抗体を得るための方法
本開示は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにする方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え抗体、特に治療用抗体の産生及び単離における収率を増大するための方法に関する。これらの方法は、治療用抗体の大規模な工業的生産に特に適している。
【背景技術】
【0002】
組換えDNA技法は急速に開発されており、抗体、特に治療用抗体の産生において特に有用である。組換え遺伝子の発現に関する系は、問題の技術分野の当業者にはよく知られている。これらは、哺乳動物細胞、昆虫細胞、真菌細胞、細菌細胞、並びにトランスジェニック動物及び植物における発現を含む。発現系の選択は、コードタンパク質の特徴、例えば翻訳後修飾に依存する。他の考慮事項は時間、及び特に、所望量の必要とされる品質の物質の産生に関するコストを含む。これらの後者の考慮事項は、監督機関の承認が必要な品質及び多数の患者の治療に必要とされる量の、治療用抗体の産生において特に重要である。
【0003】
組換えタンパク質の産生に最も広く使用されている系は、大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)における発現に基づいている。大腸菌の使用で直面する具体的な問題は、治療に必要な量の必要とされる品質の物質を産生する際の困難である。特に、関連する時間及びコストは禁じられ得る。顕著な1つの具体的な問題は、大腸菌からの抗体の抽出中の抗体の収率において被る損失である。
【0004】
比例して、精製コストは治療用抗体産物の全コストの一部分であるが、精製コストの割合は、上流産生コストが安くなるとさらに増大する。したがって、抗体の回収及び精製の改善は、産生の手段とは無関係に産生コストをさらに低減する(Humphreys & Glover、Curr.Opin.Drug Disc/’overy & Development、2001、4:172〜185)。したがって、例えば産物の回収を高めること、及び/又は産物の流れの品質を改善することによって、治療用抗体産生、及び特に精製に時間及び/又はコスト節約をもたらす方法が必要とされる。
【0005】
発酵又は培養当たりの低い産物収率は、一次抽出段階で示される特定の問題であることが多く、抗体の発現は細胞内では高いが、一次抽出段階での高い回収率を得るのは非常に難しい。
【0006】
この後者の問題を部分的に処理し、治療用途に許容可能な抗体の産生を可能にする方法は、米国特許第5,655,866号中に記載されている。この方法は、非機能性抗体からの抗体機能性Fab’断片の後の単離を容易にするための熱処理の使用を含み、熱処理は発酵若しくは培養中の任意の時間、又は抗体の抽出及び精製中の任意の段階で実施する。室温を超える高温において、機能性抗体は非常に安定性があり、一方で宿主細胞タンパク質及び遊離軽鎖及び重鎖種及び抗体の非機能性断片を含めた、多くの他のタンパク質は、濾過若しくは遠心分離若しくは流動床クロマトグラフィーなどの一次精製手順中に機能性抗体から容易に分離される沈殿及び/又は凝集体を形成する。細胞抽出物は、EDTA10mMを含有するトリスHClバッファー100mM、pH7.4中で完全細胞をインキュベートすることによって、米国特許第5,655,866号中に記載された方法で調製した。
【0007】
WO2006/054063は、熱処理と組合せた非溶解処理を含めることによる、一次抽出段階での機能性抗体の収率の増大を記載する。この方法は、遠心分離後、100mMのEDTAを含有する1Mのトリス、pH7.4を含むサンプル中に細胞ペレットを再懸濁し、次に非溶解処理、次いで熱処理を行ったことを教示する。
【0008】
WO2005/019466は、発酵後ただし抽出を含めた下流処理前に定義した温度及びpH条件下での中断ステップを含めることによる、組換えタンパク質の収率の増大について記載する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本明細書に記載する本発明は、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養した後、一次回収プロセス中に生成したサンプルのpHの増大は、抗体の収率に対して著しく有益な影響があるという、驚くべき予想外の観察結果に基づく。
【0010】
抗体は加熱などの処理前に範囲6〜9のpHで開始することはできるが、驚くべきことに緩衝処理したときでさえ、おそらく細胞代謝の結果としてpHは低下する。本発明者らは、これは収率/回収に対して悪影響があると現在考えており、適切な場合、確実にpHが標的範囲内に留まるようにするための処理の前及び/又は最中に物質のpHを調整することによって、これに取り組むことを提案している。
【0011】
熱処理ステップ前のサンプルのpHは、細胞サンプルからの抗体の収率に対して相当な影響があることが、驚くべきことに分かっている。サンプルのpHが熱処理ステップ前にpH6〜9となるようにサンプルのpHを調整することによって、40%までの抗体の収率の増大をもたらすことが分かっている。これは、治療品質の量の機能性抗体の産生の、時間及びコストの非常に有益な節約を可能にする。実際、均質化(homogenization)及び保持(hold)ステップなどの、収率を増大するために使用されることが多い他のステップは、高レベルの抗体収率を得るのに、もはや必要とされない可能性がある。
【0012】
例えば米国特許第5,655,866号中で、以前に使用された方法中では、7.4のpHを有するバッファー中で完全細胞をインキュベートすることによって、細胞抽出物が調製された。サンプルのpHを一定レベルに維持すると予想されるバッファーの添加にもかかわらず、実際細胞サンプルのpHは経時的に低下することが分かっている。バッファーの添加後長時間などの特定の状況では、サンプルのpHは熱処理ステップ前にpH5.5ほど低いことが分かっている。確実にサンプルのpHが6〜9となるようにするための、熱処理前のpHの検出、及び場合によっては調整は、抗体の収率の驚くべき増大をもたらすことが分かっている。
【0013】
理論によって束縛されることは望まないが、熱処理などの処理ステップ中に6〜9の範囲内にpHを維持することは重要であると考えられる。(熱処理ステップなどの)処理前のpH調整は、適正範囲内にpHを維持するのを手助けする。したがって、一態様では、実質的にプロセスの時間中、実質的に6〜9の範囲内でpHを維持する抗体抽出ステップを提供する。
【0014】
理論によって束縛されるものではないが、本発明によって提供される方法は、標準的抽出条件下において切り離されない一次単離中のペリプラズムからの組換えタンパク質の回収を可能にすると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明の第一の態様では、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにする方法を提供する。
【0016】
この段階でのpHのモニタリングは、pHに対する調節を確立するのに必要不可欠である。
【0017】
代替の態様では、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルから組換え抗体分子を抽出する方法であって、
前記細胞の組成物のpHを6〜9の範囲内で調整して、後の抽出ステップ中にpHがその範囲内に維持されるようにするステップ、
熱処理ステップなどの抽出ステップを細胞に施すステップを含み、
抽出ステップの直前及び/又は最中に少なくとも1つの時点でpHをモニタリングする方法を提供する。
【0018】
サンプルを熱処理ステップに施した後、抽出バッファーのpHの上昇は、抗体の収率の驚くべき増大をもたらすことも分かっている。
【0019】
したがって、本発明の第二の態様では、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、7.5〜9.0のpHを有するサンプルに抽出バッファーを加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で利用する抗体分子は、完全抗体又はその結合断片、特に完全抗体又はFab断片を指すものとする。
【0021】
本発明の第一の態様では、サンプルは熱処理ステップ前に6〜9のpHを有している、又は有するように調整する。
【0022】
好ましい実施形態では、サンプルは、熱処理ステップの前に、6.5〜8.5のpH、pH6.5〜8.0、pH7.0〜9.0、pH7.0〜8.5、pH7.0〜8.0、pH7.1〜8.0、pH7.5〜8.0、pH7.0〜7.8、pH7.1〜7.8、pH7.1〜7.7、pH7.2〜7.6、pH7.3〜7.5、pH7.1、pH7.2、pH7.3、pH7.4、pH7.5、pH7.6、pH7.7、pH7.8又はpH7.9、pH7.4など、特にpH6.8を有する。
【0023】
本明細書で言及するpH測定値は一般に20℃に標準化する。
【0024】
本発明の方法中の熱処理ステップは、加熱段階中に望ましい高温に達した後、この望ましい高温にサンプルの温度を維持するステップである。熱処理ステップの適切な温度範囲は30〜70℃を含む。
【0025】
本発明の文脈では、語句「熱処理ステップの前」は、サンプルが望ましい高温に達し、(高温で保持する)熱処理ステップが始まる時点以前を意味する。熱処理ステップに望ましい高温に到達するため、サンプルを「加熱段階」に施し、その間にサンプルの温度が望ましい高温に上昇する。一実施形態では、本発明による方法は、サンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含む。
【0026】
本発明の方法において、熱処理ステップの前に、サンプルは6〜9のpH、例えばpH6.8を有する。この文脈では、「熱処理ステップの前」は、サンプルが熱処理ステップに望ましい高温に達する時点又はそれより前に、サンプルのpHが必要とされるレベルにあることを意味する。その方法がサンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含む実施形態では、サンプルは、加熱段階の開始前に必要とされるpHレベル、及び/又は加熱段階の最中に必要とされるpHレベルにあり得る。
【0027】
好ましい実施形態では、サンプルは加熱段階の開始前に6〜9の必要とされるpHレベルにある。
【0028】
一実施形態では、本発明は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、加熱段階の前に確実にサンプルのpHがpH6〜9、例えばpH7〜9、pH7〜8などとなるようにする方法を提供する。
【0029】
代替の実施形態では、本発明は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、加熱段階の最中に確実にサンプルのpHがpH6〜9、好ましくはpH6〜8、より好ましくはpH6〜7となるようにする方法を提供する。
【0030】
一実施形態では、サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、確実にサンプルのpHが加熱段階の前に第一のpH、加熱段階の最中に第二のpHとなるようにする。第一のpHと第二のpHのレベルは異なることが好ましい。第二のpHは第一のpHより低いことが好ましい。したがって、本発明は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、加熱段階の前に確実にサンプルのpHがpH7〜9、好ましくはpH7〜8となるようにし、加熱段階の最中に確実にサンプルのpHがpH6〜8、好ましくはpH6〜7となるようにする方法を提供する。この実施形態では、加熱段階の前にサンプルのpHを検出し、場合によっては調整することができ、加熱段階の最中に検出し、場合によっては調整することができる。
【0031】
好ましい実施形態では、加熱段階の直前に、サンプルは6〜9のpH、好ましくはpH7〜9、より好ましくはpH7〜8を有する。それに加えて又はその代わりに、サンプルが望ましい高温に達し熱処理ステップが始まる時点を場合によっては含めた熱処理ステップの直前、加熱段階の最中に、サンプルは6〜9のpH、好ましくはpH6〜8、より好ましくはpH6〜7を有する。加熱段階の直前又は熱処理ステップの直前のサンプルのpHは、組換え抗体の収率に対して有意な影響があることが分かっている。
【0032】
本発明の文脈では、用語「直前」は、加熱段階、熱処理ステップの前の、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、5秒以下、1秒以下の時間を意味することが好ましい。用語「直前」は、加熱段階の開始時又は熱処理ステップの開始時に6〜9である溶液のpHも包含し得る。
【0033】
サンプルのpHは抽出バッファーの添加後に検出する。サンプルのpHは、当技術分野で知られている任意の適切なpH測定機器を使用して検出することができる。サンプルのpHは、抽出バッファーの添加時点、抽出バッファーの添加直後、加熱段階の開始直前、加熱段階の開始時点、サンプルが熱処理ステップに望ましい高温に達する時点を含めた加熱段階の最中、熱処理ステップ中及び熱処理ステップ後などの、その方法中の1つ又は複数の別個の時点で検出することができる。或いは、連続モニタリングによってサンプルのpHを検出する。サンプルのpHを連続的にモニタリングするこの実施形態では、細胞を培養するステップ後、好ましくは培養後の遠心分離のステップ後から、熱処理ステップの開始まで、pHを連続的にモニタリングすることが好ましい。好ましい実施形態では、サンプルのpHは、抽出バッファーの添加時点から熱処理ステップの開始まで、連続的にモニタリングする。しかしながら、培養ステップ中及び/又は熱処理ステップ中に、pHをモニタリングすることもできる。
【0034】
したがって一実施形態では、加熱ステップのpHプロファイルを調節する。
【0035】
好ましい実施形態では、サンプルのpHを検出し、場合によっては調整し、サンプルが望ましいpHに達したとき、加熱段階を好ましくは自動的に開始させる。
【0036】
抽出バッファーは細胞サンプルを培養するステップ後に加える。その方法が培養のステップ後に遠心分離のステップを含む場合、遠心分離のステップ前及び/又は最中及び/又は後に、抽出バッファーを加えることができる。遠心分離のステップ後に抽出バッファーを加えて、遠心分離から得られた細胞ペレットを再懸濁することが好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態では、抽出バッファーは、熱処理ステップの前に、確実にサンプルのpHがpH6〜9、例えばpH6〜8となるようにする適切なpHを有する。抽出バッファーが、熱処理の前に確実にサンプルのpHが6〜9、例えばpH6〜8となるようにするのに適したpHを有するこの実施形態では、抽出バッファーは例えば、pH7.5〜9.0、pH7.5〜8.8、pH7.5〜8.5、pH8.0〜9.0、pH8.5〜9.0、pH8.6〜8.9、pH8.0、pH8.1、pH8.2、pH8.3、pH8.4、pH8.5、pH8.6、pH8.7、pH8.8、pH8.9又はpH9.0のpHを有する。加熱段階及び熱処理ステップは、確実にサンプルが熱処理ステップ前に必要なpHを有するようにするために、抽出バッファーの添加後すぐに、好ましくは直後に実施することが好ましい。例えば、加熱段階又は熱処理ステップは、抽出バッファーの添加後、4時間以下、3時間以下、2時間以下、1時間以下、30分以下、10分以下又は5分以下で実施することができる。
【0038】
したがって、本発明の方法は、サンプルのpH調整のステップを必要としない可能性がある。サンプルのpHは、抽出バッファーの添加後に検出して、必要に応じてpH6〜9にすることができる。例えば前に記載したように抽出バッファーのpHがサンプルのpHを6〜9にするのに適している場合、例えば抽出バッファーが7.5〜9.0のpHを有し、熱処理ステップをその後まもなく実施する場合、これが当てはまる可能性がある。
【0039】
しかしながら典型的には、抽出バッファーの添加と熱処理ステップの間の時間の長さが原因で、本発明による方法は、抽出バッファーの添加によって引き起こすことができる任意のpH調整以外に、熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにするために、サンプルのpHを検出及び調整するステップを必要とする。
【0040】
その方法がpH検出及び調整のステップを含むこの実施形態では、抽出バッファーのpHは、pH8未満、pH7.4以下など、例えばpH6.0〜7.4、pH6.5〜7.4又はpH7.0〜7.4、pH6.8などであってよい。
【0041】
或いは、好ましい実施形態では、抽出バッファーは、7.5〜9.0のpH、pH7.5〜8.8、pH7.5〜8.5、pH8.0〜9.0、pH8.5〜9.0、pH8.6〜8.9、pH8.0、pH8.1、pH8.2、pH8.3、pH8.4、pH8.5、pH8.6、pH8.7、pH8.8、pH8.9、pH9.0、最も好ましくはpH8.0を有する。
【0042】
この実施形態では、サンプルのpHは、その方法中の任意の適切な時間で、任意の適切な手段によって調整することができる。サンプルのpHは、抽出バッファーの添加前及び/又は後に調整することができる。
【0043】
一実施形態では、抽出バッファーの添加前にサンプルのpHを調整する。この実施形態では、その方法が培養のステップ後に遠心分離のステップを含む場合、pH調整のステップは遠心分離のステップの前及び/又は後に実施することができる。細胞培養後、及び場合によっては遠心分離後のサンプルのpHは典型的には低い。例えば、サンプルは約pH5.5のpHを有し得る。したがって、細胞培養後、及び場合によっては遠心分離などの1つ又は複数の他のステップ後に、サンプルのpHを調整することができる。例えば、サンプルのpHを抽出バッファーの添加前に、pH6.5〜8.0、好ましくはpH7.0〜8.0、pH6.5〜7.5、pH6.6〜7.4、pH6.7〜7.3、pH6.8〜7.2、pH6.9〜7.1、最も好ましくはpH6.9に調整することができる。
【0044】
抽出バッファー添加前のサンプルのpHが、pH7未満、pH6.9などであり、熱処理ステップ前のサンプルのpHがpH7〜9であることが必要とされる一実施形態では、サンプルのpHは、熱処理ステップ前のサンプルのpHが7〜9であるような、抽出バッファーの添加及び/又は抽出バッファー添加後のさらなるpH調整によるさらなる上昇を必要とする。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、抽出バッファーの添加後、ただし熱処理ステップの前に、サンプルのpHをpH6〜9に調整する。この段階で、好ましくはサンプルを、pH7.0〜9.0、pH7.0〜8.5、pH7.0〜8.0、pH7.1〜8.0、pH7.5〜8.0、pH7.0〜7.8、pH7.1〜7.8、pH7.1〜7.7、pH7.2〜7.6、pH7.3〜7.5、pH7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8又は7.9、最も好ましくはpH7.4に調整する。一実施形態では、加熱段階の前にサンプルのpHを調整する。好ましくは、サンプルのpHを、加熱段階の前にpH7〜9、好ましくはpH7〜8に調整する。その代わりに又はそれに加えて、加熱段階の最中にサンプルのpHを調整する。好ましくは、サンプルのpHを、加熱段階の最中にpH6〜8、好ましくはpH6〜7に調整する。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、7.4のpH又はpH8を有する抽出バッファーをサンプルに加え、サンプルのpHを検出し、熱処理ステップの前、好ましくは加熱段階の前、より好ましくは加熱段階の直前に、7.4のpHにその後調整する。
