説明

抗がん剤の効果的な治療方法を選択するための診断試薬

【課題】抗癌剤による治療が有効である癌を特定し得る手段等を提供すること。
【解決手段】HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質を含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の診断試薬;HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質、およびHER2細胞外ドメインフラグメントを含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の診断キット;(a)被験体由来の生体サンプル中のHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を測定する工程、および(b)測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を、HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度と、肺癌に対する抗癌剤の効果との間の関係を示す基準と比較する工程を含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤の効果的な治療方法を選択するための診断試薬などに関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌の治療においては、活性型変異EGFRを有する非小細胞性肺癌に対してEGFRに対する特異的な阻害剤が優れた治療効果を示すことが報告されている。このような肺癌はEGFRに依存して増殖する性質を有しており、このことがEGFR阻害剤による治療奏効性の根底にある。
しかしながら、活性型変異EGFRを発現しないにも関わらずEGFR阻害剤による治療が有効である症例も報告されている。このようにEGFR阻害剤による治療が有効である癌としては活性型変異EGFRを有する癌以外にも存在するものと考えられるが、そのような癌を特定する手段(例、バイオマーカー)は報告されていない。
【0003】
なお、肺癌の治療では、上記活性型変異EGFRに加えて、遺伝子増幅MET、融合遺伝子EML4−ALKというキナーゼ由来遺伝子が明確な治療標的として同定されており、それらの治療薬が肺癌の治療に応用されており、あるいは、臨床試験において有効性が示されている。しかしながら、それら以外のキナーゼについて明確な治療標的となることは証明されていない。
【0004】
上記に関連して、以下の先行技術が報告されている。
非特許文献1は、変異EGFRを示さない肺扁平上皮癌に対してEGFR阻害剤(erlotinib)が有効となる症例があることを開示している。
非特許文献2は、erbB−2(HER2の別称)が乳癌患者の血清および腫瘍中に見出されたことを開示している。
非特許文献3は、p185/neu(HER2の別称)の細胞外ドメインがヒト乳癌細胞株の表面から放出されることを開示している。
非特許文献4は、乳癌においてHER2細胞外ドメインの分泌及び血清循環が見出されたこと、ならびにこのような分泌および血清循環の測定により、抗HER2抗体(ハーセプチン)による治療が有効であるHER2陽性乳癌の診断及びその治療効果を追跡し得ることを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Clark GM, Cameron T, Das Gupta A et al. Clinical benefit of erlotinib in male smokers in squamous cell NSCLC. J Clin Oncol 2006;24:7166.
【非特許文献2】Breuer,B.,DeVivo,I.,Luo,J.C., et al. erbB−2 and myc oncoproteins in sera and tumors of breast cancer patients. Cancer Epidemiol.Biomark.Prev.,3:63−66, 1994.
【非特許文献3】Zabrecky,J.R.,Lam,T.,McKenzie,S. et al. The extracellular domain of p185/neu is released from the surface of human breast carcinoma cells,SK−BR−3. J.Biol.Chem.,266:1716−1720,1991.
