説明

抗原特異的T細胞の誘導方法

【課題】抗原特異的T細胞の新規な誘導方法の提供。
【解決手段】(a)活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドを含む組成物、および(b)活性成分としてウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格(BCG-CWS)を含む組成物をそれを必要としている患者に投与する、該患者における抗原特異的T細胞を誘導するための方法であって、組成物(b)をあらかじめ投与した後に組成物(a)を投与することを特徴とする該方法、およびその関連医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原特異的T細胞の新規な誘導方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格(以下、BCG-CWSと称する)を含む組成物をあらかじめ投与した後に、抗原タンパク質または抗原ペプチドを含む組成物を投与することを特徴とする、抗原特異的T細胞の誘導方法に関する。本発明はまた、癌抗原タンパク質WT1または当該WT1由来の癌抗原ペプチドと、BCG-CWSとを併用することを特徴とする、癌の治療剤および/または予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体による癌細胞やウイルス感染細胞の排除には細胞性免疫、とりわけ抗原特異的T細胞である細胞傷害性T細胞(キラーT細胞またはCTLと呼ぶ場合もある)やヘルパーT細胞が中心的な働きをしている。抗原特異的T細胞は、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞の細胞表面のMHC分子(ヒトの場合はHLA分子とも呼ばれる)と、癌やウイルスに由来する抗原タンパク質の断片ペプチドである抗原ペプチドとの結合複合体をT細胞受容体で認識して分化・増殖する。前記MHC分子に提示される抗原ペプチドは、通常8から20アミノ酸程度の長さであることが知られている。分化・増殖した抗原特異的T細胞は、前記の抗原ペプチド−MHC分子結合複合体を提示している癌細胞やウイルス感染細胞を特異的に傷害したり、各種サイトカインを産生することにより、抗腫瘍効果や抗ウイルス効果を発揮する。
【0003】
癌やウイルスの抗原タンパク質や抗原ペプチドを投与することにより抗原特異的T細胞を増強させる、いわゆるワクチン療法は、癌やウイルス感染症の治療や予防に有用と考えられている。これまでに種々の癌やウイルス感染症について、T細胞に認識される癌抗原やウイルス抗原の探索が行われ、現在までに数多くの癌抗原タンパク質、ウイルス由来抗原タンパク質、並びにこれらに由来する抗原ペプチドが同定されている(Immunogenetics 1995, 41:178、Cancer Immunol. Immunother. 2001, 50:3)。例えばその1つであるWT1は、最初は小児の腎腫瘍であるWilms腫瘍の原因遺伝子として同定された遺伝子である (Nature 1990, 343:774)。当該WT1遺伝子は、正常組織では腎臓、精巣、卵巣などの限定された組織でのみ低発現している一方、癌では白血病、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、子宮癌、子宮頸癌、胃癌、大腸癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌などの多様な癌において高発現が認められる(特開平9-104627号公報、特開平11-35484号公報)。近年、HLA-A2.1あるいはHLA-A24.2を持つヒトの末梢血単核球をMHC クラスI結合モチーフを含む9merのWT1ペプチドでin vitro刺激することにより、WT1特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)が誘導されることが明らかとなった(Immunogenetics 51:99-107,2000, Blood 95:2198-203,2000, Blood 95:286-93,2000)。またin vivoでマウスを9merのWT1ペプチド(J Immunol 164:1873-80,2000, Blood 96:1480-9,2000)やWT1 cDNA(J Clin Immunol 20:195-202, 2000)で免疫することにより、WT1特異的CTLが誘導され、さらに、その免疫マウスは移植されたWT1高発現腫瘍細胞を拒絶することも明らかにされた(J Immunol 164:1873-80,2000, J Clin Immunol 20:195-202,2000)。これらの知見により、WT1タンパクは癌抗原タンパク質の1つであり、液性癌や固形癌に対する癌ワクチンの指標となることが明らかとなった。
【0004】
ワクチンにより効率良く特異免疫を誘導するためには、主体となる抗原タンパク質や抗原ペプチドと組み合わせて非特異的な免疫賦活物質を投与することが有効である。非特異的免疫賦活物質としては、菌体由来成分、サイトカイン、植物由来成分、あるいは海洋生物由来成分などが知られている。菌体由来成分としては、ウシ型結核菌BCG株の死菌や当該BCG株の細胞壁骨格であるBCG-CWS、ヒト型結核菌由来多糖類成分(例えばアンサー)、溶連菌粉末(例えばピシバニール)、菌体由来多糖類(例えばレンチナン、クレスチン)、死菌浮遊物カクテル(例えばブロンカスマ・ベルナ)、ムラミルジペプチド(MDP)関連化合物、リポ多糖(LPS)、リピドA関連化合物(例えばMPL)、糖脂質トレハロースジマイコレート(TDM)、および前記菌体由来のDNA(例えばCpGオリゴヌクレオチド)などが知られている。このうちBCG-CWSは、鉱物油等の油状物質中に分散された場合に、良好な免疫賦活作用を示すことが知られている(Cancer Res.,33,2187-2195(1973)、J.Nat.Cancer Inst.,48,831-835(1972)、J. Bacteriol.,94,1736-1745(1967)、Gann,69,619-626(1978)、J.Bacteriol., 92,869-879 (1966))。
【0005】
さらに、効率良く特異免疫を誘導するためには、ワクチンの剤形も重要なファクターである。ワクチンの剤形としては、アルミニウム製剤、脂質粒子、エマルジョン製剤、マイクロスフェアーなどが知られている。
【0006】
以上のようなワクチン効果を増強する作用をもつ物質や剤形は、総じてアジュバントと呼ばれている。(Nature Biotech. 1999. 17:1075)。現在、ヒトへの適応が認められたアジュバントとして最も広く用いられているのはアルミニウム製剤であるが、抗原特異的T細胞の誘導能は弱く、またIgE産生などの副作用の問題が指摘されている。
【0007】
最近は、抗原提示細胞である樹状細胞の抗原特異的T細胞誘導能の高さに着目し、患者から得られた樹状細胞にin vitroで抗原タンパク質や抗原ペプチドをパルスして抗原提示させた後に患者に戻すという細胞ワクチンの研究も行われている(Nature Med. 1998, 4:328)。しかしながら、治療に必要な大量の樹状細胞を得るのが技術的に難しいことや、コストが高くなるなど、細胞ワクチン療法を一般に普及させるには解決しなければならない問題点が多い。
【0008】
以上のような状況から、簡便で効率良く抗原特異的T細胞を誘導することの可能な、新たなワクチン並びにその投与法の開発が求められている状況にあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、効率良く抗原特異的T細胞を誘導するための新規な誘導方法を提供することにある。すなわち、非特異的免疫賦活物質であるBCG-CWSを含む組成物をあらかじめ投与した後に、抗原タンパク質または抗原ペプチドを含む組成物を投与することを特徴とする、抗原特異的T細胞の誘導方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、癌抗原タンパク質WT1または当該WT1由来の癌抗原ペプチドと、BCG-CWSとを併用することを特徴とする、癌の治療剤および/または予防剤を提供することにある。
【0010】
