説明

抗体をヒト化及び親和性成熟する方法

抗体をヒト化及び親和性成熟する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体をヒト化及び親和性成熟する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの治療用として米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けた抗体は20種類以上あり、ほぼ同数の抗体が臨床実験の後期にある(Almagro and Strohl,Antibody Engineering:Humanization,Affinity Maturation,and Selection Techniques,In:Antibodies from bench to clinic,John Wiley & Sons,2009)。これまでに記述されてきた全ての抗体療法は、多大な量及び複数の用量を必要とするため、抗体系の薬剤を開発するときには、免疫原性が重要な懸念である(Schellekens et al.,Handbook of therapeutic antibodies.Ed:Dubel,Wiley−VCH,Weinheim,2007)。ファージディスプレー(Hoogenboom,Nat.Biotechnol.23:1105〜16,2005)、又はヒト抗体遺伝子レパートリーを有するトランスジェニックマウスの免疫付与(Bruggermann et al.,In:Handbook of therapeutic antibodies.Ed:Dubel,Wiley−VCH,Weinheim,2007)といった濃縮技術による、生体外でのヒト抗体の発見は、ヒト抗体を生成するための強力な手段を提供してきた。ヒト化の方法はこの10年間に多様化してきており、ヒト化抗体の数は継続した安定成長を示してきた(Almagro and Fransson,Front.Bioscience 13:1619〜33,2008)。
【0003】
抗体ヒト化の方法は、ヒトに適用されたときに最小の免疫原性を伴う一方で親の非ヒト抗体の特異性及び親和性を保持する分子を生成するように設計される。ヒト化は、ネズミ抗体可変(V)ドメインをヒト定常(C)ドメインと組み合わせて、ヒトの含有量が〜70%である分子を生成するキメラ化とともに始まった(Morrison et al.,Proc.Acad.Sci.USA 81:6851〜5,1984)。キメラ抗体は親マウス抗体の特異性を保持し、かつその免疫原性を減退することに成功したが、ヒト抗キメラ抗体(HACA)応答は、なお誘導された(Hwang and Foote,Methods 36:3〜10,2005)。
【0004】
ヒト抗体における非ヒト配列の使用を最小限にするための改善された方法としては、相補的決定領域(CDR)グラフト法(米国特許第5,225,539号(Winter))が挙げられる。いくつかのケースでは、ヒトフレームワーク内でヒトCDRの代わりにげっ歯類抗体由来のCDRを使うことで抗原結合親和性の転移が十分に行われたが(Jones et al.,Nature 321:522〜5,1986;Verhoyen et al.,Science 239:1534〜36,1998)、他のケースでは、1つ又は複数のフレームワーク残基を追加的に置換する必要があった。例えば、Queen(Queen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:10029〜33,1989)は、米国内で治療用として最初にFDAに認可された抗体をヒト化した(Zenapax(登録商標))。Zenapax(登録商標)は、ネズミ抗体との相同性を最大限にするようにヒトフレームワーク領域(FR)を選択することによって生成された。マウス抗体のコンピュータモデルを案内として、CDR又は抗原と相互作用する、CDRの外のいくつかのネズミのアミノ酸が識別された。これらの残基は、親和性を改善するためにヒト化抗体において復帰突然変異した(back-mutated)。
【0005】
更なる研究において、Foote及びWinter(Foote and Winter,J.Mol.Biol.224:487〜99,1992)は、それらのCDRの元となっている30の残基(VHに16とVLに14)が、HVループ構造の安定化及びそれらの位置決めの修正に関与し、それ故、その抗体の親和性に関与している、と予測した。この領域はバーニヤゾーン(VZ)と呼ばれ、それを画定する残基はバーニヤ残基(VR)と呼ばれる。VRにおける復帰突然変異、及びVH:VLインターフェイスに関与する残基における復帰突然変異は、CDRグラフトの後に、与えられた抗体の親和性を回復する方法として、記述されてきた(Carter及びPrestaに与えられた米国特許第6,639,055号)。
【0006】
リサーフェシング(Padlan et al.,Mol.Immunol.28:489〜98,1991)、超ヒト化(Superhumanization)(Tan et al.,J.Immunol.169:1119〜25,2002)、ヒトストリング含有量最適化(Lazar et al.,Mol.Immunol.44:1986〜98,2007)のような異なるパラダイムに基づくヒト化の方法もまた、開発されてきた。CDRグラフト法と同じく、これらの方法は、非ヒト抗体及びヒト抗体の構造及び配列の比較解析によって、ヒト化プロセスが最終生成物に与える潜在的影響を評価する。これらの方法に共通しているのは、関心対象の結合又は他の任意の特性を試験するために、いくつかのヒト化変異型を生成することである。設計された変異型が不十分であることが実証された場合、設計及び結合評価の新しいサイクルが開始される。したがって、これらの方法は、抗体ヒト化のための合理的な戦略として分類され得る。
【0007】
ファージディスプレー法及びハイスループットスクリーニング(HTS)法は、多数の抗体変異型の組み合わせライブラリの探求及び関心対象の変異型の選択のための効率的なツールとして出現した(McCafferty et al.,Nature 348:552〜5,1990)。これらの技法は、設計サイクルでなく選択に基づく方法の創出を刺激する抗体ヒト化プロトコルに適用されてきた。誘導選択(Guided Selection)(Osbourn et al.,Methods 36:61〜8,2005)と呼ばれる、これらの方法の1つは、FDAの認可を受けた最初のヒト抗体(Jespers et al.,Biotechnology 12:899〜903,1994)であるHumira(登録商標)(アダリムマブ)を生成した。大きい組み合わせライブラリの選択に依存する誘導選択及び他のヒト化の戦略は、最終的なヒト化された生成物への変異の影響をほとんど仮定しておらず、したがって、これらの技法は、抗体のヒト化のための経験的方法と呼ばれる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抗原及び他の望ましい生物活性に対する高い親和性の保持を伴う抗体のヒト化では、治療用として有用なものにすべく、免疫原性を低減するために元の非ヒト配列を置換することと、十分な抗原結合を保持するためにヒト化された分子を必要とすることとの間の釣り合いを取ることが要求される。したがって、抗体のヒト化及び親和性の成熟のための改善された方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の一態様は、抗体をヒト化する方法であって、
非ヒト抗体可変領域のアミノ酸配列を得る工程と、
前記非ヒト抗体可変領域の第1のカノニカル構造クラスを決定する工程と、
生殖細胞系列遺伝子によってコードされるヒト抗体可変領域のアミノ酸配列の第1のライブラリを得る工程と、
前記第1のライブラリから、アミノ酸配列の一群を選択する工程と、
(この選択する工程は、前記第1のライブラリのそれぞれのアミノ酸配列に関する第2のカノニカル構造クラスとSDRUランクスコアとを決定する工程と、前記第1のカノニカル構造クラスと同一の第2のカノニカル構造クラスを有し、最高のSDRUランクスコアを更に有する、アミノ酸配列の一群を前記第1のライブラリから識別する工程と、を含む)
ヒト化抗体を生成するために、上で選択されたアミノ酸配列の群において、SDRU残基を、対応する非ヒトSDRU残基と置換する工程と、を含む、方法。
【0010】
本発明の別の態様は、抗体の親和性成熟の方法であって、
前記抗体のアミノ酸配列を得る工程と、
前記抗体内の親和性決定残基(ADR)を決定する工程と、
少なくとも1つのADR残基をバリエゲートすることによって前記抗体のアミノ酸配列のライブラリを生成する工程と、
前記ライブラリを宿主において発現する又は前記ライブラリを生体外で翻訳する工程と、
前記ライブラリから、対抗原に対する改善された親和性を有する1つ以上の抗体を選択する工程と、を含む、方法。
【0011】
本発明の別の態様は、親和性成熟された抗体を作製する方法であって、
前記抗体のアミノ酸配列を得る工程と、
前記抗体内の特異性決定残基使用(SDRU)残基を決定する工程と、
少なくとも1つのSDRU残基をバリエゲートすることによって前記抗体のアミノ酸配列のライブラリを生成する工程と、
前記ライブラリを宿主において発現する又は前記ライブラリを生体外で翻訳する工程と、
前記ライブラリから、対抗原に対する改善された親和性を有する1つ以上の抗体を選択する工程と、を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】重鎖のカバット付番方式とコチア付番方式、CDR、HV、SDRU残基、ADR、及びVR間の対応黒は残基を示す。SDRUに関しては、閾値≧0.3灰色:SDRU残基、閾値<0.3。薄い灰色:割り当てされず。
【図2】軽鎖のカバット付番方式とコチア付番方式、CDR、HV、SDRU残基、ADR、及びVR間の対応黒は残基を示す。SDRUに関しては、閾値≧0.3灰色:SDRU残基、閾値<0.3。薄い灰色:割り当てされず。
【図3】ヒト生殖細胞系列のIGVH遺伝子レパートリー及びカノニカル構造クラス。
【図4】ヒト生殖細胞系列のIGVκ遺伝子レパートリー及びカノニカル構造クラス。
【図5】ヒト生殖細胞系列のIGHJ及びIGκJレパートリー。
【図6】抗CD147抗体4A5重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列。CDR(カバット)、HVループ(コチア)及びSDRU残基(pSDRU)が指示されている。
【図7】A45の潜在的ヒトスカフォールドのSDRUランクスコア。VHに関しては、最も高いスコアの3つの遺伝子のみが示されている。
【図8】ADRライブラリの設計SDRU残基にはアスタリスクが付されており、ADRの位置は「X」で表されている。置換されたSDRU残基には下線が付されている。
【図9】ヒトCD147のHisタグ付きN末端ドメインでの3回のパニング後に選択されたVH配列変異型。