【非特許文献4】Kostler WJ, et al. Monitoring of serum Her−2/neu predicts response and progression−free survival to trastuzumab−based treatments in patients with metastatic breast cancer. Clin Cancer Res 2004;10:1618−24.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、活性型変異EGFRを発現しないにも関わらずEGFR阻害剤による治療が有効である症例が報告されており、また、EGFR阻害剤による治療が有効である癌としては活性型変異EGFRを有する癌以外にも存在するものと考えられる。しかしながら、EGFR阻害剤による治療が有効である上述したような癌を特定する手段は報告されていない。また、肺癌においてHER2細胞外ドメインフラグメントが生体サンプル中に検出されることは報告されていない。
【0007】
本発明の目的は、EGFR阻害剤等の抗癌剤による治療が有効である肺癌を特定し得る手段等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討したところ、肺癌においてHER2細胞外ドメインフラグメントが生体サンプル中に検出されることを見出した。本発明者らはまた、活性型変異EGFRを有さないにも関わらずEGFR阻害剤に感受性を示す癌細胞におけるEGFR及び他のキナーゼ因子の活性状態を鋭意解析したところ、本癌細胞がEGFRに依存せずに別のHER2というキナーゼに依存して増殖することなどを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは、HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を測定することにより、肺癌に対する抗癌剤の治療効果を簡便に判定し得ることなどを着想し、本願発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質を含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の診断試薬。
〔2〕HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質が、HER2細胞外ドメインフラグメントに対する抗体である、〔1〕の診断試薬。
〔3〕肺癌が血中HER2陽性の肺癌である、〔1〕または〔2〕の診断試薬。
〔4〕抗癌剤がEGFR阻害剤である、〔1〕〜〔3〕のいずれかの診断試薬。
〔5〕肺癌が非小細胞肺癌である、〔1〕〜〔4〕のいずれかの診断試薬。
〔6〕肺癌が肺扁平上皮癌である、〔1〕〜〔5〕のいずれかの診断試薬。
〔7〕EGFR阻害剤が下記式(1):
【化1】

で表される基本構造を有する化合物またはその塩である、〔4〕の診断試薬。
〔8〕HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質、およびHER2細胞外ドメインフラグメントを含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の診断キット。
〔9〕以下(a)および(b)の工程を含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の試験方法:
(a)被験体由来の生体サンプル中のHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を測定する工程;および
(b)測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を、HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度と、肺癌に対する抗癌剤の効果との間の関係を示す基準と比較する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体サンプル(例、血液)中における可溶性HER2の測定により、肺癌に対する抗癌剤の効果を診断でき、また、生体サンプル中における可溶性HER2の測定により、肺癌に罹患した被験体を診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、EGFR阻害剤(Gefitinib)に対する種々のヒト肺癌細胞株の感受性を示す図である(n=4)。PC−9:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;HCC827:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;HCC4006:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;H2170:ヒト非小細胞肺癌(肺扁平上皮癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株;およびH1703:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株。
