説明

把持用手動工具

【課題】厚さが異なる平板状の対象物を挟持する際に挟持部間の幅を調節する必要がなく、楔状などの非平板状の対象物でも安定して把持することができる把持用手動工具を提供する。
【解決手段】一対の挟持体21,22の中間部が枢支軸3により軸支され、一対の挟持体21,22は、後部に把手21Aと22Aとがそれぞれ形成され、先端部には対象物を挟持可能な第1の挟持部21Bと第2の挟持部23Aとがそれぞれ形成されたプライヤー型の把持用手動工具1であって、一方の挟持体21の先端部には、第1の挟持部21Bが形成されており、他方の挟持体22の先端部には、挟持部材23が、回転軸4により軸支されて、回動可能な第2の挟持部23Aが形成された構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライヤー型の把持用手動工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、一対の挟持体の中間部が枢支軸により軸支され、これら一対の挟持体は、後部に把手が形成され、先端部には把手に連動して回動し、対象物を挟持可能な挟持部が形成されたプライヤー型の把持用手動工具が、様々な用途に利用されている。
【0003】
こうしたプライヤー型の把持用手動工具では、把持する対象物によって、挟持部間の幅を変化させる必要が有る。
【0004】
例えば、厚さの異なる平板状の対象物を把持する場合は、それぞれの対象物の厚さに合わせた把持用手動工具を用いなければならなかった。
【0005】
こうしたことから、把持する対象物の厚さに合わせて、挟持部間の幅を調節可能な把持用手動工具も提案され、実施されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51−12500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、こうした特許文献1のような従来の把持用手動工具では、幅の異なる対象物に用いる毎に、挟持部間の幅の調節が必要であり、その分、手間がかかり面倒である。
【0008】
また、例えば、彫金で用いられる材料などが把持する対象物であると、その形状は、平板状に限らず、楔状などの非平板状の場合もあり、こうした対象物を従来の把持用手動工具で把持すると、面で挟持するのではなく、点で挟持することとなってしまう。
【0009】
このため、この挟持された対象物の点の部分に想像以上に大きな応力が働き、把持した対象物を傷つけてしまったり、場合によっては破損させてしまうことすらあった。
【0010】
そこで、本発明は、厚さが異なる平板状の対象物を把持する際に挟持部間の幅を調節する必要がなく、楔状などの非平板状の対象物でも安定して把持することができる把持用手動工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の把持用手動工具は、一対の挟持体の中間部が枢支軸により軸支され、これら一対の挟持体は、後部に把手が形成され、先端部には把手に連動して回動し、対象物を挟持可能な挟持部が形成されたプライヤー型の把持用手動工具であって、前記一対の挟持体のうち、一方の挟持体の先端部には、この一方の挟持体と相対的に不動の第1の挟持部が形成されており、他方の挟持体の先端部には、前記一方の挟持体の前記第1の挟持部と対向するように、挟持部材が、前記枢支軸と略同一の軸方向の軸を中心として回動可能に設けられて、第2の挟持部が形成されており、前記第1の挟持部と前記第2の挟持部との間に対象物を挟持可能とされていることを特徴とする。
【0012】
ここで、前記挟持部材が、他方の挟持体の先端部に、前記枢支軸と略同一の軸方向の回転軸により軸支されて、回動可能な前記第2の挟持部が形成されているとよい。
【0013】
また、前記第1の挟持部及び前記第2の挟持部の対象物を挟持する側の面は、略平面に加工されているとよい。
【0014】
さらに、前記挟持部材は、その中心部よりも先端部寄りが、前記他方の挟持体の先端部に、前記回転軸により軸支されて、前記第2の挟持部が形成されているとよい。
【0015】
また、前記挟持部材は、前記他方の挟持体の先端部に、回動すると所要の摩擦力が働く状態で、前記回転軸により軸支されて、前記第2の挟持部が形成されているとよい。
【0016】
さらに、前記第1の挟持部及び前記第2の挟持部の少なくとも一方に、滑り止めの材料が用いられていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
