説明

抗癌剤感受性測定方法および抗癌剤感受性測定装置

【課題】内視鏡生検サンプル等の少量のサンプルから、効率的に短時間で抗癌剤感受性を測定する。
【解決手段】癌細胞を含む生体組織から癌細胞を抽出するステップS1と、3次元スキャフォールドに癌細胞を播種するステップS2と、播種された癌細胞を増殖させるステップS3と、癌細胞に薬剤を供給するステップS4と、癌細胞の生存パラメータを測定するステップS5とを含む抗癌剤感受性測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抗癌剤感受性測定方法および抗癌剤感受性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、癌の特定の分子的機序をターゲットとし、分子薬剤の発展により高い奏効率を有する抗癌剤が市販されてきている。一方、特定の分子機序をターゲットとすることは、その機序が有効でない患者に対しても抗癌剤を投与することにもなり、分子薬剤の副作用の問題が注目されている。
【0003】
一方、患者から得られた細胞を3次元的培養により生体中の細胞と同じような薬剤に対する感受性を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、親水基と疎水基のアミノ酸の繰り返しからなるポリペプチドによって、細胞親和性の高いハイドロゲル(ペプチドマトリックス)を製造する方法も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
また、細胞の有するCEAなどの腫瘍マーカに対して蛍光を発する分子マーカも開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
さらに、細胞中の酵素の活性度に応じて蛍光を発する分子色素も開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献1】特許第2879978号明細書
【特許文献2】米国特許第5955343号明細書
【特許文献3】特表2005−507659号公報
【特許文献4】国際公開第2004/079370号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した分子薬剤の副作用の問題を解決するために、患者個々のテーラーメイド医療を目指して、遺伝子多型(SNPs等)を用いた抗癌剤感受性予測の研究が行われている。しかしながら、この方法による場合には、抗癌剤の市販の後、多くの患者に使用され、その長期的予後の結果が出ることが必要で、恩恵を受けることができるまでに長時間を要するという問題がある。
【0005】
また、患者から得られた組織サンプルには癌細胞以外に繊維芽細胞等の他の多くの細胞が混入しているため、正確な結果を得るのが困難であるという問題もある。また、内視鏡下で得られる生検サンプル等の細胞数の絶対数が少ないものでは検査が困難であるという問題もある。
【0006】
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、内視鏡生検サンプル等の少量のサンプルから、効率的に短時間で抗癌剤感受性を測定することができる抗癌剤感受性測定方法および抗癌剤感受性測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、癌細胞を含む生体組織から癌細胞を抽出するステップと、3次元スキャフォールドに癌細胞を播種するステップと、播種された癌細胞を増殖させるステップと、癌細胞に薬剤を供給するステップと、癌細胞の生存パラメータを測定するステップとを含む抗癌剤感受性測定方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、癌細胞を含む生体組織から癌細胞を抽出するので、生体組織内に含まれている繊維芽細胞等の他の細胞の影響を受けることなく正しい結果を得ることができる。また、3次元スキャフォールドに播種した癌細胞を用いるので、生体中の癌組織と同様の感受性を示す状態で測定を行うことができる。さらに、癌細胞を増殖させた後に測定するので少量のサンプルから測定を行うことができる。
【0009】
上記発明においては、前記癌細胞抽出ステップが、癌細胞を含む生体組織に周期性のエネルギを加え、癌細胞を他の細胞から分離することとしてもよい。
この場合において、前記周期性のエネルギが、電気的エネルギであることとしてもよく、また、前記周期性のエネルギが、超音波エネルギであることとしてもよい。
このようにすることで、周期性のエネルギにより、生体組織から癌細胞を容易に分離することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記癌細胞抽出ステップおよび癌細胞播種ステップが、癌細胞を含む生体組織から細胞を分離し、親水基と疎水基のアミノ酸を繰り返したポリペプチドからなるハイドロゲルにより構成された3次元スキャフォールドの上面に、分離された細胞を播くことにより行われることとしてもよい。
