抄紙用具
【課題】無端状構造体を用いた抄紙用具、特に湿紙搬送用ベルトにおいて、設備や製造コストが安価で、基材の糸列の結合力が強く加工性に優れ、湿紙表面平滑性に優れた湿紙搬送用ベルトを提供する。
【解決手段】熱溶融糸が等間隔に巻きつけられた経糸を平行に配置し糸列を形成し、これを加熱することにより該経糸同士を固定させ経糸のみからなる無端状構造体を形成し、該無端状構造体にバット層を積層一体化させて、抄紙用具を製作することにより課題を解決した。
【解決手段】熱溶融糸が等間隔に巻きつけられた経糸を平行に配置し糸列を形成し、これを加熱することにより該経糸同士を固定させ経糸のみからなる無端状構造体を形成し、該無端状構造体にバット層を積層一体化させて、抄紙用具を製作することにより課題を解決した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパートで使用される抄紙用具に関し、特にその基材に関するものである。
【0002】
従来、抄紙機でオープンドローにて湿紙の受け渡しを行うタイプ(受け渡し部に湿紙の支持体を備えないもの)は、その受け渡し部分で紙切れが発生し易く高速化の弊害になっていた。このため、近年は抄紙機の高速化や作業の安定化のためにクローズドドローにて湿紙の受け渡しを行うタイプ(受け渡し部に湿紙の支持体を備えるもの)が主流になってきた。
【0003】
典型的なクローズドドロー抄紙機を、図12に基づき説明する。
同図において、破線で示される湿紙WWは、プレスフェルトPF1、PF2、湿紙搬送用ベルトTB、ドライヤファブリックDFに支持され、右から左に向かって搬送される。これらのプレスフェルトPF1、PF2、湿紙搬送用ベルトTB、ドライヤファブリックDFは、周知のように無端状に構成された帯状体であり、ガイドローラGRで支持されている。シューPSは、プレスロールPRに対応した凹状となっている。このシューPSは、シュープレスベルトSBを介して、プレスロールPRとともにプレス部PPを構成している。
【0004】
湿紙WWは、図示しないワイヤーパート、第一プレスパートを順次通過し、プレスフェルトPF1からプレスフェルトPF2へ受け渡される。そして、プレスフェルトPF2により、プレス部PPに搬送される。プレス部PPにおいて、湿紙WWは、プレスフェルトPF2と湿紙搬送用ベルトTBとにより挟持された状態で、シュープレスベルトSBを介したシューPSと、プレスロールPRとにより加圧される。
【0005】
プレスフェルトPF2は透水性が高く、湿紙搬送用ベルトTBは透水性が非常に低く構成されている。よって、プレス部PPにおいて、湿紙WWからの水分は、プレスフェルトPF2に移行する。プレス部PPを脱した直後においては、急激に圧力から開放されるため、プレスフェルトPF2、湿紙WW、湿紙搬送用ベルトTBの体積が膨張する。この膨張と、湿紙WW構成するパルプ繊維の毛細管現象とにより、プレスフェルトPF2内の一部の水分が、湿紙WWと移行してしまう、いわゆる、再湿現象が生じるが、湿紙搬送用ベルトTBは透水性が非常に低く構成されているので、その内部に水分を保持することはない。よって、湿紙搬送用ベルトTBから再湿現象はほとんど発生せず、湿紙搬送用ベルトTBは湿紙の搾水効率向上に寄与する。なお、プレス部PPを脱した湿紙WWは、湿紙搬送用ベルトTBにより搬送される。そして、湿紙WWは、サクションロールSRにより吸着され、ドライヤファブリックDFによりドライヤ工程へと搬送される。
【0006】
ここで湿紙搬送用ベルトは通常、基材と湿紙側に配置されたバット層、ロール側に配置されたバット層がニードリングにより一体化され、更に湿紙側表面に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂といった高分子弾性体が配置されたものである。この基材には通常、織機により製織された織物が使用されていた。この製織された織物を用いた湿紙搬送用ベルトは、織物の経糸と緯糸とが相互に交絡したしっかりした組織を有しているので、ニードリングの際に糸の配置が針の貫通によって乱されたり、糸同士が互いに不規則に重なったり離れたりすることがなく、また、フェルトの走行中の寸法安定性にも優れたものであったが、製織に要する手間や時間がかかりすぎて製作コストが高くつくという大きな問題があった。また、織物の経糸と緯糸とが交絡しているがゆえに交絡点に起因する紙へのマークといった問題があった。
【0007】
そこで上記問題を解決するために無製織の基材を用いた抄紙用具が提案されており、これらの技術は湿紙搬送用ベルトの基材にも応用できることはいうまでもない。無製織の基材を用いた抄紙用具の利点として、織機設備が不要、製織不要により製品の低コスト化が図られ、また経緯糸の交絡点がないため、紙へのマーク性が向上するといった品質向上が図られる。
【0008】
上記無製織の基材を用いた抄紙用具の従来技術として、特許文献1においては、ニードルマシン内に独立した経糸供給装置を設け、経糸のみからなるエンドレス状の基材層を形成した後に、各種繊維からなるバット層を載せニードリングすることでバットを基材層に固定させ、基材層が経糸のみからなる無製織抄紙用フェルトを得ている。
【0009】
また特許文献2においては、一定間隔を隔てて対峙させた一対の平行なロールに糸群をスパイラル状に周回させつつ、溶融状態にあるホットメルト系樹脂を散布して、糸群を固定することにより、経糸のみからなる無製織の基材層を得ている。
【0010】
更にまた、特許文献3においては、平行に配置された複数の糸により規定された糸列を繊維バット材料層にて固定して得られる基材層を、複数層積層して一体化して無製織抄紙用フェルトを得ている。
【0011】
しかしながら特許文献1の技術に関しては、機械装置が複雑化し大規模なものとなり、設置が非常に難しく、かつ設備費用が非常に高価なものになる。ゆえにそれによる製造物は比較的高価なものとなってしまい、商業的観点において総合的に満足できるものではなかった。
【0012】
また、特許文献2の技術に関しては、ホットメルト系樹脂の接着斑、散布斑に起因する湿紙平滑性の低下といった問題があった。また、抄紙機において使用中にホットメルト系樹脂が脱落し、抄紙機械内のロールやグルーブドロールの溝に付着し、湿紙にマークを付けたり、湿紙に樹脂が混入してしまうといった問題があった。
【0013】
更にまた、特許文献3の技術に関しては、各基材層の糸列がバット材料層にのみ固定されているため、糸列の結合力が弱く、基材層の製造中に糸列が裂けてしまうといった加工面での問題が生じる可能性がある。
【0014】
【特許文献1】特開昭50−135307号公報
【特許文献2】特開平11−124787号公報
【特許文献3】特開平03−501374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、無製織の基材を用いた抄紙用具、特に湿紙搬送用ベルトにおいて、設備や製造に関するコストが安価で、基材の糸列の結合力が強く加工性に優れ、湿紙表面平滑性に優れた湿紙搬送用ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、抄紙用具の基材として、熱溶融糸が巻きつけられた糸(以下カバードヤーンという)を揃えてなる糸列をスパイラル状に周回させ、該糸列を加熱処理することで固定してなる無端状構造体を少なくとも一層用い、該基材の隣接する面にバット層を積層一体化せしめた抄紙用具によって前記課題が達成される。
【0017】
また本発明では前記基材として、前記無端状構造体に隣接してシート状不織布を配置してもよい。
【0018】
更に本発明では前記基材として、前記無端状構造体に隣接して織物を配置してもよい。
【0019】
更にまた本発明では前記抄紙用具が、前記抄紙用具の湿紙面側表面に更に高分子弾性体が配置された湿紙搬送用ベルトでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、無端状構造体の糸列の結合力が強く加工性に優れ、低コストで、湿紙に基材層のマークが付くことのない表面性の優れた無端状構造体を備えた抄紙用具、特に湿紙搬送用ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の抄紙用具の一例として湿紙搬送用ベルトについて詳細に説明する。
図4は本発明における湿紙搬送用ベルトの第一の形態で、CMD方向の断面図である。
なお、機械方向(MD)とは、抄紙機内において湿紙搬送用ベルトが走行する方向であり、機械横断方向(CMD)とは、湿紙搬送用ベルトが走行する方向を横切る方向である。
