説明

抗菌剤、且つ抗菌コート剤

【課題】キトサンは、安全性はあるものの抗菌性を及ぼす菌の範囲は狭く、広範囲に効果がない。また、キトサンは通常は固体であり、キトサンを抗菌剤目的で繊維に使用するには液体状態で加えることが好ましいが、キトサンは酸にしか溶解せず、酸に溶解したキトサンでは、人体への安全面に不安があり、直接繊維に使用できない。
一方、抗菌範囲を広げることを目的に繊維に直接Agイオンを加えても、Agイオンは簡単には定着しないし、繊維は変色してしまう。
【解決手段】キトサンと脂肪酸と銀からなる抗菌剤であって、化学反応でキトサンに脂肪酸と銀を固着させたことを特徴とする人体に安全性の高い抗菌剤、且つ抗菌コート剤とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサン誘導体の繊維への良定着性に着目した銀抗菌剤であることを特徴とする抗菌組成物であり、繊維製品分野である。
【背景技術】
【0002】
キトサンはカニやエビの甲殻類の殻から得られるキチン(β−ポリ脱アセチルグルコサミン)を熱濃アルカリ液中で脱アセチル化したものである。食品工場から出るたんぱく質を含む排水や、活性汚泥の凝集剤として主に使用されてきたが、近年では抗菌性や免疫賦活作用があることから、漬物等への日持ち向上剤として利用されている他、化粧品、人工皮膚に使用されている。しかし、抗菌作用を及ぼす菌の範囲が狭く、効果のある菌の種類は限定されてくる。
【0003】
銀が、抗菌・防カビ性に優れていることは古来より知られており、近年では、銀を含む抗菌製品がある。しかし、銀イオンは繊維に付着させることが難しく、その解決方法として繊維糸に直接メッキ加工がされているものや銀ゼオライトの抗菌材料が練り込んであるものが多く、簡単に利用することが難しい。
一方で、近年ではキトサン誘導体をつくり、キトサンを繊維に付着させることを容易に且つ強固にする技術の研究が進み、キトサンによる抗菌作用を特徴とする製品なども存在する。
【特許文献1】特開2005−213494号公報
【特許文献1】特開2005−232615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キトサンは、安全性はあるものの抗菌性を及ぼす菌の範囲は狭く、広範囲に効果がない。また、キトサンは通常は固体であり、キトサンを抗菌剤目的で繊維に使用するには液体状態で加えることが好ましいが、キトサンは酸にしか溶解せず、酸に溶解したキトサンでは、人体への安全面に不安があり、直接繊維に使用できない。
一方、抗菌範囲を広げることを目的に繊維に直接Agイオンを加えても、Agイオンは簡単には定着しないし、繊維は変色してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
我々は、課題を解決するための方策を鋭意検討してきた。発明品の組成に関しては、キトサンのみでは抗菌範囲が限定されることから、先行技術にもあるAgイオン効果を併用すれば抗菌範囲を飛躍的に広げることができることに着目。問題は、どのようにしてキトサンとAgイオンを安定的に結合させるかであった。というのも、キトサンとAgイオンを単に混ぜ合わせただけの溶液(両成分が分離状態の溶液)を繊維に浸透させてみたところ、キトサンは繊維に定着したが、肝心のAgイオンは、繊維に定着しなかったからである。
キトサンの製品への定着性能は確認できたが、その定着性を活用する為にも、キトサンとAgイオンを何らかの方法で化学結合させる必要があった。そこで数々の方策を検討した結果、脂肪酸を媒介することにより、キトサンとAgイオンを安定的に結合させることができることを知見するに至った。
次なる問題は、抗菌剤の組成を、上記の通りキトサンと脂肪酸、Agイオンの組成からなるものとして、具体的にどのような工程によってこれらを安定的に、且つ高い抗菌効果の持続を狙って結合させられるかであった。幾度の失敗の後に、キトサンとAgイオンを安定的に化学結合させ、且つ対象物にAgイオンを定着させられる方法を知見するに至った。具体的には、「キトサンをpH3〜5で溶解し、脂肪酸を付与してキトサン誘導体溶液とする工程」の第一工程、「キトサン誘導体溶液をpH7〜9のアルカリ性溶液に調整する工程」の第二工程、「pH7〜9のアルカリ性キトサン溶液にAgイオン溶液を滴下する工程」の第三工程、「pH6〜8溶液下でキトサン誘導体にAgイオンを結合させる工程」の第四工程からなることを特徴とする抗菌剤の製造方法である。また、この第四工程製法後に得られる抗菌剤は、中性溶液下で得られること、且つ発明品の組成面においても、人体への安全性が非常に高い。
【発明の効果】
【0006】
Agイオンが結合したキトサン誘導体の抗菌剤を提供することで、広範囲の菌に抗菌効果を及ぼし、且つ抗菌コートが容易で抗菌耐久性が安定している商品を提供できる。また、発明品の製法や組成面から人体への安全性の高さが推奨でき、靴下等の生活分野繊維製品のほか、オムツ、ナプキン等の衛生材料、生理用品、マスク、ガーゼ等の医療用資材に、容易で安全な抗菌付加価値を安価に提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の抗菌剤組成物に、キトサン、脂肪酸、銀イオンを含有するものである。
キトサン分子量は、10,000〜4,000,000、脱アセチル化度75〜98%のものをいう。キトサン誘導体は、アミノ基の一部が一つでもアシル化されたキトサンであることが好ましく、脂肪酸としては、炭素数が、7〜20の脂肪酸もしくは、その無水物が用いられる。
Agイオン溶液は、水溶性の金属化合物としてこれに限定されないが、望ましくは硝酸銀溶液を使用する。また、キトサンに対して0.01当量〜1当量になるように添加する。
【0008】
キトサン1当量(分子量:100,000)に対し、水に溶解した1当量のピロリドンカルボン酸を加え、キトサンを溶解した後メタノールを添加する。メタノールで溶かした無水ラウリン酸0.1当量を加え、一晩撹拌する。撹拌後、無水コハク酸1当量を加え、500rpmの回転数で撹拌できる程度まで純水を添加した。この時の溶液は酸性であり、望ましくはpH3〜5でキトサン誘導体溶液を合成する。
次に、このキトサン誘導体溶液がpH7〜9になるよう水酸化ナトリウムを加える。その後、キトサン誘導体溶液に硝酸銀溶液をキトサン分子量の0.3当量、撹拌させながら添加した。加える場合は、少量ずつ滴下する。この時のpHは、pH6〜8を狙って調整し、望ましくはpH7である。合成が完了した抗菌剤溶液に、何も加工されていない市販の靴下を攪拌しながら20分間浸積させた。それをピンセットなどで取り出し、乾燥させた。
【0009】
抗菌コートした靴下として、コーティング耐久性比較の為に洗濯0回〜5回行った5種類の試料を準備し、下記に示す蛍光X線分析と抗菌性試験にて、Agイオンの結合定着確認を実施した。細菌による抗菌性試験は、洗浄回数1回と5回の試料で行った。
【0010】
まず、Agイオンの結合定着確認方法だが、銀を定着させた靴下片(洗浄回数0回〜5回)を蛍光X線測定し、定量分析法により銀イオンの特定ピークの有無と銀の定着個数を算出した。その結果を図1に示す。
図1は、洗浄回数による銀イオン個数変化のグラフである。グラフより、洗濯一回目以降から洗浄を行っても、銀イオンは減少することなく一定になっていることがわかる。このことから、銀が繊維に十分定着していることがわかる。
【0011】
抗菌性試験方法には、定性試験として用いられるハロー法を行った。
ハロー法とは、定性試験に多く使われる測定法で、培地面に菌液を落とし、その上に試験片をのせて試験菌を培養する。試験片の周りにのみ菌が繁殖されず、ハロー(発育阻害帯)ができていることで、抗菌作用の有無を見る方法である。