【図2】図2は、EGFRおよびHER2の発現および活性化状態の解析を示す図である。A549:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株;PC−9:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;H460:ヒト非小細胞肺癌(肺大細胞癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株;H1650:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有し、PTEN遺伝子を欠損する細胞株;H1703:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株;H1975:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFR及びEGFR阻害剤に耐性となる二次的耐性変異をEGFR中に有する細胞株;H1993:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株;H2170:ヒト非小細胞肺癌(肺扁平上皮癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株;HCC827:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;HCC4006:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株。ウェスタンブロッティングは、以下の抗体を用いた:EGFR(EGFR細胞内ドメインを認識する抗体);HER2(HER2細胞内ドメインを認識する抗体);p−Tyr(抗リン酸化チロシン抗体)およびβ−アクチン(コントロール)。
【図3】図3は、EGFR阻害剤(Gefitinib)によるHER2の活性阻害を示す図である。NCI−H2170:ヒト非小細胞肺癌(肺扁平上皮癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株。ウェスタンブロッティングは、以下の抗体を用いた:pY(抗リン酸化チロシン抗体);HER2(HER2細胞内ドメインを認識する抗体)。
【図4】図4は、EGFR siRNAまたはHER2 siRNA処理されたヒト肺癌細胞株におけるEGFRまたはHER2の発現を示す図である。NCI−H2170:ヒト非小細胞肺癌(肺扁平上皮癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株;HCC4006:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;HCC827:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株。ウェスタンブロッティングは、以下の抗体を用いた:HER2(HER2細胞内ドメインを認識する抗体);およびEGFR(EGFR細胞内ドメインを認識する抗体)。
【図5】図5は、EGFR siRNAまたはHER2 siRNA処理されたヒト肺癌細胞株の増殖を示す図である(n=4)。用いた細胞株は、図4と同じである。4種のsiRNA(si−EGFR−1、si−EGFR−2、si−HER2−1、si−HER2−2)を用いた。N.C.(Stealth RNAi siRNA Negative Control,Invitorogen社製)
【図6】図6は、ヒト肺癌細胞株におけるHER2のリン酸化とEGFR発現との関係を示す図である。用いた抗体の詳細は、図2と同じである。
【図7】図7は、ヒト肺癌細胞株における分泌HER2のウェスタンブロットによる検出を示す図である。用いた細胞株の詳細は、上述したとおりである。ウェスタンブロットで用いた抗HER2抗体は、分泌HER2(即ち、HER2細胞外ドメイン)を認識する。
【図8】図8は、癌組織が形成されたマウスの血清中における可溶性HER2のELISAキットによる検出を示す図である(n=2)。用いた細胞株の詳細は、上述したとおりである。ELISAキットに添付された抗HER2抗体は、可溶性HER2(即ち、HER2細胞外ドメイン)を認識する。
【図9】図9は、EGFR阻害剤(Erlotinib)に対する種々のヒト肺癌細胞株の感受性を示す図である(n=4)。PC−9:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;HCC827:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;HCC4006:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有する細胞株;H2170:ヒト非小細胞肺癌(肺扁平上皮癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株;およびH1703:ヒト非小細胞肺癌(肺腺癌)に由来し、かつ活性型変異EGFRを有さない細胞株。
【図10】図10は、EGFR阻害剤(Lapatinib)に対する種々のヒト肺癌細胞株の感受性を示す図である(n=4)。細胞の詳細は、図9と同様である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、癌に対する抗癌剤の効果の試験方法を提供する。本発明の試験方法は、診断方法または予測方法であってもよい。
【0013】
本発明の試験方法は、以下(a)および(b)の工程を含み得る:
(a)被験体由来の生体サンプル中のHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を測定する工程;および
(b)測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を、HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度と癌に対する抗癌剤の効果との間の関係を示す基準と比較する工程。
【0014】
HER2は、上皮成長因子(EGFR)と同じファミリーに属す受容体型チロシンキナーゼである。細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及びチロシンキナーゼ活性を有する細胞内ドメインが一本鎖で連結した構造を有する(例えば、Coussensら、Science,1985,Vol.230,No.4730,pp.1132−1139を参照)。HER2の配列については、Genebankアクセッション番号:NP_001005862.1を参照のこと。
【0015】
本明細書中で用いられる場合、用語「HER2細胞外ドメインフラグメント」とは、癌細胞の表面より分泌されるHER2細胞外ドメインのポリペプチドまたはそのポリペプチドの分解産物をいう。本明細書では、HER2細胞外ドメインフラグメントを、分泌HER2または可溶性HER2ということがある。
