説明

抗原Fh8(fasciolin)を用いた皮膚試験(皮内反応)による肝蛭の診断

肝蛭症は肝蛭を原因とする人畜共通感染症で、反芻動物、即ち、ヒツジ、ヤギ及びウシ等に共通の感染症である。成虫は宿主の胆管中で発見され、畜産業に重大な損失を与える。肝蛭症診断は糞便中の虫の卵の顕微鏡同定、胆管中の成虫の観察又は血清学的手段で行われる。これらの診断は飼育場で動物に直接利用できない。69個のアミノ酸を暗号化する8kDaの分子量であるcDNAクローンは、Fh8又はfasciolinとして同定された(遺伝子バンク番号 AF213970)。Fh8は、アレルゲンとして働く。fasciolin又は変異体及び化学修飾で得られる関連分子の皮膚投与による肝蛭症宿主の検出を目的とする。投与系及び結果の読取は、ヒツジ及びウシに対し特別に行われ、いかなる最終宿主に対しても利用できる。この試験は容易に良好な結果を迅速に得られる。これは、この人畜共通感染症を制御するための本発明の主な利点である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸虫である肝蛭によって引き起こされる人畜共通感染症である肝蛭症の診断に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主題の説明
肝蛭は、反芻動物、即ち、ヒツジ、ヤギ及びウシ等における共通感染症の原因である。肝蛭の成虫は、通常、宿主の肝臓の胆管中で発見され、畜産業に重大な損失を引き起こす(Boray, 1969)。
【0003】
肝蛭症のヒトへの感染は稀ではあるが、世界中で報告が確認されている。ポルトガルにおけるヒト肝蛭症は、公衆衛生問題によるものであり、いくつかの焦点について報告及び研究がなされている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
新しい方法を導入することで、ヒト肝蛭症の診断を向上させることができ(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)、さらに補完的に寄生虫学的及び血清学的な手段を用いることで、大部分の症例を検出することができる。
【0005】
動物生産において、屠殺場ではこのような虫及び肝臓病変の検出を基本とする診断が非常に頻繁に行われている。動物肝蛭症に用いることができる診断手段は、特異性抗原及び高感度法をより多く用いることで、結果を著しく向上させることができる。それにもかかわらず、大部分の利用されている診断手段は、飼育されている動物の疾患を系統的に診断することを妨げるような低感度又は特異性を示す(例えば、非特許文献4及び非特許文献5参照)。
【0006】
肝蛭成虫排出・分泌抗原(ESA)は、ヒト肝蛭の診断に有益であり、これを用いることで、試験において感度及び特異性を著しく改良することができることが示された(例えば、非特許文献2参照)。さらに、数人の著者により、ウシ及びヒツジ肝蛭症の血清学的診断にESAを適用することが示された。しかしながら、当業界において用いられる診断手段として、現在利用可能なものはまだ無い。
【0007】
このような症例の診断及び免疫予防的関心のため、ESAタンパク質に対する抗原ホモログ(homologue)を符号化しているいくつかのcDNAクローンの分離を行った(例えば、非特許文献3,非特許文献6〜8参照)。いくつかの組み替え抗原を作成し、特徴付けた。成虫ESA中に存在し、カルシウム結合タンパク質として他の文献に記載されているrFh8のような組み替え抗原の一つは、現在の研究の主題となっている(例えば、非特許文献3及び非特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chen MG and Kenneth EM. Progress in assesment of morbidity due to Fasciola hepatica infection : a review of recent literature. Trop Dis Bull 1990; 8: 1-38.
【非特許文献2】Sampaio Silva ML, Correia da Costa JM, Viana da Costa AM, Pires MA, Lopes SA and Monjour L. Antigenic components of excretory-secretory products of adult Fasciola hepatica recognized in human infections. Am J Trop Med Hyg 1996;54 (2): 146-8.
【非特許文献3】Silva E., Castro A., Lopes A., Rodrigues A., Dias C., Conceicao A., Alonso J., Correia da Costa J.M., Bastos M., Parra F., Moradas-Ferreira P. and Silva M. A recombinant antigen recognized by Fasciola hepatica - infected hosts. J. Parasitol., 2004: 90 (4): 746-751.