【0047】
サンプルのpHを抽出バッファーの添加後に検出し、熱処理ステップの前に調整する実施形態では、サンプルのpHは加熱段階の開始前に検出し調整することができる。それに加えて又はその代わりに、加熱段階の最中に、サンプルのpHを検出し調整することができる。
【0048】
好ましい実施形態では、加熱段階の直前にサンプルのpHを検出し調整する。それに加えて又はその代わりに、サンプルのpHは、サンプルが望ましい高温に達し熱処理ステップが始まる時点を場合によっては含めた熱処理ステップの直前、加熱段階の最中に検出し調整する。
【0049】
本発明の文脈では、用語「直前」は、加熱段階前又は熱処理ステップの前に、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、5秒以下、1秒以下で、サンプルのpHを検出しpH6〜9に調整することを、意味することが好ましい。用語「直前」は、加熱段階の開始時又は熱処理ステップの開始時に、溶液のpHを検出し調整することも包含し得る。好ましい実施形態では、サンプルのpHがpH6〜9であることを検出するとき、加熱段階及び/又は熱処理ステップを、好ましくは自動的に引き起こす。
【0050】
サンプルのpHは、前に記載したpH調整の任意の単回又は複数回ステップによって、検出し調整することができる。したがってpHは、
●抽出バッファーの添加前のみ、
●抽出バッファーの添加後のみ、ただし熱処理ステップの前、又は
●抽出バッファーの添加前及び抽出バッファーの添加後、ただし熱処理ステップの前に調整することができる。
【0051】
pHは抽出バッファーの添加後に複数回、例えば1、2、3、4又はそれより多く調整することができる。
【0052】
一実施形態では、サンプルのpHは、好ましくは抽出バッファーの添加と熱処理ステップ前の間に、連続的に調整する。
【0053】
一実施形態では、サンプルのpHは、熱処理ステップの最中に、追加的に検出し場合によっては調整することができる。したがって、本発明による方法は、熱処理ステップの最中にサンプルのpHを調整するステップをさらに含むことができる。サンプルのpHは、pH6.0〜9.0、pH6.5〜8.5、pH6.5〜8.0、pH7.0〜9.0、pH7.0〜8.5、pH7.0〜8.0、pH7.1〜8.0、pH7.5〜8.0、pH7.0〜7.8、pH7.1〜7.8、pH7.1〜7.7、pH7.2〜7.6、pH7.3〜7.5、pH7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8又は7.9に、熱処理ステップの最中に調整することが好ましい。
【0054】
本発明による第二の態様では、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、7.5〜9.0のpHを有するサンプルに抽出バッファーを加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含む方法を提供する。
【0055】
本発明の第一の態様において前に記載したように、抽出バッファーは7.5〜9.0のpH、pH7.5〜8.8、pH7.5〜8.5、pH8.0〜9.0、pH8.5〜9.0、pH8.6〜8.9、pH8.0、pH8.1、pH8.2、pH8.3、pH8.4、pH8.5、pH8.6、pH8.7、pH8.8、pH8.9又はpH9.0を有することが好ましい。本発明のこの態様では、サンプルのpHを検出することは必須ではない。本発明の第二の態様による方法は、本発明の第一の態様において記載したように、サンプルのpHの検出及びサンプルのpHの調整を含むことができる。しかしながら、pH検出及びpH調整のステップを含めることは必須ではない。一実施形態では、本発明の第二の態様による方法は、サンプルのpHを検出するステップ又はpH調整のステップを含まない。
【0056】
本発明の以下の詳細な説明は、本発明の第一の態様と第二の態様の両方の実施形態に適用する。
【0057】
pH調整剤及び抽出バッファー
pH調整は、熱処理ステップ中pH6〜9の所望の範囲に、pHが持続/維持されるようなものでなければならない。
【0058】
一実施形態では、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、又はトリエチルアミン若しくはトリメチルアミンなどの有機塩基などの塩基を用いてpHを調整する。
【0059】
任意の適切な作用物質を使用して、サンプルのpHを調整することができる。作用物質は抽出バッファーであってよく、又は抽出バッファーの前及び/又は後に加えることができる。pHを調整するために使用することができる典型的な作用物質は、以下の、NaOH、NH4OH、硫酸、EDTA、トリスバッファーの1つ又は複数を含む、又はこれらからなる。水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウムなどの塩基を使用して、サンプルのpHを調整することが好ましい。
【0060】
一実施形態では、抽出バッファーは、典型的にはHClの添加によって所望のpHに調整した、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/エチレンジニトリロ四酢酸二ナトリウム塩二水和物(トリス/EDTA)バッファーである。理論によって束縛されるものではないが、大腸菌の外膜からのリポ多糖(LPS)の放出において、トリスとEDTAは相乗的に働くと考えられる。EDTAは、外膜のLPSを安定化させる二価カチオンを除去する。トリスはLPSと結合しCa2+及びMg2+を置換すると考えられる。これはLPS分子間の相互作用の低下、したがって外膜の透過性の増大をもたらす(Vaara,M.1992.「外膜の透過性を増大する作用物質(Agents That Increase the Permeability of the Outer Membrane)」American Society for Microbiology56:395〜411)。
【0061】
熱処理ステップ
本発明の方法中の熱処理ステップは、(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)米国特許第5,665,866号中に詳細に記載されたのと同様であることが好ましい。熱処理ステップは、他の抗体関連物質の除去を容易にすることによって、可溶性の、正確にフォールディング及び構築された抗体のサンプルを得ることを可能にする。「正確にフォールディング及び構築された」抗体は、非還元SDS PAGE上に構築された重鎖及び軽鎖に関する予想分子量に対応する一本のバンドの存在によって示される。他の抗体関連物質は、典型的には、正確にフォールディング及び構築された抗体の遊離重鎖及び軽鎖又はそれらの一部分、部分的に分解した断片である。
【0062】
熱処理ステップは、所望の高温をサンプルに施すことによって実施する。熱処理ステップは、30℃〜70℃の範囲内で実施することが最も好ましい。温度は必要に応じて選択することができ、精製用抗体の安定性に依存し得る。別の実施形態では、温度は40℃〜65℃の範囲内、又は好ましくは40℃〜60℃の範囲内、より好ましくは45℃〜60℃の範囲内、さらにより好ましくは50℃〜60℃の範囲内、最も好ましくは55℃〜60℃、58℃〜60℃又は59℃である。したがって、最小温度は30℃、35℃又は40℃であり、最高温度は60℃、65℃又は70℃である。
【0063】
熱処理ステップは長時間実施することが好ましい。熱処理の長さは、好ましくは1〜24時間の間、より好ましくは4〜18時間の間、さらにより好ましくは6〜16時間の間、最も好ましくは10〜14時間の間又は10〜12時間の間、例えば12時間である。したがって、熱処理に関する最小時間は1、2又は3時間であり、最大時間は20、22又は24時間である。
【0064】
特定の実施形態では、10〜16時間50℃〜60℃で、及びより好ましくは10〜12時間59℃で、熱処理を実施する。当業者は、問題のサンプル及び産生される抗体の特性に適合するように、温度及び時間を選択することができることを理解している。
【0065】
一実施形態では、本開示による方法は、熱処理ステップを実施する前に、調節条件下に細胞を保持する前処理ステップを含まない。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、及び抽出バッファーをサンプルに加えること、及び最大15時間、好ましくは10〜12時間の間、40℃〜70℃の範囲内、好ましくは59℃の熱処理ステップをサンプルに施すことを含み、熱処理ステップの前に、サンプルのpHが、熱処理ステップの前に、好ましくは加熱段階の直前にpH7〜8、好ましくはpH7.4となるように、サンプルのpHをモニタリング及び調整する方法を提供する。7.4又は8.0のpHを有する抽出バッファーを、サンプルに加えることが好ましい。
【0067】
熱処理ステップは、200RPMなどの適切なRPMに設定したシェイカーで実施することが好ましい。しかしながら、適切なRPMはその方法の規模に応じて変わる。
【0068】
発酵
宿主細胞サンプルを培養するステップは、任意の望ましい規模での発酵を含むことができる。本発明の方法中、サンプルは、細菌、特にグラム陰性細菌、又は酵母、細胞培養物、例えばただし非制限的に、哺乳動物若しくは昆虫細胞培養物を含む発酵の産物であってよい。最も好ましくは、サンプルは組換え抗体を発現する大腸菌を含む発酵の産物であり、産生される前記抗体は機能性抗体と非機能性抗体の混合物であり得る。望む場合、宿主細胞に発酵培地からの回収を施すことができ、例えば宿主細胞は遠心分離、濾過又は濃縮によってサンプルから回収することができる。特に、本発明の方法は、治療性の抗体の大規模な工業的生産に適している。
【0069】
さらなるステップ
本発明による方法は、1つ又は複数のさらなるステップを含むことができる。
【0070】
一実施形態では、本発明による方法は、培養のステップ後に遠心分離のステップ、次に抽出バッファーの添加による細胞の懸濁のステップを含む。
【0071】
その方法は、濾過及び/又は遠心分離などの一次精製手順を追加的に含むことができる。流動床クロマトグラフィーも含まれる。好ましい下流精製手順には、イオン交換クロマトグラフィー、精密濾過(microfiltration)、限外濾過(ultrafiltration)、ダイアフィルトレーション(diafiltration)、並びに固定床捕捉及び膨張床捕捉、並びにこれらの任意の組合せが含まれる。
【0072】
非溶解処理ステップ
その方法は、サンプルに熱処理ステップを施す前に、サンプルに非溶解処理ステップを施すことをさらに含むことができる。このステップは、均質化ステップ(homog.ステップ)と呼ぶこともできる。非溶解処理ステップは、単離される又は得られる機能性抗体の収率、及び大規模なサンプル処理の容易さをさらに増大することができる。溶解は粘性の増大を引き起こし、機能性抗体の下流処理及び精製において問題を引き起こす可能性がある。特に、宿主細胞の溶解は宿主細胞タンパク質の放出を引き起こし、精製をより高価で時間を浪費するものにする。さらなる精製ステップが必要とされる可能性があり、及び/又はより多量のクロマトグラフィー物質が必要純度を得るのに必要とされるからである。宿主細胞DNAの相当な放出はサンプルの粘性を増大させ、浄化中のタンパク質消失の主な原因である濾過及び遠心分離における難題を引き起こす。溶解サンプル(即ち、宿主細胞タンパク質及びDNAを含有する)も、クロマトグラフィー物質の閉塞を引き起こす可能性がある。非溶解処理ステップは、(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)WO2006/054063中に記載されたように実施することが好ましい。WO2006/054063中に記載されたように、非溶解処理ステップは、相当な割合の細菌、哺乳動物細胞、酵母、昆虫細胞、又は組換え抗体発現に使用される他の生物、例えば大腸菌の溶解を生じさせない任意の処理を含む。最も好ましい実施形態では、非溶解処理は圧力処理を含む。或いは、非溶解処理は、振動又は撹拌の事前調整ステップを含む。「相当な割合」は、発酵又は培養中に80%以上の割合の生物が完全な形で存在すること、より好ましくは85%を超えて、さらにより好ましくは90%を超えて、最も好ましくは95%以上が完全であることを含む。
【0073】
顕微鏡下での観察、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析、及び全タンパク質対上清中及び/又は生物(細胞)ペレット中のタンパク質のアッセイを含めた、当技術分野で知られている任意の方法で溶解を判断することができる。一実施形態では、処理前後にサンプル中の全タンパク質を比較することによって、非溶解処理後に溶解を判断することができる。処理が溶解を引き起こしている場合、処理サンプルの上清中に存在する全タンパク質は、例えばブラッドフォードアッセイを使用して測定した、前記未処理サンプル中に存在する全タンパク質と比較して増大し得る。好ましい実施形態ではFACS分析を実施し、サンプルを蛍光色素で標識し、次に非溶解処理及びFACS分析を行う。処理前にFACS分析を実施し、比較用のベースライン値を与えることが最も好ましい。
【0074】
したがって、非溶解処理は、例えばバッファー中での一定時間の軽い再懸濁、例えば振動若しくは撹拌による、又はピペッティングなどの手作業の再懸濁による事前調整を含むことができる。一実施形態では、1時間〜24時間の間、好ましくは1時間〜20時間の間、より好ましくは2時間〜18時間の間、4時間〜16時間、6時間〜16時間、最も好ましくは12、14又は16時間、事前調整を実施する。したがって、事前調整の最小時間は1、2又は4時間であり、最大時間は16、18又は24時間である。事前調整は、50〜250rpm、好ましくは60rpm〜100rpmでの回転によって、最も好ましくは14又は16時間実施することができる。事前調整中、4℃〜30℃、より好ましくは4℃〜20℃の間の範囲内の温度、最も好ましくは室温に細胞を維持する。
【0075】
一実施形態では、事前調整ステップは、このプロセスの一部を含まない。
【0076】
好ましい実施形態では、非溶解処理は、例えばフレンチプレス又は窒素減圧を使用して、高圧に宿主細胞を曝すことを含む。具体例では、サンプルは大腸菌発酵の産物であり、前記大腸菌は組換え抗体を発現し、それにフレンチプレス中での圧力処理を施す。圧力は750psi又はその周辺〜5000psi又はその周辺の範囲であってよい。一実施形態では、圧力処理は1000psi、又は1250psi、1500psi、1750psi、2000psi、2250psi、2500psi、2750psi、3000psi、3250psi、3500psi、4000psi、4250psi、4500psi又は4750psiで実施する。圧力処理は1000psi〜3000psiの間で実施することがより好ましく、2000psiで実施することが最も好ましい。実質的に非溶解である(即ち、20%未満の溶解を引き起こす)圧力処理は、サンプルを含むバッファー及び細胞型、及び圧力に応じて、簡単な実験によって決定することができる。
【0077】
本発明の一実施形態では、その方法は、高圧への宿主細胞の暴露又は一定時間の軽い再懸濁による事前調整などの、前に記載した非溶解処理ステップを含まない。このような非溶解処理ステップを含めることは、組換えタンパク質の収率を改善することが知られている(WO2006/054063)。しかしながら、このような非溶解処理ステップ有り又は無しで本発明の方法によって、抗体の改善された収率が得られることが驚くべきことに分かっている。したがって、その方法が非溶解処理ステップを含まない実施形態では、本発明は、組換え抗体を得るのにより簡潔でコスト効率の良い手段を提供する。
【0078】
保持ステップ
一実施形態では、本発明による方法は、宿主細胞サンプルを培養するステップと抽出バッファー添加前の間に、その方法を中断するステップを含む。中断ステップの最中、サンプルは適切な温度で維持する。その方法を中断するこのステップは、WO2005/019466中に記載されたように実施することが好ましい。このステップは、細胞スラリー保持ステップ(CSH)と呼ぶこともできる。その方法は、少なくとも約1時間、1時間〜72時間、12時間〜48時間、12時間、24時間、33時間又は48時間の間、中断することが好ましい。
【0079】
サンプルは、その方法の中断中、18℃などの適切な温度で保持することが好ましい。
【0080】
本発明の一実施形態では、その方法は、WO2005/019466中に記載されたような、宿主細胞サンプルを培養するステップ後の中断ステップを含まない。このような中断を含めることは、組換えタンパク質の収率を改善することが知られている(WO2005/019466)。このような中断ステップ有り又は無しで本発明の方法によって、抗体収率の同様の改善が得られること、即ち、中断ステップをその方法中に含めたとき、収率のさらなる増大は観察されなかったことが驚くべきことに分かっている。したがって、その方法が中断ステップを含まない実施形態では、本発明は、組換え抗体を得るのにより簡潔でコスト効率の良い手段を提供する。したがって、一実施形態では、宿主細胞サンプルを培養するステップと抽出バッファー添加ステップの間の時間期間は、12時間未満、好ましくは10時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下又は1時間以下又は1時間未満である。
【0081】
抗体
本明細書で使用する「機能性抗体」は、それらに対して産生した抗原(同族抗原)を特異的に認識する又はそれと結合する能力を保持する抗体分子を含む。機能性抗体の産生は、抗体の予想分子量に対応する非還元SDS−PAGE上の一本のバンドの存在によって、又はBIAcore、又は当業者に知られている他の方法、例えばそれだけに限らないがELISAを使用した直接結合アッセイによって示される。非機能性抗体は、それらの同族抗原を認識しない断片を含み、それらの同族抗原を認識しない又はそれらと結合しない、不正確にフォールディング又は不正確に構築された抗体、遊離重鎖及び軽鎖、及び部分的に分解した抗体断片を含めたそれらの断片を含む。
【0082】
好ましい例では、組換え抗体分子は、抗体軽鎖の少なくとも一部分と抗体重鎖の少なくとも一部分であり、したがって、発現される軽鎖と重鎖抗体分子の少なくともある部分を組合せて、機能性抗体を形成することができる。