ワクチンによる免疫応答においては、抗原を適切な非特異的免疫賦活物質と共に、タイミングよく投与することが重要である。しかしながら前述のように、抗原特異的T細胞を効率良く誘導して抗腫瘍効果や抗ウイルス効果をもたらすワクチン投与法は、未だ見出されていない状況にあった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、癌抗原タンパク質WT1由来の癌抗原ペプチドを例として用い、これと非特異的免疫賦活物質であるBCG-CWSとを共に用いて、in vivo癌モデルにおける治療効果につき鋭意検討を行った。その結果、BCG-CWS をあらかじめ投与し、一定時間の後に抗原ペプチドを投与するという新規な投与方法をとることにより、抗原単独またはBCG-CWS単独の場合と比して劇的な抗原特異的T細胞の誘導効果、例えば抗腫瘍効果が得られることを見出した。そして本発明者らは、この投与方法をとる限り、如何なる抗原タンパク質あるいは抗原ペプチドをBCG-CWSと組み合わせても、同様の効果を得ることが出来ると確信するに到った。
【0012】
また癌抗原タンパク質WT1に関して、本発明において初めて、動物への腫瘍細胞移植の後にWT1由来の癌抗原ペプチドを投与するという、言わば「治療の系」を反映する癌モデルを用いてその効果を検討した。その結果、当該WT1が治療上有効であることを初めて確認するに到った。さらに、当該WT1由来の癌抗原ペプチドとBCG−CWSとを併用することにより、驚くべき顕著な抗腫瘍効果がもたらされことも見出した。
【0013】
本発明は、以上のような知見に基づいて完成するに至ったものである。
即ち本発明は、
(1) (a)活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドの治療学的有効量を含む組成物、および
(b)活性成分としてウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格(BCG-CWS)の治療学的有効量を含む組成物、
をそれを必要としている患者に投与する、該患者における抗原特異的T細胞を誘導するための方法であって、該組成物(b)をあらかじめ投与した後に該組成物(a)を投与することを特徴とする方法;
(2) 前記組成物(b)の投与後約24時間後に前記組成物(a)を投与することを特徴とする、前記(1)記載の方法;
(3) 前記組成物(a)および(b)を、いずれも皮内に投与することを特徴とする、前記(1)または(2)記載の方法;
(4) 前記組成物(a)および(b)を、いずれも皮内の同一部位に投与することを特徴とする、前記(3)記載の方法;
(5) 前記組成物(a)および(b)による投与サイクルを複数回繰り返すことを特徴とする、前記(1)〜(4)いずれか記載の方法;
(6) 前記組成物(a)の活性成分として癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドを含む、前記(1)〜(5)いずれか記載の方法;
(7) 癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドが、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドである、前記(6)記載の方法;
(8) WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される、前記(7)記載の方法;
(9) 前記(1)〜(8)いずれか記載の誘導方法を含む、患者における癌の治療方法および/または予防方法;および
他の態様として、
(10) 抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分としてウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格(BCG-CWS)を含有する、該抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される該組成物;
(11) ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格(BCG-CWS)における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドを含有する、該ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格(BCG-CWS)の投与後に投与される該組成物;
(12) 抗原タンパク質または抗原ペプチドが癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドである、前記(10)または(11)記載の医薬組成物;
(13) 癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドが、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドである、前記(12)記載の医薬組成物;
(14) WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される、前記(13)記載の医薬組成物;
(15) 癌を治療および/または予防するための前記(10)〜(14)いずれか記載の医薬組成物;および
上記の態様に関連し、
(16) 抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される、該抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格の使用;
(17) ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格の投与後に投与される、該ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、抗原タンパク質または抗原ペプチドの使用;および前記(12)〜(15)の態様に相当する態様にかかる使用;および
さらに別の態様として、
(18) 配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分としてウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格(BCG-CWS)を含有する該組成物;
(19) ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格(BCG-CWS)における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを含有する該組成物;
(20) WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される、前記(18)または(19)記載の医薬組成物;
(21) 癌を治療および/または予防するための前記(18)〜(20)いずれか記載の医薬組成物;および
この態様に関連して
(22) 患者において配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための方法であって、抗原特異的T細胞誘導活性を増強するに有効な量のウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格を該患者に投与することを特徴とする方法;
(23) 患者においてウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための方法であって、抗癌活性を増強するに有効な量の配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを該患者に投与することを特徴とする方法;
(24) WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される、前記(22)または(23)記載の方法;
(25) 癌を治療および/または予防するための前記(22)〜(24)いずれか記載の方法;
(26) 配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格の使用;
(27) ウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドの使用;
(28) WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される、前記(26)または(27)記載の使用;
(29) 癌を治療および/または予防する医薬を調製するための、前記(26)〜(28)いずれか記載の使用;
に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、腫瘍細胞の移植、およびWT1ペプチドとBCG-CWSによる免疫(vaccination)のスケジュールを示した図である。
