説明

抗グリピカン3抗体を含む細胞増殖抑制剤

【課題】 新規な細胞増殖抑制剤を提供すること。
【解決手段】 抗グリピカン3抗体を有効成分として含有する治療剤、ならびに抗グリピカン3抗体及び医薬的に許容される担体又は添加物を含む治療用製剤が開示される。好ましくは本発明の治療用製剤は細胞増殖抑制剤である。また好ましくは、抗グリピカン3抗体はモノクローナル抗体である。また好ましくは、抗グリピカン3抗体は細胞障害活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗グリピカン3抗体を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞表面上に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンの新しいファミリーとしてグリピカンファミリーの存在が報告されている。現在までのところ、グリピカンファミリーのメンバーとして、5種類のグリピカン(グリピカン1、グリピカン2、グリピカン3、グリピカン4およびグリピカン5)が存在することが報告されている。このファミリーのメンバーは、均一なサイズ(約60kDa)のコアタンパク質を持ち、特異的でよく保持されたシステインの配列を共有しており、グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)アンカーにより細胞膜に結合している。
【0003】
中枢神経の発達における細胞分裂パターンが異常なショウジョウバエメラノガスター(Drosophila melanogaster)変異体の遺伝子スクリーニングによ
り、Dally(division abnormally delayed)遺伝子が同定されており、DallyのcDNAは、グリピカンの全ての特徴を含んでいる脊椎動物の膜型プロテオグリカン(GRIPs)と相同配列(24〜26%相同)を示す産物をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を表していることがわかっている。その後、dallyがdpp(decapentaplegia)レセプター機構を調節する役割を持つことが示唆されており、このことから哺乳動物のグリピカンがTGFとBMPのシグナル伝達を調節している可能性を示唆している。すなわち、グリピカンがヘパリン結合性増殖因子(EGF、PDGF、BMP2、FGF's)等)のいくつかの共同レ
セプターとして機能している可能性が示唆されていた。
【0004】
グリピカン3は、ラットの小腸から発生的に調節されている転写物として分離され(Filmus,J.,Church,J.G.,and Buick,R.n.(1988
)Mol.Cell Biol.8,4243−4249)、後にグリピカンファミリー
の、分子量69kDaのコアタンパク質を持った、GPI−結合型のヘパラン硫酸プロテオグリカン、OCT−5として同定された(Filmus,J.,Shi,W.,Wong,Z.−M.,and Wong,M.J.(1995)Biochem.J.311
,561−565)。ヒトにおいても、ヒト胃癌細胞株よりグリピカン3をコードする遺伝子が、MXR−7として単離されている(Hermann Lage et al.,G
ene 188(1997)151−156)。グリピカン3はインスリン様増殖因子−
2とタンパク−タンパク複合体を形成し、この増殖因子の活動を調節することが報告されている(Pilia,G.et al,(1996)Nat.Genet.12,241
−247)。この報告は、グリピカン3が必ずしもヘパラン硫酸鎖によって増殖因子と相互作用しているのではないことを示唆している。
【0005】
また、グリピカン3について肝細胞癌マーカーとして利用できる可能性の示唆は報告されているが(Hey−Chi Hsu et al.,CANCER RESEARCH 5
7,5179−5184(1997))、グリピカン3と癌細胞増殖のはっきりとした関係についての知見はない。
【0006】
さらに、グリピカンが、血管新生阻害剤として作用する可能性があるエンドスタチンの受容体として機能している可能性も示唆されているが(Molecular Cell(
2001),7,811−822)、この機能と細胞増殖との関係も明らかにはなっていない。
【0007】
以上のように、グリピカン3が細胞増殖に関与する示唆はあったものの、その細胞増殖の機構等については不明であり、グリピカン3を細胞増殖の調節に利用する試みも皆無であった。
【0008】
本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nat Genet, 1996, 12(3), p.241-7
【非特許文献2】J Cell Biol, 1998, 141(6), p.1407-14
【非特許文献3】Cancer Res, 1997, 57(22), p. 5179-84
【非特許文献4】Gene, 1997, 188(2), p.151-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、抗グリピカン3抗体を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、抗グリピカン3抗体がADCC(抗体依存性細胞傷害、antibody−dependent cell−mediated cytotoxicity)活性、CDC(補体依存性細胞傷害、complement−dependent cytotoxicity)活性により細胞増殖抑制活性を発揮すること
を見出し、本発明を完成させるに至った。また、抗グリピカン3抗体が増殖因子の作用を阻害することによっても、細胞増殖抑制活性を発揮することも予測される。さらに、抗グリピカン3抗体に放射性同位元素、化学療法剤、細菌由来トキシン等の細胞傷害性物質を結合することによっても、細胞増殖抑制活性を発揮し得る。
【0012】
本発明は、抗グリピカン3抗体を有効成分として含有する治療剤、ならびに抗グリピカン3抗体及び、医薬的に許容される担体又は添加物を含む治療用製剤を提供する。好ましくは本発明の治療用製剤は細胞増殖抑制剤である。また好ましくは、抗グリピカン3抗体はモノクローナル抗体である。また好ましくは、抗グリピカン3抗体は細胞障害活性を有する。
