説明

抗原特異的免疫寛容を誘導するための粘膜付着性粒子状製剤

本発明は、個体の免疫系の病的反応を、前記病的反応に関与する少なくとも1つの抗原に対する特異的寛容を誘導することにより予防及び/又は治療するために適合された粘膜付着性組成物であって、病的反応に関与する少なくとも1つの抗原で負荷されたキトサン粒子を含み、負荷されたキトサン粒子のサイズが800nmより大きい粘膜付着性組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原特異的免疫寛容を誘導するための粘膜付着性製剤、及びそれを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
舌下免疫療法(SLIT)は、I型呼吸器系アレルギーの非侵襲性で効果的な治療である(Canonica&Passalacqua Allergy 2006;61:20−23、Wilson et al.Allergy 2005;60:4−12)。しかし、例えば治療期間及び投与計画に関して最適化される余地がある。この関係において、適切な送達系が同定されて、舌下経路による寛容誘導が改善されている。粘膜付着性及び/又は粒子状の製剤は、(i)粘膜との接触期間を増加させ、よって、舌下粘膜に浸透するアレルゲンの量を改善し、(ii)寛容を誘導する傾向がある口腔粘膜内の抗原提示細胞(APC)を標的にする目的について特に見込みがあるようである(Moingeon et al.Allergy 2006;61:151−165、Novak&Bieber J Allergy Clin Immunol 2008;121:S370−4)。
【0003】
キトサンは、キチンの脱アセチル化により導かれるポリカチオン多糖である。キトサンは、甲殻類、昆虫、キノコ及び微生物に天然に存在する。これは、生分解性で、生体適合性で、良好な耐性を示し、刺激性又は感作性を示さないので、ヒトへの使用についてFDAにより承認されている(Jayakumar et al.Int J Bio Macromolecules 2007;40:175−181)。
【0004】
キトサンベースの製品は、医療、化粧品、健康補助食品及び環境の産業において既に用いられている。最も顕著には、キトサンベースポリマーの可能な形態のうち、キトサン粒子は、それらの粘膜付着性を担うポリカチオン性の性質と、APCによる取り込み及び二次リンパ器官への輸送を促進する粒子状の形態とを理由として、抗原を粘膜DCに向けるための興味深い送達系の候補である(O’Hagan&Valiante Nat Rev Drug Discov 2003;2:727−735)。抗原特異的寛容誘導の分野において、いくつかの研究が、ほとんどは鼻腔内又は経口経路による遺伝子送達系としてのキトサン粒子の効果について調べている(Roy et al.Nat Med 1999;5:387−391;Kumar et al.Genet Vaccines Ther 2003;1:3;Chew et al.Vaccine 2003;21:2720−2729))。キトサンを用いるペプチド送達に関して、送達系としてのキトサンの可能性に関して従来技術から実質的な教示を導くことはできない。つまり、Porporatto et al.Int Immunol 2004;16:433−441は、II型コラーゲンとの低分子量キトサンの経口投与が、授乳後すぐの抗炎症性環境を促進することを報告している。Hall et al.J.Allergy Clin Immunol 2002;100:883−89は、アレルゲンとのキトサンの鼻腔内投与は、気道炎症を低減することを示す。逆に、Cunningham et al.World Allergy Congress 2007 116、(Abstr)は、キトサンとのアレルゲンの舌下投与は、肺炎症の非特異的低減を導き、これはアレルゲンを単独で投与した場合に観察されるものより優れるものではないことを示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、大きいサイズのキトサン粒子の有する抗原特異的免疫寛容を誘導する能力が、より小さいサイズのキトサン粒子と比較した場合に、増進されるという本発明者らによる予期せぬ知見から生じる。
【0006】
よって、本発明は、個体の免疫系の病的反応を、特に前記病的反応に関与する少なくとも1つの抗原に対する特異的寛容を誘導することにより予防及び/又は治療するために適合された粘膜付着性組成物であって、病的反応に関与する前記少なくとも1つの抗原で負荷されたキトサン粒子を含み、負荷されたキトサン粒子のサイズ又は直径が800nmより大きい粘膜付着性組成物に関する。
【0007】
本発明は、上記で定義される粘膜付着性組成物を、医薬的に許容され得る担体とともに含む免疫治療組成物にも関する。
【0008】
本発明は、医薬品としての応用における上記で定義される粘膜付着性組成物若しくは上記で定義される免疫治療組成物、又は上記で定義される粘膜付着性組成物若しくは上記で定義される免疫治療組成物の、個体の免疫系の病的反応を、特に前記病的反応に関与する少なくとも1つの抗原に対する特異的寛容を誘導することにより予防及び/若しくは治療することを意図する医薬品の製造のための使用にも関する。本発明は、さらに、個体の免疫系の病的反応を、特に前記病的反応に関与する少なくとも1つの抗原に対する特異的寛容を誘導することにより予防及び/又は治療するために、特に医薬品として用いるための上記で定義される粘膜付着性組成物若しくは上記で定義される免疫治療組成物にも関する。
【0009】
本発明は、個体の免疫系の病的反応を、特に前記病的反応に関与する少なくとも1つの抗原に対する特異的寛容を誘導することにより予防又は治療する方法であって、前記個体に、上記で定義される粘膜付着性組成物の予防又は治療有効量を投与することを含む方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
抗原
本明細書で意図する場合、「個体の免疫系の病的反応に関与する抗原」は、その抗原に対して特異的に指向された免疫系の反応を誘導しやすく、個体、特に個体の細胞、組織又は器官に対する免疫反応の開始又は維持を担う化合物に関する。
【0011】
抗原は任意のタイプであってよい。特に、抗原は、タンパク質、ポリペプチド若しくはペプチド、炭水化物、脂質、DNA若しくはRNAのような核酸、又はウイルス、特に組換えウイルスであり得る。しかし、抗原は、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドが好ましい。本明細書で意図する場合、「タンパク質」は、タンパク質、ポリペプチド及びペプチドを含むと理解される。
【0012】
抗原は、アレルゲン、自己抗原及び移植片特異的抗原からなる群より選択されてよい。
【0013】