【図2】図2は、腫瘍細胞移植後65日目までの各ワクチン投与における腫瘍長径(mm)を示したグラフである。図中、●はWT1ぺプチド+BCG-CWS投与の結果を、△はWT1ペプチド投与の結果を、◆はBCG-CWS投与の結果を、そして■は非免疫の結果を、それぞれ示す。
【図3】図3は、腫瘍細胞移植後65日目までの各ワクチン投与におけるマウスの生存率(%)を示したグラフである。図中、−はWT1ぺプチド+BCG-CWS投与の結果を、−・−・はWT1ペプチド投与の結果を、−−−−はBCG-CWS投与の結果を、そして・・・・は非免疫の結果を、それぞれ示す。
【図4】図4は、腫瘍細胞移植後65日目までの各ワクチン投与におけるマウスの無病生存率(%)を示したグラフである。図中、−はWT1ぺプチド+BCG-CWS投与の結果を、−・−・はWT1ペプチド投与の結果を、−−−−はBCG-CWS投与の結果を、そして・・・・は非免疫の結果を、それぞれ示す。
【図5】図5は、腫瘍細胞移植と各ワクチン投与を行い、65日目にマウスの骨髄細胞を取り出し、コロニーアッセイを行った結果を示したグラフである。図中、黒棒はWT1ぺプチド+BCG-CWS投与の結果を、灰色棒はBCG-CWS投与の結果を、そして白棒は非免疫の結果を、それぞれ示す。
【図6】図6は、WT1ペプチドとBCG-CWSを併用して投与することにより腫瘍が生着しなかったマウスおよび免疫をしていない無処理マウス由来の脾細胞におけるWT1-C1498細胞およびC1498細胞に対する細胞傷害性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記のように、本発明は第1の態様として、(a)活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドの治療学的有効量を含む組成物、および(b)活性成分としてウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格の治療学的有効量を含む組成物を、それを必要としている患者に投与する、該患者における抗原特異的T細胞を誘導するための方法であって、該組成物(b)をあらかじめ投与した後に該組成物(a)を投与することを特徴とする方法を提供する。この本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法は、アジュバントであるBCG-CWSをあらかじめ投与し、一定時間の後に抗原(抗原タンパク質または該抗原タンパク質に由来する抗原ペプチド)を投与するという投与方法をとるところに特徴を有するものである。本発明の投与方法によれば、抗原単独、若しくはBCG-CWS単独の場合と比して劇的な抗腫瘍効果、抗ウイルス効果、あるいは無病生存率の向上効果をもたらすことが可能である。
【0016】
前記組成物(a)の活性成分として含まれる「抗原タンパク質または抗原ペプチド」とは、抗原タンパク質および当該抗原タンパク質に由来する抗原ペプチドを意味するものであり、抗原ペプチド特異的なT細胞を誘導できるものであれば特に限定されない。また前記「抗原タンパク質または抗原ペプチド」の範疇には、抗原提示細胞の細胞表面のMHC分子(HLA分子)との複合体を直接形成することにより抗原特異的T細胞を誘導可能なものと、間接的に、すなわち、細胞内に取り込まれ、その後細胞内分解されて生じたペプチド断片がMHC分子と結合して複合体を形成し、該結合複合体が細胞表面に提示されることにより抗原特異的T細胞を誘導可能なものとの両方が含まれる。
【0017】
抗原タンパク質には、ウイルス由来の抗原タンパク質、細菌由来の抗原タンパク質または癌抗原タンパク質(腫瘍抗原タンパク質とも呼ばれる)等が含まれる。以下、既に抗原タンパク質として公知である幾つかの抗原タンパク質につき列挙する。ウイルス由来の抗原タンパク質としては、HIV、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、HPV、HTLV、EBV等のウイルス由来の抗原タンパク質が挙げられる。細菌由来の抗原タンパク質としては、結核菌等の細菌由来の抗原タンパク質が挙げられる。癌抗原タンパク質としては、Immunity, vol.10: 281, 1999 のTable1、あるいは Cancer Immunol. Immunother., vol.50,3-15,2001のTable1〜Table6に記載のものが代表例として挙げられる。具体的には、例えば、メラノーマ抗原タンパク質として、MAGE(Science ,254:1643,1991)、gp100(J.Exp.Med.,179:1005,1994)、MART−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:3515 ,1994)、チロシナーゼ(J. Exp.Med.,178:489 ,1993);メラノーマ以外の癌抗原タンパク質として、HER2/neu(J.Exp.Med.,181:2109,1995)、CEA(J. Natl. Cancer. Inst.,87:982,1995)、PSA(J.Natl.Cancer.Inst. ,89:293,1997)等の腫瘍マーカー、または扁平上皮癌由来のSART−1(J. Exp. Med., vol.187, p277-288, 1998、国際公開第97/46676号パンフレット)、サイクロフィリンB(Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A. 88: 1903, 1991)、SART−3(Cancer Res., vol.59,4056(1999)、あるいはWT1(Immunogenetics,vol.51,99,2000, Blood 95: 2198-203, 2000, Blood 95:286-93,2000、また本願配列表の配列番号:1に記載されたヒト型WT1)等が挙げられる。以上の抗原タンパク質は、全長のみならず、その部分ポリペプチドや改変体であっても、抗原ペプチド特異的なT細胞を誘導可能なものであればよい。
【0018】
このような抗原タンパク質は、前記に記載の各文献や Molecular Cloning 2nd Edt.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等の基本書に従って、所望の抗原タンパク質をコードするcDNAのクローニング工程、当該cDNAの発現ベクターへの連結工程、当該組換え発現ベクターの宿主細胞への導入工程、および抗原タンパク質の発現工程を経ることにより得ることができる。具体的には、例えば所望の抗原タンパク質をコードするcDNAをハイブリダイゼーション法やPCR法によりクローニングする。次にクローニングされたcDNAを適当な発現ベクター(例えばpSV−SPORT1など)に組み込みこんで作製された組換え発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を得、この形質転換体を適当な培地で培養することにより、所望の抗原タンパク質を発現・生産することができる。ここで宿主細胞としては、大腸菌などの原核生物、酵母のような単細胞真核生物、昆虫、動物などの多細胞真核生物の細胞などが挙げられる。また、宿主細胞への遺伝子導入法としては、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、電気パルス法などがある。以上のようにして得られたポリペプチドは、一般的な生化学的方法によって単離精製することができる。
【0019】
前記抗原タンパク質がin vitroで抗原特異的T細胞誘導活性を有することは、例えば癌抗原タンパク質の場合、以下のような試験により調べることができる。すなわちまず、アフリカミドリザル腎臓由来のCOS-7(ATCC CRL1651)や繊維芽細胞VA-13(理化学研究所細胞開発銀行)といった癌抗原タンパク質を発現していない細胞に対し、所望の癌抗原タンパク質をコードするcDNAを有する組換え発現ベクターと、HLA抗原をコードするDNAを有する組換え発現ベクターとをダブルトランスフェクトする。該トランスフェクトは、例えばリポフェクトアミン試薬(GIBCO BRL社製)を用いたリポフェクチン法などにより行うことができる。その後、用いたHLA抗原に拘束性の腫瘍反応性のCTLを加えて作用させ、該CTLが反応して産生する種々のサイトカイン(例えばIFN-γ)の量を、例えばELISA法などで測定することによって、所望の癌抗原タンパク質の抗原特異的T細胞誘導活性を調べることができる。
【0020】