【0013】
別の態様においては、本発明は、
(1) 抗グリピカン3抗体を有効成分として含む細胞増殖抑制剤、
(2) 抗グリピカン3抗体が細胞傷害活性を有する(1)の細胞増殖抑制剤、
(3) 細胞傷害活性が抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性または補体依存性細胞傷害
(CDC)活性である(2)の細胞増殖抑制剤、
(4) 細胞が癌細胞である(1)〜(3)のいずれかの細胞増殖抑制剤、
(5) 細胞が肝癌細胞、肺癌細胞、大腸癌細胞、乳癌細胞、前立腺癌細胞、白血病細胞
、リンパ腫細胞および膵臓癌細胞からなる群から選択される(4)の細胞増殖抑制剤、
(6) 細胞が肝癌細胞である(5)の細胞増殖抑制剤、
(7) 抗体がモノクローナル抗体である(1)〜(6)の細胞増殖抑制剤、
(8) 抗体がヒト型またはキメラ化されたものである(1)〜(6)のいずれかの細胞
増殖抑制剤、
(9) グリピカン3に結合する抗体、
(10) 細胞傷害活性を有する(9)の抗体、
(11) 肝癌細胞に対して細胞傷害活性を有する(10)の抗体、および
(12) 肝癌細胞株HuH−7に対して細胞傷害活性を有する(11)の抗体、
である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、抗グリピカン3抗体(K6534)のHuH−7細胞に対するADCC活性を示す図である。
【図2】図2は、抗グリピカン3抗体(K6511)のHuH−7細胞に対するCDC活性を示す図である。
【図3】図3は、HuH−7細胞上にグリピカンが発現していることを示す図である。
【図4A】図4Aは、ヒト肺癌細胞株についてのGPC3発現のFACS解析の結果を示す図である。抗グリピカン3抗体(K6534)で解析した結果である。
【図4B】図4Bは、ヒト白血病細胞株についてのGPC3発現のFACS解析の結果を示す図である。抗グリピカン3抗体(K6534)で解析した結果である。
【図4C】図4Cは、ヒトリンパ腫細胞株についてのGPC3発現のFACS解析の結果を示す図である。抗グリピカン3抗体(K6534)で解析した結果である。
【図4D】図4Dは、ヒト大腸癌細胞株についてのGPC3発現のFACS解析の結果を示す図である。抗グリピカン3抗体(K6534)で解析した結果である。
【図4E】図4Eは、ヒト乳癌細胞株についてのGPC3発現のFACS解析の結果を示す図である。抗グリピカン3抗体(K6534)で解析した結果である。
【図4F】図4Fは、ヒト前立腺癌細胞株についてのGPC3発現のFACS解析の結果を示す図である。抗グリピカン3抗体(K6534)で解析した結果である。
【図4G】図4Gは、ヒト膵臓癌細胞株およびヒト肝癌細胞株についてのGPC3発現のFACS解析の結果を示す図である。抗グリピカン3抗体(K6534)で解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、抗グリピカン抗体を有効成分として含む細胞増殖抑制剤である。また、本発明は、抗グリピカン抗体を有効成分として含む細胞の異常増殖に基づく疾患、特に癌に対する治療に用い得る細胞増殖抑制剤である。
【0017】
本発明の抗グリピカン3抗体としては、例えばヒト型化抗体、ヒト抗体(WO96/33735号公報)又はキメラ抗体(特開平4−228089号公報)、マウス抗体などの公知の抗体のほか、本発明における抗体などが挙げられる。なお、抗体はポリクローナル抗体でもよいがモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0018】
本発明で使用される抗グリピカン3抗体は、細胞増殖抑制能を有するものであれば、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)および形状を問わない。
【0019】
1.抗グリピカン3抗体
本発明で使用される抗グリピカン3抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗グリピカン3抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。この抗体はグリピカン3と結合して、細胞増殖を抑制する抗体である。
【0020】
このような抗体としては、本発明のハイブリドーマクローンにより産生されるモノクローナル抗体が挙げられる。
【0021】
2.抗体産生ハイブリドーマ
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、グリピカン3を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0022】
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。
まず、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトグリピカン3を、Lage,H.et
al.,Gene 188(1997),151−156に開示されたグリピカン3(MXR7)遺伝子/アミノ酸配列を発現することによって得る。すなわち、グリピカン3をコードする遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のヒトグリピカン3タンパク質を公知の方法で精製する。
【0023】
次に、この精製グリピカン3タンパク質を感作抗原として用いる。あるいは、グリピカン3の部分ペプチドを感作抗原として使用することもできる。この際、部分ペプチドはヒトグリピカン3のアミノ酸配列より化学合成により得ることができる。
【0024】
抗グリピカン3抗体がADCCの作用、CDCによる作用、増殖因子活性の阻害により細胞増殖抑制活性を阻害することから、また抗グリピカン3抗体に放射性同位元素、化学療法剤、細菌由来トキシン等の細胞傷害性物質を結合させることにより、細胞増殖を抑制し得ることから、本発明の抗グリピカン3抗体の認識するグリピカン3分子上のエピトープは特定のものに限定されず、グリピカン3分子上に存在するエピトープならばどのエピ
