説明

抄紙用プレスフェルト

【課題】再湿現象を抑制するとともに、平滑性・耐摩耗性・耐圧縮疲労性に優れた抄紙用プレスフェルトを提供すること。
【解決手段】抄紙用プレスフェルト10は、基体30と、湿紙側層20を具えたバット層により構成される。湿紙側層20は基体側バット層22を有し、基体側バット層22内に立毛繊維束50が形成されている。立毛繊維束50は芯鞘複合繊維41をニードルパンチした後、熱処理により芯鞘複合繊維41の鞘成分の一部が溶融することより繊維同士が柱状に融着されて形成される。これにより、基体側バット層22が緻密になることにより、プレス側バット層23の水分が湿紙側に移動しにくくなって再湿現象が抑制され、且つ、柱状に融着された立毛繊維束50により、フェルト10の耐摩耗性・耐圧縮疲労性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機械に使用される抄紙用プレスフェルト(以下、単に「プレスフェルト」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製紙工程において、湿紙から搾水するため、プレス装置が使用されている。プレス装置において、紙層形成が行われた湿紙は、プレスニップでプレスフェルトを介して搾水される。なお、プレス装置は、一般的に、複数のプレスニップから構成される。
【0003】
図4は、プレス装置におけるプレスニップの概略図である。
このプレスニップは、一対のプレスロールP’,P’と、湿紙W’を挟持する一対のプレスフェルト11’,11’からなり、プレスロールP’,P’の加圧部において、プレスフェルト11’,11’と湿紙W’に圧力を加えて、湿紙W’から水分が搾り出されて、プレスフェルト11’,11’に吸収される。
【0004】
しかし、加圧部の中央(ニップ部)から出口にかけて、湿紙W’とプレスフェルト11’,11’に掛けられた圧力が急激に解放されるため、この部分において、プレスフェルト11’,11’の体積が急激に膨張する。その結果、プレスフェルト11’,11’に負圧が生じ、さらに、湿紙W’が細繊維からなるため毛細管現象も加わって、プレスフェルト11’,11’に吸収されていた水分が、再び湿紙側へ移行する現象、すなわち、再湿現象(re-wetting)が起きる。
【0005】
この再湿現象を防止するためのフェルトとして、例えば、特開2004−143627号公報に開示されているプレスフェルトがある。これは、基層、湿紙側バット層、プレス側バット層からなるフェルトにおいて、湿紙側バット層中に親水性不織布が配置されたもので、この親水性不織布の親水作用によって、親水性不織布への水分移行作用、移行された水分の保持作用が発揮されるため、再湿現象を効果的に抑制することができるとされている。
【特許文献1】特開2004−143627号公報
【0006】
又、抄紙用プレスフェルトでは、湿紙から水を搾る機能(搾水性)を維持するために、加圧により圧縮されたフェルトを除圧時に偏平化することなく回復させる機能(耐圧縮疲労性)や、フェルトが平滑になることにより湿紙平滑性を高める機能(平滑性)及び耐脱毛・摩耗性等も重要視されている。
このような機能を具えたフェルトとして、例えば、2成分材料よりなる芯鞘構造を有する繊維を含むプレスフェルトが特開平8−302584号公報に開示されている。
このプレスフェルトでは、バット層の繊維として、低融点の鞘材料と高融点の芯材料からなる2成分材料が用いられ、プレスフェルトの加熱硬化処理により低融点の鞘材料が軟化してバット層内にマトリックスが形成されることにより、プレスフェルトの脱排水性能を向上させ、しかも、圧縮抵抗力を増強させることができるとされている。
【特許文献2】特開平8−302584号公報
【0007】
さらに、最近の高速抄紙機械に対応するため、搾水性と平滑性に優れた織布が使用されたプレスフェルトが使われている。この織布はフェルトのCMD方向糸とMD方向糸とが、共にモノフィラメント単糸で織成されている(特開2000−170086号公報を参照)。
なお、「MD方向」とは、抄紙機がプレスフェルトを移動させる経方向であり、「CMD方向」とは、抄紙機がプレスフェルトを移動させる方向を横切る緯方向である。
【特許文献3】特開2000−170086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2のプレスフェルトは、プレス装置による繰返しの圧縮疲労を受け易いという問題がある。
