説明

抗菌コンタクトレンズを作成するための基本的プロセス

本発明は、金属を含有する抗菌レンズおよびその生産方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、抗菌レンズを作成する方法に関する。
【0002】
〔関連出願〕
本出願は、2007年3月31日提出の米国特許仮出願第60/921,029号の本出願である。
【0003】
〔発明の背景〕
1950年代以来、コンタクトレンズは、視力を改善するために、商業的に使用されてきた。最初のコンタクトレンズは、硬質材料で作製された。これらのレンズは、起きている時間に患者によって使用され、洗浄するために取り外された。当分野での現在の開発により、ソフトコンタクトレンズがもたらされ、これらのソフトコンタクトレンズは、洗浄するために取り外すことなく、数日間またはそれ以上の間、継続的に装着されてよい。多くの患者は、増加した快適性を理由にこれらのレンズを好むが、これらのレンズは、ある有害反応を使用者にもたらし得る。レンズの長期の使用は、ソフトコンタクトレンズの表面における細菌または他の微生物、特に緑膿菌の増加を促し得る。細菌および他の微生物の増加は、コンタクトレンズによる急性充血などの副作用をもたらし得る。細菌および他の微生物の問題は、かなり多くの場合、ソフトコンタクトレンズの長期の使用に関連するが、細菌および他の微生物の増加は、ハードコンタクトレンズ着用者である使用者にも、同様に起こる。
【0004】
金属塩などの抗菌剤をコンタクトレンズに加えることが、細菌または他の微生物の増殖を抑制できると、教示している者もある。参照によってその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2004/0150788号を参照されたい。抗菌剤がレンズの中に組み込まれると、曇りまたはヘーズのあるレンズが生産され得る。ヘーズのレベルは、レンズにおける抗菌剤の含有量が増加すると、増加することが多い。このヘーズは、レンズにおける抗菌剤の密集によってもたらされると考えられる。残念ながら、このヘーズは、使用者の視力を不明瞭にすることがあり、検査の際に使用者が見ることができる場合さえある。こうした状況のいずれもが望ましくないことから、最低限の量のヘーズを伴って、より多くの量の抗菌剤をレンズに組み込むことができれば、有益であろう。この必要性は以下の発明によって達成される。
【0005】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、金属塩を具備するイオン性抗菌レンズを作成する方法を含み、前記方法は、
(a)第1の溶液で、硬化したイオン性レンズを十分な期間、処理するステップであって、前記第1の溶液のpHは、前記イオン性レンズを形成するよう硬化されたイオン性モノマーの酸性度指数(pKa)と等しい、ステップと、
(b)ステップ(a)の後に、前記第1の溶液および前記硬化したレンズに金属物質を加えるステップと、
(c)塩前駆体を具備する第2の溶液でステップ(b)の前記レンズを処理するステップと、
を具備する。
【0006】
本明細書で使用される場合、用語「抗菌レンズ」は、以下の特性、つまり、レンズへの細菌または他の微生物の付着の抑制、レンズにおける細菌または他の微生物の増殖の抑制、および、レンズの表面またはレンズを取り囲む領域における細菌または他の微生物の殺菌のうちの、1つ以上の特性を呈するレンズを意味する。本発明の目的のため、レンズへの細菌または他の微生物の付着、レンズにおける細菌または他の微生物の増殖、および、レンズの表面における細菌または他の微生物の存在は、総じて「微生物定着(microbial colonization)」として称される。好ましくは、本発明のレンズは、少なくとも約0.25log、より好ましくは少なくとも約0.5log、最も好ましくは少なくとも約1.0log(90%以上の抑制)の、生存可能な細菌または他の微生物の低減を呈する。このような細菌または他の微生物には、限定することなく、眼の中に見いだされる有機的生物、特に、緑膿菌、アカントアメーバ種、黄色ブドウ球菌、大腸菌、表皮ブドウ球菌、およびセラチアマルセッセンス(Serratia marcesens)が含まれる。
【0007】
本明細書で使用される場合、用語「レンズ」は、眼の中または上に置かれる眼用器具を指す。これらの器具は、視力矯正、傷の治療、薬物送達、診断上の実用性、美容的向上もしくは効果、またはそれら特性の任意の組み合わせを提供し得る。用語、レンズには、限定することなく、ソフトコンタクトレンズ、ハードコンタクトレンズ、眼内レンズ、オーバーレイレンズ、目用インサート、および光学インサートが含まれる。ソフトコンタクトレンズは、シリコーンエラストマー、または、シリコーンヒドロゲルおよびフルオロヒドロゲルを限定することなく含むヒドロゲルから作製される。
【0008】