【図10】VH変異型におけるADRの位置で表されるアミノ酸のロゴ図ロゴプロットの各列は、文字のスタックとしてアミノ酸頻度を表しており、各文字の高さは、各アミノ酸の観察された頻度に比例する。
【図11】抗IL−17抗体IL−17M70及びIL−17M82の重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列。CDR(カバット)、HVループ(コチア)及びSDRU残基(pSDRU)が指示されている。
【図12a】ヒトIL−17 K3R/K74Q/A136Q変異型での3回のパニングの後に選択されたIL−17M70及びIL−17M82変異型VLアミノ酸配列及びVHアミノ酸配列。A)IL−17M70の重鎖B)IL−17M70の軽鎖C)IL−17M82の重鎖、D)IL−17M82の軽鎖の変異型配列。
【図12b】ヒトIL−17 K3R/K74Q/A136Q変異型での3回のパニングの後に選択されたIL−17M70及びIL−17M82変異型VLアミノ酸配列及びVHアミノ酸配列。A)IL−17M70の重鎖B)IL−17M70の軽鎖C)IL−17M82の重鎖、D)IL−17M82の軽鎖の変異型配列。
【図12c】ヒトIL−17 K3R/K74Q/A136Q変異型での3回のパニングの後に選択されたIL−17M70及びIL−17M82変異型VLアミノ酸配列及びVHアミノ酸配列。A)IL−17M70の重鎖B)IL−17M70の軽鎖C)IL−17M82の重鎖、D)IL−17M82の軽鎖の変異型配列。
【図12d】ヒトIL−17 K3R/K74Q/A136Q変異型での3回のパニングの後に選択されたIL−17M70及びIL−17M82変異型VLアミノ酸配列及びVHアミノ酸配列。A)IL−17M70の重鎖B)IL−17M70の軽鎖C)IL−17M82の重鎖、D)IL−17M82の軽鎖の変異型配列。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載した、特許及び特許出願を含む(ただし限定せず)全ての出版物は、参照によりその全文がここに明記されたかのように組み込まれる。
【0014】
本明細書及び請求項の範囲において使用する場合、単数形の「a」、「and」、及び「the」には、その文脈が明確に異なって指定しない限り、複数の言及が含まれる。したがって、例えば、「a polypeptide」という言及は、1つ以上のポリペプチドの言及であり、当業者には既知のその同等物を含む。
【0015】
他に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術的用語及び科学的用語は、本発明の属する分野の当業者に慣例的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記述したものと同様又は同等の何らかの組成物及び方法を本発明の実践又は試験に使用することができるが、代表的な組成物及び方法を本明細書に記述する。
【0016】
本明細書で使用されるとき、用語「抗体」は広義であって、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む免疫グロブリン又は抗体分子、ネズミのような非ヒト、ヒト、ヒト適応型、ヒト化、及びキメラのモノクローナル抗体、並びに抗体フラグメントを含む。抗体は、抗体全体及び任意の抗原結合フラグメント、又はその単鎖を含む。天然発生する抗体は、4つのポリペプチド鎖と、2つの同一の重鎖と、2つの同一の軽鎖とを備える。それぞれの重鎖は一端に可変ドメイン(VH)を有し、それを多数の定常ドメイン(CH)が追従している。それぞれの軽鎖は一端に可変ドメイン(VL)を有し、もう一方の端に定常ドメイン(CL)を有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の最初の定常ドメインと整列しており、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。任意の脊椎種の抗体の軽鎖に、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と名づけられた明確に区別される2つのタイプのうち1つを、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、割り当てることができる。
【0017】
免疫グロブリンは、定常ドメインの重鎖のアミノ酸配列に依存して、IgG、IgM、IgD、IgA、IgEと名づけられた5つの主要なクラスに割り当てることができる。IgA及びIgGは、アイソタイプIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4として更に細かく分類される。
【0018】
本明細書で用いられる「抗体フラグメント」とは、損なわれていない抗体の一部、概して、損なわれていない抗体の抗原結合領域又は可変領域を意味する。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、ジアボディ、単鎖抗体分子、及び少なくとも2つの損なわれていない抗体で形成された多特異性(multispecific)抗体を含む抗体フラグメントが挙げられる。
【0019】
本明細書で用いられる「抗体可変領域」とは、抗原結合部位のアミノ酸配列(例えば、CDR1、CDR2、CDR3)と、フレームワーク領域(FRすなわちFR1、FR2、FR3、FR4)とを含む抗体分子の軽鎖及び重鎖の部分を指す。軽鎖可変領域(VL)は、抗体V及びJセグメント遺伝子によってコードされ、重鎖可変領域(VH)は、抗体V、D、Jセグメント遺伝子によってコードされる。ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子loci(loci)、抗体遺伝子構造、遺伝子再配列のゲノム組織は周知である。
【0020】
「ヒト化抗体」は、非ヒト種からの抗原結合部位の1つ以上のアミノ酸と、ヒト由来のフレームワーク配列とを含有する抗体である。定常領域が存在してよく、ヒトの配列、例えばヒト生殖細胞系列の配列由来であるか、又は自然発生する抗体由来である場合がある。ヒト化抗体は、例えば親和性又は特異性を向上するために、非ヒト種からのフレームワーク領域アミノ酸の1つ以上のアミノ酸を有することができる。このヒト化抗体は、1つ以上のクラスのアイソタイプからの配列を含むことが可能であり、特定の定常ドメインを選択して、例えば細胞毒性活性など所望のエフェクタ機能を最適化することは、当該技術分野の通常の技術の範囲内である。
【0021】
本明細書で用いられるとき、用語「完全な長さの抗体」とは、少なくとも2つの重鎖と2つの軽鎖とを含む、実質的に損なわれていない形状にある抗体を指す。この用語は、特に、Fc領域を含有する重鎖を有する抗体を指す。完全な長さの抗体は、非ヒト、ヒト、ヒト化、及び/又は親和性成熟されたものである場合がある。
【0022】
本明細書で用いられる「親和性成熟された抗体」とは、可変領域に1つ以上の置換を有する抗体であり、それらの置換を有さない親抗体と比べ、抗原に対して改善された抗体の親和性をもたらす。代表的な親和性成熟された抗体は、少なくとも1つのADR残基に置換を有する。
【0023】
本明細書で用いられる「親和性」とは、抗体と配位子との間の相互作用の強度を指す。抗体の親和性は、解離定数(Kd)によって表される。典型的には、抗体は、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、又は10-10M以下の解離定数(KD)で、既定の抗原と結合する。本明細書で用いられる「改善された親和性」とは、親和性成熟された抗体のKdが親と比較して少なくとも2倍低減することを指す。抗体の親和性は、周知の方法、例えば競合的結合ELISAアッセイ、BIOAcore(商標)又はKinExAを用いる表面プラズモン共鳴を用いて決定される。
【0024】
免疫グロブリンの軽鎖(VL)又は重鎖(VH)可変領域は、3つの「抗原結合部位」が介入する「フレームワーク」領域から成る。抗原結合部位は、次のような様々な表現を用いて記述される。
(i)カバット(Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,NIH,Bethesda,MD,1991)の定義による、抗体の可変配列内の「相補的決定領域」(「CDR」)であり、これらは配列の可変性に基づく。可変重鎖及び可変軽鎖配列のそれぞれに3つのCDRがあり、それぞれの可変領域はCDR1、CDR2、CDR3と指定される。
(ii)「ハイパー可変領域」(「HVR」又は「HV」)は、Chothia及びLesk(Chothia and Lesk,Mol.Biol.196:901〜917,1987)の定義による、構造的にハイパー可変である抗体の可変ドメインの領域を指す。概して、その抗原結合部位は、VHに3つ(H1、H2、H3)とVLに3つ(L1、L2、L3)の6つのハイパー可変領域を有する。
(iii)Lefranc(Lefranc et al.,Dev.Comparat.Immunol.27:55〜77,2003)の提案による「IMGT−CDR」は、免疫グロブリンとT細胞受容体からのVドメインの比較に基づく。International ImMunoGeneTics(IMGT)データベース(http:_//www_imgt_org)は、3つの領域の標準的な付番及び定義を提供している。CDR、HV、IMGTの記述間の対応は、Lefranc et al.,Dev.Comparat.Immunol.27:55〜77,2003に記述されている。
(iv)抗原結合部位を形成する領域のもう1つの定義は、Padlanが記述したような「特異性決定残基」(「SDR」)であり、配列の分析と利用可能な結晶構造情報との組み合わせによって定義される(Padlan et al.,FASEB J.,9,133〜9,1995)。
(v)この抗原結合部位もまた、例えばタンパク質、ペプチド、ハプテンといった異なるタイプの抗原と接触する残基の数及び分布の正確な測定値である特異性決定残基使用量(SDRU)に基づいて記述され得る(Almagro,Mol.Recognit.17:132〜43,2004)。SDRUを決定するには、次の式を用いて一連の抗原・抗体接触を算出することができる。
SDRU=1−[(cm−ci)/cm]
式中、cmはVL又はVHにおける接触の最大数であり、ciは位置当たりの接触である。SDRU残基は、Chothia及びLesk(Chothia and Lesk,Mol.Biol.196:901〜917,1987)にしたがって数えられる。SDRUの範囲は0〜1が可能である。SDRU値≧0.7は、複合体の67%より多くにおいて接触していることが見出されるSDRに相当し、高使用量と定義される。SDRU値<0.3は、複合体の33%未満において接触していることが見出されるSDRに相当し、低使用量と定義される。0.3〜0.7のSDRU値は、中間使用量とみなされる。その位置でのSDRUスコアが≧0.3のとき、残基は、本明細書で用いられる「SDRU残基」である。いくつかの用途では、分析又は置換のためのSDRU残基の数を増やすために、「SDRU残基」は0〜0.3のSDRUスコアを有する残基を含む場合がある。例えば、下の実施例1は、ヒト化プロセスの間に特異性及び親和性を保持するために非ヒト抗体からヒトスカフォールドに転移される残基の数を最大にするために、>0のSDRUスコアを使用して、ヒト化のためのSDRU残基を定義している。>0.3又は>0.7のSDRUスコアを使用して、例えば、特にNNKコドンが使用されるときに、結果的に得られるライブラリの表現(representation)を増すために親和性成熟のためにバリエゲートされるSDRU残基を定義することができる。