【0011】
癌細胞の浸食性と、他の正常細胞の浸食性の相違を利用して、癌細胞のみを選択的にハイドロゲルからなる3次元スキャフォールド内に浸食させることができ、これによって、癌細胞の抽出と癌細胞の3次元スキャフォールドへの播種とを同時に行うことができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記癌細胞播種ステップが、粉状あるいは液状のスキャフォールド原料と癌細胞とを混合し、その後、スキャフォールドをゲル化させることとしてもよい。
このようにすることで、癌細胞を3次元スキャフォールドの内部に容易に播種することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記癌細胞の生存パラメータが、癌特異性のある指標であることが好ましい。この場合、前記癌細胞の生存パラメータが、細胞から発せられる蛍光量であることとしてもよく、前記蛍光量が、細胞内の癌特性の高い酵素量に相関するものであることとしてもよい。
このようにすることで、癌細胞と他の細胞とが混合されている状態であっても癌細胞を特異的に検出できる。したがって、癌細胞抽出ステップにおいて癌細胞のみを抽出しきれない場合であっても測定精度を向上することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記癌細胞の生存パラメータが、細胞の活性を示す量であることとしてもよく、その場合、前記癌細胞の生存パラメータが、酸素消費量またはグルコース消費量であることとしてもよい。
このようにすることで、癌細胞の生存状態を簡易に測定することができる。この場合においては、癌細胞および他の細胞の生存状態が同時に測定されてしまうことになるので、癌細胞抽出ステップにおいて十分に他の細胞を排除しておくことが必要となる。
【0015】
また、上記発明においては、癌細胞の生存パラメータを測定するステップが、薬剤投与の前後において行われ、両ステップにおいて測定された生存パラメータを比較するステップを備えることとしてもよい。
このようにすることで、比較ステップの結果に基づいて、抗癌剤の感受性をより効率的に測定することができる。
【0016】
また、上記発明においては、癌細胞に薬剤を供給するステップが、投与量を異ならせて複数回行われ、測定された生存パラメータを投与量ごとに比較するステップを備えることとしてもよい。
このようにすることで、比較ステップの結果に基づいて、抗癌剤の投与量に対する感受性をより効率的に測定することができる。
【0017】
また、本発明は、癌細胞を含む生体組織から癌細胞を抽出する細胞分離手段と、3次元スキャフォールドに癌細胞を播種する細胞播種手段と、播種された癌細胞を増殖させる細胞培養手段と、癌細胞に薬剤を供給し蛍光を検出する蛍光検出手段と、検出された蛍光に基づいて癌細胞の生存パラメータを測定する分析手段とを備える抗癌剤感受性測定装置を提供する。
【0018】
上記発明においては、前記細胞播種手段が、ハイドロゲルにより構成された3次元スキャフォールドの内部または上面に癌細胞を播種することとしてもよい。
また、上記発明においては、前記ハイドロゲルが、親水基のアミノ酸と疎水基のアミノ酸とを繰り返したポリペプチドからなることとしてもよい。
【0019】
また、上記発明においては、前記ハイドロゲルが、コラーゲン由来ペプチドを含むこととしてもよい。
また、上記発明においては、前記ハイドロゲルが、アルギン酸を含むこととしてもよい。
【0020】
また、上記発明においては、前記細胞播種装置が、ハイドロゲル素材をプレート上に複数のスポットとして設けたものであることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記細胞播種装置が、ハイドロゲル素材と癌細胞とを混合する混合手段と、該混合手段による混合物をプレートにスポッティングするスポッティング手段と、スポッティングされた混合物をゲル化するゲル化手段とを備えることとしてもよい。
【0021】
また、上記発明においては、前記細胞培養手段が、癌特異性のある指標を被検体に導入し、前記蛍光検出手段が、被検体からの蛍光量を検出することとしてもよい。
また、上記発明においては、前記指標の投与および蛍光の検出が、被検体への薬剤投与の前後において行われることとしてもよい。
【0022】
また、上記発明においては、同一の薬剤投与条件が複数のスポットに対して適用されることとしてもよい。
また、上記発明においては、規定量の癌細胞数が存在しないスポットを検出し、検出されたスポットを評価から除外することとしてもよい。
また、上記発明においては、前記分析手段が、被検体への薬剤投与の前後における蛍光量を統計的に解析することで、薬剤の感受性の優先順位付けを行うこととしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、内視鏡生検サンプル等の少量のサンプルから、効率的に短時間で抗癌剤感受性を測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の第1の実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法および抗癌剤感受性測定装置について、図1〜図4を参照して説明する。