本発明のレンズは、シリコーンヒドロゲル要素から作製されてよい。シリコーン含有要素は、モノマー、マクロマー、またはプレポリマー中に、少なくとも1つの[-Si-O-Si]基を含有する要素である。好ましくは、Siおよび付着したOは、シリコーン含有要素の総分子量の20重量%より多い量で、より好ましくは30重量%より多い量で、シリコーン含有要素中に存在する。有用なシリコーン含有要素は、好ましくは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-ビニルラクタム、N-ビニルアミド、およびスチリル官能基などの重合可能な官能基を具備する。シリコーンヒドロゲル調合剤に含まれてよいシリコーン要素の例には、限定することなく、シリコーンマクロマー、プレポリマーおよびモノマーが含まれる。シリコーンマクロマーの例には、限定することなく、米国特許第4,259,467号、同第4,260,725号および同第4,261,875号に記載されるような、親水性ペンダント基でメタクリル化されたポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane methacrylated with pendant hydrophilic groups)、米国特許第4,136,250号、同第4,153,641号、同第4,189,546号、同第4,182,822号、同第4,343,927号、同第4,254,248号、同第4,355,147号、同第4,276,402号、同第4,327,203号、同第4,341,889号、同第4,486,577号、同第4,605,712号、同第4,543,398号、同第4,661,575号、同第4,703,097号、同第4,837,289号、同第4,954,586号、同第4,954,587号、同第5,346,946号、同第5,358,995号、同第5,387,632号、同第5,451,617号、同第5,486,579号、同第5,962,548号、同第5,981,615号、同第5,981,675号、および同第6,039,913号に記載される、重合可能な1つ以上の官能基を備えたポリジメチルシロキサンマクロマー、米国特許第5,010,141号、同第5,057,578号、同第5,314,960号、同第5,371,147号、および同第5,336,797号に記載されるような、親水性モノマーを組み込んだポリシロキサンマクロマー、米国特許第4,871,785号および同第5,034,461号に記載されるような、ポリジメチルシロキサンブロックおよびポリエーテルブロックを具備するマクロマー、およびそれらの組み合わせなどが含まれる。本明細書に引用される全ての特許は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0009】
米国特許第5,760,100号、同第5,776,999号、同第5,789,461号、同第5,807,944号、同第5,965,631号、および同第5,958,440号に記載される、シリコーンおよび/またはフッ素含有マクロマー(The silicone and/or fluorine containing macromers)もまた使用されてよい。適するシリコーンモノマーには、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート(tris(trimethylsiloxy)silylpropyl methacrylate)、ヒドロキシル官能シリコーン含有モノマー(hydroxyl functional silicone containing monomers)、例えば3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(3-methacryloxy-2-hydroxypropyloxy)propylbis(trimethylsiloxy)methylsilane)、および、国際公開第WO03/22321号に開示されるもの、ならびに、米国特許第4,120,570号、同第4,139,692号、同第4,463,149号、同第4,450,264号、同第4,525,563号、同第5,998,498号、同第3,808,178号、同第4,139,513号、同第5,070,215号、同第5,710,302号、同第5,714,557号、および同第5,908,906号に記載される、mPDMS含有もしくはシロキサンモノマー(mPDMS containing or the siloxane monomers)が含まれる。
【0010】
追加的な適するシロキサン含有モノマーには、米国特許第4,711,943号に記載されるTRISのアミド類似体、米国特許第5,070,215号に記載されるビニルカルバメートまたはカルボネート類似体、および、米国特許第6,020,445号に含まれるモノマー、モノメタクリルオキシプロピル終端ポリジメチルシロキサン(monomethacryloxypropyl terminated polydimethylsiloxanes)、ポリジメチルシロキサン、3-メタクリルオキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(3methacryloxypropylbis(trimethylsiloxy)methylsilane)、メタクリルオキシプロピルペンタメチルジシロキサン(methacryloxypropylpentamethyl disiloxane)、ならびに、それらの組み合わせが含まれる。