【0025】
「カノニカル構造」は、HVループの長さと、HV及びフレームワークに保存された残基とによって決定されるHVループ型であり、HV及びHLについてそれぞれ表1及び2に示されている(Al−Lazikani et al.,J.Mol.Biol.,273:927〜48,1997)。
【0026】
「カノニカル構造クラス」は、重鎖H1、H2又は軽鎖L1、L2、L3のための組み合わされたカノニカル構造である。
【0027】
「コチア(Chothia)残基」は、Al−Lazikani(Al−Lazikani et al.,J.Mol.Biol.,273,927〜48,1997)にしたがって数えられた抗体VL残基及びVH残基である。
【0028】
本明細書で用いられる「対応するSDRU残基」は、2つの異なる可変領域配列間、例えばヒトと非ヒトの可変領域配列間の位置に対応するSDRU残基を指す。
【0029】
「本明細書で用いられる「SDRUランクスコア」は、同一残基(アイデンティティ)の数及び親配列内の対応するSDRU残基間の類似に基づく、試験配列の相同性ランクスコアを指す。同一残基にはスコア値1が割り当てられる。類似残基にはスコア値0.5が割り当てられる。他の残基については、スコア値0が割り当てられる。その結果得られる「SDRUランクスコア」は、個々のランクスコアの合計である。スコア値0.5を割り当てる類似残基の5つの群は、(i)極性アミノ酸S、T、N、Q、(ii)非極性アミノ酸A、V、I、L、M、(iii)芳香族アミノ酸F、W、Y、(iv)酸性アミノ酸D、E、(v)塩基性アミノ酸H、K、Rである。代表的な試験配列はヒト抗体重鎖可変領域アミノ酸配列であり、代表的な親配列は非ヒト抗体重鎖可変領域アミノ酸配列である。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
「フレームワーク」又は「フレームワーク配列」は、抗原結合部位として定義されていない、可変領域の残りの配列である。抗原結合部位は上述のように様々な描写(delineation)によって定義され得るので、フレームワークの正確なアミノ酸配列は、抗原結合部位の描写に依存する。
【0033】
「親和性決定残基」(ADR)は、CDR内にある非SDRU残基として定義され、CDRは次のように描写される。VLからのCDR−1は残基24〜36を包含し、VLからのCDR−2は残基46〜56を包含し、VLからのCDR−3は残基89〜98を包含し、VHからのCDR−1は残基27〜37を、VHからのCDR−2は残基47〜61を、VHからのCDR−3は残基93〜103を、包含する(表1)。ADRは、SDRU残基の付近の残基を含む。ADRはVドメインに埋め込まれている場合があり、HVループの配座のために重要である場合があり、HVループの構造及び位置づけの修正に関与する場合がある。SDRU残基は様々なSDRUスコアを使用して描写され得るので、可変領域内にある正確なADR残基は、SDRU残基の描写に依存する。
【0034】
「バーニヤ残基」(VR)は、HVループ構造の安定及びそれらの位置づけの修正に関与すると特定された抗体の可変領域のフレームワークに宿る30の残基である(Foote and Winter,J.Mol.Biol.,224:487〜99,1992)。場合によっては、VRは、カノニカル構造の維持に関与する残基と一致する(Al−Lazikani et al.,J.Mol.Biol.,273:927〜48,1997)。
【0035】
最もよく使用される2つの付番システムであるカバット(Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,NIH,Bethesda,MD,1991)とコチア(Chothia and Lesk,Mol.Biol.196:901〜917,1987)間の対応、及びCDR、HV、SDRU残基、ADR、VRを、それぞれ重鎖及び軽鎖について、図1及び2に示す。灰色で示されている残基は、SDRU及びADRについては定義されていない。図は、SDRUスコアX≧0.3の残基を黒で、SDRUスコア<0.3の残基を灰色で示す。
【0036】
本明細書で用いられる用語「タンパク質」は、ペプチド結合によって連結されてポリペプチドを形成する少なくとも2つのアミノ酸残基を含む分子を意味する。アミノ酸が30未満の小タンパク質は「ペプチド」と呼ばれる場合がある。タンパク質はまた、「ポリペプチド」とも呼ばれる場合がある。
【0037】
「融合タンパク質」は、少なくとも2つのポリペプチドと、それら2つのポリペプチドを動作可能に連結して1つの連続したポリペプチドにするための連結配列とを含むタンパク質である。融合ポリペプチド内の連結された2つのポリペプチドは、典型的には、2つの独立のソースから派生しており、したがって、融合ポリペプチドは、通常は自然界で連結しているものとして発見されることがない2つの連結したポリペプチドを含む。その連結配列はよく知られており、例えば、アミド結合又はグリセリンの豊富なリンカーを含む。代表的な融合タンパク質は、バクテリオファージコートタンパク質を有するVL融合及びVH融合であり、例えば、pIII、又はpVII、又はpIX(Gao et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96:6025〜30,1999)である。融合タンパク質は周知の方法を用いて作製される。
【0038】
抗体の「望ましい生物活性」は、例えば、強化又は改善された結合力、強化又は改善された親和力、オンレート、オフレート、特異性、半減期、低減された免疫原性、多様な宿主からの効率的な発現及び生成、抗体安定性、良好な溶解特性、又は他の任意の好適な特性を含む。
【0039】
本明細書で用いられる「生殖細胞系列遺伝子」は、特定の免疫グロブリンの発現のための遺伝的再配列及び変異につながる成熟プロセスを経ていない非リンパ細胞によってコードされる免疫グロブリン配列である。
【0040】
本明細書で用いられる「抗体の可変領域のペアリング」は、完全な長さの自然発生する抗体を形成するための、生体内におけるVH及びVLの結合を指す。ヒト抗体生殖細胞系列遺伝子レパートリーは、約40の重鎖、35のカッパ及び30のラムダ官能性V遺伝子から成る。特定のVセグメント遺伝子によってコードされる重鎖と軽鎖のランダムな結合の代わりに、ランダムでないやり方で自然の抗体において生じる特定の軽鎖及び重鎖に向けてバイアスが存在する(de Wildt et al.,J.Mol.Biol.285:895〜901,1999)。ヒト化のためのフレームワークドナーとして重鎖及び軽鎖のVセグメント生殖細胞系列遺伝子を選択するとき、好ましいのは、生体内で対になっているV遺伝子である。
【0041】
用語「置換する」又は「バリエゲートする」又は「変異する」又は「多様化する」は、互換性を持って使用することができ、本明細書で使用されるとき、ペプチド又はタンパク質の配列における1つ以上のアミノ酸を変更して、その配列の変異型を生成することを指す。
【0042】
本明細書で用いられるとき、「変異型」は、参照ポリペプチド又はポリヌクレオチドと異なるポリペプチド又はポリヌクレオチドを指し、変更された特性を有しても有さなくてもよい。変異型又は参照ポリペプチドは、1つ以上の修正によって、例えば置換、挿入、又は削除によって、アミノ酸配列が異なっている場合がある。
【0043】
本明細書で用いられるとき、「ライブラリ」は、1つ以上の変異型の集合を指す。
【0044】
本明細書で用いられるとき、「スカフォールド」は、ヒト生殖細胞系列遺伝子によってコードされる軽鎖又は重鎖の可変領域のアミノ酸配列を指す。したがって、スカフォールドは、フレームワークと抗原結合部位の両方を包含する。
【0045】
本発明は、抗体のヒト化及び親和性成熟方法を説明する。
【0046】
抗体のヒト化方法
特異性決定残基リサーフェシング(SDRR)
特異性決定残基リサーフェシング(SDRR)は、抗体をヒト化する方法である。SDRRは、(i)スカフォールドの選択のためにSDRUランクオーダーを利用すること、及び(ii)SDRU残基の置換によって、非ヒト抗体の特異性をその選択されたスカフォールドに転移することにおいて、公開された方法と異なる。
【0047】
公開されたヒト化方法において、非ヒト抗体の特異性は、CDR(米国特許第5,225,539号(Winter)、米国特許第6,881,557号(Foote))又はSDR(米国特許第6,818,749号(Kashmiri))の変異によってヒトのスカフォールドに転移され、所望により、カノニカル構造の保持(米国特許第5,693,761号(Queen))又はHVループの位置づけ(米国特許第6,639,055号(Carter))において重要ないくつかのフレームワーク残基の復帰突然変異を伴う。ヒトのスカフォールドは、生殖細胞系列の遺伝子との相同性(Gonzales et al.,Mol.Immunol.41:863〜72,2004)、体細胞又はコンセンサス免疫グロブリン可変領域遺伝子に基づいて選択され、場合によっては、CDR又はカノニカル構造の相同性の評価によって、更に選択される(米国特許第6,881,557号(Foote))。上述の方法によってヒト化される残基同士の対応を、図1及び2に示す。
【0048】
先行のヒト化方法に勝るSDRRの利益は、SDRU残基の正確な定義のおかげで、選択されたスカフォールドに最小限の数の非ヒト残基を転移し得ること、及び、タンパク質、ペプチド、又はハプテンのようなジェネリックな配位子の異なる型を認識するヒト化プロトコルを抗体に合わせてカスタマイズすることにより、ヒト化抗体の潜在的な免疫原性を低減する可能性である。
【0049】
SDRU残基は、抗体の新たなライブラリを生成するために置換されてきたが、集中的ライブラリでのヒト化又は親和性成熟の試みはまだ成されていない(Persson et al.,J.Mol.Biol.357,607〜620,2006;Cobaugh et al.,J Mol Biol.378:622〜633,2008)。
【0050】
発明の一実施形態は、抗体をヒト化する方法であって、
a.非ヒト抗体可変領域のアミノ酸配列を得る工程と、
b.前記非ヒト抗体可変領域の第1のカノニカル構造クラスを決定する工程と、
c.生殖細胞系列遺伝子によってコードされるヒト抗体可変領域のアミノ酸配列の第1のライブラリを得る工程と、
d.前記第1のライブラリから、アミノ酸配列の一群を選択する工程と、
i.この選択する工程は、前記第1のライブラリのそれぞれのアミノ酸配列に関する第2のカノニカル構造クラスと、SDRUランクスコアとを決定する工程と、
