説明

抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料とその製造方法

【課題】生理活性機能の優れた持続性あるいは抗生物質の徐放性とともに、耐久性、環境親和性を有する有機無機複合材料、その製造方法及びそれを含む加工製品を提供する。
【解決手段】無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に、層間イオンとして、生理活性機能を有する、1種又は2種以上の選択された抗生物質を、陽イオン交換反応により層間挿入、担持することを特徴とする、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の製造方法、それにより得られる有機無機複合材料、及びこれを用いた加工製品。
【効果】生理活性機能の優れた持続性あるいは抗生物質の徐放性とともに、耐久性、環境親和性を有する有機無機複合材料を製造し、提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料とその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、交換性陽イオンを有する無機層状化合物を主原料とし、その層間に微生物によって生産される化学物質であり、他の微生物(感染症の原因となる微生物)に対して作用し、その発育を阻止又は死滅させる生理活性作用を有する抗生物質を層間に存在する交換性陽イオンとのイオン交換反応により挿入、担持してその徐放性を著しく向上させた新規な抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料、その製造方法、及び該方法で作製される有機無機複合材料を含有する加工製品に関するものである。
【0002】
本発明は、交換性陽イオンを有する無機層状化合物の層間に生理活性作用を有する抗生物質を挿入、担持した、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料とその新規製造方法を提供するものであり、特に、優れた生理活性機能の持続性や環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、植物栽培などに応用可能な新規有機無機複合材料を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
1920年代に発見されたペニシリンをはじめとする抗生物質群は、現在では、医療分野において、微生物や細菌の増殖を防ぐために一般的に用いられている。抗生物質は、対象とする細菌の種類に応じて何種類かの系統に分類されており、現在では、セフェム系抗生物質が多く用いられている。これらの抗生物質群は、効能も作用機序も分子構造も様々であるが、感染症の治療に対して大きな変革をもたらした。また、微生物由来の天然物系抗生物質だけではなく、有機化学合成の技術を利用することで、低毒性かつ広範囲の細菌に有効な抗生物質群も合成されるようになった。
【0004】
しかし、昨今、抗生物質に耐性を有するMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ状球菌)をはじめとする薬剤耐性菌の出現が報告され、院内感染などが感染症治療の分野における新たな課題となっている。現在では、感染症に対する治療では、耐性菌を予防するために、短期間に高容量を投与することが常識となっており、それで効果がなければ抗生物質の種類を変える手法がとられている。
【0005】
近年の創薬技術の進歩により、短期間で有効な生物活性を有する化合物を見出すことが可能となってきている。しかし、強力な薬理効果を有するものの、生体内への吸収率が低く、また、容易に分解される薬剤も少なくない。そこで、薬剤を目的部位に輸送し、その輸送速度を制御する徐放機能を有する製剤設計が提唱される。これが、ドラッグデリバリーシステムと呼ばれる投与技術である。薬物治療を有効に行うためには、薬物を作用部位に適切な濃度と時間パターンで輸送することが必要とされる。
【0006】
一般的に、薬物の投与では、一定速度での放出が目標とされており、薬物の放出制御は、ドラッグデリバリーシステムに要求される重要な機能の一つである。これらは、薬物の血中濃度を必要な期間、治療域濃度に保ち、薬物の治療効果を最大にして副作用を軽減させること、また、薬物の必要投与量と投与回数を低減することに繋がり、また、薬物の使用などによる環境中への影響を最低限にし、感染治癒や適量散布を図る上でも重要である。
【0007】
これまでに、抗生物質を生体内及び環境中で使用する際に、他の材料と複合化させることで徐放性を改善した材料とするための幾つかの手段が報告されている。先行技術文献には、例えば、抗生物質と高分子共重合体を混合してシート状にした抗菌剤・高分子複合物(特許文献1参照)や、熱処理された無機粒状材料と、有害生物防除剤をスラリーとして混合した殺有害生物剤搬送系(特許文献2参照)、デンプンと生理活性物質からなるフィルム状の生分解性組成物(特許文献3参照)、等が報告されている。しかし、これらの手段についてみてみると、これらは、無機あるいは有機担体と生理活性効果を有する抗生物質単体を単純に混合分散した後に、任意の形状に成形したに過ぎないものである。
【0008】
また、先行技術文献には、造粒した無機あるいは有機担体を用いて、更に巨大な中空球状のボールとし、その球状内外表面及び球内部に、生理活性物質を充填させることにより得られるセラミック造粒体(特許文献4参照)、が提案されている。また、無機あるいは有機担体成分と生物活性剤成分、コーディング剤成分を任意の割合で混合・被覆した、陸生水生生物処理剤を用いた環境中の生物処理方法(特許文献5参照)、が提案されている。しかし、これらの製品及び方法では、生理活性物質を表面に吸着させた後に、その表面を処理剤によりコートすることで徐放性を賦与する手法であり、積極的に層状無機化合物の層間に生理活性物質を挿入、担持して、徐放性を制御するものではない。