好ましい実施形態において、抗原はアレルゲンである。「抗原」は、罹患した個体においてIgE抗体の生成を惹起する物質、通常はタンパク質と定義される。同様の定義が、以下の参考文献にある:Clin.Exp.Allergy、No.26、pp.494−516(1996);Mol.Biol.of Allergy and Immunology、ed.R.Bush、Immunology and Allergy Clinics of North American Series(August 1996)。
【0014】
好ましくは、抗原は、タンパク質アレルゲン、すなわち約6〜20アミノ酸の短いペプチド、ポリペプチド又は全長タンパク質を含むアレルギー応答を引き起こすのに適当な任意のアミノ酸鎖である。
【0015】
アレルゲンの限定しない例は、花粉アレルゲン(例えば樹木、薬草、雑草及び牧草の花粉アレルゲン)、昆虫アレルゲン(例えば吸入、唾液及び毒液アレルゲン、例えばゴキブリ及び小昆虫アレルゲン、膜翅類毒液アレルゲン)、ダニアレルゲン、動物の体毛及びふけアレルゲン(例えばイヌ、ネコ、ウマ、ラット、マウスなどから)並びに食物アレルゲンを含む。
【0016】
例えば、タンパク質アレルゲンは、ヒョウヒダニ(Dermatophagoides)属のタンパク質アレルゲン;ネコ(Felis)属のタンパク質アレルゲン;ブタクサ(Ambrosia)属のタンパク質アレルゲン;ドクムギ(Lolium)属のタンパク質アレルゲン;スギ(Cryptomeria)属のタンパク質アレルゲン;アルテルナリア(Alternaria)属のタンパク質アレルゲン;ハンノキ(Alder)属のタンパク質アレルゲン;カバノキ(Betula)属のタンパク質アレルゲン;ブロミア(Blomia)属のタンパク質アレルゲン;カシ(Quercus)属のタンパク質アレルゲン;オレア(Olea)属のタンパク質アレルゲン;ヨモギ(Artemisia)属のタンパク質アレルゲン;オオバコ(Plantago)属のタンパク質アレルゲン;ヒカゲミズ(Parietaria)属のタンパク質アレルゲン;イヌ(Canine)属のタンパク質アレルゲン;チャバネゴキブリ(Blattella)属のタンパク質アレルゲン;ミツバチ(Apis)属のタンパク質アレルゲン;クプレサス(Cupressus)属のタンパク質アレルゲン;クロベ(Thuya)属のタンパク質アレルゲン;カマエキパリス(Chamaecyparis)属のタンパク質アレルゲン;ワモンゴキブリ(Periplaneta)属のタンパク質アレルゲン;アグロピロン(Agropyron)属のタンパク質アレルゲン;ライムギ(Secale)属のタンパク質アレルゲン;コムギ(Triticum)属のタンパク質アレルゲン;シノロドン(Cynorhodon)属のタンパク質アレルゲン;ビャクシン(Juniperus)属のタンパク質アレルゲン;カモガヤ(Dactylis)属のタンパク質アレルゲン;ウシノケグサ(Festuca)属のタンパク質アレルゲン;イチゴツナギ(Poa)属のタンパク質アレルゲン;カラスムギ(Avena)属のタンパク質アレルゲン;ホルクス(Holcus)属のタンパク質アレルゲン;アントサンテム(Anthoxanthum)属のタンパク質アレルゲン;アレナテルム(Arrhenatherum)属のタンパク質アレルゲン;アグロスチス(Agrostis)属のタンパク質アレルゲン;アワガエリ(Phleum)属のタンパク質アレルゲン;ファラリス(Phalaris)属のタンパク質アレルゲン;スズメノヒエ(Paspalum)属のタンパク質アレルゲン;及びモロコシ(Sorghum)属のタンパク質アレルゲンからなる群より選択してよい。
【0017】
上記で定義される属のいくつかに由来する種々の既知のタンパク質アレルゲンの例は、カバノキ(Betula verrucosa) Bet v I;Bet v II;ブロミアBlo t I;Blo t III;Blo t V;Blo t XII;シノロドンCyn d I;ヒョウヒダニ(ヤケヒョウヒダニ又はコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus又はfarinae))Der p I;Der p II;Der p III;Der p VII;Der f I;Der f II;Der f III;Der f VII;ネコ(Felis domesticus)Fel d I;ブタクサ(Ambrosia artemiisfolia)Amb a I.1;Amb a I.2;Amb a I.3;Amb a I.4;Amb a II;ドクムギ(ホソムギ(Lollium perenne))Lol p I;Lot p II;Lol p III;Lot p IV;Lol p IX(Lol p V又はLol p Ib);スギ(Cryptomeria japonica)Cry j I;Cry j II;イヌ(Canis familiaris)Can f I;Can f II;ビャクシン(サビナ又はエンピツビャクシン(Juniperus sabinoides又はvirginiana))Jun s I;Jun v I;ビャクシン(ジュニペルス・アシェイ(Juniperus ashei))Jun a I;Jun a II;カモガヤ(オーチャードグラス(Dactylis glomerata))Dac g I;Dac g V;イチゴツナギ(ポア・プレテンシス(Poa pretensis))Poa p I;Phl p I;Phl p V;Phl p VI及びモロコシ(ジョンソングラス(Sorghum halepensis))Sor h Iを含む。
【0018】
食物アレルゲンは、乳及び乳製品、卵、豆果(ピーナッツ及び大豆)、樹木の堅果、小麦、甲殻類、魚類及び軟体動物に由来し得る。特に、食物アレルゲンはオボアルブミン又はグルテンであってよい。
【0019】
さらに、アレルギーと同様に、I型糖尿病、多発性硬化症及び関節リウマチのような自己免疫疾患は、自己免疫疾患の場合に自己抗原、すなわち体自体の組織に属する抗原である抗原に対する抗原特異的T細胞媒介応答の結果と一般的に考えられる。抗原がおそらく別の個体又は別の種の動物にさえ由来する移植片組織に属する移植片拒絶の現象にも同じことがあてはまる。
【0020】
別の実施形態において、抗原は、自己免疫疾患又は移植片拒絶に関与する。
【0021】
いくつかの抗原(すなわち自己抗原)が、糖尿病、関節リウマチ及び多発性硬化症のような自己免疫疾患における症状を引き起こすことが見出されている(すなわちインスリン;ミエリン塩基性タンパク質;rh因子;アセチルコリン受容体;甲状腺細胞受容体;基底膜タンパク質;甲状腺タンパク質;ICA−69(PM−1);グルタミン酸脱炭酸酵素(64K又は65K);プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、コラーゲン(II型)、熱ショックタンパク質及びカルボキシペプチダーゼHのような自己抗原)。