【非特許文献4】Boulard, C., M. Bouvry, and G. Argeinte. 1985. Comparison of the detection of foci of fasciolosis by the ELISA test on lactoserum and serum and coproscopy. Ann. Res. Vet., 16 (4): 363-368
【非特許文献5】Ibarra, F., N. Montenegro, Y. Vera, C. Boulard, H. Quiroz, J. Flores, and P. Ochoa. 1998. Comparison of three ELISA tests for epidemiology of bovine fasciolosis. Vet. Parasitol., 77 : 229-236.
【非特許文献6】Castro, A.M. 2001. Obtencao e caracterizacao de proteinas recombinantes homologas de antigenios excretados/secretados pelo verme adulto de Fasciola hepatica. Ph.D. thesis. Universidade do Porto.
【非特許文献7】Eguino AR, Machin A, Casais R, Castro A, Boga J, Martin-Alonso J, Parra F. Cloning and expression in Escherichia coli of a gene encoding a calcium-binding protein. Mol Biochem Parasitol 1999; 101: 13-21.
【非特許文献8】Salazar-calderon M, Martin-Alonso JM, Ruiz de Eguino AD, Casais R., Marin MS and Parra F. Fasciola hepatica : heterologous expression and functional characterization of a thioredoxin peroxidase. Exp Parasitol 2000; 95 : 63-70.
【非特許文献9】Sampaio Silva ML, Capron A and Capron M.. Human fascioliasis in Portugal. Arquivos do Instituto Nacional de Saude 1980; 4: 101-109.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
I型即時型過敏は、アレルゲン提示後、IgE抗体が高水準で産生されることを特徴とする。肝蛭症は臨床面として、アレルギー性症状、多数の好酸球及び高濃度の特異的IgEを示す。
【0010】
寄生虫感染症の診断に皮膚試験を利用することは、抗原として虫粗抽出液を用いるものとして多くの著者により説明されてきた。I型即時型過敏は、ヒト肝蛭症の診断手段として用いられてきた。前記方法は虫粗抽出液を皮内注射することからなる。この業界において肝蛭症の診断に利用される可能性を有するものとして、簡易な操作で、迅速に結果を得ることができるという利点を備える皮膚試験を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
Fh8(fasciolin)の特徴
この抗原は、本発明者のリストに含まれる著者によって、すでに精製され、特徴付けられている(例えば、非特許文献3及び非特許文献6参照)。fasciolin(Fh8)は、69個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、分子量が8kDaである(遺伝子バンク番号 AF213970)。
【0012】
Fh8の主な特徴は、カルシウム結合(EFハンド(EF-hand))の2つの推定誘因(putative motives)が存在することである。従来の結果によれば、Fh8は、成虫の排出及び分泌産物内に存在することが示された。いくつかの部位特異的変異体を製造した。これらの改質分子は、Fh8に類似しているが、異なる安定性及び生物活性を示し、Fh8の優れた代替物とすることができる。
【0013】
