説明

抄紙用フェルト

【課題】抄紙機での搾水性(水透過性)や偏平化に対する耐久性が良く、しかも湿紙平滑性や耐脱毛性に優れた抄紙用フェルトを提供する。
【解決手段】基体200と、前記基体200の湿紙側に配置された第1バット繊維層300と、基体の機械側に配置された第2バット繊維層310とを積層してニードリングにより絡合一体化してなる抄紙用フェルトにおいて、前記基体200が複数枚の補強材210、220からなるとともに、前記補強材210、220が紡績糸を含み、かつ前記紡績糸がバット繊維層との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されていることを特徴とする抄紙用フェルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機械に使用される抄紙用フェルト(以下、単に「フェルト」と称することがある。)に関する。詳しくは、抄紙機のプレスパートで加圧されて湿紙シートから水分を搾る働きをする抄紙用フェルトに関するものである。
【0002】
本発明の目的は、搾水性及び湿紙平滑性が良好で、しかもバット繊維の耐脱毛性に優れた抄紙用フェルト、特に抄紙機の高速走行に適した湿紙平滑性の良い抄紙用フェルトを提供することにある。
【背景技術】
【0003】
抄紙機の抄紙工程は、大きく分けて成形(フォーミング)、プレス、乾燥の3つのパートからなり、水分が連続的に取り除かれる。夫々のパートにおいて、脱水機能に対応した抄紙用具が使用されている。プレスパートにおいては、抄紙用フェルトが使用されている。
【0004】
従来、抄紙用フェルトは、湿紙から水を搾る(搾水性)、湿紙の平滑性を高める(平滑性)、湿紙を搬送する(湿紙搬送性)と云った役割を果たしており、フェルトの基本的な機能として、これらのすべてがバランスしていなければならない。
【0005】
湿紙中の水分は、湿紙が一対のプレスロール間を通過する際、加圧によりフェルトに移行し、フェルト裏面側から排出されるか、抄紙機のサクションボックスで吸引され、フェルト系外に排出される。この為、フェルトにとって重要なことは、水透過性と、加圧により圧縮されたフェルトが除圧時には偏平化することなく回復する機能(耐偏平化性)である。そして、これらの機能は、使用初期からの持続性も重要である。
【0006】
通常の抄紙用フェルトでは、織成された織布(基体)と該織布にバット繊維ウエッブをニードルパンチの技法で植毛するバットオンベース又はバットオンメッシュタイプが主流である。最近は、高速抄紙機のためのバットオンメッシュタイプが好適に使用され、湿紙平滑性とバット繊維の耐脱毛性が重要視されている。
【0007】
特許文献1には、基体部分の比率を高めてフェルトの偏平化を防ぐという提案がある。基体部分の比率を高める方法としては、袋織等による無端状の織布、又は有端状の基体の両端を継ぎ合わせて無端状にした基布を複数反重ね合わせてバット繊維層を積層した後、ニードリングにより絡合一体化して製造する方法である。しかし、基体部分の比率が高いと湿紙に基体のマークが転写することが多く、湿紙平滑性が悪くなることがあった。
【0008】
湿紙平滑性を改善するような従来の技術としては、例えば特許文献2のようなものがある。これは、2枚以上の重ね合わせ織布の中間に、糸を互いに略平行に横方向にのみ配列した不織布を挿入するフェルト構造体である。挿入された不織布は織布のナックル部(MD糸とCMD糸とが織り成す糸の浮き沈み)やMD糸が湿紙平滑性に影響するのを回避する役割を有する。しかしながら、このような不織布を用いた構造体はフェルトの坪量が重くなるため、搾水性や掛け入れ性を悪化させるという欠点があった。
【0009】
そこで、湿紙平滑性を改善する他の従来技術として、特許文献3のように少なくとも2枚以上積層された基体(織布)を用い、そのうち少なくとも1枚の基体(織布)を、特定の繊度を有する撚糸と単糸とで製織された織布を用い、これによって撚糸が製織により扁平糸になるように構成されたフェルトの提案がある。このフェルトでは、湿紙平滑性が良く、しかも耐偏平化性が優れるといった特徴があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−280183号
【特許文献2】特開2003−13385号
【特許文献3】特開2005−200819号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
フェルトの使用環境は、紙の生産性向上に起因した抄紙機の運転速度の高速化や、プレスパートにおけるロールプレス又はシュープレスの高圧化等に伴い、近年ますます苛酷なものとなっている。その結果、高加圧下において抄紙用フェルトが偏平化し、水透過性や耐偏平化性が低下する等、搾水性が著しく低下する間題があった。