【0022】
さらに、移植片特異的抗原は、最終的に移植片の拒絶を導き得る移植片対宿主疾患を惹起し得る。
【0023】
キトサン粒子
キトサンは、N−アセチル−D−グルコサミン及びD−グルコサミンの単位で構成される多糖であり、これらの単位はβ−1−6結合により一緒に結合している。通常、キトサンは、β−1−6結合により一緒に結合したN−アセチル−D−グルコサミン単位のホモ多糖であるキチンの脱アセチル化により生じる。キチンは、甲殻類の殻又は植物性の供給源で特に見出される。
【0024】
好ましくは、多糖中の単位の合計数に対する多糖のアセチル化単位の数である、本発明のキトサン粒子に存在するキトサン多糖のアセチル化パーセンテージは、25%未満である。
【0025】
好ましくは、本発明のキトサン粒子は、平均分子量が好ましくは300kDaより高いか又は粘度が好ましくは少なくとも800cP(粘度は、1%酢酸中の1%キトサン多糖溶液を用いる周知のBrookfield法に従って測定されるのが好ましい)であるキトサン多糖である高分子量キトサンで作られる。
【0026】
負荷されたキトサン粒子のサイズは、800nmより大きく、好ましくは1μm〜3μmの範囲である。
【0027】
負荷されたキトサン粒子のゼータ電位は、好ましくは2.5mVより大きく、より好ましくは6mV〜9mV、最も好ましくは約7.3mVである。
【0028】
粒子のゼータ電位は、粒子の表面電荷を反映する。これは、粒子が存在する分散媒体と、粒子の周囲のイオンの密な層との間の電荷の差に相当する。ゼータ電位は、特に、Veronesi et al.Toxicol Appl Pharmacol 2002;178:144−154により定義される。
【0029】
本発明の負荷されたキトサン粒子のサイズ及びゼータ電位は、任意の適切な方法により測定できる。好ましくは、これらは、以下の装置を用いて測定される:Zetasizer Nano ZS(Malvern、Worcestershire、UK)。
【0030】
抗原は、本発明のキトサン粒子に、任意の適切な方法に従って負荷できる。しかし、抗原は、本発明のキトサン粒子に架橋されるのが好ましい。抗原をキトサン粒子に架橋するための多数の周知の方法は、抗原の性質に応じて、当業者に利用可能である。抗原がタンパク質である場合、例えばトリポリホスフェート若しくはゲニピンを用いるイオン性架橋、又は例えばグルタルアルデヒド、NaOH若しくはエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いる化学架橋(例えばKo et al.Int J Pharm 2002;249:165−174により用いられたような)を特に挙げることができる。
【0031】
例えば、本発明の負荷されたキトサン粒子は:
−高分子量キトサン(例えばSigma−Aldrichから参照番号419419の下で入手可能)を酢酸水溶液に溶解するステップと;
−抗原を溶液に加えるステップと;
−抗原をキトサンに架橋するステップと
を含む方法により調製できる。
【0032】
免疫治療組成物、医薬品及び抗原特異的様式で免疫系の病的反応を予防又は治療する方法
本明細書で意図する場合、「個体の免疫系の病的反応」は、該免疫系を有する生物の組織又は細胞を標的にする免疫反応に関する。
【0033】
このような病的反応は、特に、喘息のようなアレルギー、自己免疫疾患又は移植片拒絶からなる群より選択される。
【0034】
本発明の関係において、アレルギーは、喘息又は上記で定義されるアレルゲンによるアレルギーに関する。
【0035】
本発明の関係において、自己免疫疾患は、特に、I型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、及び上記で定義される自己抗原による疾患に関する。
【0036】
本明細書で意図する場合、用語「免疫治療」は、免疫系の病的反応を予防又は治療する物質の能力に関する。
【0037】
本発明の関係において、用語「治療する(to treat)」、「治療する(treating)」又は「治療」は、免疫系の病的反応又は1若しくは複数のその症状の経過を逆行、緩和又は阻害することを意味する。
【0038】
本発明の関係において、用語「予防する(to prevent)」又は「予防する(preventing)」は、免疫系の病的反応又は1若しくは複数のその症状の開始を妨げることを意味する。
【0039】
本明細書で用いる場合、用語「個体」は、好ましくは、げっ歯類、ネコ、イヌ及び霊長類のような哺乳類のことをいう。好ましくは、本発明による個体は、ヒトである。
【0040】
「医薬的に」又は「医薬的に許容され得る」は、動物又は適切であればヒトに投与されたときに、有害、アレルギー性又はその他の不適当な反応を生じない分子性物質及び組成物のことをいう。
【0041】
本明細書で用いる場合、「医薬的に許容され得る担体」は、任意のそして全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤などを含む。このような媒体及び剤の、医薬有効物質のための使用は、当該技術において周知である。いずれかの通常の媒体又は剤が本発明による負荷されたキトサン粒子に適合しない場合を除いて、本発明による免疫治療組成物中で、医薬品中で、又は個体における免疫系の病的反応を予防若しくは治療する方法を行うためのその使用が企図される。補助的有効成分も、組成物中に組み込むことができる。
【0042】
本発明の負荷されたキトサン粒子の特定の免疫治療特性は、そのサイズ及び正電荷により生じると考えられ、これらは、予期せぬことにそして著しく、この粒子がそれで負荷されている抗原の、粘膜、特に口腔粘膜、より著しくは樹状細胞のような舌下細胞による取り込み及びプロセシングに好ましいものであり、よって抗原特異的寛容誘導に好ましいものである。
【0043】
さらに、本発明のキトサン粒子は、粘膜付着性である。粘膜付着性は、粘膜、特に口腔の粘膜、より著しくは舌下粘膜との密接で持続性の接触を可能にし、よって抗原特異的寛容誘導を増進する。
【0044】
好ましくは、本発明の負荷されたキトサン粒子、免疫治療組成物又は医薬品は、粘膜経路、より好ましくは口腔粘膜経路、最も好ましくは舌下経路により投与される。それ自体で、免疫治療組成物及び医薬品は、好ましくは、このような投与経路に適合する方法で処方される。
【0045】
粘膜投与とは、製剤の一部分又は全体が粘膜と接触する任意の投与方法のことをいう。粘膜とは、体の内腔の内壁の上皮組織のことをいう。粘膜表面は、鼻、頬側、口腔、膣、眼、耳、肺気道、尿道、消化管及び直腸の表面からなる群より選択され得る。
【0046】
口腔粘膜投与は、製剤の一部分又は全体が患者の口腔及び/又は咽頭の粘膜と接触する任意の投与方法を含む。
【0047】
口腔粘膜投与は、特に、舌下、経舌(すなわち舌粘膜を通して)及び経口投与を含む。
【0048】
