説明

抗イデオタイプ抗体である抗CA−125及びアルミニウム誘導体を含有する医薬組成物

本発明は、モノクローナル抗体と、アジュバントとしてアルミニウム誘導体とを有するワクチンとしての非経口投与用医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非経口で適用するワクチンとして使用される医薬組成物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
知られているように、予防又は治療ワクチンの免疫原性を増幅させるため、アルミニウム化合物などのアジュバントの使用は、非経口適用のための溶液又は懸濁液としての医薬投与形態の調製に一般的に考慮されている(非特許文献1)。これらの処方の標的は、最大且つ長時間の免疫効果を誘導するものである。
【0003】
しかしながら、現在、登録され市販されているワクチンには、制限された量のアルミニウムアジュバントが使用されており、事実、欧州薬局方において、1.25mg/投与と規定されている。
【0004】
また、非特許文献2は、生物学的製品の推奨される個々の1回分の処方におけるアルミニウム量について、下記の通り(1)〜(3)を超えてはならないと規定している。
【0005】
(1)アッセイによって同定される場合、0.85ミリグラム
(2)添加したアルミニウム化合物の量に基づいて計算により同定される場合、1.14ミリグラム
(3)使用したアルミニウムの量が安全且つ意図した効果を生じさせるのに必要であることを示すデータを条件として、アッセイにより同定される場合、1.25ミリグラム
【0006】
アルミニウムアジュバントの表面上に吸着された抗体の免疫原性は、吸着の程度に依存するようであるが(非特許文献3)、安全性プロフィールを保持しつつ最大限の免疫反応を達成するのに用いるべき最良の比率は明らかではない。例えば、世界保健機関(WHO)は、破傷風及びジフテリアトキソイドに関して、80%を超えるトキソイドのレベルにおけるアルミニウムアジュバント上への吸着を推奨している(非特許文献4及び5)。一方、80%を超える水酸化アルミニウムへの破傷風成分の吸着が健常成人において免疫反応を向上させないというデータが示されている(非特許文献6)。
【0007】
他の技術的問題は、かなり変化するワクチンの安定性である。これは、高温における保存に対する耐性によりランク付け可能であって、ジフテリア及び破傷風トキソイド並びにB型肝炎ワクチンは、最も高い熱安定性を示し、凍結乾燥したはしか、黄熱病及びBCGワクチンは、中程度の位置を占め、経口用のポリオワクチンは、最も脆弱である(非特許文献7)。はしか、黄熱病及び結核に対する再構築されたワクチンは、不安定なワクチンである;これらは、再構築後にできるだけ早期に使用する必要があり、且つ免疫性付与の間、氷浴中で保持する必要がある。一価のワクチン又は組み合わせたワクチンの成分としての破傷風及びジフテリア(例えば、アルミニウム塩上に吸着されたもの)が35〜37℃で数週間安定であるが、周囲温度への曝露により、ワクチンのいくらかは分解する(非特許文献7の48頁)。従って、これらの「安定な」型のワクチンに関し、低温条件での保存が規定されている(非特許文献8)。
【0008】
複合蛋白質の活性本体の性質のため、これらの薬物製品は、一定の冷却連鎖(cooling chain)を必要とする、冷条件(2〜8℃)での保存が必要である。これにより、流通費が高くなり、全体的な安全性を危険にさらし、より重要な可能性のあることとして抗癌ワクチンなどのより有益性の高い薬物の全世界的な使用が制限される。従って、周囲温度及びこれよりも高い温度(25〜37℃)であっても薬物の一定の品質を確保するワクチン処方の開発は、全体的な安全性及びこれらの薬物の有効性を向上させる。このことは、患者に非常に有益であるばかりでなく、これらの貴重な薬物の全体的な取扱をも促進する。
【0009】
他方、ヒトの癌の処置における免疫治療の重要性、特に、癌に対する治療ワクチンとしての抗イデオタイプモノクローナル抗体を使用することは、公知である。
【0010】
斯かるワクチンは、宿主において、癌に対する体液性(humour)及び細胞作用を刺激する免疫系を活性化する。
【0011】