また、同時に、抄紙機の高速化に伴いバット繊維の脱毛が顕在化していることから、紙質への影響が懸念されている。
したがって、フェルトの要求機能として先に挙げた搾水性や湿紙平滑性、耐偏平化性の他に、バット繊維の耐脱毛性についても一層高レベルの性能が求められている。
【0012】
本発明は、上述した欠点をなくし、抄紙機での搾水性(水透過性)や偏平化に対する耐久性が良く、しかも湿紙平滑性や耐脱毛性に優れた抄紙用フェルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者は、鋭意検討した結果、基体が複数枚の補強材からなるとともに、前記補強材が紡績糸を含み、かつバット繊維層との絡合によって糸形態を消失する程度に一体化されることを特徴とする抄紙用フェルトを発明するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、
(1)抄紙用フェルトの基体と、前記基体の湿紙側に配置された第1バット繊維層と、基体の機械側に配置された第2バット繊維層とを積層してニードリングにより絡合一体化してなる抄紙用フェルトにおいて、前記基体が複数枚の補強材からなるとともに、前記第1バット繊維層に隣接する補強材が紡績糸を含み、かつ前記紡績糸が第1バット繊維層との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されていることを特徴とする抄紙用フェルトである。
【0015】
また本発明では、
(2)抄紙用フェルトの基体と、前記基体の湿紙側に配置された第1バット繊維層と、基体の機械側に配置された第2バット繊維層とを積層してニードリングにより絡合一体化してなる抄紙用フェルトにおいて、前記基体が複数枚の補強材からなるとともに、前記第2バット層に隣接する補強材が紡績糸を含み、かつ前記紡績糸が第2バット繊維層との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されていることを特徴とする抄紙用フェルトである。
【0016】
更に本発明では、
(3)前記補強材が紡績糸を含み、前記抄紙用フェルトの走行方向(MD方向)に前記紡績糸が配置されていることを特徴とする、(1)または(2)に記載の抄紙用フェルトである。
【0017】
そして本発明では、
(4)前記補強材が紡績糸を含み、前記抄紙用フェルトの横断方向(CMD方向)に前記紡績糸が配置されていることを特徴とする、(1)または(2)に記載の抄紙用フェルトである。
【0018】
そして更に本発明では、
(5)前記基体が、同種又は異種の2枚以上の織成された補強材からなることを特徴とする、(1)から(4)のいずれかに記載の抄紙用フェルトである。
【0019】
なお、本発明において紡績糸がバット繊維層との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されているとは、紡績糸が走行方向(MD方向)および/または横断方向(CMD方向)に配置される一方で、その方向性が略視認できない程に絡合一体化されていることを意味する。つまり、バット繊維が紡績糸の中に絡合し糸形態が目視できない位に、糸とバット繊維とが相互に一体化していることを意味する。
【0020】
また、紡績糸の短繊維繊度が比較的太い(例えば10〜50dtexの範囲)の方がバット繊維との絡合性が高く、バット繊維の耐脱毛性が改善される。
【0021】
また、本発明では紡績糸を好ましくは1m当たり5〜50回、更に好ましくは1m当たり10〜30回の撚り数の、緩く撚られた紡績糸を使用すると、前記目的をよりいっそう達成し易くなる。撚り数が50回を超えると、糸の剛性が高くなるためバット繊維との絡合性が悪くなる。
【0022】
本発明において基体は、同種又は異種の2枚以上の織成された補強材を積層補強材として構成するものである。積層補強材としては、上布を一重織りの織布とし、下布を一重織り以上の織布からなるものが好ましい。この場合、下布がフェルトの機械的強度を担い、上布が湿紙平滑性とバット繊維の耐脱毛性を担うことができる。
【0023】
本発明の紡績糸の原料としては、強度や耐久性の面で優れるポリアミド、ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステルおよびポリエーテルケトンの1種類または複数種からなる群から選択された材質の糸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明においては、補強材が紡績糸を含み、かつ前記紡績糸がバット繊維層との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されていることを特徴とする抄紙用フェルトであるから、バット繊維と紡績糸とが一体化されそれによる糸形態が湿紙にマーク付けすることなく平坦になり、かつ補強材の糸同士の交差点(ナックル部分)での糸の浮き沈み(凹凸)を小さくすることができる。したがって搾水性(水透過性)や偏平化に対する耐久性が良く、湿紙平滑性が一段と向上する。かつ前記紡績糸とバット繊維との絡合が強いため、バット繊維の耐脱毛性についても一層高レベルなものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来の一般的抄紙用フェルトの断面図。