調査目的のため、Fh8コード配列を大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)発現ベクターpQE(Qiagen社製)でサブクローニングした。N末端にHisタグを備える組み替え抗原(rFh8)の製造は、供給業者による指示に従って行った(例えば、非特許文献3及び非特許文献6参照)。他の発現システム、及び、ESAから本来のFh8を単離する方法と同様にして組み替え抗原を単離するシステムが用いられる場合があるため、抗原の製造及び単離は特許請求の範囲に関連しない。前述した発現及び単離システムは、実験目的で、生体内及び生体外の両方における実験証明に用いる大量のFh8を得る手段として考えなければならない。
【0014】
Fh8は、アレルギー誘発性を備えており、肝蛭症の血清学的診断における関心が持たれている。
【0015】
実験的に肝蛭メタケルカリアを30隻又は100隻感染させたウサギで行った研究では、感染から21日目以降において、特異的な抗Fh8免疫グロブリンG(IgG)が存在することが示された(例えば、非特許文献3及び非特許文献6参照)。また、本発明者により、実験的に感染させたヒツジ(感染から3週間目以降)及び自然感染したウシの血清から抗Fh8 IgGが検出された。
【0016】
肝蛭に感染したヒトの血清で行った研究(例えば、非特許文献3参照)でもまた、抗Fh8 IgGの存在が示された。これらの結果は、虫が最終宿主の体内で遊走している間に抗原を生じることを証明し、Fh8が医療の観点から強く関心を持たれ得ることを示す。Fh8のアレルギー誘発性を評価するため、いくつかの実験が行われた(例えば、非特許文献6参照)。その最初の取り組みとして、肝蛭に実験的に感染させたBALB/cマウス内に存在する特異的抗Fh8 IgEを検出した。特異的抗Fh8 IgEは、感染後35日〜42日の範囲の期間で検出された。
【0017】
BALB/cマウスへの50μgのFh8及びフロイント不完全アジュバンドによる免疫処置はまた、血清中における特異的抗Fh8 IgEの産生を引き起こした。これらの結果によれば、Fh8はアレルギー誘発性を有していると結論付けることができる。
【0018】
これらの結果は、Fh8(fasciolin)、又は、Fh8配列から誘導された他の抗原を生体内に皮内投与することで、肝蛭に感染した反芻動物を検出することを目的とする本発明を開発するための基本構成要素である。本発明のもう一つの態様は、皮内投与するための製剤と、ヒツジ及びウシにおいて生じる反応の読み出しに関する。2種の宿主に関して記載された製剤であるが、その方法論は肝蛭に感染する可能性がある全ての種に適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ポリペプチドFh8に対応する配列を含むcDNA断片の特徴。ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列からFh8を推定した。開始コドン及び終止コドンを黒字で示す。左の数字はヌクレオチド配列に対応し、右の数字はアミノ酸残基に対応する。
【図2】Fh8タンパク質配列(fasciolin)及びいくつかの部位特異的変異体分子(Fh8ser,Fh8ala,Fh8tyr)。
【図3】3隻の肝蛭メタケルカリアに実験的に感染させたBalb/cマウスから得た血清を用いたELISAによる測定結果。Neg:感染していない6匹の健康なマウスから回収した血清を用いて得たO.D.中央値±標準偏差。Pos:実験的に感染させた6匹の健康なマウスから回収した血清を用いて得たO.D.中央値±標準偏差。O.D.…光学濃度。
【図4】肝蛭成虫排出・分泌抗原(ESA)から精製したFh8を示す図。A−硫酸アンモニウムによって沈殿したESA抗原のSephadex A25−DEAEカラムによるクロマトグラフィ分析の結果。存在する前記タンパク質を、分光光度計を用いて280nmの波長で定量し、Fh8を含む画分を、特異的な抗血清(ELISA)を用いるELISAにより検出した。B−Fh8を含む画分をSephacryl S200 HRによりクロマトグラフィ分析の結果。画分を前述した方法で分析した。
【図5】ヒツジ2(A)及びヒツジ4(B)に観察された皮膚反応(丘疹)(表1)を示す写真。続いて、2匹の実験的に感染させたヒツジの足の内部領域に、それぞれ200μlの緩衝液(N)と、200μlの緩衝液+50μgのFh8(P)とを皮膚(皮内)投与した。前記写真は、前記投与直後(T=0)、及び、該投与後1時間半(T=1.5)における丘疹の評価を示すものであり、また、測定された丘疹を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
材料及び方法