本実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法は、図1および図3に示されるように、癌細胞1を含む生体組織2から癌細胞1を抽出する抽出ステップS1と、3次元スキャフォールドに癌細胞1を播種する播種ステップS2と、播種された癌細胞1を増殖させる培養ステップS3と、癌細胞1に薬剤を供給する投与ステップS4と、癌細胞1の生存パラメータを測定する測定ステップS5とを含んでいる。
【0025】
前記抽出ステップS1は、図2に示されるように、例えば、内視鏡の生検鉗子等により採取された生検サンプル等の生体組織2から癌細胞1や正常細胞3を単離するステップS6と、単離された細胞1,3から癌細胞1のみを分離するステップS7とを備えている。
【0026】
細胞1,3を単離するステップS6は、図3に示されるように、例えば、コラゲナーゼ等の細胞外マトリクス分解酵素や、トリプシン等の細胞接着基の分解酵素を用いて行われる。生体組織2をこれらの分解酵素を含む溶液4中に浸漬して攪拌することにより、生体組織2から細胞1,3を単離することができる。
【0027】
癌細胞1を分離するステップS7は、図4に示されるように、例えば、DEP(Dielectrophoresis)技術を利用する(米国特許第6936151号明細書参照。)。すなわち、MEMS技術により作成したマイクロ電極5(図4(a)参照。)上に単離した細胞1,3を持つ細胞懸濁液を載せて(図4(b)参照。)、周期的な電界エネルギを付与することにより、細胞1,3の電界に対する周波数応答性の違いを利用して癌細胞1のみを電極に付着させ、その他の細胞3を緩やかな緩衝液流で流すことで分離することができるようになっている。DEP技術を用いることで、色素や磁気ビーズ等を細胞1,3に着脱する等の前処理が不要であり、一度に多量の細胞1,3を処理できるという利点がある。
【0028】
細胞1,3の大きさ等に応じて分離するために必要とされる周波数が異なる。例えば、乳癌細胞1を分離するためには、200kHzの周波数を電界を加えることが望ましい。
なお、DEP技術に代えて、超音波エネルギにより癌細胞1を分離することとしてもよい。例えば、図5および図6に示されるようにピエゾ素子の間に、細胞1,3を持つ細胞懸濁液を載せ、例えば、1.2MHz程度の超音波を発生させると、超音波の定常波に沿って細胞1,3が線状に分離して集合する。その細胞1,3を、例えば、MicroFluidicsで分取することにより、癌細胞1を分離できる。
【0029】
前記播種ステップS2は、3次元スキャフォールドを構成するスキャフォールド原料と、抽出された癌細胞1とを混合した後に、スキャフォールド原料をゲル化させることにより行われる。スキャフォールド原料としては、粉状または液状のものを使用することで、癌細胞1との混合を容易にし、ゲル化させた状態で3次元スキャフォールドの内部に均一に癌細胞1を分散させることができる。
【0030】
スキャフォールド原料としては、ペプチドマトリックス、コラーゲンまたはアルギン酸を挙げることができる。ペプチドマトリックスは、塩を含む培地を加えることにより、コラーゲンは昇温することにより、アルギン酸はカルシウムイオンを添加することによりそれぞれ容易にゲル化するので、癌細胞1を均一に含有する3次元スキャフォールドを容易に構成することができる。
【0031】
前記培養ステップS3は、上記のようにして構成された癌細胞1を含む3次元スキャフォールドを所定の培養条件下に維持することにより、癌細胞1を増殖させるものである。これにより、内視鏡的に採取された生検サンプルのように細胞1,3の絶対数が少ないものであっても、増殖により必要細胞数まで増加させることができ、測定精度を向上することができる。
なお、培養ステップS3は、3次元スキャフォールドをマイクロウェルアレイに収容した状態で行うことが好ましい。
【0032】
前記投与ステップS4は、マイクロウェルアレイの各ウェルに収容された3次元スキャフォールドに対して、異種/異用量の抗癌剤を添加することにより行われる。
前記測定ステップS5は、例えば、細胞培養培地に、癌のマーカであるCEAに対する抗体に蛍光色素を結合したものを添加し、一定時間の後に色素のない培地で洗浄する。これにより、細胞表面のマーカと抗体とが結合して、癌細胞が特異的に蛍光を発するようになる。あるいは、癌細胞1内部に多く存在するプロテアゾーム等の酵素の活性量に応じた蛍光を発する分子プローブを培地に添加し、一定の時間で酵素による反応を起こすことができる。これらのような分子プローブの抗癌剤投与前の蛍光量と、抗癌剤投与後の蛍光量とを測定する。そして、抗癌剤投与前後の蛍光量を比較することにより、抗癌剤投与による癌細胞1の数の変化を確認することができ、これによって、抗癌剤の感受性を測定することができる。