【0011】
「イオン性レンズ」は、「イオン性モノマー」を含有するレンズ調合剤(formulations)である。イオン性モノマーの例には、限定することなく、メタクリル酸、アクリル酸、スルホン酸スチレン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(2-acrylamido-2-methylpropane sulfonic acid)、および2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)が含まれる。イオン性レンズの例には、限定することなく、米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration)が定める用語としてのグループIIIおよびグループIVのレンズが含まれる。好ましいイオン性レンズは、エタフィルコンA(etafilcon A)、バラフィルコンA(balafilcon A)、ブフィルコンA(bufilcon A)、デルタフィルコンA(deltafilcon A)、ドロキシフィルコンA(droxifilcon A)、フェムフィルコンA(phemfilcon A)、オキュフィルコンA(ocufilicon A)、パーフィルコンA(perfilcon A)、オキュフィルコンB、オキュフィルコンC、オキュフィルコンD、オキュフィルコンE、メタフィルコンA、B(metafilcon A, B)、ヴィフィルコンA(vifilcon A)、フォコフィルコンA(focofilcon A)、およびテトラフィルコンB(tetrafilcon B)からなる群より選択される。
【0012】
好ましくは、本発明のレンズは、光学的に透明であり、エタフィルコンA、ゲンフィルコンA、ガリフィルコンA、レネフィルコンA、ポリマコン、アクアフィルコンA、バラフィルコンA、およびロトラフィルコンAから作製されるレンズなどのレンズに匹敵する光学的透明性を備える。
【0013】
上記に引用されたレンズ調合剤の多くは、1日〜30日間の範囲にわたる継続的な期間、使用者がレンズを挿入するのを可能にする。レンズが眼の上に長くあるほど、細菌および他の微生物がこれらレンズの表面において増殖するであろう機会がより大きくなることが知られている。したがって、本発明の方法の利点は、ヘーズを低減させながら、レンズにより多くの金属塩を加えることができるということである。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「金属塩」は、一般式[M]a [X]bを有する任意の分子を意味し、式中、Xは負の電荷を帯びた任意のイオンを含有し、aは1以上であり、bは1以上であり、Mは、限定することなく以下のAl+3、Co+2、Co+3、Ca+2、Mg+2、Ni+2、Ti+2、Ti+3、Ti+4、V+2、V+3、V+5、Sr+2、Fe+2、Fe+3、Ag+1、Ag+2、Au+2、Au+3、Au+1、Pd+2、Pd+4、Pt+2、Pt+4、Cu+1、Cu+2、Mn+2、Mn+3、Mn+4、およびZn+2などから選択される、正の電荷を帯びた任意の金属である。Xの例には、限定することなく、CO32、NO31、PO43、Cl1、I1、Br1、S2、およびO2などが含まれる。さらに、Xには、C15alkylCO21など、CO32、NO31、PO43、Cl1、I1、Br1、S2およびO2などを含有する負の電荷を帯びたイオンが含まれる。本明細書で使用される場合、用語、金属塩は、国際公開第WO03/011351号に開示されるゼオライト(zeolites)は含まない。当該特許出願は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。好ましいaは、1、2または3である。好ましいbは、1、2または3である。好ましい金属イオンは、Mg+2、Zn+2、Cu+1、Cu+2、Au+2、Au+3、Au+1、Pd+2、Pd+4、Pt+2、Pt+4、Ag+2およびAg+1である。特に好ましい金属イオンは、Ag+1である。適する金属塩の例には、限定することなく、硫化マンガン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫化銅、およびリン酸銅が含まれる。銀塩の例には、限定することなく、硝酸銀、硫酸銀、ヨウ素酸銀、炭酸銀、リン酸銀、硫化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、および酸化銀が含まれる。好ましい銀塩は、ヨウ化銀、塩化銀、および臭化銀である。
【0015】