【0009】
【特許文献1】特表2003−155404号公報
【特許文献2】特開2004−510715号公報
【特許文献3】特開2004−339496号公報
【特許文献4】特開平10−182264号公報
【特許文献5】特表平11−502229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、生理活性作用を有する抗生物質の有効成分の長期持続性及び徐放性を兼備した機能性材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、交換性陽イオンを有する無機層状化合物である粘土鉱物の層間に、殺菌作用を有する抗生物質を交換性陽イオンとのイオン交換により層間挿入、担持し、その層間からの抗生物質の放出量を制御することで、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、低コストでかつ安全に、目的に応じた機能を賦与させることを可能とする、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料とその新規製造方法、該方法で製造される、抗生物質の殺菌作用の優れた持続性あるいは抗生物質の徐放性とともに、耐熱性・環境親和性を有する新規有機無機複合材料及びそれを用いた加工製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料であって、交換性陽イオンを有する無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に交換性陽イオンとのイオン交換反応により抗生物質を挿入、担持させたことを特徴とする、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料。
(2)抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を形成する抗生物質が、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系、モノバクタム系、カルバペネム系)、マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、キノロン系、クロラムフェニコール系、グリコペプチド系の抗生物質の群の中から選ばれた少なくとも一種以上の抗生物質である、前記(1)に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料。
(3)主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、前記(1)に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料。
(4)層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母である、前記(3)に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を製造する方法であって、交換性陽イオンを有する無機層状化合物を主原料とし、その無機層状化合物の層間に抗生物質を挿入して、交換性陽イオンとのイオン交換反応により、この無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと抗生物質を交換することにより、抗生物質を層間に担持した有機無機複合材料を合成することを特徴とする、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の製造方法。
(6)抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を形成する抗生物質が、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系、モノバクタム系、カルバペネム系)、マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、キノロン系、クロラムフェニコール系、グリコペプチド系の抗生物質の群の中から選ばれた少なくとも一種以上の抗生物質である、前記(5)に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の製造方法。
(7)主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母である、前記(5)に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の製造方法。
(8)前記(1)から(4)のいずれかに記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を含有し、任意の形態に製剤加工されていることを特徴とする加工製品。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料は、特に、主原料として、無機層状化合物、例えば、層状粘土鉱物の、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母等を用いている。本発明は、この無機層状化合物の層間に、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系、モノバクタム系、カルバペネム系)、マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、キノロン系、クロラムフェニコール系、グリコペプチド系の抗生物質群の中から選ばれた少なくとも一種以上の抗生物質を層間挿入し、担持したことを特徴としている。
【0014】