【図2】本発明の実施形態を示す抄紙用フェルトの断面図。
【図3】本発明の別の実施形態を示す抄紙用フェルトの断面図。
【図4】本発明のまた別の実施形態を示す抄紙用フェルトの断面図。
【図5】本発明のまた別の実施形態を示す抄紙用フェルトの断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1により、一般的なフェルトの構成を説明する。抄紙用フェルト10は無端状に形成されており、織布等からなる基体20と、基体20にニードルパンチで絡合一体化された第1バット繊維層(基体の湿紙側に配置)30と、第2バット繊維層(基体の機械側に配置)31からなる。基体20は、フェルト10の機械的強度を発現させるためのものであり、図1においては、フェルト走行方向(MD)糸50とフェルト横断方向(CMD)糸40とを織成して得られた織布が使用されている。
【0027】
MD糸とCMD糸は、通常のフェルトの基体(織布)を構成する糸材、例えばモノフィラメント単糸、モノフィラメント撚糸、マルチフィラメントが適宜使用できる。
バット繊維層は、通常のフェルトのバット繊維層を構成する短繊維、例えばポリアミド、ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステルおよびポリエーテルケトンの1種類または複数種からなる群から選択された材質の短繊維が適宜使用できる
【0028】
フェルト10は、前述した通り、抄紙機のプレスパート(図示せず)において使用される。その際、フェルト10は複数のガイドロールに張力を掛けられ配置される。そして、一対のプレスロール、又はプレスロールとシューとによって構成されるプレス部において、湿紙とともに高い圧力が加えられることにより搾水する。なお、フェルト10は、プレスロールの回転に追随して走行するものである。
【0029】
本発明の実施形態の1例を、図2に基づき説明する。まず、本発明の抄紙用フェルト100は、基体200と、基体200にニードルパンチで絡合一体化された第1バット繊維層(基体の湿紙側に配置)300と、第2バット繊維層(基体の機械側に配置)310とにより構成される。バット繊維層300、310は、バット繊維をニードルパンチで基体200へ絡合一体化させることにより形成される。
基体200は、2枚の補強材、すなわち補強材A(210)及び補強材B(220)からなる。そのうち1枚の補強材A(210)はフェルト100の機械的強度を持たせるための材料であり、充分な強度が得られるものであれば、特に限定されず、種々の材料を用いることができる。図2では異種の補強材A(210)及び補強材B(220)が積層されているが、補強材B(220)が本発明の要件を満たすものであれば同種の物でもよい。
【0030】
ここで補強材A(210)は、例えば、MD糸52とCMD糸42とを織成することにより得られる織布を用いることができる。または予めMD糸52とCMD糸42とにより、完成されるべきフェルトよりも狭い幅を有する織布を形成し、この織布をスパイラルに巻回し、隣り合う織布縁部同士を接合することにより得られたものを使用することもできる。さらに、完成すべきフェルトの幅とほぼ同じ幅を有する、MD糸52とCMD糸42とからなる織布を同軸上に巻回することにより得られる補強材であってもよい。また、織布による補強材のみならず、MD糸52を接着剤にて固定して得られる補強材や、MD糸52とCMD糸42を織成せずに、単に重ねた構成による補強材であってもよい。
【0031】
本発明においては、補強材A(210)のほかに、更にもう一つの補強材B(220)が補強材A(210)の湿紙側に積層されて、全体の基体200を構成している。この補強材B(220)は、基体の湿紙側に配置された第1バット繊維層300に隣接するもので、本発明の特徴である紡績糸をMD糸51に使用しており、CMD糸41は通常のフェルトの基体(織布)を構成する糸材である。
本発明のMD糸51は、第1バット繊維層300との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されているから、図2においてMD糸のゴーストがMD糸51として描かれており、実際はバット繊維層と絡合一体化され視認することは出来ない程度のものである。
【0032】