【0033】
このように、本実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法によれば、抽出ステップS1によって生体組織2中の癌細胞1を選択的に抽出するので、他の正常細胞3の影響を受けることなく抗癌剤の感受性を精度よく測定することができる。
また、本実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法によれば、播種ステップS2によって、3次元スキャフォールド内に癌細胞1を均一に混合した状態に播種するので、細胞培養プレートなど、平面に播種・培養した場合と異なり、癌細胞1を生体内と同様の状態に保持することができ、抗癌剤の感受性をより正しく評価することができる。
また、この方法は、浮遊細胞や、神経細胞や肝細胞など、平面培養での維持が難しい細胞に対しても、同様に適用することができる。
【0034】
また、本実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法によれば、培養ステップS3によって、3次元スキャフォールド内において癌細胞1を増殖させた後に、抗癌剤を投与するので、内視鏡による生検サンプルのように少量の生体組織2によっても、抗癌剤の感受性を正しく評価することが可能となる。
【0035】
さらに、本実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法によれば、測定ステップS5が、分子プローブのように、癌細胞1に特異的な指標を用いるので、抽出ステップS1によって分離しきれない正常細胞3が存在しても、精度よく抗癌剤の感受性を評価することができる。
したがって、本実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法によれば、少量のサンプルから、効率的に短時間で抗癌剤の感受性を測定することができるという効果がある。
【0036】
なお、本実施形態においては、DEP技術により、癌細胞1のみを分離抽出することとしたが、分子プローブによって抗癌剤の感受性を測定するので、抽出ステップS1を遠心分離による細胞分画の取得のような、さらに簡略な手法によって実施することとしてもよい。
【0037】
また、測定ステップS5として分子プローブのように癌細胞1に特異的な指標を用いたが、これに代えて、細胞1,3の活性を示す量の測定により、抗癌剤の感受性を評価することにしてもよい。細胞1,3の活性を示す量としては、例えば、細胞培養環境内における酸素消費量、グルコース消費量等を挙げることができる。酸素消費量については、培養培地中の酸素濃度から演算で求めることができる。また、細胞1,3の活性度に応じてDEP技術における周波数特性が変化することを利用して細胞1,3の活性度を測定してもよい。また、単純に細胞数を計数することにより細胞1,3の活性を測定してもよい。
【0038】
これらの場合には、癌細胞1のみならず正常細胞3の活性度も測定されてしまうので、抽出ステップS1において癌細胞1のみを抽出でき、他の正常細胞3等が含有されない状態で行うことが効果的である。
【0039】
図7に、本実施形態に係る抗癌剤感受性測定装置10を示す。
本実施形態に係る抗癌剤感受性測定装置10は、細胞分離手段11、細胞播種手段12、培養手段13、蛍光検出手段14および分析手段15を備えている。蛍光検出手段14は、蛍光撮像装置14aと画像処理手段14bとを備えている。
【0040】
図8(a)〜(d)に、本実施形態に係る抗癌剤感受性測定装置10で用いられるマイクロアレイプレート16の一例を示す。
図8(a)は、マイクロアレイプレート16の平面図、図8(b)は、図8(a)の矢印A方向に見たA−A断面図、図8(c)は、図8(a)の矢印B方向に見たB−B断面図である。
【0041】
マイクロアレイプレート16には、培地、洗浄用の緩衝液、抗癌剤溶液、蛍光分子イメージング色素溶液などを導入するためのウェル17が設けられている。
各ウェル17には、前述のハイドロゲルを設置するためのスポットSP1〜SP5が設けられている。スポットSP1〜SP5は、図8(b)のようにゲルGをウェル17に設けられた穴に埋入してもよい。
【0042】
図8(c)に示されるように、ウェル17内の複数のスポットSP1〜SP5に対して、同一の抗癌剤など同条件で培地・薬剤等の溶液Cを供給できる。
また、初期培養・蛍光分子イメージングマーカを含んだ培地での培養時、洗浄時など、全体を同一の条件で培地等の溶液Cを提供したい場合には、図8(d)に示されるように、マイクロアレイプレート16の上部に設けられた培地受けに供給することもできる。これにより、簡便に一度に溶液Cの提供・交換を行うことができる。
【0043】