本発明は、殺菌作用を有する抗生物質を無機層状化合物の層間に挿入することにより、その層間からの抗生物質の放出量を、無機層状化合物層間と抗生物質間の静電的な相互作用により、抗生物質の優れた殺菌作用の持続性、あるいは抗生物質の徐放性とともに、耐熱性、環境親和性を有する新規有機無機複合材料及びそれを用いた加工製品を製造し、提供することを可能とするものである。
【0015】
本発明の主原料の無機層状化合物について詳しく説明する。粘土鉱物は、無機結晶物質であり、組成や構造によって様々な種類が存在するが、その基本構造は、どれも類似している。ここでは、これら粘土鉱物の構造について説明する。粘土鉱物は、一部の例外を除いて全て層状構造を有している。層状構造とは、無機結晶層が多数積み重なった積層構造である。
【0016】
例えば、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトを代表例として説明すると、モンモリロナイトは、層状ケイ酸塩鉱物の1種であるスメクタイト族に分類される粘土鉱物である。ケイ酸塩鉱物の結晶構造は、イオン半径の大きい酸素原子の数と配置により決まる。ケイ酸塩鉱物の基本構造は、1個のケイ酸原子を中心とした四面体の各頂点に酸素原子を有する正四面体である。大部分のケイ酸塩鉱物は、この正四面体の3個の原子を隣接した各々の四面体と共有することにより、1次元的な六角網目状の層を形成している。
【0017】
この四面体層の他に、O2−やOHなどの陰イオンが八面体の各頂点に各々1個ずつ位置し、その中心にAl3+、Mg2+などの陽イオンが存在し、各頂点の陰イオンが隣接した八面体同士を結びつけ、二次元的な網状をなす八面体層がある。これは、Mg、Alなどの原子を中心とし、酸素原子が六配位している八面体と、その八面体が稜共有(酸素原子と酸素原子を結んだ辺を共有している)によって二次元的な網目状を形成している八面体層である。
【0018】
これらの四面体層と八面体層との結びつきは、各層が1枚ずつの二層構造(1:1型)、二枚の四面体層の間に八面体層が挟まった構造(2:1型)、2:1型の層間域に八面体層が位置する構造(2:1:1型)、等があり、四面体層と八面体層の様々な組み合わせ方で、一組の単位層を形成している。
【0019】
モンモリロナイトの結晶構造は、ケイ酸四面体層−アルミナ八面体層−ケイ酸四面体層の3層が積み重なっており(2:1型)、その単位層は、厚さ約10Å(1nm)、広がり0.1〜1μmという極めて薄い板状になっている。アルミナ八面体層の中心原子であるAl3+の1部がMg2+に置換されることで陽電荷不足となり、各結晶層自体は負に帯電しているが、結晶層間にNa、K、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを挟むことで電荷不足を中和し、モンモリロナイトは安定状態となる。
【0020】
そのため、モンモリロナイトは、結晶層が何層も重なり合った状態で存在しており、層と層の間には、陽イオンと空隙が存在している。層表面の負電荷及び層間陽イオンが様々な作用を起こすことによって、モンモリロナイトの特異的性質は発揮される。モンモリロナイト単位層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力は弱いため、他のイオンを含む溶液と接触すると、層間陽イオンと液中の陽イオンは瞬間的に交換反応を起こし、陽イオン交換反応が生じる。
【0021】
水中に放出された陽イオンの量を測定すれば、モンモリロナイトの反応関与電荷量(陽イオン交換容量:CEC)を知ることができる。陽イオン交換容量は溶液のpHや濃度によって変わり、モンモリロナイトは、pH6以上になると陽イオン交換容量が増加することが知られている。モンモリロナイトは、層状構造を成しているため、極めて大きな表面積を有している。その表面上において、層表面の酸素原子や水酸基との水素結合、層間において、層間負電荷や層間陽イオンとの静電気的結合などが生じ、吸着能を発揮し、それは、特に極性分子に対して作用しやすい。
【0022】
本発明において、無機層状化合物とは、層間に交換性陽イオンを有する層状ケイ酸塩鉱物を意味する。層状ケイ酸塩としては、特に限定されないが、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母等が挙げられる。層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母は、天然物でも合成物であっても良く、これらの1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0023】
これらの層状ケイ酸塩の中でも、スメクタイト族のモンモリロナイト及び膨潤性雲母が好ましい。上記層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母は、水と接触すると、水を吸着して膨らむ(膨潤する)作用があり、これは、層間陽イオンと水分子との相互作用によって生じる。上記層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母の単位層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力は、層間陽イオンと水分子の相互作用エネルギーより弱いため、層間陽イオンが水分子を引き寄せる力により層間が押し広げられる。この層間陽イオンと水分子の相互作用により層間挿入反応が容易に進行しやすくなる。
【0024】
三次元結晶層が負電荷を帯びているモンモリロナイトに代表されるスメクタイト族粘土鉱物や膨潤性雲母等は、イオン交換性、膨潤性、有機あるいは無機複合体形成能等の化学的活性が顕著であり、これらの交換反応が自然界の物質循環に果たす役割は大きく、また、粘土鉱物や膨潤性雲母の工業的利用面でもイオン交換能は直接的間接的に用いられている。粘土鉱物や膨潤性雲母と様々な物質との複合体の形成は、極性分子の吸着や、イオン交換能等を含めた粘土層内表面による吸着現象である。代表的な複合体は粘土と各種の有機化合物との複合体であり、スメクタイト族粘土鉱物や膨潤性雲母等の利用をはじめ、自然現象の解釈等にも広く利用されている。すなわち、モンモリロナイト以外の、イオン交換能を有するスメクタイト族粘土鉱物や、イオン交換能を有する膨潤性雲母等を本発明に用いた場合でも、本発明による抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を、イオン交換反応を用いて形成し得ることは可能であり、それらは同様に実施が可能である。