図3は本発明のまた別の実施形態を表している。本発明の抄紙用フェルト110は、基体240と、基体240にニードルパンチで絡合一体化された第1バット繊維層(基体の湿紙側に配置)300と、第2バット繊維層(基体の機械側に配置)310とにより構成される。バット繊維層300、310は、バット繊維をニードルパンチで基体250へ絡合一体化させることにより形成される。
基体240は、2枚の補強材、すなわち補強材A(210)及び補強材B(220)からなる。そのうち1枚の補強材A(210)はフェルト110の機械的強度を持たせるための材料であり、充分な強度が得られるものであれば、特に限定されず、種々の材料を用いることができる。例えば図2の補強材A(210)と同じものを使うことができる。図3では異種の補強材A(210)及び補強材B(220)が積層されているが、補強材B(220)が本発明の要件を満たすものであれば同種の物でもよい。
【0033】
本発明においては、補強材A(210)のほかに、更にもう一つの補強材B(220)が補強材A(210)の機械側に積層されて、全体の基体240を構成している。この補強材B(220)は、基体の機械側に配置された第2バット繊維層310に隣接するもので、本発明の特徴である紡績糸をMD糸51として使用しており、CMD糸は通常のフェルトの基体(織布)を構成する糸材である。
本発明のMD糸51は、第2バット繊維層310との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されているから、図3においてはMD糸のゴーストがMD糸51として描かれており、実際はバット繊維層と絡合一体化され視認することは出来ない程度のものである。
【0034】
図4は本発明のまた別の実施形態を表している。本発明の抄紙用フェルト115は、基体245と、基体245にニードルパンチで絡合一体化された第1バット繊維層(基体の湿紙側に配置)300と、第2バット繊維層(基体の機械側に配置)310とにより構成される。バット繊維層300、310は、バット繊維をニードルパンチで基体245へ絡合一体化させることにより形成される。
基体245は、2枚の補強材、すなわち補強材A(210)及び補強材C(230)からなる。そのうち1枚の補強材A(210)はフェルト115の機械的強度を持たせるための材料であり、充分な強度が得られるものであれば、特に限定されず、種々の材料を用いることができる。例えば図2の補強材A(210)と同じものを使うことができる。図4では異種の補強材A(210)及び補強材B(230)が積層されているが、補強材C(230)が本発明の要件を満たすものであれば同種の物でもよい。
【0035】
本発明においては、補強材A(210)のほかに、更にもう一つの補強材C(230)が補強材A(210)の湿紙側に積層されて、全体の基体245を構成している。この補強材C(230)は、基体の湿紙側に配置された第1バット繊維層300に隣接するもので、本発明の特徴である紡績糸をCMD糸43として使用しており、MD糸53は通常のフェルトの基体(織布)を構成する糸材である。
本発明のCMD糸43は、第1バット繊維層300との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されているから、図4においてはCMD糸のゴーストがCMD糸43として描かれており、実際はバット繊維層と絡合一体化され視認することは出来ない程度のものである。
【0036】
図5は本発明のまた別の実施形態を表している。本発明の抄紙用フェルト120は、基体250と、基体250にニードルパンチで絡合一体化された第1バット繊維層(基体の湿紙側に配置)300と、第2バット繊維層(基体の機械側に配置)310とにより構成される。バット繊維層300、310は、バット繊維をニードルパンチで基体250へ絡合一体化させることにより形成される。
基体250は、2枚の補強材、すなわち補強材B(220)及び補強材C(230)からなる。そのうち1枚の補強材B(220)は、基体の機械側に配置された第2バット繊維層310に隣接するもので、本発明の特徴である紡績糸をMD糸51として使用しており、CMD糸41は通常のフェルトの基体(織布)を構成する糸材である。本発明のMD糸51は、第2バット繊維層310との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されているから、図5においてはMD糸のゴーストがMD糸51として描かれており、実際はバット繊維層と絡合一体化され視認することは出来ない程度のものである。
【0037】
本発明においては、補強材B(220)のほかに、更にもう一つの補強材C(230)が補強材B(220)の湿紙側に積層されて、全体の基体250を構成している。この補強材C(230)は、基体の湿紙側に配置された第1バット繊維層300に隣接するもので、本発明の特徴である紡績糸をCMD糸43として使用しており、MD糸53は通常のフェルトの基体(織布)を構成する糸材である。