このような本発明の把持用手動工具は、一対の挟持体の中間部が枢支軸により軸支され、これら一対の挟持体は、後部に把手が形成され、先端部には把手に連動して回動し、対象物を挟持可能な挟持部が形成されたプライヤー型の把持用手動工具である。
【0018】
そして、一対の挟持体のうち、一方の挟持体の先端部には、この一方の挟持体と相対的に不動の第1の挟持部が形成されており、他方の挟持体の先端部には、一方の挟持体の第1の挟持部と対向するように、挟持部材が、枢支軸と略同一の軸方向の軸を中心として回動可能に設けられて、第2の挟持部が形成されている。
【0019】
そのうえで、第1の挟持部と第2の挟持部との間に対象物を挟持可能とされた構成とされている。
【0020】
こうした構成なので、一対の挟持体の後部に形成された把手を手で握り、第1の挟持部と第2の挟持部とで対象物を挟み付ければ、第2の挟持部がその対象物の面全体に接触するように回動するため、厚さが異なる平板状の対象物を挟持する際に挟持部間の幅を調節する必要がなく、楔状などの非平板状の対象物でも安定して把持することができる。
【0021】
ここで、挟持部材が、他方の挟持体の先端部に、枢支軸と略同一の軸方向の回転軸により軸支されて、回動可能な第2の挟持部が形成されている場合は、第2の挟持部を複雑な構成にしないで済み、簡易且つ安価な構造で実施することができる。
【0022】
また、第1の挟持部及び第2の挟持部の対象物を挟持する側の面は、略平面に加工されている場合は、平板状の対象物や楔状などの非平板状の対象物の両面を全体的に挟持できるため、これらの対象物をより安定して把持することができる。
【0023】
さらに、挟持部材は、その中心部よりも先端部寄りが、他方の挟持体の先端部に、回転軸により軸支されて、第2の挟持部が形成されている場合は、対象物が彫金で用いられる材料などの比較的小さなときも、第2の挟持部の力点が対象物上にくるため、安定して把持することができる。
【0024】
また、挟持部材は、他方の挟持体の先端部に、回動すると所要の摩擦力が働く状態で、回転軸により軸支されて、第2の挟持部が形成されている場合は、挟持部材が他方の挟持体の先端部でぶらついた状態とならないため、使い勝手がよい。
【0025】
さらに、第1の挟持部及び第2の挟持部の少なくとも一方に、滑り止めの材料が用いられている場合は、一対の挟持体の後部に形成された把手を手でさほど強く握らなくとも、対象物を安定して把持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1の把持用手動工具の概略構成を示す正面図である。
【図2】図1の把持用手動工具の右側面図である。
【図3】図1におけるA−A線矢視端面図である。
【図4】図2におけるB−B線矢視拡大断面図である。
【図5】(a)は、実施例1の把持用手動工具で、厚めの平板状の対象物を把持した状態を示す説明図であり、(b)は、実施例1の把持用手動工具で、薄めの平板状の対象物を把持した状態を示す説明図であり、(c)は、実施例1の把持用手動工具で、楔状の対象物を把持した状態を示す説明図である。
【図6】実施例2の把持用手動工具の概略構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に示す実施例1,2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0028】
実施例1の把持用手動工具1は、図1及び図2に示したように、一対の挟持体21,22と、挟持部材23とから主に構成されている。
【0029】
ここで、一対の挟持体21,22の中間部がリベット加工による枢支軸3により軸支されている。
【0030】
また、一方の挟持体21は、その後部に把手21Aが形成され、その先端部には把手21Aに連動して回動する第1の挟持部21Bが形成されている。
【0031】
すなわち、この一方の挟持体21は、第1の挟持部21Bが一体に形成され、相対的に不動である通常のプライヤー型の把持用手動工具と略同様の構成とされている。
【0032】
さらに、他方の挟持体22は、その後部に把手22Aが形成され、その先端部には把手22Aに連動して回動する基部22Bに、一方の挟持体21の第1の挟持部21Bと対向するように、挟持部材23が、枢支軸3と略同一の軸方向のリベット加工による回転軸4により軸支されて、回動可能な第2の挟持部23Aが形成されている。
【0033】
ここで、挟持部材23は、図3及び図4に示したように、他方の挟持体22の基部22Bの先端の円弧状の部分が、挟持部材23の上部に形成された円弧状の溝に嵌め込まれて、回動可能とされている。
【0034】
