説明

抄紙用ベルト

【課題】オープンタイプ用のベルトでは片面コートベルトの基材層と樹脂層の熱収縮量の差、並びに、シートトランスファー用ベルトでは片面コートベルトの基材層と樹脂層の熱収縮量の差により生ずるベルト端縁部のカールを減少させるか無くすことのできる抄紙用ベルトを提供する。
【解決手段】本願ベルト1は、マシン走行時の基材層の下部或いは上部に樹脂層を形成してなる抄紙用ベルトにおいて、前記樹脂層の中央部に対する幅方向両端部を、0.5mmの厚さになるように研磨するか、あるいは端縁で0.5mmの厚さになるように中央側から連続的テーパー状に研磨したことを特徴とし、片面コートベルトでのバイメタル現象を起こり難くしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オープンタイプの抄紙用シュープレスマシンに用いられるシュープレス用ベルト及びシートトランスファー用ベルトなどの抄紙用ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙用ベルトで、抄紙用シュープレスマシンに用いられるオープンタイプのシュープレスベルトは、図3の如く、トップ(プレス)ロール41とシュー42との間に複数のロール間に保持されたシュープレス用ベルト43を走行させ、該シュープレス用ベルト43上に、トップフェルト44とボットムフェルト45との間に挟んだ湿紙46を乗せ、トップロール41とシュー42との間で形成される圧力を湿紙46に確実に伝えて搾水できるようになっている。
【0003】
また、マシンの高速化を可能にするためのクローズドドローを実現させる目的のシートトランスファー用ベルトは、図4のように使用されている。即ち、湿紙46はフォーミングワイヤー50上に形成され、クーチロール51とターニングロール52との間においてサクショングランドを持つピックアップロール54を廻るピックアップフェルト53によって引き離される。このピックアップフェル53の下側に付いた湿紙46は上部プレスロール57、下部プレスロール56、ピックアップフェルト53及びシートトランスファー用ベルト55との間において形成されるプレスニップNに持ち運ばれる。このプレスニップNにおいて、湿紙46中の水分はピックアップフェルト53に移行する。しかして、プレスニップNの出口側でガイドロール58によって湿紙46がピックアップフェルト53から離される。次いで、湿紙46はシートトランスファー用ベルト55に付着して第二プレスニップN−2へ移動する。このシートトランスファー用ベルト55は表面が平滑で水を通さないのでフェルトを使用する時のようなフェルトから湿紙46への再湿現象は起こらない。この後、湿紙は第二プレスニップN−2において、上部プレスロール60、下部プレスロール(シュー及びプレスベルトの利用もある)61、プレスフェルト59及びシートトランスファー用ベルト55により再度搾水される。湿紙46はこの後、ガイドロール58′によってシートトランスファー用ベルト55から離されてドライパートへ移行して行く。この間、湿紙46はフェルト或いはシートトランスファー用ベルト55に補助されて移動するため紙切れが起こり難く抄速が上げられる。
【0004】
前記オープンタイプの抄紙用シュープレスマシンでは、前記ベルト43が前記シュー42に入る直前に、該ベルト43の内側にオイルスプレー装置47により潤滑油をスプレーし、ベルト43の内面とシュー42との摩擦抵抗を下げられるようにしている。また、このスプレーされた潤滑油はシュー42の出口においてスクレーパー48とオイル掻取ブラシ49で掻き取られる。
【0005】
なお、抄紙用ベルトに関して、特公昭63−38477号、特開平4−82988号、特開平5−311591号、特公平3−64639号及び特公昭63−15398号がある。
【特許文献1】特公昭63−38477号
【特許文献2】特開平4−82988号
【特許文献3】特公平3−64639号
【特許文献4】特公昭63−15398号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記オープンタイプのベルトのうち、片面コートベルトは、製造中の基材層と樹脂層の熱収縮量の差による、いわゆるバイメタル現象により使用中にその両端部A、Bが、図6(a)の一点鎖線の如くシュー側(下向き)にカールする傾向にあった。逆に、シートにベルト表面が直接接触し搬送するのに使用されるトランスファー用ベルトにおいては、図6(b)の一点鎖線の如くフェルト側の樹脂層のある方にカールする傾向があった。
【0007】
即ち、樹脂層は一液或いは二液混合により液状で基材層に塗布されるが、硬化すると共に収縮するし、加熱コートタイプの樹脂だと熱膨張した状態でコートされるので、除熱により樹脂の収縮量はさらに大きくなり、ベルト端縁部のカールはなおいっそう大きくなった。
【0008】
