説明

抗ウイルス剤

ビフィズス菌の一種であるビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液について、これまで知られていなかった抗ウイルス活性が存在することを明らかにし、かかる知見に基づいて、全く新しい抗ウイルス剤を提供することであり、嫌気性菌であるにビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤であり、詳細には、ビフィドバクテリウム・ロンガムを、ゲル化剤であるコーンスターチを含有する培地を用いて培養して得た培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤、また、かかる培養上清液を有効成分とする異常プリオン症候群ならびにアルツハイマー症候群の予防・治療剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性菌の一種であるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
嫌気性菌であるビフィズス菌(Bifidobacterium)は、母乳栄養児の腸内ではほとんど純粋培養に近い状態で存在しており、その一方、人工栄養児の腸内では、ビフィズス菌の菌数は少なく、大腸菌(Escherichia coli)、腸球菌(enterococcus)等が多く、腸内感染疾患が高くなることが知られている。
【0003】
母乳栄養児は、母体からの母乳の免疫力により細菌、ウイルスなどの感染に対する抵抗力が強いとされているが、そればかりでなく、ビフィズス菌が腸内において嫌気性条件下で、ほとんど純粋培養に近い状態で培養され、その培養液が豊富に存在するであろうことも無関係ではない。
【0004】
また、成人においても、ビフィズス菌は腸内において健康時の優勢菌の一つとして存在しているが、不健康な状態ではそのビフィズス菌が減少または消滅していることが確認されている。したがって、ビフィズス菌を用いた各種の医薬品、醗酵乳酸飲料をはじめとする健康食品、清涼飲料水等が提案、市販されており、ビフィズス菌を経口摂取することにより、成人あるいは乳児の下痢防止や、健康維持のために利用されている。
【0005】
ビフィズス菌は、経口摂取された場合、腸内で多量の乳酸、揮発酸を産生し、腸内pHを低下させ、大腸菌などの病原菌の発育を抑制し、腸ぜん運動を促進し、腸内菌叢異常による便秘、下痢などを改善するものであるといわれている。
【0006】
このように、ビフィズス菌はヒトの健康維持に極めて効果的なものであり、多くの場合、ビフィズス菌の培養液を用い、それに各種添加剤を添加した醗酵製品として健康飲料に調製し、提供されている。また、ビフィズス菌の生菌菌体を集め乾燥した後、デンプン、乳糖、白糖などの適当な賦形剤と混合し、散剤、錠剤などに成形し、整腸剤として用いられている。
【0007】
ところで、ビフィズス菌のなかでもビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)については、これまであまり積極的に研究されてきていない。ごく最近になって、このビフィドバクテリウム・ロンガムの培養物について、種々医薬品としての応用が提案されているが、それらはいずれも、ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌体を含む培養物を含有する飲食物(特許文献1)、糖尿病合併症の予防・改善・治療剤(特許文献2)、コレステロール低下剤(特許文献3)等である。
しかしながら、これらで提案されている医薬品において、有効成分として含有されるビフィドバクテリウム・ロンガムの培養物は、いずれも培養物を全体として用いるものであり、菌体と培養上清液を分画して、得られた個々の成分の薬理活性については、検討なされていない。
【0008】
【特許文献1】特開2003−250530
【特許文献2】特開2003−252770
【特許文献3】特開2003−238423
【0009】
本発明者等は、このビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液が有する薬理作用に注目し、特にその培養上清液の薬理作用について検討してきた。その結果、驚くべきことに、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液には、極めて強力な抗ウイルス活性が存在することを確認し、本発明を完成させるに至った。
ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液に抗ウイルス活性が存在することは、今まで全く知られていなかったものであり、その点で本発明は極めて特異的なものであるといえる。
【0010】
また、本発明者等の検討によれば、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液には、異常プリオン蛋白質の増殖による疾患である牛の狂牛病(牛海綿状脳症:BSE:Bovine Spongiform Encephalopathy)、ヒトにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD:Creutzfeldt Jakob Disease)や、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS:Gerstmann-Staussler-Scheinker Syndrome)、あるいは脳に対するそれに類する症候としてのアルツハイマー症候群(Alzheimer's Syndrome)に対して、その予防・治療効果があることを見出した。