本発明による負荷されたキトサン粒子、免疫治療組成物又は医薬品は、分散された形態、例えば懸濁剤若しくはゲル剤、又は乾燥形態、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、lyoc、又は定量投与デバイスでの投与に適する形態のような種々の形態で投与できる。
【0049】
免疫系の病的反応を予防又は治療する方法の構成において、本発明による免疫治療組成物又は医薬品は、抗原特異的寛容誘導を増進するためのアジュバントをさらに含んでよい。熱不安定性エンテロトキシン(LT)、コレラ毒素(CT)、コレラ毒素Bサブユニット(CTB)、重合リポソーム、変異毒素、生細菌、オリゴヌクレオチド、RNA、siRNA、DNA、脂質を含むワクチン接種のための任意の通常の又は試験的な、合成又は生物学的アジュバントを本発明による負荷されたキトサン粒子と付随させて、抗原特異的寛容誘導を増進できる。口腔粘膜投与について、アジュバントは、好ましくは、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)及び乳酸菌から選択される細菌、或いはコルチコステロイドとビタミンD3又は後者の任意の代謝物若しくは類縁体との組み合わせであり得る。
【0050】
本発明による免疫系の病的反応を予防若しくは治療する方法、免疫治療組成物又は医薬品の構成において、投与計画は、6週間未満から3年までの期間で反復してよい。
【0051】
さらに、予防又は治療は、複数の異なる抗原を用いて行ってよい。このことは、複数の抗原で負荷された1種類の本発明のキトサン粒子、又はそれぞれ1若しくは複数の抗原を含有する複数の本発明のキトサン粒子のいずれかを用いて達成してよい。
【0052】
好ましくは、本発明による免疫系の病的反応を予防若しくは治療する方法、免疫治療組成物又は医薬品の構成において、本発明の負荷されたキトサン粒子に含まれるアレルゲンの用量は、0.1μg〜100mgの範囲である。
【0053】
本発明は、以下の図面及び実施例の観点でさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】キトサン粒子中に処方されたOVAは、特異的抗体によって良好に認識される。可溶性OVA又は高MW若しくは中MWのキトサン処方OVAを、OVA免疫化マウスからの血清を用いるELISA(阻害試験)により検出した。
【図2】両方のキトサン粒子は、BMDCによるOVA取り込み及びプロセシングを改善するが、高MWキトサン粒子のみが、口腔DCによるOVAプロセシングを改善する。取り込み研究のために、FITC−OVA又は高MWキトサン処方FITC−OVA(図2)を、BMDCと15、60又は240分間、37℃又は4℃にてインキュベートした。次いで、FC500フローサイトメーターを用いて細胞を分析した。
【図3】両方のキトサン粒子は、BMDCによるOVA取り込み及びプロセシングを改善するが、高MWキトサン粒子のみが、口腔DCによるOVAプロセシングを改善する。取り込み研究のために、中MWキトサン処方FITC−OVA(図3)を、BMDCと15、60又は240分間、37℃又は4℃にてインキュベートした。次いで、FC500フローサイトメーターを用いて細胞を分析した。
【図4】両方のキトサン粒子は、BMDCによるOVA取り込み及びプロセシングを改善するが、高MWキトサン粒子のみが、口腔DCによるOVAプロセシングを改善する。プロセシングアッセイのために、DQ−OVA又は高MWキトサン処方DQ−OVAを、BMDC(図4)と、10μg/mlの最終濃度にて3時間、37℃又は4℃にてインキュベートした。次いで、FC500フローサイトメーターを用いて細胞を分析した。
【図5】両方のキトサン粒子は、BMDCによるOVA取り込み及びプロセシングを改善するが、高MWキトサン粒子のみが、口腔DCによるOVAプロセシングを改善する。プロセシングアッセイのために、DQ−OVA又は中MWキトサン処方DQ−OVAを、BMDC(図5)と、10μg/mlの最終濃度にて3時間、37℃又は4℃にてインキュベートした。次いで、FC500フローサイトメーターを用いて細胞を分析した。
【図6】両方のキトサン粒子は、BMDCによるOVA取り込み及びプロセシングを改善するが、高MWキトサン粒子のみが、口腔DCによるOVAプロセシングを改善する。プロセシングアッセイのために、DQ−OVA又は高MWキトサン処方DQ−OVA又は中MWキトサン処方DQ−OVAを、精製口腔DC(図6)と、10μg/mlの最終濃度にて1時間、37℃又は4℃にてインキュベートした。次いで、FC500フローサイトメーターを用いて細胞を分析した。
【図7】高MWキトサン粒子は、in vitroのT細胞増殖及びIFN−γ/IL−10分泌を増加させる。DO11.10マウスからのOVA特異的CD4+Tリンパ球をCFSEで標識し、BMDC及びOVA(1.5又は15μg/ml)、高MW若しくは中MWのキトサン処方OVA(1.5又は15μg/ml)、又はキトサン製剤単独のいずれかとともに共培養した。3日後に細胞を採集し、PE−KJ1.26mAbで染色し、CFSE含量を、レスポンダーT細胞においてFC500フローサイトメーターを用いて分析した(図7)。
【図8】高MWキトサン粒子は、in vitroのT細胞増殖及びIFN−γ/IL−10分泌を増加させる。DO11.10マウスからのOVA特異的CD4+Tリンパ球をCFSEで標識し、BMDC及びOVA(15μg/ml)、高MW若しくは中MWのキトサン処方OVA(15μg/ml)、又はキトサン製剤単独のいずれかとともに共培養した。3日後に細胞を採集し、IFN−γ(図8)を、CBAアッセイにより、細胞培養上清中で測定した。
【図9】高MWキトサン粒子は、in vitroのT細胞増殖及びIFN−γ/IL−10分泌を増加させる。DO11.10マウスからのOVA特異的CD4+Tリンパ球をCFSEで標識し、BMDC及びOVA(15μg/ml)、高MW若しくは中MWのキトサン処方OVA(15μg/ml)、又はキトサン製剤単独のいずれかとともに共培養した。3日後に細胞を採集し、IL−10(図9)を、CBAアッセイにより、細胞培養上清中で測定した。
【図10】高MWキトサン粒子は、in vitroのT細胞増殖及びIFN−γ/IL−10分泌を増加させる。DO11.10マウスからのOVA特異的CD4+Tリンパ球をCFSEで標識し、BMDC及びOVA(15μg/ml)、高MW若しくは中MWのキトサン処方OVA(15μg/ml)、又はキトサン製剤単独のいずれかとともに共培養した。3日後に細胞を採集し、IL−5(図10)を、CBAアッセイにより、細胞培養上清中で測定した。
