糸に巻きつけられた糸(カバードヤーン)を揃えて糸列に使用すると、糸列を螺旋状に周回しながらこの糸列を加熱処理することで糸列は固定され、同時に糸列の側面同士を接合し連結することができる。図5は、このような実施形態のCMD方向断面図である。
フェルト40は、カバードヤーンを揃えてなる糸列が平行に接合された螺旋糸列層の1層が基体42となっているが、他の簡易な製織布を積層して基体を構成してもよい。このような基体に湿紙側バット繊維層43とマシン側バット繊維層44とを積層一体化させている。なお、図では好ましい例示としてバット繊維層を基体の両面に配置しているが、少なくとも湿紙側に配置していればよい。
【0018】
糸列21の側面41を連結する別の接合手段としては、糸列を螺旋状に周回するときに、糸列表裏の少なくとも一方から、糸列より若干大きな幅の接着性シートを隣接して配置し、必要に応じて熱処理を施すと、その糸列は接着性シートにより保持され固定されると同時に、接着性シートの端部同士で接合されるから、糸列同士を接合し連結することができる。図6は、このような実施形態のCMD方向断面図である。フェルト60は、糸列が平行に接合された螺旋糸列層62に隣接して、接着性シート54が配置されて、フェルトの基体61を形成し、この基体61に湿紙側バット繊維層64とマシン側バット繊維層65とを積層一体化させている。なお、図では好ましい例示としてバット繊維層を基体の両面に配置しているが、少なくとも湿紙側に配置していればよい。
なお、糸列に接着性シートを隣接して配置するには、糸材を揃えて螺旋状に周回した後に、前記糸列の表又は裏側に隣接して、螺旋状に周回後の糸列に沿うように、フェルトの幅より狭い幅の接着性シートを螺旋状に周回させ、糸列に接着させるようにしてもよい。
この場合、接着性シートの幅は、後述するように、糸列の幅の整数倍にならない範囲、例えば(糸列幅×整数倍)±2cm以内の幅で使用すると、糸列の端部と接着性シートの端部とが重ならないので、仮に、糸列の端部同士が接合されていなくても、接着性シートにより前記糸列が保持されるので、好都合である。
また、この場合、隣合う糸列は、必ず、表裏いずれかで、接着性シートで幅方向に連結されているので、接着性シートも、端部同士が重なって接合されている必要はない。
【0019】
本発明で、糸材及びバット繊維層に用いられる繊維素材としては、フェルトに用いられている汎用の素材を用いることができ、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、天然素材などから適宜選択される。カバードヤーンの芯糸は、融点の高いナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612やポリエステル(PET)、PPS、PEEK、PEK、芳香族ポリアミド等が使用できる。芯糸の形態としては、モノフィラメント単糸やモノフィラメントの撚糸、又はマルチフィラメント等が使用できる。本発明のカバードヤーンに好適に用いることができる芯糸としては、混撚糸(モノフィラメント糸、ツイストモノフィラメント糸、マルチフィラメント糸のいずれかとスパン糸との混撚糸)を用いる。すなわち、このカバードヤーンを平行に揃えて配置した際に、スパン糸の毛羽立ちが互いに絡み合うことでカバードヤーンの糸列の結合力をより高めることができる。
【0020】
カバードヤーンの熱接着性糸としては、前記芯糸よりも融点の低い糸材、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステル、共重合ナイロン等が使用できる。好適には、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/6、ナイロン66/12、ナイロン66/610等の二元共重合ナイロン、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610等の三元共重合ナイロンを糸材としたフィラメント又はスパン糸を用いることができる。なお、これらの共重合ナイロンは組成(共重合成分の重量%)により融点が変動することは良く知られているが、本発明で使用できる共重合ナイロンは、その融点が180℃以下、好ましくは130℃以下のものが使用できる。
【0021】