【0025】
層状ケイ酸塩の層間に存在する交換性陽イオンとは、結晶表面上のナトリウム、カルシウム等のイオンであり、これらのイオンは、カチオン性物質に対してイオン交換性を有するので、カチオン性を有する種々の物質を層状ケイ酸塩の層間に挿入することができる。層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)は、特に限定されないが、CEC=30〜400ミリ等量/100gであることが好ましい。30ミリ等量/100g未満であると、陽イオン交換によって結晶層間に挿入できる抗生物質の量が少なくなるので、生理活性機能の発現と持続性が充分に発揮できない可能性がある。一方、400ミリ等量/100gを超えると、層状ケイ酸塩の層間の結合力が強固となり、抗生物質の層間挿入が困難になることがある。
【0026】
無機層状化合物は市販されているものを使用することができ、市販されているスメクタイト系層状ケイ酸塩としては、例えば、「クニピアシリーズ」、「スメクトンシリーズ」(クニミネ工業株式会社)や、市販されている膨潤性マイカやスメクタイト系層状ケイ酸塩としては、例えば、「TNシリーズ」、「TSシリーズ」、「NHTシリーズ」(トピー工業株式会社)、「ルーセンタイトシリーズ」「ミクロマイカシリーズ」「ソマシフシリーズ」(コープケミカル株式会社)等を挙げることができる。いずれの市販品も、結晶構造、陽イオン交換容量や比表面積等その性質に応じて種々のグレードがあるが、本発明では、いずれも用いることができる。
【0027】
本発明において、無機層間に挿入される抗生物質の群としては、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系、モノバクタム系、カルバペネム系)、マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、キノロン系、クロラムフェニコール系、グリコペプチド系の抗生物質の群の中から選ばれた少なくとも一種以上の抗生物質を挙げることができる。本発明において、抗生物質は、無機層状化合物の層間に物理的あるいは静電的に保持されている。すなわち、無機層状化合物の層間は、一般には、陽イオンが静電的に保持されているが、本発明においては、層間に抗生物質が保持されている。
【0028】
本発明の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を製造するには、例えば、次のような方法によることができる。先ず、無機層状化合物を任意の重量分計量する。これに脱イオン水を適量添加し、充分に撹拌を行い、無機層状化合物の重量濃度が0.1〜10wt%程度となる無機層状化合物懸濁液を調製する。次に、使用する無機層状化合物の陽イオン交換容量当量に対し、0.1〜3倍量分の脱イオン水あるいは有機溶媒の抗生物質溶液を調製する。この時使用する有機溶媒は、生理活性機能を有する抗生物質が溶解すれば良く、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール及びアセトン等が使用できる。
【0029】
この抗生物質溶液をあらかじめ分散させておいた無機層状化合物懸濁液中に投入し、撹拌しながら陽イオン交換反応を行うことで、抗生物質を無機層状化合物の層間に挿入、担持する。交換反応速度は、混合した上記懸濁液を加熱することで、早めることができる。反応は、懸濁液温度が5℃付近からでも進行するが、5〜90℃付近までの加熱を行い、交換反応を円滑に進行させることが望ましい。反応時間は、設定した温度条件によって変化するが、0.5〜72時間程度が適当である。使用する抗生物質の種類によって、最適反応温度や反応時間は勿論異なる。
【0030】
加熱反応中には、反応系の水分が蒸発しないように、反応容器上部に水冷の冷却管を装備することが好ましい。反応終了後、固液を分離洗浄して抗生物質を層間に取り込んだ有機無機複合材料を得ることができる。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、凍結乾燥、噴霧乾燥あるいは加熱乾燥等が挙げられる。更に、抗生物質を層間に取り込んだ有機無機複合材料懸濁液を平面に展開・乾燥し、キャスト膜として得ることもできる。抗生物質は、元来、微生物の代謝生成物として知られているが、人工合成された、同様の生理活性機能を有する化学的に合成された抗生物質の群を用いても良い。
【0031】
本発明の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、軟膏剤、クリーム剤、乳剤、ペレット等の、散布又は塗布に適した任意の形態に製剤加工してこれらの加工製品にすることができる。加工製品を製造する方法は、特に限定されず、抗生物質を層間に担持した有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられる方法により製造することができる。本発明の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料は、無機層間に抗生物質がイオン化して存在している。そのため、生理活性機能を有する抗生物質の系外への徐放速度を制御できるため、生理活性効果の持続性が極めて高い。目的や使用環境に応じて、生理活性機能を有する抗生物質を層間に担持した有機無機複合材料と、他の有機あるいは無機材料と混合して成形体を形成して使用することも適宜可能である。
【0032】