又、特許文献2のプレスフェルトのように2成分材料をバット層に用いる場合、フェルト製造時の熱プレスの影響により、芯材料の機械的強度の低下や化学的劣化が起こり、その結果、プレスフェルトの使用中に繊維が切断されたり、脱毛・摩耗が進み、早期に交換を必要とすることが多かった。
又、特許文献3のプレスフェルトでは、従来の撚糸を使用したフェルトに比べてニードルパンチングによるバット繊維と織布との固着性が悪くなるため、フェルトの脱毛・摩耗性が著しく悪いことが知られている。
従って、再湿現象を抑制すると同時に、平滑性、耐摩耗性・耐圧縮疲労性の機能をバランス良く具備したプレスフェルトが望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、再湿現象を抑制するとともに、平滑性、耐摩耗性・耐圧縮疲労性に優れた抄紙用プレスフェルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基体と、湿紙側層を具えたバット層により構成される抄紙用プレスフェルトにおいて、
前記湿紙側層が少なくとも基体側バット層を有し、
前記基体側バット層内に立毛繊維束が形成されていることを特徴とする抄紙用プレスフェルトにより前記課題を解決した。
前記立毛繊維束は、芯鞘複合繊維及び/又は全溶融繊維をニードルパンチした後、熱処理により前記芯鞘複合繊維の鞘成分又は全溶融繊維の一部が溶融することより繊維同士が柱状に融着されて形成されるか、又は分割繊維のニードルパンチにより繊維同士が絡み合うことにより形成される。
【0011】
ここで、「立毛繊維」とは、バット層の繊維(ステープルファイバー)の軸方向が、フェルトの基体側から湿紙接触面への方向に配向しているものを言う。そして「立毛繊維束」とは、このような立毛繊維が少なくとも3本以上で束になってしているものを言う。
このような態様は、顕微鏡によって確認することができる。
【0012】
基体側バット層には、芯鞘複合繊維、全溶融繊維、又は分割繊維のうちの少なくとも1種が含まれる。芯鞘複合繊維、及び全溶融繊維は、プレスフェルトの製造工程中の熱処理により溶融する低融点のナイロン成分を含んだ繊維である。
そして、前記基体側バット層における前記芯鞘複合繊維、全溶融繊維、又は分割繊維の含有率は、10%〜100%であることが好ましい。
さらに、前記基体は、フェルトのCMD方向糸とMD方向糸とが、共にモノフィラメント単糸で織成されている織布であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、芯鞘複合繊維の鞘成分、又は全溶融繊維の一部が溶融して、基体側バット層が緻密になる。その結果、プレス側層の水分は、基体側バット層がバリアとなって湿紙側に移動しにくくなるため、再湿現象を抑制することができる。
又、前記芯鞘複合繊維の芯成分を高粘度にすること、すなわち、高分子量ナイロンを使用することで、フェルトの耐脱毛・摩耗性及び耐圧縮疲労性が向上し、その結果、フェルトの寿命(ライフ)が延びてフェルト交換回数が減る、脱毛・摩耗による抜け毛が湿紙に付着することが少なくなり製紙品質が改善する、湿紙接触面の平滑性が維持される等の効果を奏する。
【0014】
又、芯鞘複合繊維及び/又は全溶融繊維を含んだ繊維層を予めプレニードルパンチによって一体化することで、フェルトの湿紙接触面から基体側の方向に立毛繊維束ができるが、この立毛繊維束はプレスフェルトの製造工程の熱プレスの際に鞘成分、及び/又は全溶融繊維の一部が溶融することにより、芯鞘複合繊維及び/又は全溶融繊維の繊維側面同士が熱接着を起こし、それに伴って基体側バット層には、融着された立毛繊維束が形成されるので、これにより、フェルトの耐摩耗性・耐圧縮疲労性が向上する。ここで、プレニードルパンチとは、芯鞘複合繊維及び/又は全溶融繊維や分割繊維を含んだ基体側バット層が基体やプレス側バット層に絡合一体化される前に、この基体側バット層に対してのみ、予めニードルパンチをすることを言う。
又、分割繊維を含んだ繊維層を予めプレニードルパンチによって一体化し立毛繊維束を形成した場合には、分割繊維の繊維構造自体の絡み易さから、立毛繊維束を構成する分割繊維が互いに絡み合い、その後の熱処理を経ずして解繊不可能な程の立毛繊維束となる。これによりフェルトの耐摩耗性・耐圧縮疲労性が向上する。
さらに、モノフィラメント単糸で織成された織布を基体に使用することにより、織布の通水性が改善されるため、搾水性と脱毛・摩耗性に優れたフェルトを構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による抄紙用プレスフェルトの第1実施形態について詳しく説明する。