斯かる種類の処方の開発及び定義は、ACA125/MEN2234(特許文献1に述べられているもの)に関して特に重要であり、これは、卵巣癌に対する治療ワクチンとして使用される意図のある非常に有望な抗イデオタイプモノクローナル抗体である。MEN2234に対して、下記のCAインデックス名が指定されている:immunoglobulin Gl, anti−(mouse OC 125) (mouse monoclonal ACA−125 clone 3D5 g−chain), disulfide with mouse monoclonal ACA−125 clone 3D5 k−chain, dimer。対応するCAS登録番号は、792921−10−9である。提案されたINNは、Abagovomabである。
【0012】
MEN2234は、マウスモノクローナル抗体OC125に対して生成されたマウスのモノクローナル抗体であって、癌関連抗原(TAA)であるCA125を認識する。MEN2234は、CA125のTAAの三次元構造に効率的に類似しており、宿主において、CA125抗原を発現するガン細胞を標的とする抗−抗イデオタイプ抗体(Ab3)の産生を誘導する。また、MEN2234は、宿主において、特にCA125の腫瘍細胞に対する細胞免疫反応を引き起こし得る。
【0013】
進行性の卵巣癌の患者の約80%で、CA125の発現が上昇している。卵巣癌においてCA125が過剰発現しているが、ヒトの臓器自体は、これらのガン細胞に対する効果的な免疫反応を開始し得ない。MEN2234を含有する治療ワクチンによる処置は、拡散した卵巣癌細胞を攻撃し破壊する宿主の免疫系を復活させ得るべきである。
【0014】
特許文献1は抗イデオタイプモノクローナル抗体である抗CA125について述べているが、病態の処置に適した特別な医薬処方については、述べていない。
【0015】
非特許文献9では、抗体であるACA−125について特徴付けをおこなっているが、処方は開発されていない。
【0016】
非特許文献10では、ACA125を用いたワクチン接種を行っている;処方におけるアルミニウム濃度については、開示されておらず、先行技術に基づけば、当業者は、アジュバントとして比較的低濃度のアルミニウム(個々の一回分の投与当たり1.25mg未満)を容易に想到し得る。
【0017】
非特許文献11では、卵巣癌に対するワクチンとして免疫原性を向上するようにACA125hFc(ACA125のキメラ体)の持続的で内在的な放出を行うための送達システムについて述べているが、生物学的なカプセル化技術(bioencapsulation technology)に基づいたin vitroでの持続性薬剤を生じる。
【0018】
さらなる文献は、MEN2234を含む卵巣癌ワクチンに関する前臨床及び臨床試験の結果についてまとめているが、処方又は使用されるアジュバントの濃度に関する具体的なデータには言及していない(例えば、アルミニウム化合物が引用されていない):非特許文献12〜15。
【特許文献1】欧州特許第700305号明細書
【非特許文献1】Fiejkaら著、Rocz Panstw Zakl Hig、1993年、p.73−80
【非特許文献2】21 CFR 610.15、米国食品医薬品局
【非特許文献3】Capelleら著、Vaccine、2005年、p.1686−1694
【非特許文献4】Guptaら著、Vaccine、1995年、p.1263−1276
【非特許文献5】WHO Technical Report Series No.595、1996年、p.6
【非特許文献6】Paolettiら著、Infect.Immun.、2001年、p.6696−6701
【非特許文献7】Galazkaら著、Thermostability of vaccines、World Health Organisation、1998年
【非特許文献8】Rote Liste、Edition Cantor Verlag、2005年
【非特許文献9】Hybridoma、1995年、14巻、2号、p.164−174
【非特許文献10】Clinical Cancer Research、2004年、10巻、p.1580−1587
【非特許文献11】Hybridoma、2005年、p.133−140
【非特許文献12】Clinical Cancer Research、2004年、p.1580−1587
【非特許文献13】Clinical Cancer Research、2003年、p.3234−3240
【非特許文献14】Clinical Cancer Research、2001年、p.1154−1162
