説明

抗癌剤の副作用軽減剤

本発明は、トロンビン様酵素を含んでなる抗癌剤の副作用軽減剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、トロンビン様酵素を含んでなる抗癌剤の副作用軽減剤に関する。
【0002】
背景技術
近年、定期検診により癌の早期診断、早期発見が可能となり、外科的手術による原発癌の除去の成功率が着実に向上している。しかしながら、晩期癌又は転移巣を伴う癌の治療には依然として多剤併用の化学療法、又は化学療法と放射線治療法との併用療法が用いられている。
特に、黒色腫、肺癌、肝癌及び膵臓癌などの悪性度が高い悪性腫瘍は早期診断が難しく、悪性腫瘍と診断された時点では、既に原発癌と転移癌とが同時に存在し、外科的手術を受けられないケースが非常に多い。このような悪性腫瘍の治療には抗癌剤の多剤併用の化学療法が多く使われている。
現在、臨床で広く使用されている抗癌剤として、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗癌性抗生物質、植物アルカロイド及び白金製剤などの細胞障害性抗癌剤が知られている。しかし、細胞障害性抗癌剤は癌細胞だけでなく細胞分裂を盛んに行っている正常細胞に対しても障害を与え、骨髄抑制、心臓毒性、造血障害、消化器障害及び脱毛などの副作用を起こすため、癌治療に有効な量を投与できないことが致命的な欠点とされている。
【0003】
アルキル化剤であるシクロホスファミドは急性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などに有効であることから臨床で広く使用されている。シクロホスファミドはDNAをアルキル化してDNAの働きをおさえることにより細胞増殖を阻害する薬剤であるが、癌細胞だけでなく正常細胞の増殖までも阻害することから、副作用を引き起こす。副作用としては、嘔吐、下痢、脱毛及び骨髄抑制等が知られている。
【0004】
抗癌性抗生物質であるアドリアマイシン(ドキソルビシン)は、急性白血病、悪性リンパ腫などの血液癌、肺癌、乳癌及び骨肉腫などの固形腫瘍などの各種の癌に有効であり、臨床で広く使用されている。しかし、アドリアマイシンは骨髄抑制、心臓毒性、口内炎、消化器障害及び脱毛などの副作用を引き起こすことが知られている。特に、アドリアマイシンの心臓毒性は重篤な副作用となることから臨床上問題となっており、その投与量制限の要因となっている( William Lown J et al.: Strand scission of DNA by bound adriamycin and daunorubicin in the presence of reducing agents. Biochem. Biophys. Res. Commun., 76(3):705-710,1977)。
【0005】
白金製剤であるシスプラチンも幅広い抗癌スペクトルを有する抗癌剤である。しかし、嘔気、嘔吐を主体とする消化器障害、全身倦怠、腎障害及び造血障害といった副作用のため、臨床での投与量が制限されている。また、これらの副作用を軽減させるために合成されたシスプラチン誘導体であるカルボプラチンは、シスプラチンに比べ副作用は低くなっているものの、抗癌活性も低くなるといった問題がある。
【0006】
このような状況下、抗癌剤の副作用を軽減する薬剤の開発が臨床の場で強く求められている。これまでに、抗癌剤の副作用軽減剤の1つとして、ニトロトリアゾール誘導体を含むことを特徴とする細胞障害性抗癌剤の副作用軽減剤が報告されている(日本特許第3482418号)。この文献は、ニトロトリアゾール誘導体が多くの抗癌剤の副作用である体重減少を抑制することを報告している。
【0007】
また、プテリン誘導体あるいはネオプテリン誘導体を有効成分とする癌転移抑制剤ならびに抗癌剤の副作用治療剤が報告されている(日本特許第3156112号)。この文献は、プテリン誘導体あるいはネオプテリン誘導体が癌の転移を抑制して延命効果をもたらすとともに、アントラキノン系抗癌剤による心臓毒性などの副作用を軽減させる効果があることを明らかにしている。
【0008】
Bothrops atrox moojeniの毒液に由来するトロンビン様酵素であるバトロキソビン(Batroxobin)について、悪性腫瘍の増殖及び転移の抑制に有効であることが報告されている(Chmielewska J et al.: Effect of defibrination with batroxobin on growth and metastasis of JW sarcoma in mice. Europ. J. Cancer, 16:919-923,1980) 。この文献に開示されている技術は、悪性腫瘍細胞を攻撃する免疫系から当該細胞を保護するバリヤーとしてフィブリノーゲンが機能しているとの推定に基づいて、トロンビン様酵素によりフィブリノーゲンを減少させて、免疫系による悪性腫瘍細胞に対する攻撃を容易にし、結果としてバトロキソビンが悪性腫瘍の増殖及び転移を抑制するというものである。尚、バトロキソビンと抗癌剤副作用の軽減との関係についての報告例は存在していない。
【0009】
発明の開示
上記の特許文献に記載のニトロトリアゾール誘導体、プテリン誘導体及びネオプテリン誘導体は、現時点で医薬品として臨床で使用されていない。したがって、抗癌剤の副作用、特に骨髄抑制や心臓毒性などの重篤な副作用を効果的に軽減することのできる薬剤の開発が強く求められている。