なお、図9(a)〜(c)に示されるように、ウェル17内に直接ゲルGを配置してもよい。この場合にはゲルGの配置部分のみにガスプラズマ処理などによりハイドロゲルの接着性を向上させる加工を行うと、スポットSP1〜SP5を安定に保持できる。このように構成しても、図9(b)に示されるように、ウェル17内の複数のスポットSP1〜SP5に対して、同一の抗癌剤など同条件で培地・薬剤等の溶液Cを供給できる。また、初期培養・蛍光分子イメージングマーカを含んだ培地での培養時、洗浄時など、全体を同一の条件で培地等の溶液Cを提供したい場合には、図9(c)に示されるように、ウェル17の上部に設けられた培地受けに供給することもでき、これにより、簡便に一度に溶液Cの提供・交換を行うことができる。
【0044】
前記細胞分離手段11は、図10に示されるように、組織洗浄手段18と、組織破砕手段19と、分離手段20と、細胞数検出手段21とを備えている。
組織洗浄手段18は、組織を緩衝液などで洗浄を行う。組織破砕手段19は、組織にコラゲナーゼなどの細胞外マトリクス分解酵素液を加え、回転刃などで組織を細分する。酵素分解に適した温度に一定時間保持する。
【0045】
分離手段20は、図11に示されるように、10μm以上の穴を有するメッシュ22aを有するフィルタ22と遠心チューブ23と、図示しない遠心分離機とからなる。符号24は蓋である。そして、図12に示されるように、(a)フィルタ22に組織分解液Dを導入し、(b)組織繊維成分Eをフィルタ22でろ過し、細胞成分を含む細胞濃縮液Fを遠心分離機で遠心チューブ23に捉え、分離液Hを分離するようになっている。
細胞数検出手段21は、細胞濃縮液F中の生細胞数または癌細胞数に対応する量を、蛍光量等により検出する。生細胞数は、Calcein AMなどで蛍光染色することで計測できる。癌細胞数は、前述の分子イメージングマーカを用いることができる。
【0046】
細胞播種手段12は、図13に示されるように、ハイドロゲル素材混合手段25と、スポッティング手段26と、ゲル化手段27とを備えている。
ハイドロゲル素材混合手段25は、細胞分離手段11で得られた細胞濃縮液Fを、培地や、ショ糖等浸透圧溶液などの細胞保護液に再懸濁し、アルギン酸溶液、自己組織化ポリペプチド溶液などの高粘度ハイドロゲル素材と混合する。細胞濃度は、細胞分離手段の細胞数検出手段から得られた細胞数により一定の範囲に規格化される。
【0047】
スポッティング手段26は、ピエゾによるインクジェット機構などにより、ハイドロゲル素材細胞混合液をマイクロアレイプレート16のウェル17内の所定の位置にスポッティングする。
ゲル化手段27は、ウェル17に静かにゲル化溶液を導入し、スポットSP1〜SP5をゲル化する。アルギン酸の場合カルシウムイオンの添加された培地を加える。自己組織化ポリペプチドの場合、塩を含む培地を加える。特に自己組織化ポリペプチドの場合、ペプチド溶液の酸性度が高いため、所定時間(例えば、30分)後に、培地の交換を行うと、ゲルG自身のpHを早く中性に近づけることができる。
【0048】
例えば、2mm程度の大きさの生検サンプルには、最大で2X107個程度の細胞が存在する。この内5%を癌細胞1として分離できるとすれば、106個程度の癌細胞1が得られる。検出方法によるが、各スポットSP1〜SP5に100個程度の癌細胞1を検出の下限とすれば、最大で10000個のスポットSP1〜SP5を作成することが可能である。
【0049】
また、細胞をハイドロゲル素材に混合せず、ハイドロゲル素材のみでスポッティングし、ゲル化手段27でゲル化した後、細胞縣濁液をウェル17に導入して、細胞のゲルGへ付着および進展させても良い。
【0050】
図14(a)に蛍光撮像装置14aの構成を示す。蛍光撮像装置14aは光源28、光源28の上方に設置されたマイクロアレイプレート16からの蛍光を撮像する蛍光カメラ29を備えている。光源28は発光体28aと励起光の波長のみを通過させる励起光フィルタ28bを備える。蛍光カメラ29は、励起光の波長をカットする励起光カットフィルタ29a、結像レンズ29b、蛍光波長に感度を持つCCDなどの撮像素子29cを備えている。
【0051】
この蛍光撮像装置14aとしては、点光源および点蛍光検出装置を対向して設け、スポットSP1〜SP5ごとに走査を行っても良い。また、ライン光源およびライン蛍光検出装置を設け、マイクロアレイプレート16を一方向に走査しても良い。
【0052】
図14(b)に撮像された蛍光画像例を示す。画像処理手段14bにより、各スポット(SP1(A)〜SP5(E))に対応する画素値を積算、平均して、各スポットSP1(A)〜SP5(E)の蛍光量を演算する。正確な蛍光分子イメージングマーカからの蛍光量を算出するために、蛍光分子イメージングマーカ投与前に蛍光画像を撮像し、バックグラウンドの蛍光量を測定しておくとより良い。
【0053】
培養手段13、蛍光検出手段14および分析手段15による評価方法のフローを図15に示す。
まず、増殖培地をマイクロアレイプレート16に導入し、規定時間培養を行う(S11)。次いで、蛍光分子イメージングマーカを含む培地マイクロアレイプレートに導入し、規定時間培養する(S12)。
【0054】
そして、蛍光分子イメージングマーカを含まない緩衝液で洗浄し、分子イメージングマーカを含まない培地に変更する(S13)。その後、蛍光検出手段でマイクロアレイプレートを観察する(S14)。