すなわち、把持用手動工具1は、第1の挟持部21Bと第2の挟持部23Aとの間に対象物を挟持可能とされたプライヤー型の把持用手動工具である。
【0035】
ここで、第1の挟持部21B及び第2の挟持部23Aの対象物を挟持する側の面は、図1及び図2に示したように、略平面に加工されている。
【0036】
また、挟持部材23は、図1に示したように、その中心部よりも先端部寄りが、他方の挟持体22の先端部に、回転軸4により軸支されて、第2の挟持部23Aが形成されている。
【0037】
さらに、挟持部材23は、図3に示したように、この挟持部材23及び基部22Bと回転軸4との間に若干の隙間しか設けないことにより、他方の挟持体22の先端部に、回動すると所要の摩擦力が働く状態で、回転軸4により軸支されている。
【0038】
次に、この実施例1の把持用手動工具1の作用効果について説明する。
【0039】
このような実施例1の把持用手動工具1は、一対の挟持体21,22の中間部が枢支軸3により軸支され、これら一対の挟持体21,22は、後部に把手21Aと22Aとがそれぞれ形成され、先端部には把手21A,22Aに連動して回動し、対象物を挟持可能な第1の挟持部21Bと第2の挟持部23Aとがそれぞれ形成されたプライヤー型の把持用手動工具である。
【0040】
そして、一対の挟持体21,22のうち、一方の挟持体21の先端部には、この一方の挟持体21と相対的に不動の第1の挟持部21Bが形成されており、他方の挟持体22の先端部には、一方の挟持体21の第1の挟持部21Bと対向するように、挟持部材23が、枢支軸3と略同一の軸方向の軸を中心として回動可能に設けられて、第2の挟持部23Aが形成された構成とされている。
【0041】
こうした構成なので、図5(a)、図5(b)に示したように、把持する平板状の対象物5A,5Bの厚さが異なったり、図5(c)に示したように、楔状などの非平板状の対象物5Cであったとしても、一対の挟持体21,22の後部に形成された把手21A,22Aを手で握り、第1の挟持部21Bと第2の挟持部23Aとで対象物5A,5B又は5Cを挟み付ければ、第2の挟持部23Aがその対象物5A,5B又は5Cの面全体に接触するように回動するため、第1の挟持部21Bと第2の挟持部23Aとの間の幅を調節する必要がなく、安定して把持することができる。
【0042】
ここで、挟持部材23が、他方の挟持体22の先端部に、枢支軸3と略同一の軸方向の回転軸4により軸支されて、回動可能な第2の挟持部23Aが形成されている。
【0043】
このため、第2の挟持部23Aを複雑な構成にしないで済み、簡易且つ安価な構造で実施することができる。
【0044】
また、第1の挟持部21B及び第2の挟持部23Aの対象物5A,5B又は5Cなどを挟持する側の面は、略平面に加工されている。
【0045】
このため、平板状の対象物5A,5Bや楔状などの非平板状の対象物5Cの両面を全体的に挟持できるので、これらの対象物5A,5B又は5Cをより安定して把持することができる。
【0046】
また、挟持部材23は、その中心部よりも先端部寄りが、他方の挟持体22の先端部に、回転軸4により軸支されて、第2の挟持部23Aが形成されている。
【0047】
このため、対象物5A,5B又は5Cなどが彫金で用いられる材料などの比較的小さなときも、第2の挟持部23Aの力点が対象物5A,5B又は5C上にくるので、安定して把持することができる。
【0048】
さらに、挟持部材23は、他方の挟持体22の先端部に、回動すると所要の摩擦力が働く状態で、回転軸4により軸支されて、第2の挟持部23Aが形成されている。
【0049】
このため、挟持部材23が他方の挟持体22の先端部でぶらついた状態とならず、使い勝手がよい。
【実施例2】
【0050】
次に、実施例2について説明する。
【0051】
なお、実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0052】
図6は、実施例2の把持用手動工具10の概略構成を示している。
【0053】
この実施例2の把持用手動工具10では、第2の挟持部23Aを形成する挟持部材23が、硬質ゴムなどの滑り止めの材料から成ることが実施例1の把持用手動工具1と主に異なる。
【0054】
すなわち、一対の挟持体21,22の後部に形成された把手21A,22Aを手でさほど強く握らなくとも、第2の挟持部23Aを形成する滑り止めの材料から成る挟持部材23の働きにより、対象物を安定して把持することができる。
【0055】
なお、他の構成及び作用効果については、実施例1と略同様であるので説明を省略する。
【0056】