調査目的のため、Fh8コード配列をE.coli発現ベクターpQE(Qiagen社製)でサブクローニングした。N末端にHisタグを備える組み替え抗原(rFh8)の製造を、供給業者の指示に従って、E.coli M15(pREP4)(Qiagen社製)で行った(例えば、非特許文献3及び非特許文献6参照)。他の発現システム、及び、ESAから本来のFh8を単離する方法と同様にして組み替え抗原を単離するシステムが用いられる場合があるため、抗原の製造及び単離は特許請求の範囲に関連しない。前述した発現及び単離システムは、実験目的で、生体内及び生体外の両方における実験証明に用いる大量のFh8を得る手段として考えなければならない。
【0021】
rFh8の製造及び単離
生体内で行われる実験の大部分は、変性条件下で製造されたrFh8を用いた。rFh8抗原は、分離された総タンパク質の95%以上の含有量を示した(例えば、非特許文献6参照)。rFh8の製造及び分離は、供給業者の指示に従って行った(例えば、非特許文献3及び非特許文献6参照)。簡潔には、プラスミドpQE31−Fh8(Fh8コード遺伝子を収容している)を含むE.coli M15(pREP4)を、100g/mlのアンピシリン及び50g/mlのカナマイシンを含むL培地(Luria broth)中で指数増殖期の間培養した。前記培養は、1mMのIPTGの添加後、5時間温置させて行い、その後遠心分離によって回収し、8Mの尿素(pH8.0)で処理した。製造業者による実験計画書に従って、前記組み替え抗原をNi−NTAアガロース(Qiagen社製)を用いたアフィニティーカラムに吸着させることで精製した。次に、前記組み替え抗原を8Mの尿素(pH4.5)を用いて溶出した。
【0022】
10mMのリン酸緩衝液(2mM EGTAを含む2mM NaCl(pH7.2)、)に対するrFh8の透析を、ESAからFh8を単離するため、4℃で一晩行った。
【0023】
固体硫酸アンモニウムを、100mgのESPに、80%(w/v)飽和となるように添加した。遠心分離した後、得られたタンパク質の沈渣を5mlの10mMリン酸、0.1M NaCl(pH7.2)を含む緩衝液で再懸濁し、該緩衝液に対して4℃で透析を行った。得られた透析溶液に対して、10000rpmで1時間、4℃で遠心分離を行い、前述と同じ緩衝液を用いて予め平衡化したDEAE−Sephadex A25カラム(Sigma社製)(長さ20cm、内径1.5cm)に適用した。溶出は、2.5ml画分で回収し、直線濃度勾配によってNaClの濃度が0.5Mになるまで上昇させることで行った。fasciolinの存在を、組み替え抗原rFh8に対する血清を用いるELISAによっても調査した。
【0024】
ELISAにおいて高い光学濃度(O.D.)の値を示す試料をCentricon YM3(Amicon)を用いて濃縮し、最終体積を2mlとした。得られた濃縮物をPBSにより4℃で一晩透析し、PBSで予め平衡化した包装済のSephacryl S200 HRカラム(Pharmacia社製)に装填した。溶出は、試料を2.5ml回収するまで行った。fasciolinの存在を、組み替え抗原rFh8に対する血清を用いるELISAによっても調査した。
【0025】
皮膚試験に用いるための抗原の製造
前記抗原を、10mMのリン酸緩衝液(pH7.2)を用いて一晩透析し、agarose−mitomixin C(pierce製)カラムを用い、提供業者による指示に従い、ピロゲン(pirogen)の単離を行った。得られた抗原溶液を、0.22mメンブレンを用いた濾過によって滅菌し、−20℃で保存した。皮膚試験に前記抗原を用いる前に、該抗原を、滅菌した10mMのapirogenicリン酸緩衝液(pH7.2)で適切な濃度に希釈した。
【0026】
実験的感染及び自然感染
感染実験を、Direccao Geral de Veterinaria(動物福祉法適用の責任機関)による勧告に従って維持しているEscola Superior Agraria de Coimbra(ESAC)施設で、8月齢(第1実験感染)又は4月齢(第2実験感染)の黒毛のメリノ種のヒツジ系統(Black Merino Strain)(4群)に対して行った。ヒツジを200隻の肝蛭メタケルカリアに感染させ、寄生虫の存在をcoprologic法及び血清学的方法を用いて評価した。肝蛭に自然感染したヒツジは、その流行地からまとめてESACに搬送したものである。自然感染したウシは、その糞便に含まれる肝蛭の卵の存在により、バゴスの地で発見された。自然感染したヒツジ及びウシの分析は、その土地のOPP(Organizacao de Produtores Pecuarios)の獣医師の立会の下、所有者の同意を得て行った。