したがって本発明は、これらの新たな知見に基づいて完成させたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明は、ビフィズス菌の培養上清液について、これまで知られていなかった抗ウイルス活性が存在することを明らかにし、かかる知見に基づいて、全く新しい抗ウイルス剤を提供すること、さらには、異常プリオン症候群ならびにアルツハイマー症候群の予防・治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するための本発明は、その一つの基本的態様として、嫌気性菌であるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の培養上清液を有効成分とすることを特徴とする抗ウイルス剤である。
【0013】
このビフィドバクテリウム・ロンガムはビフィドバクテリウム属の嫌気性菌であり、培養は通常酸素のない状態で行われるものであるが、本発明においては、かかる嫌気性状態を保つため、ゲル化剤を含有する培地を用いて培養した場合に、得られた培養上清液に強力な抗ウイルス活性が存在することが判明した。したがって本発明は、具体的には、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液が、ビフィドバクテリウム・ロンガムを、ゲル化剤を含有する培地を用いて培養して得た培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤である。
【0014】
より具体的には、本発明は、ゲル化剤を含有する培地としてのゲル化剤が、コーンスターチ、アルギン酸および寒天から選択される少なくとも1種であり、なかでもゲル化剤としてコーンスターチを含有する培地を用いて培養して得た培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤である。
【0015】
ビフィズス菌は嫌気性菌であり、一般的には、Bifidobacterium bifidiumが標準種である。このものは母乳あるいは人工授乳中の乳児および老人の糞便および消化管にみられ、ヒト、その他の動物に対する病原性は認められていない。また、乳酸桿菌属(Lactobscillus)のなかで、Lactobacillus bifidus susp. Pennsylvanicus(ペンシルバニア亜種ビフィズス菌)もビフィズス菌の1種として分類されている。本願発明は、これらの標準的なビフィズス菌の培養液ではなく、特に、ビフィズス菌としてビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液に極めて強力な抗ウイルス活性があることが判明した。
【0016】
したがって本発明は、最も具体的な態様としては、培養菌体としてビフィドバクテリウム・ロンガムをゲル化剤含有する培地を用いて培養して得た培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤であり、また、ゲル化剤としてコーンスターチを用いて培養して得た培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤である。
【0017】
また本発明は、別の態様として、嫌気性菌であるビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液を有効成分とすることを特徴とする異常プリオン症候群、またはアルツハイマー症候群の予防・治療剤である。
より具体的には、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液が、ビフィドバクテリウム・ロンガムを、ゲル化剤としてコーンスターチを含有する培地を用いて培養して得た培養上清液である異常プリオン病治療剤、またはアルツハイマー病治療剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記したように嫌気性菌であるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤ならびに異常プリオン症候群、またはアルツハイマー症候群の予防・治療剤である。
これまで、ビフィズス菌の生菌体(乾燥菌体)そのもの、あるいはその培養液全体を有効成分とする医薬品あるいは健康飲料、清涼飲料等は知られており、その作用は、腸内で多量の乳酸等を産生して、腸内pHを低下させることによる大腸菌などの病原菌の発育を抑制作用であったが、極めて強力な抗ウイルス活性が認められたのは全く新規なものである。したがって、病原性のウイルスを死滅、またはその生育を抑制することから、抗ウイルス剤として、例えば水痘ウイルス、麻疹ウイルス、ムンプウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス(コロナウイルスの一種)、ウエストナイルウイルス、ATL(Adult T-cell Leukemia:成人T細胞白血病)ウイルスおよびHIVウイルス等に起因する疾患の治療に極めて有効なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の特徴を詳細に説明することにより、本発明を説明していく。
本発明は、その基本的態様は、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤である。なお、本明細書にいう「抗ウイルス剤」とは、ウイルス感染の予防、ウイルス感染によるウイルスの増殖抑制、ウイルス感染によるウイルス価の消滅等の効果を発揮する態様における抗ウイルス剤をいう。
【0020】
一般に、ビフィドバクテリウム・ロンガムの液体培養は、培養中の嫌気性条件を保持するため、培地にシステインまたはアスコルビン酸等の還元剤を添加して行っている。しかしながら、これらの還元剤は高価なものであり、工業的な培養には不向きである。その点を改良するべく、培養基礎培地をゲル状態とし、液体培地内への酸素の混入を抑えることにより嫌気性条件とした場合に、極めて良好にビフィドバクテリウム・ロンガムの培養が行い得ることが判明した。