図に示すように、湿紙搬送ベルト(40)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体(42)が基材層(41)となっており、該基材層(41)に湿紙側バット層(43)とロール側バット層(44)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(45)が配置された様子を示している。なお図では好ましい例示としてバット層を基材層(41)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0022】
図5は本発明における湿紙搬送用ベルトの第二の形態で、CMD方向の断面図である。
図5に示すように、湿紙搬送用ベルト(50)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体(52)に隣接して、緯糸のみからなる無端状構造体(53)が配置された基材層(51)に、湿紙側バット層(54)とロール側バット層(55)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(56)が配置された様子を示している。なお、図5では好ましい例示としてバット層を基材層(51)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0023】
図6は本発明における湿紙搬送用ベルトの第三の形態で、CMD方向の断面図である。
図6に示すように、湿紙搬送用ベルト(60)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体(62)に隣接して、不織布(63)が配置された基材層(61)に湿紙側バット層(64)とロール側バット層(65)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(66)が配置された様子を示している。なお、図6では好ましい例示としてバット層を基材層(61)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0024】
図7は本発明における湿紙搬送用ベルトの第四の形態で、CMD方向の断面図である。
図7に示すように、湿紙搬送用ベルト(70)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体(72)に隣接して、織物(73)が配置された基材層(71)に湿紙側バット層(74)とロール側バット層(75)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(76)が配置された様子を示している。なお、織物(73)は製織に要する手間がかからない簡易な織物、例えば1/1平織組織、2/1組織、3/1組織などのものが好ましくは使用できる。当該織物は湿紙搬送用ベルトのCMD方向の巾と同じ巾の製織布でも良いし、或いはこれより狭い巾で製織しておき、それを多列に並べて湿紙搬送用ベルトのCMD方向の巾と同じ巾に構成しても良い。なお、図7では好ましい例示としてバット層を基材層(71)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0025】
図8は本発明における湿紙搬送用ベルトの第五の形態で、CMD方向の断面図である。
図8に示すように、湿紙搬送用ベルト(80)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列(82)とシート状不織布(83)が配置された無端状構造体が基材層となっており、該基材層(81)に湿紙側バット層(84)とロール側バット層(85)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(86)が配置された様子を示している。なお、図8では好ましい例示としてバット層を基材層(81)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0026】
図9は本発明における湿紙搬送用ベルトの第六の形態で、CMD方向の断面図である。
図9に示すように、湿紙搬送用ベルト(90)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列(92)とシート状不織布(94)が配置された無端状構造体に隣接して、緯糸のみからなる無端状構造体(93)が配置された基材層(91)に湿紙側バット層(95)とロール側バット層(96)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(97)が配置された様子を示している。なお、図9では好ましい例示としてバット層を基材層(91)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0027】
図10は本発明における湿紙搬送用ベルトの第七の形態で、CMD方向の断面図である。
図10に示すように、湿紙搬送用ベルト(100)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列(102)とシート状不織布(104)が配置された無端状構造体に隣接して、不織布(103)が配置された基材層(101)に湿紙側バット層(105)とロール側バット層(106)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(107)が配置された様子を示している。なお、図10では好ましい例示としてバット層を基材層(101)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0028】
図11は本発明における湿紙搬送用ベルトの第八の形態で、CMD方向の断面図である。
図11に示すように、湿紙搬送用ベルト(110)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列(112)とシート状不織布(114)が配置された無端状構造体に隣接して、織物(113)が配置された基材層(111)に湿紙側バット層(115)とロール側バット層(116)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(117)が配置された様子を示している。なお、織物(113)は製織に要する手間がかからない簡易な織物、例えば1/1平織組織、2/1組織、3/1組織などのものが好適に使用できる。当該織物は湿紙搬送用ベルトのCMD方向の巾と同じ巾の製織布でもよいし、或いはこれより狭い巾で製織しておき、それを多列に並べて湿紙搬送用ベルトのCMD方向の巾と同じ巾に構成してもよい。なお、図11では好ましい例示としてバット層を基材層(111)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
なお、図4〜図11ではカバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列と、該糸列に隣接して配置または接合された無端状構造体の位置関係については、図においては該糸列が湿紙側バット層の側に位置しているが、本発明ではその逆の構造、即ち該糸列がロール側バット層の側に位置していても良い。
【0029】
本発明の基材を構成する糸状及びバット層に用いられる繊維素材としては、抄紙機の湿紙搬送用ベルトに用いられている汎用の素材を用いることができ、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンなどの合成繊維素材や、羊毛、麻、綿などの天然素材などから適宜選択される。カバードヤーンの芯糸は、融点の高いナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、やポリエステル(PET)、PPS、PEEK、PEK、芳香族ポリアミドなどが使用できる。芯糸の形態としては、モノフィラメント単糸やモノフィラメント撚糸、又はマルチフィラメントなどが使用できる。本発明のカバードヤーンに好適に用いることができる芯糸としては、混撚糸(モノフィラメント糸、ツイストモノフィラメント糸、マルチフィラメント糸のいずれかとスパン糸との混撚糸)を用いる。即ち該カバードヤーンを平行に揃えて結合した際に、スパン糸の毛羽立ちが互いに絡み合うことでカバードヤーンの糸列の結合力をより高めることができる。
【0030】
熱溶融糸としては、前記芯糸よりも融点の低い糸材、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステル、共重合ナイロンなどが使用できる。好適にはナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/6、ナイロン66/12、ナイロン66/610等の二元共重合ナイロン、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610等の三元共重合ナイロンを糸材としたフィラメント糸又はスパン糸を用いることができる。なお、これらの共重合ナイロンは組成(共重合成分の重量%)により融点が変動することは良く知られているが、本発明で使用できる共重合ナイロンは、その融点が180℃以下、好ましくは130℃以下のものが使用できる。