図1は本発明による第1実施形態のプレスフェルト10のCMD方向の断面図である。本発明の第1実施形態においては、基体側バット層に含まれる繊維として芯鞘複合繊維を用いた。
ここで、芯鞘複合繊維とは、高分子量ナイロンからなる芯成分と、その芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分とから構成される繊維を言う。
【0016】
図1に示すように、プレスフェルト10は、基体30と、湿紙側バット層20とプレス側バット層23とを具え、湿紙側バット層20は、湿紙接触側バット層21と、この湿紙接触側バット層21の内側に配された基体側バット層22とからなる。
湿紙接触側バット層21、基体側バット層22、プレス側バット層23は、ステープルファイバーから構成され、基体側バット層22及びプレス側バット層23は、ニードルパンチによりそれぞれ基体30の湿紙側及びプレス側に絡合一体化され、湿紙接触側バット層21は、基体側バット層22に絡合一体化されている。
基体側バット層22は、芯鞘複合繊維を含んだ繊維層で、好ましくは基体30の湿紙側に配置される前に、予めプレニードルパンチによって一体化されている方が良いが、プレニードルパンチをせずに基体側バット層22の湿紙側に直接、芯鞘複合繊維を含んだ繊維層を配置してから、ニードルパンチして湿紙側バット層20を絡合一体化してもよい。
【0017】
芯鞘複合繊維の芯成分に好ましく用いられるナイロンとしては、高分子量ナイロン6、高分子量ナイロン66、高分子量ナイロン46、高分子量ナイロン610、高分子量ナイロン612等であることが好ましい。詳しくはεカプロラクタムの重合(ナイロン6)や、ヘキサメチレンジアミン・アジピン酸塩の重縮合(ナイロン66)、1,4−ジアミノブタン・アジピン酸塩の重縮合(ナイロン46)、ヘキサメチレンジアミン・セバシン酸塩の重縮合(ナイロン610)、ヘキサメチレンジアミン・ドデカン二酸塩の重縮合(ナイロン612)等、ナイロン塩の重縮合により得られたナイロンが好ましく、しかもDSC(示差走査熱分析計)による融点が200℃以上である脂肪族ナイロンを挙げることができる。
【0018】
芯鞘複合繊維の鞘成分に用いられるナイロンは、芯成分よりも低融点のナイロンが用いられる。鞘成分に好ましく用いられるナイロンとしては、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/6、ナイロン66/12、ナイロン66/610等の二元共重合ナイロン、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610等の三元共重合ナイロンを挙げることができる。なお、これらの共重合ナイロンは組成(共重合成分の重量%)により融点が変動することは良く知られる処であるが、本発明で使用できる共重合ナイロンは、その融点が180℃以下のものに限られる。
【0019】
本発明では、好ましくは湿紙接触側バット層21には芯鞘複合繊維41が含まれず、通常のナイロン繊維42で構成され、基体側バット層のみに芯鞘複合繊維41が含まれる構成を第1としたが、湿紙接触側バット層21のない基体側バット層のみの構成でも、或いは、プレス側バット層のない構成でも、さらには、湿紙接触側バット層及びプレス側バット層の両者がない構成でもよい。
【0020】
芯鞘複合繊維層22は、芯鞘複合繊維41と通常のナイロン繊維42とが一定の割合以上で混綿された繊維で構成されるのが好ましく、これにより耐摩耗性・耐圧縮疲労性をよりバランス良く具えることができる。この場合、混綿の割合は、芯鞘複合繊維41の含有率10%〜100%、ナイロン繊維42の含有率90%〜0%とするのが好ましい。
【0021】
これに対して、芯鞘複合繊維41の含有率が10%未満の場合では、熱融着された立毛繊維束の形成が少なくなり、耐摩耗性・耐圧縮疲労性が悪くなる。
【0022】
芯鞘複合繊維を含んだ繊維層を予めプレニードルパンチ処理をした回数(単位面積cm2当りの針打ち密度)は、30回以上である。
【0023】
芯鞘複合繊維41の芯部と鞘部の容積比率は特に限定されないが、5:1〜1:5の範囲、好ましくは1:1である。
【0024】
湿紙接触側バット層21、プレス側バット層23を構成するナイロン繊維42、及び、芯鞘複合繊維41と混綿されるナイロン繊維42としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612等が好適である。
【0025】