【0010】
本発明者らは、シクロホスファミド、アドリアマイシン及びシスプラチンなどの抗癌剤により引き起こされる骨髄抑制や心臓毒性などの副作用の軽減について鋭意研究を行ったところ、トロンビン様酵素であるバトロキソビンがこれらの抗癌剤の副作用を軽減することを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、トロンビン様酵素を含有することを特徴とする抗癌剤の副作用軽減剤に関するものである。特に、本発明は、以下の通りである。
【0011】
(1)トロンビン様酵素を含有することを特徴とする、抗癌剤の副作用軽減剤。
(2)トロンビン様酵素がフィブリノーゲンからフィブリンIを生成するプロテアーゼである、前記(1)に記載の副作用軽減剤。
(3)トロンビン様酵素がバトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼからなる群より選ばれる、前記(1)に記載の副作用軽減剤。
(4)トロンビン様酵素がバトロキソビンである、前記(1)に記載の副作用軽減剤。
(5)抗癌剤が細胞障害性抗癌剤である、前記(1)に記載の副作用軽減剤。
(6)細胞障害性抗癌剤がアルキル化剤、抗癌性抗生物質及び白金製剤からなる群より選ばれる、前記(5)に記載の副作用軽減剤。
(7)細胞障害性抗癌剤がシクロホスファミド、アドリアマイシン及びシスプラチンからなる群より選ばれる、前記(5)に記載の副作用軽減剤。
(8)副作用が抗癌剤による骨髄抑制又は心臓毒性である、前記(1)に記載の副作用軽減剤。
(9)副作用が細胞傷害性抗癌剤による骨髄抑制である、前記(1)に記載の副作用軽減剤。
(10)細胞障害性抗癌剤がアルキル化剤、抗癌性抗生物質及び白金製剤からなる群より選ばれる、前記(9)に記載の副作用軽減剤。
(11)細胞障害性抗癌剤がシクロホスファミド、アドリアマイシン及びシスプラチンからなる群より選ばれる、前記(9)に記載の副作用軽減剤。
(12)副作用が抗癌性抗生物質による心臓毒性である、前記(1)に記載の副作用軽減剤。
(13)抗癌性抗生物質がアドリアマイシンである、前記(12)に記載の副作用軽減剤。
(14)トロンビン様酵素の有効量を被験者へ投与することからなる、被験者における抗癌剤の副作用を軽減する方法。
(15) 抗癌剤の副作用軽減剤を製造するためのトロンビン様酵素の使用。
【0012】
本発明の抗癌剤の副作用軽減剤は、後述する実施例で示されるように、抗癌剤の副作用、特に骨髄抑制や心臓毒性といった重篤な副作用を効果的に軽減することができる。すなわち、抗癌剤と同時に、または抗癌剤を投与した後に1日1〜2回程度、本発明の副作用軽減剤を投与することにより抗癌剤の副作用を著しく軽減させることができる。したがって、本発明は抗癌剤を用いた癌治療に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、対照群の左心室の心筋組織の光学顕微鏡写真(H&E染色、X400倍)である。
【図2】図2は、バトロキソビン群の左心室の心筋組織の光学顕微鏡写真(H&E染色、X400倍)である。
【図3】図3は、アドリアマイシン群の左心室の心筋組織の光学顕微鏡写真(H&E染色、X200倍)である。
【図4】図4は、アドリアマイシン+バトロキソビン群の左心室の心筋組織の光学顕微鏡写真(H&E染色、X200倍)である。
【0014】
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常に用いられる意味で用いられていると理解すべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。これと矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先するものである。
【0015】
以下に本明細書において使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において使用される「トロンビン様酵素」とは、フィブリノーゲンを凝固させる性質を有するトロンビン以外のプロテアーゼをいう。具体例としては、バトロキソビン(Batroxobin)、アンクロッド(Ancrod)、クロタラーゼ(Crotalase)、フラボキソビン(Flavoxobin)、アスペラーゼ(Asperase)、アクチン(Acutin)、ボトロパーゼ(Botropase)、クロターゼ(Clotase)、ガボナーゼ(Gabonase)、ベンザイム(Venzyme)などが挙げられる。
トロンビン様酵素は基質であるフィブリノーゲン分子上の作用部位により、(i)フィブリノペプチドAのみを遊離させてフィブリンIを生成するプロテアーゼ(バトロキソビン、アンクロッド、クロタラーゼなど)、(ii)フィブリノペプチドAおよびフィブリノペプチドBを遊離させてフィブリンII(フィブリンともいう)を生成するプロテアーゼ(ガボナーゼなど)、(iii)主にフィブリノペプチドBを遊離させるプロテアーゼ(ベンザイムなど)、の3種類に分けられる。
【0016】