【図11】高MWキトサン粒子は、頚部LNにおけるin vivoでのT細胞プライミングを増進する。精製CFSE標識DO11.10 CD4+T細胞を、BALB/cマウスに第0日にて養子移植する。24時間後に、舌下経路により、可溶性OVA又はキトサン処方OVA(高MW又は中MW)でマウスを処理した。対照動物は、滅菌PBS又はキトサン製剤単独のいずれかで処理した。第10日に、頚部LNを回収した。増殖細胞をフローサイトメーターにより検出した(群あたり3〜5匹のマウスの代表データ)。
【図12】中MWキトサン処方OVAではなく高MWキトサン処方OVAを用いる治療用SLITが、確立されたAHR、肺炎症及び縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する。全てのマウスを、OVA/ミョウバンの腹腔内注射及びその後のエアロゾル攻撃により感作した(図12)。次いで、BALB/cマウスを、PBS、OVA、キトサン処方OVA(高MW又は中MW)又はキトサン単独で舌下処理した。OVAエアロゾル攻撃の後に、AHR、肺炎症及び細胞性応答を調べた。
【図13】中MWキトサン処方OVAではなく高MWキトサン処方OVAを用いる治療用SLITが、確立されたAHR、肺炎症及び縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する。全てのマウスを、OVA/ミョウバンの腹腔内注射及びその後のエアロゾル攻撃により感作した(図12)。次いで、BALB/cマウスを、PBS、OVA、キトサン処方OVA(高MW又は中MW)又はキトサン単独で舌下処理した。OVAエアロゾル攻撃の後に、AHR、肺炎症及び細胞性応答を調べた。AHRは、全ての群のマウスのPenhインデックスを測定することにより決定した(図13)(−=平均)。*PBS脱感作マウスと比較したp<.05、NS:有意でない。n=7〜8。
【図14】中MWキトサン処方OVAではなく高MWキトサン処方OVAを用いる治療用SLITが、確立されたAHR、肺炎症及び縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する。全てのマウスを、OVA/ミョウバンの腹腔内注射及びその後のエアロゾル攻撃により感作した(図12)。次いで、BALB/cマウスを、PBS、OVA、キトサン処方OVA(高MW又は中MW)又はキトサン単独で舌下処理した。OVAエアロゾル攻撃の後に、AHR、肺炎症及び細胞性応答を調べた。組織構造について(図14)、PBS、OVA、高MWキトサン処方OVA又はキトサン単独のいずれかで脱感作したマウスからのHES染色された代表的なパラフィン肺切片を示す(倍率100倍)。
【図15】中MWキトサン処方OVAではなく高MWキトサン処方OVAを用いる治療用SLITが、確立されたAHR、肺炎症及び縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する。全てのマウスを、OVA/ミョウバンの腹腔内注射及びその後のエアロゾル攻撃により感作した(図12)。次いで、BALB/cマウスを、PBS、OVA、キトサン処方OVA(高MW又は中MW)又はキトサン単独で舌下処理した。OVAエアロゾル攻撃の後に、AHR、肺炎症及び細胞性応答を調べた。好酸球を、PBS、OVA、高MWキトサン処方OVA又はキトサン単独で処理したマウスから回収したBAL中で計数した(図15)。平均+/−SE。n=7〜8。*PBS脱感作マウスと比較したp<.05、NS:有意でない。
【図16】中MWキトサン処方OVAではなく高MWキトサン処方OVAを用いる治療用SLITが、確立されたAHR、肺炎症及び縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する。全てのマウスを、OVA/ミョウバンの腹腔内注射及びその後のエアロゾル攻撃により感作した(図12)。BALB/cマウスを、次いで、PBS、OVA、キトサン処方OVA(高MW又は中MW)又はキトサン単独で舌下処理した。OVAエアロゾル攻撃の後に、AHR、肺炎症及び細胞性応答を調べた。LN応答分析について、縦隔(図16)のLNにおけるIL−13分泌をCBAアッセイにより測定した。平均+/−SE。n=6〜8。
【図17】中MWキトサン処方OVAではなく高MWキトサン処方OVAを用いる治療用SLITが、確立されたAHR、肺炎症及び縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する。全てのマウスを、OVA/ミョウバンの腹腔内注射及びその後のエアロゾル攻撃により感作した(図12)。BALB/cマウスを、次いで、PBS、OVA、キトサン処方OVA(高MW又は中MW)又はキトサン単独で舌下処理した。OVAエアロゾル攻撃の後に、AHR、肺炎症及び細胞性応答を調べた。LN応答分析について、縦隔(図17)のLNにおけるIL−10分泌をCBAアッセイにより測定した。平均+/−SE。n=6〜8。
【図18】中MWキトサン処方OVAではなく高MWキトサン処方OVAを用いる治療用SLITが、確立されたAHR、肺炎症及び縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する。全てのマウスを、OVA/ミョウバンの腹腔内注射及びその後のエアロゾル攻撃により感作した(図12)。BALB/cマウスを、次いで、PBS、OVA、キトサン処方OVA(高MW又は中MW)又はキトサン単独で舌下処理した。OVAエアロゾル攻撃の後に、AHR、肺炎症及び細胞性応答を調べた。LN応答分析について、縦隔(図18)のLNにおけるIL−5分泌をCBAアッセイにより測定した。平均+/−SE。n=6〜8。
【図19】中MWキトサン処方OVAではなく高MWキトサン処方OVAを用いる治療用SLITが、確立されたAHR、肺炎症及び縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する。全てのマウスを、OVA/ミョウバンの腹腔内注射及びその後のエアロゾル攻撃により感作した(図12)。BALB/cマウスを、次いで、PBS、OVA、キトサン処方OVA(高MW又は中MW)又はキトサン単独で舌下処理した。OVAエアロゾル攻撃の後に、AHR、肺炎症及び細胞性応答を調べた。LN応答分析について、頚部(図19)のLNにおけるIL−10分泌をCBAアッセイにより測定した。平均+/−SE。n=6〜8。
【実施例】
【0055】
動物、培養培地、試薬及び製剤
6週齢の雌性BALB/cマウスを、Charles River(L’Arbresle、France)から購入し、OVAを含まない食餌で飼育した。そのCD4+T細胞のおよそ50%がOVAのペプチド323〜339フラグメントに特異的なTCRを発現するDO11.10 OVA特異的T細胞受容体(TCR)トランスジェニック雌性マウス(Murphy et al.Science 1990;250:1720−1723)を、Centre d’Exploration et de Recherche Fonctionnelle Experimentale(Evry、France)を繁殖させた。動物操作についての倫理基準の国際レベルを適用した。