レンズ中の金属の量は、レンズの総重量に基づいて測定される。金属が銀である場合、銀の好ましい量は、レンズの乾燥重量に基づいて、約0.00001重量%(0.1ppm)〜約10.0重量%、好ましくは約0.0001重量%(1ppm)〜約1.0重量%、最も好ましくは約0.001重量%(10ppm)〜約0.1重量%である。金属塩を加えることに関しては、金属塩の分子量が、金属塩に転換する金属イオンの重量%を決める。銀塩の好ましい量は、レンズの乾燥重量に基づいて、約0.00003重量%(0.3ppm)〜約50.0重量%、好ましくは約0.0003重量%(3ppm)〜約5.0重量%、最も好ましくは約0.003重量%(30ppm)〜約0.5重量%である。
【0016】
用語「塩前駆体」は、金属イオンと置換し得る陽イオンを含有する任意の化合物または組成物(水性溶液を含む)を指す。溶液中の塩前駆体の濃度は、溶液の総重量に基づいて、約0.00001〜約10.0重量%(0.1〜100,000ppm)の間、より好ましくは約0.0001〜約1.0重量%(1〜10,000ppm)の間、最も好ましくは約0.001〜約0.1重量%(10〜1,000ppm)の間である。塩前駆体の例には、限定することなく、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム、硫化ナトリウム、塩化リチウム、ヨウ化リチウム、臭化リチウム、硫化リチウム、臭化カリウム、塩化カリウム、硫化カリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、臭化ルビジウム、塩化ルビジウム、硫化ルビジウム、ヨウ化セシウム、臭化セシウム、塩化セシウム、硫化セシウム、ヨウ化フランシウム、臭化フランシウム、塩化フランシウム、硫化フランシウム、およびテトラクロロ銀酸ナトリウム(sodium tetrachloro argentite)などの無機分子が含まれる。有機分子の例には、限定することなく、乳酸テトラアルキルアンモニウム(tetra-alkyl ammonium lactate)、硫酸テトラアルキルアンモニウム(tetra-alkyl ammonium sulfate)、塩化、臭化またはヨウ化テトラアルキルアンモニウム(tetra-alkyl ammonium chloride, bromide or iodide)などの第4級アンモニウムハロゲン化物(quaternary ammonium halides)が含まれる。好ましい塩前駆体は、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化チリウム、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、ヨウ化カリウム、およびテトラクロロ銀酸ナトリウム(sodium tetrachloro argentite)からなる群より選択され、特に好ましい塩前駆体は、ヨウ化ナトリウムである。
【0017】
用語「金属物質」は、金属イオンを含有する任意の組成物(水性溶液を含む)を指す。このような組成物の例には、限定することなく、硝酸銀、銀トリフレート(silver triflate)、または酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、硫酸銀、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸銅、および硫酸銅の水性溶液または有機溶液が含まれ、溶液中の金属物質の濃度は、約1μg/mL以上である。好ましい金属物質は、水性硝酸銀であり、溶液中の硝酸銀の濃度は、溶液の総重量に基づいて、約0.0001以上〜約2重量%(1〜20,000ppm)、より好ましくは約0.001より大きい〜約0.2重量%(10〜2,000ppm)、より好ましくは約0.01〜約0.2重量%(100〜2,000ppm)である。
【0018】
用語「溶液」は、脱イオン水、生理食塩水溶液、ホウ酸もしくは緩衝された生理食塩水溶液(borate or buffered saline solution)などの水性物、または、C1〜C24アルコール、環式アミド、非環式アミド、エーテルおよび酸などの有機物を指す。溶液のpHは、前記溶液の基本的要素(つまりホウ酸塩)の量を調整することによって調整されてよい。具体的な方法論に拘束されることを欲するわけではないが、本発明の方法は、イオン性レンズにイオン性を与えるペンダント基をプロトン離脱させる(de-protinate)と確信される。例えば、レンズ調合剤がイオン性モノマーメタクリル酸から作製される場合、イオン性ペンダント基は、メタクリル酸のカルボキシラート基(carboxylate group)である。第1の溶液のpHは、イオン性レンズのイオン性モノマーの酸性度指数によって決められる。第1の溶液のpHはイオン性モノマーの酸性度指数を上回ることが好ましい。好ましくは、第1の溶液のpHは、イオン性モノマーの酸性度指数より約1ユニット(unit)大きく、より好ましくは、少なくとも約2ユニット大きく、さらにより好ましくは、少なくとも約2ユニット〜約4ユニット大きい。例えば、イオン性モノマーがメタクリル酸である場合、好ましくは、第1の溶液のpHは約pH5〜約pH9、より好ましくは約pH6〜約pH8である。
【0019】