抗原タンパク質に由来する抗原ペプチド(以下、単に抗原ペプチドと略す)には、前記抗原タンパク質の一部であって8〜20アミノ酸残基程度からなるペプチド、もしくはその機能的に同等の特性を有する改変ペプチド、または該ペプチドもしくはその改変ぺプチドを2以上連結したポリトープ等が含まれる。ここで「8〜20」との定義は、MHC分子に提示される抗原ペプチドは、通常8〜20アミノ酸程度の長さであるという当業者の常識に基くものである。また「機能的に同等の特性を有する改変ぺプチド」とは、抗原ペプチドのアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/または付加(ペプチドのN末端、C末端へのアミノ酸の付加も含む)した改変体であって、かつ抗原ペプチド特異的なT細胞を誘導可能なものをいう。
【0021】
癌抗原ペプチドやウイルス由来抗原ペプチドのうち、HLA-A1, -A0201, -A0204, -A0205, -A0206, -A0207, -A11, -A24, -A31, -A6801, -B7, -B8, -B2705, -B37, -Cw0401, -Cw0602などのHLAの型については、該HLAに結合して提示される抗原ペプチドの配列の規則性(モチーフ)が判明している(例えばImmunogenetics, 41:p178,1995などを参照のこと)。例えばHLA-A24のモチーフとしては、8〜11アミノ酸よりなるペプチドのうちの第2位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンとなることが知られている(J.Immunol.,152,p3913,1994、Immunogenetics, 41: p178, 1995、J.Immunol., 155: p4307, 1994)。またHLA-A2のモチーフについては、以下の表1に示したモチーフが知られている(Immunogenetics, 41, p178, 1995、 J. Immunol., 155: p4749, 1995)。
【0022】
【表1】

【0023】
さらに近年、HLA抗原に結合可能と予想されるペプチド配列を、インターネット上、NIHのBIMASのソフトを使用することにより検索することができる(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/ )。またBIMAS HLA peptide binding prediction analysis(J.Immunol.,152,163,1994)を用いて検索することも可能である。
【0024】
従って、前述の癌抗原タンパク質やウイルス由来抗原タンパク質のアミノ酸配列から、これらのモチーフに関わる抗原ペプチド部分を選び出すのは容易である。このようにして選択された抗原ペプチドの具体例としては、例えば癌抗原ペプチドの場合、以下のものが挙げられる。すなわちWT1由来の癌抗原ペプチドとしては、国際公開第2000/18795号パンフレットのTableII〜TableXLVIに列挙されたペプチドが挙げられ、特に、本願配列表の配列番号:2および配列番号:3に記載のHLA-A24およびHLA-A2結合モチーフを有するペプチドが挙げられる。またSART−1由来の癌抗原ペプチドとしては、国際公開第97/46676号パンフレット、国際公開第2000/02907号パンフレット、および国際公開第2000/06595号パンフレットの配列表に列挙されたぺプチドが挙げられる。また、サイクロフィリンB由来の癌抗原ペプチドとしては、国際公開第99/67288号パンフレットの配列表に列挙されたぺプチドが挙げられる。また、SART−3由来の癌抗原ペプチドとしては、国際公開第2000/12701号パンフレットの配列表に列挙されたペプチドが挙げられる。以上のペプチドを後述の活性測定に供することにより、抗原特異的T細胞誘導活性を有する抗原ペプチドを選択することができる。
【0025】
さらに、前記抗原ペプチドと機能的に同等の特性を有する改変ペプチドとしては、前記のようにHLA抗原に結合して提示される抗原ペプチド配列の規則性(モチーフ)が判明しているものについては、当該モチーフに基いてアミノ酸を置換した改変ペプチドを例示することができる。すなわちHLA−A24の結合モチーフを例にとり説明すると、当該HLA-A24の結合モチーフは、前述のように、8 〜11アミノ酸よりなるペプチドのうちの第2位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンとなることが知られている(J.Immunol.,152,p3913,1994, Immunogenetics, 41: p178, 1995, J. Immunol., 155: p4307, 1994 )。従ってHLA-A24抗原に結合して提示される改変ペプチドとしては、HLA-A24拘束性の天然型ペプチドの第2位および/またはC末端のアミノ酸において、前記に列挙したアミノ酸の範囲内での置換を施した、改変ペプチドを例示することができる。当該改変ペプチドの具体例としては、例えば癌抗原の改変ペプチドの場合、以下のものが挙げられる。すなわちWT1由来の改変ペプチドとしては、国際公開第2000/18795号パンフレットのTableII〜TableXLVIに列挙されたペプチドを前記のモチーフに基き改変した改変ペプチドが挙げられ、特に本願配列表の配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。またSART−1、サイクロフィリンB、SART−3等に由来する改変ペプチドについても、前記の文献に挙げられた各抗原ペプチドをモチーフに基き改変した改変ペプチドが挙げられる。
【0026】
以上のような抗原ペプチド(改変ペプチドを含む)は、通常のペプチド化学において用いられる方法に準じて合成することができる。合成方法としては、文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis ),Interscience,New York,1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol 2 ,Academic Press Inc. ,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている方法が挙げられる。また、前記Molecular Cloningに従って、抗原ペプチドをコードするDNAを発現させた組換えペプチドを常法により精製する方法で調製しても良い。
【0027】
前記抗原ペプチドが in vitroで抗原特異的T細胞誘導活性を有することは、癌抗原ペプチドの場合、例えば J.Immunol.,154,p2257,1995に記載の測定方法により調べることができる。具体的には、HLA抗原陽性のヒトから末梢血リンパ球を単離し、イン・ビトロで所望のペプチドを添加して刺激した場合に、該ペプチドをパルスしたHLA陽性細胞を特異的に認識するCTLが誘導されることにより、そのペプチドが抗原特異的T細胞誘導活性を有することを確認することができる。ここでCTLの誘導の有無は、例えば、抗原ペプチド提示細胞に反応してCTLが産生したIFN-γの量を酵素免疫測定法(ELISA)により測定することによって調べることができる。また、抗原ペプチド提示細胞に反応してCTLが産生したTNF-αの量を、TNF-α感受性細胞株(例えばWEHI164S細胞;ATCC Cat.No.CRL-1751)の生存率で測定することによっても、調べることができる。
【0028】
さらに、51Crで標識した抗原ペプチド提示細胞に対するCTLの傷害性を測定する方法(51Crリリースアッセイ、Int.J.Cancer,58:p317,1994 )によっても調べることができる。またHLAのcDNAを発現する発現プラスミドを、例えばCOS-7細胞(ATCC No. CRL1651)やVA-13細胞(理化学研究所細胞銀行)に導入した細胞に対して所望のペプチドをパルスし、この細胞に対して、前記で調製したCTLなどを反応させ、該CTLが産生する種々のサイトカイン(例えばIFN-γやTNF-α)の量を測定することによっても、調べることができる。
【0029】
ポリトープとは、複数の抗原ペプチドを連結させた組換えペプチドをいい(例えば Journal of Immunology, 160,p1717,1998等を参照のこと)、本発明においては前記抗原ペプチドの1種または2種以上を適宜組み合わせたアミノ酸配列を含有するポリペプチドのことである。ポリトープは、前記抗原ペプチドをコードするDNAを1種または2種以上連結させることにより作製された組換えDNAを、適当な発現ベクターに挿入し、得られた組換えベクターを宿主細胞内で発現させることにより得られる。当該ポリトープが抗原特異的T細胞誘導活性を有することは、前記の抗原タンパク質のアッセイに供することにより、確認することができる。
【0030】