本発明の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料は、無機層間に抗生物質が、静電的に固定化されて存在している。そのため、本発明の有機無機複合材料の合成に使用する無機層状化合物を、陽イオン交換容量や結晶構造、比表面積等から適宜選択して、層の荷電量と電荷分布割合を考慮することにより、層間内における抗生物質の保有量や、層間内における抗生物質の保持力を制御することができる。
【0033】
すなわち、上記因子を選択、制御することで、生理活性作用を有する抗生物質が徐々に放たれて行く徐放速度を制御することが可能であるから、生理活性効果の程度及び持続性・耐候性を制御することができ、また、持続性を極めて長くすることもできる。目的や使用環境に応じて、生理活性機能を有する抗生物質を層間担持した有機無機複合材料と、他の有機あるいは無機材料と混合して成形体を形成して使用することも可能である。
【0034】
従来、抗生物質を他の材料と複合化してその徐放性を改善するために幾つか手段が提案されており、例えば、抗生物質と高分子を混合してシート状にした高分子複合物、抗生物質のスラリーを無機粒状材料と混合した薬剤、デンプンと抗生物質からなるフィルム状組成物、造粒した無機あるいは有機担体と抗生物質及びコーティング剤を混合、被覆した被覆体等が例示される。しかし、これらは、薬剤成分の抗生物質を単体で処理したものであり、その徐放効果を向上させるには限度があり、高い徐放機能を付与することは困難であった。
【0035】
これに対して、本発明は、主原料として、層間に交換性陽イオンを有し、所定の陽イオン交換容量(CEC)を有する無機層状化合物を用いること、無機層状化合物の層間に生理活性作用を有する抗生物質を挿入して、そのカチオン交換性を利用してこの無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性作用を有する抗生物質を交換すること、それにより、抗生物質を層間に存在する陽イオンとのイオン交換反応の形で層間に担持させること、が重要であり、それにより、抗生物質を無機層状化合物の層間に安定に担持させて、著しく徐放性を向上させた有機無機複合材料を合成することを実現可能としたものである。
【0036】
本発明は、生理活性機能を有する抗生物質を、静電的に粘土層間に固定化する技術と、高効率の生理活性効果確認技術を確立した点において新規である。これまでの既報特許のほとんどは、当該化合物の無機多孔質担体表面への物理的な吸着あるいは単純な混練手段を採用するに留まり、化学的手法による層間担持や徐放性制御について考慮されていない。生理活性物質は、この陽イオン交換反応を利用することで粘土層間に固定化されるため、生理活性機能の制御された持続性(生理活性物質の徐放性)と共に、耐熱・耐候・環境親和性の向上や、他構造部材との複合化による加工製品への展開等が達成される。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料、その製造方法、及び当該有機無機複合材料を含有する加工製品を提供することができる。
(2)本発明の有機無機複合材料は、優れた生理活性機能、例えば、病害虫防除機能、抗微生物機能等の持続性や環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、植物栽培などに応用可能である。
(3)本発明の有機無機複合材料の層間では、生理活性機能を有する抗生物質が、ナノメートルオーダーで均一に分散しているため、有機無機複合材料を、生体内、培地及び農地に対して使用環境に応じて、直接投与あるいは散布して均一に薬剤を徐放させることができるので、病害虫防除機能、抗微生物機能等の生理活性作用を有効に発揮することが可能となる。
(4)本発明の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、生理活性機能を有する抗生物質の徐放速度を制御することができるため、生理活性効果の持続性が極めて高く、例えば、任意の形態に製剤加工された加工製品とすることもできる。
(5)抗生物質群を選択することで、低コストでかつ安全に、目的に応じた機能を賦与させることができる。
(6)加工製品を製造する方法は、特に限定されず、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられている方法により製造することができる。
(7)加工製品は、使用環境に応じた合目的な設計が可能であるため、広範な産業分野での利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量のオキシテトラサイクリン(C2224)溶液を調製した。この水溶液をあらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、室温で撹拌しながら24時間保持して交換反応を行った。
【0040】
反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、30℃電気乾燥機中で乾燥させた。このようにして、暗褐色粉末状のオキシテトラサイクリンをモンモリロナイトの層間に担持した、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を得た。
【実施例2】
【0041】
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量のテトラサイクリン(C2224)溶液を調製した。この水溶液をあらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、室温で撹拌しながら24時間保持して交換反応を行った。
【0042】
反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、30℃電気乾燥機中で乾燥させた。このようにして、黄土色粉末状のテトラサイクリンをモンモリロナイトの層間に担持した、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を得た。