【0031】
シート状不織布としては、スパンボンド、メルトブロー、又はスパンレース等の方法によって作られたシート状繊維集合体を使用でき、シート状不織布に用いられる素材は、好適には前記熱溶融糸と同様な低融点共重合ナイロンが使用できる。
【0032】
高分子弾性体としては、ウレタン、エポキシ等の熱硬化性樹脂、又はポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、アクリル等の熱可塑性樹脂を適宜使用することができる。
【0033】
図1は本発明の無端状構造体を構成するカバードヤーン(13)を示している。
図1において、本発明の無端状構造体を構成するカバードヤーン(13)は、芯糸(11)と熱溶融糸(12)の繊度の比が4:1〜10:1、好ましくは5:1〜8:1の範囲で、芯糸に対して熱溶融糸を100回/m〜2000回/m、好ましくは500回/m〜1000回/mの範囲で、等間隔に巻きつけられてなるカバードヤーン(13)である。なお、図1では芯糸(11)に対して熱溶融糸(12)をZ方向にまきつけられているが、芯糸(11)に対して熱溶融糸(12)をS方向に巻きつけてなるカバードヤーン(13)であってもよい。そして本発明では、図2のように筬(21)を通してカバードヤーン(13)を複数引き揃えて糸列(22)とし、該糸列の端部を一定間隔に隔てて対峙させた一対の平行なロール(23)に配置している糸列ガイド用の無端状ベルト(24)の上に固定する。
【0034】
次に図3のように、前記ロールを矢印方向(A)に回転させると、無端状ベルトに端部を固定した糸列(22)は引き込まれるため、糸列(22)を少しずつ巾方向、即ち矢印方向(B)に移動させながら供給し、糸列(22)がスパイラル状になるように周回させる。前記糸列(22)がフェルトの所定の巾となったら糸列(22)の供給を停止し、次に熱風又は赤外線などの熱源により熱処理を施し、熱溶融糸を溶融させ糸列を固定し、カバードヤーンを揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体が得られる。また、前記糸列に隣接してシート状不織布を配置し、熱風又は赤外線などの熱源により熱処理を施し、糸列とシート状不織布を固定し、カバードヤーンを揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体を得ることもできる。
【0035】
また図3に示すように、前記糸列を巾方向に移動させスパイラル状に周回させると、当然前記一定間隔を隔てて対峙させた一対の平行なロールの垂直方向(前記無端状構造体の実質的なMD方向)(31)に対して一定の傾斜角度θ(°)(33)を持つことになるが、湿紙搬送用ベルトの走行性を考慮した結果、θは10°以下、好ましくは5°以下の角度であることが望ましい。即ち、
θ = tan−1(2w/L) ≦ 5
ただし、wは糸列巾(m)、Lは無端状構造体全長(m)
なる条件が望ましい。
【0036】
このとき糸列を供給する際の糸列の巾方向移動速度v(m/min)は、無端状構造体全長:L(m)、糸列巾:w(m)、ロール速度:V(m/min)によって決定され以下のようになる。
v = w /(L/V)×(1/n)× CT × CW
ただし、nは自然数
CTは供給する糸列の張力によって変化する係数
CWは糸列巾によって変化する係数
このように供給することにより、1周前に供給した糸列の端部と供給しようとする糸列の端部が、糸列の地部との差がないように配列できる。
【0037】
上述のようにして得られた無端状構造体を、熱風や赤外線などの非接触式熱源、或いはヒートロールにより接触して加熱し、芯糸に巻かれた熱溶融糸を溶融させ、カバードヤーンを揃えてなる糸列を結合させることで、カバードヤーンが平行に配置された無端状構造体が得られる。
【0038】
また前記糸列に隣接してシート状不織布が配置された無端状構造体を加熱処理することで、芯糸に巻かれた熱溶融糸が溶融し、カバードヤーンを揃えてなる糸列とシート状不織布を固定させることで、カバードヤーンが平行に結合された無端状構造体が得られる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、湿紙搬送用ベルトの寸法、基材の一部を構成するシート状不織布、織物、基材層に隣接して配置するバット層、高分子弾性体は同一のものとした。詳細は次の通りである。
・湿紙搬送用ベルト寸法:全長20m×全幅2m
・シート状不織布:商品名 スパンファブ(材質:低融点共重合ナイロン、日東紡社製、PA1001、目付24g/m2)
・織物の素材:ナイロン6(330dtexのモノフィラメントを2本撚り合わせた片撚り糸を、3本束ねて更に諸撚りした撚糸を経糸とし、330dtexのモノフィラメントを3本撚り合わせた片撚り糸を緯糸とした。)
・織物の目付:300g/m2
・織物の組織:1/1平織り
・織物メッシュ:経糸30本/5cm × 緯糸40本/5cm
・バット素材:ナイロン6の短繊維(ステープルファイバー)で繊度17dtex
・湿紙側バット層:500g/m2
・ロール側バット層:200g/m2
・高分子弾性体:ウレタン樹脂を1000g/m2積層
【0040】
[実施例1]
(1)カバードヤーンの芯糸
ナイロン6のモノフィラメント(330dtex)を2本撚ってなる撚糸を2本と、750dtexのスパン糸(ナイロン6の短繊維からなる)とを撚り合わせて、合計繊度が2250dtexとした。
(2)カバードヤーン
共重合ナイロン6/12で融点が115℃、繊度が360dtexのモノフィラメント
からなる熱溶融糸を前記芯糸に対して500回/m巻きつけて、カバードヤーンを製作した。
(3)上記カバードヤーンを50本/5cmで図2〜図3で示した方法により、カバードヤーン同士を平行に結合し、熱処理を施し300g/m2の無端状構造体を作成した。
(4)上記無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付け2000g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0041】
[実施例2]
(1)実施例1と同じ無端状構造体を2枚用意する。
(2)上記無端状構造体の1枚について、MD方向の長さが、フェルト巾と一致する長さでCMD方向に切断し、切断片を製作する。
(3)他の無端状構造体のロール側に前記切断片を90°転回したもの(切断片のMD方向をCMD方向にして使用する)を該無端状構造体のMD方向に並べて配置する。
(4)(3)で作製した無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2300g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0042】
[実施例3]
(1)芯糸
ナイロン6のマルチフィラメント1500dtex(50フィラメント)と750dtexのスパン糸(ナイロン6の短繊維からなる)の混撚糸で合計繊度が2250dtexとした。
(2)カバードヤーン
実施例1と同じ熱溶融糸を上記芯糸に対し1000回/m巻きつけて、カバードヤーンを作製した。
(3)上記カバードヤーンを使用して実施例1と同じ方法で360g/m2の無端状構造体を作製した。
(4)上記無端状構造体のロール側にスパンボンド不織布(旭化成社製、エルタスNO1100)を配置してから、湿紙側バットとロール側バットとを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2360g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0043】
[実施例4]
(1)芯糸
実施例1と同じ芯糸を使用した。
(2)カバードヤーン
実施例1と同じ熱溶融糸を芯糸に対し750回/m巻きつけたカバードヤーンを作製した。
(3)上記カバードヤーンを使用して、実施例1と同じ方法で330g/m2の無端状構造体を作製した。
(4)上記無端状構造体のロール側に織物を配置してから、湿紙側バットとロール側バットとを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2330g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0044】
[実施例5]
(1)実施例1と同じカバードヤーンを50本/5cmで図2〜図3で示した方法により、カバードヤーン同士を平行に結合し、この糸列に隣接してシート状不織布を載置し、熱処理を施し320g/m2の無端状構造体を作製した。
(2)上記無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2020g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0045】