以上述べたような抗原タンパク質または抗原ペプチドから少なくとも1種を選択し、前記組成物(a)の活性成分とする。目的に応じて、抗原タンパク質を2種以上、または抗原ペプチドを2種以上有していても良い。当該抗原タンパク質または抗原ペプチドの治療学的有効量は、生体において抗原特異的T細胞を誘導可能であれば特に限定されないが、1回の投与当たり、好ましくは通常0.0001mg〜1000mg、より好ましくは0.001mg〜100mg、さらに好ましくは0.01mg〜10mgである。
【0031】
前記組成物(a)は、所望の薬理効果を奏するような投与剤形にすることが好ましい。この目的に適する投与剤形としては、油中水型(w/o)エマルション製剤、水中油型(o/w)エマルション製剤、水中油中水型(w/o/w)エマルション製剤、リポソーム製剤、マイクロスフェアー製剤、マイクロカプセル製剤、固形注射剤または液剤等が挙げられる。
【0032】
油中水型(w/o)エマルション製剤は、有効成分を水の分散相に分散させた形態をとる。水中油型(o/w)エマルション製剤は、有効成分を水の分散媒に分散させた形態をとる。また水中油中水型(w/o/w)エマルション製剤は、有効成分を最内相の水の分散相に分散させた形態をとる。このようなエマルション製剤の調製は、例えば、特開平8−985号公報、特開平9−122476号公報等を参考にして行うことができる。
【0033】
リポソーム製剤は、有効成分を脂質二重膜構造のリポソームで水相内または膜内に包み込んだ形の微粒子である。リポソームを作るための主要な脂質としては、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン等が挙げられ、これにジセチルホスフェート、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン等を加えてリポソームに荷電を与えて安定化させる。リポソームの調製方法としては、超音波法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、フレンチプレスエクストラクション法等が挙げられる。
【0034】
マイクロスフェアー製剤は、均質な高分子マトリックスから構成され、該マトリックス中に有効成分が分散された形の微粒子である。マトリックスの材料としては、アルブミン、ゼラチン、キチン、キトサン、デンプン、ポリ乳酸、ポリアルキルシアノアクリレート等の生分解性高分子が挙げられる。マイクロスフェアー製剤の調製方法としては公知の方法(Eur. J. Pharm. Biopharm. 50:129-146, 2000、Dev. Biol. Stand. 92:63-78, 1998、Pharm. Biotechnol. 10:1-43, 1997)等に従えばよく特に限定されない。
【0035】
マイクロカプセル製剤は、有効成分を芯物質として被膜物質で覆った形の微粒子である。被膜物質に用いられるコーティング材料としては、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、エチルセルロース、ゼラチン、ゼラチン・アラビアゴム、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等の膜形成性高分子が挙げられる。マイクロカプセル製剤の調製方法は、コアセルベーション法、界面重合法等が挙げられる。
【0036】
固形注射剤は有効成分をコラーゲンやシリコン等の基材に封入して固形化させた剤形である。固形注射剤の調製方法としては文献(Pharm. Tech. Japan, 7 (1991), p402-409 )記載の方法等が挙げられる。
【0037】
液剤は、有効成分を医薬上許容されうる溶媒、担体等と混合した剤形である。医薬上許容されうる溶媒としては、水、ブドウ糖液、生理食塩水等が挙げられる。さらに、医薬として許容される補助剤、例えば、pH調節剤または緩衝剤、張度調節剤、浸潤剤等を含有することができる。
【0038】
さらに組成物(a)は、前記の投与剤形に応じて凍結乾燥製剤の形とすることも可能である。また必要に応じて安定化剤(例えば多糖類、アミノ酸、タンパク質、ウレア、塩化ナトリウム等)や賦形剤(例えば糖類、アミノ酸、ウレア、塩化ナトリウム等)、酸化防止剤、防腐剤、等張化剤、あるいは緩衝剤等を添加することも可能である。
【0039】
以上のような組成物(a)は、あらかじめ製剤化したものを使用することもできれば、患者への投与時に用時調製することも可能である。すなわち、当該組成物(a)の活性成分である抗原タンパク質または抗原ペプチド、および投与剤形であるエマルション等は、あらかじめ混合して製剤化したものを使用することもできれば、患者への投与時に用時調製することも可能である。
【0040】
次に前記組成物(b)、すなわち活性成分としてBCG-CWSを含む組成物につき説明する。
【0041】
BCG-CWSは、マイコバクテリア属ウシ型結核菌であるBCG株のCWSであり、公知文献(例えばCancer Res.,33,2187-2195(1973)、J.Natl.Cancer Inst., 48, 831-835 (1972)、J.Bacteriol.,94,1736-1745(1967)、Gann,69,619-626(1978)、J.Bacteriol., 92,869-879(1966)、J.Natl.Cancer Inst.,52,95-101(1974))に基き単離・製造することが可能である。簡単に述べると、物理的に細菌を粉砕した後、除核酸、除タンパク、脱脂などの精製工程を経て不溶性残渣として得ることができる。
【0042】
前記BCG-CWSは、所望の薬理効果を奏するような投与剤形にすることが好ましい。この目的に達するためには、エマルション製剤の剤形をとることが好ましく、特に水中油型(o/w)エマルション製剤の剤形をとることが好ましい。水中油型エマルションの構成成分である油状物質としては、Immunology,27,311-329 (1974)に記載されているような鉱物油や動植物油が挙げられる。鉱物油としては、流動パラフィン、バイオール(Bayol F)、ドラケオール(Drakeol)-6VR等が挙げられる。植物油としては、落花生油、ゴマ油、AD-65(落花生油とアラセルとアルミニウムモノステアレートの混合物)等が挙げられる。動物油としては、スクワラン、スクワレンのようなテルペノイド誘導体等が挙げられる。中でも好ましいものとして、ドラケオール6VR、スクワランを挙げることができる。
【0043】
前記水中油型エマルション製剤におけるBCG-CWSの濃度は0.1〜10mg/mlであることが好ましい。また油状物質の濃度は 0.01〜30%w/wの範囲が適当であるが、0.01〜10%w/wが好ましく、0.01〜5.0%w/wがより好ましい。
【0044】
前記水中油型エマルション製剤はさらに、必要に応じて界面活性剤、安定化剤、賦形剤等を含んでいても良い。ここで界面活性剤としては医薬品製剤に使用される界面活性剤であれば特に制限されるものではなく、例えばリン脂質、非イオン性界面活性剤を挙げることができる。具体的には、リン脂質としては卵黄ホスファチジルアミン、卵黄レシチン、若しくは大豆レシチン等が挙げられ、また非イオン性界面活性剤としてはポリソルベート80のようなポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類や、Span40のようなソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。これら界面活性剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。
【0045】
安定化剤としては、例えば多糖類、アミノ酸、タンパク質、ウレア、糖アルコール、若しくは塩化ナトリウムが挙げられる。具体的には、多糖類としてはデキストラン、でんぷん、セルロース等が挙げられ、アミノ酸としてはアラニン、グリシン、プロリン等の中性アミノ酸が挙げられる。またタンパク質としては、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン等が挙げられる。糖アルコールとしてはマンニトール、ソルビトール等が挙げられる。これら安定化剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。
【0046】
賦形剤としては、糖類、アミノ酸、ウレア、塩化ナトリウム等が挙げられる。具体的には、糖類としては単糖類、二糖類、糖アルコールが挙げられる。ここで単糖類としては、グルコース、フルクトース等が挙げられ、また二糖類としてはマルトース、ラクトース、トレハロース等が挙げられる。また糖アルコールとしてはマンニトール、ソルビトール等が挙げられる。アミノ酸としては、アラニンやグリシンを挙げることができる。これら賦形剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。