基体30は、CMD方向糸31とMD方向糸32をモノフィラメント単糸で織成することにより得られた織布が好ましく用いられるが、織組織としては(2/1,1/2)、(3/1,1/3)、(5/1,1/5)等の二重組織や三重組織、或いは(一重組織+二重組織)、(二重組織+二重組織)等の積層組織が使用できる。モノフィラメント単糸の太さは直径0.1mm〜0.6mmで、組織の糸密度は10〜100本/25mmが使用できる。
なお、本発明はこれに限定されず、MD方向糸材とCMD方向糸材を織成せずに重ねた構成、フィルム、編物、細い帯状体をスパイラルに巻回して幅広の帯状体を得た構成等、種々の構成を適宜採用することができる。又、基体30の素材としては、羊毛等の天然繊維や、耐摩耗性、耐疲労性、伸張特性、防汚性等に優れたポリエステルやナイロン6、ナイロン66等の合成繊維が用いられる。
【0026】
又、芯鞘複合繊維41の繊度は、抄紙機のプレスパートの前段で使用するピックアップ用フェルトでは、15〜25デシテックス(dtex)程度、また、抄紙機のプレスパートの中段で使用する2番プレスや3番プレス用のフェルトでは、10〜20デシテックス(dtex)程度のものを用いるとよい。
又、抄紙機のプレスパートの後段で使用する4番プレスやシュープレス用のフェルトでは、5〜20デシテックス(dtex)程度のものを用いるとよい。
【0027】
又、ナイロン繊維42の繊度は、抄紙機のプレスパートの前段で使用するピックアップ用フェルトの湿紙側バット層20には10〜25デシテックス(dtex)程度、プレス側バット層23には15〜25デシテックス(dtex)程度のものを用いるとよい。
又、抄紙機のプレスパートの中段で使用する2番プレスや3番プレス用のフェルトの湿紙側バット層20には10〜15デシテックス(dtex)程度、プレス側バット層層23には10〜20デシテックス(dtex)程度の繊度のものを用いるとよい。
又、抄紙機のプレスパートの後段で使用する4番プレスやシュープレス用のフェルトの湿紙側バット層32には5〜15デシテックス(dtex)程度、プレス側バット層23には5〜20デシテックス(dtex)程度の繊度のものを用いるとよい。
【0028】
又、本発明による第1実施形態として、基体側バット層22に含ませる繊維には、熱処理により鞘は溶けるが芯は溶けないという芯鞘複合繊維を用いたが、この芯鞘複合繊維に替えて全溶融繊維を用いるか、又は芯鞘複合繊維と全溶融繊維の両方を併せて用いてもよい。
ここで、全溶融繊維とは、成分の全てが低融点材料で作られ比較的低温度で全て溶融する繊維のことである。全溶融繊維を含んだ繊維を基体側バット層に含有させるときは、前記芯鞘複合繊維を含ませたときよりもフェルト製造時の熱プレスの作用をやや緩和して行えば、全溶融繊維の側面のみを溶融できるから、全溶融繊維の立毛繊維束を柱状に融着させることができる。
【0029】
さらに、基体側バット層22に含ませる繊維には、前記芯鞘複合繊維及び/又は全溶融繊維に替えて分割繊維を用いてもよい。
ここで、分割繊維とは、例えば、6つの断面扇形の花弁部と、当該花弁部のうち隣り合うものの側面同士を結合させた断面がほぼアステリスク形状の茎部である7つの部分から構成され、これらの部分が断面円形に統合され、分割可能に形成されているものである。分割繊維の素材については、例えば、ナイロン6(すなわち、N6)で形成され、そして、茎部が、例えば、ポリブチレンテレフタレート(すなわち、PBT)で形成される。このような分割繊維の具体例としては、商品名「PA31」:東レ株式会社製等が挙げられる。
【0030】
この分割繊維は、製造工程中の熱プレスによっても溶融しないが、プレニードルパンチによって立毛繊維束が形成され、且つ、その立毛繊維束を構成する分割繊維は互いに絡み合っている。すなわち、分割繊維は断面が丸型でなく、星型や三角等の異形であるため繊維同士が絡み易く、そのためプレニードルパンチによって繊維側面が絡み合い、その後の熱処理を経ずして解繊不可能な程の立毛繊維束となる。
【実施例】
【0031】
本発明の抄紙用プレスフェルトを、以下の実施例によって具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(芯鞘複合繊維)
本実施例では、芯材としてナイロン6(融点220℃)と、鞘材料として共重合ナイロン(融点140℃)を使用し、芯部と鞘部の容積比率が1:1である芯鞘複合繊維のステープルファイバーを使用した。具体的には、EMS(エムスケミ)社から市販されている「BA140」を使用した。
【0033】
(抄紙用プレスフェルトの製造)
実施例、比較例ともに諸条件を共通とするため、全てのフェルトの基本構成を次のとおりとした。