[実施例6]
(1)実施例5と同じ無端状構造体を2枚用意する。
(2)上記無端状構造体の1枚について、MD方向の長さが、フェルトの巾と一致する長さでCMD方向に切断し、切断片を製作する。
(3)他の無端状構造体のロール側に前記切断片を90°転回したもの(切断片のMD方向をCMD方向にして使用する)を該無端状構造体のMD方向に並べて配置する。
(4)(3)で製作した無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙面側にウレタン樹脂を配置し、目付2340g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0046】
[実施例7]
(1)実施例3と同じカバードヤーンを使用して、実施例5と同じ方法で380g/m2の無端状構造体を作製した。
(2)上記無端状構造体のロール側にスパンボンド不織布(旭化成社製、エルタスNO1100)を配置してから、湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2180g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0047】
[実施例8]
(1)実施例4と同じカバードヤーンを使用して、実施例5と同じ方法で350g/m2の無端状構造体を作製した。
(2)上記無端状構造体のロール側に織物を配置してから、湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2350g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0048】
[比較例1]
(1)前記織物を2枚積層した基材層に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2300g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0049】
[比較例2]
(1)経糸
ナイロン6のモノフィラメント(330dtex)を2本撚ってなる撚糸を2本と、750dtexのスパン糸(ナイロン6の短繊維からなる)とを撚り合わせて、合計繊度が2250dtexとした。
(2)上記経糸を50本/5cmで図2〜図3で示した方法により、経糸同士を平行に配置し、その外周面側に目付け75g/m2のバットを積層一体化させ、300g/m2の無端状構造体を作製した。
(3)上記無端状構造体を2枚用意する。
(4)上記無端状構造体の1枚について、MD方向の長さが、フェルト巾と一致する長さでCMD方向に切断し、切断片を製作する。
(5)他の無端状構造体のロール側に前期切断片を90°転回したもの(切断片のMD方向をCMD方向にして使用する)を該無端状構造体のMD方向に並べて配置する。
(6)(5)で作製した無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2380g/m2の湿紙搬送用ベルトを作製した。
【0050】
実施例1〜8及び比較例1〜2により製作した湿紙搬送用ベルトについて、以下の項目について評価を行った。本発明で採用した評価項目は、マーク性、基材加工性(カバードヤーンからなる無端状構造体の製作時における断裂の有無、基材の製作時間)である。その結果を表1に示す。なお、表1中の数値は比較例1を100としたときの相対比率で、基材のマーク性、基材の製作時間については数値が小さいほど良好である。
【0051】
<マーク性>
実施例1〜8及び比較例1〜2のフェルトのハンドサンプルにカーボン紙、紙、バットを重ね合わせ、ロールにてプレスした。バットは50g/m2単位で追加され、目視評価で紙に転写された基布マークが確認されないバット重量を測定し、マーク性を評価した。即ち測定されるバット重量が少ないほどマーク性は良い。試験条件は以下の通りである。
・カーボン紙:ゼネラルサプライ社製ゼネラルゾル#1300
・紙:上質紙、紙坪量64g/m2
・バット:繊度17dtexの短繊維からなるバット層
・プレス圧力:30kg/cm
表1にマーク性の結果を示した。相対比率は次式のようになる。
相対比率 = C/c×100
C:各湿紙搬送用ベルトでのバット重量
c:比較例1でのバット重量
【0052】
<カバードヤーンからなる無端状構造体の基材の加工性>
実施例1〜8及び比較例2のカバードヤーンからなる無端状構造体の製作時、バットを積層一体化させる際のマシン掛入時等、加工時における無端状構造体の断裂の有無について評価した。表1に無端状構造体の断裂の有無について結果を示した。
【0053】
<基材の製作時間>
実施例1〜8及び比較例1〜2の基材の製作時間について評価した。なお、基材の製作時間については各フェルトに用いた基材すべての合計製作時間である。表1に基材の製作時間を示した。相対比率は次式のようになる。
相対比率 = D/d×100
D:各フェルトにおける基材層製作時間合計
d:比較例1における基材層製作時間合計
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、実施例1〜8は基材層にカバードヤーンの経糸からなる無端状構造体を配置したことにより、経緯糸の交絡点が無いためプレス部での圧力分布が均一となりマーク性が良化した。また、無端状構造体の加工性については、製作時及びバットを一体化させる際のマシン掛入時等に、断裂することもなく、また短時間で無端状構造体を製作することができ、大幅に工数を削減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、熱溶融糸が巻きつけられた経糸からなる無端状構造体の糸列の結合力が強く加工性に優れ、低コストで、湿紙表面性にすぐれた無製織の基材を備えた湿紙搬送用ベルトを得ることができる。また前記基材は抄紙機で使用される他の抄紙用具にも応用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る抄紙用具の無端状構造体に用いられるカバードヤーン。
【図2】本発明に係る抄紙用具の無端状構造体の製作初期における状態。
【図3】本発明に係る抄紙用具の無端状構造体の製作中の状態。
【図4】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第一の形態。
【図5】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第二の形態。
【図6】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第三の形態。
【図7】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第四の形態。
【図8】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第五の形態。
【図9】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第六の形態。
【図10】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第七の形態。
【図11】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第八の形態。
【図12】典型的なクローズドドロー抄紙機の概要図。
【0058】
11 芯糸
12 熱溶融糸
13 カバードヤーン
21 筬
22 糸列
23 ロール
24 糸列ガイド用無端状ベルト
25 糸列固定部
26 カバードヤーン
40、50、60、70、80、90、100、110 湿紙搬送用ベルト
41、51、61、71、81、91、101、111 基材層
42、52、62、72、82、92、102、112 無端状構造体
43、54、64、74、84、95、105、115 湿紙側バット層
44、55、65、75、85、96、106、116 ロール側バット層
53、93 緯糸のみからなる無端状構造体
63、103 不織布
73、113 織物
83、94、104、114 シート状不織布
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパートで使用される抄紙用具に関し、特にその基材に関するものである。
【0002】
従来、抄紙機でオープンドローにて湿紙の受け渡しを行うタイプ(受け渡し部に湿紙の支持体を備えないもの)は、その受け渡し部分で紙切れが発生し易く高速化の弊害になっていた。このため、近年は抄紙機の高速化や作業の安定化のためにクローズドドローにて湿紙の受け渡しを行うタイプ(受け渡し部に湿紙の支持体を備えるもの)が主流になってきた。
【0003】