【実施例3】
【0043】
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量のカナマイシン(C183611)溶液を調製した。この水溶液をあらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、室温で撹拌しながら24時間保持して交換反応を行った。
【0044】
反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、30℃電気乾燥機中で乾燥させた。このようにして、白色粉末状のカナマイシンをモンモリロナイトの層間に担持した、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を得た。
【実施例4】
【0045】
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量のストレプトマイシン(C213912)溶液を調製した。この水溶液をあらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、室温で撹拌しながら24時間保持して交換反応を行った。
【0046】
反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、30℃電気乾燥機中で乾燥させた。このようにして、象牙色粉末状のストレプトマイシンをモンモリロナイトの層間に担持した、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を得た。
【実施例5】
【0047】
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量のバンコマイシン(C6675Cl24)溶液を調製した。この水溶液をあらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、室温で撹拌しながら24時間保持して交換反応を行った。
【0048】
反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、30℃電気乾燥機中で乾燥させた。このようにして、薄茶色粉末状のバンコマイシンをモンモリロナイトの層間に担持した、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を得た。
【0049】
(1)実施例1、2、3、4及び5の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の層間挿入確認試験
得られた抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料は、原料モンモリロナイトよりも疎水性が高く、有機金属錯体の層間挿入が行われたことが示唆された。図1に、出発原料及び層間化合物の粉末X線回折図形を示す。原料であるモンモリロナイトの回折図形からは、粘土鉱物特有の回折ピークのみが確認された。基底面間隔値は、水一分子層を含む1.24nmであった。挿入有機物である抗生物質の分子構造が複雑かつ極めて嵩高いため、層間内での配列を予想することは困難であるが、いずれの実施例においても、層間挿入反応が行われたことが確認された。詳細を以下に示す。
【0050】
オキシテトラサイクリン及びテトラサイクリンを担持した複合体の基底面間隔値は、それぞれ2.04、2.08nmである。挿入有機物の嵩高さが同程度であるため、基底面間隔値は接近している。また、層構造に起因する(002)、(004)回折線も確認された。オキシテトラサイクリン及びテトラサイクリン構成する基本芳香環のサイズが>0.97nmであることを考えると、これらの挿入有機物は、粘土層間内でc軸方向に対して水平に配列していると推測される。
【0051】
カナマイシンを担持した複合体の配向性は高く、基底面間隔値が1.43nmであり、芳香環が層内平面に対して若干傾いて配列している構造を有することが予想された。また、ストレプトマイシンを担持した複合体の基底面間隔値は1.69nmであり、層間挿入反応が生じたことが確認された。嵩高い分子構造を有するバンコマイシンを担持した複合体の基底面間隔値は4.13nmの高い数値を示し、長周期構造を有することが明らかとなった。
【0052】
(2)実施例1、2、3、4及び5の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の抗生物質交換率確認試験
各複合体について、炭素含有率測定を行い、使用したモンモリロナイトの陽イオン交換容量に対して、層間挿入された抗生物質の交換率を計算した。その結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、使用した原料モンモリロナイト層間の交換性ナトリウムイオンの殆どが、抗生物質で置き換えられたことが判明し、目的とする抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料が合成されたことが確認された。
【0055】
(3)実施例1、2、3、4及び5の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の熱的挙動
実施例に準じた方法で得られた複合体の熱的挙動を調査するため、示差熱重量分析装置を用いた分析を行った。それぞれの試料について、昇温速度5℃/分、1050℃までの熱処理を行い、熱的過程における熱重量変化率(TG)と、熱的過程における示差熱変化すなわち、吸熱及び発熱挙動(DTA)をモニターした。
【0056】