ii.前記第1のカノニカル構造クラスと同一の第2のカノニカル構造クラスを有し、最高のSDRUランクスコアを更に有する、アミノ酸配列の一群を前記第1のライブラリから識別する工程と、を含む)
e.ヒト化抗体を生成するために、工程d)で選択されたアミノ酸配列の群において、SDRU残基を、対応する非ヒトSDRU残基と置換する工程と、を含む、方法。
【0051】
上記の実施形態の方法は、本明細書において、「SDRR」(「特異性決定残基リサーフェシング」)と名づけられる。
【0052】
非ヒト抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、よく知られた方法、例えば、ゲノムクローニング又はPCRクローニング及びその後のDNA塩基配列決定法によって配列を決定することによって得ることができる。非ヒト抗体は、ヒト以外の任意の種からの抗体、例えばげっ歯類、ラクダ、又はサルの抗体を含む。
【0053】
本発明の方法では、ヒトのスカフォールドは、カノニカル構造クラスのアイデンティティ及び非ヒト抗体に対するSDRUランクスコアに基づいて生殖細胞系列遺伝子によってコードされたヒト抗体可変領域のアミノ酸配列ライブラリから選択される。生殖細胞系列Vセグメント遺伝子をFR1、FR2、FR3の選択に使用し、生殖細胞系列Jセグメント遺伝子をFR4の選択に使用する。
【0054】
生殖細胞系列遺伝子配列は、ImMunoGeneTics database(http_//www_imgt_org)からダウンロードすることができる。図3及び4は、IMGTからコンパイルされたヒト「01」生殖細胞系列IGVH及びIGVκ遺伝子、及びそれらがコードするカノニカル構造クラスのリストである。図5は、IGHJ及びIGκJ Jセグメント遺伝子のヒト配列を示す。免疫原性の可能性がある体細胞の変異を避けるために、ヒト生殖細胞系列遺伝子は、コンセンサス配列又は成熟配列の代わりにヒトフレームワークのソースとしてますます利用されるようになってきている(Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619,2008)。加えて、生殖細胞系列の遺伝子は、改善された塑性及びフレキシビリティをもたらして、ヒト抗体の親和性を回復するためのFRへの復帰突然変異をほとんど又は全く伴わずに多様な抗原結合部位を許容することが可能である(Wedemayer et al.,Science 276:1665〜9,1997;Zimmermann et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:13722〜7,2006;Gonzales et al.,Mol.Immunol.41:863〜72,2004)。
【0055】
カノニカル構造クラスは、表1及び2に記載したパターンにしたがって決定される。ヒト以外の種からのいくつかの抗体又は免疫反応の成熟の産物であるいくつかのヒト抗体は、ヒトゲノムにコードされていないカノニカル構造型を有する(Almagro et al.,Mol Immunol.34:1199〜1214,1997;Almagro et al.,Immunogenetics 47:355〜63,1998)。例えば、いくつかのネズミ生殖細胞系列遺伝子は、L1にて1型及び5型をコードする。これらのカノニカル構造は、ヒト生殖細胞系列遺伝子には存在しない。そのような場合、類似のカノニカル構造を有するヒト生殖細胞系列V遺伝子が比較のために考慮される。例えば、非ヒト抗体に1型が見出される場合、2型を有するヒトVκ配列を比較のために用いるべきである。非ヒト抗体に5型が見出される場合は、3型又は4型のいずれかを有するヒトVκ配列を比較に使用すべきである。
【0056】
非ヒト抗体の特異性は、その非ヒト抗体のSDRU残基を置換して、選択されたヒトスカフォールド内に導入することによって、選択されたヒトスカフォールドに転移される。典型的には、選択されたスカフォールド内の全てのSDRU残基は、非ヒトSDRU残基と置換される。SDRU残基の置換は、周知の方法によって、例えばPCR変異誘発によって実行できる(米国特許第4,683,195号(Mullis))。例えば、非ヒト抗体における、CDR−L3については94L、CDR−H1については31H、33H、35H、CDR−H2については52H、53H、54H、56H、58H、CDR−H3については残基95H〜102Hを、選択されたスカフォールド内に置換することができる。
【0057】
本発明の別の実施形態では、生殖細胞系列遺伝子は、VH、Vκ、Vλ、JH、Jκ、又はJλ配列から選択される。
【0058】
本発明の別の態様は、上述のように、抗体の可変領域のペアリングを評価することによって行われる、第1のライブラリからのアミノ酸配列の群の更なる選択である。
【0059】
本発明の別の実施形態では、抗体をヒト化する方法は、更に、
e−i:工程d)で選択されたアミノ酸配列の群の親和力決定残基(ADR)を決定する工程と、
e−ii:少なくとも1つのADR残基をバリエゲートすることによって、ヒト抗体可変領域のアミノ酸配列の第2のライブラリを生成する工程と、
e−iii:宿主において前記第2のライブラリを表現する又は前記第2のライブラリを生体外で翻訳する工程と、
e−iv:前記第2のライブラリから、望ましい生物活性を有する可変領域を選択する工程と、を含む。
【0060】
本発明の方法では、ADRのバリエゲーションは、SDRU残基の置換によって、選択されたスカフォールド内に非ヒト抗体の選択性が転移された後に、親和性を保持、回復又は改善するように設計される。上で定義したADR残基の重鎖及び軽鎖はそれぞれ図1及び2に示されている。少なくとも1つ、2つ、3つ、又はそれ以上のADRをバリエゲートすることができる。軽鎖又は重鎖のいずれかに宿るADRをバリエゲートすることができる。あるいは、ADRの定義されたサブセットをバリエゲートしてもよい。例えば、コチア残基34H、51H、55Hをバリエゲートするか、又はコチア残基34H、51H、55H、59H、60H、61Hをバリエゲートする。ADRのバリエゲーションはいくつかの利益を提供する。例えば、非ヒト残基と、それらの周りのヒト残基との不適合性は、結果的に得られる抗体の親和性の損失を引き起こす場合がある。非ヒトループとヒトHVループの構造の違いは、抗体の特異性を定義する残基の異なる位置づけ、及びしたがって親和性の損失の原因となる場合がある。
【0061】
少なくとも1つのADR残基のバリエゲーションによって生成されたアミノ酸配列のライブラリは、本明細書で用いられるような「ADRライブラリ」である。ADRライブラリは、例えば、重鎖又は軽鎖可変領域変異型のライブラリである。ADRライブラリは、周知の方法を用いて生成することができる。例えば、ランダム置換を有するこのライブラリのADR変異型は、20の自然発生するアミノ酸全てをコードするNNKコドンを用いて生成することができる。あるいは、ランダムでない置換を伴うADR変異型を、例えば、11のアミノ酸(ACDEGKNRSYW)をコードするDVKコドン及び1つの終止コドンを用いて生成することができる。あるいは、クンケル変異誘発法を使用して、ADRをバリエゲートしてもよい(Kunkel et al.,Methods Enzymol.154:367〜382,1987)。
【0062】
標準のクローニング法を使用して、ADRライブラリをベクターにして発現する。ADRライブラリは、既知のシステムを用いて発現することができ、例えば、融合タンパク質としてそのライブラリを発現することができる。代表的な融合タンパク質は、pIII、pVIII、pVI、pVII、及びそれらの変異型のようなウィルスコートタンパク質を有するADRライブラリ変異型の融合である。融合タンパク質は、任意の好適なファージの表面にディスプレイすることができる。バクテリオファージの表面上に抗体フラグメントを含む融合ポリペプチドのディスプレイの方法は周知である(米国特許第6,969,108号(Griffith)、米国特許第6,172,197号(McCafferty)、米国特許第5,223,409号(Ladner)、米国特許第6,582,915号(Griffiths)、米国特許第6472147号(Janda)、WO2009085462A1号)。ADRライブラリはまた、例えばリボソームディスプレイ(Hanes and Pluckthun,Proc.Natl.Acad.Scie.USA,94:4937,1997)、mRNAディスプレイ(Roberst and Szostak,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,94:12297,1997)、又は他の無細胞システム(米国特許第5,643,768号(Kawasaki))を使用して生体外で翻訳することもできる。ADRライブラリは、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、又はFvを含む様々なフォーマットで表現及びディスプレイすることができる。本発明の実施例1では、ADRライブラリは、バクテリオファージコートタンパク質pIXを伴う融合タンパク質として発現された(WO2009085462A1号(Ping))。
【0063】
その結果得られたライブラリを、例えば、低減、強化、又は修正された結合力、親和性、オンレート、オフレート又は特異性といった望ましい生物活性又は他の任意の好適な特性の抗体又は抗体フラグメントのためにスクリーニングすることができる。例えば、本発明のヒト化抗体は、約10-7、10-8、10-9、10-10、10-11、又は10-12M以下のKdを有する抗原と結合することができる。抗原に対する抗体の親和性は、任意の好適な方法を用いて実験的に決定することができる。そのような方法は、当業者に既知のBiacore又はKinExA計測、ELISA又は競合的結合アッセイを利用することができる。
【0064】
ADRライブラリを独立に使用して、任意の抗体又は抗体フラグメントの親和性を成熟することができる。
【0065】
抗体可変領域を隔離し、完全な長さの抗体又は任意の所望の抗原結合性フラグメントを作るために使用すること、及び哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、細菌を含む任意の宿主において発現することができる。発現ベクター及び生体外の翻訳方法は周知である。哺乳類細胞は、SP2/0(アメリカ培養コレクション(ATCC),Manassas,VA,CRL−1581)、NS0(ヨーロッパ細胞培養コレクション(ECACC),Salisbury,Wiltshire,UK,ECACC No.85110503)、FO(ATCC CRL−1646)及びAg653(ATCC CRL−1580)ネズミ細胞株のようなハイブリドーマ又は骨髄腫の細胞株のような不死化細胞株を含む。代表的なヒト骨髄腫細胞株はU266(ATTC CRL−TIB−196)である。他の有用な細胞株としては、CHO−K1SV(Lonza Biologics)、CHO−K1(ATCC CRL−61)のようなチャイニーズハムスター由来卵巣(CHO)株又はDG44が挙げられる。抗体の作製及び精製方法は、当該技術分野において周知である。