典型的なクローズドドロー抄紙機を、図12に基づき説明する。
同図において、破線で示される湿紙WWは、プレスフェルトPF1、PF2、湿紙搬送用ベルトTB、ドライヤファブリックDFに支持され、右から左に向かって搬送される。これらのプレスフェルトPF1、PF2、湿紙搬送用ベルトTB、ドライヤファブリックDFは、周知のように無端状に構成された帯状体であり、ガイドローラGRで支持されている。シューPSは、プレスロールPRに対応した凹状となっている。このシューPSは、シュープレスベルトSBを介して、プレスロールPRとともにプレス部PPを構成している。
【0004】
湿紙WWは、図示しないワイヤーパート、第一プレスパートを順次通過し、プレスフェルトPF1からプレスフェルトPF2へ受け渡される。そして、プレスフェルトPF2により、プレス部PPに搬送される。プレス部PPにおいて、湿紙WWは、プレスフェルトPF2と湿紙搬送用ベルトTBとにより挟持された状態で、シュープレスベルトSBを介したシューPSと、プレスロールPRとにより加圧される。
【0005】
プレスフェルトPF2は透水性が高く、湿紙搬送用ベルトTBは透水性が非常に低く構成されている。よって、プレス部PPにおいて、湿紙WWからの水分は、プレスフェルトPF2に移行する。プレス部PPを脱した直後においては、急激に圧力から開放されるため、プレスフェルトPF2、湿紙WW、湿紙搬送用ベルトTBの体積が膨張する。この膨張と、湿紙WW構成するパルプ繊維の毛細管現象とにより、プレスフェルトPF2内の一部の水分が、湿紙WWと移行してしまう、いわゆる、再湿現象が生じるが、湿紙搬送用ベルトTBは透水性が非常に低く構成されているので、その内部に水分を保持することはない。よって、湿紙搬送用ベルトTBから再湿現象はほとんど発生せず、湿紙搬送用ベルトTBは湿紙の搾水効率向上に寄与する。なお、プレス部PPを脱した湿紙WWは、湿紙搬送用ベルトTBにより搬送される。そして、湿紙WWは、サクションロールSRにより吸着され、ドライヤファブリックDFによりドライヤ工程へと搬送される。
【0006】
ここで湿紙搬送用ベルトは通常、基材と湿紙側に配置されたバット層、ロール側に配置されたバット層がニードリングにより一体化され、更に湿紙側表面に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂といった高分子弾性体が配置されたものである。この基材には通常、織機により製織された織物が使用されていた。この製織された織物を用いた湿紙搬送用ベルトは、織物の経糸と緯糸とが相互に交絡したしっかりした組織を有しているので、ニードリングの際に糸の配置が針の貫通によって乱されたり、糸同士が互いに不規則に重なったり離れたりすることがなく、また、フェルトの走行中の寸法安定性にも優れたものであったが、製織に要する手間や時間がかかりすぎて製作コストが高くつくという大きな問題があった。また、織物の経糸と緯糸とが交絡しているがゆえに交絡点に起因する紙へのマークといった問題があった。
【0007】
そこで上記問題を解決するために無製織の基材を用いた抄紙用具が提案されており、これらの技術は湿紙搬送用ベルトの基材にも応用できることはいうまでもない。無製織の基材を用いた抄紙用具の利点として、織機設備が不要、製織不要により製品の低コスト化が図られ、また経緯糸の交絡点がないため、紙へのマーク性が向上するといった品質向上が図られる。
【0008】
上記無製織の基材を用いた抄紙用具の従来技術として、特許文献1においては、ニードルマシン内に独立した経糸供給装置を設け、経糸のみからなるエンドレス状の基材層を形成した後に、各種繊維からなるバット層を載せニードリングすることでバットを基材層に固定させ、基材層が経糸のみからなる無製織抄紙用フェルトを得ている。
【0009】
また特許文献2においては、一定間隔を隔てて対峙させた一対の平行なロールに糸群をスパイラル状に周回させつつ、溶融状態にあるホットメルト系樹脂を散布して、糸群を固定することにより、経糸のみからなる無製織の基材層を得ている。
【0010】
更にまた、特許文献3においては、平行に配置された複数の糸により規定された糸列を繊維バット材料層にて固定して得られる基材層を、複数層積層して一体化して無製織抄紙用フェルトを得ている。
【0011】
しかしながら特許文献1の技術に関しては、機械装置が複雑化し大規模なものとなり、設置が非常に難しく、かつ設備費用が非常に高価なものになる。ゆえにそれによる製造物は比較的高価なものとなってしまい、商業的観点において総合的に満足できるものではなかった。
【0012】
また、特許文献2の技術に関しては、ホットメルト系樹脂の接着斑、散布斑に起因する湿紙平滑性の低下といった問題があった。また、抄紙機において使用中にホットメルト系樹脂が脱落し、抄紙機械内のロールやグルーブドロールの溝に付着し、湿紙にマークを付けたり、湿紙に樹脂が混入してしまうといった問題があった。
【0013】
更にまた、特許文献3の技術に関しては、各基材層の糸列がバット材料層にのみ固定されているため、糸列の結合力が弱く、基材層の製造中に糸列が裂けてしまうといった加工面での問題が生じる可能性がある。
【0014】
【特許文献1】特開昭50−135307号公報
【特許文献2】特開平11−124787号公報
【特許文献3】特開平03−501374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、無製織の基材を用いた抄紙用具、特に湿紙搬送用ベルトにおいて、設備や製造に関するコストが安価で、基材の糸列の結合力が強く加工性に優れ、湿紙表面平滑性に優れた湿紙搬送用ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、抄紙用具の基材として、熱溶融糸が巻きつけられた糸(以下カバードヤーンという)を揃えてなる糸列をスパイラル状に周回させ、該糸列を加熱処理することで固定してなる無端状構造体を少なくとも一層用い、該基材の隣接する面にバット層を積層一体化せしめた抄紙用具によって前記課題が達成される。
【0017】
また本発明では前記基材として、前記無端状構造体に隣接してシート状不織布を配置してもよい。
【0018】
更に本発明では前記基材として、前記無端状構造体に隣接して織物を配置してもよい。
【0019】
更にまた本発明では前記抄紙用具が、前記抄紙用具の湿紙面側表面に更に高分子弾性体が配置された湿紙搬送用ベルトでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、無端状構造体の糸列の結合力が強く加工性に優れ、低コストで、湿紙に基材層のマークが付くことのない表面性の優れた無端状構造体を備えた抄紙用具、特に湿紙搬送用ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の抄紙用具の一例として湿紙搬送用ベルトについて詳細に説明する。
図4は本発明における湿紙搬送用ベルトの第一の形態で、CMD方向の断面図である。
なお、機械方向(MD)とは、抄紙機内において湿紙搬送用ベルトが走行する方向であり、機械横断方向(CMD)とは、湿紙搬送用ベルトが走行する方向を横切る方向である。
図に示すように、湿紙搬送ベルト(40)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体(42)が基材層(41)となっており、該基材層(41)に湿紙側バット層(43)とロール側バット層(44)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(45)が配置された様子を示している。なお図では好ましい例示としてバット層を基材層(41)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0022】
図5は本発明における湿紙搬送用ベルトの第二の形態で、CMD方向の断面図である。
図5に示すように、湿紙搬送用ベルト(50)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体(52)に隣接して、緯糸のみからなる無端状構造体(53)が配置された基材層(51)に、湿紙側バット層(54)とロール側バット層(55)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(56)が配置された様子を示している。なお、図5では好ましい例示としてバット層を基材層(51)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0023】
図6は本発明における湿紙搬送用ベルトの第三の形態で、CMD方向の断面図である。