本明細書において、「フィブリンI」とは、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離して生成したモノマー(monomer)をいう。このフィブリンIはDes Aフィブリンともいう。また、「フィブリノペプチドA」とは、フィブリノーゲンのAα鎖のNH2末端より16個のアミノ酸残基を有するペプチドをいう。
また、本明細書において、「フィブリノーゲンからフィブリンIを生成するプロテアーゼ」の具体例としては、バトロキソビン、アンクロッド、クロタラーゼ、フラボキソビン、アスペラーゼ及びアクチンなどが挙げられる。
【0017】
本発明の好ましいトロンビン様酵素には、バトロキソビン、アンクロッド、クロタラーゼが含まれる。(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p130-131;1990)。これらのなかでも、特にバトロキソビンが好ましい。
バトロキソビンはBothrops atrox moojeniの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が36,000Daの糖タンパク質である。
トロンビンは、生体内に存在するプロトロンビンが活性化された糖タンパク質の構造を有する酵素であり、糖タンパク質の構造を有する点では、トロンビンとバトロキソビンは類似する酵素である。しかしながら、トロンビンはフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAだけでなく、フィブリノペプチドBをも遊離してフィブリンを生成する点でバトロキソビンとは相違する。また、バトロキソビンはフィブリノーゲン以外の血液凝固因子に作用しないが、トロンビンは他の血液凝固因子に作用する点でも相違する。
バトロキソビンは、それ自体公知化合物であり、例えば、日本特許出願公告第57−10718号公報(日本特許第1118129号)に記載の方法にしたがって調製可能であるが、製品(東菱薬品工業株式会社(東京都、日本)及びその子会社であるBeijing Tobishi Pharmaceuticals Co., Ltd.,(北京市、中国))として容易に入手が可能である。
アンクロッドはAgkistrodon rhodostomaの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が約35,400Daの糖タンパクである。アンクロッドはバトロキソビンと同様にフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離してフィブリンIを生成するトロンビン様酵素である(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p134-135;1990)。
クロタラーゼはCrotalus adamanteusの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が約32,700Daの糖タンパクである。クロタラーゼはバトロキソビンと同様にフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離してフィブリンIを生成するトロンビン様酵素である(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p140-141;1990)。
上記したバトロキソビン、アンクロッド、クロタラーゼのような本発明におけるトロンビン様酵素は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え製品であってもよい。
【0018】
本発明において「抗癌剤」とは、癌治療に用いられる薬剤をいう。具体例としては、細胞障害性抗癌剤、分子標的治療薬及びホルモン剤などがあげられる。
また、「細胞障害性抗癌剤」とは、細胞核のDNA又は細胞周期に何らかの影響を与えることにより抗癌作用を発揮する抗癌剤をいう。細胞障害性抗癌剤の具体例としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗癌性抗生物質、白金製剤及び植物アルカロイド剤などが挙げられる。
アルキル化剤としては、たとえば塩酸ナイトロジェンマスタード−N−オキサイド、メルファラン、シクロホスファミド、イホスファミドなどのナイトロジェンマスタード類;カルボコン、チオテパなどのエチレンイミン類;塩酸ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素類などが挙げられる。
代謝拮抗剤としては、たとえばメトトレキサートなどの葉酸拮抗物質;フルオロウラシル、テガフール、カルモフールなどのピリミジン拮抗物質;シタラビン、サイクロシチジン、エノシタビンなどのシトシンアラビノシド類;メルカプトプリン、チオイノシンなどのプリン代謝拮抗物質などが挙げられる。
抗癌性抗生物質としては、たとえばアドリアマイシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ピラルビシンなどのアントラサイクリン;ブレオマイシン、ペプレオマイシンなどのブレオマイシン類;マイトマイシンCなどのマイトマイシン類;アクチノマイシンDなどのアクチノマイシン類;ネオカルチノスタチンなどのポリペプチド類などが挙げられる。