【0083】
本明細書で使用する「抗体」は、PCT/GB2008/003331中に記載されたように、完全長重鎖及び軽鎖を有する抗体、それらの機能活性断片、誘導体又はアナログを含み、それだけに限らないが、VH、VL、VHH、Fab、改変Fab、変更ヒンジFab、Fab’、F(ab’)2又はFv断片、軽鎖又は重鎖モノマー又はダイマー、単鎖抗体、例えば重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインがペプチドリンカーによってつながった単鎖Fv、又はFab−dAbなどの二重特異性抗体であってよい。
【0084】
抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、二、三、又は四価抗体、ヒト化又はキメラ抗体であってよい。これらの抗体及びそれらの断片は、天然に存在する、ヒト化、キメラ又はCDR移植抗体であってよく、標準的な分子生物学の技法を使用して、必要に応じてアミノ酸若しくはドメインを改変、付加又は欠失することができる。ヒト化抗体は、非ヒト種由来の1つ又は複数の相補性決定領域(CDR)及びヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する、非ヒト種由来の抗体分子である(例えば、米国特許第5,585,089号を参照)。本発明の方法を使用して精製した抗体分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)又はサブクラスの免疫グロブリン分子であってよい。
【0085】
これらの抗体分子を作製するための方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、Shrader et al、WO92/02551;Ward et al、1989、Nature、341:544;Orlandi et al、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86:3833;Riechmann et al、1988、Nature、322:323;Bird et al、1988、Science、242:423;Queen et al、米国特許第5,585,089号;Adair、WO91/09967;Mountain and Adair、1992、Biotechnol.Genet.Eng.Rev、10:1〜142;Verma et al、1998、Journal of Immunological Methods、216:165〜181)を参照)。
【0086】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技法(Kohler & Milstein、1975、Nature、256:495〜497)、トリオーマ技法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor et al、1983、Immunology Today、4:72)及びEBV−ハイブリドーマ技法(Cole et al、「モノクローナル抗体と癌治療(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)」、pp77〜96、Alan R Liss、Inc.、1985)などの、当技術分野で知られている任意の方法によって調製することができる。
【0087】
キメラ抗体は、軽鎖及び重鎖遺伝子が異なる種に属する免疫グロブリン遺伝子セグメントで構成されるように遺伝子操作された免疫グロブリン遺伝子によってコードされる抗体である。これらのキメラ抗体はおそらく低抗原性である。二価抗体は、当技術分野で知られている方法によって作製することができる(Milstein et al、1983、Nature 305:537〜539;WO93/08829、Traunecker et al、1991、EMBO J.10:3655〜3659)。二、三、及び四価抗体は多重特異性を含むことができ、又は単一特異性であってよい(例えばWO92/22853を参照)。
【0088】
Babcook、J.et al、1996、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(15):7843〜7848によって、及びWO92/02551中に記載されたように、特異的抗体の産生用に選択した単一リンパ球から作製した免疫グロブリン可変領域cDNAの分子クローニング及び発現に基づき、単一リンパ球抗体法を使用して抗体配列を作製することもできる。後者の方法は個々の抗体産生細胞の単離を利用するものであり、次いでそれらをクローン増殖し、次にその同族抗原を認識する抗体を産生するこれらのクローンをスクリーニングし、且つ望ましい場合、それらの可変重鎖(VH)及び軽鎖(VL)遺伝子の配列を後に同定する。或いは、その同族抗原を認識する抗体を産生する細胞を一緒に培養して、次にスクリーニングすることができる。
【0089】
本発明の方法を使用して調製した抗体は、患者に投与すると抗体の半減期を延長する、毒素、薬剤、細胞毒性化合物、又はポリマー、又は他の化合物と後に連結することが可能である、ヒト化抗体であることが最も好ましい。
【0090】
抗体は、任意の標的抗原に特異的であってよい。抗原は、細胞関連タンパク質、例えば細菌細胞、酵母細胞、T細胞、内皮細胞又は腫瘍細胞などの細胞上の細胞表面タンパク質であってよく、又は抗原は可溶性タンパク質であってよい。対象の抗原は、疾患又は感染中に上方制御されるタンパク質、例えば受容体及び/又はそれらの対応するリガンドなどの、任意の医学的関連があるタンパク質であってもよい。細胞表面タンパク質の個々の例には、接着分子、例えば、β1インテグリンなどのインテグリン、例えば、VLA−4、E−セレクチン、Pセレクチン又はL−セレクチン、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11a、CD11b、CD18、CD19、CD20、CD23、CD25、CD33、CD38、CD40、CD40L、CD45、CDW52、CD69、CD134(OX40)、ICOS、BCMP7、CD137、CD27L、CDCP1、CSF1又はCSF1−受容体、DPCR1、DPCR1、デュデュリン2、FLJ20584、FLJ40787、HEK2、KIAA0634、KIAA0659、KIAA1246、KIAA1455、LTBP2、LTK、MAL2、MRP2、ネクチン様2、NKCC1、PTK7、RAIG1、TCAM1、SC6、BCMP101、BCMP84、BCMP11、DTD、癌胎児性抗原(CEA)、ヒト乳脂肪グロブリン(HMFG1及び2)、MHCクラスI及びMHCクラスII抗原、KDR及びVEGF、及び適切な場合、これらの受容体が含まれる。
【0091】
可溶性抗原には、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−12、IL−13、IL−14、IL−16、又はIL17A及び/又はIL17FなどのIL−17などのインターロイキン、ウイルス抗原、例えば呼吸系発疹ウイルス又はサイトメガロウイルス抗原、IgEなどの免疫グロブリン、インターフェロンα、インターフェロンβ又はインターフェロンγなどのインターフェロン、腫瘍壊死因子TNF(以前は腫瘍壊死因子−αとして知られていた)、腫瘍壊死因子−β、G−CSF又はGM−CSFなどのコロニー刺激因子、及びPDGF−α、及びPDGF−βなどの血小板由来増殖因子、及び適切な場合、これらの受容体が含まれる。他の抗原には、細菌細胞表面抗原、細菌毒素、インフルエンザ、EBV、HepA、B及びCなどのウイルス、バイオテロリズム物質、放射性核種及び重金属、並びにヘビ及びクモ毒及び毒素が含まれる。
【0092】
一実施形態では、抗体を使用して、対象の抗原の活性を機能的に変えることができる。例えば、抗体は、直接的又は間接的に、前記抗原の活性を中和、アンタゴナイズ又はアゴナイズすることができる。
【0093】
好ましい実施形態では、(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)WO01/094585中に記載されたように、抗体は抗TNF抗体、より好ましくは抗TNF Fab’である。
【0094】
組換えタンパク質の発現のための方法は、当技術分野でよく知られている。組換え抗体分子の発現に適した宿主細胞の例には、グラム陽性又はグラム陰性細菌、例えば大腸菌、又は酵母細胞、例えばS.セレビシエ(S.cerevisiae)などの細菌、又は哺乳動物細胞、例えばCHO細胞及びミエローマ又はハイブリドーマ細胞系、例えばNSO細胞が含まれる。本発明の方法中、細菌、例えば大腸菌において組換え抗体が産生されることが最も好ましい(Verma et al、1988、J.Immunol.Methods 216:165〜181;Simmons et al、2002、J.Immunol.Methods 263:133〜147を参照)。
【0095】
細胞
本発明中で使用する用語「サンプル」は、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した細胞の集団を指す。サンプルは、小規模な抗体産生から商業目的の大規模な抗体生産まで、任意の適切な規模であってよい。
【0096】
本発明中で使用する細胞は、例えばそれだけに限らないが、細菌、特にグラム陰性細菌、酵母、哺乳動物又は昆虫であってよい。細胞は大腸菌であることが最も好ましい。細胞は野生型細胞、又は遺伝子操作された組換え細胞であってよい。大腸菌宿主細胞は、天然に存在する大腸菌株、又は組換えタンパク質を産生することができる突然変異株であってよい。具体的な宿主大腸菌株の例には、MC4100、TG1、TG2、DHB4、DH5α、DH1、BL21、K12、XL1Blue及びJM109が含まれる。一例は、大腸菌W3110(ATCC27,325)、組換えタンパク質発酵に一般に使用される宿主株である。例には、改変型大腸菌株、例えば、代謝突然変異体及びプロテアーゼ欠損株も含まれる。
【0097】
本発明の方法を使用して産生した組換え抗体は、タンパク質の性質及び産生の規模に応じて、大腸菌宿主細胞のペリプラズム中、又は宿主細胞培養上清中のいずれかにおいて典型的に発現される。これらの区画にタンパク質を標的化するための方法は当技術分野でよく知られており、総説に関してはMakrides、Microbiological Reviews、1996、60、512〜538を参照。大腸菌のペリプラズムにタンパク質を誘導するのに適したシグナル配列の例には、大腸菌PhoA、OmpA、OmpT、LamB及びOmpFシグナル配列が含まれる。本来の分泌経路の利用によって、又はタンパク質分泌を引き起こすための外膜の限られた漏出の誘導によって、上清にタンパク質を標的化することができ、それらの例は、pelBリーダー、プロテインAリーダーの使用、培養培地へのグリシンの添加を伴うバクテリオシン放出タンパク質、マイトマイシン誘導型バクテリオシン放出タンパク質の同時発現、及び膜透過用のkil遺伝子の同時発現である。本発明の方法中、組換えタンパク質は宿主大腸菌のペリプラズムにおいて発現されることが最も好ましい。
【0098】
大腸菌宿主細胞における組換えタンパク質の発現は誘導系の調節下であってもよく、大腸菌における組換え抗体の発現は誘導性プロモーターの調節下にある。大腸菌における使用に適した多くの誘導性プロモーターは当技術分野でよく知られており、且つプロモーターに応じて、組換えタンパク質の発現は、増殖培地中の温度又は特定物質の濃度などの要因を変えることによって誘導することができる(Baneyx、Current Opinion in Biotechnology、1999、10:411〜421;Goldstein and Doi、1995、Biotechnol.Annu.Rev、105〜128)。誘導性プロモーターの例には、ラクトース又は非加水分解性ラクトースアナログ、イソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導可能である大腸菌lac、tac、及びtrcプロモーター、並びにそれぞれホスフェート、トリプトファン及びL−アラビノースによって誘導されるphoA、trp及びaraBADプロモーターが含まれる。例えば、誘導物質の添加、又は誘導が温度依存性である場合は温度の変化によって、発現を誘導することができる。組換えタンパク質の発現の誘導が培養物への誘導物質の添加によって達成される場合、発酵系及び誘導物質に応じて任意の適切な方法によって、例えば、シングル又はマルチショット添加によって、又は供給を介した誘導物質の段階的添加によって、誘導物質を加えることができる。誘導物質の添加と実際のタンパク質発現の誘導の間に遅延がある可能性があり、例えば誘導物質がラクトースである場合、任意の既存の炭素源をラクトース前に利用しながら、タンパク質発現の誘導が起こる前に遅延がある可能性があることは理解されよう。
【0099】
大腸菌宿主細胞培養物(発酵物)は、大腸菌の増殖及び組換えタンパク質の発現を支持する任意の培地中で培養することができる。培地は、本明細書に記載するように必要に応じて増殖率を調節するように改変した、Pirt S.J.(1975)「微生物及び細胞培養の原理(Principles of Microbe and Cell Cultivation)」、Blackwell Scientific Publications中に提供された培地などの任意の化学的に定義された培地であってよい。適切な培地の一例は、Humphreys et al、2002、「タンパク質の発現及び精製(Protein Expression and Purification)」、26:309〜320により記載された「SM6E」である。
【0100】
大腸菌宿主細胞の培養は、必要とされる産生の規模に応じて、振とうフラスコ又は発酵槽などの任意の適切な容器内で行うことができる。1,000リットルを超える、最大約100,000リットルまでの容量を有する様々な大規模発酵槽が利用可能である。好ましくは1,000〜50,000リットル、より好ましくは1,000〜10,000又は12,000リットルの発酵槽を利用する。0.5リットル〜1,000リットルの間の容量を有するより小規模な発酵槽を使用することもできる。
【0101】
大腸菌の発酵は、必要とされるタンパク質及び収率に応じて、任意の適切な系、例えば連続、回分又は流加形式(Thiry & Cingolani、2002、Trends in Biotechnology、20:103〜105)で実施することができる。必要な場合は栄養素又は誘導物質のショット添加で、回分形式を使用することができる。或いは、流加培養を使用することができ、発酵槽中に最初に存在した栄養素を使用して維持することができる最大特異的増殖率で回分形式事前誘導において培養物を増殖し、1つ又は複数の栄養素供給レジメを使用して、発酵が終了するまで増殖率を調節することができる。流加形式を事前誘導に使用して大腸菌宿主細胞の代謝を調節し、より高い細胞密度に到達させることも可能である(Lee、1996、Tibtech、14:98〜105)。
【0102】
本発明の各実施形態の好ましい特徴は、必要な変更を加えて他の各実施形態と同様である。それだけに限らないが本明細書中に列挙する特許及び特許出願を含めた全ての刊行物は、それぞれ個々の刊行物が、完全に言及されるように参照により本明細書に組み込まれることが具体的且つ個別に示されるが如く、参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
一態様では、前記方法から得られるか又は得ることができる抗体を提供する。
【0104】
一態様では、特に調節で確実にpHが熱抽出ステップなどの抽出ステップの最中にpH6〜9の範囲内に維持されるようにする場合の、抗体抽出、例えば一次抽出を改善するための、バッファーなどのpH調節手段の使用を提供する。
【0105】
本明細書で利用するpH調節手段は、バッファー、塩基及び/又は酸である。
【0106】
ここで本発明を、以下の実施例を参照しながら記載する。これらは単なる例示的なものであり、決して本発明の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】経時的なpH7.4及びpH8のトリス/EDTA抽出バッファー中に再懸濁した細胞のpHを示すグラフである。
【図2a】抗体Aの収率に対する抽出バッファーのpHの影響を示すヒストグラムである。
【図2b】7.4〜9.0のpHを有する抽出バッファーの添加直後の細胞サンプル(再懸濁した細胞スラリー)のpH、及び加熱段階前の抽出バッファーの添加後1時間での細胞サンプルのpHを示すヒストグラムである。
【図3a】抗体Aの収率に対する、熱処理ステップ前にサンプルのpHを調整する影響を示すヒストグラムである。それぞれのバーの上の数字は、pH調整のステップが無い対照と比較した収率の増大率を示す。
【図3b】その方法の様々な段階:細胞スラリー(培養及び遠心分離後)、バッファー添加後(抽出バッファー添加直後)、pH調整前、pH調整後ただし加熱段階前、及び熱処理ステップ後にわたっての、サンプルの様々なpHを示すグラフである。
【図4】熱処理後に細胞から抽出した抗体AサンプルのSDS−PAGE分析を示す図である。レーン1は分子量マーカーであり、レーン2は抗体Aのサンプルであり、レーン3は無pH調整後のサンプルであり、且つレーン4〜8は熱処理ステップ前のそれぞれ7.0、7.2、7.4、7.6及び7.8へのpH調整後のサンプルを示す。
【図5】抗体Aの収率に対する、pH8での抽出バッファーの使用、及び熱処理ステップ前のpH7.4へのサンプルのpH調整の影響を示すヒストグラムである。図5は、均質化ステップ又は細胞スラリー保持ステップを含めた影響も示す。それぞれのバーの上の数字は、均質化ステップ有りただしpH調整ステップ無しの対照と比較した収率の増大率を示す。
【図6】熱処理後に細胞から抽出した抗体AサンプルのSDS−PAGE分析を示す図である。 レーン1は分子量マーカーであり、 レーン2は抗体Aのサンプルであり、 レーン3は、均質化ステップ後、ただし無pH調整及び無細胞スラリー保持のサンプルであり、 レーン4は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、並びに均質化ステップ及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、 レーン5は、無pH調整、無均質化及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、 レーン6は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、並びに無均質化及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、 レーン7は、細胞スラリー保持、ただし無pH調整及び無均質化後のサンプルであり、 レーン8は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、及び細胞スラリー保持、ただし無均質化後のサンプルである。