実際には、生理食塩水に菌を溶かし入れ、調製した菌液を市販の寒天培地に1ml垂らした。ピンセットを用いて抗菌剤で加工された靴下(1.5cm×1.5cm)を培地の中央に、培地の表面に傷をつけないように軽く置いて密着させる。ふたをして、35℃80%RH24時間培養した。また本発明と比較するため、4種類の市販品靴下も上記と同様の抗菌性試験を行った。使用した培地は、栄研化学株式会社 ぺたんチェック10 標準寒天培地(培地表面積10cm2)である。また、抗菌性試験に使用した4種類の市販品靴下は、以下
未加工の靴下
第4級アンモニウム塩で加工してある市販品靴下
キトサンを成分として含む市販品靴下
銀メッキ加工を施した靴下
【0012】
結果を図2、図3に示す。図2は洗濯1回目、図3は洗濯5回目のハロー法の有無の結果である。図から本発明の抗菌剤を付着させた靴下のみにハローが確認された。
よって本発明の抗菌剤は繊維製品に絡みつき、十分に抗菌作用を発揮することができ、繊維製品に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0013】
銀が定着したキトサン誘導体の抗菌剤を提供することで、広範囲の菌に抗菌効果を及ぼし、且つ抗菌コートが容易で抗菌耐久性が安定している繊維製品となる。また、人体への安全性の高さが推奨でき、靴下等の生活分野繊維製品のほか、オムツ、ナプキン、等の衛生材料、生理用品、マスク、ガーゼ等の医療用資材にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】洗浄回数による銀イオン個数の変化を表した図である。
【図2】洗濯1回目の各靴下の抗菌性試験結果の図である。
【図3】洗濯5回目の各靴下の抗菌性試験結果の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンと脂肪酸と銀からなる抗菌剤であって、化学反応でキトサンに脂肪酸と銀を固着させたことを特徴とする人体に安全性の高い抗菌剤、且つ抗菌コート剤。
【請求項2】
「キトサンをpH3〜5で溶解し、脂肪酸を付与してキトサン誘導体溶液とする工程」(第一工程)と、「キトサン誘導体溶液をpH7〜9のアルカリ性溶液に調整する工程」(第二工程)、「pH7〜9のアルカリ性キトサン誘導体溶液に銀イオン溶液を滴下する工程」(第三工程)、及び「pH6〜8溶液下でキトサン誘導体に銀イオンを結合させる工程」(第四工程)からなることを特徴とする抗菌剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−138288(P2009−138288A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313421(P2007−313421)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000229081)日本セラミック株式会社 (129)
【Fターム(参考)】