【0016】
上記(a)において、被験体としては、癌に罹患している哺乳動物、または癌に罹患している可能性がある哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、霊長類、愛玩動物、使役動物が挙げられる。具体的には、哺乳動物としては、例えば、ヒト、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウサギ、マウス、ラットが挙げられるが、好ましくは、ヒトである。
【0017】
癌としては、例えば、肺癌(例、扁平上皮癌、腺癌および大細胞癌等の非小細胞癌、ならびに小細胞癌)、消化器系癌(例、胃癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌)、膵臓癌、腎臓癌、肝臓癌、胸腺癌、脾臓癌、甲状腺癌、副腎癌、前立腺癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌(例、子宮内膜癌、子宮頚癌)、骨癌、皮膚癌、脳腫瘍、肉腫、黒色腫、芽細胞腫(例、神経芽細胞腫)、腺癌、扁平細胞癌、固形癌、上皮性癌、中皮腫が挙げられる。
【0018】
癌は、HER2依存性の癌であってもよい。本明細書中で用いられる場合、細胞の増殖についての用語「依存」とは、細胞が特定の癌遺伝子に増殖を依拠している、癌遺伝子異存(oncogene addiction)または依存(addiction)の状態をいう。HER2依存性の癌は、HER2発現を亢進し得る。したがって、癌がHER2依存性であるかどうかは、HER2発現を測定することにより調べることができる。また、特定の癌遺伝子への依存性(即ち、特定の癌遺伝子に増殖を依拠しているか否か)は、特定の癌遺伝子の阻害剤で細胞を処理し、次いで、処理された細胞の増殖能を評価することにより、確認できる。増殖能は、例えば、MTTアッセイ、MTSアッセイにより評価できる。また、特定の癌遺伝子に対して癌遺伝子依存の細胞を、当該癌遺伝子の阻害剤で処理すると、アポトーシスによる細胞死が誘導され得ることが知られている。したがって、特定の癌遺伝子への依存性は、例えば、当該癌遺伝子の阻害によりアポトーシスが誘導され得るか否かを評価することにより、確認してもよい。アポトーシス誘導は、例えば、TUNELアッセイ、活性型カスパーゼの検出、ANNEXIN Vの検出により評価できる。
【0019】
HER2依存性の癌では、HER2発現が亢進され得るので、生体サンプル中に分泌されるHER2細胞外ドメインフラグメントの量(HER2発現量と相関し得る)も増加し得る。したがって、HER2依存性の癌は、通常、生体サンプル中においてHER2細胞外ドメインフラグメントが検出される(例、血中HER2陽性)。
【0020】
好ましい被験体の例は、特定の抗癌剤による治療が検討されている癌患者である。特定の抗癌剤としては、例えば、EGFR阻害剤、HER2阻害剤、c−MET阻害剤、EGFR阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤が挙げられる。これらの阻害剤としては、例えば、低分子有機化合物、抗体が挙げられる。
【0021】
EGFR阻害剤としては、例えば、ゲフィチニブ(gefitinib)、ラパチニブ(lapatinib)、エルロチニブ(erlotinib)、セツキシマブ(cetuximab)、ZD6474、CL−387785、HKI−272、XL647、PD153035、CI−1033、AEE788、BIBW−2992、EKB−569、PF−299804が挙げられる。
【0022】
EGFR阻害剤はまた、例えば、下記式(1):
【0023】
【化2】

【0024】
で表される基本構造を有する化合物またはその塩であってもよい。上記式(1)で表される基本構造は、低分子有機化合物のEGFR阻害剤に共通し得る構造として知られている。上記式(1)で表される基本構造を有する化合物またはその塩は、上記式(1)で表される基本構造が1〜5個(例、1個、2個、3個)の所定の置換基で置換された化合物またはその塩である。上記式(1)で表される基本構造を有する化合物またはその塩は、水和物であってもよく、水和物および非水和物のいずれも本発明の範囲に包含されるものである。塩としては、金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩)、アンモニウム塩等の無機塩、ならびに有機塩(例、アルキルアンモニウム)等の各種塩が挙げられる。
【0025】
上記式(1)で表される基本構造を有する化合物または塩の参考のため、ゲフィチニブ、ラパチニブ、エルロチニブの構造を下記に示す。
【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
HER2阻害剤としては、例えば、トラスツズマブ(ハーセプチン)、ペルツヅマブ、EGFRとHER2の両方を阻害するラパチニブ、BIBW2992が挙げられる。HER2阻害剤としてはまた、低分子有機化合物の医薬であるEGFR阻害剤が挙げられる。本発明者らは、このようなEGFR阻害剤がHER2阻害剤としても作用することを見出している(後述する実施例を参照)。
【0030】
c−MET阻害剤としては、例えば、PHA−665752、SU11274、XL−880、XL−184、ARQ 197、AMG208、AMG458、CE−355621、MP470が挙げられる。ALK阻害剤としては、例えば、WHI−P154、TAE684、PF−2341066が挙げられる。PDGFR阻害剤としては、例えば、グリーベック(Gleevec)、デサチニブ(Desatinib)、ヴァラチニブ(Valatinib)、パゾパニブ(Pazopanib)が挙げられる。c−KIT阻害剤としては、例えば、イマチニブ(Imatinib)、スニチニブ(Sunitinib)、ヴァラチニブ(Valatinib)、デサチニブ(Desatinib)、マシチニブ(Masitinib)、モテサニブ(Motesanib)、パゾパニブ(Pazopanib)が挙げられる。
【0031】