トープを認識してもよい。従って、本発明の抗グリピカン3抗体を作製するための抗原は、グリピカン3分子上に存在するエピトープを含む断片ならば、如何なる断片も用いることが可能である。
【0025】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が使用される。
【0026】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate−Buffered Saline)や
生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4−21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。
【0027】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0028】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J.Immnol.(1979)123,1548−1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Imm
unology(1978)81,1−7)、NS−1(Kohler.G.and M
ilstein,C.Eur.J.Immunol.(1976)6,511−519)、MPC−11(Margulies.D.H.et al.,Cell(1976)8
,405−415)、SP2/0(Shulman,M.et al.,Nature(
1978)276,269−270)、FO(deSt.Groth,S.F.et a
l.,J.Immunol.Methods(1980)35,1−21)、S194(Trowbridge,I.S.J.Exp.Med.(1978)148,313−323)、R210(Galfre,G.et al.,Nature(1979)277
,131−133)等が好適に使用される。
【0029】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.、
Methods Enzymol.(1981)73,3−46)等に準じて行うことが
できる。
【0030】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0031】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1−10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0032】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、
予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000−6000程度)を通常30−60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0033】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。
【0034】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroでグリピカン3に感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有
するミエローマ細胞と融合させ、グリピカン3への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となるグリピカン3を投与して抗グリピカン3抗体産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞からグリピカン3に対するヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 94/25585号公報、WO 93/12227号公報、WO92/03918号公報、WO 94/02602号公報参
照)。
【0035】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0036】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0037】
3.組換え型抗体
本発明では、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものを用いることができる(例えば、Vandamme,A.M.et al.,Eur.J.Biochem.(1990)192,767−775,19
90参照)。
【0038】
具体的には、抗グリピカン3抗体を産生するハイブリドーマから、抗グリピカン3抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin,J.M.et al.,Biochem
istry(1979)18,5294−5299)、AGPC法(Chomczynski,P.et al.,Anal.Biochem.(1987)162,156−1
59)等により行って全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia製)等を使用して目的のmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いるこ
とによりmRNAを直接調製することもできる。
【0039】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First−stra
nd cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等を用いて行う。また、
cDNAの合成および増幅を行うには、5'−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'−RACE法(Frohman,M.