【非特許文献15】Clinical Cancer Research、2001年、p.1112−1115
【非特許文献16】Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1986年9月、83巻、17号、p.6233−6237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
モノクローナル抗体を含有するワクチンの免疫原性を最大化するアルミニウム化合物の最も適当な量は、未だ技術的論点である。
【0020】
モノクローナル抗体を含有するこの種のワクチンに関する未解決の技術的問題は、周囲温度における低い安定性である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、水酸化アルミニウム(アルム(alum))又はリン酸アルミニウムから選択されたアルミニウム化合物上に吸着され、水性緩衝系中で懸濁された、抗イデオタイプであるMEN2234を含有する非経口適用(好ましくは、皮下又は筋肉内)のための医薬処方を請求する。
【0022】
高い濃度のアルミニウム化合物をアジュバントとして使用することは、下記の予期せぬ臨床的及び医薬的な利点を有するワクチンを提供する:
【0023】
I.体液性及び細胞性反応の両方に関して非常に特異的な免疫原性の確保
II.免疫反応の長時間の誘導及び持続の保証
III.安全な薬物投与の保証
IV.最終的な薬品に関する製造及び放出手法の単純化
V.製造工程における一貫性の上昇
VI.関連する温度範囲における薬品安定性の向上
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明による医薬組成物は、0.1mg/mL〜4mg/mLの量で抗イデオタイプ抗体であるMEN2234を含有しており、好ましくは、0.2mg/mL〜2.5mg/mLであり、より好ましくは、約2mg/mLの濃度(1.9〜2.1mg/mL)である。抗体MEN2234は、アルミニウム化合物上に吸着され(好ましくは、約3.5mg/mLのアルミニウムの濃度)、緩衝性で且つ等張性の生理食塩水に懸濁される。本発明の組成物は、アルミニウム化合物上に吸着された抗体及び緩衝液の塩に加えて、その他のいかなる材料も必要なく、安定化剤、抗酸化剤、その他のアジュバントなどのその他の薬剤の使用に由来する可能性のあるさらなる安全性の懸念がない非常に簡単な解決法をもたらす。
【0025】
好適な緩衝液は、リン酸又はクエン酸塩から得たものである。
【0026】
最終的な組成物は、好ましくは皮下又は筋肉内注射を介して非経口的に投与されるべき製品を、好ましくは1mL含有する。
【0027】
本発明の主要な特徴のひとつは、吸着剤上へのほぼ完全なMEN2234の吸着を保証するのに、リン酸アルミニウム及び水酸化アルミニウムから選択された、比較的高い濃度のアルミニウム化合物を必要とすることである(表1参照)。
【0028】
組成物における好適なアルミニウムAl+++の濃度は、2.4〜5.2mg/mLであり、最も好ましくは、約3.5mg/mL(3.1〜3.8mg/mLの範囲)であって、これらは、水酸化アルミニウムの含量で、0.7〜1.5%w/wの範囲、好ましくは約1%w/w(0.9〜1.1%)に対応する。
【0029】
【表1】

【0030】
1%の水酸化アルミニウムの含量は、1mL当たり約3.5mgのアルミニウムAl+++に対応し、登録され且つ市販されるワクチンに現在使用され、且つ当局に一般的に推奨されている含量よりも高いものである。
【0031】
本発明の処方は、本技術分野公知の標準法に従って調製してもよい。使用し得る一般的方法は、以下の通りである。最終製品の製造は、抗体溶液及びアジュバント(アルミニウム化合物のゲル)を所定の条件下で攪拌することにより、行われる。薬物製品は、欧州薬局方のモノグラフ”Parenteral preparation”に従った滅菌性の要件を満たす必要がある。従って、製造工程は、規定要件に従って、無菌条件下で厳密に行われる。使用する全ての材料は、滅菌グレードであるか、製造中、溶液の形態で0.22μmのフィルターを介して濾過される。
【0032】
本発明による処方は、下記の一貫した利点のグループを示す。
【0033】
I.体液性及び細胞性反応に関する非常に高い特異的免疫原性の保証