【図7】pH調整無しの対照サンプル、pH8の抽出バッファーで処理したサンプル、pH7.4の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプル、及びpH8の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプルに関する、経時的なサンプルのpHを示すグラフである。第一のピークは抽出バッファーを加えた時点を示し、第二のピークは熱処理ステップ前に2サンプルのpHを調整した時点を示す。
【図8】抗体Aの収率に対する、pH調整無しの対照サンプル、pH7.4の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプル、pH8の抽出バッファーで処理したサンプル、及びpH8の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプルの影響を示すヒストグラムである。それぞれのバーの上の数字は、pH調整のステップが無い対照と比較した収率の増大率を示す。
【図9】抗体Aの収率に対する、pH調整無しの対照サンプル、pH7.4の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前に加熱段階中にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプル、及びpH8の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前に加熱段階中にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプルの影響を示すヒストグラムである。それぞれのバーの上の数字は、pH調整のステップが無い対照と比較した収率の増大率を示す。
【図10】無pH調整対照と比較したFab’の力価に対する6.6、7.0、7.4及び7.8単位へのpH調整の影響を示すヒストグラムである。実験は無前処理、細胞スラリー保持及び均質化の(抽出前の)3つの異なる前処理ステップで反復する。
【図11】以下の条件;無pH調整、無前処理及び(範囲6.6〜7.8単位への)pH調整、均質化及び(範囲6.6〜7.8単位への)pH調整、及び全てのpH調整条件(均質化及び無前処理)の、平均したFab’の力価を示すヒストグラムである。エラーバーは、平均からの一標準偏差を示す。
【0108】
一般的な方法
以下の実施例では、他に言及しない限り以下のようにその方法を実施する。
【0109】
細胞培養ステップ及び遠心分離:
抗体A(Fab’)を、挿入抗体AをコードするDNAを有するベクターpTT0Dを使用して、大腸菌W3110細胞において発現させた。ラクトースを用いた誘導後25℃で30時間発酵を実施し、採取の用意をした。50ml又は1Lの採取した培養物アリコートは、1時間4200RPM及び4℃で遠心分離した。
【0110】
上清をデキャンタし、産生規模で浄化をシミュレートするために、少ない割合の上清を細胞に加えて生成する細胞スラリーサンプルを採取重量の35%にした。
【0111】
細胞スラリー保持ステップ(CSH):
いくつかの実験において、細胞スラリー保持ステップを実施し、抽出バッファーの添加前に18℃及び200RPMで33時間サンプルを保持した。
【0112】
抽出バッファーの添加:
生成する細胞スラリーサンプル(本明細書では以後サンプルと呼ぶ)を、300mMのトリス及び30mMのEDTAストック溶液を使用して再懸濁し、HClを使用して調整した7.4のpHを有する100mMのトリス及び10mMのEDTAの最終濃度にした。以下に記載する実験において、この抽出バッファーのpHは、7.4の対照pHからpH7.4〜9.0の間のより高pHレベルまでに調整する。
【0113】
均質化ステップ(Homog.):
いくつかの実験において、1500psiでの一回通過により抽出バッファーの添加後に、均質化ステップを実施した。
【0114】
加熱段階前のpH調整:
いくつかの実験において、サンプルは5MのNaOHを用いたpH調整に施して、加熱段階の開始前に7.0〜7.8の間の望ましいレベルにした。
【0115】
加熱段階
サンプルは加熱段階に施し、サンプルの温度は18℃から59℃の望ましい高温まで上昇させ、59℃で熱処理ステップを開始した。
【0116】
加熱段階中のpH調整:
いくつかの実験において、59℃の望ましい高温に達するまで、加熱段階中に、サンプルを5MのNaOHを用いたpH調整に施して7.4±0.02の望ましいレベルにした。
【0117】
熱処理ステップ
サンプルは10〜12時間59℃及び200RPMで保持した。
【0118】
熱処理後、再懸濁した細胞ペレットを、4℃において1時間、4200rpmでの遠心分離によって浄化した。機能性抗体Aを含有する上清は、20mMのリン酸バッファーにおけるプロテインG HPLC分析を使用してFab’に関してアッセイした。注入時のpH7.0から2.5のpHまで低下させたpH勾配を使用して、抗体Aを溶出した。
【0119】
還元抽出サンプルは、約1μgの充填濃度でトリス−グリシンSDS−PAGEゲル上に載せた。
【0120】
(例1)
抽出バッファー添加後のサンプルのpHに対する影響
バッファーがpH8.0又はpH7.4を有した、細胞培養ステップ及び抽出バッファー添加ステップは、一般的な方法の節に記載したように実施した。サンプルのpHは、抽出バッファーの添加からモニタリングした。図1は、バッファーの添加後にサンプルのpHの急速な低下があること、及び特にバッファーが7.4のpHを有するとき、pHがpH7未満に急激に低下することを示す。
【0121】
(例2)
抗体収率に対する抽出バッファーのpHの影響
細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ、加熱段階及び熱処理ステップを、一般的な方法の節に記載したように実施した。
【0122】
細胞スラリー保持ステップ、均質化ステップ、及び加熱前又は最中のpH調整ステップは実施しなかった。
【0123】
抽出バッファーのpHは以下のように変えた:7.4、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9及び9.0。熱抽出後のFab’の濃度を示す図2a中に結果を示す。7.4を超える抽出バッファーの高いpHは、Fab’の回収に関する有意な増大、pH8.8まで増大した収率をもたらしたことを見ることができる。8.8を超えると、Fab’の濃度は低下し始めた。
【表1】
【0124】
表1及び図2bは、7.4〜9.0のpHを有する抽出バッファーの添加直後の細胞サンプル(再懸濁した細胞スラリー)のpH、及び加熱段階前の抽出バッファーの添加後1時間での細胞サンプルのpHを示す。
【0125】
(例3)
抗体収率に対する加熱段階前のpHの影響
細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ、均質化ステップ、加熱前のpH調整ステップ、加熱段階及び熱処理ステップを、一般的な方法の節に記載したように実施した。対照にはpH調整ステップを施さなかった。
【0126】
対照実験では、抽出バッファーはpH7.4であり、他の実験では、加熱段階前にpHを調整したとき、抽出バッファーはpH8.0であった。
【0127】
細胞スラリー保持ステップ、及び加熱最中のpH調整ステップは実施しなかった。
【0128】
対照では、加熱段階前のpH調整は実施しなかった。他の実験では、サンプルのpHは加熱段階前にpH7.0、7.2、7.4、7.6及び7.8に調整した。
【0129】
このpH調整ステップが改善されたFab’回収をもたらしたことを示す図3a中に、その結果を示す。図3aは、どのようにしてpH7.0〜7.8の範囲内に地点を設定するpH調整が、pH調整を施さなかった対照サンプルと比較して、26〜40%産物回収率を増大したかを実証する。
【表2】
【0130】
サンプルのpHはその方法中の様々な時点で検出した。前の表2及び図3bは、その方法の様々な段階:細胞スラリー(培養及び遠心分離後)、バッファー添加後(抽出バッファー添加直後)、pH調整前、pH調整後ただし加熱段階前、及び熱処理ステップ後にわたっての、サンプルの様々なpHを示す。
【0131】
図4中のSDS−PAGEゲルは、抽出後サンプルのタンパク質プロファイルを示す。レーン1は分子量マーカーであり、レーン2は抗体Aのサンプルであり、レーン3は無pH調整後のサンプルであり、且つレーン4〜8は熱処理ステップ前のそれぞれ7.0、7.2、7.4、7.6及び7.8へのpH調整後のサンプルを示す。
【0132】
サンプル充填量は1μgのFab’に標準化した。対照と加熱前pH調整したサンプルの間で、タンパク質プロファイルの有意な差は観察されなかった。
【0133】
(例4)
細胞スラリー保持ステップ及び均質化ステップの存在及び不在下での、抗体収率に対する抽出バッファーのpH及びpH調整の影響
以下の実験を一般的な方法の節に記載したように実施した。
●対照(homog.有り):細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH7.4)、均質化ステップ、加熱段階及び熱処理ステップ、
●pH8におけるバッファー、及び加熱前にpH7.4に調整(homog.有り):細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH8)、均質化ステップ、加熱前のpH7.4へのpH調整ステップ、加熱段階、及び熱処理ステップ、
●対照(homog.又はCSH無し):細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH7.4)、加熱段階及び熱処理ステップ、
●pH8におけるバッファー、及び加熱前にpH7.4に調整(homog.又はCSH無し):細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH8)、加熱前のpH7.4へのpH調整ステップ、加熱段階、及び熱処理ステップ、
●対照(CSH有り):細胞培養ステップ、細胞スラリー保持ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH7.4)、加熱段階及び熱処理ステップ、及び
●pH8におけるバッファー、及び加熱前にpH7.4に調整(CSH有り):細胞培養ステップ、細胞スラリー保持ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH8)、加熱前のpH7.4へのpH調整ステップ、加熱段階、及び熱処理ステップ。
【0134】
図5は、前述の実験の結果を示す。加熱前にpH調整ステップを加えることによって、対照と比較して約34%高い抽出力価をもたらしたことを見ることができる。均質化ステップを含めることによって、pH調整ステップを含む方法との比較時に、収率に影響がなかったことも見ることができる。細胞スラリー保持は、pH調整ステップを有するものの比較時ではなく、対照抽出の比較時に高い収率をもたらす。
【0135】
図6中のSDS−PAGEゲルは、抽出後サンプルのタンパク質プロファイルを示す。
レーン1は分子量マーカーであり、
レーン2は抗体Aのサンプルであり、
レーン3は、均質化ステップ後、ただし無pH調整及び無細胞スラリー保持のサンプルであり、
レーン4は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、並びに均質化ステップ及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、
レーン5は、無pH調整、無均質化及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、
レーン6は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、並びに無均質化及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、
レーン7は、細胞スラリー保持、ただし無pH調整及び無均質化後のサンプルであり、
レーン8は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、及び細胞スラリー保持、ただし無均質化後のサンプルである。
【0136】
pH調整した抽出物のタンパク質プロファイルは、細胞スラリー保持対照と同等であった。
【0137】
(例5)
サンプルのpH及びFab’収率に対する加熱前の抽出バッファーのpH及び/又はpH調整ステップの影響。
細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ、加熱段階及び熱処理ステップを、一般的な方法の節に記載したように実施した。2つの実験が加熱ステップ前にpH調整を含んでおり、2つの実験はこのステップを含んでいなかった。
【0138】
細胞スラリー保持ステップ、均質化ステップ、及び加熱中のpH調整ステップは実施しなかった。
【0139】
4つの異なるpH調節戦略を実施した:
1.対照:抽出バッファーpH7.4及び加熱前のpH調整無し;
2.抽出バッファーpH7.4及び加熱前に7.4にpH調整;
3.バッファーpH8:抽出バッファーpH8.0及び加熱前のpH調整無し、及び
4.抽出バッファーpH8.0及び加熱前に7.4にpH調整。
【0140】
バッファー添加(第一のピーク)、加熱前のpH調整(第二のピーク)及び熱処理(pH低下)に対して細胞スラリーから開始して一次回収中にpHをモニタリングした。図7はそれらの方法中のpHプロファイルを示す。
【0141】
Fab’収率に対する影響を図8中に示し、全てのpH上昇戦略(1〜3)はFab’収率の増大をもたらしたこと、及び上昇バッファーと加熱前pH調整の組合せを使用した戦略4は最高のFab’回収率をもたらしたことを見ることができる。
【0142】
(例6)
サンプルのpH及びFab’収率に対する加熱中の抽出バッファーのpH及び/又はpH調整ステップの影響。
細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ、加熱段階及び熱処理ステップを、一般的な方法の節に記載したように実施した。2つの実験が加熱ステップ中にpH調整を含んでおり、対照はこのステップを含んでいなかった。
【0143】
細胞スラリー保持ステップ、均質化ステップ、及び加熱前のpH調整ステップは実施しなかった。
【0144】
3つの異なるpH調節戦略を実施した:
1.対照:抽出バッファーpH7.4及び加熱中のpH調整無し;
2.抽出バッファーpH7.4及び加熱中に7.4にpH調整;
3.抽出バッファーpH8.0及び加熱中に7.4にpH調整。
【0145】
Fab’収率に対する影響を図9中に示し、全てのpH上昇戦略(2及び3)はFab’収率の増大をもたらしたこと、及び上昇バッファーと加熱中のpH調整の組合せを使用した戦略4は最高Fab’回収率をもたらしたことを見ることができる。
【0146】
(例7)
発酵ブロスを得、それを遠心分離して大部分の使用済み培地を除去し、それによって細胞スラリーを生成することによって実験を実施した。この細胞スラリーは、細胞スラリー保持(cell slurry hold)の場合33時間保持した。均質化(homogenized)及び無前処理条件の場合、細胞は抽出バッファー中に再懸濁し、均質化又はいかなる前処理もしない熱抽出のいずれかを行った。細胞スラリー保持の後、細胞は抽出バッファー中に再懸濁した。全条件のものを抽出バッファー中に再懸濁した後、それらは(図12中に示す)望ましい設定地点にpH調整し、熱抽出(59℃で10時間)を開始した。熱抽出の後、液相中のFab’力価を決定するために抽出物を遠心分離によって浄化した。
以下のデータは図12中にも示す。
【表3】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え抗体、特に治療用抗体の産生及び単離における収率を増大するための方法に関する。これらの方法は、治療用抗体の大規模な工業的生産に特に適している。
【背景技術】
【0002】
組換えDNA技法は急速に開発されており、抗体、特に治療用抗体の産生において特に有用である。組換え遺伝子の発現に関する系は、問題の技術分野の当業者にはよく知られている。これらは、哺乳動物細胞、昆虫細胞、真菌細胞、細菌細胞、並びにトランスジェニック動物及び植物における発現を含む。発現系の選択は、コードタンパク質の特徴、例えば翻訳後修飾に依存する。他の考慮事項は時間、及び特に、所望量の必要とされる品質の物質の産生に関するコストを含む。これらの後者の考慮事項は、監督機関の承認が必要な品質及び多数の患者の治療に必要とされる量の、治療用抗体の産生において特に重要である。
【0003】
組換えタンパク質の産生に最も広く使用されている系は、大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)における発現に基づいている。大腸菌の使用で直面する具体的な問題は、治療に必要な量の必要とされる品質の物質を産生する際の困難である。特に、関連する時間及びコストは禁じられ得る。顕著な1つの具体的な問題は、大腸菌からの抗体の抽出中の抗体の収率において被る損失である。
【0004】
比例して、精製コストは治療用抗体産物の全コストの一部分であるが、精製コストの割合は、上流産生コストが安くなるとさらに増大する。したがって、抗体の回収及び精製の改善は、産生の手段とは無関係に産生コストをさらに低減する(Humphreys & Glover、Curr.Opin.Drug Disc/’overy & Development、2001、4:172〜185)。したがって、例えば産物の回収を高めること、及び/又は産物の流れの品質を改善することによって、治療用抗体産生、及び特に精製に時間及び/又はコスト節約をもたらす方法が必要とされる。
【0005】
発酵又は培養当たりの低い産物収率は、一次抽出段階で示される特定の問題であることが多く、抗体の発現は細胞内では高いが、一次抽出段階での高い回収率を得るのは非常に難しい。
【0006】
この後者の問題を部分的に処理し、治療用途に許容可能な抗体の産生を可能にする方法は、米国特許第5,655,866号中に記載されている。この方法は、非機能性抗体からの抗体機能性Fab’断片の後の単離を容易にするための熱処理の使用を含み、熱処理は発酵若しくは培養中の任意の時間、又は抗体の抽出及び精製中の任意の段階で実施する。室温を超える高温において、機能性抗体は非常に安定性があり、一方で宿主細胞タンパク質及び遊離軽鎖及び重鎖種及び抗体の非機能性断片を含めた、多くの他のタンパク質は、濾過若しくは遠心分離若しくは流動床クロマトグラフィーなどの一次精製手順中に機能性抗体から容易に分離される沈殿及び/又は凝集体を形成する。細胞抽出物は、EDTA10mMを含有するトリスHClバッファー100mM、pH7.4中で完全細胞をインキュベートすることによって、米国特許第5,655,866号中に記載された方法で調製した。
【0007】