【0066】
抗体の親和性を成熟する方法
高親和性の抗体に対する需要は年々増してきており、特に、親和性が用量に、及びしたがって潜在的に免疫原性及び生産コストに直接影響し得る、治療用の価値を有する抗体については、なおさらである。ランダム(Groves et al.,J.Immunol.Methods 313:129〜39,2006)及び部位特異的変異誘発(SDM)法(Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3809〜13,1994)を含む、抗体の親和性を進化するための多くの戦略が報告されている。前者では、変化はV遺伝子全体にわたってランダムに導入され、ファージ、mRNA及びリボソームディスプレイのようなハイスループットスクリーニング法を用いて最良の変異型が選択される(Lipovsek and Pluckthun,J.Immunol.Methods 290:51〜67,2004)。一方、部位特異的変異誘発法(SDM)は、既定の残基に変異を導入するように設計され、ランダム変異誘発法に勝るその潜在的な利点は、導入される変化の結果を制御しやすいことである。
【0067】
それにも関わらず、一般的なSDM法はなお、ランダマイゼーションのために標的とする残基を特定するという難題を抱えている。ファージ又はリボソームディスプレイのような分子ディスプレイ技法を使用すると、残基が追加されるごとにライブラリのサイズが指数関数的に増すので、制限された一式の残基のみがランダマイズされ得る。例えば、全ての位置において32のコドンを導入する共通のNNK多様化スキームで構築されたライブラリは、残基の数n毎に32n増加する。制限クローニング及び形質転換によって構築されるファージライブラリは、通常、109〜1010メンバーというサイズに制限されるので、そのライブラリに完全な配列を収録しようとする場合、これは、6〜7残基のみを標的にできることを意味する。したがって、ランダマイゼーションのための主要な位置を正確に特定する方法が強く求められてきた。本発明の方法は、例えばADR及びSDRU残基など既定の位置を標的として置換する2つの親和性成熟法を提供する。
【0068】
ADRライブラリを用いる親和性成熟
本発明の別の実施形態は、抗体の親和性成熟の方法であって、
a.前記抗体のアミノ酸配列を得る工程と、
b.前記抗体の親和性決定残基(ADR)を決定する工程と、
c.少なくとも1つのADR残基をバリエゲートすることによって前記抗体のアミノ酸配列のライブラリを生成する工程と、
d.前記ライブラリを宿主において発現する又は生体外で翻訳する工程と、
e.前記ライブラリから、改善された対抗原親和性を有する1つ以上の抗体を選択する工程と、を含む、方法。
【0069】
本発明の方法を用いて、任意の抗体の親和性成熟が可能である。例えば、げっ歯類又はサルなど非ヒトの、ヒトの、キメラの、又はヒト化された、任意の抗体を使用することができる。少なくとも1つ、2つ、3つ、又はそれ以上のADRをバリエゲートすることができる。軽鎖又は重鎖のいずれかに宿るADRをバリエゲートすることができる。あるいは、ADRの定義されたサブセットのバリエゲーションを行ってもよい。
【0070】
本発明の別の態様では、バリエゲートされるADR残基は、コチア残基34H、51H、55Hから選択される。
【0071】
本発明の別の態様では、バリエゲートされるADR残基は、コチア残基34H、51H、55H、59H、60H、61Hから選択される。ADR残基は、上記のように決定され、図1及び2に示されている。ライブラリの生成方法、抗体及び抗体フラグメントの発現及び隔離の方法、及び抗体親和性の測定方法は上述した。
【0072】
SDRUライブラリを用いる親和性成熟
本発明の別の実施形態は、抗体の親和性成熟の方法であって、
a.前記抗体のアミノ酸配列を得る工程と、
b.前記抗体内の特異性決定残基使用量(SDRU)残基を決定する工程と、
c.少なくとも1つのSDRU残基をバリエゲートすることによって前記抗体のアミノ酸配列のライブラリを生成する工程と、
d.前記ライブラリを宿主において発現する又は前記ライブラリを生体外で翻訳する工程と、
e.前記ライブラリから、改善された対抗原親和性を有する1つ以上の抗体を選択する工程と、を含む、方法。
【0073】
本発明の方法を用いて、任意の抗体の親和性成熟が可能である。例えば、げっ歯類又はサルなど非ヒトの、ヒトの、キメラの、又はヒト化された、任意の抗体を使用することができる。少なくとも1つ、2つ、3つ、又はそれ以上のSDRU残基をバリエゲートすることができる。軽鎖又は重鎖のいずれかに宿るSDRU残基をバリエゲートすることができる。あるいは、定義されたサブセットのSDRU残基をバリエゲートすることができる。
【0074】
本発明の別の態様では、バリエゲートされるSDRU残基は、コチア残基91L、92L、及び93Lから選択される。
【0075】
本発明の別の態様では、バリエゲートされるSDRU残基は、コチア残基H32、H50、H52、H53、H54、H56、及びH58から選択される。
【0076】
本発明の別の態様では、バリエゲートされるSDRU残基は、コチア残基L30、L31、L32、L92、L93、L94、及びL96から選択される。
【0077】
ライブラリの生成方法、抗体及び抗体フラグメントの発現及び隔離の方法、及び抗体親和性の測定方法は上述した。本発明の方法は、抗体の親和性の有意な改善につながる可能性がある。下の実施例において実証されるように、例えば、抗IL−13抗体の親和性は最高25倍、抗IL−17の親和性は2倍、親抗体より向上した。
【0078】
本発明を以下の具体的かつ非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
SDRRを用いて行うマウス抗CD147抗体のヒト化
マウス抗CD147抗体4A5の生成
バシギン又はCD147としても知られる細胞外マトリックス金属タンパク質(MMP)誘導因子(EMMPRIN)は44〜66kDaの免疫グロブリンスーパーファミリーに属するI型膜透過性タンパク質である。ヒトCD147アミノ酸配列は、GenBank Acc No:BAB88938.1、SEQ ID NO:1として示される。
【0080】
4A5は、精製されたN末端ヒトCD147(SEQ ID NO:1のアミノ酸19−117)を抗原として使用し、A19N置換によって生成されたネズミ抗体である。クローニング、発現、タンパク質精製及び免疫付与は、標準の方法を用いて行った。表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定されたCD147 Hisタグ付きN末端ドメインに対する4A5 Fabの親和性は120nMであった(表3)。
【0081】
SDRU注釈
分解された、4A5のVL及びVHドメインのアミノ酸配列を、図6に示す(VH SEQ ID NO:2;VL SEQ ID NO:3)。それらの配列の上に、図1及び2で決定されたCDR及びHVの定義が提供される。SDRU残基を決定するために、SDRUの抗タンパク質抗体(pSDRU、表1)を使用した。
【0082】
ヒト生殖細胞系列抗体可変領域の遺伝子配列の選択
mAb 4A5 HVループ全長の可変領域の配列及びカノニカル構造を定義する位置における残基の分析は、4A5 VLがカノニカル構造クラス3−1をコードしたことを指示した(それぞれL1及びL2について)。L3では、4A5は削除を有し、したがって、カノニカル構造5型としての資格を有する(表3)。ヒト生殖細胞系列遺伝子でL3に5型のカノニカル構造を有するものはないので、L3はSDRUランキングでは考慮されなかった。4A5 VHはクラス1−2をコードした(それぞれH1およびH2について)。
【0083】
ヒト生殖細胞系列レパートリー(図3及び4に示す)との比較によって、カノニカル構造クラス3−1−1を共有する3つのVL遺伝子(011、01、及びB3)及びカノニカル構造クラス1〜2を有する7つのヒトVH遺伝子(1−18、1−69、1−e、1−f、5−51、5−a、及び7−4.1)が識別された。更なるランキングのためにこれらの生殖細胞系列遺伝子配列を選択した。
【0084】
4A5とヒト生殖細胞系列遺伝子間のSDRUランクスコアを計算し、図7に示した。VLに関しては、ヒトB3はSDRUランクスコアが9.0であり、ネズミ4A5に対する相同性がヒトO11及びO1配列より高いことが見出され、4A5の配列と比較すると、同一であり、位置94において類似性を1つだけ有し、ランクスコアは0.5であった。VHに関しては、同様の比較で1−69が4A5と最も相同性の高い遺伝子配列として識別され、ランクスコアは6.5であった。最も高いスコアを有する3つのヒト遺伝子を図7に示した。de Wildによる1−69/B3の発現プロファイルの更なる検査(de Wildt et al.,J.Mol.Biol.285:895〜901,1999)は、両方の遺伝子が生体内でよく発現したことを示し、したがって選択のための追加的な裏付けをもたらした。したがって、4A5 SDRU残基を置換するために1−69/B3をVH/VLスカフォールドとして選択した。1−69の配列はSEQ ID NO:4に、B3の配列はSEQ ID NO:5に示される。
【0085】
ヒト生殖細胞系列J領域をFR4ドナーとして識別するために、ImMunoGeTics Database(http:_//www_imgt_org)にコンパイルされた軽鎖のIGκJ生殖細胞系列遺伝子と、重鎖のIGHJ生殖細胞系列遺伝子との配列比較を行った。IGκJ及びIGHJの配列を図5に示す。Jκ1及びJH4についてはそれぞれ最高のランクスコアが得られ、それらはFR4配列として選択された。
【0086】
SDRUリサーフェシング
抗マウス抗体からの選択された重鎖及び軽鎖スカフォールドに置換により導入されたSDRU残基は、CDR−L3については94L、CDR−H1については33H及び35H、CDR−H2については52H、53H、54H、56H、58H、CDR−H3については95H〜102Hであった。ヒト化重鎖及び軽鎖可変領域の配列は、それぞれ、SEQ ID NO:6及びSEQ ID NO:7に示される。
【0087】
SDRRヒト化重鎖及び軽鎖可変領域を、ハイブリッドFabとして発現し、VH及びNLへのヒト化プロセスの影響を評価するためにELISAによって試験した。SDRRヒト化VH(SEQ ID NO;6)又はVL(SEQ ID NO:7)を含有するハイブリッドFab、親4A5 VH(SEQ ID NO:2)又はVL(SEQ ID NO:3)鎖、又は選択されたスカフォールド1〜69(SEQ ID NO:4)又はB3(SEQ ID NO:5)を発現し、CD147への結合を試験した。生成されたFabの結合の結果を表4に示す。SDRRヒト化VLはCD147との結合を示したが、SDRRヒト化VHは検出不能な結合を示した。
【0088】
【表3】