・基体:織布 A[240dtexのナイロンモノフィラメントを2本撚り( 下撚り)し、その下撚り糸を2本束ねて撚った(上撚り)撚糸を、MD方向糸材とCMD方向糸材にして織成した、(3/1,1/3)の二重組織]:坪量300g/m2
・基体:織布 B[1100dtexのナイロンモノフィラメント単糸を、M D方向糸材とCMD方向糸材にして織成した、(3/1,1/3)の二重組織]:坪量300g/m2
・バット層:
:湿紙接触側バット層には(6dtexのナイロン6繊維のステープルファイバー)で総坪量120g/m2
:基体側バット層(芯鞘複合繊維層)には(17dtexの複合繊維のステープルファイバー)で総坪量120g/m2
:プレス側バット層には(17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバー)で総坪量100g/m2
【0034】
まず、工程1として、基体側バット層(芯鞘複合繊維層)にはバット原料(17dtexの複合繊維のステープルファイバー、及び17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーの混綿)を準備した。
表1に記載されたバット原料を、ニードル機械の前段に備えられたカード機械で解繊しながら積層ウエッブを得た。これをニードル機械でパンチして(プレニードルパンチ回数は下記の表1に記載。)、総坪量120g/m2のプレニードルパンチによる基体側バット層を形成した。
【0035】
次に、工程2として、ニードル機械に基体(織布)を仕掛け、その基体の湿紙側に前記プレニードルパンチによる基体側バット層を載置し、再びニードルパンチ(100回)して基体側バット層を基体に絡合一体化させた。
さらに、前記基体側バット層の湿紙側に、湿紙接触側バット繊維のウエッブをカード機械から供給して載置し、ニードルパンチ(回数150回)して、湿紙接触側バット層を形成した。
次に、前記基体を反転させて、プレス側に、プレス側バット繊維のウエッブをカード機械から供給して載置し、ニードルパンチ(回数150回)して、プレス側バット層を形成した。
ここで、図2は本発明のプレスフェルトの実施形態のCMD方向の主要部拡大断面図であるが(プレス側バット層23は便宜上省略している。)、工程2までの過程で、図2に示すような立毛繊維束50が形成される。
【0036】
最後に、工程3として、ニードルパンチ後のフェルトを、一対の熱カレンダーロール(ロール温度160℃、プレス圧50kg/cm)に、2m/minの速度で5回繰返して通過させ、基体側バット層の芯鞘複合繊維における鞘成分を融着させて、本発明のフェルトを得た。
図3は、本発明の実施例の基体側バット層の、湿紙側からプレス側方向への断面の電子顕微鏡写真であり、立毛繊維束が柱状に融着されていることが確認できた。
【0037】
なお、図2では、立毛繊維束50が基体側バット層22内でのみ形成されている状態を示したが、工程1で、基体側バット層22をプレニードルパンチし、工程2で、その基体側バット層22と、基体30、さらには、プレス側バット層23とを重ねてニードルパンチをすれば、工程2のニードルパンチにより形成される立毛繊維束50が基体側バット層22を貫通し基体30にまで及ぶことは勿論、さらには、プレス側バット層23にまで及ぶこともある。
図3では、立毛繊維束50が基体側バット層22を貫通し、基体30及びプレス側バット層23にまで及んでいる状態が示されている。
【0038】
実施例1〜12及び比較例1〜2のフェルトの構成を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
上記の実施例及び比較例の抄紙用プレスフェルトを使用して、以下の条件、方法により耐圧縮疲労性、耐脱毛・摩耗性の評価を行なった。
【0041】
(繰返し圧縮疲労試験)
150kg/cm2で10Hzパルス荷重を繰返し20万回与え、圧縮疲労試験を行なった。圧縮疲労性を(試験後の密度/仕上がり密度)比で表し、1.40未満を「優」、1.40以上1.49以下のものを「良」、1.50を超えたもの「不良」とした。
【0042】
(テーパー脱毛・摩耗試験)
JIS1023−1992に基づくテーパー研磨試験機により、抄紙用フェルトから脱落した繊維量を測ることにより、耐脱毛・摩耗性の評価を行なった。回転するターンテーブル上に円盤状の試験片を載置し、さらに、試験片上に抵抗の大きい回転ロールを当接させて、繊維の脱落量(脱毛・摩耗量)を測った。(荷重:1kg、ホイール:CS−17、回転数:5000回、単位:mg)