以上、図面を参照して、本発明を実施するための形態を実施例1,2に基づいて詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例1,2に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0057】
上記した実施例1,2では、挟持部材23が、他方の挟持体22の先端で、回転軸4により回動可能とされた単純な構造として実施したが、これに限定されない。
【0058】
例えば、挟持部材23を、他方の挟持体22とヒンジ結合させた一体の部材として実施してもよい。
【0059】
或いは、挟持部材23が、他方の挟持体22の先端部にリンク機構などにより回動可能に設けられたより複雑な構造として実施してもよい。
【0060】
すなわち、実施例1,2以外の構成でも、挟持部材23が、他方の挟持体22の先端部で枢支軸3と略同一の軸方向の軸を中心として回動可能とされていればよい。
【0061】
また、上記した実施例2では、第2の挟持部23Aを形成する挟持部材23が、硬質ゴムなどの滑り止めの材料から成るように実施したが、これに限定されない。
【0062】
すなわち、第1の挟持部21Bの対象物を挟持する側の面に滑り止めの材料を設けて実施してもよいし、第1の挟持部21B及び第2の挟持部23Aの双方に滑り止めの材料を用いて実施してもよい。
【0063】
さらに、上記した実施例1,2の把持用手動工具1,10は、把持する対象物が彫金の材料などであるときに好適に用いられる所謂ヤットコとして実施したが、これに限定されず、様々な用途に適用できる態様で実施してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 把持用手動工具
10 把持用手動工具
21 一方の挟持体
22 他方の挟持体
21A 把手
22A 把手
21B 第1の挟持部
23A 第2の挟持部
23 挟持部材
3 枢支軸
4 回転軸
5A,5B,5C 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の挟持体の中間部が枢支軸により軸支され、これら一対の挟持体は、後部に把手が形成され、先端部には把手に連動して回動し、対象物を挟持可能な挟持部が形成されたプライヤー型の把持用手動工具であって、
前記一対の挟持体のうち、一方の挟持体の先端部には、この一方の挟持体と相対的に不動の第1の挟持部が形成されており、他方の挟持体の先端部には、前記一方の挟持体の前記第1の挟持部と対向するように、挟持部材が、前記枢支軸と略同一の軸方向の軸を中心として回動可能に設けられて、第2の挟持部が形成されており、
前記第1の挟持部と前記第2の挟持部との間に対象物を挟持可能とされていることを特徴とする把持用手動工具。
【請求項2】
前記挟持部材が、他方の挟持体の先端部に、前記枢支軸と略同一の軸方向の回転軸により軸支されて、回動可能な前記第2の挟持部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の把持用手動工具。
【請求項3】
前記第1の挟持部及び前記第2の挟持部の対象物を挟持する側の面は、略平面に加工されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の把持用手動工具。
【請求項4】
前記挟持部材は、その中心部よりも先端部寄りが、前記他方の挟持体の先端部に、前記回転軸により軸支されて、前記第2の挟持部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の把持用手動工具。
【請求項5】
前記挟持部材は、前記他方の挟持体の先端部に、回動すると所要の摩擦力が働く状態で、前記回転軸により軸支されて、前記第2の挟持部が形成されていることを特徴とする請求項2又は4に記載の把持用手動工具。
【請求項6】
前記第1の挟持部及び前記第2の挟持部の少なくとも一方に、滑り止めの材料が用いられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の把持用手動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−51041(P2011−51041A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200182(P2009−200182)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(509245201)
【出願人】(509245212)
【Fターム(参考)】