【0089】
(実施例2)
ADRライブラリの生成による親和性成熟
実施例1に記述したヒト化及びハイブリッドFabの結合実験に基づき、4A5/CD147の相互作用において、VLよりVHの方がより重要な役割を果たしたこと及びADRライブラリがVHに限定されたことが決定された。多様化のための標的とされたADR残基は、CDR−H1については26H、27H、28H、29H、及び34H、CDR−H2については51H、55H、57H、59H、60H、及び61Hであった。図8は、ADRライブラリの設計及び4A5重鎖及び軽鎖に関して置換されたSDRR残基を示す。
【0090】
ライブラリの生成及びスクリーニング
B3/4A5可変領域(SEQ ID NO:7)は、PCR法(Stemmer et al.,Gene 164:49〜53,1995)を用いて、2つの制限クローニング部位(5’でのNhe I及び3’でのRsr II)をNhe I−Rsr IIフラグメントとしてクローンし、pCNTO−lacI−pIX(WO2009085462A1号)にして、オーバーラップするオリゴを組み立てることによって合成された。
【0091】
1−69/4A5のADRライブラリは、テンプレートとして、SEQ ID NO:6に示されている可変領域配列によってコードされたcDNAを用いて、ADRの位置においてNNKミックスを伴うオリゴを用いたオーバーラッピングPCRによって合成された。このようにして、ADRの位置における全ての可能な変異型のサンプルを得た。その結果得られたライブラリによってコードされたアミノ酸配列をSEQ ID NO:8に示す。
【0092】
アガロースゲル抽出及び精製されたPCR混合物をSfi I及びXho Iで消化し、B3−4A5を含有するpCNTO−lacI−pIXベクターに連結した。その連結したDNAに20mg/mLのグリコーゲンを1μl添加し、更に500mLのn−ブタノールを加えてボルテックスし、室温で10分間、10,000rpmで遠心分離して沈殿させた。その上清をデカントし、1mLの70% EtOHでペレットを洗浄し、ボルテックスし、13,000rpmで10分間、4℃で遠心分離した。5分間乾燥した後、最終ペレットを20μLの水で再懸濁した。電気穿孔法によって連結混合物10μLを50μLのMC1061F’細胞に形質転換し、37℃で1時間、1mLのSOC中に回収した。形質転換体を100μg/mLカルビンシリン/1%グルコースのプレート上に出してシングルコロニーを得、電気穿孔毎に少なくとも107の独立したコロニーを収穫した。20の電気穿孔は2×108の形質転換体のライブラリをもたらした。
【0093】
電気穿孔ライブラリを、400μLのSOC培地にて37℃で1時間培養した後、レスキューした。この培養物を、1%グルコースを含有する100μg/mLのカルビンシリンで希釈して1000mlの2xYTを得、OD600が1.0に達するまで振った。この培養物100mLをVCSM13ヘルパーファージ(1011/mL)(Stratagene)で感染させ、その感染させた細胞を遠心分離し、カルビンシリン、カナマイシン及び1mM IPTGで再懸濁して、500mLの2xYTにした。この培養物を一晩、30℃で振った。ファージの上清を回収し、翌日、10%のPEG/NaClを添加した。氷上で2時間培養した後、10,000rpmで10分間遠心分離してファージを沈降し、25mLの冷たいPBSで再懸濁し、1mLのアリコートに分割した。アリコートは、使用するまで−70℃で貯蔵した。
【0094】
ライブラリを3回パニングした。特異的ファージは、上述のように調製された、96ウェルのMaxisorp免疫プレート(NUNC)上で吸収されたヒトHisタグ付きN末端CD147を使用して親和性選択される。3回の選択後にDNAを特異的ファージから隔離し、NheI/SpeIの消化によってplXを取り除く。plXのない、ゲル抽出され精製されたDNAを連結し、電気穿孔によってIMC1061F’細胞50μLに形質転換し、37℃で1時間かけて、SOC 1mLにて回収した。形質転換物を、カルベニシリンとグルコースを含有する寒天プレート上に出し、スクリーニングのためのシングルコロニーを得た。
【0095】
シングルコロニーをランダムに取り出して、カルベニシリン及び1%グルコース(2xYT/カルベニシリン)を含有するウェル当たり100μLの2xYTに接種し、37℃で一晩成長させて、マスタープレート(MP)を作製した。一晩経ったこのMPからの培養物20μLを、ウェル当たり100μLの2xYT/カルベニシリンを含有する発現プレート(EP)に添加し、振りながら37℃で6〜8時間成長させた。最終的に20%になるようグリセロールをMPに添加し、−80℃で貯蔵した。
【0096】
6〜8時間成長させた後、IPTG(1mM)をEPに添加し、一晩振りながら30℃で培養した。ELISAプレートは、結合のための1μg/mLのヒトCD147 Hisタグ付きN末端ドメイン及び発現のための1μg/mLのヒツジ抗Fd(The Binding Site,Inc.)でコーティングして準備した。翌日、それぞれの試料に、1xPBS中のLysozyme(2.5mg/mL)を20μL添加することにより、細胞を溶解した。タンパク質でコーティングされたELISAプレートをTBSTで洗浄し、ChemiBlocker(Pierce)でブロックした。細胞可溶化物とともにプレートを1時間培養し、TBST緩衝液で洗浄後、抗ヤギ抗ヒト(Fab)HRP共役抗体(Jackson Immunoresearch)培養した。HRP基質を添加後、結合したFabを化学発光法によって検出した。
【0097】
スクリーニングした376のFabのうち195(53%)はELISA形式でCD147への陽性結合を示した。81の強結合剤の配列決定により、2回出現した2つのクローンを含む75の固有の配列が明らかになった(図9)。ADR中のアミノ酸の分布は、「ロゴ」図(Schneider et al,Nucleic Acids Res.18:6097〜6100,1990)として示されている(図10)。NNKコドンによって精製されたアミノ酸の頻度からいかにADRが逸脱しているかを決定するために、これらの位置の統計解析を、適合度による手法(goodness-of-fit technique)によって実行した。
【0098】
χ2値を、各位置について算出した。期待されるNNK頻度に対して、非常に有意な差(p<0.01)を示す位置に2つのアスタリスクでラベル付けした。有意な頻度を伴う位置は1つのアスタリスクでラベル付けした(p<0.05)。示されているように、H1におけるADRの位置34H及びH2における位置51H、55H、59H、60H、及び61Hは、非常に有意な差を持ってNNK分布から逸脱しており、これらの残基がループの配座及び/又はCDR−H1とCDR−H2の相対的な位置を修正することを示唆した。位置26及び57は有意な差を示し、これらの位置が親和性に影響を及ぼし得るものの、置換に対する耐性がより高いことを示唆した。
【0099】
得られたFabの特性
更なる特性評価のために、図9に示されている生成された4A5のFabクローン70〜75を選択した。これらのFabは、SEQ ID NO:7に示される配列を有するVLと、SEQ ID NO:9、10、11、12、13、及び14に示される配列を有するVHとをそれぞれ有していた。これら6つのクローンのそれぞれのシングルコロニーを10mLの2xYT/カルベニシリンにて一晩成長させた。この一晩成長させた培養物を1Lの新鮮な2xYT/カルベニシリンに接種し、OD600が0.8〜1.0O.D.に達するまで成長させた。タンパク質の発現は、1mMのIPTGで誘導し、その培養物を一晩、30℃で振った。翌朝、1Lの培養物を4500rpmで30分間、遠心分離した。その上清を廃棄し、ペレットを100mLの20mMトリス(pH8.5)/350mMNaCl/7.5mMイミダゾールにて再懸濁し、完成品である蛋白質分解酵素抑制剤1錠を加えた(EDTAなし)。この均質の細胞をマイクロフルイダイザー(3X)で溶解し、氷上にて保存した。マイクロフルイダイザーで処理した細胞を9Krpmで15分間遠心分離した。上清を清浄な試験管に注ぎ入れ、遠心分離を繰り返した。
【0100】
タロン樹脂を20mMトリス(pH8.5)/350mM NaCl/7.5mMイミダゾールで平衡化した(タロン/EtOHを2,000rpmで5分間遠心分離し、EtOHを注ぎ出し、同量の20mMトリス(pH8.5)にて再懸濁を2回繰り返した)。平衡化されたタロン樹脂2mLを、濾過したそれぞれの上清に添加した。この混合物を、2時間やさしく振りながら室温で培養した。His結合された樹脂と上清を500mLの遠心分離用ボトルに移し入れ、4,500rpmで5分間、遠心分離した。上清のほとんどを注ぎ出し、約30mLを使用して、タロンペレットを再懸濁したものをBioRadカラムに充填した。樹脂を約5分間沈殿させた後、重力の流れによって上清を取り出した。次いで、この樹脂を50mLの20mMトリス(pH8.5)/350mM NaCl/7.5mMイミダゾール樹脂で2回洗浄した。150mM EDTA/20mMトリス(pH8.5)を用いてカラムからタンパク質を溶離した。この溶離液を4℃で一晩、トリス(pH8.5)にて透析した。
【0101】
Q−FFアニオン交換樹脂を20mMトリス(pH8.5)で平衡化した。透析されたHis生成材料に、Q−FFアニオン交換樹脂5〜7.5mLを添加し、やさしく振りながら室温で2時間培養した。次いで、樹脂及び上清をカラムに充填し、貫流を回収し、約1mLに濃縮した。Nanodrop uv/vis分光光度計で、280nmと320nm波長の吸光度差から濃度を判定した。精製した試料をSDS−PAGEで処理し、次いでゲルをCommassie Blueで染めることにより、濃度及び純度も決定した。
【0102】
4A5と並んだ、精製後のFab試料のCD147結合をSPRで評価した。表面結合したヒトN末端CD147(120RU)を用いて、4A5キメラ及びADR Fab変異型との親和性を、11〜600nMへ濃度を漸増して、Fab結合の動力学から算出した。ヒトN末端CD147ドメインに対して、ヒト化及び親和性成熟されたFabは15〜100nMの範囲であり、一方、キメラの4A5 Fabは120nMという親和性を示した(表3)。
【0103】
【表4】