脱毛・摩耗量が50mg未満のものを「優」、50mg以上99mg以下のものを「良」、100mgを超えたものを「不良」とした。
【0043】
各試験の測定結果、及び、評価を表2に示す。
ここで、表2の「融着した立毛繊維束の数」の値は、フェルトのMD方向断面とCMD方向断面を、それぞれ顕微鏡写真を撮影して融着した立毛繊維の本数を数え、その積で表したものである。
【0044】
【表2】

【0045】
表2の実施例2〜7に示されるように、本発明の抄紙用プレスフェルトは、耐圧縮疲労性、及び、耐摩耗性をバランス良く具備することが確認された。又、実施例8又は9に示されるように、湿紙接触側バット層のない、或いは、プレス側バット層のない実施形態としても、同様の結果が得られた。さらに、湿紙接触側バット層及びプレス側バット層の両者のない実施例10においても、耐摩耗性と耐圧縮疲労性とを有る程度兼ね備えた抄紙用プレスフェルトが得られる。
又、基体がモノフィラメント単糸で織成された織布Bを使用した実施例11と12では、基体がモノフィラメント撚糸で織成された織布Aを使用した実施例4と5に対比して、耐摩耗性と耐圧縮疲労性とが一層向上している。すなわち、本発明の抄紙用プレスフェルトは耐摩耗性と耐圧縮疲労性の機能に対して、織布の貢献度が高いという結果が得られた。
これに対し、プレニードルパンチの回数を30回未満とした実施例1や、芯鞘複合繊維を含まずプレニードルパンチを200回行なった比較例2においては、耐圧縮疲労性が悪く、又、芯鞘複合繊維を含まずプレニードルパンチを100回行なった比較例1においては、耐圧縮疲労性、耐摩耗性ともに悪いという結果が得られた。
以上の結果は、芯鞘複合繊維の含有量が多く、又、プレニードルパンチの回数が多い程、融着した立毛繊維束の数が多くなるので、フェルトの耐摩耗性・耐圧縮疲労性が向上することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のプレスフェルトの第1実施形態のCMD方向の断面図。
【図2】本発明のプレスフェルトの第1実施形態のCMD方向の主要部拡大断面図。
【図3】本発明のプレスフェルトの実施例の、基体側バット層の湿紙側からプレス側方向への断面の電子顕微鏡写真。
【図4】製紙機械のプレス装置の概略説明図。
【符号の説明】
【0047】
10:抄紙用プレスフェルト
20:湿紙側層
21:湿紙接触側バット層
22:基体側バット層(芯鞘複合繊維層)
23:プレス側バット層
30:基体
31:CMD方向糸
32:MD方向糸
41:芯鞘複合繊維
42:ナイロン繊維
50:立毛繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、湿紙側層を具えたバット層により構成される抄紙用プレスフェルトにおいて、
前記湿紙側層が少なくとも基体側バット層を有し、
前記基体側バット層内に立毛繊維束が形成されていることを特徴とする、
抄紙用プレスフェルト。
【請求項2】
前記立毛繊維束が、芯鞘複合繊維及び/又は全溶融繊維をニードルパンチした後、熱処理により前記芯鞘複合繊維の鞘成分又は全溶融繊維の一部が溶融することより繊維同士が柱状に融着されて形成されたものである、請求項1の抄紙用プレスフェルト。
【請求項3】
前記立毛繊維束が、分割繊維のニードルパンチにより繊維同士が絡み合うことにより形成されたものである、請求項1の抄紙用プレスフェルト。
【請求項4】
前記基体側バット層における前記芯鞘複合繊維及び/又は全溶融繊維の含有率が10%〜100%である、請求項2の抄紙用プレスフェルト。
【請求項5】
前記基体側バット層における前記分割繊維の含有率が10%〜100%である、請求項3の抄紙用プレスフェルト。
【請求項6】
前記基体が、モノフィラメント単糸のMD方向糸とCMD方向糸とから織成された織布である、請求項1から5のいずれかの抄紙用プレスフェルト。
【請求項7】
前記芯鞘複合繊維、全溶融繊維、又は分割繊維を含まないナイロンの層からなる湿紙接触側バット層を有する、請求項1から6のいずれかの抄紙用プレスフェルト。
【請求項8】
さらに、プレス側層を具えたバット層を有する、請求項1から7のいずれかの抄紙用プレスフェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−248447(P2008−248447A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93190(P2007−93190)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】