【0047】
その他、医薬品製剤に使用し得る酸化防止剤、防腐剤、等張化剤、緩衝剤等を必要に応じて含んでいても良い。
【0048】
前記BCG-CWSを含有する水中油型エマルション製剤は、凍結乾燥製剤の形とすることも可能である。その際、当該凍結乾燥製剤を再分散するために使用される分散溶媒は、エマルション粒子の分散媒体となるものであり、注射用水(注射用蒸留水)、生理食塩水などが挙げられるが、注射可能な分散溶媒であれば特に限定されない。
【0049】
以上のようなBCG-CWSを含有する水中油型エマルション製剤の製造法については、WO00/3724号公報に詳しく述べられている。具体的には、例えば前記油状物質にBCG-CWSを添加し、さらに界面活性剤、賦形剤、安定化剤およびその他の添加剤の水溶液を添加した後、Potter-Elvehjem型ホモジナイザー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー等の分散、乳化機により乳化処理を施し、得られた水中油型エマルションを凍結乾燥処理することにより、最終的に凍結乾燥製剤を得ることができる。
【0050】
以上のようにして得られた前記組成物(b)の活性成分であるBCG-CWSを含む組成物は、あらかじめ製剤化したものを使用することもできれば、患者への投与時に用時調製することも可能である。BCG-CWSの治療学的有効量は、生体において抗原特異的T細胞の誘導増強活性を有すれば特に限定されないが、1回の投与当たり、好ましくは0.1〜200μg、より好ましくは1〜100μgの範囲で用いることができる。
【0051】
以上のような組成物(a)および(b)を投与する本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法は、組成物(b)をあらかじめ投与した後に、組成物(a)を投与することを特徴とするものである。具体的には、前記組成物(b)を投与後6時間以上おいた後に前記組成物(a)を投与することが好ましく、また前記組成物(b)を投与後12時間以上おいた後に前記組成物(a)を投与することがより好ましい。さらに、前記組成物(b)を投与後、約12時間〜48時間おいた後に前記組成物(a)を投与することがより好ましく、前記組成物(b)を投与後、約24時間〜48時間おいた後に前記組成物(a)を投与することがさらに好ましい。最も好ましいのは、前記組成物(b)を投与後、約24時間(ca 1day:20時間〜28時間)おいた後に前記組成物(a)を投与するという投与タイミングである。
【0052】
なお、前記のように組成物(b)をあらかじめ投与した後に組成物(a)を投与するという投与タイミングでさえあれば、如何なる投与を行っても良く、例えば以下のような投与法が例示される。
1)組成物(b)を1回〜複数回投与し、前記の如き一定時間おいた後に組成物(a)を投与する。
2)組成物(b)を1回〜複数回投与し、前記の如き一定時間おいた後に、組成物(b)と組成物(a)とを同時に投与する。
【0053】
ここで組成物(b)の複数回投与の投与回数は、具体的には2回〜10回が挙げられ、好ましくは2回〜5回が挙げられる。
【0054】
以上の(a)および(b)による投与を1投与サイクルとした場合、T細胞誘導効果をさらに上げるために、当該1投与サイクルを複数回繰り返して行っても良い。すなわち前記1投与サイクルを1回以上、対象とする疾患、患者の症状、年齢および体重等に応じて、適宜繰り返すことができる。当該繰り返し投与の投与間隔も、患者の症状等に応じて、1週間〜1年程度の範囲から適宜選択することができる。
【0055】
本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法に用いる前記組成物(a)および(b)の投与ルートとしては、皮内投与、皮下投与、持続皮下投与、静脈注射、動脈注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与等が挙げられる。浸透圧ポンプなどを用いて連続的に徐々に投与することや、徐放性製剤(例えばミニペレット製剤)を調製し、埋め込むことも可能である。好ましくは皮内投与あるいは皮下投与を挙げることができる。特に前記組成物(a)および(b)を、いずれも皮内投与することが好ましい。その際、前記組成物(a)および(b)を、いすれも皮内の同一部位に投与することが好ましい。
【0056】
本発明の抗原特異的T細胞誘導方法における前記組成物(a)および(b)の活性成分の組み合わせに関しては、抗原タンパク質とBCG-CWSとの組み合わせ、若しくは抗原ペプチドとBCG-CWSとの組み合わせのいずれであっても良い。このうち抗原が癌抗原の場合、具体的にはWT1タンパク質(配列番号:1)とBCG-CWSとの組み合わせ、若しくは当該WT1由来の癌抗原ペプチドとBCG-CWSとの組み合わせが例示される。ここでWT1由来の癌抗原ペプチドとしては、配列番号:1に記載のヒトWT1のアミノ酸配列中、前述したようなHLA抗原に結合して提示されるモチーフ構造を有するペプチド、およびその改変ペプチドが挙げられる。具体的には、国際公開第2000/18795号パンフレットのTableII〜TableXLVIに列挙されたペプチドおよびそのモチーフに基く改変ペプチドが挙げられ、より好ましくはHLA-A2およびHLA-A24の結合モチーフを有する Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、若しくはそのHLA-A24またはHLA-A2結合モチーフに基く改変ペプチドが挙げられる。当該改変ペプチドの具体例としては、配列番号:3に記載のペプチドの第2位のMetをモチーフ上とり得るアミノ酸Tyrに置換した Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)などが挙げられる。
【0057】
以上のような本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法は、以下のようにしてその抗原特異的T細胞の誘導能を調べることができる。
【0058】
実験動物に本発明にかかる組成物(b)を皮内注射し、24時間後に組成物(a)を皮内注射する。これを1クールとし、1回、または 1〜2週間おきに数回免疫する。最後の投与から1週間後に脾臓を摘出し、脾臓のリンパ球を調製する。未感作のマウスの脾細胞も同時に調製し、抗原ペプチドを数時間パルスした後、2000〜5000rad 程度のX 線を照射し、これを抗原提示細胞とする。免疫したマウスのリンパ球に抗原提示細胞を加えることにより培養系で抗原ペプチドによる再刺激を行う。必要に応じて同様の刺激を1週間に1回の割合で複数回行う。最後の刺激から1週間後にリンパ球を回収し、抗原ペプチドをパルスした細胞、抗原陽性の細胞などを標的細胞として、リンパ球内に誘導された抗原ペプチド特異的T細胞が反応して産生する種々のサイトカイン( 例えばIFN-γ) の量を定量したり、51Crでラベルした標的細胞に対する抗原ペプチド特異的T細胞の傷害活性を51Cr遊離測定法(J.Immunol.,139:2888,1987)で測定することなどにより抗原特異的T細胞の誘導能を調べることができる。ヒトの場合は、実験動物の脾臓リンパ球の代わりに、末梢血からフィコール法などで分離した末梢血単核球(PBMC)を用いて同様な方法で抗原ペプチド特異的T細胞の誘導能を調べることができる。
【0059】
また、実施例に記載した以下の手法を用いることにより、癌抗原特異的T細胞の誘導能を調べることもできる。簡単に述べると、まず、所望の癌抗原タンパク質をコードするcDNAを腫瘍細胞に導入することにより、所望の癌抗原タンパク質を高発現する腫瘍細胞を調製する。当該腫瘍細胞を実験動物の腹腔内に投与し、翌日より免疫を開始する。免疫は、まず前記組成物(b)を皮内注射し、24時間後に組成物(a)を皮内注射するという1投与クールを1週間おきに計4回繰り返すことにより行う。その後、腫瘍形成率や生存率、さらには無病生存率を常法により測定することにより、抗原特異的T細胞の誘導能に基く抗腫瘍効果を調べることができる。また実験動物の代わりに腫瘍患者に対して前記と同様の投与を行うことにより、抗原ペプチド特異的T細胞の誘導能を調べることができる。
【0060】