【0104】
エピトープのマッピング
親和性成熟された変異型によって認識されるエピトープの保持を確保するために、ヒト/マウスキメラCD147タンパク質上の4A5の結合を評価することによって、エピトープのマッピングを行った。ヒト(BAB88938.1,SEQ ID NO:1)及びマウス(GenBank Acc.No.AAH10270.1,SEQ ID NO:15)のCD147Hisタグ付きN末端ドメイン及びいくつかのヒト/マウスキメラCD147分子をpCEP4ベクターにクローンし、標準の方法を用いて293の細胞に過渡的に発現した。発現されたキメラ分子は、SEQ ID NO:16、17、18、及び19にそれぞれ示されるアミノ酸配列を有していた。ヒト化及び親和性成熟された全てのFabは、4A5と類似した結合プロファイルを呈し、負対照として使用した非特異的なFabとは異なっていた。したがって、CD147において4A5によって認識されるエピトープは、SDRRヒト化及びその後の親和性成熟の後、保持された。
【0105】
(実施例3)
SDRU多様性の導入による集中的親和性成熟
抗IL13抗体の親和性成熟
親和性成熟のために選択したIL13−62抗体は、ヒトフレームワークに適合された、ハイブリドーマC836が分泌する親マウス抗体のIgG1の変異型であった。フレームワークの配列はHc2〜Lc6の重鎖及び軽鎖の遺伝子であった。IL13−62の重鎖及び軽鎖の配列は、それぞれ、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示される。
【0106】
IL13−62ランダムファージライブラリは、高使用量の4つの抗タンパク質SDRU残基(残基H91、N92、E93、及びY94)のバリエゲーションによって生成した。このライブラリは、NNKコドンを使用する完全な多様性を導入するように設計され、理論上の多様性である1.9×105の変異型をもたらした。
【0107】
Fabライブラリは、米国特許第6,472,147号及びWO2009085462A1号に記述されているplXファージディスプレイシステムにおいて構築した。IL13−62は、Lc6及びHc2の可変領域を含有するダイシストロニック(dicistronic)単位として発現した。ライブラリは、標準の方法を用いて、入れ子になったPCRによって、3つのフラグメントから組み立てられた。完全な長さのフラグメントをクローンして、ファージベクターpCNTO−lacl−plXに導入した。
【0108】
軽鎖CDR3ファージライブラリを、R130Q置換を有するビオチニル化IL−13(ニュージャージー州ロッキーヒル所在のPeprotech)に対してパニングした(IL−13野生型アミノ酸配列はSEQ ID NO:22に示されている)。端的に、パニングの前に、ストレプトアビジンでコーティングした常磁性ビード(カリフォルニア州カールスバッド所在のInvitrogen)をChemiblocker(カリフォルニア州テメキュラ所在のChemicon)でブロックした。同様に、CDRL3ファージライブラリを、0.05%のTween−20(T)とともにトリス緩衝生理食塩水(TBS)にて1:1に希釈したChemiblockerにて、室温で30分間、予めブロックし、次いで、予吸着工程において、CDRL3ライブラリを、ブロックされた磁性ビードを用いて培養して、特異的でないバインダーをライブラリから取り除いた。次いで、3回連続パニングするために、ビオチニル化IL−13変異型R130Qを異なる濃度(10nM〜0.01nM)でファージライブラリに添加した。磁性ビードを用い、抗原結合したファージを捕らえ、指数関数的に成長する大腸菌TG−1細胞1mLを添加し(OD(600nm)=0.5)、37℃で30分間培養して、レスキューした。次いで、ファージを生成し、次のパニングのために準備した。Fab−plXは、TG−1コロニーのバクテリア細胞租溶解物から生成した。
【0109】
CDRL3ライブラリの質は、192のランダムに取り出したクローンの配列を決定することによって評価した。192のうち178は少なくとも80%の配列カバレッジを有していた(Nhel部位からRsrIIまで)。178のうち163(92%)は挿入及び/又は削除(すなわち、使用可能なクローンのパーセンテージ)を有さず、163のクローン全てが固有のものであった。残基の分布は、自社占有プログラムを使用して、配列カバレッジを有する全てのクローンを元に計算した。
【0110】
ハイスループットのシングルポイント(10nM)ELISAを使用し、得られた変異型をランキングした。TBS中で、Black Maxisorpプレート(デンマークのロスキルド所在のNunc)に1μg/mLのヒツジ抗Fd抗体(ヒトIgGのCH1ドメインを結合)を4℃で一晩コーティングした。プレートをTBST中で5回洗浄し、次いで、室温で1時間、50%Chemiblocker/TBSTにてブロッキングした。租Fab−plX細胞溶解物50μLを各ウェルに添加し、室温で1時間、培養した。プレートを洗浄し、10%Chemiblocker/TBSTにて希釈された一定の希釈範囲のビオチニル化IL13R130Q(Peprotech)をそれらのウェルに添加し、室温で1時間培養した。平行プレートにて、1:5,000希釈(10%Chemiblocker/TBSTにて)でHRP共役ヤギ抗Fab抗体(ペンシルベニア州ウェストグローブ所在のJackson ImmunoResearch)を添加し、Fabの捕獲を検出した。ビオチニル化IL13R130Qは、1:5,000希釈のストレプトアビジン−HRPによって検出した。最終洗浄後、化学発光基質(Roche販売元の指示に従って調製したPOD)を添加し、Envisionの計器(マサチューセッツ州ウォルサム所在のPerkin Elmer)でプレートを計測した。いくつかの変異型は、使用した対照Fab(親ネズミIL13−62Fab及びネズミとヒトのキメラFabIL13−167)に比べて高い化学発光信号を示した。
【0111】
Fab−plX形式での高い結合信号及び配列解析に基づき、関心対象のクローンは、完全なIgG mAb形式に変換された。ファージスクリーンからのFabを制限酵素で消化し、CMVプロモーターベクターpUNDERにクローンし、配列を確認した。Lc6変異型を、Hc2(SEQ ID NO:20)と、又はグルタミン酸塩、セリン、バリン、グルタミン又はロイシンの代わりに位置34及び100にメチオニンを有するHc2と、ペアリングした。得られたFabを、ヒトIgG1を含有するベクターにおいてクローンし、標準の方法を用いて精製した。
【0112】
選択された抗体の親和性は、ELISA及びBioacore(商標)によって決定し、表5に示した。最も優れた10の親和性成熟された変異型の親和性は、10pMの範囲以上であった。
【0113】
抗IL17抗体の親和性成熟
親和性成熟のために選んだIL17の抗体IL−17M70及びIL−17M82は、ヒトフレームワーク適合された変異型の、ハイブリドーマC1863Aによって選択された親マウス抗体のIgG1サブタイプであった。フレームワーク配列は、Hc9〜Lc4であり、Hc11重鎖遺伝子についてはIL−17M70、Lc2軽鎖遺伝子についてはIL−17M82とした。IL−17M70の重鎖及び軽鎖の配列は、SEQ ID NO:23及びSEQ ID NO:24にそれぞれ示されており、IL−17M82の重鎖及び軽鎖の配列は、SEQ ID NO:25及びSEQ ID NO:26にそれぞれ示されている。ヒトIL−17に対する抗体の親和性は、Biacoreを用いて、IL−17M70では438nMであり、IL−17M82では431nMであった。IL−13抗体IL13−62の親和性成熟に使用した方法は、基本的に上述の通りである。
【0114】
ファージの成熟のためのIL−17M70及びIL−17M82ライブラリは、pCNTO−Fab−pIXにおいて構築した。タンパク質SDRU残基(CDR−L1、CDR−L3、CDR−H1、及びCDR−H2のpSDRU)をランダマイズすることによって構築した。各抗体の2つのライブラリ(CDR−H1及びCDR−H2の重鎖ライブラリとCDR−L1及びCDR−L3の軽鎖ライブラリ)を合成したライブラリでランダマイズされた残基は、コチア残基H32、H50、H52、H53、H54、H56、H58、L30、L31、L32、L92、L93、L94、及びL96である。
【0115】
軽鎖ライブラリのベクターは、親重鎖配列を有していた(IL−17M70(SEQ ID NO:23)についてはHc9、及びIL−17M82(SEQ ID NO:25)についてはHc11)。
【0116】
【表5−1】