A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988)85,
8998−9002、Belyavsky,A.et al.,Nucleic Acids Res.(1989)17,2919−2932)等を使用することができる。
【0040】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。そして、目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認する。
【0041】
目的とする抗グリピカン3抗体のV領域をコードするDNAを得たのち、これを、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込む。
【0042】
本発明で使用される抗グリピカン3抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより、宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0043】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523号公報参照)。
【0044】
また、組換え型抗体の産生には上記宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生される蛋白質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert,K.M.et al.,Bio/Technology(199
4)12,699−702)。
【0045】
4.改変抗体
本発明では、上記抗体のほかに、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト型化(Humanized)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0046】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0047】
ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、これは、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したも
のであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP
125023号公報、WO 96/02576号公報参照)。
【0048】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDR及びFR両
方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する(WO98/13388号公報に記載の方法を参照)。
【0049】
CDRを介して連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.etal.,Cancer Res.(1
993)53,851−856)。
【0050】
キメラ抗体及びヒト型化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0051】
キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト型化抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域とからなる。ヒト型化抗体はヒト体内における抗原性が低下されているため、本発明の治療剤の有効成分として有用である。
【0052】
5.抗体修飾物
本発明で使用される抗体は、抗体の全体分子に限られずグリピカン3に結合し、細胞の増殖を抑制する限り、抗体の断片又はその修飾物であってもよく、二価抗体も一価抗体も含まれる。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv、1個のFab
と完全なFcを有するFab/c、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,
2968−2976、Better,M.&Horwitz,A.H.Methods
in Enzymology(1989)178,476−496,Academic Press,Inc.、Plueckthun,A.&Skerra,A.Methods
in Enzymology(1989)178,476−496,Academic
Press,Inc.、Lamoyi,E.,Methods in Enzymology(1989)121,652−663、Rousseaux,J.et al.,Me
thods in Enzymology(1989)121,663−669、Bird,R.E.et al.,TIBTECH(1991)9,132−137参照)。
【0053】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.、Proc.Natl.Aca
d.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12−19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0054】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0055】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0056】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0057】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)や細胞傷害性物質等の各種分子と結合した抗グリピカン抗体を使用することもできる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0058】
さらに、本発明で使用される抗体は、二重特異性抗体(bispecific ant
ibody)であってもよい。二重特異性抗体はグリピカン3分子上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がグリピカン3を認識し、他方の抗原結合部位が化学療法剤、細胞由来トキシン、放射性物質等の細胞傷害性物質を認識してもよい。この場合、グリピカン3を発現している細胞に直接細胞傷害性物質を作用させ腫瘍細胞に特異的に傷害を与え、腫瘍細胞の増殖を抑えることが可能である。二重特異性抗体は2種類の抗体のHL対を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。
【0059】
6.組換え型抗体または改変抗体の発現および産生
