説明

抗菌剤及び医薬組成物

【課題】 新規化合物であって、広範な抗菌スペクトルを有する抗菌剤として使用することができ、グルタミン酸取り込み阻害剤としても有用であるものを提供する。
【解決手段】 下記式(1)〔式中、R1 は水素又は炭素数1〜6のアルキルを表し、R2 およびR3 はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアシルを表し、R4 は置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキルを表し、X1 、X2 、X3 、X4 およびX5 はそれぞれ独立して、水素又はハロゲンを表す。〕で表される化合物又はその製薬上許容される塩。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、下記式(I);
【0002】
【化2】


【0003】〔式中、R1 は水素又は炭素数1〜6のアルキルを表し、R2 およびR3 はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアシルを表し、R4 は置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキルを表し、X1 、X2 、X3 、X4 およびX5 はそれぞれ独立して、水素又はハロゲンを表す。〕で表される化合物及びその製薬上許容される塩に関する。
【0004】式(I)で表される化合物は、文献未記載の新規化合物であり、従来公知の抗菌剤に比較して広範な抗菌スペクトルを有しており、抗菌剤として有用である。また、グルタミン酸輸送体(以下「グルタミン酸トランスポーター」という)の活性を阻害する作用を有しており、従って、上記式(I)で表される化合物は、グルタミン酸取り込み阻害剤としても有用である。
【0005】
【従来の技術】放線菌の一種が産生する物質として、2位ベンジル置換ピロールを基本骨格として有する各種誘導体及びその類縁化合物が取得され、これらが各種の抗菌活性を有することが知られていた。例えば、ピロロマイシンB(Pyrrolomycin B)、ピロロマイシンC(Pyrrolomycin C)、ピロロマイシンD(Pyrrolomycin D)、ピロロマイシンE(Pyrrolomycin E)等は、日本特許第8256492号明細書等で公知であり、ピオルテオリン(Pyoluteorin)は、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)80巻、4749頁(1958)等で公知になっている。
【0006】しかしながら、これら公知の抗菌剤よりも更に広範な抗菌スペクトルを有する優れた抗菌剤の開発が強く求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記状況に鑑み、広範な抗菌スペクトルを有する抗菌剤として使用することができ、かつ、グルタミン酸取り込み阻害剤としても有用であり、それゆえにシナプス伝達の長期増強活性をも有している化合物を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、放線菌の一種であるストレプトマイセス エスピー.PA−48424が産生する物質が上記目的を達成するために有用であることをつきとめ、本発明を完成した。本発明の要旨は、上記式(I)で表される新規化合物そのものにある。また、本発明の要旨は、この新規化合物を有効成分とする医薬組成物さらに詳しくは抗菌剤及びグルタミン酸取り込み阻害剤そのもの、この新規化合物の生産能を有するストレプトマイセス エスピー.PA−48424、及び、この新規化合物の製造方法にもある。
【0009】本発明に係る上記医薬組成物は、優れた抗菌剤としてヒトを含む動物に適用することができるものである。本発明に係る抗菌剤は、グラム陰性菌、グラム陽性菌を含む広範囲の抗菌スペクトルを有しており、特にグラム陽性菌等に有効に作用することができる。
【0010】また、上記医薬組成物は、グルタミン酸取り込み阻害剤として活用することができる。グルタミン酸取り込み阻害活性は、神経細胞膜に存在するグルタミン酸トランスポーターに対する阻害に基づくものであり、シナプシスにおける神経伝達物質であるグルタミン酸の取り込みを抑制する。これによりグルタミン酸の不活性化を抑制し、グルタミン酸受容体の賦活化を持続するものである。このため、学習・記憶の増強作用等を発揮することが期待できる。後に詳述するように、本発明の化合物は、毒性が極めて弱いので、これら医薬として適用するのに好適である。