図2に示した原料モンモリロナイトの示差熱重量分析曲線からは、100℃付近での急激な熱重量減少と吸熱ピークが確認された。これは、表面吸着水と、層間内に存在するナトリウムイオンに配位している水分子の離脱によるものである。また、600−700℃付近の熱減量と吸熱ピークは、結晶構造内の水酸基の離脱に起因する。オキシテトラサイクリンとテトラサイクリンを挿入した試剤の示差熱分析曲線からは、300、500、600℃付近に3本の発熱ピークと、それに対応する熱重量曲線が観察され、類似の示差熱重量曲線を示した(図3、4)。
【0057】
これは、オキシテトラサイクリンとテトラサイクリンの分子構造が類似しているためである。また、分子構造中に連結した4つの六員環が存在するため、層間内での炭素化挙動が、他の抗生物質担持複合体のそれらとは異なる可能性がある。カナマイシンを担持した複合体と、ストレプトマイシンを担持した複合体及びバンコマイシンを担持した複合体の示差熱分析曲線からは、300℃付近と600℃付近に発熱ピークが確認された(図5、6及び7)。
【0058】
300℃付近の発熱ピークは、粘土層間エッジ部分からの挿入有機物の脱離によるものと推測される。また、これらの挿入試剤は、分子構造が嵩高く、300℃以降の温度領域においても、層間内での炭素化後に残存することが予想される。600℃付近での発熱ピークは、層間内に残存した炭素質の燃焼によるものと考えられ、特に、バンコマイシンは分子量が大きく、また、ベンゼン環の数も多いので、層間内で容易に炭素化するものと思われる。
【0059】
バンコマイシンを担持した複合体の理論有機物含有率は57.2wt%、ストレプトマイシン及びカナマイシンを担持した複合体の理論有機物含有率は35.0wt%と31.2wt%であるので、最終熱重量減少率と照らし合わせると、ストレプトマイシン及びカナマイシンの層間挿入割合はCEC等量よりも若干低いことが判明し、これは、炭素含有率測定の結果と良く一致していることが明らかとなった。いずれの試剤においても、重量減少開始温度が200−300℃付近にあるため、この温度領域までは、生理活性効果を維持する耐熱性があるものと考えられる。
【0060】
(4)抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の抗菌活性及び徐放性試験
オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、ストレプトマイシン及びバンコマイシンを担持した複合体の抗菌活性及び徐放性試験を行った。各試料は160.0mgを秤量し、10mlの滅菌蒸留水又は5%DMSO溶液に分散させて試験原液とした。最小発育阻止濃度試験は、抗菌製品評価協議会の試験法(1998版)を準用した。
【0061】
すなわち、試験原液から6段階2倍希釈列(必要に応じて15段階まで)を作製し、各々の1mlを、あらかじめ9mlのカチオン調整済みミューラー・ヒントン・ブイヨン(CSMHB)入りL字型試験管に挿入し、充分に撹拌した。滅菌蒸留水を対照として用いた。CSMHBとはミューラー・ヒントン・ブイヨン培地に塩化カルシウムと塩化マグネシウム(最終濃度;それぞれ50mg/Lと25mg/L)を添加したものである。
【0062】
2回継代培養したStaphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)及びEscherichia coli NBRC3972(大腸菌)を試験に供した。ミューラーヒントンブイヨン(MHB)により、およそ10CFU/mlに調整し、その0.1mlを前述のL字型試験管希釈系列に接種した。35℃、18〜24時間で、100rpm振盪培養した後、目視による判定を行い、菌の発育を認めない最小濃度をMICとした。
【0063】
徐放性試験は、上記試験原液をローターミックス(ATR)を用いて20rpmの速度で常時回転させた。調整後1、5及び30日目のMICを測定した。また、5日目以降は、複合体に対してMIC測定の1日前に洗浄操作を行った。すなわち、複合体試料懸濁液2mlを15000rpm、5分間遠心分離した後、上澄みを除去し滅菌蒸留水で再懸濁する操作を3回繰り返し、1日間徐放させた後、陽性対照及び複合体試料と同様に、MIC試験に供した。その結果を表2及び表3に示した。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
表2及び表3に示した様に、30日間の徐放試験後であっても、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性は維持されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上詳述したように、本発明は、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料とその製造方法に係るものであり、本発明により、優れた生理活性機能、例えば、病害虫防除機能、抗微生物機能等の持続性や環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、植物栽培などに応用可能な有機無機複合材料を提供することができる。本発明の有機無機複合材料の無機層状化合物の層間では、生理活性機能を有する抗生物質がナノメートルオーダーで均一に分散しているため、生体内でのドラッグデリバリーや培地表面などの環境中で使用された場合でも分散性に優れている。また、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、活性機能を有する抗生物質の系外への徐放速度を制御できるため、生理活性効果の持続性が極めて高く、任意の形態に製剤加工された加工製品とすることができる。加工製品を製造する方法は、特に限定されず、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられる方法により製造することができるので簡便かつ低コストでの生産が可能である。このような加工製品は、使用環境に応じた合目的な設計が可能であるため、広範な産業分野での利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例1、2、3、4及び5に係る、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料と、対照試料である原料モンモリロナイトの粉末X線回折図形である。