WO2006/054063は、熱処理と組合せた非溶解処理を含めることによる、一次抽出段階での機能性抗体の収率の増大を記載する。この方法は、遠心分離後、100mMのEDTAを含有する1Mのトリス、pH7.4を含むサンプル中に細胞ペレットを再懸濁し、次に非溶解処理、次いで熱処理を行ったことを教示する。
【0008】
WO2005/019466は、発酵後ただし抽出を含めた下流処理前に定義した温度及びpH条件下での中断ステップを含めることによる、組換えタンパク質の収率の増大について記載する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本明細書に記載する本発明は、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養した後、一次回収プロセス中に生成したサンプルのpHの増大は、抗体の収率に対して著しく有益な影響があるという、驚くべき予想外の観察結果に基づく。
【0010】
抗体は加熱などの処理前に範囲6〜9のpHで開始することはできるが、驚くべきことに緩衝処理したときでさえ、おそらく細胞代謝の結果としてpHは低下する。本発明者らは、これは収率/回収に対して悪影響があると現在考えており、適切な場合、確実にpHが標的範囲内に留まるようにするための処理の前及び/又は最中に物質のpHを調整することによって、これに取り組むことを提案している。
【0011】
熱処理ステップ前のサンプルのpHは、細胞サンプルからの抗体の収率に対して相当な影響があることが、驚くべきことに分かっている。サンプルのpHが熱処理ステップ前にpH6〜9となるようにサンプルのpHを調整することによって、40%までの抗体の収率の増大をもたらすことが分かっている。これは、治療品質の量の機能性抗体の産生の、時間及びコストの非常に有益な節約を可能にする。実際、均質化(homogenization)及び保持(hold)ステップなどの、収率を増大するために使用されることが多い他のステップは、高レベルの抗体収率を得るのに、もはや必要とされない可能性がある。
【0012】
例えば米国特許第5,655,866号中で、以前に使用された方法中では、7.4のpHを有するバッファー中で完全細胞をインキュベートすることによって、細胞抽出物が調製された。サンプルのpHを一定レベルに維持すると予想されるバッファーの添加にもかかわらず、実際細胞サンプルのpHは経時的に低下することが分かっている。バッファーの添加後長時間などの特定の状況では、サンプルのpHは熱処理ステップ前にpH5.5ほど低いことが分かっている。確実にサンプルのpHが6〜9となるようにするための、熱処理前のpHの検出、及び場合によっては調整は、抗体の収率の驚くべき増大をもたらすことが分かっている。
【0013】
理論によって束縛されることは望まないが、熱処理などの処理ステップ中に6〜9の範囲内にpHを維持することは重要であると考えられる。(熱処理ステップなどの)処理前のpH調整は、適正範囲内にpHを維持するのを手助けする。したがって、一態様では、実質的にプロセスの時間中、実質的に6〜9の範囲内でpHを維持する抗体抽出ステップを提供する。
【0014】
理論によって束縛されるものではないが、本発明によって提供される方法は、標準的抽出条件下において切り離されない一次単離中のペリプラズムからの組換えタンパク質の回収を可能にすると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明の第一の態様では、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにする方法を提供する。
【0016】
この段階でのpHのモニタリングは、pHに対する調節を確立するのに必要不可欠である。
【0017】
代替の態様では、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルから組換え抗体分子を抽出する方法であって、
前記細胞の組成物のpHを6〜9の範囲内で調整して、後の抽出ステップ中にpHがその範囲内に維持されるようにするステップ、
熱処理ステップなどの抽出ステップを細胞に施すステップを含み、
抽出ステップの直前及び/又は最中に少なくとも1つの時点でpHをモニタリングする方法を提供する。
【0018】
サンプルを熱処理ステップに施した後、抽出バッファーのpHの上昇は、抗体の収率の驚くべき増大をもたらすことも分かっている。
【0019】
したがって、本発明の第二の態様では、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、7.5〜9.0のpHを有するサンプルに抽出バッファーを加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で利用する抗体分子は、完全抗体又はその結合断片、特に完全抗体又はFab断片を指すものとする。
【0021】
本発明の第一の態様では、サンプルは熱処理ステップ前に6〜9のpHを有している、又は有するように調整する。
【0022】
好ましい実施形態では、サンプルは、熱処理ステップの前に、6.5〜8.5のpH、pH6.5〜8.0、pH7.0〜9.0、pH7.0〜8.5、pH7.0〜8.0、pH7.1〜8.0、pH7.5〜8.0、pH7.0〜7.8、pH7.1〜7.8、pH7.1〜7.7、pH7.2〜7.6、pH7.3〜7.5、pH7.1、pH7.2、pH7.3、pH7.4、pH7.5、pH7.6、pH7.7、pH7.8又はpH7.9、pH7.4など、特にpH6.8を有する。
【0023】
本明細書で言及するpH測定値は一般に20℃に標準化する。
【0024】
本発明の方法中の熱処理ステップは、加熱段階中に望ましい高温に達した後、この望ましい高温にサンプルの温度を維持するステップである。熱処理ステップの適切な温度範囲は30〜70℃を含む。
【0025】
本発明の文脈では、語句「熱処理ステップの前」は、サンプルが望ましい高温に達し、(高温で保持する)熱処理ステップが始まる時点以前を意味する。熱処理ステップに望ましい高温に到達するため、サンプルを「加熱段階」に施し、その間にサンプルの温度が望ましい高温に上昇する。一実施形態では、本発明による方法は、サンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含む。
【0026】
本発明の方法において、熱処理ステップの前に、サンプルは6〜9のpH、例えばpH6.8を有する。この文脈では、「熱処理ステップの前」は、サンプルが熱処理ステップに望ましい高温に達する時点又はそれより前に、サンプルのpHが必要とされるレベルにあることを意味する。その方法がサンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含む実施形態では、サンプルは、加熱段階の開始前に必要とされるpHレベル、及び/又は加熱段階の最中に必要とされるpHレベルにあり得る。
【0027】
好ましい実施形態では、サンプルは加熱段階の開始前に6〜9の必要とされるpHレベルにある。
【0028】
一実施形態では、本発明は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、加熱段階の前に確実にサンプルのpHがpH6〜9、例えばpH7〜9、pH7〜8などとなるようにする方法を提供する。
【0029】
代替の実施形態では、本発明は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、加熱段階の最中に確実にサンプルのpHがpH6〜9、好ましくはpH6〜8、より好ましくはpH6〜7となるようにする方法を提供する。
【0030】
一実施形態では、サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、確実にサンプルのpHが加熱段階の前に第一のpH、加熱段階の最中に第二のpHとなるようにする。第一のpHと第二のpHのレベルは異なることが好ましい。第二のpHは第一のpHより低いことが好ましい。したがって、本発明は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに加熱段階及び熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、加熱段階の前に確実にサンプルのpHがpH7〜9、好ましくはpH7〜8となるようにし、加熱段階の最中に確実にサンプルのpHがpH6〜8、好ましくはpH6〜7となるようにする方法を提供する。この実施形態では、加熱段階の前にサンプルのpHを検出し、場合によっては調整することができ、加熱段階の最中に検出し、場合によっては調整することができる。
【0031】
好ましい実施形態では、加熱段階の直前に、サンプルは6〜9のpH、好ましくはpH7〜9、より好ましくはpH7〜8を有する。それに加えて又はその代わりに、サンプルが望ましい高温に達し熱処理ステップが始まる時点を場合によっては含めた熱処理ステップの直前、加熱段階の最中に、サンプルは6〜9のpH、好ましくはpH6〜8、より好ましくはpH6〜7を有する。加熱段階の直前又は熱処理ステップの直前のサンプルのpHは、組換え抗体の収率に対して有意な影響があることが分かっている。
【0032】
本発明の文脈では、用語「直前」は、加熱段階、熱処理ステップの前の、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、5秒以下、1秒以下の時間を意味することが好ましい。用語「直前」は、加熱段階の開始時又は熱処理ステップの開始時に6〜9である溶液のpHも包含し得る。
【0033】
サンプルのpHは抽出バッファーの添加後に検出する。サンプルのpHは、当技術分野で知られている任意の適切なpH測定機器を使用して検出することができる。サンプルのpHは、抽出バッファーの添加時点、抽出バッファーの添加直後、加熱段階の開始直前、加熱段階の開始時点、サンプルが熱処理ステップに望ましい高温に達する時点を含めた加熱段階の最中、熱処理ステップ中及び熱処理ステップ後などの、その方法中の1つ又は複数の別個の時点で検出することができる。或いは、連続モニタリングによってサンプルのpHを検出する。サンプルのpHを連続的にモニタリングするこの実施形態では、細胞を培養するステップ後、好ましくは培養後の遠心分離のステップ後から、熱処理ステップの開始まで、pHを連続的にモニタリングすることが好ましい。好ましい実施形態では、サンプルのpHは、抽出バッファーの添加時点から熱処理ステップの開始まで、連続的にモニタリングする。しかしながら、培養ステップ中及び/又は熱処理ステップ中に、pHをモニタリングすることもできる。
【0034】
したがって一実施形態では、加熱ステップのpHプロファイルを調節する。
【0035】
好ましい実施形態では、サンプルのpHを検出し、場合によっては調整し、サンプルが望ましいpHに達したとき、加熱段階を好ましくは自動的に開始させる。
【0036】
抽出バッファーは細胞サンプルを培養するステップ後に加える。その方法が培養のステップ後に遠心分離のステップを含む場合、遠心分離のステップ前及び/又は最中及び/又は後に、抽出バッファーを加えることができる。遠心分離のステップ後に抽出バッファーを加えて、遠心分離から得られた細胞ペレットを再懸濁することが好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態では、抽出バッファーは、熱処理ステップの前に、確実にサンプルのpHがpH6〜9、例えばpH6〜8となるようにする適切なpHを有する。抽出バッファーが、熱処理の前に確実にサンプルのpHが6〜9、例えばpH6〜8となるようにするのに適したpHを有するこの実施形態では、抽出バッファーは例えば、pH7.5〜9.0、pH7.5〜8.8、pH7.5〜8.5、pH8.0〜9.0、pH8.5〜9.0、pH8.6〜8.9、pH8.0、pH8.1、pH8.2、pH8.3、pH8.4、pH8.5、pH8.6、pH8.7、pH8.8、pH8.9又はpH9.0のpHを有する。加熱段階及び熱処理ステップは、確実にサンプルが熱処理ステップ前に必要なpHを有するようにするために、抽出バッファーの添加後すぐに、好ましくは直後に実施することが好ましい。例えば、加熱段階又は熱処理ステップは、抽出バッファーの添加後、4時間以下、3時間以下、2時間以下、1時間以下、30分以下、10分以下又は5分以下で実施することができる。
【0038】
したがって、本発明の方法は、サンプルのpH調整のステップを必要としない可能性がある。サンプルのpHは、抽出バッファーの添加後に検出して、必要に応じてpH6〜9にすることができる。例えば前に記載したように抽出バッファーのpHがサンプルのpHを6〜9にするのに適している場合、例えば抽出バッファーが7.5〜9.0のpHを有し、熱処理ステップをその後まもなく実施する場合、これが当てはまる可能性がある。
【0039】
しかしながら典型的には、抽出バッファーの添加と熱処理ステップの間の時間の長さが原因で、本発明による方法は、抽出バッファーの添加によって引き起こすことができる任意のpH調整以外に、熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにするために、サンプルのpHを検出及び調整するステップを必要とする。
【0040】
その方法がpH検出及び調整のステップを含むこの実施形態では、抽出バッファーのpHは、pH8未満、pH7.4以下など、例えばpH6.0〜7.4、pH6.5〜7.4又はpH7.0〜7.4、pH6.8などであってよい。
【0041】
或いは、好ましい実施形態では、抽出バッファーは、7.5〜9.0のpH、pH7.5〜8.8、pH7.5〜8.5、pH8.0〜9.0、pH8.5〜9.0、pH8.6〜8.9、pH8.0、pH8.1、pH8.2、pH8.3、pH8.4、pH8.5、pH8.6、pH8.7、pH8.8、pH8.9、pH9.0、最も好ましくはpH8.0を有する。
【0042】
この実施形態では、サンプルのpHは、その方法中の任意の適切な時間で、任意の適切な手段によって調整することができる。サンプルのpHは、抽出バッファーの添加前及び/又は後に調整することができる。
【0043】
一実施形態では、抽出バッファーの添加前にサンプルのpHを調整する。この実施形態では、その方法が培養のステップ後に遠心分離のステップを含む場合、pH調整のステップは遠心分離のステップの前及び/又は後に実施することができる。細胞培養後、及び場合によっては遠心分離後のサンプルのpHは典型的には低い。例えば、サンプルは約pH5.5のpHを有し得る。したがって、細胞培養後、及び場合によっては遠心分離などの1つ又は複数の他のステップ後に、サンプルのpHを調整することができる。例えば、サンプルのpHを抽出バッファーの添加前に、pH6.5〜8.0、好ましくはpH7.0〜8.0、pH6.5〜7.5、pH6.6〜7.4、pH6.7〜7.3、pH6.8〜7.2、pH6.9〜7.1、最も好ましくはpH6.9に調整することができる。
【0044】
抽出バッファー添加前のサンプルのpHが、pH7未満、pH6.9などであり、熱処理ステップ前のサンプルのpHがpH7〜9であることが必要とされる一実施形態では、サンプルのpHは、熱処理ステップ前のサンプルのpHが7〜9であるような、抽出バッファーの添加及び/又は抽出バッファー添加後のさらなるpH調整によるさらなる上昇を必要とする。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、抽出バッファーの添加後、ただし熱処理ステップの前に、サンプルのpHをpH6〜9に調整する。この段階で、好ましくはサンプルを、pH7.0〜9.0、pH7.0〜8.5、pH7.0〜8.0、pH7.1〜8.0、pH7.5〜8.0、pH7.0〜7.8、pH7.1〜7.8、pH7.1〜7.7、pH7.2〜7.6、pH7.3〜7.5、pH7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8又は7.9、最も好ましくはpH7.4に調整する。一実施形態では、加熱段階の前にサンプルのpHを調整する。好ましくは、サンプルのpHを、加熱段階の前にpH7〜9、好ましくはpH7〜8に調整する。その代わりに又はそれに加えて、加熱段階の最中にサンプルのpHを調整する。好ましくは、サンプルのpHを、加熱段階の最中にpH6〜8、好ましくはpH6〜7に調整する。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、7.4のpH又はpH8を有する抽出バッファーをサンプルに加え、サンプルのpHを検出し、熱処理ステップの前、好ましくは加熱段階の前、より好ましくは加熱段階の直前に、7.4のpHにその後調整する。
【0047】
サンプルのpHを抽出バッファーの添加後に検出し、熱処理ステップの前に調整する実施形態では、サンプルのpHは加熱段階の開始前に検出し調整することができる。それに加えて又はその代わりに、加熱段階の最中に、サンプルのpHを検出し調整することができる。
【0048】
好ましい実施形態では、加熱段階の直前にサンプルのpHを検出し調整する。それに加えて又はその代わりに、サンプルのpHは、サンプルが望ましい高温に達し熱処理ステップが始まる時点を場合によっては含めた熱処理ステップの直前、加熱段階の最中に検出し調整する。
【0049】
本発明の文脈では、用語「直前」は、加熱段階前又は熱処理ステップの前に、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、1分以下、30秒以下、10秒以下、5秒以下、1秒以下で、サンプルのpHを検出しpH6〜9に調整することを、意味することが好ましい。用語「直前」は、加熱段階の開始時又は熱処理ステップの開始時に、溶液のpHを検出し調整することも包含し得る。好ましい実施形態では、サンプルのpHがpH6〜9であることを検出するとき、加熱段階及び/又は熱処理ステップを、好ましくは自動的に引き起こす。
【0050】
サンプルのpHは、前に記載したpH調整の任意の単回又は複数回ステップによって、検出し調整することができる。したがってpHは、
●抽出バッファーの添加前のみ、
●抽出バッファーの添加後のみ、ただし熱処理ステップの前、又は
●抽出バッファーの添加前及び抽出バッファーの添加後、ただし熱処理ステップの前に調整することができる。
【0051】
pHは抽出バッファーの添加後に複数回、例えば1、2、3、4又はそれより多く調整することができる。
【0052】
一実施形態では、サンプルのpHは、好ましくは抽出バッファーの添加と熱処理ステップ前の間に、連続的に調整する。
【0053】
一実施形態では、サンプルのpHは、熱処理ステップの最中に、追加的に検出し場合によっては調整することができる。したがって、本発明による方法は、熱処理ステップの最中にサンプルのpHを調整するステップをさらに含むことができる。サンプルのpHは、pH6.0〜9.0、pH6.5〜8.5、pH6.5〜8.0、pH7.0〜9.0、pH7.0〜8.5、pH7.0〜8.0、pH7.1〜8.0、pH7.5〜8.0、pH7.0〜7.8、pH7.1〜7.8、pH7.1〜7.7、pH7.2〜7.6、pH7.3〜7.5、pH7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8又は7.9に、熱処理ステップの最中に調整することが好ましい。