白金製剤としては、たとえばシスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチンなどが挙げられる。
植物アルカロイド剤としては、たとえばビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エドポシド、カンプトテシン、イリノテカンなどが挙げられる。
本発明の副作用軽減剤は、シクロホスファミド、アドリアマイシン及びシスプラチンに対して特に効果的な副作用軽減効果を発揮することができる。
尚、本発明の副作用軽減剤は、上述の抗癌剤の単独投与により起こる副作用だけでなく、併用投与により起こる副作用に対しても軽減効果を発揮することができる。
【0019】
「抗癌剤の副作用」とは、抗癌剤投与時に見られる治療上不必要な作用あるいは臨床上障害となりうる作用をいう。
副作用の具体例としては、骨髄抑制、心臓毒性、脱毛、消化器障害(吐き気、嘔吐、下痢を含む)、腎障害、全身倦怠及び口内炎などが挙げられる。これらの中で、本発明は重篤度の高い副作用である骨髄抑制や心臓毒性に対して高い軽減効果を発揮することができる。
「骨髄抑制」とは、抗癌剤が正常な造血細胞に障害を与えることにより生じる赤血球(RBCs)、白血球(WBCs)及び血小板(Plts)の減少をいう。骨髄抑制に起因して起こる症状としては造血障害による貧血、白血球減少による感染症、血小板減少による出血などが挙げられる。骨髄抑制は、細胞障害性抗癌剤(特に、アルキル化剤、抗癌性抗生物質及び白金製剤)を用いた際に起こりやすい副作用である。骨髄抑制は、その程度が高い場合には、白血球、赤血球や血小板を作り出す造血幹細胞の破壊が起こり、時に重度な貧血、致命的な感染症又は出血(頭蓋内、胃腸、肺の出血)を起こし、最終的には死亡に至ることもある重篤度の高い副作用である。
「心臓毒性」とは、抗癌剤が心筋組織や心筋細胞に与える障害をいう。心臓毒性に起因して起こる症状としてはうっ血性心不全や不整脈などが挙げられる。心臓毒性は、抗癌性抗生物質(特に、アドリアマイシンをはじめとするアントラサイクリン)を用いた際に起こりやすい副作用である。病理組織学上、心筋組織で特有な収縮帯(Contraction bands)を呈することが心臓毒性の評価指標となっている。心筋毒性の程度は抗癌剤の投与量に依存する。心臓毒性は、その程度が高い場合には、うっ血性の心不全を発症して、最終的には死亡に至ることもある重篤度の高い副作用である。
本発明が高い副作用軽減効果を発揮することができるシクロホスファミド、アドリアマイシン及びシスプラチンによる副作用の代表的なものは以下の通りである。

シクロホスファミド
骨髄抑制、嘔吐、下痢、脱毛など

アドリアマイシン
心臓毒性、骨髄抑制、口内炎、消化器障害、脱毛など

シスプラチン
消化器障害、全身倦怠、骨髄抑制、造血障害、腎障害など
【0020】
「軽減」とは、本発明の副作用軽減剤を投与しない場合に起こる抗癌剤副作用を、当該軽減剤の投与により緩和することをいう。「軽減」には、副作用症状が緩和されることだけでなく、副作用そのものが起こらないことも含まれる。
【0021】
本発明の副作用軽減剤の剤型としては、日局製剤総則にある剤型を適用できる。例えば、直接体内に適用する注射剤(懸濁剤、乳剤を含む);軟膏剤(油脂性軟膏、乳剤性軟膏(クリーム)、水溶性軟膏などを含む)、吸入剤、液剤(点眼剤、点鼻剤などを含む)、坐剤、貼付剤、パップ剤、ローション剤などの外用剤;又は、錠剤(糖衣、フィルム、膠衣を含む)、液剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤(細粒を含む)、丸剤、シロップ剤、トローチ剤などの内用剤が挙げられる。これらの製剤は、日局製剤総則などに記載された方法で製剤化することができる。
【0022】
また、本発明の副作用軽減剤は、剤型に応じて医薬的に許容しうる固体状若しくは液体状の担体又は介入治療基材を含んでいてもよい。医薬的に許容しうる固体状若しくは液体状の担体としては、溶剤、安定化剤、保存剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤、緩衝剤、等張化剤、着色剤、増粘剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、矯味剤などが挙げられる。
担体の具体例としては、水、乳糖、白糖、果糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトールなどの糖・糖アルコール類、結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロースおよびその関連誘導体、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、シクロデキストリン、プルランなどのデンプンおよびその関連誘導体、カンテン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲン、セラック、トラガント、キサンタンガム(天然)などの天然高分子(海草類、植物粘質物、タンパク質など)、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、メタアクリル酸コポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