【0056】
LN細胞培養、骨髄由来樹状細胞(BMDC)、口腔樹状細胞(DC)及びDO11.10マウスからのOVA特異的T細胞のための完全培地は、10%胎児ウシ血清、1%L−グルタミン、200U/mlペニシリン及び200μg/mlストレプトマイシン(全てInvitrogen、Carlsbad、CAから)を補ったRPMI1640で構成された。組換えマウスGM−CSF及びIL−4は、Gentaur(Brussels、Belgium)から得た。リン酸緩衝食塩水(PBS)及びミョウバンは、それぞれLonza(Basel、Switzerland)及びPierce(Rockford、IL)から購入した。内毒素低含量のグレードVのOVAは、Sigma(St.Louis、MO)から購入し、以前に記載された(10)ようにして内毒素除去ゲル(Pierce)でさらに精製した。Endochrom−Kアッセイ(R1708K、Charles River、Wilmington、MA)により決定した残存内毒素濃度は、常に0.1EU/μgタンパク質未満であった。
【0057】
以下において、平均の比較は、スチューデントのt検定を用いて行った。p値<0.05を統計的有意とみなした。
【0058】
(例1)
キトサン粒子の特徴決定
粒子を、高MW及び中MWの両方のキトサンから調製したが、これらはポリマー鎖長が異なる。
【0059】
簡潔に、OVA負荷キトサン粒子を調製するために、高分子量又は中分子量(MW)(それぞれSigmaからの419419又は448877)を有するキトサン0.05gを、25ml酢酸水溶液(1%)に溶解した。Ultra Turrax T18ホモジナイザー(Ika、Staufen、Germany)を9500rpmにて2分間用いて懸濁物を均質化し、NaOHの1N溶液を用いてpHを5に調整した。次いで、30mlの20mg/ml OVA溶液を、磁気撹拌下に0.75ml/分で室温にて加え、10mlの0.1%トリポリホスフェート水溶液(Sigma)を加えた後に架橋を行った。
【0060】
キトサン粒子のサイズ及び電荷(ゼータ電位)は、Zetasizer Nano ZS(Malvern、Worcestershire、UK)を用いて分析した。高MWキトサン−及び中MWキトサン−OVA粒子のサイズは、それぞれ1.0〜3.0μm及び300〜800nmであった。高MWキトサン−及び中MWキトサン−OVA粒子は、それぞれ7.3+/−0.9mV及び1.8+/−0.6mVのゼータ電位を示した。
【0061】
キトサン中に処方されたOVAの抗原性を検証するために、OVA単独又はキトサン処方OVAがOVA特異的抗体に結合する能力を、OVA免疫化マウスからの血清を用いるELISA阻害試験を用いて測定した。
【0062】
精製OVA(0.2μg)を、4℃にて一晩、ELISAプレート(Nunc、Roskilde、Denmark)上にコートした。洗浄及びブロッキングのステップの後に、OVA免疫化マウスからの血清(1/5000)及びOVA又はキトサン処方OVAの希釈物(1/2〜1/800000)を加え、室温にて2時間30分インキュベートした。プレートを洗浄し、ペルオキシダーゼ結合ヒツジ抗マウスIgG抗体(希釈1/1000、Sigma)を37℃にて1時間加え、オルトフェニレンジアミン(OPD)を基質として用いた(Sigma)。2M硫酸を用いて反応を停止し、ELISAプレートリーダーを492nmにて用いて光学密度を決定した(Labsystems、Helsinki、Finland)。
【0063】
図1に示すように、高MW又は中MWのいずれかのキトサン粒子中に処方されたOVAは、特異的抗体により良好に認識されたままであった。
【0064】
(例2)
キトサン粒子は樹状細胞によるOVA取り込み及びプロセシングを改善する
アレルゲン取り込みに対するキトサン粒子の影響を調べるために、in vitro研究を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識OVA及びキトサン処方FITC−OVAを用いて行った。
【0065】
BMDCは、以前に記載されたようにして6〜8週齢のBALB/cマウスからの大腿骨及び脛骨から作製し(Inaba et al.J Exp Med 1992;176:1693−1702)、CD11c(>90%の純度で)を発現することをフローサイトメトリー分析により確認した(FC500フローサイトメーター、Beckman Coulter、Villepinte、France)。抗原取り込みアッセイのために、細胞を5×10/mlにて完全培地中に懸濁した。FITC標識OVA又はキトサン処方FITC−OVAを、25μg/mlの最終濃度で加え、細胞を15分間、1時間又は4時間、37℃又は4℃にてインキュベートした。
【0066】
図2及び3に示すように、高MW及び中MWのキトサン粒子はともに、可溶性OVAと比較した場合に、BMDCによるOVAの取り込みを劇的に増進した。注目すべきことには、同様の蛍光が、4℃でのキトサン処方FITC−OVAで検出された。
【0067】
BMDCによるin vitroプロセシングアッセイは、タンパク質切断後に蛍光を発するDQ−OVA(Invitrogen)及びキトサン処方DQ−OVAを用いて行った。簡潔に、5×10/ml細胞を完全培地中に懸濁し、10μg/mlのDQ−OVA又はキトサン処方DQ−OVAを3時間、37℃又は4℃にて加えた。次いで、両方の実験について、細胞を冷HBSSで2回洗浄し、フローサイトメトリーにより分析した。結果は、平均蛍光強度として表した。
【0068】
図4及び5に示すように、両方のキトサン粒子は、可溶性OVAと比較した場合に、BMDCによるOVAのプロセシングを著しく改善した。
【0069】
APCによるキトサン処方OVA取り込みをさらに調べるために、本発明者らは、口腔組織から単離された骨髄性CD11b+CD11c−マウスDCを用いた。
【0070】
簡潔に、頬底及び舌の組織をナイーブBALB/cマウスから回収し、45分間、37℃にてRPMI中の400U/ml IV型コラゲナーゼ(Roche diagnostic、Mannheim、Germany)、50μg/ml DNアーゼI(Roche diagnostic)及び2U/mlジスパーゼ(Invitrogen)で処理した。残存酵素活性をPBS中の5mM EDTAで遮断した後に、口腔組織をPBS中に解離させた。単細胞懸濁物を、フィコエリスリン(PE)標識抗CD11b抗体及びアロフィコシアニン(APC)標識抗CD11c抗体(ともにBD Biosciences、San Jose、CAから)で標識した。口腔樹状細胞の主なサブセットを代表するCD11bCD11c細胞を、MoFlo(Dako、Glostrup、Denmark)セルソーターを用いて単離した。細胞は、フローサイトメトリー分析により評価して、99%を超えて純粋であった。口腔DC(100μl完全培地中に10/ウェル)を、最終濃度10μg/mlにてDQ−OVA又はキトサン処方DQ−OVAのいずれかとインキュベートした。37℃又は4℃にて1時間の後に、細胞を洗浄し、フローサイトメトリーにより分析した。結果を平均蛍光強度として表した。