【0011】以下に、本発明に係る式(I)で表される化合物について詳述する。上記式中、R1 は水素又は炭素数1〜6のアルキルを表し、R2 およびR3 はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアシルを表し、R4 は置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキルを表し、X1 、X2 、X3 、X4 およびX5 はそれぞれ独立して、水素又はハロゲンを表す。
【0012】上記「置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル」とは、炭素数1〜6の直鎖状又は分枝鎖状のアルキルであって、置換又は非置換のものを意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、ヘキシル、及び、これらの置換体等を挙げることができ、上記置換体の置換基としては、例えば、メルカプト、スルフィノ、スルフォ、アミノ、イミノ、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロゲン等を挙げることができる。上記「置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル」のうち、メチルが好ましい。
【0013】上記「置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアシル」としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、マロニル、アクリロイル、イソブチリル、ブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、アジポイル、グルタリル、メトキサリル、及び、これらの置換体等を挙げることができ、上記置換体の置換基としては、例えば、メルカプト、スルフィノ、スルフォ、アミノ、イミノ、ヒドロキシ、ハロゲン等を挙げることができる。上記「置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアシル」のうち、アセチルが好ましい。上記「置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキル」とは、炭素数1〜12の直鎖状又は分枝鎖状のアルキルであって、置換又は非置換のものを意味し、例えば、上に例示した「置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル」に加えて、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、及び、これらの置換体等を挙げることができ、上記置換体の置換基としては、例えば、メルカプト、スルフィノ、スルフォ、アミノ、イミノ、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロゲン等を挙げることができる。上記「置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキル」のうち、ヘキシル、4−メチルペンチル、4−メチルヘキシル、5−メチルヘキシルが好ましい。上記ハロゲンとしては、ふっ素、塩素、臭素、よう素等を挙げることができる。好ましくは、塩素又は臭素である。
【0014】上記式(I)で表される化合物の製薬上許容される塩としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、臭化水素酸等の鉱酸の塩;ギ酸、酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマール酸、マレイン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸等の有機酸の塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩等を挙げることができる。
【0015】本発明に係る式(I)で表される化合物のうち、下記式(I−a)〜(I−e)で表される化合物、及び、それらのアルキル化物、アシル化物、ハロゲン化物、水素置換体等の誘導体が、抗菌活性、グルタミン酸取り込み阻害活性等の生物活性に優れているので好ましい。
【0016】
【化3】