用語「処理すること」は、金属物質および塩前駆体の溶液を硬化したレンズに接触させる任意の方法を指し、ここにおいて、好ましい方法は、金属物質または塩前駆体のいずれかを含有する溶液にレンズを浸すことである。処理することは、レンズをそのような溶液中で加熱することを含み得るが、好ましくは、処理は、周囲温度で実行される。処理の時間は、好ましくは、約1分〜約24時間である。第1の溶液での処理時間は、好ましくは、第2の溶液の処理時間よりも長い。例えば、第1の溶液の処理時間は、約4時間〜約16時間であってよく、第2の溶液の処理時間は、約1分〜約10分であってよい。
【0020】
用語「硬化した(cured)」は、レンズ要素(つまり、モノマー、プレポリマー、マクロマーなど)の混合物を反応させてレンズを形成するために使用されるいくつかの方法のうちのいずれかを指す。レンズは、光または熱によって硬化され得る。硬化の好ましい方法は、放射線、好ましくは紫外光または可視光、最も好ましくは可視光を用いるものである。本発明のレンズ調合剤は、振動または撹拌など当業者に既知の方法のうちのいずれかによって形成され得、既知の方法によってポリマーの物品または器具を形成するために使用され得る。例えば、本発明の抗菌レンズは、反応性要素および任意の1つ以上の希釈剤を重合開始剤と混合させることによって、かつ、旋盤および切断などで適切な形状へと後に形成され得る製品を形成するための適切な条件により硬化させることによって、作成されてよい。代替的に、反応混合物は、鋳型に設置され、続いて、適切な物品へと硬化されてよい。
【0021】
回転鋳造および静的鋳造を含め、コンタクトレンズの生産におけるレンズ調合剤を加工するための様々なプロセスが知られている。回転鋳造方法は、米国特許第3,408,429号、および同第3,660,545号に開示され、静的鋳造方法は、米国特許第4,113,224号、および同第4,197,266号に開示されている。本発明の抗菌レンズを生産するための好ましい方法は、成型による。ヒドロゲルレンズの場合、この方法では、レンズ調合剤が、最終的な所望のレンズの適切な形状を有する鋳型に設置され、レンズ調合剤は、要素が重合する条件を受けて、固まったディスクを生産し、このディスクは、重合したレンズを液体(水、無機塩類または有機溶液など)で処理するステップを含むいくつかの異なる加工ステップを受け、最終的な梱包においてレンズを包囲する前にこのレンズを膨張させるか、または別様に平衡化させる。この方法は、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第4,495,313号、同第4,680,336号、同第4,889,664号、および同第5,039,459号にさらに記載される。膨張または別様に平衡化されてしまっていない重合したレンズは、本発明の目的において、硬化したレンズとみなされる。
【0022】
本発明の方法は、追加の溶液処理ステップを含んでよい。例えば、ステップ(b)のレンズをすすぐステップが加えられてよい。さらに、ステップ(b)のレンズをすすぐステップの後に、すすぎ用溶液からこれらのレンズを取り除き、かつ、これらのレンズをステップ(c)の溶液に設置することが続く。
【0023】
さらに、本発明は、ある方法によって作成される、金属塩を具備する抗菌イオン性レンズを含み、この方法は、
(a)第1の溶液で、硬化したイオン性レンズを十分な期間、処理するステップであって、前記第1の溶液のpHは、前記イオン性レンズを形成するよう硬化されたイオン性モノマーの酸性度指数と等しい、ステップと、
(b)ステップ(a)の後に、前記第1の溶液および前記硬化したレンズに金属物質を加えるステップと、
(c)塩前駆体を具備する第2の溶液でステップ(b)の前記レンズを処理するステップと、
を具備する。
【0024】
本発明を例証するために、以下の実施例が含まれる。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。これらは、本発明を実践する方法を示唆することを専ら意図している。コンタクトレンズおよび他の専門品に見識のある者であれば、本発明を実践する他の方法を見出すことができる。しかしながら、それらの方法は、本発明の範囲の内にあるものとみなされる。
【0025】
実施例
以下の略語が、実施例において使用された。
Blue HEMA = 実施例4または米国特許第5,944,853号に記載されるように、リアクティブブルー4(reactive blue number 4)およびHEMAの反応生成物。
CGI 819 = ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(bis(2,4,6-trimethylbenzoyl) phenylphosphineoxide)
DI水 = 脱イオン水
DMA = N,N-ジメチルアクリルアミド(N,N-dimethylacrylamide)
HEMA = ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethyl methacrylate)
MAA = メタクリル酸
mPDMS = モノ-メタクリルオキシプロピル終端ポリジメチルシロキサン (MW 800-1000)