【0021】
用いられるビフィドバクテリウム・ロンガムの培養基礎培地としては、特に制限されるものではなく、通常のビフィズス菌の培養に用いられる液体培地を上げることができる。例えば、炭素源、窒素源、無機質その他の添加剤としてペプトン、肉エキス、酵母エキス、グルコース、リン酸水素カリウムおよび精製水からなる液体培地(そのpHとして、ほぼ中性ないし弱酸性)を用いるのがよい。本発明にあっては、その液体培地をゲル化状態とするために、ゲル化剤を添加する。そのようなゲル化剤としては、コーンスターチ、アルギン酸および寒天から選択される少なくとも1種を選択することができ、そのなかでもコーンスターチを添加して培地に粘性を高めることにより酸素の混入を防ぎ、嫌気性条件とすればよい。なお、ゲル化にあたっては、液体培地の均一なゲル化状態を保持するために、例えば、Tween 80の乳化剤(界面活性剤)を一緒に少量添加するのがよい。
【0022】
本発明が提供するビフィドバクテリウム・ロンガム培養上清液を得るため行うビフィドバクテリウム・ロンガムの培養は、例えば、以下のようにして行うことができる。
上記した、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、グルコース、リン酸水素カリウムおよび精製水からなる液体培地(pH6.8)に、例えばコーンスターチの10%水溶液を加え、さらに精製水を加えた後、Tween 80を少量添加し、約80℃程度に加熱し、コーンスターチにより培地を糊化させる。次いで、冷却した後培地のpH調整(中性ないし弱酸性)を行い、さらに精製水を加えてビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液体培地とする。
なお、この液体培地の調製は、ビフィドバクテリウム・ロンガムが培養し得る液体培地である限り、種々の変形を行うことができることはいうまでもない。
【0023】
上記で得られた液体培地を用いたビフィドバクテリウム・ロンガムの培養は、具体的には以下のようにして行うことができる。すなわち、上記で得た液体培地を高圧滅菌した後、例えば、培地100mLあたりビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液を5mL程度接種し、通常の条件下で培養を行う。例えば、増殖度(液の白濁度)を目安に、37℃にて約72時間程度培養を行う。
【0024】
以上の基本的培養方法により、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養が完了する。なお、上記の培養方法は、その一例として記載したものであり、種々の変形を行い得ることはいうまでもない。
本発明が提供する抗ウイルス剤は、このようにして培養されたビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液であるが、培養上清液を得るには、培養が完了した液体培地を遠心分離し、菌体を分離することにより行い得る。
なお、培養液の遠心分離にあたって、培養終了後の培地の粘度が高い場合には、例えばデンプン分解酵素であるアミラーゼを添加し、デンプンの分解を行った後、遠心分離すればよい。
なお、培養上清液を採取した残りの培養菌体についても、抗ウイルス活性が認められたことより、本発明が提供する抗ウイルス剤はこれらの培養上清液、または培養菌体を有効成分とするものであり、そのいずれであってもよい。
【0025】
本発明の抗ウイルス剤は、上記で得られた培養上清液を、製剤学的に許容される適当な希釈剤を用い、そのまま適宜希釈して、液剤として調製することができる。
かかる液剤は、例えば噴霧等のスプレー剤、懸濁剤等として、口腔粘膜、鼻粘膜へスプレー投与することができる。また、微細な粒子として経肺投与することもできる。
ウイルス感染の中でもインフルエンザウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス(コロナウイルスの一種)等の感染は、口腔粘膜、鼻粘膜経由で感染されることを考えると、このスプレー剤、懸濁剤等は、本発明の抗ウイルス剤の投与手段として効果的なものである。また、微細な粒子としての経肺投与も、これらのウイルス感染に対する予防、治療として有効な投与手段である。
【0026】
さらに、上記で得られた培養上清液を、製剤学的に許容される担体と共に混和し、噴霧乾燥し、散剤として経口投与製剤とすることもできる。また得られた散剤を、適当な賦形剤、滑沢剤と練合し、顆粒剤、錠剤等とすることもできる。このような剤型は、例えば血液感染によるHIVウイルス、ATLウイルス、蚊などより媒介されるウエストナイルウイルスによる西ナイル熱脳炎等の感染に対して有効なものである。
【0027】
これらの製剤は、いずれも日本薬局方の「製剤総則」に記載の方法に準じ調製することができ、用いられる担体、賦形剤、滑沢剤、流動化剤、崩壊剤、結合剤、等張化剤、安定化剤等としては、製剤学的に汎用されている各種のものを適宜選択して、使用することができる。
【0028】
本発明が提供する抗ウイルス剤における有効成分であるビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液の投与量は、一概に限定されない。一般的には、投与されるべき患者の性別、年齢、体重、その症状等により異なるが、要は抗ウイルス活性を発揮し、ウイルス感染の予防、感染の抑制、ウイルス価の消滅等が得られる用量を投与すればよい。
【0029】