【0027】
皮膚テストにより肝蛭への感染を検出するために用いるFh8の評価
実験的に感染させたヒツジを用いる実験の目的は、Fh8が誘導されたことにより生じる感覚過敏反応、投与に最適な製剤、及び、抗原を投与する最適な皮膚の位置を評価し、特徴付けることである。
【0028】
自然感染したウシを用いる実験は、頸部の皮膚に対して行われ、これにより顕著な反応を得るために用いられる製剤の特徴付けが行われた。
【0029】
用いられた製剤は、滅菌した10mMのapirogenicリン酸緩衝液200μl中に、十分な濃度のFh8を含む2mMのCaClからなり、皮内反応させるためにシリンジを用いて皮内に投与した。
【0030】
結果
遅延型過敏反応及びその進行を評価するため、50μgのFh8及び200μlのリン酸緩衝液を含むリン酸緩衝液の200μlを動物の大腿内の2カ所に皮内投与を行った(図5)。次に、Fh8を投与したのと同じ位置の即時型過敏の反応の分析及び観察を行った結果、表1に記載した1と同様の展開を示した。
[表1]

【0031】
投与後、Fh8の投与位置には、緩衝液の投与位置と同程度の小さいふくれが生じていた。このふくれは、投与後10分ほどで急速に小さくなり消失した。感染しているヒツジ及び感染していないヒツジの両方における前記緩衝液の投与位置、並びに感染していないヒツジにおけるFh8の投与位置には、いかなる腫れも観察されず、即時型過敏の様相は観察されなかった。実験的に感染させたヒツジにおけるFh8の投与位置は、大部分の動物において、投与後30〜45分までの範囲の時間で、該投与位置の周囲に赤みのある領域が観察された。この時点で、Fh8の投与位置に、腫れが視認され始めた。腫れの領域は増大し、前記投与後、約1.5〜2時間の範囲の時間でその大きさが最大に到達した。前記投与位置における皮膚肥厚は、該投与後、約1.5〜2時間の範囲の時間で顕著な増大が観察された(表1)。2.5時間後、前記腫れの堅さ及び大きさの減少が観察され始めるのと同様に、前記投与後4〜5時間までの範囲の時間で皮膚肥厚が消失した。前記投与後24〜48時間後、前記投与位置の皮膚には、いかなる反応も顕著な変化も観察されなかった。
【0032】
得られた結果は、肝蛭に感染した動物において、Fh8抗原が即時型過敏反応を引き起こすことができ、そのため、寄生虫に感染している動物の同定に用いることができることを示している。前記反応は、前記抗原の投与位置において、該投与後1〜2時間の範囲の間で顕著に腫れが生じること、又は、投与前の皮膚の肥厚が該投与後に1mm以上増大することによって視覚的に検出することができる。これらは、最終宿主としてのヒツジにおける結果である。続いて、Fh8を大腿内部、腋窩及び耳の外側部分に同時に投与することで、ヒツジモデルにおけるポリペプチド投与の好ましい位置の分析を行った。40μgのポリペプチドを投与した結果、全ての投与位置で上述した内容と同様の反応が観察された。
[表2]

【0033】
前記反応の観察に用いる抗原の量を評価するために、いくつかの実験を行った結果、10μgのFh8を含む投与で、該反応が生じることが確認された(表2)。これらの判定及び後に続く投与は、皮内投与が容易であるという点で利点を示す耳の外側部分に行われ、前記反応の読み取りが行われる。これは、炎症をおこす工程及び皮膚肥厚の読み取りにおいて、皮膚の内側の軟骨に前記投与を行ってしまうことを避けるためである。
【0034】
肝蛭に自然感染したヒツジを用いた実験においても、上述した反応と同様の反応が見られた。
【0035】
ウシに対して行われた分析は、全て肝蛭に自然感染した動物で行われた。3種の濃度のFh8(各投与において、50μg、25μg及び5μg)を用いて試験を行い、ヒツジに比較して即時型過敏がどのように異なるか観察し、評価した。この場合、前記反応はより早く進行し、投与後15〜20分までの範囲の時間で皮膚肥厚が観察された。陰性である場合には、前記投与された液体は2〜3分の範囲の時間で吸収され、いかなる反応も皮膚の変化も見られなかった。
【0036】
陽性である場合には、抗原の投与量及び動物の種類により、15〜20分の範囲の時間で視覚的に腫れが発生し始め、投与後約1.5時間まで腫れの大きさが増大し、その後ゆっくりと消失していくことが観察された。いくつかの場合では、pre−escapular結節種の増大による結節種反応が確認された。前記反応は、5〜6時間の範囲の時間までに消失し、前記投与位置にはいかなる小結節も観察されず、24〜48時間の範囲の時間までにはいかなる反応も観察されなかった。ウシの場合、前記虫の存在は、前記投与前に比較して、15〜20分の範囲の時間までに1mm以上の皮膚肥厚が確認されることによって評価した。用いた全ての抗原の濃度において、前記反応が確認された。