図6に示すように、湿紙搬送用ベルト(60)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体(62)に隣接して、不織布(63)が配置された基材層(61)に湿紙側バット層(64)とロール側バット層(65)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(66)が配置された様子を示している。なお、図6では好ましい例示としてバット層を基材層(61)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0024】
図7は本発明における湿紙搬送用ベルトの第四の形態で、CMD方向の断面図である。
図7に示すように、湿紙搬送用ベルト(70)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体(72)に隣接して、織物(73)が配置された基材層(71)に湿紙側バット層(74)とロール側バット層(75)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(76)が配置された様子を示している。なお、織物(73)は製織に要する手間がかからない簡易な織物、例えば1/1平織組織、2/1組織、3/1組織などのものが好ましくは使用できる。当該織物は湿紙搬送用ベルトのCMD方向の巾と同じ巾の製織布でも良いし、或いはこれより狭い巾で製織しておき、それを多列に並べて湿紙搬送用ベルトのCMD方向の巾と同じ巾に構成しても良い。なお、図7では好ましい例示としてバット層を基材層(71)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0025】
図8は本発明における湿紙搬送用ベルトの第五の形態で、CMD方向の断面図である。
図8に示すように、湿紙搬送用ベルト(80)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列(82)とシート状不織布(83)が配置された無端状構造体が基材層となっており、該基材層(81)に湿紙側バット層(84)とロール側バット層(85)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(86)が配置された様子を示している。なお、図8では好ましい例示としてバット層を基材層(81)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0026】
図9は本発明における湿紙搬送用ベルトの第六の形態で、CMD方向の断面図である。
図9に示すように、湿紙搬送用ベルト(90)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列(92)とシート状不織布(94)が配置された無端状構造体に隣接して、緯糸のみからなる無端状構造体(93)が配置された基材層(91)に湿紙側バット層(95)とロール側バット層(96)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(97)が配置された様子を示している。なお、図9では好ましい例示としてバット層を基材層(91)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0027】
図10は本発明における湿紙搬送用ベルトの第七の形態で、CMD方向の断面図である。
図10に示すように、湿紙搬送用ベルト(100)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列(102)とシート状不織布(104)が配置された無端状構造体に隣接して、不織布(103)が配置された基材層(101)に湿紙側バット層(105)とロール側バット層(106)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(107)が配置された様子を示している。なお、図10では好ましい例示としてバット層を基材層(101)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
【0028】
図11は本発明における湿紙搬送用ベルトの第八の形態で、CMD方向の断面図である。
図11に示すように、湿紙搬送用ベルト(110)は、カバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列(112)とシート状不織布(114)が配置された無端状構造体に隣接して、織物(113)が配置された基材層(111)に湿紙側バット層(115)とロール側バット層(116)を積層一体化させ、その湿紙面側表面に高分子弾性体(117)が配置された様子を示している。なお、織物(113)は製織に要する手間がかからない簡易な織物、例えば1/1平織組織、2/1組織、3/1組織などのものが好適に使用できる。当該織物は湿紙搬送用ベルトのCMD方向の巾と同じ巾の製織布でもよいし、或いはこれより狭い巾で製織しておき、それを多列に並べて湿紙搬送用ベルトのCMD方向の巾と同じ巾に構成してもよい。なお、図11では好ましい例示としてバット層を基材層(111)の両面に配置しているが、少なくともロール側面に配置していればよい。
なお、図4〜図11ではカバードヤーン(13)を揃えてなる平行に結合された糸列と、該糸列に隣接して配置または接合された無端状構造体の位置関係については、図においては該糸列が湿紙側バット層の側に位置しているが、本発明ではその逆の構造、即ち該糸列がロール側バット層の側に位置していても良い。
【0029】
本発明の基材を構成する糸状及びバット層に用いられる繊維素材としては、抄紙機の湿紙搬送用ベルトに用いられている汎用の素材を用いることができ、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンなどの合成繊維素材や、羊毛、麻、綿などの天然素材などから適宜選択される。カバードヤーンの芯糸は、融点の高いナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、やポリエステル(PET)、PPS、PEEK、PEK、芳香族ポリアミドなどが使用できる。芯糸の形態としては、モノフィラメント単糸やモノフィラメント撚糸、又はマルチフィラメントなどが使用できる。本発明のカバードヤーンに好適に用いることができる芯糸としては、混撚糸(モノフィラメント糸、ツイストモノフィラメント糸、マルチフィラメント糸のいずれかとスパン糸との混撚糸)を用いる。即ち該カバードヤーンを平行に揃えて結合した際に、スパン糸の毛羽立ちが互いに絡み合うことでカバードヤーンの糸列の結合力をより高めることができる。
【0030】
熱溶融糸としては、前記芯糸よりも融点の低い糸材、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステル、共重合ナイロンなどが使用できる。好適にはナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/6、ナイロン66/12、ナイロン66/610等の二元共重合ナイロン、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610等の三元共重合ナイロンを糸材としたフィラメント糸又はスパン糸を用いることができる。なお、これらの共重合ナイロンは組成(共重合成分の重量%)により融点が変動することは良く知られているが、本発明で使用できる共重合ナイロンは、その融点が180℃以下、好ましくは130℃以下のものが使用できる。
【0031】
シート状不織布としては、スパンボンド、メルトブロー、又はスパンレース等の方法によって作られたシート状繊維集合体を使用でき、シート状不織布に用いられる素材は、好適には前記熱溶融糸と同様な低融点共重合ナイロンが使用できる。
【0032】
高分子弾性体としては、ウレタン、エポキシ等の熱硬化性樹脂、又はポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、アクリル等の熱可塑性樹脂を適宜使用することができる。
【0033】
図1は本発明の無端状構造体を構成するカバードヤーン(13)を示している。
図1において、本発明の無端状構造体を構成するカバードヤーン(13)は、芯糸(11)と熱溶融糸(12)の繊度の比が4:1〜10:1、好ましくは5:1〜8:1の範囲で、芯糸に対して熱溶融糸を100回/m〜2000回/m、好ましくは500回/m〜1000回/mの範囲で、等間隔に巻きつけられてなるカバードヤーン(13)である。なお、図1では芯糸(11)に対して熱溶融糸(12)をZ方向にまきつけられているが、芯糸(11)に対して熱溶融糸(12)をS方向に巻きつけてなるカバードヤーン(13)であってもよい。そして本発明では、図2のように筬(21)を通してカバードヤーン(13)を複数引き揃えて糸列(22)とし、該糸列の端部を一定間隔に隔てて対峙させた一対の平行なロール(23)に配置している糸列ガイド用の無端状ベルト(24)の上に固定する。