【0055】
蛍光により、規定以上の蛍光が得られたスポットが規定数以上になったかどうか確認し(S15)、規定以上の蛍光が得られたスポットの番地(A1等)を記録する(S16)。その後、規定数以上のスポットに対して所定の抗癌剤を所定の濃度で添加した培地を添加する。このとき、同一の条件に対して、所定の複数のスポットを割り当てる。そして、番地と抗癌剤の種類・濃度の関係を記録する(S17)。
【0056】
このステップS17は、図8(b)に示されるマイクロアレイに対し、表1に示されるように各ウェルに所定の抗癌剤を所定の濃度で添加することで行う。この時、各ウェルに対応するスポットSP1〜SP5(図8(b)では5個)の内、所定数(例えば、3個)が規定の蛍光値(ここでは50とする。)に達しない場合、そのウェルは使用しない。
【0057】
【表1】

【0058】
次いで、所定時間抗癌剤を含む培地で培養した後、抗癌剤を含まない緩衝液で洗浄し、増殖培地で培養を行う(S18)。
規定時間経過後、蛍光分子イメージングマーカを含む培地で規定時間培養する(S19)。そして、蛍光分子イメージングマーカを含まない緩衝液で洗浄し、分子イメージングマーカを含まない培地に変更する(S20)。
【0059】
その後、蛍光でウェルを観察し、蛍光強度を記録する(S21)。ステップS17で記録された抗癌剤の種類・濃度の関係を基準としてステップS21で記録された蛍光強度を評価する(S22)。
【0060】
ステップS19〜S22は、例えば、表2に示されるように実施される。
【0061】
【表2】

【0062】
初期蛍光値が基準値50以下の場合、そのデータは棄却され、同一条件の他のデータのみが統計的処理に用いられる。
【0063】
そして、同一の条件に属するスポットのデータに対して、統計処理を行い、優先順位づけを行う(S13)。
表3では、単純に蛍光値の比を増殖率とみなして、増殖率の小さいものを選択しているが、当然統計検定等を利用して、コントロールからの有意差を算出しても良い。
【0064】
【表3】

【0065】
次に、本発明の第2の実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法について、図16および図17を参照して以下に説明する。
本実施形態の説明において、上述した第1の実施形態と構成を共通とする箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0066】
本実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法は、図16に示されるように、第1の実施形態における抽出ステップS1、播種ステップS2および培養ステップS3に代えて、抽出・播種・培養ステップS30を備えている点で第1の実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法と相違している。
この抽出・播種・培養ステップS30は、生検サンプル等の生体組織2から第1の実施形態と同様にして細胞1,3を単離した後に、図17(a)に示されるように親水基と疎水基のアミノ酸の繰り返しからなるポリペプチドを用いて構成したペプチドマトリックスゲルGをマイクロアレイプレート16の各ウェル17内に収容しておき、該ペプチドマトリックスゲルGの上面に、単離された細胞1,3を載置することにより行われる。
【0067】
癌細胞1は、他の正常細胞3と比較して浸食性が高いため、図17(b)に示されるように、培養される間にペプチドマトリックスゲルG内に進展していく。一方、他の正常細胞3はペプチドマトリックスゲルGの上面に残される。特に、ペプチドマトリックスゲルGの場合、含水率が99〜99.5%と極めて高く柔らかいため、癌細胞1のペプチドマトリックスゲルG内部への進展が容易であり、十分に深部まで進展することができる。
その結果、癌細胞1のみがペプチドマトリックスゲルG内に進展して播種された状態の3次元スキャフォールドを構成することができ、他の細胞3を分離除去することができる。
【0068】
このペプチドマトリックスゲル以外に、コラーゲンゲル、ゼラチンゲルやアルギン酸ゲルなどのゲルを用いても同様に実施できる。
また、第1の実施形態のように3次元的に播種した場合でも、ペプチドマトリックスゲル、ゼラチンゲルあるいはアルギン酸ゲルのような生物学的シグナルが少ないゲルを用いて培養した場合、マトリックスからの生物学的シグナルが必要な正常細胞に対して、癌細胞の増殖が相対的に高いために、同様な効果を得ることができる。
【0069】
このように本実施形態によれば、第1の実施形態における抽出ステップS1、播種ステップS2および培養ステップS3を同時に行うことができ、さらに簡易に抗癌剤の感受性の測定を行うことができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の抗癌剤感受性測定方法の抽出ステップを示すブロック図である。