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモ
ーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0060】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。
【0061】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277,108)により、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合はMizushimaらの方法(Nucleic AcidsR
es.(1990)18,5322)により、容易に遺伝子発現を行うことができる。
【0062】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列及び発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えばlaczプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。laczプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1098)341,544−546;FASEB J.(1992)6,2422−2427)
により、あるいはaraBプロモーターを使用する場合はBetterらの方法(Science(1988)240,1041−1043)により発現することができる。
【0063】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei,S.P.et al J.Bacteriol.(1987)169,4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切に組み直して(refold)使用する。
【0064】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは、選択マーカーとしてアミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0065】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の発現系、例えば真核細胞又は原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞および酵母細胞などの動物細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。
【0066】
好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、HeLa細胞中で発現される。
【0067】
次に、形質転換された宿主細胞をin vitroまたはin vivoで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0068】
7.抗体の分離、精製
前記のように発現、産生された抗体は、細胞、宿主動物から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティーカラムを用いて行うことができる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D、
POROS、Sepharose F.F.(Pharmacia製)等が挙げられる。
その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、上記アフィニティーカラム以外のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Man
ual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)。
【0069】
8.抗体の活性の確認
本発明で使用される抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring
Harbor Laboratory,1988)、リガンドレセプター結合阻害活性(
Harada,A.et al.,International Immunology(1993)5,681−690)の測定には公知の手段を使用することができる。
【0070】
本発明で使用される抗グリピカン3抗体の抗原結合活性を測定する方法として、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。例えば、酵素免疫測定法を用いる場合、グリピカン3をコーティングしたプレートに、抗グリピカン3抗体を含む試料、例えば、抗グリピカン3抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。アルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した二次抗体を添加し、プレートをインキュベートし、洗浄した後、p−ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。
【0071】
本発明で使用される抗体の活性を確認するには、抗グリピカン3抗体の中和活性を測定する。
【0072】
9.細胞傷害活性
本発明に使用する抗体は、細胞傷害活性として、ADCC活性またはCDC活性を有する。
ADCC活性は、エフェクター細胞と標的細胞と抗グリピカン3抗体を混合し、ADCCの程度を調べることにより測定することができる。エフェクター細胞として例えば、マウス脾細胞やヒト末梢血や骨髄から分離した単核球等を利用することができ、標的細胞としてはヒト肝癌細胞株HuH−7等のヒト株化細胞を用いることができる。標的細胞をあらかじめ51Crにより標識し、これに抗グリピカン3抗体を加えインキュベーションを行い、その後、標的細胞に対し適切な比のエフェクター細胞を加えインキュベーションを行う。インキュベーション後上清を採取し、上清中の放射活性をカウントすることによりADCC活性を測定することができる。
【0073】
また、CDC活性は、上述の標識標的細胞と抗グリピカン3抗体を混合し、その後補体を添加してインキュベーションを行い、培養後に上清中の放射活性をカウントすることにより測定することができる。
【0074】
抗体が細胞傷害活性を発揮するには、Fc部分が必要であるので、本発明の細胞増殖阻害剤が、抗体の細胞傷害活性を利用したものである場合には、本発明に使用する抗グリピカン3抗体はFc部分を含んでいることが必要である。
【0075】
10.血管新生抑制
本発明の抗グリピカン3抗体を血管新生抑制に用いることもできる。
【0076】
11.投与方法および製剤
本発明の細胞増殖抑制剤は、細胞の異常増殖に基づく疾患、特に癌に対する治療又は改善を目的として使用される。
【0077】
本発明の細胞増殖抑制剤の対象となる癌細胞は、特に制限されないが、肝癌、肺癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、白血病、リンパ腫、膵臓癌が好ましく、肝癌が特に好ましい。