本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法によれば、抗原陽性の患者に投与すると、抗原提示細胞のHLA抗原に抗原ペプチドが高密度に提示され、提示されたHLA抗原−ペプチド複合体特異的なT細胞が増殖してターゲット細胞(抗原ペプチド陽性の細胞)を破壊したり、各種のサイトカインを産生して免疫を活性化することができる。本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法は、抗原が癌抗原の場合は癌の治療または予防に用いられる。具体的には、例えば肺癌、卵巣癌、前立腺癌、および白血病などの治療または予防に用いられる。また抗原がウイルス由来抗原の場合はウイルス感染症の治療または予防に用いられる。
【0061】
癌の治療または予防の場合、本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法により、癌細胞に対する特異的細胞性免疫が誘導・増強され、癌を治療し、または癌の増殖・転移を予防することができる。さらに、本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法を、従来の化学療法や放射線療法と併用することにより、治療効果を上げることも可能である。またウイルス感染症を治療または予防する場合、本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法により、ウイルス感染細胞に対する特異的細胞性免疫が誘導・増強され、ウイルス感染症を治療または予防することができる。
【0062】
本発明の抗原特異的T細胞誘導方法の開始時期は、特に制限されるものではないが、癌患者への処置の場合、例えば白血病が完全寛解(complete remission: CR)に到達した後や、固形癌の手術後の腫瘍細胞が少ない、つまりMRD(minimal residual disease)の状態の時に行うことが好ましい。
【0063】
上記態様に関連し、本発明は、患者における抗原特異的T細胞を誘導するための本発明の方法を含む、患者における癌の治療方法および/または予防方法を提供する。
【0064】
本発明は別の態様として、抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分としてBCG-CWSを含有する、該抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される該組成物、および;
【0065】
BCG-CWSにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドを含有する、該BCG-CWSの投与後に投与される該組成物に関する。前記BCG-CWSを含有する組成物は上記の組成物(b)に関する説明に基づいて調製、使用することができ、他方前記抗原タンパク質または抗原ペプチドを含有する組成物は上記組成物(a)に関する説明に基づいて調製、使用することができる。
【0066】
この態様に関連し、本発明は、抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される、該抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、BCG-CWSの使用;またはBCG-CWSの投与後に投与される、該BCG-CWSにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、抗原タンパク質または抗原ペプチドの使用に関する。
【0067】
さらに本発明は特定の態様として、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって活性成分としてBCG-CWSを含有する該組成物、およびBCG-CWSにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって活性成分として配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを含有する該組成物をも提供する。この態様には、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドおよびBCG-CWSをともに含有する組成物、およびBCG-CWSにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、BCG-CWSおよび配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドをともに含有する組成物も含まれる。
【0068】
後述の実施例に示したように、WT1をBCG-CWSと併用することにより、初めて腫瘍治療効果および無病生存率向上効果を認めるに到った。当該効果は、WT1単独若しくはBCG-CWS単独の場合と比して格段に高いものであった。従ってWT1とBCG-CWSとを併用に供することによる癌の治療剤および/または予防剤、若しくは当該WT1由来の癌抗原ペプチドとBCG-CWSとを併用に供することによる癌の治療剤および/または予防剤は、優れた抗腫瘍特異的免疫療法剤として臨床効果を発揮するものと考えられる。WT1をBCG-CWSと併用する際にはその順序は、WT1およびBCG-CWSのいずれを先に投与してもよいし、また両者を混合して投与してもよい。
【0069】
ここでWT1由来の癌抗原ペプチドとしては、配列番号:1に記載のヒトWT1のアミノ酸配列中、前述したようなHLA抗原に結合して提示されるモチーフ構造を有するペプチド、およびその改変ペプチドが挙げられる。具体的には、国際公開第2000/18795号パンフレットのTableII〜TableXLVIに列挙されたペプチドおよびそのモチーフに基く改変ペプチドが挙げられ、より好ましくはHLA-A2およびHLA-A24の結合モチーフを有する Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、若しくはそのHLA-A24またはHLA-A2結合モチーフに基く改変ペプチドが挙げられる。当該改変ペプチドの具体例としては、配列番号:3に記載のペプチドの第2位のMetをモチーフ上とり得るアミノ酸Tyrに置換した Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)などが挙げられる。
【0070】
以上のようなWT1と菌体由来成分との組み合わせに係る癌の治療剤および/または予防剤の投与法、投与量、投与形態等は、前述の抗原特異的T細胞の誘導方法におけるものと同様である。
【0071】
この態様に関連し、本発明は、患者において配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための方法であって、抗原特異的T細胞誘導活性を増強するに有効な量のBCG-CWSを該患者に投与することを特徴とする方法;患者においてBCG-CWSにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための方法であって、抗癌活性を増強するに有効な量の配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを該患者に投与することを特徴とする方法;好ましくは、WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される方法;および癌を治療および/または予防するための方法を提供する。
【0072】
また、この態様に関連し、本発明は、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、BCG-CWSの使用;およびBCG-CWSにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドの使用; 好ましくはWT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される使用;および癌を治療および/または予防する医薬を調製するための使用に関する。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0074】
実施例1
WT1ペプチドとBCG-CWSとの併用による抗腫瘍効果
1.材料と方法
1)細胞
C57BL/6マウス由来のWT1を発現していない白血病細胞細胞株であるC1498は、ATCC(Rockville,MD)より購入した。マウスWT1を発現しているC1498(WT1-C1498)は、マウスWT1のcDNA(WO00/06602)を常法によりC1498細胞に遺伝子導入することにより作製した。
【0075】
2)ペプチド