【0117】
【表5−2】

【0118】
同様に、重鎖ライブラリのベクターは親軽鎖配列を有する(IL−17M70についてはLc4(SEQ ID NO:24)及びIL−17M82(SEQ ID NO:26)についてはLc2)。
【0119】
IL−17M70及びIL−17M82の軽鎖及び重鎖の配列、pSDRU、コチア及びカバット記述を図11に示す。ライブラリの残基のうち、ランダマイズされたものに下線を付した。ライブラリの合成は、各位置に、メチオニン、システイン、リシン、グルタミン、グルタミン酸塩を除く全てのアミノ酸を導入するように設計された。ライブラリの理論上の多様性は2×109メンバーであった。ライブラリのサイズを制限するために、pSDRU残基(H30、H31、H50a、及びL91)はランダマイズしなかった。得られたライブラリによってコードされたアミノ酸配列は、IL−17M70についてはSEQ ID NO:27に、及びIL−17M82についてはSEQ ID NO:28に示されている。
【0120】
形質転換されたライブラリプレートからのファージ調製及びパニングは、上述のように、10nM〜0.01nMの様々な濃度でビオチニル化ヒトIL−17A K3R/K74Q/A136Q変異型を使用して実行した(IL−17野生型はSEQ ID NO:29に示されている)。第2回及び第3回目のパニングからのコロニーを、Fabの精製及び配列の決定のために取り出した。FabのELISA及び配列解析に基づいて、親Fabより優れた結合信号を有する固有のクローンが識別された。IL−17M70ライブラリからの合計6の重鎖及び14の軽鎖と、IL−17M82ライブラリからの9の重鎖及び22の軽鎖の配列を決定した。それらの重鎖及び軽鎖変異型の配列を図12に示す。選択された重鎖及び軽鎖をmAbに変換し、標準のプロトコルを用いてマトリックストランスフェクションにて発現させた。12ng/mLでのヒトIL−17A変異型(SEQ ID NO:29)への結合率(%)をIL−17M70及びIL−17M82の両方の変異型Fabについて評価し、それぞれ表6及び7に示した。更なる特性評価のために、それぞれの親の4つの変異型mAbを選択した(表8)。結果すなわち特性を表9に示す。親和性成熟されたmAbは、IL17に対して、親抗体に比べて最高2倍の改善された親和性を有していた。
【0121】
【表6】

【0122】
【表7】

【0123】
【表8】

【0124】
【表9】

【0125】
以上のように、本発明の全てを説明してきたが、当業者には、添付の請求項の意図又は範囲から逸脱せずに本発明に多くの変更及び修正を行うことが可能であることは明白となるであろう。
【図1−1】

【図1−2】

【図1−3】

【図2−1】

【図2−2】

【図2−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体をヒト化する方法であって、
a.非ヒト抗体可変領域のアミノ酸配列を得る工程と、
b.前記非ヒト抗体可変領域の第1のカノニカル構造クラスを決定する工程と、
c.生殖細胞系列遺伝子によってコードされるヒト抗体可変領域のアミノ酸配列の第1のライブラリを得る工程と、
d.前記第1のライブラリから、アミノ酸配列の一群を選択する工程と、
(この選択する工程は、
i.前記第1のライブラリのそれぞれのアミノ酸配列に関する第2のカノニカル構造クラスと、SDRUランクスコアとを決定する工程と、
ii.前記第1のカノニカル構造クラスと同一の第2のカノニカル構造クラスを有し、最高のSDRUランクスコアを更に有する、アミノ酸配列の一群を前記第1のライブラリから識別する工程と、を含む)
e.ヒト化抗体を生成するために、工程d)で選択されたアミノ酸配列の群において、SDRU残基を、対応する非ヒトSDRU残基と置換する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記生殖細胞系列遺伝子が、VH、Vκ、Vλ、JH、Jκ、又はJλ配列から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可変領域が、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト化抗体がIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgD、IgE、又はIgA型である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ライブラリから前記アミノ酸配列の群を選択する工程を更に含み、この工程が、
a.抗体可変領域のペアリングを評価すること、又は
b.前記第1のカノニカル構造クラスが前記第1のライブラリの前記アミノ酸配列の群に存在しないときに、非ヒト抗体可変領域を伴う少なくとも1つのHVループのために、同一のカノニカル構造を有する前記第1のライブラリから前記アミノ酸配列の群を選択すること、のうち1つの選択基準を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
e−i:工程dで選択されたアミノ酸配列の群の親和力決定残基(ADR)を決定する工程と、
e−ii:少なくとも1つのADR残基をバリエゲートすることによって、ヒト抗体可変領域のアミノ酸配列の第2のライブラリを生成する工程と、
e−iii:宿主において前記第2のライブラリを発現する又は前記第2のライブラリを生体外で翻訳する工程と、
e−iv:前記第2のライブラリから、望ましい生物活性を有するそれらの可変領域を選択する工程と、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのADR残基がバリエゲートされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2つのADR残基がバリエゲートされる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも3つのADR残基がバリエゲートされる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのADR残基が、重鎖のADR残基から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのADR残基が、軽鎖のADR残基から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのADR残基が、コチア(Chothia)残基34H、51H、又は55Hから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのADR残基が、コチア残基34H、51H、55H、59H、60H、又は61Hから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記バリエゲートされるADR残基が、コチア残基34H、51H、又は55Hから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記バリエゲートされるADR残基が、コチア残基34H、51H、55H、59H、60H、又は61Hから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記ADRライブラリが、Fv、scFv、dAb、又はFab抗体フラグメントとして発現される、請求項6に記載の方法。
【請求項17】
前記ADRライブラリが、融合タンパク質として発現される、請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記融合タンパク質が、ファージコートタンパク質である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記コートタンパク質が、ファージpIXである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
宿主が、哺乳類細胞、細菌、又は酵母菌である、請求項6に記載の方法。
【請求項21】
抗体を親和性成熟する方法であって、
a.前記抗体のアミノ酸配列を得る工程と、
b.前記抗体中の親和性決定残基(ADR)を決定する工程と、
c.少なくとも1つのADR残基をバリエゲートすることによって前記抗体のアミノ酸配列のライブラリを生成する工程と、
d.前記ライブラリを宿主において発現する又は前記ライブラリを生体外で翻訳する工程と、
e.前記ライブラリから、対抗原に対して改善された親和性を有する1つ以上の抗体を選択する工程と、を含む、方法。
【請求項22】
少なくとも2つのADR残基がバリエゲートされる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも3つのADR残基がバリエゲートされる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのADR残基が、軽鎖のADR残基から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのADR残基が、重鎖のADR残基から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのADR残基が、コチア残基34H、51H、又は55Hから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのADR残基が、コチア残基34H、51H、55H、59H、60H、又は61Hから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記バリエゲートされるADR残基が、コチア残基34H、51H、又は55Hから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記バリエゲートされるADR残基が、コチア残基34H、51H、55H、59H、60H、又は61Hから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記抗体がFv、scFv、dAb、又はFabフラグメントである、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記ライブラリが融合タンパク質として発現されるか、又は生体外において翻訳される、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
前記融合タンパク質が、ファージコートタンパク質である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記コートタンパク質が、pIXである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
宿主が、哺乳類細胞、細菌、又は酵母菌である、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
前記抗体がヒト化抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
前記ヒト化抗体が、請求項1に記載の方法によりヒト化される、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
親和性成熟された抗体を作製する方法であって、
a.前記抗体のアミノ酸配列を得る工程と、
b.前記抗体内の特異性決定残基使用(SDRU)残基を決定する工程と、
c.少なくとも1つのSDRU残基をバリエゲートすることによって前記抗体のアミノ酸配列のライブラリを生成する工程と、
d.前記ライブラリを宿主において発現する又は前記ライブラリを生体外で翻訳する工程と、
e.前記ライブラリから、対抗原に対する改善された親和性を有する1つ以上の抗体を選択する工程と、を含む、方法。
【請求項38】
少なくとも2つのSDRU残基が、バリエゲートされる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも3つのSDRU残基が、バリエゲートされる、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのSDRU残基が、軽鎖のSDRU残基から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのSDRU残基が、重鎖のSDRU残基から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つのSDRU残基が、コチア残基91L、92L、又は93Lから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つのSDRU残基が、コチア残基30L、31L、32L、92L、93L、94L、又は96Lから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項44】
前記バリエゲートされる少なくとも1つのSDRU残基が、コチア残基32H、50H、52H、53H、54H、56H、又は58Hから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項45】
前記バリエゲートされるSDRU残基が、コチア残基91L、92L、及び93Lから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項46】
前記バリエゲートされるSDRU残基が、コチア残基30L、31L、32L、92L、93L、94L、及び96Lから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項47】
前記バリエゲートされるADR残基が、コチア残基34H、51H、55H、57H、59H、60H、又は61Hから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項48】
前記抗体が、Fv、scFv、dAb、又はFabフラグメントである、請求項37に記載の方法。
【請求項49】
前記ライブラリが、融合タンパク質として発現される、請求項37に記載の方法。
【請求項50】
前記融合タンパク質が、ファージコートタンパク質である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記コートタンパク質が、pIXである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
宿主が、哺乳類細胞、細菌、又は酵母菌である、請求項37に記載の方法。
【請求項53】
前記抗体が、ヒト化抗体である、請求項37に記載の方法。
【請求項54】
前記ヒト化抗体が、請求項1に記載の方法によりヒト化される、請求項37に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図12d】
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【公表番号】特表2012−505654(P2012−505654A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532210(P2011−532210)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/060657
【国際公開番号】WO2010/045340
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】