本発明が提供する抗ウイルス剤は、具体的には、水痘ウイルス、麻疹ウイルス、ムンプウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス(コロナウイルスの一種)、ウエストナイルウイルス、ATLウイルスおよびHIVウイルス等に起因する疾患の治療に極めて有効なものである。特に、ウイルス感染を効果的に抑制することができた点からみれば、ウイルス感染予防剤として極めて有効なものであるといえる。
【0030】
また、本発明が提供する培養上清液または培養菌体を有効成分として含有する異常プリオン症候群ならびにアルツハイマー症候群の予防・治療剤における投与量も一概に限定されない。投与されるべき患者の性別、年齢、体重、その症状等により異なるが、一般的に、上記した抗ウイルス剤と同程度の含有量である。
さらに、異常プリオン症候群ならびにアルツハイマー症候群の予防・治療剤における剤型も特に制限されず、種々の剤型をとることができる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を、実施例、試験例等によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
【0032】
実施例1:ビフィズス菌の培養液上清液の調製(その1:ゲル化条件下での培養)
基礎培地として、以下の組成からなる液体培地(pH6.8)を用いた。
ペプトン 10.0g
肉エキス 5.0g
酵母エキス 5.0g
グルコース 10.0g
リン酸水素カリウム 3.0g
Tween 80 1.0mL
精製水 1000mL
【0033】
上記の液体培地25mLに、10%コーンスターチ水溶液10mLを加え、さらに精製水にて全量を40mLとした。この液体培地を75〜80℃に加熱して、コーンスターチを糊化させ、均質なゲル状溶液とし、冷却し、液体培地のpHを5.8に調製した。
【0034】
次いで、上記で得られた液体培地20mLを試験管にとり、115℃/20分の高圧滅菌をした後、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液0.5mLを接種し、37℃にて72時間培養を行った。培養が進むにつれて液体培地は白濁した。
【0035】
培養終了後、培養液をpH5.0〜6.0に調整し、適量のアミラーゼを添加し、約50℃にて30分間放置し、デンプンの分解を行った。冷却後、溶液を3000rpm/20分間の遠心分離を行い、目的とする培養上清液を得た。
【0036】
実施例2:ビフィズス菌の培養液上清液の調製(その2:ゲル化条件でない培養)
基礎培地として実施例1に記載の組成中、Tween 80を除いた液体培地を用いた。
液体培地20mLを試験管にとり、115℃/20分の高圧滅菌をした後、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液0.5mLを接種し、嫌気性条件下で37℃にて72時間培養を行った。培養が進むにつれて液体培地は白濁した。
培養終了後、培養液を3000rpm/20分間の遠心分離を行い、目的とする培養上清液を得た。
【0037】
試験例1:培養上清液の抗ウイルス活性(in vivo)
上記の実施例1で得られた培養上清液の抗ウイルス活性を試験した。なお、対照として乳酸菌培養液、酪酸菌−乳酸菌混合培養液等と対比した。
(1)試験試料
【0038】
試料1:上記で得られた本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液上清液。
試料2:ビフィズス菌として、ビフィドバクテリウム・アドレスセンチ(Bifidobacterium adolescenti)を用い、実施例1と同様に培養して得た培養上清液。
試料3:乳酸菌として、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)を用い、実施例1と同様に培養して得た培養上清液。
試料4:試料3の2倍濃度液。
試料5:試料3を得た沈澱菌体。
試料6:酪酸菌−乳酸菌混合培養菌体。
試料7:乳酸菌の標準菌であるラクトバチラス・デルブリュック(Lactobacillus delbrueeki)を用い、実施例1と同様に培養して得た培養上清液。
(2)方法
【0039】
BALB/cマウス(1群5匹)に、上記の各試料を片鼻に5μL接種し前処理を行った。接種後6時間後に、100pfuのインフルエンザウイルスPR8を約1.5μL接種し、感染させた。感染3日後に鼻腔洗浄液中のウイルス価を測定した。
なお、ネガティブコントロールとして、無処理群をおいた。
(3)結果
【0040】
その結果(5匹平均値)を、下記表1に示した。表中の結果からも判明するように、本発明の試料1で前処理を行っていた群のマウスでは、ウイルスの増殖が全く認められず、強力なウイルス増殖抑制効果が確認された。
【0041】
【表1】

【0042】
試験例2:培養上清液の殺菌活性(in vitro)
試験例1で使用した各試料1〜6を用い、下記表2に記載の濃度の溶液をサルモネラ菌(S. typhimurium)の1×10CFUと共に1時間インキュベートし、生存した菌を栄養寒天培地で増殖させ、殺菌活性を定量した。なお、細菌学的検定を3回繰返した。
その結果を下記表2に示した。
データは、Positive controlとして、サルモネラ菌(S. typhimurium)の1×10CFUを死滅させた値を100%とし、被曝細菌に対する死滅パーセントで表示した。
【0043】
【表2】

【0044】
表中に示した結果からも判明するように、本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液には、他のビフィズス菌あるいは乳酸菌の培養液と同様に、殺菌効果があることが確認された。
【0045】