acPDMS = ビス-3-アクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシプロピルポリジメチルシロキサン(bis-3-acryloxy-2-hydroxypropyloxypropyl polydimethylsiloxane)
Norbloc = 2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリリルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(2-(2’-hydroxy-5-methacrylyloxyethylphenyl)-2H-benzotriazole)
ppm = 乾燥レンズのグラム当たりのサンプルの100万分の1μg(parts per million micrograms of sample per gram of dry lens)
PVP = ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidinone) (360,000 または2,500)
Simma 2 = 3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(3-methacryloxy-2-hydroxypropyloxy)propylbis (trimethylsiloxy)methylsilane)
TAA = t-アミルアルコール
【0026】
硫酸ナトリウム梱包溶液
脱イオン水:
1.40重量%硫酸ナトリウム
0.185重量%ホウ酸ナトリウム[1330-43-4],マリンクロット(Mallinckrodt)
0.926重量%ホウ酸[10043-35-3],マリンクロット
0.005重量%メチルセルロース
【0027】
レンズタイプAの作成
ヒドロゲル混和物が、以下のモノマー混合物から作製された(全ての量は重量%で計算された)。:30.00% SIMAA 2、28.0% mPDMS、5.0% acPDMS、19.0% DMA、7.15% HEMA、1.60% MAA、7.00% PVP 360,000、2.0% Norbloc、1.0% CGI 819、および0.02% Blue HEMA。先の要素混合物の60重量%が、希釈剤、72.5:27.5のTAA : PVP 2,500の40重量%でさらに希釈され、最終モノマー混合物を形成した。混和物が、2つの部分に分かれたコンタクトレンズ鋳型に設置され、以下の連続的な条件、つまり、a)1mW/sq cmを放出する可視光線を使用して室温で30秒間、b)75℃で120秒間、c)75℃で120秒間、1.8 mW/sq/cm、およびd)75℃で240秒間、6.0 mW/sq cm、を使用して硬化された。硬化したレンズは、鋳型から取り除かれ、IPA/DI水混合物で水和される。
【0028】
実施例1
緩衝処理ステップなしで硬化したレンズから抗菌レンズを作成
硬化および水和したタイプAのレンズを、およそメチルセルロース100ppmを含有する脱イオン水にヨウ化ナトリウム溶液を備えた(0.8mL/レンズ)ビンに設置し、一晩(つまり8時間より長い時間)、ビンローラー上で回転させる。レンズは、ビンからブリスターパックに移送され、そこで余計なヨウ化ナトリウム溶液が取り除かれた。脱イオン水中の硝酸銀の溶液(0.8mL/レンズ)(表1の濃度)が、表1に表示される時間、ブリスターに加えられた。硝酸銀溶液が取り除かれ、レンズは脱イオン水ですすがれ、硫化ナトリウム梱包溶液に設置された。ブリスターは、密封され、124℃で18分間、オートクレーブ処理され、以下に記載される方法を使用して銀含有量およびヘーズについて分析された。結果は、表1に表されている。
【0029】
レンズのオートクレーブ後のレンズの銀含有量が、機器中性子放射化分析(Instrumental Neutron Activation Analysis)「INAA」によって測定された。INAAは、原子炉内における中性子での照射による特定の放射性核種の人工的な誘発に基づく、質的および量的要素分析法である。サンプルの照射に続いて、崩壊する放射線核種(decaying radionuclides)によって放出された特徴的なγ線の量的な測定が行われる。特定のエネルギーで検出されたγ線は、特定の放射線核種の存在を示し、高度な特異性をもたらす。Becker, D. A.、Greenberg, R.R.、Stone, S. F. による「J. Radioanal. Nucl. Chem.」(1992年160(1)、41-53ページ)、Becker, D. A.、Anderson, D. L.、Lindstrom, R. M.、Greenberg, R. R.、Garrity, K. M.、Mackey, E. A.による「J. Radioanal. Nucl. Chem.」(1994年、179(1)、149-54ページ。コンタクトレンズ材料中の銀含有量を定量化するために使用されるINAA処置は、以下の2つの核反応を使用する。