前記カールの大きさC1 、C2 は、図5の如く、基材層と樹脂層の組み合わせにより異なるが、通常30〜100mm程度あり、70mm以上になると、図7の如く、スクレーパー48との間にギャップGが生じることから、スクレーパー48による掻き取り性が悪くなる。また、前記カールの長さL1 、L2 は、図5の如く、100mm前後にわたることが経験上認められる。
【0009】
前述の如く、抄紙用ベルトにおいては、スクレーパー48による潤滑油の掻き取りが悪いと、ベルトの内面に残った潤滑油がスクレーパー後方に位置するベルトロール(例えば図3の符号Rで示す)にぶつかり、ロールの遠心力によりオイルミストとなり、マシン周辺に飛散し、オイルの使用量が増大してコスト高になると共にマシン周辺のオイル汚れ、排水へのオイルの混入の問題を引き起こす結果となった。
【0010】
また、ベルト両端部が、図6(a)、(b)の一点鎖線の如く、カールしていると、ガイドパームへのベルトの端縁部の当たりが不安定となり、ベルト走行性に影響することがある上に、ベルトをマシンに掛け入れに際してロールのベルト掛け入れ側端部にベルトの耳部が引っかかり掛け入れに時間を要するなど、各種の問題が生じていた。
【0011】
上記の特公昭63−38477号、特開平4−82988号、特開平5−311591号、特公平3−64639号及び特公昭63−15398号は、何れも両端縁部のカールに関する知見はない。
【0012】
本発明は、上記種々の課題を解決するためのもので、その目的とするところはオープンタイプ用のベルトでは片面コートベルトの基材層と樹脂層の熱収縮量の差、並びに、シートトランスファー用ベルトでは片面コートベルトの基材層と樹脂層の熱収縮量の差により生ずるベルト端縁部のカールを減少させるか無くすことのできる抄紙用ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明は、マシン走行時の基材層の下部或いは上部に樹脂層を形成してなる抄紙用ベルトにおいて、前記樹脂層の中央部に対する幅方向両端部を、0.5mmの厚さになるように研磨するか、あるいは端縁で0.5mmの厚さになるように中央側から連続的テーパー状に研磨したことを特徴とし、片面コートベルトでのバイメタル現象が起こり難くなるように構成した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マシン走行時の基材層の下部或いは上部に樹脂層を形成してなる抄紙用ベルトにおいて、前記樹脂層の中央部に対する幅方向両端部を、0.5mmの厚さになるように研磨するか、あるいは端縁で0.5mmの厚さになるように中央側から連続的テーパー状に研磨したことを特徴としているから、片面コートベルトでのバイメタル現象が起こり難くなり、ベルト両端部のカールは大幅に改善できるという優れた効果を奏するものである。
【0015】
従って、裏面片面コートベルトの両端部にスクレーパーとの間にギャップが生ずることがなく、オイルの掻き落とし性が良好となり、オイルの飛散がなくなり、オイル使用量が大幅に減少する。しかも、表面或いは裏面片面コートベルトの何れにおいても、走行性やマシンへの掛け入れ性も良好になるなどの優れた効果も奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の態様を、図1〜図2に示す図面に基づいて説明する。即ち、本願ベルト1は、図1(a)の如く、基材層2と、該基材層2の下部(シュー側)に形成した樹脂層3とからなり(片面コートベルト)、前記樹脂層3の幅方向両端部A、Bを中央部Cよりも薄く形成してなる。
【0017】
また、本願ベルト1は、図1(b)の如く、基材層2と、該基材層2の上部(フェルト側)に形成した樹脂層3とからなり(片面コートベルト)、前記樹脂層3の幅方向両端部A、Bを中央部Cよりも薄く形成してなる。
【0018】
前記基材層2は、例えば、経糸・緯糸共、0.4mmφポリエステルモノフィラメント糸を、中間部(充填糸)にポリエステルマルチフィラメント糸(3000d)を使用し、組織を3/1、1/3芯入り二重織により形成したものを用いている。
【0019】
前記片面コートベルトにおける樹脂層3は、ウレタン樹脂を使用して満足できる。前記幅方向両端部A、Bを中央部Cよりも薄く形成したのは、いわゆるバイメタル現象が起こり難くするためである。該両端部A、Bを中央部Cよりも薄く形成する方法としては研磨機を利用して研磨することが好ましい。勿論、研磨以外の手段があればそれを利用することは自由である。
【実施例1】
【0020】
基材層に経糸・緯糸共、0.4mmφポリエステルモノフィラメント糸を、中間部(充填糸)にポリエステルマルチフィラメント糸(3000d)を使用し、組織が3/1、1/3の芯入り二重織で、厚みを1.9mmに織成した織布を用い、該織布のシュー接触面側からウレタン樹脂を含浸させ、全体の厚みが3.5mmになるまで塗布し、その後、熱を加えてウレタン樹脂を硬化させ、硬化後、該樹脂層を全厚が3.0mm(樹脂層1.1mm)になるまで研磨し、比較ベルト「イ」(片面コートベルト)を得た〔図2(a)参照:シュープレス用ベルトとして使用するために研磨後裏返しを実施した後のもの〕。