【0017】上記I−a、I−b、I−c、I−d、I−e等の化合物は、放線菌の一種であるストレプトマイセス エスピー.PA−48424を用いて産生させることができる。上記ストレプトマイセス エスピー.PA−48424は、文献未記載の新規な放線菌であり、本発明者らによってはじめて記載されるものである。本菌株は、工業技術院生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM P−14945号として寄託されている(受託日:平成7年5月26日)。以下、上記ストレプトマイセス エスピー.PA−48424の菌学的性質を詳述する。
【0018】1.形態学的性質イースト・麦芽寒天培地、オートミール寒天培地、スターチ・無機塩寒天培地及びグリセリン・アスパラギン寒天培地のそれぞれの培地上で培養した場合、これらの全ての培地で良好に生育し、豊富に気菌糸を形成する。気菌糸の分枝様式は、単純分枝であって、車軸状分枝は観察されない。胞子は気菌糸上に着生し、鎖状に連なって直状又は波状を呈する。1胞子鎖あたりの胞子数は10〜50個である。電子顕微鏡下での胞子の表面構造は平滑である。菌核、胞子のう、基生菌糸の分断は認められない。
2.培養的性質上述の各培地上における培養的諸性状を下記の表1に示す。
【0019】
【表1】


【0020】3.生理学的性質メラニン様色素は産生しない。生育温度は14〜38℃であり、至適生育温度は22〜28℃である。至適pHは、pH5〜9である。炭素源としてD−グルコース、D−フルクトース、L−ラムノース、D−マニトールを利用するが、L−アラビノース、キシロース、スクロース、イノシトール、ラフィノースは利用できない。
4.化学分類学的性質菌体中のジアミノピメリン酸はLL型である。イソプレノイド・キノンの型はMK−9(H6 ,H8 )である。
【0021】上記諸性状から、本菌株はストレプトマイセス属に属する株であると判断することができる。ストレプトマイセス属の既知種の諸性状と比較したところ、炭素源の利用能において一致する種は見当たらないことから、本菌株を文献未記載の新規な放線菌であると判断した。
【0022】本発明に係る式(I)で表される化合物は、このものの生産能を有する微生物を培地に培養し、得られた培養物から式(I)で表される化合物の粗抽出物を分離した後、精製することによって製造することができる。また、本発明に係る式(I)で表される化合物が、このようにして製造された化合物の誘導体に相当する場合には、必要に応じて、上記精製の後、化学修飾することにより製造することができる。
【0023】上記微生物としては式(I)で表される化合物の生産能を有するものであれば特に限定されず、例えば、上記ストレプトマイセス エスピー.PA−48424株、その変異株等を挙げることができる。
【0024】上記培養は、本発明化合物の生産能を有する微生物を公知の常法に従って行なうことができる。使用する培地としては、炭素源、窒素源、無機物及びその他栄養素を適当量含有するものであれば合成培地または天然培地のいずれでも好適に用いることができる。例えば、炭素源としてグルコース、マルトース、フルクトース、デンプン等の糖類、グリセロール、マンニトール、エタノール等のアルコール類、グリシン、アラニン、アスパラギン等のアミノ酸類、グルコン酸、ピルビン酸、酢酸等の脂肪酸類等一般的な炭素源より微生物の資化性を考慮して1種または2種以上を適宜選択して用いればよい。窒素源としては、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、各種アミノ酸等の有機窒素化合物またはアンモニウム塩、硝酸塩、無機窒素化合物等より微生物の資化性を考慮して1種または2種以上を適宜選択して用いればよい。さらに、リン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、亜鉛、銅、鉄等の金属塩類や、消泡剤、例えばポリプロピレングリコール等は必要に応じて添加することができる。
【0025】培養温度は微生物が発育し、本発明化合物を生産する範囲で適宜変更できるが、特に好ましいのは22〜28℃である。pHは6〜8付近が好ましく、培養時間は普通72〜96時間程度であって、本発明化合物が最高力価に達する時間を見計らって適当な時間に培養を終了する。培養方法は回分培養、連続培養、振盪培養、通気攪拌培養等の通常用いられる方法であれば何でも好適に用いることができるが、始めに振盪培養し、その後、ジャーファーメンター等により通気攪拌培養する方法が好ましい。
【0026】上記分離は、微生物工業の分野で通常用いられている方法等により行うことができ、例えば、上述の方法に従って培養した培養液から遠心分離法等により得られた培養物をアセトン、酢酸エチル等で抽出し、硫酸ナトリウムを加えて濾過して減圧濃縮する手法;培養液にアセトン等の有機溶媒を加え、吸引濾過した後、更に、酢酸エチル等の有機溶媒で抽出する手法等を好適に採用することができる。