本発明のCMD糸43は、第1バット繊維層300との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されているから、図5においてはCMD糸のゴーストがCMD糸43として描かれており、実際はバット繊維層と絡合一体化され視認することは出来ない程度のものである。
【0038】
図5では本発明の特徴である紡績糸を補強材B(220)及び補強材A(230)に使用しているが、補強材B(220)はCMD糸41が通常の糸材であるから、CMD方向に充分な強度が得られる。
また補強材C(230)はMD糸53が通常の糸材であるから、MD方向に充分な強度が得られる。したがって基体250はMD方向およびCMD方向に充分な強度が得られるように構成されている。
【実施例】
【0039】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお実施例1〜3と比較例1では、補強材A(210)ともう一つの補強材が積層されて、全体の基体を構成するものであるが、補強材A(210)は下記の構成のものを使用した。
補強材A(210)の構成:
(1)MD糸52及びCMD糸42
MD糸52、CMD糸42とも、下記の撚糸を共通して使用した。
(2)撚糸条件;「3/2/330」
(但し「」内の撚糸の表示形式は、「上撚り時における下撚り糸材束本数/下撚り時における単糸束本数/単糸繊度=dtex」を表す。
(3)下撚り:S方向200回/m
(4)上撚り:Z方向130回/m
(5)織成:
MD糸52:40本/5cm,CMD糸42:34本/5cm、で3/1の袋織一重織布を織成した。
【0040】
[実施例1]
図2に示すように、補強材A(210)の湿紙側に下記補強材B(220)を積層してなる基体200に、第1バット繊維層300と第2バット繊維層を積層したフェルト100を作成した。なお、バット繊維層は第1バット繊維層300には坪量300g/m、第2バット繊維層310には坪量100g/mで積層し、ニードルパンチして基体200へ絡合一体化させた。
補強材B(220)の構成:
(1)MD糸51:下記紡績糸を使用した。
(a) 紡績糸;ナイロン6短繊維の繊度40dtexからなる紡績糸
(b)撚り数:10回/m。ここではZ方向に撚っている。
(2)CMD糸41:ナイロン6のモノフィラメント単糸(500dtex)
(3) 織成:
MD糸51:30本/5cm、CMD糸41:40本/5cmで1/1の袋織一重織布を織成した。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、補強材A(210)の機械側に前記補強材B(220)を積層してなる基体240を形成した以外は実施例1と同様の構造のフェルトを作成した。
【0042】
[実施例3]
実施例1において、補強材B(220)を下記補強材C(230)に代えた基体245を形成した以外は、実施例1と同様の構造のフェルトを作成した。
補強材C(230)の構成:
(1)MD糸53:ナイロン6のモノフィラメント単糸(500dtex)
(2)CMD糸43:下記紡績糸を使用した。
(a) 紡績糸;ナイロン6短繊維の繊度10dtexからなる紡績糸
(b) 撚り数:40回/m。ここではZ方向に撚っている。
(3) 織成:
MD糸53:40本/5cm、CMD糸43:34本/5cmで1/1の袋織一重織布を織成した。
【0043】
[実施例4]
実施例3において、補強材A(210)を前記補強材B(220)に代えた基体250を形成した以外は実施例3と同様の構造のフェルトを作成した。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、補強材A(210)の湿紙側に下記補強材Dを積層してなる比較例用の基体を形成した以外は、実施例1と同様の構造のフェルトを作成した。
補強材Dの構成:
(1)MD糸:ナイロン6のモノフィラメント単糸(500dtex)
(2)CMD糸:下記撚糸を使用した。
(a)撚糸条件;「2/2/220」
(但し「」内の撚糸の表示形式は、「上撚り時における下撚り糸材束本数/下撚り時における単糸束本数/単糸繊度=dtex」を表す。
(b)下撚り:S方向250回/m
(c)上撚り:Z方向160回/m
(3)織成:
MD糸52:40本/5cm,CMD糸42:34本/5cm、で1/1の袋織一重織布を織成した。
【0045】
上記の実施例1〜4、及び比較例1で作成した抄紙用フェルトの耐偏平化性(圧縮疲労性能)と湿紙平滑性及び耐脱毛性を下記の方法で評価した。
【0046】
(1) 耐偏平化性(圧縮疲労性能)