【0034】
次に図3のように、前記ロールを矢印方向(A)に回転させると、無端状ベルトに端部を固定した糸列(22)は引き込まれるため、糸列(22)を少しずつ巾方向、即ち矢印方向(B)に移動させながら供給し、糸列(22)がスパイラル状になるように周回させる。前記糸列(22)がフェルトの所定の巾となったら糸列(22)の供給を停止し、次に熱風又は赤外線などの熱源により熱処理を施し、熱溶融糸を溶融させ糸列を固定し、カバードヤーンを揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体が得られる。また、前記糸列に隣接してシート状不織布を配置し、熱風又は赤外線などの熱源により熱処理を施し、糸列とシート状不織布を固定し、カバードヤーンを揃えてなる糸列が平行に結合された無端状構造体を得ることもできる。
【0035】
また図3に示すように、前記糸列を巾方向に移動させスパイラル状に周回させると、当然前記一定間隔を隔てて対峙させた一対の平行なロールの垂直方向(前記無端状構造体の実質的なMD方向)(31)に対して一定の傾斜角度θ(°)(33)を持つことになるが、湿紙搬送用ベルトの走行性を考慮した結果、θは10°以下、好ましくは5°以下の角度であることが望ましい。即ち、
θ = tan−1(2w/L) ≦ 5
ただし、wは糸列巾(m)、Lは無端状構造体全長(m)
なる条件が望ましい。
【0036】
このとき糸列を供給する際の糸列の巾方向移動速度v(m/min)は、無端状構造体全長:L(m)、糸列巾:w(m)、ロール速度:V(m/min)によって決定され以下のようになる。
v = w /(L/V)×(1/n)× CT × CW
ただし、nは自然数
CTは供給する糸列の張力によって変化する係数
CWは糸列巾によって変化する係数
このように供給することにより、1周前に供給した糸列の端部と供給しようとする糸列の端部が、糸列の地部との差がないように配列できる。
【0037】
上述のようにして得られた無端状構造体を、熱風や赤外線などの非接触式熱源、或いはヒートロールにより接触して加熱し、芯糸に巻かれた熱溶融糸を溶融させ、カバードヤーンを揃えてなる糸列を結合させることで、カバードヤーンが平行に配置された無端状構造体が得られる。
【0038】
また前記糸列に隣接してシート状不織布が配置された無端状構造体を加熱処理することで、芯糸に巻かれた熱溶融糸が溶融し、カバードヤーンを揃えてなる糸列とシート状不織布を固定させることで、カバードヤーンが平行に結合された無端状構造体が得られる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、湿紙搬送用ベルトの寸法、基材の一部を構成するシート状不織布、織物、基材層に隣接して配置するバット層、高分子弾性体は同一のものとした。詳細は次の通りである。
・湿紙搬送用ベルト寸法:全長20m×全幅2m
・シート状不織布:商品名 スパンファブ(材質:低融点共重合ナイロン、日東紡社製、PA1001、目付24g/m2)
・織物の素材:ナイロン6(330dtexのモノフィラメントを2本撚り合わせた片撚り糸を、3本束ねて更に諸撚りした撚糸を経糸とし、330dtexのモノフィラメントを3本撚り合わせた片撚り糸を緯糸とした。)
・織物の目付:300g/m2
・織物の組織:1/1平織り
・織物メッシュ:経糸30本/5cm × 緯糸40本/5cm
・バット素材:ナイロン6の短繊維(ステープルファイバー)で繊度17dtex
・湿紙側バット層:500g/m2
・ロール側バット層:200g/m2
・高分子弾性体:ウレタン樹脂を1000g/m2積層
【0040】
[実施例1]
(1)カバードヤーンの芯糸
ナイロン6のモノフィラメント(330dtex)を2本撚ってなる撚糸を2本と、750dtexのスパン糸(ナイロン6の短繊維からなる)とを撚り合わせて、合計繊度が2250dtexとした。
(2)カバードヤーン
共重合ナイロン6/12で融点が115℃、繊度が360dtexのモノフィラメント
からなる熱溶融糸を前記芯糸に対して500回/m巻きつけて、カバードヤーンを製作した。
(3)上記カバードヤーンを50本/5cmで図2〜図3で示した方法により、カバードヤーン同士を平行に結合し、熱処理を施し300g/m2の無端状構造体を作成した。
(4)上記無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付け2000g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0041】
[実施例2]
(1)実施例1と同じ無端状構造体を2枚用意する。
(2)上記無端状構造体の1枚について、MD方向の長さが、フェルト巾と一致する長さでCMD方向に切断し、切断片を製作する。
(3)他の無端状構造体のロール側に前記切断片を90°転回したもの(切断片のMD方向をCMD方向にして使用する)を該無端状構造体のMD方向に並べて配置する。
(4)(3)で作製した無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2300g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0042】
[実施例3]
(1)芯糸
ナイロン6のマルチフィラメント1500dtex(50フィラメント)と750dtexのスパン糸(ナイロン6の短繊維からなる)の混撚糸で合計繊度が2250dtexとした。
(2)カバードヤーン
実施例1と同じ熱溶融糸を上記芯糸に対し1000回/m巻きつけて、カバードヤーンを作製した。
(3)上記カバードヤーンを使用して実施例1と同じ方法で360g/m2の無端状構造体を作製した。
(4)上記無端状構造体のロール側にスパンボンド不織布(旭化成社製、エルタスNO1100)を配置してから、湿紙側バットとロール側バットとを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2360g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0043】
[実施例4]
(1)芯糸
実施例1と同じ芯糸を使用した。
(2)カバードヤーン
実施例1と同じ熱溶融糸を芯糸に対し750回/m巻きつけたカバードヤーンを作製した。
(3)上記カバードヤーンを使用して、実施例1と同じ方法で330g/m2の無端状構造体を作製した。
(4)上記無端状構造体のロール側に織物を配置してから、湿紙側バットとロール側バットとを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2330g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0044】
[実施例5]
(1)実施例1と同じカバードヤーンを50本/5cmで図2〜図3で示した方法により、カバードヤーン同士を平行に結合し、この糸列に隣接してシート状不織布を載置し、熱処理を施し320g/m2の無端状構造体を作製した。
(2)上記無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2020g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0045】
[実施例6]
(1)実施例5と同じ無端状構造体を2枚用意する。
(2)上記無端状構造体の1枚について、MD方向の長さが、フェルトの巾と一致する長さでCMD方向に切断し、切断片を製作する。
(3)他の無端状構造体のロール側に前記切断片を90°転回したもの(切断片のMD方向をCMD方向にして使用する)を該無端状構造体のMD方向に並べて配置する。
(4)(3)で製作した無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙面側にウレタン樹脂を配置し、目付2340g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0046】
[実施例7]
(1)実施例3と同じカバードヤーンを使用して、実施例5と同じ方法で380g/m2の無端状構造体を作製した。
(2)上記無端状構造体のロール側にスパンボンド不織布(旭化成社製、エルタスNO1100)を配置してから、湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2180g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0047】
[実施例8]
(1)実施例4と同じカバードヤーンを使用して、実施例5と同じ方法で350g/m2の無端状構造体を作製した。