【0021】
次に、前記比較ベルト「イ」に示す片面コートベルトの幅方向両端部の樹脂層を、その端縁から100mm内側までを、0.5mm厚に研磨(中央部に比べて0.6mm薄くした)して本願ベルト「イ」〔図2(b)参照:シュープレス用ベルトとして使用するために研磨後裏返しを実施したあとのもの〕を得た。
【0022】
前記比較ベルト「イ」に示す片面コートベルトの幅方向両端部の樹脂層を、その端縁で0.5mm厚とし、該端縁より100mm内側で中央部と同じ厚みになるように連続的にテーパー状に研磨(中央部に比べて研磨分だけ薄く)して本願ベルト「ロ」〔図2(c)参照:シュープレス用ベルトとして使用するために研磨後裏返しを実施したあとのもの〕を得た。
【0023】
上記比較ベルト「イ」と、本願ベルト「イ」、「ロ」との端縁部のカール量(図5におけるC1 、C2 )を測定した処、比較ベルト「イ」が60mmであったのに対し、本願ベルト「イ」で10mm、本願ベルト「ロ」で20mmであった。この結果、ベルト両端部のカールは大幅に改善されたことが判った。
【0024】
また、実機におけるテストにおいても本願ベルト「イ」及び「ロ」は、特に問題がなかった。本願ベルト「イ」、「ロ」は両端部の樹脂層が研磨されているため、該研磨部分がシュー部を通過後、スクレーパーから離反し、オイルを掻き落とせないことが懸念されたが、両端部と中央部の厚み差が0.6mmと小さい(本願ベルト「ロ」では更に小さい)こともあり、また、スクレーパーの後に位置するオイル掻取ブラシによって掻き落とされるため問題とならなかった。従って、オイルの飛散がなくなり、オイル使用量が60L/日→10L/日と大幅に減少した。さらに、走行性やマシンへの掛け入れ性もベルト両端部が内側にカールしていないために良好であった。
【0025】
以上の説明は、裏面(シュー接触面側)に樹脂層がある場合であるが、逆に表面に樹脂層がある場合においても、同じことが言える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願ベルトの幅方向の中央部の一部を省略した場合を示す断面図で、(a)は裏面片面コートベルト、(b)は表面片面コートベルトである。
【図2】片面コートベルトの一端部の形体を略示的に示す断面図で、(a)は比較ベルト「イ」、(b)は本願ベルト「イ」、(c)は本願ベルト「ロ」である。
【図3】抄紙用オープンタイプのシュープレスマシンの略示的説明図である。
【図4】シートトランスファー用ベルトの使用例を示す略示的説明図である。
【図5】オープンタイプのシュープレス用ベルトの両端部に生ずるカール量と長さを示す略示的説明図である。
【図6】従来型のベルト(比較ベルト)の幅方向の中央部の一部を省略した場合を示す断面図で、(a)は裏面片面コートベルト、(b)は表面片面コートベルトである。
【図7】従来型のベルト(比較ベルト)とスクレーパーとの関係を示す略示的説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 本願ベルト
2 基材層
3 樹脂層
41 トップ(プレス)ロール
42 シュー
43 オープンタイプのシュープレス用ベルト
43a 基材層
43b 厚い樹脂層
43c 薄い樹脂層
44 トップフェルト
45 ボットムフェルト
46 湿紙
47 オイルスプレー装置
48 スクレーパー
49 オイル掻取ブラシ
50 フォーミングワイヤー
51 クーチロール
52 ターニングロール
53 ピックアップフェルト
54 ピックアップロール
55 シートトランスファー用ベルト
56 下部プレスロール
57 上部プレスロール
58、58′ ガイドロール
59 プレスフェルト
60 上部プレスロール
61 下部プレスロール
A、B 幅方向両端部
C 中央部
G ギャップ
N プレスニップ
N−2 第二プレスニップ
R ベルトロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マシン走行時の基材層の下部或いは上部に樹脂層を形成してなる抄紙用ベルトにおいて、前記樹脂層の中央部に対する幅方向両端部を、0.5mmの厚さになるように研磨するか、あるいは端縁で0.5mmの厚さになるように中央側から連続的テーパー状に研磨したことを特徴とする抄紙用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−104656(P2006−104656A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339540(P2005−339540)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【分割の表示】特願平11−128503の分割
【原出願日】平成11年5月10日(1999.5.10)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】