好ましい被験体の別の例は、特定の抗癌剤による治療効果がモニタリングされている癌患者である。癌患者はまた、特定の抗癌剤による治療効果の低下が認められた場合に、別の抗癌剤による治療に切り替えるかどうかの判断が求められている患者であってもよい。抗癌剤は、上述した抗癌剤と同様であり得る。
【0032】
本発明において用いられ得る生体サンプルは、上述の被験体から採取された生体サンプルであり得る。生体サンプルは、HER2細胞外ドメインフラグメントが存在するサンプルである限り特に限定されず、例えば、血液、血清、尿、唾液、腹水、組織試料、細胞試料、組織抽出液、細胞抽出液が挙げられる。なお、侵襲性の低さの観点からは、上記のうち、血液、尿、唾液が好ましい。必要に応じて、生体サンプルは、測定前に、事前に処理されてもよい。このような処理としては、例えば、遠心分離、抽出、濃縮、分画、細胞固定、組織固定、組織凍結、組織薄片化が挙げられる。
【0033】
HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度の測定は、例えば、HER2細胞外ドメインフラグメントに対して親和性を有する物質(後述)を用いて行うことができる。測定はまた、免疫学的手法により行なわれてもよい。このような免疫学的手法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、サンドイッチELISA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫クロマト法、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、ウエスタンブロット法、ラテックス凝集法が挙げられる。HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度の測定を可能とする上記以外の方法としては、例えば、LC−MSが挙げられる。
【0034】
上記(b)において、測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度が、HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度と癌に対する抗癌剤の効果との間の関係を示す基準と比較され得る。基準は、HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度の高低と、抗癌剤の効果の強弱(抗癌剤への感受性または耐性)との間の相対的な関係を示すものであり得る。例えば、測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度が相対的に高い場合には、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)の治療効果が高い可能性があり、または他の抗癌剤(例、上述したようなc−MET阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤)の治療効果が低い可能性がある。また、測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度が相対的に低い場合には、EGFR阻害剤またはHER2阻害剤の治療効果が低い可能性があり、または他の抗癌剤(例、上述したようなc−MET阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤)の治療効果が高い可能性がある。本発明の場合、基準として、特定の基準値を設けてもよい。このような基準値として、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)に感受性である患者、または他の抗癌剤に耐性である患者で高い陽性率(基準値以上)を示し、かつ、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)に耐性である患者、または他の抗癌剤に感受性である患者で高い陰性率(基準値未満)を示し得る、HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を設定してもよい。このような基準値の例は、カットオフ値である。基準値の算出方法は、本分野において周知である。
【0035】
本発明によれば、被験体が、特定の抗癌剤に対して感受性であるのか、または耐性であるのかを判定することができる。このような判定は、例えば、被験体に投与する抗癌剤の決定に有用である。例えば、測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度が相対的に高い場合には、癌患者は、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)に対して感受性である可能性があり、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)による治療効果が高い可能性がある。また、この場合には、他の抗癌剤(例、上述したようなc−MET阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤)に対して耐性である可能性があり、当該抗癌剤による治療効果が低い可能性がある。一方、測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度が相対的に低い場合には、癌患者は、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)に対して耐性である可能性があり、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)による治療効果が低い可能性がある。また、この場合には、他の抗癌剤(例、上述したようなc−MET阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤)に対して感受性である可能性があり、当該抗癌剤による治療効果が高い可能性がある。
【0036】