【図2】本発明に係る、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の対照試料である原料モンモリロナイトの示差熱重量分析曲線である。
【図3】本発明の実施例1に係る、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料であるオキシテトラサイクリン担持複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図4】本発明の実施例2に係る、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料であるテトラサイクリン担持複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図5】本発明の実施例3に係る、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料であるカナマイシン担持複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図6】本発明の実施例4に係る、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料であるストレプトマイシン担持複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図7】本発明の実施例1に係る、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料であるバンコマイシン担持複合体の示差熱重量分析曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料であって、交換性陽イオンを有する無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に交換性陽イオンとのイオン交換反応により抗生物質を挿入、担持させたことを特徴とする、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料。
【請求項2】
抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を形成する抗生物質が、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系、モノバクタム系、カルバペネム系)、マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、キノロン系、クロラムフェニコール系、グリコペプチド系の抗生物質の群の中から選ばれた少なくとも一種以上の抗生物質である、請求項1に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料。
【請求項3】
主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、請求項1に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料。
【請求項4】
層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母である、請求項3に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を製造する方法であって、交換性陽イオンを有する無機層状化合物を主原料とし、その無機層状化合物の層間に抗生物質を挿入して、交換性陽イオンとのイオン交換反応により、この無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと抗生物質を交換することにより、抗生物質を層間に担持した有機無機複合材料を合成することを特徴とする、抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の製造方法。
【請求項6】
抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を形成する抗生物質が、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系、モノバクタム系、カルバペネム系)、マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、キノロン系、クロラムフェニコール系、グリコペプチド系の抗生物質の群の中から選ばれた少なくとも一種以上の抗生物質である、請求項5に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の製造方法。
【請求項7】
主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母である、請求項5に記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の抗生物質徐放機能を有する有機無機複合材料を含有し、任意の形態に製剤加工されていることを特徴とする加工製品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−174478(P2008−174478A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8556(P2007−8556)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】