接着性シートとしては、スパンボンド、メルトブロー、又はスパンレース等の方法によって作られたシート状繊維集合体や織物が使用でき、何れも接着性成分がシートの表裏の少なくとも一方に配置されたものが使用できる。接着性シートは、それ自体が接着性を有する素材を用いてもよいが、好適には、前記熱接着性糸と同様な低融点共重合成分を有する熱接着性のものが使用できる。
本発明では、接着性シートの幅には特に制約はないが、市販の幅である0.5m〜3.0mのものをそのまま使うか、又は糸列21の幅より若干大きく切断して使うか、或いは糸列の幅の整数倍にならない範囲、例えば(糸列幅×整数倍)±2cm以内の幅で使用すると、糸列の端部と接着性シートの端部とが重ならないので、接着性シートにより前記糸列を保持するのに好都合である。
【0022】
本発明で使用することができるカバードヤーンは、芯糸と熱接着性糸の繊度の比が4:1〜10:1、好ましくは5:1〜8:1の範囲で、芯糸に対して熱接着性糸を100回/m〜2000回/m、好ましくは500回/m〜1000回/mの範囲で、等間隔に巻きつけられてなるカバードヤーンである。なお、芯糸に対して熱接着性糸をZ方向に巻きつけられているものと、その逆の芯糸に対して熱接着性糸をS方向に巻きつけてなるカバードヤーンであってもよい。
【0023】
さらに、本発明では、糸列の幅は3cm〜15cmの範囲で、好ましくは5cm〜10cmの範囲で形成するのが好適である。糸列の幅が3cmより小さいと所望の幅の基体を形成するまでに、糸列を螺旋状に周回する回数が多くなるから、基体を作製する時間と工数が大きくなる。この場合、周回速度を早くして作製時間を短くすることができるが、糸列内の糸張力が安定しなくなり、均一な糸張力を有する基体が得られなくなる場合がある。一方、糸列の幅が15cmより大きい場合、糸材を巻いたボビンをクリールに設置するための手間が増え、また糸列の幅が増えることにより、糸列内の糸張力のバラつきが大きくなる場合がある。そして、螺旋状に周回した糸列の傾斜角度が大きくなるから、フェルトの基体として走行安定性、すなわち、フェルト製造過程で基体が走行方向に移動するときに一方の側に片寄る問題が残る。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、フェルト寸法、螺旋糸列層に隣接して配置する接着性シート、バット繊維層、及び製織布の詳細は次の通りである。
・フェルト寸法:全長30m×全幅5m
・接着性シート:商品名 スパンファブ(熱接着性シート)。材質:低融点共重合ナイロン、日東紡社製、PA1001、目付24g/m2
・簡易な製織布:ナイロン6(330dtexのモノフィラメント単糸)を経糸と緯糸として、1/1平織りで製織した。
製織布の目付:200g/m2
織物メッシュ:経糸50本/5cm × 緯糸50本/5cm
・バット繊維:ナイロン6の短繊維(ステープルファイバー)で繊度17dtex
・湿紙側バット繊維の量:450g/m2
・マシン側バット繊維の量:150g/m2
【0025】
[実施例1]
(1)カバードヤーンの芯糸
ナイロン6のモノフィラメント(330dtex)を2本撚ってなる撚糸を2本と、750dtexのスパン糸(ナイロン6の短繊維からなる)とを撚り合わせて、合計繊度が2250dtexとした。
(2)カバードヤーンの作製
共重合ナイロン6/12で融点が115℃、繊度が360dtexのモノフィラメントからなる熱接着性糸を前記芯糸に対して500回/m巻きつけて、カバードヤーンを作製した。
(3)上記カバードヤーンを50本/5cmとし、図3で示した製造方法により糸列の幅が、それぞれ3cm、5cm、10cm、15cmになるように糸列を平行に配置し、一対の平行なロール間に仕掛けて、ロール速度10m/minで糸列を繰出しながら、一方のロール付近に配置される熱処理装置で熱処理を施し、螺旋状の糸と糸列の側面同士を接合して200g/m2の螺旋糸列層を作製した。
(4)上記螺旋糸列層を基体とし、その湿紙側バット繊維層とマシン側バット繊維層とを配置し、ニードルパンチにより交絡一体化して、目付け800g/m2、密度0.35g/cm3の抄紙用フェルトを作製した。
【0026】
[実施例2]
(1)糸材
ナイロン6のモノフィラメント(330dtex)を2本撚り合わせた片撚り糸を、3本束ねてさらに諸撚りした撚糸を使用した。