月を通じた本発明の組成物の処理(4週間のs.c.投与)がアルミニウム化合物の濃度に依存した量で特異的な体液性反応(MEN2234に対する特別の抗体)を誘導し得ることを示す。事実、1%の水酸化アルミニウムを有する処方(例1)で惹起された体液性反応の程度が、0.36%の水酸化アルミニウム(欧州薬局方及び米国食品医薬品局のガイドラインで示されている上限に対応)を含有する懸濁液又はMEN2234を有する緩衝生理食塩水の溶液で惹起されるものよりも有意に優れていることを示した。
【0034】
【表2】

【0035】
また、特定の細胞性免疫反応の構築に必要な炎症性細胞及び抗原提示細胞の動員を測定するため、注射部位において組織的評価を行った。また、このパラメータに関し、1%の水酸化アルミニウムを有する処方(例1)に対する反応は、より低いAl(OH)含量(0.36%)の懸濁液又はAl(OH)を有さないMEN2234溶液で達成されたものよりも非常に優れていた。
【0036】
【表3】

【0037】
II.免疫反応の長時間の誘導及び保持の保証
ウサギにおいて、例1の組成物を用いた免疫接種(4週間の注射)の後、免疫反応が、長時間に亘り持続し、且つ数週間経過した後であっても、血漿中に特定の抗体が検出可能であることを示した。他方、より低い含量のAl(OH)(0.36%)のMEN2234懸濁液又はアジュバントを有さない溶液としてのMEN2234を用いて免疫接種を行った場合、短期間だけ抗体の存在が検出可能であった。
【0038】
III.安全な薬物投与の保証
2mg/mLの投与量のs.c.注射として、26週間まで、本発明のMEN2234の懸濁物をウサギに投与した。投与スキームは、一ヶ月目は、毎週、残りの期間は、2週間に一度の割合であった。局所性耐性及び全身性の安全性を評価した。15の処理の後であっても、体重、臨床的兆候、食餌消費、血液、臨床化学、全ての臓器の組織病理の点で、有毒作用は記録されなかった。注射部位においてのみ、薬物の薬理作用の結果としての炎症性及び免疫反応が観察された。
【0039】
また、フリーのマウス抗体の量を低減し得る本発明により、吸収が低下し、且つ全身循環のピークが低下し、従って、アナフィラキシー反応のリスクが低減される。
【0040】
IV.最終薬物製品に関する製造及び放出手法の単純化
約1%の水酸化アルミニウムは、MEN2234の完全な結合を保証する(1%未満の非吸着抗体)。このことは、非常に強固な吸着性をもたらし、また、破傷風やジフテリアなどのワクチンを含有する多くのアルミニウムに通常必要なin vivoでの放出試験(実験動物での免疫反応)の必要がない製造方法をもたらす。完全な吸着により、宿主の免疫反応に対して最適な抗体(Ab2)の提示を保証する。
【0041】
両物質の理想に近い化学量論的分布がリン酸緩衝溶液で達成されたことが、MEN2234−水酸化アルミニウム吸着機構の詳細な検討により明らかになった。このことは、上記した通り、本発明の自己集合した特性のため、簡単で強固な製造方法を保証する。15秒の標準的な混合の後に既に、抗体は、水酸化アルミニウム上に完全に吸着される(表4)。
【0042】
【表4】

【0043】
表1から分かるように、0.75%未満のアジュバントの濃度では、完全な吸着は達成されなかった;1%よりも高い濃度(例えば、2%)では、追加の向上性を示さなかった。
【0044】
推奨されているよりも高い濃度の吸着性のアルミニウム化合物上へのMEN2234の非常に速く完全な吸着により、薬物としての組成物の製造をかなり単純化し得る。数秒の間に、モノクローナル抗体とアジュバントとを単に混合することにより、最終処方が得られる。この混合ステップは、医薬工場における無菌工程のための標準的な装置を用いて通常通りに実行され得る。述べた系の自己集合する特徴は、吸着されたモノクローナル抗体又は一般的なワクチンとともに本発明の処方の製造及び安定化に完全に新たな展望へと導く。また、数秒の間のアルミニウムアジュバント上へのMEN2234の完全な吸着により、患者の最終的な適用場所、例えば病院において、s.c.又はi.m.注射の直前に必要量の薬物及びアルミニウムアジュバントを混合するだけで、最終懸濁液の調製が可能となる。
【0045】
従って、本発明の特別な態様は、活性本体であるワクチン(抗体MEN2234)及びアジュバント(アルミニウム化合物、好ましくは水酸化アルミニウム)を別々に保持し、且つ患者への注射の直前に混合され得る準備の整った形態で提供されるものである。この混合ステップの好適な時間は、患者に投与する前10秒〜10分であるべきである。