【0071】
図6に示すように、高MWキトサン処方OVAのみが口腔DCによるOVAプロセシングを増進した。
【0072】
(例3)
高MWキトサン処方OVAは、in vitroのT細胞増殖及びIFN−γ/IL−10分泌を増進する
DCによるキトサン処方OVAの優れた取り込みがその後のT細胞増殖及びサイトカイン分泌を改善するかを決定するために、DO11.10マウスからのOVA特異的CD4+ナイーブTリンパ球を、カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識し、BMDC及び培地単独、OVA、キトサン単独又はキトサン処方OVAのいずれかとともに共培養した。
【0073】
簡潔に、CD4+T細胞を、DO11.10マウスの脾臓から、マウスCD4ネガティブ単離キット(Invitrogen)を製造者の使用説明に従って用いる磁気ビーズ分離により精製した。得られたT細胞調製物は、95〜99%のナイーブCD4+T細胞を含む(その後、DO11.10 T細胞と命名した)。DO11.10 T細胞を、1μM CFSE(Invitrogen)で37℃にて5分間、PBS中で標識し、2回洗浄した。次いで、CFSE標識DO11.10 T細胞を、BMDC及びOVA(1.5又は15μg/ml)、キトサン処方OVA(1.5又は15μg/ml)、又はキトサン単独のいずれかととともに3日間(2重に)インキュベートした。OVA特異的T細胞を、抗クローン形質PE−KJ1.26mAb(BD Biosciences)で染色し、増殖T細胞を、CFSE関連蛍光が減少する細胞として、フローサイトメトリー分析により評価した。
【0074】
IL−5、IL−10及びIFN−γを、培養上清中で(15μg/ml OVA濃度に相当)、Cytometric Bead Array(CBA)Flexキット(BD Biosciences)を用いて測定した。測定は、再構成した凍結乾燥標準物質の系列希釈により得られる10点標準曲線と比較して行った。試薬混合物は、10μlの各マウス捕捉ビーズ懸濁物を混合することにより得た。この混合物を激しくボルテックスし、暗所で室温にて90分間、試験試料又は標準物質希釈物のいずれかとインキュベートした。次いで、50μlのフィコエリスリン(PE)標識検出試薬を各ウェルに加え、暗所で室温にて2時間インキュベートした。ビーズを洗浄し、200μlのバッファー中に再懸濁し、製造者の使用説明に従ってフローサイトメトリーにより分析した。
【0075】
図7に示すように、高MWキトサン処方OVAを用いてDCを標的にすることにより、OVA単独と比較してT細胞増殖が増進された。このことは、T細胞によるIFN−γ(図8)及びIL−10(図9)の分泌の劇的な増加と関連したが、IL−5分泌に対する影響は観察されなかった(図10)。中MWキトサン処方OVAとのインキュベーションは、可溶性OVAと比較した場合に、より低いT細胞増殖(図7)を誘導し、IFN−γ及びIL−10分泌をほとんど誘導しなかった(図8及び9)。IL−5分泌の検出可能な変化は観察されなかった(図10)。DO11.10 CD4+T細胞の非存在下ではサイトカイン分泌は検出されなかった。
【0076】
(例4)
高MWキトサン処方OVAの舌下投与後に頚部LNにおいてT細胞プライミングが生じる
キトサン−OVA粒子が、舌下投与後に、流入領域LNにおけるT細胞プライミングを増進できるかを評価するために、上記のようにしてCFSE標識したOVA特異的DO11.10 CD4+T細胞を、SLIT前にBALB/cマウスに養子移植した。
【0077】
簡潔に、5×10細胞を、第0日にてBALB/cマウスに後眼窩静脈内注射により養子移植した。24時間後に、マウス(群あたり3〜5匹のマウス)を、舌下経路により可溶性OVA又はキトサン処方OVA(用量あたり500μg OVA)のいずれかで処理した。対照動物は、滅菌PBS又はキトサン製剤単独のいずれかで処理した。頚部LNを第10日に回収した。OVA特異的T細胞を、抗クローン形質PE−KJ1.26mAb(BD Biosciences)で染色し、増殖細胞を、蛍光が減少する細胞として、フローサイトメトリー分析により評価した。
【0078】
図11に示すように、T細胞増殖は、PBS、高MWキトサン又は中MWキトサンのいずれかで舌下処理したマウスの頚部LNにおいてほとんど検出できず、それぞれ6.8%、6.3%及び5.7%のみの増殖T細胞であった。対照的に、OVAの舌下投与は、34.5%の範囲で、頚部LNにおいて容易に検出可能なT細胞増殖を誘導した。興味深いことに、高MWキトサン処方OVAの使用は、T細胞増殖を強く増進したが(46.7%までの増殖T細胞)、中MWキトサン処方OVAは、OVA単独と比較した場合により低い(15.8%)T細胞増殖を誘導した。
【0079】
(例5)
高MWキトサン処方OVAの舌下治療処理は、確立されたAHRを低減する
キトサン粒子が抗原をDCに向けるために用いることができるという証拠に鑑みて、これらを、OVAで感作したマウスに依るマウスSLITモデルにおいて試験した(Razafindratsita et al.J Allergy Clin Immunol 2007;120:278−285)。これらのマウスは、高い細胞浸潤と粘液過剰生成とを特徴とする肺の炎症である重度の気道過敏(AHR)と、全身性OVA特異的Th2免疫応答とを示す。
【0080】
簡潔に、BALB/cマウスの感作を、2回の腹腔内(i.p.)注射により14日間隔で、100μlの容量で投与する2mgのAl(OH)に吸着させた10μg OVAを用いて行った。その後、1%w/v OVAの20分間のエアロゾル攻撃を4日間連続で、エアロゾル送達システム(Buxco Europe Ltd、Winchester、UK)を用いて行った。マウスを、次いで、2ヶ月間、週2回、嚥下を防ぐために動物を背面で保持しながら(1分間)舌の下に溶液(OVA又はキトサン処方OVA、用量あたり500μg)を塗布することにより舌下処理した(図12)。対照動物は、滅菌PBS又はキトサン製剤単独で偽脱感作した。処理の2日後に、マウスにOVAエアロゾル(1%w/v)を2日連続で攻撃した。
【0081】
AHRの測定は、最後の攻撃の24時間後に、別記(Hamelmann et al.Am J Respir Crit Care Med 1997;156:766−775)のようにして全身プレチスモグラフィー(Buxco)により行った。気道抵抗は、エンハンストポーズ(enhanced pause)(Penh)として表した。ベースライン気道抵抗に対する増加として表されるPenhインデックスは、100mg/mlの吸入メタコリンへの曝露後に測定したPenhを、噴霧PBSの吸入後に測定したPenhで除することにより得た。