1.放射化反応(activation reaction)において、原子炉内で生産された放射性中性子(radioactive neutron)の捕捉の後、110Agが、安定した109Ag(同位体存在比=48.16%)から生産される。
2.崩壊反応において、110Ag (τ1/2=24.6秒)が、この放射線核種(657.8keV)に特徴的なエネルギーで当初の濃度に比例して陰電子放出(negatron emission)によって主に崩壊する。
照射された標準およびサンプルからの110Agの崩壊に特有なγ線放出は、ガンマ線分光器の使用、確立したパルス波高分析技術によって測定され、分析対象の濃度の測定値をもたらす。
【0030】
ヘーズの割合は、以下の方法を使用して測定される。ホウ酸塩緩衝生理食塩水(borate buffered saline)(SSPS)中の水和されたテストレンズが、周囲温度において単調な黒の背景上で20X40X10mmの透明なガラスセルに設置され、光ファイバー照明具(4〜5.4の動力設定(power setting)に設定した直径0.5インチ(12.7mm)のライトガイドを備える、Titan Tool Supply Co.の光ファイバーライト)を用いてレンズセルに対して66度の角度で交わるように下から照明し、レンズ台の14mm上に設置したビデオカメラ(Navitar TV Zoom 7000 ズームレンズを備えたDVC 1300C:19130 RGB カメラ)で、レンズセルに対して垂直に上からレンズの画像を撮影する。EPIX XCAP V 1.0 ソフトウェアを使用して空白セルの画像を除去することによって、レンズの散乱から背景の散乱が除去される。除去された散乱した光画像は、レンズの中心10mmの上方での統合(integrating)によって、および、次に、ヘーズ値0としてレンズが設定されないように、ヘーズ値100に任意に設定された−1.00ジオプターのCSI Thin Lens(登録商標)との比較によって、量的に分析される。5つのレンズが分析され、標準的なCSIレンズのヘーズ値を割合として生成するよう結果が平均化される。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例2
緩衝処理有りで硬化したレンズから抗菌レンズを作成
硬化および水和したタイプAのレンズが、pH7.4のハロゲン化物のないホウ酸塩緩衝脱イオン水(a halide free borate buffered deionized water)(1.6mL/レンズ)中に設置された。レンズは、この溶液中に一晩維持された。レンズは、この溶液から取り除かれ、表2に記される濃度のおよそ0.800mLの硝酸銀溶液を備えた容器の中に設置された。レンズは、表示された時間、この溶液中に保持され、約100μLの脱イオン水ですすがれた。レンズは、表2による時間および濃度で、およそ0.800mLのヨウ化ナトリウム溶液/脱イオン水中に設置された。処理されたレンズは、硫酸ナトリウム梱包溶液(0.800mL)に移送され、密封され、約18分間およそ124℃に加熱されてレンズを殺菌した。レンズのヘーズレベルおよび銀含有量は、実施例1に記載される方法によって測定された。
【0033】
【表2】

【0034】
表1および表2のデータは、本発明の方法によって生産されるレンズが、より低いヘーズ値を伴って、より多くの銀を含有することを例証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩を具備するイオン性抗菌レンズを作成する方法において、
(a)第1の溶液で、硬化したイオン性レンズを十分な期間、処理するステップであって、前記第1の溶液のpHは、前記イオン性レンズを形成するよう硬化されたイオン性モノマーの酸性度指数(pKa)と等しい、ステップと、
(b)ステップ(a)の後に、前記第1の溶液および前記硬化したレンズに金属物質を加えるステップと、
(c)塩前駆体を具備する第2の溶液でステップ(b)の前記レンズを処理するステップと、
を具備する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記第1の溶液のpHは、前記酸性度指数より少なくとも約1ユニット大きい、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記第1の溶液のpHは、前記酸性度指数より少なくとも約2ユニット大きい、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
前記第1の溶液のpHは、約pH6〜約pH8である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記金属物質は、硝酸銀、銀トリフレート、または酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、硫酸銀、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸銅、および硫酸銅からなる群より選択される、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