【0046】
特定の形態に関して、組成物は、抗体とアジュバント溶液とが別々に提供されるべきであるが、バイアル、アンプル、前もって充填されたシリンジ又は混合及び/若しくは再構築のための適当な2つのチャンバーシステムなどの医薬の標準的な容器に充填されてもよい。モノクローナル抗体は、最終的に緩衝溶液の形態で使用されてもよく、また、例えば粉末の形態で使用されてもよい。個体の形態の薬物を使用する可能性により、モノクローナル抗体又はワクチン(凍結乾燥品、噴霧乾燥品など)の安定性の向上を意図した全ての技術を適用可能である。このことは、一般的な吸着されたワクチンの全てについて、特に、MEN2234などのモノクローナル抗体を含有するものについての取扱性の有意な進展及び安定性の向上を示す。輸送及び保存中の永続的な冷却連鎖などの吸着されたワクチンの主要な欠点は、回避され、薬物の保管寿命は、増加可能である。
【0047】
言及したように、モノクローナル抗体を含有する医薬組成物のin vivoにおける免疫活性は、様々な様式における使用される吸着剤上への抗体の吸着の程度に依存する(非特許文献3)。従って、薬物放出の前の動物における「in vivo」での(吸着された)ワクチンの生物学的免疫活性を同定することが本技術分野の現状である。アルミニウムアジュバント上へのMEN2234の再現可能な吸着は、放出手法を有意に単純化する。吸着性の信頼性のため、放出試験は、組成物の有効性を同定するためのin vitroでの試験にのみ依拠することができる。動物における「in vivo」での生物活性を同定する通常の手法は、本発明の組成物に関し、不必要である。
【0048】
V.薬品製造における一貫的な向上性
例えば推奨されている高い濃度の水酸化アルミニウムを使用したMEN2234の吸着の再現性により、薬物製造における一貫性が有意に向上する。表5に示したように、水酸化アルミニウムの濃度が組成物において0.7〜2%w/vの範囲の場合、MEN2234の吸着は、製造した全てのバッチに関して完全(1%未満のフリーの抗体)である。
【0049】
【表5】

【0050】
完全で再現性のある吸着性により、抗体凝集物の形成などのさらに懸念される加工中の問題が回避される。溶液中の抗体は、凝集物を形成する可能性がある。溶液中での抗体の凝集は、例えば攪拌など液相中での過度なせん断力により、誘導され得る。これらの凝集物は、再溶解可能ではなく、ワクチンの生物活性が有意に低下する。しかしながら、完全で急速な吸着工程のため、このような減少は、本発明の組成物の目的の全体で回避され得る。
【0051】
VI.関連する温度範囲における薬品の安定性の向上
驚くべきことに、例1の組成物は、緩衝化されたMEN2234溶液と比較して、はるかに安定である(25℃及び37℃においても)。この単純で有効な手段(水酸化アルミニウム濃度の増加は、推奨される投与量の2又は3倍までである)は、ほぼ完全な結合を保証し、また、安定性も保証する。表6において、溶液中で、且つ例1に従って処方されたMEN2234についての関連する安定性データを示す。
【0052】
【表6】

【0053】
従って、本発明は、ヒトに投与した後、関連する体温(36〜37℃)における必要とされる抗体の安定性及び活性を保証する。
【0054】
本発明の非限定的な例は、下記の通りである。
【0055】
例1:注射用懸濁液
材料 mg/mL
MEN2234 2.00
Al(OH) 10.00
KCl 0.20
KHPO 0.20
NaCl 8.00
NaHPO×7HO 2.16
注射用水 全1.00mL
*吸着用の、水和した水酸化アルミニウムの製造に使用した。
【0056】
上述の通り、MEN2234を、関連する塩で緩衝化した溶液中で、水酸化アルミニウムの懸濁液と簡単に攪拌するという標準的な方法に従って組成物を調製した。
【0057】
例2:注射用懸濁液
材料 mg/mL
MEN2234 2.00
Al(OH) 7.50
KCl 0.20
KHPO 0.20
NaCl 8.00
NaHPO×7HO 2.16
注射用水 全1.00mL
*吸着用の、水和した水酸化アルミニウムの製造に使用した。例1と同様に調製した。
【0058】
例3:注射用懸濁液
材料 mg/mL
MEN2234 2.00
AlPO 10.00
KHPO 0.20