【0037】
Fh8変異体(即ち、図2で示したもの)を用いて行った研究では、これらの抗原はFh8に類似する特性を備えており、このポリペプチドの代替物として用いることができることが示された。前記変異体は、製造及び単離の水準、前記ポリペプチド保護の水準及び該ポリペプチド活性の水準に対して利点を備えている。
【0038】
結論
Fh8ポリペプチドは、肝蛭虫に感染した最終宿主に対して、即時型過敏反応を生じさせる能力を有していることが明らかになった。これは、獣医師自身の手によって、この分野の感染症を迅速かつ容易な方法で診断するために、前記反応を用いることで体内に存在する虫によって引き起こされる感染症を検出することができることを実験的に証明したものである。市販の方法は、高価であり、研究所で分析するための血液又は排泄物を採取しなければならないという不都合がある。本発明の方法は、動物又はその群れの病気を評価することができ、獣医師による各処置において、診断に費やす時間を大きく減らし、病気と闘う際に大きな関心を有する手段とすることができる。前記投与は、皮内反応が生じている時間まで分析されたが、分析される宿主に応じて、即ちヒトの場合などでは、皮膚投与の方法を変えてもよい。また、前記評価を行うことによって、前記反応はいかなる副次的効果、又は、後の小結節の発達若しくは皮膚の変化を生じさせないことが証明された。
【0039】
前記皮膚投与の製剤及び反応の読み取りは、ヒツジ及びウシに対して適用可能な状態で、評価される種に対して適したものでなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列 Met Pro Ser Val Gln Glu Val Glu Lys Leu Leu His Val Leu Asp Arg Asn Gly Asp Gly Lys Val Ser Ala Glu Glu Leu Lys Ala Phe Ala Asp Asp Ser Lys Cys Pro Leu Asp Ser Asn Lys Ile Lys Ala Phe Ile Lys Glu His Asp Lys Asn Lys Asp Gly Lys Leu Asp Leu Lys Glu Leu Val Ser Ile Leu Ser Serで表されるポリペプチドFh8、その一部の配列、又は、変異体から得られる若しくは化学修飾によって得られる他の関連するポリペプチドを、肝蛭に感染している最終宿主を判定するための状態として即時型過敏反応を引き起こすために用いることを特徴とする使用方法。
【請求項2】
効果的な量のFh8抗原を皮内又は皮膚に投与し、その後、即時型過敏反応、皮膚丘疹を観察するのに適切な時期にその大きさ及び皮膚膨張を診断することを特徴とする最終宿主の過去における肝蛭への暴露の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−542637(P2009−542637A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518027(P2009−518027)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【国際出願番号】PCT/PT2007/000027
【国際公開番号】WO2008/002166
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(509000828)インスティチュート ナショナル デ サウージ ドクター ヒカルド ジョルジ,イー.ペー. (1)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTO NACIONAL DE SAUDE DR. RICARDO JORGE, I.P.
【出願人】(509000806)
【氏名又は名称原語表記】CORREIA DE COSTA, Jose Manuel
【出願人】(509000817)
【氏名又は名称原語表記】PEREIRA DE CONCEICAO, Maria Antonia
【出願人】(509000840)
【氏名又は名称原語表記】PEREIRA MAGALHAES DA SILVA, Elisabete Marta
【出願人】(509000839)
【氏名又は名称原語表記】OLIVEIRA CASTRO, Antonio Manuel
【Fターム(参考)】