【図3】図1の抗癌剤感受性測定方法の単離ステップを示す模式図である。
【図4】図1の抗癌剤感受性測定方法の分離ステップを示す模式図である。
【図5】図4の分離ステップに代えて、超音波を利用した分離ステップを示す斜視図である。
【図6】図5の分離ステップを示す平面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る抗癌剤感受性測定装置を示すブロック図である。
【図8】図7の抗癌剤感受性測定装置に用いられるマイクロアレイプレートを示す(a)平面図、(b)A−A断面図、(c)B−B断面図、(d)溶液供給例である。
【図9】図8のマイクロアレイプレートの変形例を示す(a)A−A断面図、(b)B−B断面図、(c)溶液供給例である。
【図10】図7の抗癌剤感受性測定装置の細胞分離手段を示すブロック図である。
【図11】図10の細胞分離手段を構成する分離手段の一例を模式的に示す縦断面図である。
【図12】図11の分離手段による細胞分離方法を示す説明図である。
【図13】図7の抗癌剤感受性測定装置の細胞播種手段を示すブロック図である。
【図14】図7の抗癌剤感受性測定装置の蛍光検出手段を構成する(a)蛍光撮像装置、(b)画像処理手段による画像例を模式的に示す説明図である。
【図15】図7の抗癌剤感受性測定装置の培養手段、蛍光検出手段および分析手段による評価方法を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第2の実施形態に係る抗癌剤感受性測定方法を示すフローチャートである。
【図17】図16の抗癌剤感受性測定方法の抽出・播種・培養ステップを説明する模式図である。
【符号の説明】
【0071】
G ハイドロゲル
S1 抽出ステップ(癌細胞抽出ステップ)
S2 播種ステップ
S3 培養ステップ(増殖させるステップ)
S4 投与ステップ(供給するステップ)
S5 測定ステップ
SP1〜SP5 スポット
1 癌細胞
2 生体組織
3 正常細胞(他の細胞)
11 細胞分離手段
13 細胞培養手段
14 蛍光検出手段
15 分析手段
10 抗癌剤感受性測定装置
16 マイクロアレイプレート(プレート)
21 細胞播種手段
25 ハイドロゲル素材混合手段(混合手段)
26 スポッティング手段
27 ゲル化手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞を含む生体組織から癌細胞を抽出するステップと、
3次元スキャフォールドに癌細胞を播種するステップと、
播種された癌細胞を増殖させるステップと、
癌細胞に薬剤を供給するステップと、
癌細胞の生存パラメータを測定するステップとを含む抗癌剤感受性測定方法。
【請求項2】
前記癌細胞抽出ステップが、癌細胞を含む生体組織に周期性のエネルギを加え、癌細胞を他の細胞から分離する請求項1に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項3】
前記周期性のエネルギが、電気的エネルギである請求項2に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項4】
前記周期性のエネルギが、超音波エネルギである請求項2に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項5】
前記癌細胞抽出ステップおよび癌細胞播種ステップが、
癌細胞を含む生体組織から細胞を分離し、
ハイドロゲルにより構成された3次元スキャフォールドの上面に、分離された細胞を播くことにより行われる請求項1から請求項4のいずれかに記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項6】
前記ハイドロゲルが、親水基と疎水基のアミノ酸を繰り返したポリペプチドからなる請求項5に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項7】
前記ハイドロゲルが、コラーゲン由来ペプチドを含む請求項5に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項8】
前記ハイドロゲルが、アルギン酸を含む請求項5に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項9】
前記癌細胞播種ステップが、混合し、その後、スキャフォールドをゲル化させる請求項1から請求項4のいずれかに記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項10】
前記癌細胞の生存パラメータが、癌特異性のある指標である請求項1から請求項9のいずれかに記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項11】
前記癌細胞の生存パラメータが、細胞から発せられる蛍光量である請求項10に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項12】