NaCl 9.00
NaHPO×7HO 1.20
注射用水 全1.00mL
例1と同様に調製した。
【0059】
例4:MEN2234(abagovomab)のアミノ酸配列の同定
配列番号1
重鎖配列
QVQXQQSGAE XARPGASVKX SCKASGYTFT NYWMQWVKQR PGQGXDWXGA XYPGDGNTRY 60
TQKFKGKATX TADKSSSTAY MQXSSXASED SAVYYCARGE GNYAWFAYWG QGTXVTVSAA 120
KTTPPSVYPX APGSAAQTNS MVTXGCXVKG YFPEPVTVTW NSGSXSSGVH TFPAVXQSDX 180
YTXSSSVTVP SSTWPSETVT CNVAHPASST KVDKKXVPRD CGCKPCXCTV PEVSSVFXFP 240
PKPKDVXTXT XTPKVTCVVV DXSKDDPEVQ FSWFVDDVEV HTAQTQPREE QFNSTFRSVS 300
EXPXMHQDWX NGKEFKCRVN SAAFPAPXEK TXSKTKGRPK APQVYTXPPP KEQMAKDKVS 360
XTCMXTDFFP EDXTVEWQWN GQPAENYKNT QPXMDTDGSY FVYSKXNVQK SNWEAGNTFT 420
CSVXHEGXHN HHTEKSXSHS PGK
【0060】
配列番号2
軽鎖配列
DIQMTQSPAS LSASVGETVT XTCRASENXY SYXAWHQQKQ GKSPQXXVYN AKTXAGGVSS 60
RFSGSGSGTH FSXKXKSXQP EDFGXYYCQH HYGXFPTFGG GTKXEXKRAD AAPTVSXFPP 120
SSEQXTSGGA SVVCFXNNFY PKDXNVKWKX DGSERQNGVX NSWTDQDSKD STYSMSSTXT 180
XTKDEYERHN SYTCEATHKT STSPXVKSFN RNEC
【0061】
abagovomabにおけるアミノ酸配列の同定の第一部は、エドマン分解法に従った自動の配列技術を用いて、abagovomabが配列メンブレンに共有結合された蛋白シークエンサー中で行った(軽鎖の最初の15個のアミノ酸)。
【0062】
自動化されたエドマンシークエンシングは、重鎖の配列データの生成をすることができず、このことは、重鎖のN末端基がピログルタミン酸に改変されていることを示唆するものであるので、さらなる配列解析のため、質量分光分析を利用して、公知のLC/MS/MS配列解析技術を使用した(非特許文献16)。
【0063】
簡潔にいえば、LC/MS/MS分析の前に異なる蛋白分解酵素を用いて異なる抗体サンプルを断片化し、複数の一連の重なり合う配列フラグメントを得た。これらのフラグメントの重なりあうスキームを見出すことにより、抗体の軽鎖の全配列(軽鎖及び重鎖の完全なアミノ酸配列は、配列番号1及び2に示す通りである。)を同定することが可能となった。
【0064】
実験結果の信頼性に関する最終チェックのように、ここに報告した配列は、蛋白質分析に関して最適化された非冗長な蛋白質データベース(non redundant protein database)に対してBLASTソフトウェアパッケージを用いた配列類似分析によっても検証された(MSDB、European Bioinformatics Instituteのftpサイトから2007年3月にダウンロードしたもの)。
【0065】
質量分光分析において、イソロイシン及びロイシンを区別することは不可能であるので、図1では、この区別できない状態を「X」で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチンとしての非経口投与用の医薬組成物であって、
モノクローナル抗体及び、アジュバントとして2.4〜5.2mg/mLのイオン濃度のアルミニウム誘導体を有し、