上記の試験例1および試験例2の結果から、本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液には殺菌作用と共に、極めて強力な抗ウイルス活性が認められている。これに対し、他の他のビフィズス菌あるいは乳酸菌の培養液には殺菌作用はあるものの、抗ウイルス活性は認められず、その点で本発明が提供するビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液の、特異的効果が確認された。
【0046】
製剤例1:スプレー剤
上記実施例1で得た培養上清液を用いた、スプレー剤を調製した。
処方:
実施例1で得た培養上清液 10mL
エチルパラベン 0.1g
香料 微量
精製水 残部
上記処方により、全量100mLの溶液を調製し、高圧滅菌後、汎用されている容器に充填し、スプレー剤を得た。
【0047】
製剤例2:顆粒剤
上記実施例1で得た培養上清液を用いた、顆粒剤を調製した。
処方:
実施例1で得た培養上清液 100mL
乳糖 200g
トウモロコシデンプン 15g
ヒドロキシプロピルセルロース 30g
ステアリン酸マグネシウム 5g
上記処方により、乳糖、トウモロコシデンプン、ヒドロキシプロピルセルロースを混合造粒機により造粒し、そこに実施例1で得た培養上清液を噴霧し、さらに練合、乾燥して顆粒剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上記載のように、本発明により、嫌気性菌であるビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液を有効成分とする抗ウイルス剤、または異常プリオン症候群あるいはアルツハイマー症候群の予防・治療剤が提供される。
この培養上清液は、安全性が高く、その抗ウイルス活性は極めて強力なものである。これまで、麻疹ウイルス、ムンプウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス(コロナウイルスの一種)、ウエストナイルウイルス、ATL(Adult T-cell Leukemia:成人T細胞白血病)ウイルスおよびHIVウイルス等に起因するウイルス疾患の予防、治療に対し有効な抗ウイルス剤がなかった現状では、本発明は極めて医療上の価値が高いものである。
また、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液には、異常プリオン蛋白質の増殖による疾患である牛の狂牛病(牛海綿状脳症:BSE)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)や、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、あるいは脳に対するそれに類する症候としてのアルツハイマー症候群に対して、その予防・治療効果もあり、医療上の価値は多大なものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性菌であるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の培養上清液を有効成分とすることを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
培養上清液が、ビフィドバクテリウム・ロンガムを、ゲル化剤を含有する培地を用いて培養して得た培養上清液である請求項1に記載の記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
ゲル化剤が、コーンスターチ、アルギン酸および寒天から選択される少なくとも1種である請求項2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
ゲル化剤がコーンスターチである請求項3に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
ウイルス感染の予防効果を発揮することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
ウイルス感染によるウイルスの増殖を抑制する効果を発揮することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
ウイルス感染によるウイルス価の消滅効果を発揮することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項8】
嫌気性菌であるビフィドバクテリウム・ロンガムの培養上清液を有効成分とすることを特徴とする異常プリオン症候群の予防・治療薬。
【請求項9】
嫌気性菌であるビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液上清液を有効成分とすることを特徴とするアルツハイマー症候群の予防・治療薬。
【請求項10】
培養上清液が、ビフィドバクテリウム・ロンガムを、ゲル化剤を含有する培地を用いて培養して得た培養上清液である請求項8または9に記載の予防・治療薬。
【請求項11】
ゲル化剤が、コーンスターチ、アルギン酸および寒天から選択される少なくとも1種である請求項8または9に記載の予防・治療薬。
【請求項12】
ゲル化剤がコーンスターチである請求項11に記載の予防・治療薬。


【公表番号】特表2007−508233(P2007−508233A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515464(P2006−515464)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014811
【国際公開番号】WO2005/034971
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(501369617)
【Fターム(参考)】