WT1由来の癌抗原ペプチドである9merのペプチド(配列:Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu;配列番号:2)はFmoc 法を使用し、AB1430A peptide synthesizer(Applied Biosystems Inc, Foster)により合成後、C18 Microbondasphere(Waters Japan,Osaka)カラムを用いた逆相液体クロマトグラフィーにより精製した。合成したペプチドは、API IIIE triple quadrupole mass spectrometer(Sciex,Toronto,Canada)で確認し、ペプチド濃度はBSAをスタンダードとし、MicroBCA アッセイ(Pierce,Rockford,III)により決定した。
【0076】
3)BCG-CWSの調製
非特異的免疫賦活物質としてBCG-CWSを用いた。BCG-CWSは以前の報告(Cancer Res 24:121-141,1979)に基づきoil in water エマルション状に調製した。簡略に述べると、BCG-CWS 2mgにスクアラン9.6μlを加え、ホモジェナイズ(1200rpm×1分)し、0.2% tween80 PBSを1ml加え、再びホモジェナイズ(3000rpm×8分)したものを用いた。BCG-CWSの回収率は、その糖鎖であるガラクトース濃度をフェノール硫酸法で求めることにより決定し、30%以上のものを用いることとした。今回の実験で使用したものは30%〜40%の回収率であった。
【0077】
4)マウス
6-8週齢の雄C57BL/6マウス(H-2Db、H-2Kb)は日本クレアより購入した。
【0078】
5)腫瘍細胞の移植と免疫(vaccination)スケジュール
WT1-C1498細胞を5×105個マウスの腹腔内投与し、翌日より免疫を開始した。BCG-CWS 100μgをマウスの側腹部へ皮内注射し、24時間後に同一部位にWT1ペプチドを皮内注射した。これを1クールとし、1週間おきに計4回免疫した(図1)。
【0079】
6)コロニーアッセイ
常法(J Clin Immunol 20:195-202,2000)に従い行なった。簡略に述べると、取り出したマウスの骨髄細胞を、1 dish (35mm)あたり3×104ずつまき、20%ウシ胎児血清、1% ウシ血清アルブミン Fr5、1.5% メチルセルロース、各種サイトカイン(100ng/ml SCF、10ng/ml G-CSF)を含むα-MEMで14日間培養した後、50細胞以上を含むコロニー数をカウントした。
【0080】
7)WT1特異的CTL活性の検出
WT1ペプチドとBCG-CWSを併用して投与することにより腫瘍が生着しなかったマウス3匹から脾臓を摘出して脾細胞を調製した。対照として免疫をしていない無処理のマウスからも同様に脾細胞を調製した。WT1-C1498細胞およびC1498細胞を51Crでラベルした。脾細胞をエフェクター細胞、ラベルした細胞を標的細胞として、CTL活性を51Crリリースアッセイ(J.Immunol., 159:4753, 1997)により測定した。
【0081】
2.結果
図1に示したスケジュールに従い、腫瘍細胞の移植とワクチン投与を行い、その後の腫瘍形成と生存率を観察した。図2はマウス1匹あたり5×105個の細胞を移植した場合の、移植後から65日までのそれぞれのマウスの腫瘍径を表したものである。65日以前で曲線が途切れているものは、65日以前での死による。非免疫群は5匹とも早期より腫瘍塊が触知され、それらの腫瘍塊は急速に成長した。ペプチドのみで免疫した群もほぼ同様の傾向が認められた。BCG-CWSのみで免疫した群は前の2群に比べて腫瘍形成が抑えられる傾向にあり、腫瘍触知の時期が遅れる傾向が認められた。WT1ペプチドとBCG-CWSを併用した群では、さらに腫瘍形成は抑制され、4匹中3匹は腫瘍細胞移植後65日目でいまだ腫瘍を触知しなかった。
【0082】
図3は上記の実験の細胞移植後65日目までの生存曲線を示すものである。非免疫マウスは55日目に全例死亡し、ペプチドのみ免疫投与群も58日目に全例死亡した。それぞれに比較してBCG-CWSのみ免疫群、WT1ペプチド+BCG-CWS投与群は65日目にそれぞれ60%、75%の生存率を示した。
【0083】
図4は上記の実験の細胞移植後65日目までの無病生存曲線を示すものである。BCG-CWSのみ免疫投与群は、33日目に無病生存率が0%を示したのに比較し、WT1ペプチド+BCG-CWS免疫投与群は、65日においても無病生存率は75%と非常に高値を示した。
【0084】
図5は、図1に示したスケジュールに従い、腫瘍細胞の移植とワクチン投与を行い、65日目にマウスの骨髄細胞を取り出し、コロニーアッセイを行った結果である。腫瘍細胞を移せず、免疫も行っていないマウスと比較して、WT1 peptide+BCG-CWS免疫群、BCG-CWSのみ免疫群において、CFU-GEMM、CFU-GM、CFU-G、CFU-M、CFU-Eのコロニー数に有意差は確認されなかった。この結果は、WT1を高発現する腫瘍細胞を攻撃するCTLはWT1を発現する正常細胞(この場合、造血細胞)に傷害を与えなかったことを意味するものである。
【0085】
図6は、WT1に特異的なCTLが誘導されているかを検討した結果である。移植した腫瘍の生着が認められなかったWT1ペプチドとBCG-CWSを併用した群のマウスの脾細胞は3匹ともWT1を発現しているWT1-C1498細胞を傷害したが、WT1を発現していないC1498細胞には細胞傷害活性を示さなかった。また、免疫をしていない対照群のマウスの脾細胞は3匹ともWT1-C1498細胞に対して傷害活性を示さなかった。これにより、WT1ペプチドとBCG-CWSを併用投与することによりWT1特異的なCTLが誘導されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明方法により、効率良く抗原特異的T細胞を誘導することができる。本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法および関連する医薬組成物は、効率よくかつ簡便に抗原特異的T細胞を誘導することができるため、抗癌剤または抗ウイルス剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として配列番号:1に記載のWT1癌抗原タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドの治療学的有効量を含む医薬組成物(a)であって、
活性成分としてウシ型結核菌BCG株の細胞壁骨格の治療学的有効量を含む医薬組成物(b)をあらかじめ皮内投与した後に、医薬組成物(b)の投与部位と同一部位に皮内投与される物であることを特徴とする、癌患者を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
医薬組成物(b)の投与後20−28時間後に医薬組成物(a)が投与されることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
医薬組成物(a)および(b)による投与サイクルが複数回繰り返されることを特徴とする、請求項1または2記載の医薬組成物。
【請求項4】
WT1由来の癌抗原ペプチドが、8〜11アミノ酸よりなるペプチドであって、第2位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンであることを特徴とする、請求項1から3何れかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
WT1由来の癌抗原ペプチドが、8〜11アミノ酸よりなるペプチドであって、
第2位のアミノ酸がロイシンもしくはメチオニンでありC末端のアミノ酸がバリンもしくはロイシンであるか、
第2位のアミノ酸およびC末端のアミノ酸がともにロイシンであるか、
第2位のアミノ酸がバリン、ロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンでありC末端のアミノ酸がロイシンであるか、または
第2位のアミノ酸がバリンもしくはグルタミンでありC末端のアミノ酸がバリンもしくはロイシンであることを特徴とする、請求項1から3何れかに記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−215653(P2010−215653A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127132(P2010−127132)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2003−532088(P2003−532088)の分割
【原出願日】平成14年9月27日(2002.9.27)
【出願人】(595090392)
【出願人】(592028019)
【Fターム(参考)】