ジメチルポリシロキサンなどの合成高分子、オリーブ油、カカオ脂、カルナウバロウ、牛脂、硬化油、ダイズ油、ゴマ油、ツバキ油、パラフィン、流動パラフィン、ミツロウ、白色ワセリン、ヤシ油、マイクロクリスタリンワックスなどの油脂類、ステアリン酸、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、クエン酸トリエチル、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ハードファット、ミリスチン酸イソプロピルなどの脂肪酸及びその誘導体、グリセリン、ステアリルアルコール、セタノール、プロピレングリコール、マクロゴールなどのアルコールおよび多価アルコール、酸化亜鉛、リン酸水素カルシウム、沈降炭酸カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、無水ケイ酸、カオリン、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ヒドロタルサイト、酸化チタン、タルク、ベントナイト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、硫酸アルミニウムカリウム、次没食子酸ビスマス、次サリチル酸ビスマス、乳酸カルシウム、重炭酸ナトリウムなどの無機性物質及び金属塩化合物、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールなどの界面活性物質、色素、香料などが挙げられる。
介入治療基材としてはステント、人工血管、カテーテル、バルーンなどが挙げられる。
【0023】
本発明の副作用軽減剤は、抗癌剤が投与される対象へ投与することができる。投与対象としては、ヒト、イヌ、ネコなどの哺乳動物が挙げられる。本発明の副作用軽減剤はヒトに対して好適に用いることができる。
【0024】
本発明の副作用軽減剤の投与時期は、抗癌剤の種類や投与量等に応じて適宜設定することができるが、抗癌剤と同時に投与するか、あるいは抗癌剤投与後に投与することが好ましい。
本発明の副作用軽減剤の投与量は通常、患者の体重、疾患の性質および状態に依存して変化するが、例えば、トロンビン様酵素としてバトロキソビンを成人に1日1回投与する場合、0.1〜50バトロキソビン単位(Batroxobin Unit、以下BUと略す)である。好ましい投与量は成人隔日1回(1回に1〜20 BU)である。外用剤の場合は1gあたり0.01〜500mgである。
バトロキソビン単位は、バトロキソビンの酵素活性量を示す単位であり、37℃で、標準ヒトクエン酸加血漿0.3mlにバトロキソビン溶液0.1mlを加えるとき、19.0±0.2秒で凝固する活性量を 2BU とするものである。
本発明の副作用軽減剤の投与は、例えば、トロンビン様酵素を生理食塩水で適宜希釈し、次いで静脈内点滴投与、静脈内注射、動脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、心臓内注射、腹腔内注射、くも膜下注射、又は、直腸内投与、舌下投与、鼻粘膜投与、経皮投与、吸入、或いは障害を受けた臓器及び/又は組織への局所投与により行うことができる。一般的には100ml以上の生理食塩水で希釈して、1時間以上点滴するのが好ましい。
【0025】
本発明の副作用軽減剤に用いられるトロンビン様酵素であるバトロキソビンのマウス、ラット、ウサギ、イヌに対する急性毒性(LD50 (BU/kg))は以下の表1の通りである。急性毒性試験は、バトロキソビンの静脈内投与により評価した。
【0026】
表1 バトロキソビンの急性毒性(i.v.)

【0027】
以下に製剤例、実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例及び実施例により限定されるものではない。
【0028】
[製剤例1]
トロンビン様酵素としてバトロキソビンを用いて、下記の組成を有する抗癌剤の副作用軽減剤を製造した。
バトロキソビン(活性成分) 10BU
クロロブタノール(保存剤) 3mg
ゼラチン加水分解物(安定化剤) 0.1mg
塩化ナトリウム(等張化剤) 9mg
塩酸(pH調節剤) 適量
注射用蒸留水 1mlまで
全量 1ml
【0029】
[実施例1] アドリアマイシンによる致死毒性に対するバトロキソビンの軽減作用
トロンビン様酵素であるバトロキソビン(以下DF−521と略す)としては、Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd.(北京市、中国)のDong Ling Di Fu(商品名)を用いた。
抗癌剤であるアドリアマイシン(以下ADMと略す)としては、Hualian Pharmaceutical Factory of Shanghai Pharmaceutical (Group) Co., Ltd.の製品を用いた。
実験動物である雄性C57BL/6マウス(体重:19〜22g)を1群10匹として、対照群、アドリアマイシン群(ADM群)、アドリアマイシン+バトロキソビン群(ADM+DF−521群)とに分けた。対照群には生理食塩水を投与した。