(2)上記糸材を50本/5cmとし、図3で示した方法により糸列の幅が、それぞれ3cm、5cm、10cm、15cmになるように糸列を平行に配置し、一対の平行なロール間に仕掛けて、ロール速度7m/minで糸列を繰出しながら、糸列の裏面に接着性シート供給装置から所定幅(糸列幅+1cm)の接着性シートを配置し、実施例1と同様にして熱処理して糸列を保持し、且つ、接着性シートの端部同士を接合した。なお、接着性シート自体が接着性を有する素材である場合、熱処理は必要ではない。
このようにして、螺旋状の糸列が接着性シートで保持され、且つ、接着性シートの端部同士で接合して、224g/m2の基体を作製した。
(3)上記基体に湿紙側バット繊維層とマシン側バット繊維層を配置し、ニードルパンチにより交絡一体化して、目付け824g/m2、密度0.35g/cm3の抄紙用フェルトを作製した。
【0027】
[実施例3]
(1)実施例1と同じ螺旋糸列層(糸列の幅が10cmのもの)を2枚(螺旋糸列層Aと螺旋糸列層B)用意した。
(2)螺旋糸列層Aについて、MD方向の長さが、フェルト幅と一致する長さでCMD方向に切断し、切断片を作製した。
(3)螺旋糸列層Bの湿紙側の面に前記切断片を90°転回したもの(切断片のMD方向をCMD方向にして使用する)を、螺旋糸列層BのMD方向に並べて配置して、目付け400g/m2の螺旋糸列層を作製した。
(4)(3)で作製した螺旋糸列層を基体とし、前記基体に湿紙側バット繊維層とマシン側バット繊維層を配置し、ニードルパンチにより交絡一体化して、目付け1000g/m2、密度0.36g/cm3の抄紙用フェルトを作製した。
【0028】
[実施例4]
(1)実施例1と同じ螺旋糸列層(糸列の幅が10cmのもの)を1枚用意した。
(2)簡易な製織布の湿紙側の面に前記螺旋糸列層を配置した。前記螺旋糸列層の糸列の方向は、フェルトのMD方向に配置した。このようにして目付け500g/m2の基体を作製した。
(3)(2)で作製した基体に湿紙側バット繊維層とマシン側バット繊維層を配置し、ニードルパンチにより交絡一体化して、目付け1100g/m2、密度0.35g/cm3の抄紙用フェルトを作製した。
【0029】
[実施例5]
(1)実施例1と同じ螺旋糸列層(糸列の幅が10cmのもの)を1枚用意した。
(2)この螺旋糸列層の湿紙側の面に接着性シート(幅58cm)を周回して配置した。前記螺旋糸列層の糸列の方向はフェルトのMD方向に配置した。このようにして螺旋状の糸列が接着性シートで保持され、且つ、接着性シートの端部同士を接合して、目付け224g/m2の基体を作製した。
(3)上記基体に湿紙側バット繊維層とマシン側バット繊維層を配置し、ニードルパンチにより交絡一体化して、目付け824g/m2、密度0.35/cm3の抄紙用フェルトを作製した。
【0030】
[実施例6]
(1)図2で示した製造方法により、接着性シート(幅98cm)を一対の平行なロール間に仕掛けて、ロール速度5m/minで接着性シートを繰出しながらロール間で6周、周回して配置した。
(2)このようにして無端状に形成された接着シートの上面に、実施例1と同じ螺旋糸列層(糸列の幅が10cm以上のもの)を形成して、螺旋状の糸列が接着性シートで保持され、且つ、接着性シートの端部同士を接合して、224g/m2の基体を作製した。
(3)上記基体に湿紙側バット繊維層とマシン側バット繊維層を配置し、ニードルパンチにより交絡一体化して、目付け824g/m2、密度0.35g/cm3の抄紙用フェルトを作製した。
【0031】
[比較例]
基体(製織布):ナイロン6のモノフィラメント(330dtex)を2本撚り合わせた片撚り糸を、3本束ねて更に諸撚りした撚糸を経糸とし、330dtexのモノフィラメントを3本撚り合わせた片撚り糸を緯糸として、3/1 1/3の経二重織りで製織した。
製織布の目付:450g/m2
織物メッシュ:経糸50本/5cm × 緯糸30本/5cm
前記基体に湿紙側バット繊維層とマシン側バット繊維層とを配置し、ニードルパンチにより交絡一体化して、目付け1050g/m2、密度0.38g/cm3の抄紙用フェルトを作製した。
【0032】
<基体の安定性>
実施例1〜4及び比較例で作製した基体を、ニードルパンチ機械でバット繊維層を形成するときの基体の安定性について観察し評価した結果を表1に示した。
【0033】
<基体の作製時間>
実施例1〜4及び比較例で作製した基体の作製時間について測定し評価した結果を表1に示した。なお、基体の作製時間は相対比較した。相対比率の計算式は、次式のとおりである。
相対比率 = D/d×100
D:各基体の作製時間
d:比較例における基体の作製時間
【0034】
【表1】

【0035】