【0054】
本発明による第二の態様では、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、7.5〜9.0のpHを有するサンプルに抽出バッファーを加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含む方法を提供する。
【0055】
本発明の第一の態様において前に記載したように、抽出バッファーは7.5〜9.0のpH、pH7.5〜8.8、pH7.5〜8.5、pH8.0〜9.0、pH8.5〜9.0、pH8.6〜8.9、pH8.0、pH8.1、pH8.2、pH8.3、pH8.4、pH8.5、pH8.6、pH8.7、pH8.8、pH8.9又はpH9.0を有することが好ましい。本発明のこの態様では、サンプルのpHを検出することは必須ではない。本発明の第二の態様による方法は、本発明の第一の態様において記載したように、サンプルのpHの検出及びサンプルのpHの調整を含むことができる。しかしながら、pH検出及びpH調整のステップを含めることは必須ではない。一実施形態では、本発明の第二の態様による方法は、サンプルのpHを検出するステップ又はpH調整のステップを含まない。
【0056】
本発明の以下の詳細な説明は、本発明の第一の態様と第二の態様の両方の実施形態に適用する。
【0057】
pH調整剤及び抽出バッファー
pH調整は、熱処理ステップ中pH6〜9の所望の範囲に、pHが持続/維持されるようなものでなければならない。
【0058】
一実施形態では、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、又はトリエチルアミン若しくはトリメチルアミンなどの有機塩基などの塩基を用いてpHを調整する。
【0059】
任意の適切な作用物質を使用して、サンプルのpHを調整することができる。作用物質は抽出バッファーであってよく、又は抽出バッファーの前及び/又は後に加えることができる。pHを調整するために使用することができる典型的な作用物質は、以下の、NaOH、NH4OH、硫酸、EDTA、トリスバッファーの1つ又は複数を含む、又はこれらからなる。水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウムなどの塩基を使用して、サンプルのpHを調整することが好ましい。
【0060】
一実施形態では、抽出バッファーは、典型的にはHClの添加によって所望のpHに調整した、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/エチレンジニトリロ四酢酸二ナトリウム塩二水和物(トリス/EDTA)バッファーである。理論によって束縛されるものではないが、大腸菌の外膜からのリポ多糖(LPS)の放出において、トリスとEDTAは相乗的に働くと考えられる。EDTAは、外膜のLPSを安定化させる二価カチオンを除去する。トリスはLPSと結合しCa2+及びMg2+を置換すると考えられる。これはLPS分子間の相互作用の低下、したがって外膜の透過性の増大をもたらす(Vaara,M.1992.「外膜の透過性を増大する作用物質(Agents That Increase the Permeability of the Outer Membrane)」American Society for Microbiology56:395〜411)。
【0061】
熱処理ステップ
本発明の方法中の熱処理ステップは、(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)米国特許第5,665,866号中に詳細に記載されたのと同様であることが好ましい。熱処理ステップは、他の抗体関連物質の除去を容易にすることによって、可溶性の、正確にフォールディング及び構築された抗体のサンプルを得ることを可能にする。「正確にフォールディング及び構築された」抗体は、非還元SDS PAGE上に構築された重鎖及び軽鎖に関する予想分子量に対応する一本のバンドの存在によって示される。他の抗体関連物質は、典型的には、正確にフォールディング及び構築された抗体の遊離重鎖及び軽鎖又はそれらの一部分、部分的に分解した断片である。
【0062】
熱処理ステップは、所望の高温をサンプルに施すことによって実施する。熱処理ステップは、30℃〜70℃の範囲内で実施することが最も好ましい。温度は必要に応じて選択することができ、精製用抗体の安定性に依存し得る。別の実施形態では、温度は40℃〜65℃の範囲内、又は好ましくは40℃〜60℃の範囲内、より好ましくは45℃〜60℃の範囲内、さらにより好ましくは50℃〜60℃の範囲内、最も好ましくは55℃〜60℃、58℃〜60℃又は59℃である。したがって、最小温度は30℃、35℃又は40℃であり、最高温度は60℃、65℃又は70℃である。
【0063】
熱処理ステップは長時間実施することが好ましい。熱処理の長さは、好ましくは1〜24時間の間、より好ましくは4〜18時間の間、さらにより好ましくは6〜16時間の間、最も好ましくは10〜14時間の間又は10〜12時間の間、例えば12時間である。したがって、熱処理に関する最小時間は1、2又は3時間であり、最大時間は20、22又は24時間である。
【0064】
特定の実施形態では、10〜16時間50℃〜60℃で、及びより好ましくは10〜12時間59℃で、熱処理を実施する。当業者は、問題のサンプル及び産生される抗体の特性に適合するように、温度及び時間を選択することができることを理解している。
【0065】
一実施形態では、本開示による方法は、熱処理ステップを実施する前に、調節条件下に細胞を保持する前処理ステップを含まない。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明は、組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、及び抽出バッファーをサンプルに加えること、及び最大15時間、好ましくは10〜12時間の間、40℃〜70℃の範囲内、好ましくは59℃の熱処理ステップをサンプルに施すことを含み、熱処理ステップの前に、サンプルのpHが、熱処理ステップの前に、好ましくは加熱段階の直前にpH7〜8、好ましくはpH7.4となるように、サンプルのpHをモニタリング及び調整する方法を提供する。7.4又は8.0のpHを有する抽出バッファーを、サンプルに加えることが好ましい。
【0067】
熱処理ステップは、200RPMなどの適切なRPMに設定したシェイカーで実施することが好ましい。しかしながら、適切なRPMはその方法の規模に応じて変わる。
【0068】
発酵
宿主細胞サンプルを培養するステップは、任意の望ましい規模での発酵を含むことができる。本発明の方法中、サンプルは、細菌、特にグラム陰性細菌、又は酵母、細胞培養物、例えばただし非制限的に、哺乳動物若しくは昆虫細胞培養物を含む発酵の産物であってよい。最も好ましくは、サンプルは組換え抗体を発現する大腸菌を含む発酵の産物であり、産生される前記抗体は機能性抗体と非機能性抗体の混合物であり得る。望む場合、宿主細胞に発酵培地からの回収を施すことができ、例えば宿主細胞は遠心分離、濾過又は濃縮によってサンプルから回収することができる。特に、本発明の方法は、治療性の抗体の大規模な工業的生産に適している。
【0069】
さらなるステップ
本発明による方法は、1つ又は複数のさらなるステップを含むことができる。
【0070】
一実施形態では、本発明による方法は、培養のステップ後に遠心分離のステップ、次に抽出バッファーの添加による細胞の懸濁のステップを含む。
【0071】
その方法は、濾過及び/又は遠心分離などの一次精製手順を追加的に含むことができる。流動床クロマトグラフィーも含まれる。好ましい下流精製手順には、イオン交換クロマトグラフィー、精密濾過(microfiltration)、限外濾過(ultrafiltration)、ダイアフィルトレーション(diafiltration)、並びに固定床捕捉及び膨張床捕捉、並びにこれらの任意の組合せが含まれる。
【0072】
非溶解処理ステップ
その方法は、サンプルに熱処理ステップを施す前に、サンプルに非溶解処理ステップを施すことをさらに含むことができる。このステップは、均質化ステップ(homog.ステップ)と呼ぶこともできる。非溶解処理ステップは、単離される又は得られる機能性抗体の収率、及び大規模なサンプル処理の容易さをさらに増大することができる。溶解は粘性の増大を引き起こし、機能性抗体の下流処理及び精製において問題を引き起こす可能性がある。特に、宿主細胞の溶解は宿主細胞タンパク質の放出を引き起こし、精製をより高価で時間を浪費するものにする。さらなる精製ステップが必要とされる可能性があり、及び/又はより多量のクロマトグラフィー物質が必要純度を得るのに必要とされるからである。宿主細胞DNAの相当な放出はサンプルの粘性を増大させ、浄化中のタンパク質消失の主な原因である濾過及び遠心分離における難題を引き起こす。溶解サンプル(即ち、宿主細胞タンパク質及びDNAを含有する)も、クロマトグラフィー物質の閉塞を引き起こす可能性がある。非溶解処理ステップは、(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)WO2006/054063中に記載されたように実施することが好ましい。WO2006/054063中に記載されたように、非溶解処理ステップは、相当な割合の細菌、哺乳動物細胞、酵母、昆虫細胞、又は組換え抗体発現に使用される他の生物、例えば大腸菌の溶解を生じさせない任意の処理を含む。最も好ましい実施形態では、非溶解処理は圧力処理を含む。或いは、非溶解処理は、振動又は撹拌の事前調整ステップを含む。「相当な割合」は、発酵又は培養中に80%以上の割合の生物が完全な形で存在すること、より好ましくは85%を超えて、さらにより好ましくは90%を超えて、最も好ましくは95%以上が完全であることを含む。
【0073】
顕微鏡下での観察、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析、及び全タンパク質対上清中及び/又は生物(細胞)ペレット中のタンパク質のアッセイを含めた、当技術分野で知られている任意の方法で溶解を判断することができる。一実施形態では、処理前後にサンプル中の全タンパク質を比較することによって、非溶解処理後に溶解を判断することができる。処理が溶解を引き起こしている場合、処理サンプルの上清中に存在する全タンパク質は、例えばブラッドフォードアッセイを使用して測定した、前記未処理サンプル中に存在する全タンパク質と比較して増大し得る。好ましい実施形態ではFACS分析を実施し、サンプルを蛍光色素で標識し、次に非溶解処理及びFACS分析を行う。処理前にFACS分析を実施し、比較用のベースライン値を与えることが最も好ましい。
【0074】
したがって、非溶解処理は、例えばバッファー中での一定時間の軽い再懸濁、例えば振動若しくは撹拌による、又はピペッティングなどの手作業の再懸濁による事前調整を含むことができる。一実施形態では、1時間〜24時間の間、好ましくは1時間〜20時間の間、より好ましくは2時間〜18時間の間、4時間〜16時間、6時間〜16時間、最も好ましくは12、14又は16時間、事前調整を実施する。したがって、事前調整の最小時間は1、2又は4時間であり、最大時間は16、18又は24時間である。事前調整は、50〜250rpm、好ましくは60rpm〜100rpmでの回転によって、最も好ましくは14又は16時間実施することができる。事前調整中、4℃〜30℃、より好ましくは4℃〜20℃の間の範囲内の温度、最も好ましくは室温に細胞を維持する。
【0075】
一実施形態では、事前調整ステップは、このプロセスの一部を含まない。
【0076】
好ましい実施形態では、非溶解処理は、例えばフレンチプレス又は窒素減圧を使用して、高圧に宿主細胞を曝すことを含む。具体例では、サンプルは大腸菌発酵の産物であり、前記大腸菌は組換え抗体を発現し、それにフレンチプレス中での圧力処理を施す。圧力は750psi又はその周辺〜5000psi又はその周辺の範囲であってよい。一実施形態では、圧力処理は1000psi、又は1250psi、1500psi、1750psi、2000psi、2250psi、2500psi、2750psi、3000psi、3250psi、3500psi、4000psi、4250psi、4500psi又は4750psiで実施する。圧力処理は1000psi〜3000psiの間で実施することがより好ましく、2000psiで実施することが最も好ましい。実質的に非溶解である(即ち、20%未満の溶解を引き起こす)圧力処理は、サンプルを含むバッファー及び細胞型、及び圧力に応じて、簡単な実験によって決定することができる。
【0077】
本発明の一実施形態では、その方法は、高圧への宿主細胞の暴露又は一定時間の軽い再懸濁による事前調整などの、前に記載した非溶解処理ステップを含まない。このような非溶解処理ステップを含めることは、組換えタンパク質の収率を改善することが知られている(WO2006/054063)。しかしながら、このような非溶解処理ステップ有り又は無しで本発明の方法によって、抗体の改善された収率が得られることが驚くべきことに分かっている。したがって、その方法が非溶解処理ステップを含まない実施形態では、本発明は、組換え抗体を得るのにより簡潔でコスト効率の良い手段を提供する。
【0078】
保持ステップ
一実施形態では、本発明による方法は、宿主細胞サンプルを培養するステップと抽出バッファー添加前の間に、その方法を中断するステップを含む。中断ステップの最中、サンプルは適切な温度で維持する。その方法を中断するこのステップは、WO2005/019466中に記載されたように実施することが好ましい。このステップは、細胞スラリー保持ステップ(CSH)と呼ぶこともできる。その方法は、少なくとも約1時間、1時間〜72時間、12時間〜48時間、12時間、24時間、33時間又は48時間の間、中断することが好ましい。
【0079】
サンプルは、その方法の中断中、18℃などの適切な温度で保持することが好ましい。
【0080】
本発明の一実施形態では、その方法は、WO2005/019466中に記載されたような、宿主細胞サンプルを培養するステップ後の中断ステップを含まない。このような中断を含めることは、組換えタンパク質の収率を改善することが知られている(WO2005/019466)。このような中断ステップ有り又は無しで本発明の方法によって、抗体収率の同様の改善が得られること、即ち、中断ステップをその方法中に含めたとき、収率のさらなる増大は観察されなかったことが驚くべきことに分かっている。したがって、その方法が中断ステップを含まない実施形態では、本発明は、組換え抗体を得るのにより簡潔でコスト効率の良い手段を提供する。したがって、一実施形態では、宿主細胞サンプルを培養するステップと抽出バッファー添加ステップの間の時間期間は、12時間未満、好ましくは10時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下又は1時間以下又は1時間未満である。
【0081】
抗体
本明細書で使用する「機能性抗体」は、それらに対して産生した抗原(同族抗原)を特異的に認識する又はそれと結合する能力を保持する抗体分子を含む。機能性抗体の産生は、抗体の予想分子量に対応する非還元SDS−PAGE上の一本のバンドの存在によって、又はBIAcore、又は当業者に知られている他の方法、例えばそれだけに限らないがELISAを使用した直接結合アッセイによって示される。非機能性抗体は、それらの同族抗原を認識しない断片を含み、それらの同族抗原を認識しない又はそれらと結合しない、不正確にフォールディング又は不正確に構築された抗体、遊離重鎖及び軽鎖、及び部分的に分解した抗体断片を含めたそれらの断片を含む。
【0082】
好ましい例では、組換え抗体分子は、抗体軽鎖の少なくとも一部分と抗体重鎖の少なくとも一部分であり、したがって、発現される軽鎖と重鎖抗体分子の少なくともある部分を組合せて、機能性抗体を形成することができる。
【0083】
本明細書で使用する「抗体」は、PCT/GB2008/003331中に記載されたように、完全長重鎖及び軽鎖を有する抗体、それらの機能活性断片、誘導体又はアナログを含み、それだけに限らないが、VH、VL、VHH、Fab、改変Fab、変更ヒンジFab、Fab’、F(ab’)2又はFv断片、軽鎖又は重鎖モノマー又はダイマー、単鎖抗体、例えば重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインがペプチドリンカーによってつながった単鎖Fv、又はFab−dAbなどの二重特異性抗体であってよい。
【0084】
抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、二、三、又は四価抗体、ヒト化又はキメラ抗体であってよい。これらの抗体及びそれらの断片は、天然に存在する、ヒト化、キメラ又はCDR移植抗体であってよく、標準的な分子生物学の技法を使用して、必要に応じてアミノ酸若しくはドメインを改変、付加又は欠失することができる。ヒト化抗体は、非ヒト種由来の1つ又は複数の相補性決定領域(CDR)及びヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する、非ヒト種由来の抗体分子である(例えば、米国特許第5,585,089号を参照)。本発明の方法を使用して精製した抗体分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)又はサブクラスの免疫グロブリン分子であってよい。
【0085】
これらの抗体分子を作製するための方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、Shrader et al、WO92/02551;Ward et al、1989、Nature、341:544;Orlandi et al、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86:3833;Riechmann et al、1988、Nature、322:323;Bird et al、1988、Science、242:423;Queen et al、米国特許第5,585,089号;Adair、WO91/09967;Mountain and Adair、1992、Biotechnol.Genet.Eng.Rev、10:1〜142;Verma et al、1998、Journal of Immunological Methods、216:165〜181)を参照)。
【0086】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技法(Kohler & Milstein、1975、Nature、256:495〜497)、トリオーマ技法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor et al、1983、Immunology Today、4:72)及びEBV−ハイブリドーマ技法(Cole et al、「モノクローナル抗体と癌治療(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)」、pp77〜96、Alan R Liss、Inc.、1985)などの、当技術分野で知られている任意の方法によって調製することができる。