また、本発明によれば、特定の抗癌剤による被験体の治療効果を評価することができる(例、経時的モニタリング)。このような評価は、例えば、特定の抗癌剤による治療効果の低下が認められた場合に、別の抗癌剤による治療に切り替えるかどうかの判断に有用である。例えば、測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度が相対的に高い状態が維持されている場合には、癌患者は依然として、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)に対して感受性である可能性があり、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)による治療効果が引き続き高い可能性がある。また、この場合には、依然として、他の抗癌剤(例、上述したようなc−MET阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤)に対して耐性である可能性があり、当該抗癌剤による治療効果が低い可能性がある。一方、測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度が相対的に低い状態が維持されている場合には、癌患者は依然として、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)に対して耐性である可能性があり、EGFR阻害剤(またはHER2阻害剤)による治療効果が引き続き低い可能性がある。また、この場合には、依然として、他の抗癌剤(例、上述したようなc−MET阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤)に対して感受性である可能性があり、当該抗癌剤による治療効果が引き続き高い可能性がある。
【0037】
本発明の試験方法は、上記(b)の代わりに、(b’)測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を指標として、癌に対する抗癌剤の効果を判断する工程を含んでいてもよい。本工程は、上記(b)と同様に行うことができる。本発明の試験方法はまた、このような判断に基づき、投与する抗癌剤(例、上述したようなEGFR阻害剤、HER2阻害剤、c−MET阻害剤、EGFR阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤)を決定する工程、および/または投与する抗癌剤を別の抗癌剤(例、上述したようなEGFR阻害剤、HER2阻害剤、c−MET阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤)に切り替えるか否かを決定する工程を含んでいてもよい。本発明の試験方法はさらに、このような決定に基づき、抗癌剤を投与する工程を含んでいてもよい。
【0038】
本発明は、癌に対する抗癌剤の効果の診断試薬を提供する。本発明の試薬は、HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質を含む。本発明の診断試薬は、キットの形態であってもよい。本発明の診断試薬は、本発明の試験方法を行なうために好適に用いることができる。
【0039】
本明細書中で用いられる場合、用語「HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質」とは、HER2細胞外ドメインフラグメントに結合する能力を有する物質をいう。HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質としては、例えば、HER2細胞外ドメインフラグメントに対する抗体、HER2細胞外ドメインフラグメントに対するアプタマーが挙げられる。
【0040】
HER2細胞外ドメインフラグメントに対する抗体は、HER2細胞外ドメインフラグメントに特異的に結合し得る抗体である限り特に限定されない。例えば、HER2細胞外ドメインフラグメントに対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよい。抗体はまた、抗体のフラグメント(例、Fab、F(ab’))、組換え抗体(例、scFv)であってもよい。抗体は、プレート等の基板上に固定された形態、またはストリップ等の支持体中に含侵された形態で提供されてもよい。抗体は、HER2細胞外ドメインフラグメントまたはその部分ペプチドを抗原として用いて、自体公知の方法により作製できる。抗原は、HER2のアミノ酸配列情報を参考にして適宜作製できる。また、培養癌細胞の上清から得られるHER2細胞外ドメインフラグメントを、抗原として用いてもよい。
【0041】
ポリクローナル抗体は、例えば、HER2細胞外ドメインフラグメントまたはその部分ペプチドを抗原として、市販のアジュバント(例、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原は、HER2細胞外ドメインフラグメントまたはその部分ペプチドを、キャリアタンパク質(例、ウシ血清アルブミン、KLH)に架橋した複合体であってもよい。抗原を投与する動物としては、例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、ウシ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0042】
モノクローナル抗体は、例えば、細胞融合法により作製できる。例えば、HER2細胞外ドメインフラグメントまたはその部分ペプチドを市販のアジュバントと共にマウスに2〜4回皮下または腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例、NS−1)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合としては、PEG法、電圧パルス法が挙げられる。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
【0043】
HER2細胞外ドメインフラグメントに対するアプタマーは、HER2細胞外ドメインフラグメントに特異的に結合し得るアプタマーである限り特に限定されない。アプタマーは、例えば、SELEXと呼ばれる手法により作製できる。
【0044】
HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質は、必要に応じて、標識用物質で標識された形態で提供されてもよい。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
【0045】
本発明の診断試薬は、HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質に加えて、さらなる構成要素を含むキットの形態で提供されてもよい。この場合、キットに含まれる各構成要素は、互いに隔離された形態、例えば、異なる容器(例、チューブ)に格納された形態で提供されてもよい。例えば、HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質が標識用物質で標識されていない場合、このようなキットは、標識用物質をさらに含んでいてもよい。このようなキットはまた、ポジティブコントロールとして、HER2細胞外ドメインフラグメントを含んでいてもよい。
【0046】
本発明の診断試薬がキットの形態で提供される場合、キットは、HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質の種類に応じたさらなる構成要素を含んでいてもよい。例えば、HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質が抗体である場合、キットは、2次抗体(例、抗IgG抗体)、2次抗体の検出試薬をさらに含んでいてもよい。
【0047】
本発明の試薬がキットの形態で提供される場合、キットは、生体サンプルを採取し得る器具をさらに含んでいてもよい。生体サンプルを採取し得る器具は、被験体から生体サンプルを入手可能である限り特に限定されないが、例えば、注射器等の採血器具が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0049】
実施例1:EGFR阻害剤に対する種々のヒト肺癌細胞株の感受性試験
ヒト肺癌細胞株の内、活性型変異EGFRを有するPC−9、HCC827およびHCC4006、ならびに活性型変異EGFRを有さないH2170およびH1703を濃度の異なるEGFR阻害剤(Gefitinib)に暴露し、同薬剤の増殖阻害効果をMTS(テトラゾリウム化合物[3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−5−(3−carboxymethoxyphenyl)−2−(4−sulfophenyl)−2H−tetrazolium, inner salt)])アッセイにより評価した。
その結果、活性型変異EGFRを有するPC−9、HCC827およびHCC4006よりも効果は弱いが、H2170もまたEGFR阻害剤により増殖が阻害されることが示された(図1)。
【0050】
実施例2:EGFRおよびHER2の発現および活性化状態の解析
種々のヒト肺癌細胞株におけるEGFR及びHER2の発現および活性化状態を、ウェスタンブロットにより解析した。
その結果、活性型変異EGFRを有する肺癌細胞株(PC−9、H1650、H1975、HCC827およびHCC4006)は、活性型変異EGFR(分子量約160kDa)を発現し、かつ分子量約160kDaタンパク質のリン酸化の亢進を示した(図2,EGFRおよびp−Tyrを参照)。このことは、これらの肺癌細胞株では、活性型変異EGFRのリン酸化が亢進されていることを示唆する。一方、活性型変異EGFRを有さずEGFR阻害剤に感受性を示したH2170は、検出可能量のEGFRを発現せず、より分子量の大きい(約200kDa)リン酸化亢進タンパク質の発現を示した(図2,EGFRおよびp−Tyrを参照)。このことは、H2170では、EGFR以外のタンパク質のリン酸化が亢進されていることを示す。そこで、H2170でリン酸化が亢進されている、約200kDaの分子量を示すタンパク質の同定を試みた。その結果、H2170では、約200kDaの分子量を示すタンパク質として、HER2が過剰発現していることが見出された(図2,HER2を参照)。
以上より、HER2がH2170特異的に過剰発現していることが示された。
【0051】
実施例3:EGFR阻害剤によるHER2の活性阻害
H2170を濃度の異なるEGFR阻害剤(Gefitinib)で処理し、HER2に対する活性阻害効果を、リン酸化チロシンおよびHER2をウェスタンブロットにより解析することにより確認した。
その結果、EGFR阻害剤は、H2170に対して抗腫瘍効果を示す濃度1−10μM以上で(実施例1および図1を参照)、HER2のリン酸化を減少させた(図3)。
以上より、EGFR阻害剤がHER2の活性を阻害することが示された(図3)。
【0052】
実施例4:EGFRおよびHER2ノックダウンに対する感受性
活性型変異EGFRを有するHCC827およびHCC4006、ならびに活性型変異EGFRを有さないH2170を、EGFRあるいはHER2遺伝子を特異的に発現阻害するsmall Interfering RNA(siRNA)により処理した。
その結果、HCC827およびHCC4006は、EGFR特異的siRNA(si−EGFR−1、si−EGFR−2)によりEGFRの発現を阻害される(図4)のに伴い、増殖が抑制された(図5)。一方、H2170は、HER2特異的siRNA(si−HER2−1、si−HER2−2)によりHER2の発現を阻害される(図4)のに伴い、増殖が抑制された(図5)。
以上より、H2170がEGFRには依存せず、HER2に依存して増殖すること、ならびにHER2の阻害により、H2170の増殖が抑制されることが示された。したがって、HER2がEGFR阻害剤による治療標的となり得ることが示された。
【0053】
実施例5:HER2のリン酸化とEGFR発現との関係の解析
活性型変異EGFRを有するHCC827およびHCC4006、ならびに活性型変異EGFRを有さないH2170を、EGFRまたはHER2遺伝子の発現を特異的に阻害するsmall Interfering RNA(siRNA)により処理した。それら細胞におけるHER2のリン酸化状態を、HER2免疫沈降物に対するリン酸化チロシンブロットにより確認した。