【0078】
有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.001mgから1000mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり0.01〜100000mg/bodyの投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の抗グリピカン3抗体を含有する治療剤はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0079】
また、本発明の治療剤の投与時期としては、疾患の臨床症状が生ずる前後を問わず投与することができる。
【0080】
本発明の抗グリピカン3抗体を有効成分として含有する治療剤は、常法にしたがって製剤化することができ(Remington's Pharmaceutical Scie
nce,latest edition,Mark Publishing Compan
y,Easton,米国)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。
【0081】
このような担体および医薬添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0082】
実際の添加物は、本発明治療剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、もちろんこれらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製された抗グリピカン3抗体を溶剤、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに吸着防止剤、例えばTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のための賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例等にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0084】
実施例1 グリピカン−3合成ペプチドに対するモノクローナル抗体作製
ヒトグリピカン−3蛋白のアミノ酸配列355番目から371番目のペプチド(RQYRSAYYPEDLFIDKK)を合成し、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)に合成ペプチドをマレインイミドベンゾイルオキシサクシンイミド(MBS)型架橋剤により結合し、免疫原とした。マウス(BALB/c、雌6週齢)に100μg/匹で3回免疫し、血清中の抗体価を検定した。抗体価検定法として、ペプチド(0.5μg)を固相化したプレートに希釈血清を反応させ、HRP標識抗マウス抗体の反応を経て、基質を添加後に得られた発色を450nmの吸光度を測定する方法(ペプチド固相ELISA法)を使用した。抗体価を確認した後に、脾臓細胞を採取し、骨髄腫細胞(P3/X63−Ag8)との細胞融合(コーラー,G、ミルステイン,C:Nature,256:495(1975))によりハイブリドーマを作製した。5種類のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を精製した後、ペプチド固相ELISA法を用いてペプチドへの結合活性を測定し、結合活性の高いIgG1抗体(以下、K6534)及びIgG3抗体(以下、K6511)を選択した。
【0085】
実施例2 抗グリピカン3抗体を用いた細胞増殖の抑制
ADCC(antibody−dependent cell−mediated cytotoxicity)活性、CDC(complement−dependent c
ytotoxicity)活性の測定はCurrent protocols in Im
munodogy,Chapter 7.Immunologic studies in humans,Editor,John E,Cologan et al.,John Wiley &Sons,Inc.,1993の方法に従った。
【0086】
1.エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウス(8週令、オス)から脾臓を摘出し、RPMI1640培地(GIBCO社製)中で脾細胞を分離した。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone社製)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5×106/mLに調製し、エフェクター細胞とした

【0087】
2.補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を10%FBS含有DMEM培地(GIBCO社製)にて10倍希釈し、補体溶液とした。
【0088】
3.標的細胞の調製
ヒト肝癌細胞株HuH−7(JCRB No.JCRB0403、ヒューマンサイエン
ス研究支援バンク)を、0.2mCiの51Cr−sodium chromate(Am
ersham Pharmacia Biotech社製)とともに、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより放射性標識した。放射性標識の後、細胞を10%FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2×105
mLに調製し、標的細胞とした。
【0089】
4.ADCC活性の測定
96ウェルU底プレート(Beckton Dickinson社製)に、標的細胞と
、抗グリピカン3抗体(K6534)を50μLずつ加え、氷上にて15分間反応させた。その後、エフェクター細胞100μLを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養した。抗体の終濃度は0または10μg/mLとした。培養後、100μLの上清を回収し、ガンマカウンター(COBRA II AUTO−GAMMA、MODEL D50
05、Packard Instrument Company社製)で放射活性を測定した。細胞傷害活性(%)は(A−C)/(B−C)×100により求めた。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1%NP−40(半井社製)を加えた試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を示す。実験はduplicateにて行い、平均値を算出した。
【0090】
5.CDC活性の測定
96ウェル平底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、