(2)上記無端状構造体のロール側に織物を配置してから、湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2350g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0048】
[比較例1]
(1)前記織物を2枚積層した基材層に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2300g/m2の湿紙搬送用ベルトを製作した。
【0049】
[比較例2]
(1)経糸
ナイロン6のモノフィラメント(330dtex)を2本撚ってなる撚糸を2本と、750dtexのスパン糸(ナイロン6の短繊維からなる)とを撚り合わせて、合計繊度が2250dtexとした。
(2)上記経糸を50本/5cmで図2〜図3で示した方法により、経糸同士を平行に配置し、その外周面側に目付け75g/m2のバットを積層一体化させ、300g/m2の無端状構造体を作製した。
(3)上記無端状構造体を2枚用意する。
(4)上記無端状構造体の1枚について、MD方向の長さが、フェルト巾と一致する長さでCMD方向に切断し、切断片を製作する。
(5)他の無端状構造体のロール側に前期切断片を90°転回したもの(切断片のMD方向をCMD方向にして使用する)を該無端状構造体のMD方向に並べて配置する。
(6)(5)で作製した無端状構造体に湿紙側バットとロール側バットを積層一体化させ、その湿紙側面にウレタン樹脂を配置し、目付2380g/m2の湿紙搬送用ベルトを作製した。
【0050】
実施例1〜8及び比較例1〜2により製作した湿紙搬送用ベルトについて、以下の項目について評価を行った。本発明で採用した評価項目は、マーク性、基材加工性(カバードヤーンからなる無端状構造体の製作時における断裂の有無、基材の製作時間)である。その結果を表1に示す。なお、表1中の数値は比較例1を100としたときの相対比率で、基材のマーク性、基材の製作時間については数値が小さいほど良好である。
【0051】
<マーク性>
実施例1〜8及び比較例1〜2のフェルトのハンドサンプルにカーボン紙、紙、バットを重ね合わせ、ロールにてプレスした。バットは50g/m2単位で追加され、目視評価で紙に転写された基布マークが確認されないバット重量を測定し、マーク性を評価した。即ち測定されるバット重量が少ないほどマーク性は良い。試験条件は以下の通りである。
・カーボン紙:ゼネラルサプライ社製ゼネラルゾル#1300
・紙:上質紙、紙坪量64g/m2
・バット:繊度17dtexの短繊維からなるバット層
・プレス圧力:30kg/cm
表1にマーク性の結果を示した。相対比率は次式のようになる。
相対比率 = C/c×100
C:各湿紙搬送用ベルトでのバット重量
c:比較例1でのバット重量
【0052】
<カバードヤーンからなる無端状構造体の基材の加工性>
実施例1〜8及び比較例2のカバードヤーンからなる無端状構造体の製作時、バットを積層一体化させる際のマシン掛入時等、加工時における無端状構造体の断裂の有無について評価した。表1に無端状構造体の断裂の有無について結果を示した。
【0053】
<基材の製作時間>
実施例1〜8及び比較例1〜2の基材の製作時間について評価した。なお、基材の製作時間については各フェルトに用いた基材すべての合計製作時間である。表1に基材の製作時間を示した。相対比率は次式のようになる。
相対比率 = D/d×100
D:各フェルトにおける基材層製作時間合計
d:比較例1における基材層製作時間合計
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、実施例1〜8は基材層にカバードヤーンの経糸からなる無端状構造体を配置したことにより、経緯糸の交絡点が無いためプレス部での圧力分布が均一となりマーク性が良化した。また、無端状構造体の加工性については、製作時及びバットを一体化させる際のマシン掛入時等に、断裂することもなく、また短時間で無端状構造体を製作することができ、大幅に工数を削減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、熱溶融糸が巻きつけられた経糸からなる無端状構造体の糸列の結合力が強く加工性に優れ、低コストで、湿紙表面性にすぐれた無製織の基材を備えた湿紙搬送用ベルトを得ることができる。また前記基材は抄紙機で使用される他の抄紙用具にも応用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る抄紙用具の無端状構造体に用いられるカバードヤーン。
【図2】本発明に係る抄紙用具の無端状構造体の製作初期における状態。
【図3】本発明に係る抄紙用具の無端状構造体の製作中の状態。
【図4】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第一の形態。
【図5】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第二の形態。
【図6】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第三の形態。
【図7】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第四の形態。
【図8】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第五の形態。
【図9】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第六の形態。
【図10】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第七の形態。
【図11】本発明に係る湿紙搬送用ベルトの第八の形態。
【図12】典型的なクローズドドロー抄紙機の概要図。
【0058】
11 芯糸
12 熱溶融糸
13 カバードヤーン
21 筬
22 糸列
23 ロール
24 糸列ガイド用無端状ベルト
25 糸列固定部
26 カバードヤーン
40、50、60、70、80、90、100、110 湿紙搬送用ベルト
41、51、61、71、81、91、101、111 基材層
42、52、62、72、82、92、102、112 無端状構造体
43、54、64、74、84、95、105、115 湿紙側バット層
44、55、65、75、85、96、106、116 ロール側バット層
53、93 緯糸のみからなる無端状構造体
63、103 不織布
73、113 織物
83、94、104、114 シート状不織布
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙機のプレスパートで使用される抄紙用具の基材として、熱溶融糸が巻きつけられたカバードヤーンを揃えてなる糸列をスパイラル状に周回させ、該糸列を加熱処理することで固定してなる無端状構造体を少なくとも1層用い、該基材の隣接する面にバット層を積層一体化せしめたことを特徴とする抄紙用具。
【請求項2】
前記基材として、前記無端状構造体に隣接してシート状不織布を配置したことを特徴とする請求項1に記載の抄紙用具。
【請求項3】
前記基材として、前記無端状構造体に隣接して織物を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の抄紙用具。
【請求項4】
前記抄紙用具が、前記抄紙用具の湿紙面側表面に更に高分子弾性体が配置された湿紙搬送用ベルトである請求項1から請求項3に記載の抄紙用具。
【請求項1】
抄紙機のプレスパートで使用される抄紙用具の基材として、熱溶融糸が巻きつけられたカバードヤーンを揃えてなる糸列をスパイラル状に周回させ、該糸列を加熱処理することで固定してなる無端状構造体を少なくとも1層用い、該基材の隣接する面にバット層を積層一体化せしめたことを特徴とする抄紙用具。
【請求項2】
前記基材として、前記無端状構造体に隣接してシート状不織布を配置したことを特徴とする請求項1に記載の抄紙用具。
【請求項3】
前記基材として、前記無端状構造体に隣接して織物を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の抄紙用具。
【請求項4】
前記抄紙用具が、前記抄紙用具の湿紙面側表面に更に高分子弾性体が配置された湿紙搬送用ベルトである請求項1から請求項3に記載の抄紙用具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−18911(P2010−18911A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180908(P2008−180908)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
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