その結果、活性型変異EGFRにその生存を依存するHCC827およびHCC4006では、HER2のリン酸化は、EGFR発現の阻害に伴い減少した(図6)。一方、H2170では、HER2のリン酸化は、EGFR発現の阻害に影響されなかった(図6)。したがって、H2170により発現されるHER2は、HCC827およびHCC4006により発現されるHER2とは異なり、EGFRにより交差的に活性化されたものではないことが示された。
【0054】
実施例6:血清中におけるHER2の測定によるHER2依存性癌の診断
(a)免疫染色による検出
H2170またはHCC827を移植したマウス由来の肺癌組織からパラフィン包埋ホルマリン固定切片を作製した。それらを薄切しガラススライド上に固定して作製した肺癌組織標本を抗HER2抗体、抗EGFR抗体で染色した。
その結果、HER2依存性のH2170に由来する癌を、抗HER2抗体で特異的に染色することができた。したがって、HER2依存性の癌細胞を含む組織を、抗HER2抗体で免疫染色できることが示された。
【0055】
(b)ウェスタンブロットによる検出
H2170またはHCC827を培養し、細胞内に発現されるHER2(Lysate)あるいは培地中に分泌されるHER2(Supernatant)を抗HER2抗体によるウェスタンブロットにより検出した。
その結果、分泌HER2(HER2細胞外ドメインフラグメント)が、HER2依存性のH2170特異的に検出された(図7)。したがって、分泌HER2の測定により、HER2依存性の癌細胞を同定できることが示された。
【0056】
(c)ELISAによる検出
H2170またはHCC827を移植したマウスから血液を採取し、血清サンプルを調製した。可溶性HER2を特異的に検出するELISAキットにより血清中HER2を定量した。
その結果、HER2依存性のH2170に由来する癌組織が形成されたマウス特異的に血中に可溶性HER2(HER2細胞外ドメインフラグメント)が検出された(図8)。したがって、血中における可溶性HER2の測定により、個体がHER2依存性の癌細胞を保有するか否かを同定できることが示された。
【0057】
以上より、生体サンプル(例、血液)中における可溶性HER2を測定することにより、癌に対する抗癌剤の効果を診断できること、ならびに、生体サンプル中における可溶性HER2を測定することにより、癌に罹患した被験体を診断できることが示された。
【0058】
実施例7:ゲフィチニブ以外のEGFR阻害剤に対する種々のヒト肺癌細胞株の感受性試験
(a)Erlotinibに対する感受性試験
ヒト肺癌細胞株の内、活性型変異EGFRを有するPC−9、HCC827およびHCC4006、ならびに活性型変異EGFRを有さないH2170およびH1703を濃度の異なるEGFR阻害剤(Erlotinib)に暴露し、同薬剤の増殖阻害効果をMTSアッセイにより評価した。
その結果、実施例1で示したGefitinibに対する感受性試験の結果と同様にH2170はErlotinibにより増殖が阻害されることが示された(図9)。
【0059】
(b)Lapatinibに対する感受性試験
ヒト肺癌細胞株の内、活性型変異EGFRを有するPC−9、HCC827およびHCC4006、ならびに活性型変異EGFRを有さないH2170およびH1703を濃度の異なるEGFR阻害剤(Lapatinib)に暴露し、同薬剤の増殖阻害効果をMTSアッセイにより評価した。
その結果、実施例1で示したGefitinibに対する感受性試験の結果と同様にH2170はLapatinibにより増殖が阻害されることが示された(図10)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば、癌に対する抗癌剤の効果の診断、および癌に罹患した被験体の診断に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質を含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の診断試薬。
【請求項2】
HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質が、HER2細胞外ドメインフラグメントに対する抗体である、請求項1記載の診断試薬。
【請求項3】
肺癌が血中HER2陽性の肺癌である、請求項1または2記載の診断試薬。
【請求項4】
抗癌剤がEGFR阻害剤である、請求項1〜3のいずれか一項記載の診断試薬。
【請求項5】
肺癌が非小細胞肺癌である、請求項1〜4のいずれか一項記載の診断試薬。
【請求項6】
肺癌が肺扁平上皮癌である、請求項1〜5のいずれか一項記載の診断試薬。
【請求項7】
EGFR阻害剤が下記式(1):
【化1】

で表される基本構造を有する化合物またはその塩である、請求項4記載の診断試薬。
【請求項8】
HER2細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質、およびHER2細胞外ドメインフラグメントを含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の診断キット。
【請求項9】
以下(a)および(b)の工程を含む、肺癌に対する抗癌剤の効果の試験方法:
(a)被験体由来の生体サンプル中のHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を測定する工程;および
(b)測定されたHER2細胞外ドメインフラグメントの濃度を、HER2細胞外ドメインフラグメントの濃度と、肺癌に対する抗癌剤の効果との間の関係を示す基準と比較する工程。

【図1】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−237586(P2012−237586A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105316(P2011−105316)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)