【0082】
高MWキトサン処方OVA処理は、AHRを劇的に低減し(図13)、Penhインデックスの値を、健常非感作マウスからのものと同等にしたが、可溶性OVA処理は、AHRに対して中程度の影響を有した。逆に、中MWキトサン処方OVAでの処理は、AHRに対する有益な効果を有さなかった。注目すべきことには、OVAと同時投与したキチン粒子は、OVA単独より大きくAHRを低減しなかった。
【0083】
(例6)
高MWキトサン処方OVAでの舌下治療処理は、気管支炎症を低減する
気管支炎症を、その後、全ての群において評価した。
【0084】
組織構造について、肺を回収し、リン酸緩衝ホルマリン−亜鉛中で固定し、パラフィンワックス中に包埋した。切片を、細胞浸潤を決定するためにヘマトキシリン、エオシン及びサフラン(HES)で染色した。血管周囲、気管支周囲及び肺胞の炎症の半定量的評価を、コード化試料に対して行った。
【0085】
気管支肺胞洗浄(BAL)中の炎症細胞の分析のために、最後のOVA攻撃の24時間後に、マウスをペントバルビタール溶液のi.p.注射により麻酔にかけた(体重1kgあたり50mg)。次いで、BALを600μl PBSを用いて行った。BAL流体を、800gにて10分間、4℃で遠心分離した。細胞ペレットをPBSに再懸濁し、細胞遠心分離によりガラススライド上にスピンし、次いで固定し、メイ−グリュンワルドギムザ染色(Reactifs RAL、Martillac、France)の後に視覚化した。好酸球を、×200の倍率にて光学顕微鏡により計数した。
【0086】
高MWキトサン処方OVAでの処理後のAHRの観察された減少は、肺組織切片の分析により示されるように、気管支炎症及び細胞浸潤の低減と関連した(図14及び表1)。
【表1】

【0087】
気管支炎症のこの低減は、OVA単独での処理と比較したBAL中の好酸球計数の著しい低減と関連した(図15)。
【0088】
(例7)
高MWキトサン処方OVAでの舌下治療処理は、縦隔LNにおけるOVA特異的Th2応答を低減する
縦隔及び頚部LNにおける免疫応答を、その後、全ての群において評価した。
【0089】
T細胞応答評価のために、縦隔及び頚部LNを回収し、細胞を単離し、ウェルあたり3×10細胞で播種し、OVA(100μg/ml)又は培地単独で刺激した。プレートを、37℃にて72時間、5%CO/95%空気中でインキュベートした。IL−5、IL−10及びIFN−γを、培養上清中で、上記のようにしてCBA Flexキットを用いて測定した。
【0090】
高MWキトサン処方OVAで処理したマウスは、OVA単独と比較して、わずかにより低いOVA特異的IL−13(図16)、IL−10(図17)及びIL−5(図18)生成を縦隔LNにおいて示した。対照的に、より高いIL−10レベルが頚部LNで検出されたが、Th2サイトカインのいずれにおいても変動は観察されなかった(図19)。IFN−γ分泌及び血清OVA特異的IgE又はIgG抗体における変化は、いずれの群においても観察されなかった(データは示さず)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の免疫系の病的反応を、前記病的反応に関与する少なくとも1つの抗原に対する特異的寛容を誘導することにより予防及び/又は治療するために適合された粘膜付着性組成物であって、病的反応に関与する前記少なくとも1つの抗原で負荷されたキトサン粒子を含み、負荷されたキトサン粒子のサイズが800nmより大きい上記粘膜付着性組成物。
【請求項2】
負荷されたキトサン粒子のサイズが、1μm〜3μmである請求項1に記載の粘膜付着性組成物。
【請求項3】
負荷されたキトサン粒子のゼータ電位が、2.5mVより大きい請求項1又は2に記載の粘膜付着性組成物。
【請求項4】
負荷されたキトサン粒子のゼータ電位が、6〜9mVである請求項1から3までのいずれか一項に記載の粘膜付着性組成物。
【請求項5】
抗原が、アレルゲン、自己抗原及び移植片特異的抗原からなる群より選択される請求項1から4までのいずれか一項に記載の粘膜付着性組成物。
【請求項6】
抗原がアレルゲンである請求項1から5までのいずれか一項に記載の粘膜付着性組成物。
【請求項7】
前記アレルゲンが、花粉アレルゲン、ダニアレルゲン、昆虫アレルゲン、動物の体毛及びふけアレルゲン、並びに食物アレルゲンからなる群より選択される請求項6に記載の粘膜付着性組成物。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一項で定義される粘膜付着性組成物を、医薬的に許容され得る担体とともに含む免疫治療組成物。
【請求項9】
懸濁剤、ゲル剤、散剤、錠剤、カプセル剤又はlyocの形態の請求項8に記載の免疫治療組成物。
【請求項10】
抗原特異的寛容誘導を増進するためのアジュバントをさらに含む請求項8又は9に記載の免疫治療組成物。
【請求項11】
個体の免疫系の病的反応を、前記病的反応に関与する少なくとも1つの抗原に対する特異的寛容を誘導することにより予防及び/又は治療するための医薬品として用いるための、請求項1から7までのいずれか一項で定義される粘膜付着性組成物又は請求項8から10までのいずれか一項に記載の免疫治療組成物。
【請求項12】
病的反応が、アレルギー、自己免疫疾患又は移植片拒絶から選択される請求項11に記載のその応用における粘膜付着性組成物又は免疫治療組成物。
【請求項13】
医薬品が、粘膜経路により投与される請求項11又は12に記載のその応用における粘膜付着性組成物又は免疫治療組成物。
【請求項14】
医薬品が、口腔粘膜経路により投与される請求項11から13までのいずれか一項に記載のその応用における粘膜付着性組成物又は免疫治療組成物。
【請求項15】
医薬品が、舌下経路により投与される請求項11から14までのいずれか一項に記載のその応用における粘膜付着性組成物又は免疫治療組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図11】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−520942(P2011−520942A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509981(P2011−509981)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056158
【国際公開番号】WO2009/141388
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510307635)スタラジン ソシエテ アノニム (3)
【Fターム(参考)】