実施例1では、糸列の幅が3cm〜15cmのものについて、所望の寸法の抄紙用フェルトの基体を短い時間と工数で製造することができている。なお、糸列の幅が15cmのものについては、クリールに糸を設置する時間が掛かること、ニードルパンチによりバット繊維を基体に絡合一体化する際に、基体が走行方向に移動するとき一方の側に片寄る現象が見られた。
実施例2でも、糸列の幅が5cm〜15cmのものについて、所望の寸法の抄紙用フェルトの基体を短い時間と工数で製造することができる。なお、糸列の幅が3cmのものについては、所望の幅の基体を形成するまでに糸列を螺旋状に周回する回数が多く、かつ糸列の裏面に接着性シートを配置するための手間が掛かることが分かった。
実施例3では、糸列の幅が10cmのものについて2枚の螺旋糸列層を製造することになるが、所望の寸法の抄紙用フェルトの基体を短い時間と工数で製造することができる。
実施例4では、簡易な製織布を作製することになるが、所望の寸法の抄紙用フェルトの基体を、短い時間と工数で製造することができる。
実施例5、6では、製織布を作製しないで済むため、所望の寸法の抄紙用フェルトの基体を、さらに短い時間と工数で製造することができる。
以上のように、本発明では、糸列の糸材と、糸列の側面同士を連結一体化して螺旋糸列層を構成すること、また、糸列を従来の工法と異なり、最適の糸列幅で螺旋状に周回することにより、所望の寸法の抄紙用フェルトを、短い時間と工数で製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】抄紙用フェルトの断面図。
【図2】従来の抄紙用フェルト製造方法を示す説明図。
【図3】本発明の抄紙用フェルト製造方法を示す説明図。
【図4】本発明の抄紙用フェルトの斜視図。
【図5】本発明の実施形態の抄紙用フェルトの説明図。
【図6】本発明の他の実施形態の抄紙用フェルトの説明図。
【符号の説明】
【0037】
10,30,40,60:抄紙用フェルト
20,42,61:基体
21:糸列
23:織物ストリップ
30:バット繊維層
31,43,64:湿紙側バット繊維層
32,44,65:マシン側バット繊維層
41:糸列側面
54:接着性シート
55:接着性シート供給装置
56:熱処理装置
62:螺旋糸列層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体に一体化されたバット繊維層とからなる抄紙用フェルトにおいて、
前記基体が、前記フェルトの幅よりも狭い幅の糸列を螺旋状に周回し無端状に形成されてなる螺旋糸列層を少なくとも1層含み、
前記糸列の糸材、及び糸列同士の側面が連結されていることを特徴とする、
抄紙用フェルト。
【請求項2】
前記糸列の糸材が、熱接着性糸が芯糸に巻きつけられたカバードヤーンからなることにより、前記糸列の糸材、及び糸列同士の側面が熱接合されている、請求項1の抄紙用フェルト。
【請求項3】
基体と、該基体に一体化されたバット繊維層とからなる抄紙用フェルトにおいて、
前記基体が、前記フェルトの幅よりも狭い幅の糸列を螺旋状に周回し無端状に形成されてなる螺旋糸列層を少なくとも1層含み、
前記糸列が、糸材を揃えて螺旋状に周回するとき、前記糸列の表裏の少なくとも一方に、接着性シートが隣接して配置され、前記糸列が前記接着性シートにより保持されていることを特徴とする、
抄紙用フェルト。
【請求項4】
基体と、該基体に一体化されたバット繊維層とからなる抄紙用フェルトにおいて、
前記基体が、前記フェルトの幅よりも狭い幅の糸列を螺旋状に周回し無端状に形成されてなる螺旋糸列層を少なくとも1層含み、
前記糸列が、糸材を揃えて螺旋状に周回された後、前記糸列の表裏の少なくとも一方に、接着性シートが隣接して配置され、前記糸列が前記接着性シートにより保持されていることを特徴とする、
抄紙用フェルト。
【請求項5】
前記糸列の幅が、3cm〜15cmの範囲、好ましくは5cm〜10cmの範囲である、請求項1から請求項4のいずれかの抄紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−126865(P2010−126865A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306523(P2008−306523)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】