前記金属物質は、硝酸銀である、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
前記塩前駆体は、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化リチウム、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、ヨウ化カリウム、およびテトラクロロ銀酸ナトリウムからなる群より選択される、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
前記塩前駆体は、ヨウ化ナトリウムである、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、
前記イオン性レンズは、エタフィルコンA、バラフィルコンA、ブフィルコンA、デルタフィルコンA、ドロキシフィルコンA、フェムフィルコンA、オキュフィルコンA、パーフィルコンA、オキュフィルコンB、オキュフィルコンC、オキュフィルコンD、オキュフィルコンE、メタフィルコンA、B、ヴィフィルコンA、フォコフィルコンA、およびテトラフィルコンBからなる群より選択される、方法。
【請求項10】
ある方法によって作成される、金属塩を具備する抗菌イオン性レンズにおいて、
前記方法は、
(a)第1の溶液で、硬化したイオン性レンズを十分な期間、処理するステップであって、前記第1の溶液のpHは、前記イオン性レンズを形成するよう硬化されたイオン性モノマーの酸性度指数と等しい、ステップと、
(b)ステップ(a)の後に、前記第1の溶液および前記硬化したレンズに金属物質を加えるステップと、
(c)塩前駆体を具備する第2の溶液でステップ(b)の前記レンズを処理するステップと、
を具備する、抗菌イオン性レンズ。
【請求項11】
請求項10に記載の抗菌レンズにおいて、
前記第1の溶液のpHは、前記酸性度指数より少なくとも約1ユニット大きい、抗菌レンズ。
【請求項12】
請求項10に記載の抗菌レンズにおいて、
前記第1の溶液のpHは、前記酸性度指数より少なくとも約2ユニット大きい、抗菌レンズ。
【請求項13】
請求項10に記載の抗菌イオン性レンズにおいて、
前記第1の溶液のpHは、約pH8である、抗菌イオン性レンズ。
【請求項14】
請求項10に記載の抗菌イオン性レンズにおいて、
前記金属物質は、硝酸銀、銀トリフレート、または酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、硫酸銀、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸銅、および硫酸銅からなる群より選択される、抗菌イオン性レンズ。
【請求項15】
請求項10に記載の抗菌イオン性レンズにおいて、
前記金属物質は、硝酸銀である、抗菌イオン性レンズ。
【請求項16】
請求項10に記載の抗菌イオン性レンズにおいて、
前記塩前駆体は、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化チリウム、硫化チリウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、ヨウ化カリウム、およびテトラクロロ銀酸ナトリウムからなる群より選択される、抗菌イオン性レンズ。
【請求項17】
請求項10に記載の抗菌イオン性レンズにおいて、
前記塩前駆体は、ヨウ化ナトリウムである、抗菌イオン性レンズ。
【請求項18】
請求項10に記載の抗菌イオン性レンズにおいて、
前記イオン性レンズは、エタフィルコンA、バラフィルコンA、ブフィルコンA、デルタフィルコンA、ドロキシフィルコンA、フェムフィルコンA、オキュフィルコンA、パーフィルコンA、オキュフィルコンB、オキュフィルコンC、オキュフィルコンD、オキュフィルコンE、メタフィルコンA、B、ヴィフィルコンA、フォコフィルコンA、およびテトラフィルコンBからなる群より選択される、抗菌イオン性レンズ。
【請求項19】
請求項10に記載の抗菌イオン性レンズにおいて、
前記金属塩は、ヨウ化銀である、抗菌イオン性レンズ。

【公表番号】特表2010−524016(P2010−524016A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501169(P2010−501169)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/058168
【国際公開番号】WO2008/121626
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(500092561)ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド (153)
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
【Fターム(参考)】