アドリアマイシン群には3mg/kgのアドリアマイシンを隔日1回、腹腔内投与した。アドリアマイシン+バトロキソビン群には、3mg/kgのアドリアマイシン投与と同時に30BU/kgのバトロキソビンを隔日1回、腹腔内投与した。投薬は合計で18回行った。初回投薬から41日目に実験を終了し、死亡例を集計して、死亡率から生存率を計算した。結果を表2に示す。
【0030】
表2

*p<0.05 対照群との比較
#p<0.05 ADM群との比較
【0031】
表2に示す通り、アドリアマイシン群では6匹のマウスが死亡した。マウスの死亡はアドリアマイシンにより引き起こされた骨髄抑制や心臓毒性などの総合的な副作用によるものと考えられる。一方、アドリアマイシン+バトロキソビン群では全てのマウスが生存した。アドリアマイシン+バトロキソビン群の生存率がアドリアマイシン群の生存率よりも有意(p<0.05)に高いという結果は、バトロキソビンがアドリアマイシンによる副作用を軽減したことを示している。
【0032】
[実施例2] シクロホスファミドによる骨髄抑制に対するバトロキソビンの軽減作用
トロンビン様酵素であるバトロキソビン(以下DF−521と略す)としては、Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd.(北京市、中国)のDong Ling Di Fu(商品名)を用いた。
抗癌剤であるシクロホスファミド(以下CPAと略す)としては、Shanxi Powerdone Pharmaceutical Co., Ltd.の製品を用いた。
実験動物である雄性C57BL/6マウス(体重:20〜24g)を1群5匹として、対照群、シクロホスファミド群(CPA群)、シクロホスファミド+バトロキソビン群(CPA+DF-521群)とに分けた。対照群には隔日1回に生理食塩水を投与した。シクロホスファミド群には100mg/kgのシクロホスファミドを隔日1回、腹腔内投与した。シクロホスファミド+バトロキソビン群には100mg/kgのシクロホスファミド投与と同時に30BU/kgバトロキソビンを隔日1回、腹腔内投与した。4回目の投薬後(初回投薬後7日目)に、EDTA抗凝固剤を用い、エーテル麻酔下で大腿動脈より採血し、白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(Hb)及び血小板数(Plt)を測定した。
更に実験動物の大腿骨1本あたりの骨髄有核細胞数(BMNC)を下記の手順により測定した。実験動物の2本の大腿骨より骨髄を採取し、2mlの生理食塩水で骨髄を洗い流し、骨髄細胞浮遊液とした。20μlの骨髄細胞浮遊液を380μlの 3%の酢酸溶液に入れ、赤血球を破壊した後に、血球計算盤を用い、顕微鏡下で骨髄有核細胞数を測定し、大腿骨1本あたりの骨髄有核細胞数を算出した。
上記の骨髄有核細胞数、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン値及び血小板数をシクロホスファミドによる骨髄抑制の評価指標として用いた。結果を表3に示す。
【0033】
表3

*p<0.05 対照群との比較
**p<0.01 対照群との比較
##p<0.01 CPA群との比較
【0034】
シクロホスファミド群の骨髄有核細胞数、白血球数及び赤血球数は、対照群より顕著に減少した(p<0.05又はp<0.01)。一方、シクロホスファミド+バトロキソビン群の骨髄有核細胞数及び白血球数は、シクロホスファミド群と比較して有意に高かった(p<0.01)。また、シクロホスファミド+バトロキソビン群の赤血球数、ヘモグロビン値及び血小板数はシクロホスファミド群と比べ、変化が見られなかった。
本実施例において、バトロキソビンがシクロホスファミドによる骨髄有核細胞数及び白血球数の低下を軽減させることを確認できた。したがって、バトロキソビンはシクロホスファミドの骨髄抑制を軽減することができると理解される。
【0035】
[実施例3] アドリアマイシンによる骨髄抑制に対するバトロキソビンの軽減作用
トロンビン様酵素であるバトロキソビン(以下DF−521と略す)としては、Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd.(北京市、中国)のDong Ling Di Fu(商品名)を用いた。
抗癌剤であるアドリアマイシン(以下ADMと略す)としては、Hualian Pharmaceutical Factory of Shanghai Pharmaceutical Group Co., Ltd.の製品を用いた。
実験動物であるC57BL/6マウス(体重:19〜22g)を1群5〜10匹(n=5又は10)として、対照群、アドリアマイシン群(ADM群)、アドリアマイシン+バトロキソビン群(ADM+DF-521群)とに分けた。対照群には生理食塩水を隔日1回投与した。アドリアマイシン群には3mg/kgのアドリアマイシンを隔日1回、腹腔内投与した。アドリアマイシン+バトロキソビン群には3mg/kgのアドリアマイシン投与と同時に30BU/kgのバトロキソビンを隔日1回、腹腔内投与した。9回目の投与後に実験を終了させ、EDTA抗凝固剤を用い、エーテル麻酔下で大腿動脈より採血し、白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)及びヘモグロビン値(Hb)を測定した。