【0087】
キメラ抗体は、軽鎖及び重鎖遺伝子が異なる種に属する免疫グロブリン遺伝子セグメントで構成されるように遺伝子操作された免疫グロブリン遺伝子によってコードされる抗体である。これらのキメラ抗体はおそらく低抗原性である。二価抗体は、当技術分野で知られている方法によって作製することができる(Milstein et al、1983、Nature 305:537〜539;WO93/08829、Traunecker et al、1991、EMBO J.10:3655〜3659)。二、三、及び四価抗体は多重特異性を含むことができ、又は単一特異性であってよい(例えばWO92/22853を参照)。
【0088】
Babcook、J.et al、1996、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(15):7843〜7848によって、及びWO92/02551中に記載されたように、特異的抗体の産生用に選択した単一リンパ球から作製した免疫グロブリン可変領域cDNAの分子クローニング及び発現に基づき、単一リンパ球抗体法を使用して抗体配列を作製することもできる。後者の方法は個々の抗体産生細胞の単離を利用するものであり、次いでそれらをクローン増殖し、次にその同族抗原を認識する抗体を産生するこれらのクローンをスクリーニングし、且つ望ましい場合、それらの可変重鎖(VH)及び軽鎖(VL)遺伝子の配列を後に同定する。或いは、その同族抗原を認識する抗体を産生する細胞を一緒に培養して、次にスクリーニングすることができる。
【0089】
本発明の方法を使用して調製した抗体は、患者に投与すると抗体の半減期を延長する、毒素、薬剤、細胞毒性化合物、又はポリマー、又は他の化合物と後に連結することが可能である、ヒト化抗体であることが最も好ましい。
【0090】
抗体は、任意の標的抗原に特異的であってよい。抗原は、細胞関連タンパク質、例えば細菌細胞、酵母細胞、T細胞、内皮細胞又は腫瘍細胞などの細胞上の細胞表面タンパク質であってよく、又は抗原は可溶性タンパク質であってよい。対象の抗原は、疾患又は感染中に上方制御されるタンパク質、例えば受容体及び/又はそれらの対応するリガンドなどの、任意の医学的関連があるタンパク質であってもよい。細胞表面タンパク質の個々の例には、接着分子、例えば、β1インテグリンなどのインテグリン、例えば、VLA−4、E−セレクチン、Pセレクチン又はL−セレクチン、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11a、CD11b、CD18、CD19、CD20、CD23、CD25、CD33、CD38、CD40、CD40L、CD45、CDW52、CD69、CD134(OX40)、ICOS、BCMP7、CD137、CD27L、CDCP1、CSF1又はCSF1−受容体、DPCR1、DPCR1、デュデュリン2、FLJ20584、FLJ40787、HEK2、KIAA0634、KIAA0659、KIAA1246、KIAA1455、LTBP2、LTK、MAL2、MRP2、ネクチン様2、NKCC1、PTK7、RAIG1、TCAM1、SC6、BCMP101、BCMP84、BCMP11、DTD、癌胎児性抗原(CEA)、ヒト乳脂肪グロブリン(HMFG1及び2)、MHCクラスI及びMHCクラスII抗原、KDR及びVEGF、及び適切な場合、これらの受容体が含まれる。
【0091】
可溶性抗原には、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−12、IL−13、IL−14、IL−16、又はIL17A及び/又はIL17FなどのIL−17などのインターロイキン、ウイルス抗原、例えば呼吸系発疹ウイルス又はサイトメガロウイルス抗原、IgEなどの免疫グロブリン、インターフェロンα、インターフェロンβ又はインターフェロンγなどのインターフェロン、腫瘍壊死因子TNF(以前は腫瘍壊死因子−αとして知られていた)、腫瘍壊死因子−β、G−CSF又はGM−CSFなどのコロニー刺激因子、及びPDGF−α、及びPDGF−βなどの血小板由来増殖因子、及び適切な場合、これらの受容体が含まれる。他の抗原には、細菌細胞表面抗原、細菌毒素、インフルエンザ、EBV、HepA、B及びCなどのウイルス、バイオテロリズム物質、放射性核種及び重金属、並びにヘビ及びクモ毒及び毒素が含まれる。
【0092】
一実施形態では、抗体を使用して、対象の抗原の活性を機能的に変えることができる。例えば、抗体は、直接的又は間接的に、前記抗原の活性を中和、アンタゴナイズ又はアゴナイズすることができる。
【0093】
好ましい実施形態では、(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)WO01/094585中に記載されたように、抗体は抗TNF抗体、より好ましくは抗TNF Fab’である。
【0094】
組換えタンパク質の発現のための方法は、当技術分野でよく知られている。組換え抗体分子の発現に適した宿主細胞の例には、グラム陽性又はグラム陰性細菌、例えば大腸菌、又は酵母細胞、例えばS.セレビシエ(S.cerevisiae)などの細菌、又は哺乳動物細胞、例えばCHO細胞及びミエローマ又はハイブリドーマ細胞系、例えばNSO細胞が含まれる。本発明の方法中、細菌、例えば大腸菌において組換え抗体が産生されることが最も好ましい(Verma et al、1988、J.Immunol.Methods 216:165〜181;Simmons et al、2002、J.Immunol.Methods 263:133〜147を参照)。
【0095】
細胞
本発明中で使用する用語「サンプル」は、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した細胞の集団を指す。サンプルは、小規模な抗体産生から商業目的の大規模な抗体生産まで、任意の適切な規模であってよい。
【0096】
本発明中で使用する細胞は、例えばそれだけに限らないが、細菌、特にグラム陰性細菌、酵母、哺乳動物又は昆虫であってよい。細胞は大腸菌であることが最も好ましい。細胞は野生型細胞、又は遺伝子操作された組換え細胞であってよい。大腸菌宿主細胞は、天然に存在する大腸菌株、又は組換えタンパク質を産生することができる突然変異株であってよい。具体的な宿主大腸菌株の例には、MC4100、TG1、TG2、DHB4、DH5α、DH1、BL21、K12、XL1Blue及びJM109が含まれる。一例は、大腸菌W3110(ATCC27,325)、組換えタンパク質発酵に一般に使用される宿主株である。例には、改変型大腸菌株、例えば、代謝突然変異体及びプロテアーゼ欠損株も含まれる。
【0097】
本発明の方法を使用して産生した組換え抗体は、タンパク質の性質及び産生の規模に応じて、大腸菌宿主細胞のペリプラズム中、又は宿主細胞培養上清中のいずれかにおいて典型的に発現される。これらの区画にタンパク質を標的化するための方法は当技術分野でよく知られており、総説に関してはMakrides、Microbiological Reviews、1996、60、512〜538を参照。大腸菌のペリプラズムにタンパク質を誘導するのに適したシグナル配列の例には、大腸菌PhoA、OmpA、OmpT、LamB及びOmpFシグナル配列が含まれる。本来の分泌経路の利用によって、又はタンパク質分泌を引き起こすための外膜の限られた漏出の誘導によって、上清にタンパク質を標的化することができ、それらの例は、pelBリーダー、プロテインAリーダーの使用、培養培地へのグリシンの添加を伴うバクテリオシン放出タンパク質、マイトマイシン誘導型バクテリオシン放出タンパク質の同時発現、及び膜透過用のkil遺伝子の同時発現である。本発明の方法中、組換えタンパク質は宿主大腸菌のペリプラズムにおいて発現されることが最も好ましい。
【0098】
大腸菌宿主細胞における組換えタンパク質の発現は誘導系の調節下であってもよく、大腸菌における組換え抗体の発現は誘導性プロモーターの調節下にある。大腸菌における使用に適した多くの誘導性プロモーターは当技術分野でよく知られており、且つプロモーターに応じて、組換えタンパク質の発現は、増殖培地中の温度又は特定物質の濃度などの要因を変えることによって誘導することができる(Baneyx、Current Opinion in Biotechnology、1999、10:411〜421;Goldstein and Doi、1995、Biotechnol.Annu.Rev、105〜128)。誘導性プロモーターの例には、ラクトース又は非加水分解性ラクトースアナログ、イソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導可能である大腸菌lac、tac、及びtrcプロモーター、並びにそれぞれホスフェート、トリプトファン及びL−アラビノースによって誘導されるphoA、trp及びaraBADプロモーターが含まれる。例えば、誘導物質の添加、又は誘導が温度依存性である場合は温度の変化によって、発現を誘導することができる。組換えタンパク質の発現の誘導が培養物への誘導物質の添加によって達成される場合、発酵系及び誘導物質に応じて任意の適切な方法によって、例えば、シングル又はマルチショット添加によって、又は供給を介した誘導物質の段階的添加によって、誘導物質を加えることができる。誘導物質の添加と実際のタンパク質発現の誘導の間に遅延がある可能性があり、例えば誘導物質がラクトースである場合、任意の既存の炭素源をラクトース前に利用しながら、タンパク質発現の誘導が起こる前に遅延がある可能性があることは理解されよう。
【0099】
大腸菌宿主細胞培養物(発酵物)は、大腸菌の増殖及び組換えタンパク質の発現を支持する任意の培地中で培養することができる。培地は、本明細書に記載するように必要に応じて増殖率を調節するように改変した、Pirt S.J.(1975)「微生物及び細胞培養の原理(Principles of Microbe and Cell Cultivation)」、Blackwell Scientific Publications中に提供された培地などの任意の化学的に定義された培地であってよい。適切な培地の一例は、Humphreys et al、2002、「タンパク質の発現及び精製(Protein Expression and Purification)」、26:309〜320により記載された「SM6E」である。
【0100】
大腸菌宿主細胞の培養は、必要とされる産生の規模に応じて、振とうフラスコ又は発酵槽などの任意の適切な容器内で行うことができる。1,000リットルを超える、最大約100,000リットルまでの容量を有する様々な大規模発酵槽が利用可能である。好ましくは1,000〜50,000リットル、より好ましくは1,000〜10,000又は12,000リットルの発酵槽を利用する。0.5リットル〜1,000リットルの間の容量を有するより小規模な発酵槽を使用することもできる。
【0101】
大腸菌の発酵は、必要とされるタンパク質及び収率に応じて、任意の適切な系、例えば連続、回分又は流加形式(Thiry & Cingolani、2002、Trends in Biotechnology、20:103〜105)で実施することができる。必要な場合は栄養素又は誘導物質のショット添加で、回分形式を使用することができる。或いは、流加培養を使用することができ、発酵槽中に最初に存在した栄養素を使用して維持することができる最大特異的増殖率で回分形式事前誘導において培養物を増殖し、1つ又は複数の栄養素供給レジメを使用して、発酵が終了するまで増殖率を調節することができる。流加形式を事前誘導に使用して大腸菌宿主細胞の代謝を調節し、より高い細胞密度に到達させることも可能である(Lee、1996、Tibtech、14:98〜105)。
【0102】
本発明の各実施形態の好ましい特徴は、必要な変更を加えて他の各実施形態と同様である。それだけに限らないが本明細書中に列挙する特許及び特許出願を含めた全ての刊行物は、それぞれ個々の刊行物が、完全に言及されるように参照により本明細書に組み込まれることが具体的且つ個別に示されるが如く、参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
一態様では、前記方法から得られるか又は得ることができる抗体を提供する。
【0104】
一態様では、特に調節で確実にpHが熱抽出ステップなどの抽出ステップの最中にpH6〜9の範囲内に維持されるようにする場合の、抗体抽出、例えば一次抽出を改善するための、バッファーなどのpH調節手段の使用を提供する。
【0105】
本明細書で利用するpH調節手段は、バッファー、塩基及び/又は酸である。
【0106】
ここで本発明を、以下の実施例を参照しながら記載する。これらは単なる例示的なものであり、決して本発明の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】経時的なpH7.4及びpH8のトリス/EDTA抽出バッファー中に再懸濁した細胞のpHを示すグラフである。
【図2a】抗体Aの収率に対する抽出バッファーのpHの影響を示すヒストグラムである。
【図2b】7.4〜9.0のpHを有する抽出バッファーの添加直後の細胞サンプル(再懸濁した細胞スラリー)のpH、及び加熱段階前の抽出バッファーの添加後1時間での細胞サンプルのpHを示すヒストグラムである。
【図3a】抗体Aの収率に対する、熱処理ステップ前にサンプルのpHを調整する影響を示すヒストグラムである。それぞれのバーの上の数字は、pH調整のステップが無い対照と比較した収率の増大率を示す。
【図3b】その方法の様々な段階:細胞スラリー(培養及び遠心分離後)、バッファー添加後(抽出バッファー添加直後)、pH調整前、pH調整後ただし加熱段階前、及び熱処理ステップ後にわたっての、サンプルの様々なpHを示すグラフである。
【図4】熱処理後に細胞から抽出した抗体AサンプルのSDS−PAGE分析を示す図である。レーン1は分子量マーカーであり、レーン2は抗体Aのサンプルであり、レーン3は無pH調整後のサンプルであり、且つレーン4〜8は熱処理ステップ前のそれぞれ7.0、7.2、7.4、7.6及び7.8へのpH調整後のサンプルを示す。
【図5】抗体Aの収率に対する、pH8での抽出バッファーの使用、及び熱処理ステップ前のpH7.4へのサンプルのpH調整の影響を示すヒストグラムである。図5は、均質化ステップ又は細胞スラリー保持ステップを含めた影響も示す。それぞれのバーの上の数字は、均質化ステップ有りただしpH調整ステップ無しの対照と比較した収率の増大率を示す。
【図6】熱処理後に細胞から抽出した抗体AサンプルのSDS−PAGE分析を示す図である。 レーン1は分子量マーカーであり、 レーン2は抗体Aのサンプルであり、 レーン3は、均質化ステップ後、ただし無pH調整及び無細胞スラリー保持のサンプルであり、 レーン4は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、並びに均質化ステップ及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、 レーン5は、無pH調整、無均質化及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、 レーン6は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、並びに無均質化及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、 レーン7は、細胞スラリー保持、ただし無pH調整及び無均質化後のサンプルであり、 レーン8は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、及び細胞スラリー保持、ただし無均質化後のサンプルである。
【図7】pH調整無しの対照サンプル、pH8の抽出バッファーで処理したサンプル、pH7.4の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプル、及びpH8の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプルに関する、経時的なサンプルのpHを示すグラフである。第一のピークは抽出バッファーを加えた時点を示し、第二のピークは熱処理ステップ前に2サンプルのpHを調整した時点を示す。
【図8】抗体Aの収率に対する、pH調整無しの対照サンプル、pH7.4の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプル、pH8の抽出バッファーで処理したサンプル、及びpH8の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプルの影響を示すヒストグラムである。それぞれのバーの上の数字は、pH調整のステップが無い対照と比較した収率の増大率を示す。
【図9】抗体Aの収率に対する、pH調整無しの対照サンプル、pH7.4の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前に加熱段階中にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプル、及びpH8の抽出バッファーで処理し熱処理ステップ前に加熱段階中にpH7.4にサンプルのpHを調整したサンプルの影響を示すヒストグラムである。それぞれのバーの上の数字は、pH調整のステップが無い対照と比較した収率の増大率を示す。
【図10】無pH調整対照と比較したFab’の力価に対する6.6、7.0、7.4及び7.8単位へのpH調整の影響を示すヒストグラムである。実験は無前処理、細胞スラリー保持及び均質化の(抽出前の)3つの異なる前処理ステップで反復する。
【図11】以下の条件;無pH調整、無前処理及び(範囲6.6〜7.8単位への)pH調整、均質化及び(範囲6.6〜7.8単位への)pH調整、及び全てのpH調整条件(均質化及び無前処理)の、平均したFab’の力価を示すヒストグラムである。エラーバーは、平均からの一標準偏差を示す。
【0108】
一般的な方法
以下の実施例では、他に言及しない限り以下のようにその方法を実施する。
【0109】
細胞培養ステップ及び遠心分離:
抗体A(Fab’)を、挿入抗体AをコードするDNAを有するベクターpTT0Dを使用して、大腸菌W3110細胞において発現させた。ラクトースを用いた誘導後25℃で30時間発酵を実施し、採取の用意をした。50ml又は1Lの採取した培養物アリコートは、1時間4200RPM及び4℃で遠心分離した。
【0110】
上清をデキャンタし、産生規模で浄化をシミュレートするために、少ない割合の上清を細胞に加えて生成する細胞スラリーサンプルを採取重量の35%にした。
【0111】
細胞スラリー保持ステップ(CSH):
いくつかの実験において、細胞スラリー保持ステップを実施し、抽出バッファーの添加前に18℃及び200RPMで33時間サンプルを保持した。
【0112】
抽出バッファーの添加:
生成する細胞スラリーサンプル(本明細書では以後サンプルと呼ぶ)を、300mMのトリス及び30mMのEDTAストック溶液を使用して再懸濁し、HClを使用して調整した7.4のpHを有する100mMのトリス及び10mMのEDTAの最終濃度にした。以下に記載する実験において、この抽出バッファーのpHは、7.4の対照pHからpH7.4〜9.0の間のより高pHレベルまでに調整する。
【0113】
均質化ステップ(Homog.):
いくつかの実験において、1500psiでの一回通過により抽出バッファーの添加後に、均質化ステップを実施した。
【0114】
加熱段階前のpH調整:
いくつかの実験において、サンプルは5MのNaOHを用いたpH調整に施して、加熱段階の開始前に7.0〜7.8の間の望ましいレベルにした。
【0115】
加熱段階
サンプルは加熱段階に施し、サンプルの温度は18℃から59℃の望ましい高温まで上昇させ、59℃で熱処理ステップを開始した。
【0116】
加熱段階中のpH調整:
いくつかの実験において、59℃の望ましい高温に達するまで、加熱段階中に、サンプルを5MのNaOHを用いたpH調整に施して7.4±0.02の望ましいレベルにした。
【0117】
熱処理ステップ
サンプルは10〜12時間59℃及び200RPMで保持した。
【0118】
熱処理後、再懸濁した細胞ペレットを、4℃において1時間、4200rpmでの遠心分離によって浄化した。機能性抗体Aを含有する上清は、20mMのリン酸バッファーにおけるプロテインG HPLC分析を使用してFab’に関してアッセイした。注入時のpH7.0から2.5のpHまで低下させたpH勾配を使用して、抗体Aを溶出した。
【0119】
還元抽出サンプルは、約1μgの充填濃度でトリス−グリシンSDS−PAGEゲル上に載せた。
【0120】
(例1)
抽出バッファー添加後のサンプルのpHに対する影響
バッファーがpH8.0又はpH7.4を有した、細胞培養ステップ及び抽出バッファー添加ステップは、一般的な方法の節に記載したように実施した。サンプルのpHは、抽出バッファーの添加からモニタリングした。図1は、バッファーの添加後にサンプルのpHの急速な低下があること、及び特にバッファーが7.4のpHを有するとき、pHがpH7未満に急激に低下することを示す。
【0121】
(例2)
抗体収率に対する抽出バッファーのpHの影響
細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ、加熱段階及び熱処理ステップを、一般的な方法の節に記載したように実施した。
【0122】
細胞スラリー保持ステップ、均質化ステップ、及び加熱前又は最中のpH調整ステップは実施しなかった。
【0123】
抽出バッファーのpHは以下のように変えた:7.4、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9及び9.0。熱抽出後のFab’の濃度を示す図2a中に結果を示す。7.4を超える抽出バッファーの高いpHは、Fab’の回収に関する有意な増大、pH8.8まで増大した収率をもたらしたことを見ることができる。8.8を超えると、Fab’の濃度は低下し始めた。
【表1】
【0124】
表1及び図2bは、7.4〜9.0のpHを有する抽出バッファーの添加直後の細胞サンプル(再懸濁した細胞スラリー)のpH、及び加熱段階前の抽出バッファーの添加後1時間での細胞サンプルのpHを示す。
【0125】
(例3)
抗体収率に対する加熱段階前のpHの影響
細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ、均質化ステップ、加熱前のpH調整ステップ、加熱段階及び熱処理ステップを、一般的な方法の節に記載したように実施した。対照にはpH調整ステップを施さなかった。
【0126】
対照実験では、抽出バッファーはpH7.4であり、他の実験では、加熱段階前にpHを調整したとき、抽出バッファーはpH8.0であった。
【0127】
細胞スラリー保持ステップ、及び加熱最中のpH調整ステップは実施しなかった。
【0128】
対照では、加熱段階前のpH調整は実施しなかった。他の実験では、サンプルのpHは加熱段階前にpH7.0、7.2、7.4、7.6及び7.8に調整した。
【0129】
このpH調整ステップが改善されたFab’回収をもたらしたことを示す図3a中に、その結果を示す。図3aは、どのようにしてpH7.0〜7.8の範囲内に地点を設定するpH調整が、pH調整を施さなかった対照サンプルと比較して、26〜40%産物回収率を増大したかを実証する。
【表2】
【0130】
サンプルのpHはその方法中の様々な時点で検出した。前の表2及び図3bは、その方法の様々な段階:細胞スラリー(培養及び遠心分離後)、バッファー添加後(抽出バッファー添加直後)、pH調整前、pH調整後ただし加熱段階前、及び熱処理ステップ後にわたっての、サンプルの様々なpHを示す。
【0131】
図4中のSDS−PAGEゲルは、抽出後サンプルのタンパク質プロファイルを示す。レーン1は分子量マーカーであり、レーン2は抗体Aのサンプルであり、レーン3は無pH調整後のサンプルであり、且つレーン4〜8は熱処理ステップ前のそれぞれ7.0、7.2、7.4、7.6及び7.8へのpH調整後のサンプルを示す。
【0132】
サンプル充填量は1μgのFab’に標準化した。対照と加熱前pH調整したサンプルの間で、タンパク質プロファイルの有意な差は観察されなかった。
【0133】
(例4)
細胞スラリー保持ステップ及び均質化ステップの存在及び不在下での、抗体収率に対する抽出バッファーのpH及びpH調整の影響
以下の実験を一般的な方法の節に記載したように実施した。
●対照(homog.有り):細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH7.4)、均質化ステップ、加熱段階及び熱処理ステップ、
●pH8におけるバッファー、及び加熱前にpH7.4に調整(homog.有り):細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH8)、均質化ステップ、加熱前のpH7.4へのpH調整ステップ、加熱段階、及び熱処理ステップ、
●対照(homog.又はCSH無し):細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH7.4)、加熱段階及び熱処理ステップ、
●pH8におけるバッファー、及び加熱前にpH7.4に調整(homog.又はCSH無し):細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH8)、加熱前のpH7.4へのpH調整ステップ、加熱段階、及び熱処理ステップ、
●対照(CSH有り):細胞培養ステップ、細胞スラリー保持ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH7.4)、加熱段階及び熱処理ステップ、及び
●pH8におけるバッファー、及び加熱前にpH7.4に調整(CSH有り):細胞培養ステップ、細胞スラリー保持ステップ、抽出バッファー添加ステップ(pH8)、加熱前のpH7.4へのpH調整ステップ、加熱段階、及び熱処理ステップ。
【0134】
図5は、前述の実験の結果を示す。加熱前にpH調整ステップを加えることによって、対照と比較して約34%高い抽出力価をもたらしたことを見ることができる。均質化ステップを含めることによって、pH調整ステップを含む方法との比較時に、収率に影響がなかったことも見ることができる。細胞スラリー保持は、pH調整ステップを有するものの比較時ではなく、対照抽出の比較時に高い収率をもたらす。
【0135】
図6中のSDS−PAGEゲルは、抽出後サンプルのタンパク質プロファイルを示す。
レーン1は分子量マーカーであり、
レーン2は抗体Aのサンプルであり、
レーン3は、均質化ステップ後、ただし無pH調整及び無細胞スラリー保持のサンプルであり、
レーン4は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、並びに均質化ステップ及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、
レーン5は、無pH調整、無均質化及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、
レーン6は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、並びに無均質化及び無細胞スラリー保持後のサンプルであり、
レーン7は、細胞スラリー保持、ただし無pH調整及び無均質化後のサンプルであり、
レーン8は、pH8での抽出バッファーを用いた処理、及び熱処理前のpH7.4への調整、及び細胞スラリー保持、ただし無均質化後のサンプルである。
【0136】
pH調整した抽出物のタンパク質プロファイルは、細胞スラリー保持対照と同等であった。
【0137】
(例5)
サンプルのpH及びFab’収率に対する加熱前の抽出バッファーのpH及び/又はpH調整ステップの影響。
細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ、加熱段階及び熱処理ステップを、一般的な方法の節に記載したように実施した。2つの実験が加熱ステップ前にpH調整を含んでおり、2つの実験はこのステップを含んでいなかった。
【0138】
細胞スラリー保持ステップ、均質化ステップ、及び加熱中のpH調整ステップは実施しなかった。
【0139】
4つの異なるpH調節戦略を実施した:
1.対照:抽出バッファーpH7.4及び加熱前のpH調整無し;
2.抽出バッファーpH7.4及び加熱前に7.4にpH調整;
3.バッファーpH8:抽出バッファーpH8.0及び加熱前のpH調整無し、及び
4.抽出バッファーpH8.0及び加熱前に7.4にpH調整。
【0140】
バッファー添加(第一のピーク)、加熱前のpH調整(第二のピーク)及び熱処理(pH低下)に対して細胞スラリーから開始して一次回収中にpHをモニタリングした。図7はそれらの方法中のpHプロファイルを示す。
【0141】
Fab’収率に対する影響を図8中に示し、全てのpH上昇戦略(1〜3)はFab’収率の増大をもたらしたこと、及び上昇バッファーと加熱前pH調整の組合せを使用した戦略4は最高のFab’回収率をもたらしたことを見ることができる。
【0142】
(例6)
サンプルのpH及びFab’収率に対する加熱中の抽出バッファーのpH及び/又はpH調整ステップの影響。
細胞培養ステップ、抽出バッファー添加ステップ、加熱段階及び熱処理ステップを、一般的な方法の節に記載したように実施した。2つの実験が加熱ステップ中にpH調整を含んでおり、対照はこのステップを含んでいなかった。
【0143】
細胞スラリー保持ステップ、均質化ステップ、及び加熱前のpH調整ステップは実施しなかった。
【0144】
3つの異なるpH調節戦略を実施した:
1.対照:抽出バッファーpH7.4及び加熱中のpH調整無し;
2.抽出バッファーpH7.4及び加熱中に7.4にpH調整;
3.抽出バッファーpH8.0及び加熱中に7.4にpH調整。
【0145】
Fab’収率に対する影響を図9中に示し、全てのpH上昇戦略(2及び3)はFab’収率の増大をもたらしたこと、及び上昇バッファーと加熱中のpH調整の組合せを使用した戦略4は最高Fab’回収率をもたらしたことを見ることができる。
【0146】
(例7)
発酵ブロスを得、それを遠心分離して大部分の使用済み培地を除去し、それによって細胞スラリーを生成することによって実験を実施した。この細胞スラリーは、細胞スラリー保持(cell slurry hold)の場合33時間保持した。均質化(homogenized)及び無前処理条件の場合、細胞は抽出バッファー中に再懸濁し、均質化又はいかなる前処理もしない熱抽出のいずれかを行った。細胞スラリー保持の後、細胞は抽出バッファー中に再懸濁した。全条件のものを抽出バッファー中に再懸濁した後、それらは(図12中に示す)望ましい設定地点にpH調整し、熱抽出(59℃で10時間)を開始した。熱抽出の後、液相中のFab’力価を決定するために抽出物を遠心分離によって浄化した。
以下のデータは図12中にも示す。
【表3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにする上記方法。
【請求項2】
熱処理ステップを30℃〜70℃の範囲内で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抽出バッファーがNaOH、NH4OH、硫酸、EDTA、トリスバッファー及びこれらの組合せを含む群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抗体がβ1インテグリンなどのインテグリン、例えば、VLA−4、E−セレクチン、Pセレクチン又はL−セレクチン、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11a、CD11b、CD18、CD19、CD20、CD23、CD25、CD33、CD38、CD40、CD40L、CD45、CDW52、CD69、CD134(OX40)、ICOS、BCMP7、CD137、CD27L、CDCP1、CSF1又はCSF1−受容体、DPCR1、DPCR1、デュデュリン2、FLJ20584、FLJ40787、HEK2、KIAA0634、KIAA0659、KIAA1246、KIAA1455、LTBP2、LTK、MAL2、MRP2、ネクチン様2、NKCC1、PTK7、RAIG1、TCAM1、SC6、BCMP101、BCMP84、BCMP11、DTD、癌胎児性抗原(CEA)、ヒト乳脂肪グロブリン(HMFG1及び2)、MHCクラスI及びMHCクラスII抗原、KDR及びVEGFから選択される抗原に対して選択的である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
抗体分子が、VH、VL、VHH、Fab、改変Fab、変更ヒンジFab、Fab’、F(ab’)2又はFv断片、軽鎖又は重鎖モノマー又はダイマー、単鎖抗体、例えば重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインがペプチドリンカーによってつながった単鎖Fv、及びFab−dAbなどの二重特異性抗体を含む群から選択される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
pHを調整して熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法から得られる/得ることができる抗体。
【請求項8】
特に調節で確実にpHが熱抽出ステップなどの抽出ステップの直前及び/又は最中にpH6〜9の範囲にあるようにする場合の、抗体抽出、例えば一次抽出を改善するための、バッファーなどのpH調節手段の使用。
【請求項1】
組換え抗体分子を生産するための方法であって、組換え抗体分子をコードする発現ベクターで形質転換した宿主細胞サンプルを培養すること、抽出バッファーをサンプルに加えること、及びサンプルに熱処理ステップを施すことを含み、抽出バッファーの添加後サンプルのpHを検出し、場合によっては調整して、熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにする上記方法。
【請求項2】
熱処理ステップを30℃〜70℃の範囲内で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抽出バッファーがNaOH、NH4OH、硫酸、EDTA、トリスバッファー及びこれらの組合せを含む群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抗体がβ1インテグリンなどのインテグリン、例えば、VLA−4、E−セレクチン、Pセレクチン又はL−セレクチン、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11a、CD11b、CD18、CD19、CD20、CD23、CD25、CD33、CD38、CD40、CD40L、CD45、CDW52、CD69、CD134(OX40)、ICOS、BCMP7、CD137、CD27L、CDCP1、CSF1又はCSF1−受容体、DPCR1、DPCR1、デュデュリン2、FLJ20584、FLJ40787、HEK2、KIAA0634、KIAA0659、KIAA1246、KIAA1455、LTBP2、LTK、MAL2、MRP2、ネクチン様2、NKCC1、PTK7、RAIG1、TCAM1、SC6、BCMP101、BCMP84、BCMP11、DTD、癌胎児性抗原(CEA)、ヒト乳脂肪グロブリン(HMFG1及び2)、MHCクラスI及びMHCクラスII抗原、KDR及びVEGFから選択される抗原に対して選択的である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
抗体分子が、VH、VL、VHH、Fab、改変Fab、変更ヒンジFab、Fab’、F(ab’)2又はFv断片、軽鎖又は重鎖モノマー又はダイマー、単鎖抗体、例えば重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインがペプチドリンカーによってつながった単鎖Fv、及びFab−dAbなどの二重特異性抗体を含む群から選択される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
pHを調整して熱処理ステップの前に確実にサンプルのpHが6〜9となるようにする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法から得られる/得ることができる抗体。
【請求項8】
特に調節で確実にpHが熱抽出ステップなどの抽出ステップの直前及び/又は最中にpH6〜9の範囲にあるようにする場合の、抗体抽出、例えば一次抽出を改善するための、バッファーなどのpH調節手段の使用。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2013−518572(P2013−518572A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551605(P2012−551605)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051450
【国際公開番号】WO2011/095506
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(507073918)ユセベ ファルマ ソシエテ アノニム (70)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051450
【国際公開番号】WO2011/095506
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(507073918)ユセベ ファルマ ソシエテ アノニム (70)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]