前記モノクローナル抗体は、配列番号1及び2からなる、抗イデオタイプモノクローナル抗体の抗CA125であるMEN2234であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記アルミニウム誘導体は、3.1〜3.8mg/mLのアルミニウムイオン濃度であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記のアルミニウム化合物は、水酸化アルミニウム及びリン酸アルミニウムから選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記のアルミニウム化合物は、水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記MEN2234は、0.1〜4mg/mLの含量で存在することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記MEN2234は、0.2〜2.5mg/mLの含量で存在することを特徴とする請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記MEN2234は、1.9〜2.1mg/mLの含量で存在することを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記MEN2234は、前記のアルミニウム化合物上に吸着され、緩衝化された等張性の生理食塩水溶液中に懸濁されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
非経口投与に適する、液体懸濁液の形態であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
皮下又は筋肉内投与に適することを特徴とする請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記MEN2234及び前記のアルミニウム化合物の懸濁液は、別々に保存され、患者に投与される直前に混合されるべく準備が整っていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記MEN2234及び前記のアルミニウム化合物の混合は、患者への投与前10秒〜10分の間に実行されることを特徴とする請求項11に記載の組成物の調製方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法で得たことを特徴とする医薬組成物。
【請求項14】
a)2.00mg/mLのMEN2234、 10.00mg/mLのAl(OH)、0.20mg/mLのKCl、 0.20mg/mLのKHPO、8.00mg/mLのNaCl、 2.16mg/mLのNaHPO・7HO、及び注射用水で全量1.00mLとしたもの;
b)2.00mg/mLのMEN2234、7.50mg/mLのAl(OH)、0.20mg/mLのKCl、0.20mg/mLのKHPO、8.00mg/mLのNaCl、2.16mg/mLのNaHPO・7HO、及び注射用水で全量1.00mLとしたもの;
c)2.00mg/mLのMEN2234、10.00mg/mLのAlPO、0.20mg/mLのKHPO、9.00mg/mLのNaCl、1.20mg/mLのNaHPO・7HO、及び注射用水で全量1.00mLとしたもの;
から選択されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
腫瘍を処置又は予防するための抗腫瘍ワクチンとして使用されることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
卵巣腫瘍を処置するための抗腫瘍ワクチンとしての請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の医薬組成物の調製のための水酸化アルミニウム及びリン酸アルミニウムから選択されるアルミニウム化合物の使用であって、
前記アルミニウム化合物の濃度は、2.4〜5.2mg/mLの範囲のアルミニウムイオンであることを特徴とする使用。

【公表番号】特表2009−541448(P2009−541448A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517202(P2009−517202)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056465
【国際公開番号】WO2008/000789
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(500047228)メナリニ インターナショナル オペレーションズ ルクセンブルグ ソシエテ アノニマ (6)
【Fターム(参考)】