更に実験動物の大腿骨1本あたりの骨髄有核細胞数(BMNC)を下記の手順により測定した。実験動物の2本の大腿骨より骨髄を採取し、2mlの生理食塩水で骨髄を洗い流し、骨髄細胞浮遊液とした。20μlの骨髄細胞浮遊液を380μlの 3%の酢酸溶液に入れ、赤血球を破壊した後に、血球計算盤を用い、顕微鏡下で骨髄有核細胞数を測定し、大腿骨1本あたりの骨髄有核細胞数を算出した。
上記の骨髄有核細胞数、白血球数、赤血球数及びヘモグロビン値をアドリアマイシンによる骨髄抑制の評価指標として用いた。結果を表4に示す。
【0036】
表4

**p<0.01 対照群との比較
#p<0.05 ADM群との比較
【0037】
アドリアマイシン群の骨髄有核細胞数、白血球数、赤血球数及びヘモグロビン値は全て、対照群より顕著に減少した(p<0.01)。一方、アドリアマイシン+バトロキソビン群の骨髄有核細胞数およびヘモグロビン値はアドリアマイシン群と比較して有意に高かった(p<0.05)。また、アドリアマイシン+バトロキソビン群の白血球数はアドリアマイシン群と比較して変化がなかった。しかし、アドリアマイシン+バトロキソビン群の赤血球数はアドリアマイシン群と比較して増加傾向を示したが、統計学的な有意差がなかった。
本実施例において、バトロキソビンがアドリアマイシンによる骨髄有核細胞数およびヘモグロビン値の減少を軽減させることを確認できた。したがって、バトロキソビンはアドリアマイシンによる骨髄抑制を軽減することができると理解される。
【0038】
[実施例4] シスプラチンによる骨髄抑制に対するバトロキソビンの軽減作用
トロンビン様酵素であるバトロキソビン(以下DF−521と略す)としては、Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd.(北京市、中国)のDong Ling Di Fu(商品名)を用いた。
抗癌剤であるシスプラチン(以下DDPと略す)としては、Yunnan Gejiu Biochemical Phamaceutical Co., Ltd.の製品を用いた。
実験動物である雄性C57BL/6マウス(体重:20〜22g)を1群10匹として、対照群、シスプラチン群(DDP群)、シスプラチン+バトロキソビン群(DDP+DF-521群)とに分けた。対照群には生理食塩水を隔日1回投与した。シスプラチン群には0.8mg/kgのシスプラチンを隔日1回、腹腔内投与した。シスプラチン+バトロキソビン群には0.8mg/kgのシスプラチン投与と同時に30BU/kgのバトロキソビンを隔日1回、腹腔内投与した。17回目の投与後(初回投薬後33日目)に実験を終了させ、EDTA抗凝固剤を用い、エーテル麻酔下で大腿動脈より採血し、白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(Hb)及び血小板数(Plt)を測定した。
更に実験動物の大腿骨1本あたりの骨髄有核細胞数(BMNC)を下記の手順により測定した。実験動物の2本の大腿骨より骨髄を採取し、2mlの生理食塩水で骨髄を洗い流し、骨髄細胞浮遊液とした。20μlの骨髄細胞浮遊液を380μlの 3%の酢酸溶液に入れ、赤血球を破壊した後に、血球計算盤を用い、顕微鏡下で骨髄有核細胞数を測定し、大腿骨1本あたりの骨髄有核細胞数を算出した。
上記の骨髄有核細胞数、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン値及び血小板数をシスプラチンによる骨髄抑制の評価指標として用いた。結果を表5に示す。
【0039】
表5

*p<0.05 対照群との比較
**p<0.01 対照群との比較
#p<0.05 DDP群との比較
##p<0.01 DDP群との比較
【0040】
シスプラチン群の骨髄有核細胞数及び血小板数は対照群より顕著に減少したが(p<0.01)、シスプラチン群の白血球数、赤血球数及びヘモグロビン値は対照群と比較して変化がなかった。一方、シスプラチン+バトロキソビン群の骨髄有核細胞数及び血小板数はシスプラチン群より有意に高かった(p<0.05)。また、シスプラチン+バトロキソビン群の赤血球数及びヘモグロビン値は、シスプラチン群より有意に高かった(p<0.05、またはp<0.01)が、シスプラチン+バトロキソビン群の白血球数はシスプラチン群と比較して変化がなかった。
本実施例において、バトロキソビンがシスプラチンによる骨髄有核細胞数および血小板数の減少を軽減させることを確認できた。したがって、バトロキソビンはシスプラチンによる骨髄抑制を軽減することができると理解される。
【0041】
[実施例5] アドリアマイシンの心臓毒性に対するバトロキソビンの軽減効果
トロンビン様酵素であるバトロキソビン(以下DF-521と略す)としては、Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd.(北京市、中国)のDong Ling Di Fu(商品名)を用いた。
抗癌剤であるアドリアマイシン(以下ADMと略す)としては、Shenzhen Main Luck Pharmaceuticals Inc.の製品を用いた。