抗グリピカン3抗体(K6511)を50μLずつ加え、氷上にて15分間反応させた。その後、補体溶液100μLを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養した。抗体の終濃度は0または3μg/mLとした。培養後、100μLの上清を回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定した。細胞傷害活性(%)は、「4.ADCC活性の測定」と同様にして求めた。実験はduplicateにて行い、平均値を算出した。
【0091】
図1にADCC活性を、図2にCDC活性を示すが、この結果より抗グリピカン3抗体はヒト肝癌細胞株HuH−7に対して、ADCC活性、CDC活性を示し細胞増殖を抑制することが明らかになった。
【0092】
実施例3 HuH−7細胞上のグリピカン発現量の測定
約5×105個のHuH−7細胞を、100μLのFACS/PBS(1gのウシ血清
アルブミン(SIGMA社製を1LのCellWASH(Beckton Dickin
son社製)に溶解して調製)に懸濁後、抗グリビカン3抗体(K6511)またはコントロール抗体としてマウスIgG2a(Biogenesis社製)を25μg/mLとなるように加え、氷上にて30分間静置した。FACS/PBSにて洗浄後、100μLのFACS/PBSに懸濁し、4μLのGoat Anti−Mouse Ig FITC
(Becton Dickinson社製)を加え、氷上にて30分間静置した。
【0093】
FACS/PBSにて2回洗浄後、1mLのFACS/PBSに懸濁し、フローサイトメーター(EPICS XL、BECKMAN COULTER)にて細胞の蛍光強度を測定した。
【0094】
図3にフローサイトメトリーの結果を示す。HuH−7細胞上でグリピカン3が発現しており、このことは抗グリピカン3抗体が細胞上に発現したグリピカン3と結合して細胞増殖を抑制することを示している(図3)。
【0095】
実施例4 FCMを用いた癌細胞パネルにおけるGPC3発現解析
ヒト癌細胞株(Lung,Colon,Rectum,Breast,Prostate,Leukemia,Lymphoma,Myeloma,Pancreas,Liver)におけるグリピカン3(GPC3)の発現をFCMを用いて解析した。
【0096】
細胞は2日間培養後アッセイを行った。付着細胞は、Trypsin−EDTA(Cat.No.25300−054,Lot 14210,GIBCO)をCell dissociation buffer(Cat.No.13150−016,Lot 1098554,GIBCO)で10倍に希釈した溶液を用いて回収した。回収した細胞を抗グリピカン3抗体(K6534,600μg/ml)または陰性対照mIgG2a抗体(Biogenesis,M−IgG2a−i,Lot EA990719A,1mg/ml)
と氷上で反応させた(最終抗体濃度10ug/ml)。細胞を洗浄後、FITC標識抗マウスIg抗体(Cat.No.349031、BD PharMingen)と氷上で反
応させた(2μl/test)。細胞を洗浄後、その蛍光強度をフローサイトメーター(EPICS XL、BECKMAN COULTER)にて測定した。その結果、A549、NCI−H460、NCI−H23、NCI−H226、DMS114、EKVX、HOP−62、NCI−H322M(以上、Lung)、P30/OHK、BALL−1、THP−1、P39/TSU(以上、Leukemia)、MLMA、Ramos、U−937(以上、Lymphoma)、SW480、COLO205、LoVo、SW837(以上、Colon)、MDA−MB−231、SK−BR−3、MDA−MB−468(以上、Breast)、LNCaP、22Rv1(以上、Prostate)、MIAPaCa−2(Pancreas)、HepG2(Liver)において、GPC3の発現が確認された。以上の結果から、本発明の細胞増殖抑制剤は、肺癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、白血病、リンパ腫、膵臓癌などの治療に有効であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明により、抗グリピカン3抗体を有効成分とする細胞増殖抑制剤が提供される。また、本発明により抗グリピカン3抗体を有効成分とする癌細胞増殖抑制剤が提供される。抗グリピカン3抗体はヒト肝癌細胞株HuH−7細胞上に発現したグリピカン3と結合して細胞増殖を抑制することから、細胞増殖抑制剤、特に癌細胞抑制剤として有効である。
【0098】
本明細書に引用されたすべての刊行物は、その内容の全体を本明細書に取り込むものとする。また、添付の請求の範囲に記載される技術思想および発明の範囲を逸脱しない範囲内で本発明の種々の変形および変更が可能であることは当業者には容易に理解されるであろう。本発明はこのような変形および変更をも包含することを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗グリピカン3抗体を有効成分として含む細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
抗グリピカン3抗体が細胞傷害活性を有する請求項1に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
細胞傷害活性が抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性または補体依存性細胞傷害(CDC)活性である請求項2に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
細胞が癌細胞である請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
細胞が肝癌細胞である請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項6】
抗体がモノクローナル抗体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項7】
抗体がヒト型またはキメラ化されたものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞増殖抑制剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【公開番号】特開2009−161565(P2009−161565A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105835(P2009−105835)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【分割の表示】特願2008−228128(P2008−228128)の分割
【原出願日】平成14年6月21日(2002.6.21)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】