前記蛍光量が、細胞の保持する腫瘍マーカの量に相関するものである請求項11に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項13】
前記蛍光量が、細胞内の癌特性の高い酵素量に相関するものである請求項11に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項14】
前記癌細胞の生存パラメータが、細胞の活性を示す量である請求項1から請求項9のいずれかに記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項15】
前記癌細胞の生存パラメータが、酸素消費量である請求項14に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項16】
前記癌細胞の生存パラメータが、グルコース消費量である請求項14に記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項17】
癌細胞の生存パラメータを測定するステップが、薬剤投与の前後において行われ、
両ステップにおいて測定された生存パラメータを比較するステップを備える請求項1から請求項16のいずれかに記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項18】
癌細胞に薬剤を供給するステップが、投与量を異ならせて複数回行われ、
測定された生存パラメータを投与量ごとに比較するステップを備える請求項1から請求項17のいずれかに記載の抗癌剤感受性測定方法。
【請求項19】
癌細胞を含む生体組織から癌細胞を抽出する細胞分離手段と、
3次元スキャフォールドに癌細胞を播種する細胞播種手段と、
播種された癌細胞を増殖させる細胞培養手段と、
癌細胞に薬剤を供給し蛍光を検出する蛍光検出手段と、
検出された蛍光に基づいて癌細胞の生存パラメータを測定する分析手段とを備える抗癌剤感受性測定装置。
【請求項20】
前記細胞播種手段が、ハイドロゲルにより構成された3次元スキャフォールドの内部または上面に癌細胞を播種する請求項19に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項21】
前記ハイドロゲルが、親水基のアミノ酸と疎水基のアミノ酸とを繰り返したポリペプチドからなる請求項20に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項22】
前記ハイドロゲルが、コラーゲン由来ペプチドを含む請求項20に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項23】
前記ハイドロゲルが、アルギン酸を含む請求項20に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項24】
前記細胞播種装置が、ハイドロゲル素材をプレート上に複数のスポットとして設けたものである請求項19に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項25】
前記細胞播種装置が、ハイドロゲル素材と癌細胞とを混合する混合手段と、該混合手段による混合物をプレートへスポッティングするスポッティング手段と、スポッティングされた混合物をゲル化させるゲル化手段とを備える請求項24に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項26】
前記細胞培養手段が、癌特異性のある指標を被検体に導入し、
前記蛍光検出手段が、被検体からの蛍光量を検出する請求項19に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項27】
前記指標の導入および蛍光量の検出が、被検体への薬剤投与の前後において行われる請求項26に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項28】
同一の薬剤投与条件が複数のスポットに対して適用される請求項24に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項29】
規定量の癌細胞数が存在しないスポットを検出し、検出されたスポットを評価から除外する請求項24に記載の抗癌剤感受性測定装置。
【請求項30】
前記分析手段が、被検体への薬剤投与の前後における蛍光量を統計的に解析することで、薬剤の感受性の優先順位付けを行う請求項19に記載の抗癌剤感受性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−17704(P2008−17704A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189527(P2006−189527)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】