抄紙用フェルトのテストサンプルに対して、繰返し疲労試験機(島津製作所製サーボパルサー圧縮試験機)で1500KN/cm、10Hzのパルス荷重を20万回繰返し、テスト前のフェルト密度に対するテスト後のフェルト密度の比で評価した。数値が低い程、耐偏平化性が良いことを示している。ここでは、耐偏平化性の数値が1.5以下であることが、高速・高圧タイプの抄紙機において求められていることが必要である。
【0047】
(2) 湿紙平滑性
抄紙用フェルトのテストサンプル上(湿紙表面側)にプレスケール感圧紙を乗せ、100KN/cmの圧力でプレスして、フェルト表面の凹凸を感圧紙に転写し目視で湿紙平滑性を評価した。ここでは基体の湿紙側表面によるマーク性(糸形態およびナックル部分の凹凸)が確認できる。
【0048】
(3) 耐脱毛性
JIS 1023−1992に基づくテーバー研磨試験機により、抄紙用フェルトのテストサンプルから脱落した繊維量を測ることで、フェルトの耐脱毛性を評価した。この試験機では、回転するターンテーブル上に円盤状のサンプルを置載し、さらにサンプル上に摩擦抵抗の大きい回転ロールを当接させて、フェルトのバット繊維の繊維脱落量を測るもので、1kgのホイールで3000回 回転させた後の、脱落繊維量(mg)を測定した。なお、サンプルはフェルトの湿紙側および機械側の両面を測定し、その平均値で表すこととする。
【0049】
実施例および比較例の抄紙用フェルトの評価を表に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表から明らかなように、本発明の実施例のフェルトは比較例のフェルトに比べて、耐偏平化性に関しては遜色ない程度であり、湿紙平滑性及び耐脱毛性に関しては優れた評価結果を示している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、耐偏平化機能を保持したまま湿紙平滑性と耐脱毛性に優れたフェルトが得られる。これを抄紙用フェルトとして用いた場合、抄紙工程におけるロール又はシュープレス等の加圧による耐偏平化機能を維持し高い搾水性が長期間持続される。また湿紙平滑性と耐脱毛性に優れており、近年の抄紙機の高速化や、プレス部の高圧化にも対応する高性能のフェルトが提供される。
【符号の説明】
【0053】
10,100,110,115,120:抄紙用フェルト
20,200,240,245,250:基体
30,300:第1バット繊維層
31,310:第2バット繊維層
210:補強材A
220:補強材B
230:補強材C
50,52:MD糸
40,41,42:CMD糸
43:CMD糸のゴースト
51:MD糸のゴースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙用フェルトの基体と、前記基体の湿紙側に配置された第1バット繊維層と、基体の機械側に配置された第2バット繊維層とを積層してニードリングにより絡合一体化してなる抄紙用フェルトにおいて、前記基体が複数枚の補強材からなるとともに、前記第1バット繊維層に隣接する補強材が紡績糸を含み、かつ前記紡績糸が第1バット繊維層との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されていることを特徴とする抄紙用フェルト。
【請求項2】
抄紙用フェルトの基体と、前記基体の湿紙側に配置された第1バット繊維層と、基体の機械側に配置された第2バット繊維層とを積層してニードリングにより絡合一体化してなる抄紙用フェルトにおいて、前記基体が複数枚の補強材からなるとともに、前記第2バット層に隣接する補強材が紡績糸を含み、かつ前記紡績糸が第2バット繊維層との絡合のため糸形態を消失する程度に一体化されていることを特徴とする抄紙用フェルト。
【請求項3】
前記補強材が紡績糸を含み、前記抄紙用フェルトの走行方向(MD方向)に前記紡績糸が配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の抄紙用フェルト。
【請求項4】
前記補強材が紡績糸を含み、前記抄紙用フェルトの横断方向(CMD方向)に前記紡績糸が配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の抄紙用フェルト。
【請求項5】
前記基体が、同種又は異種の2枚以上の織成された補強材からなることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の抄紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−196206(P2010−196206A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43542(P2009−43542)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】