実験動物である雄性C57BL/6マウス(体重:16〜18g)を、対照群(10匹)、バトロキソビン群(7匹)、アドリアマイシン群(7匹)、アドリアマイシン+バトロキソビン群 (7匹)との4群に分け、各群のマウスの背部の右側の皮下へ3×106個のマウスB16-BL6悪性黒色腫の腫瘍細胞浮遊液(0.3ml)を注射により接種した。対照群には腫瘍細胞接種1日後より生理食塩水を毎日1回腹腔内注射した。バトロキソビン群には腫瘍細胞接種1日後よりバトロキソビン20BU/kgを毎日1回腹腔内注射した。アドリアマイシン群には腫瘍細胞接種1日後よりアドリアマイシン3mg/kgを3日間に1回腹腔内注射した。アドリアマイシン+バトロキソビン群には、腫瘍細胞接種1日後よりアドリアマイシン3mg/kgを3日間に1回腹腔内注射し、アドリアマイシン投薬後、バトロキソビン20BU/kgを毎日1回腹腔内注射した。各群とも20日間連続投与後に、エーテル麻酔下で心臓を摘出した。心臓組織をホルマリンで固定した後に、パラフィン包埋の切片を作製して、ヘマトキシリン・エオジン染色(hematoxylin-eosin(H&E )staining)を行った。染色された心臓組織切片を光学顕微鏡下で病理学的検査を行った。
【0042】
バトロキソビン群の左心室の心筋組織(図2)では、対照群の左心室の心筋組織と比較して異常は見られなかった。
一方、アドリアマイシン群の左心室の心筋組織(図3)では、対照群と比較して異常が観察された。具体的には、心筋細胞の配列が乱れ、収縮帯(Contraction bands)と呼ばれる病理組織が観察された(矢印A)。収縮帯とは、いくつかの心筋細胞が強力な収縮により凝集し、波浪様(wave-like)配列となることにより、従来の心筋繊維にあった横紋が消失し、代わり形成した間隔に規則がない好酸性の太い帯をいう。更に、多くの心筋細胞で細胞質の溶解や消失(myoplasm lysis or loss)が起こり、細胞質の染色が薄くなった。更に、心筋細胞において細胞浮腫又は好酸性変性や壊死(矢印B)が起こり、細胞間隙が広くなり、心筋細胞間質に浮腫(矢印C)が生じた。これらの異常は、うっ血性心不全につながる心筋障害であり、心臓毒性の指標となるものである。
これに対し、アドリアマイシン+バトロキソビン群の左心室の心筋組織(図4)では、アドリアマイシン群でみられた心筋細胞間質の浮腫や収縮帯の形成が無かった。また、少数の心筋細胞で細胞質の溶解(矢印)が見られたものの、好酸性変性はあまり見られなかった。
本実施例において、アドリアマイシン+バトロキソビン群における心筋組織の異常の程度がアドリアマイシン群より軽かったことが確認された。したがって、バトロキソビンはアドリアマイシンの心臓毒性を軽減することができると理解される。
【0043】
産業上の利用可能性
本発明は抗癌剤の副作用を著しく軽減させることができる。したがって、本発明は抗癌剤を用いた癌治療に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロンビン様酵素を含有することを特徴とする、抗癌剤の副作用軽減剤。
【請求項2】
トロンビン様酵素がフィブリノーゲンからフィブリンIを生成するプロテアーゼである、請求項1に記載の副作用軽減剤。
【請求項3】
トロンビン様酵素がバトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼからなる群より選ばれる、請求項1に記載の副作用軽減剤。
【請求項4】
トロンビン様酵素がバトロキソビンである、請求項1に記載の副作用軽減剤。
【請求項5】
抗癌剤が細胞障害性抗癌剤である、請求項1に記載の副作用軽減剤。
【請求項6】
細胞障害性抗癌剤がアルキル化剤、抗癌性抗生物質及び白金製剤からなる群より選ばれる、請求項5に記載の副作用軽減剤。
【請求項7】
細胞障害性抗癌剤がシクロホスファミド、アドリアマイシン及びシスプラチンからなる群より選ばれる、請求項5に記載の副作用軽減剤。
【請求項8】
副作用が抗癌剤による骨髄抑制又は心臓毒性である、請求項1に記載の副作用軽減剤。
【請求項9】
副作用が細胞傷害性抗癌剤による骨髄抑制である、請求項1に記載の副作用軽減剤。
【請求項10】
細胞障害性抗癌剤がアルキル化剤、抗癌性抗生物質及び白金製剤からなる群より選ばれる、請求項9に記載の副作用軽減剤。
【請求項11】
細胞障害性抗癌剤がシクロホスファミド、アドリアマイシン及びシスプラチンからなる群より選ばれる、請求項9に記載の副作用軽減剤。
【請求項12】
副作用が抗癌性抗生物質による心臓毒性である、請求項1に記載の副作用軽減剤。
【請求項13】
抗癌性抗生物質がアドリアマイシンである、請求項12に記載の副作用軽減剤。
【請求項14】
トロンビン様酵素の有効量を被験者へ投与することからなる、被験者における抗癌剤の副作用を軽減する方法。
【請求項15】
抗癌剤の副作用軽減剤を製造するためのトロンビン様酵素の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−506269(P2011−506269A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523223(P2010−523223)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/JP2008/073133
【国際公開番号】WO2009/078474
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000221650)東菱薬品工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】