【0027】上記精製における処理方法は特に限定されず、例えば、上記分離工程で得られた粗抽出物をn−ヘキサン等で抽出した後、シリカゲル等の担体を用いるクロマトグラフィーおよび分取高速液体クロマトグラフィー等の組み合わせにより精製することができる。得られた精製物質をさらに酢酸エチル等の有機溶媒で抽出した後、減圧濃縮してn−ヘキサン、アセトン等の有機溶媒中で再び結晶化させる手法等により結晶を得ることができる。
【0028】本発明に係る式(I)で表される化合物が、このようにして製造された化合物の誘導体に相当する場合には、必要に応じて、上記精製の後、化学修飾することにより製造することができる。上記化学修飾としては、メチル化等のアルキル化、アセチル化等のアシル化、ハロゲン化、接触還元等の水素置換等を挙げることができる。上記メチル化は、公知の方法等により行うことができ、例えば、トリメチルシリルジアゾメタン処理等の手法を好適に採用することができる。上記アセチル化は、公知の方法等により行うことができ、例えば、無水酢酸処理等の手法を好適に採用することができる。上記接触還元は、公知の方法等により行うことができ、例えば、Pd−C等の触媒の存在下に水素添加を行う手法等を好適に採用することができる。
【0029】本発明の化合物又はその製薬上許容される塩は、これを有効成分として用いることにより、各種の医薬組成物とすることができる。上記医薬組成物としては、上述の抗菌活性及びグルタミン酸取り込み阻害活性に基づいて、例えば、抗菌剤、グルタミン酸取り込み阻害剤等を挙げることができる。抗菌剤は医薬、動物薬のいずれにも用いることができる。
【0030】本発明の化合物又はその製薬上許容される塩を医薬又は動物薬として投与する場合、そのまま又は医薬的に許容される無毒性かつ不活性の担体中に、例えば0.1〜99.5%、好ましくは、0.5〜90%含有する医薬組成物として、ヒトを含む動物に投与される。
【0031】上記担体としては、固形、半固形又は液状の希釈剤、充填剤、及び、その他の処方用の助剤一種以上が用いられる。本発明の化合物又はその製薬上許容される塩は、投与単位形態で投与することが望ましい。本発明の化合物又はその製薬上許容される塩は、経口的又は非経口的に安全に投与することができる。非経口の投与形態として、組織内投与等の局所投与、皮下投与、筋肉内投与、動・静脈内投与等が挙げられる。
【0032】経口投与は、通常の方法に従って調製した固形又は液状の用量単位、例えば、末剤、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、舌下錠その他の剤型によって行うことができる。必要に応じて、経口投与のための用量単位処方はマイクロカプセル化してもよい。この処方はまた被覆をしたり、高分子・ワックス等中に埋めこんだりすることにより作用時間の延長や持続放出をもたらすこともできる。
【0033】非経口投与は、通常の方法によって調製された液状用量単位形態、例えば溶液や懸濁液の形態の注射剤を用いることによって行うことができる。これらの投与方法のうち、経口投与、注射による静脈内投与が好ましい。投与に際してはこれらの投与方法に適した剤型で投与されるのはもちろんである。
【0034】本発明の化合物の投与量は年齢、体重等の患者の状態、病気の性質と程度等を考慮した上で設定することが望ましいが、抗菌剤としてヒトへ経口的に投与する場合は、成人に対して0.1〜100mg/kg/日、好ましくは、0.5〜10mg/kg/日を1回〜数回に分けて投与すればよく、非経口的に投与する場合は、投与方法により大きく異なるが、通常0.001〜10mg/kg/日を1回〜数回に分けて投与すればよい。グルタミン酸取り込み阻害剤としては、経口的に投与する場合は0.01〜10mg/kg/日、好ましくは0.1〜1mg/kg/日を1回〜数回に分けて投与すればよく、非経口的に投与する場合は、通常0.001〜1mg/kg/日を1回〜数回に分けて投与すればよい。
【0035】ヒト以外の動物、例えば、ニワトリ、豚、牛等の家禽及び家畜動物並びに魚類に対しても、経口的または非経口的に投与することができる。経口投与する場合、一般的には通常使用されている担体(例えば、脱脂米糠、脱脂大豆粉、ふすま、乳糖、水等)を混合した物を投与するか、あるいはこの様にして混合物したもの、もしくは本発明化合物単独を動物飼料もしくは水と混合して投与する方法が好ましい。該動物飼料としては、動物の飼料として一般に使用されるものであればいずれでもよく、例えば、とうもろこし、ふすま、米、麦、綿実粕、マイロ、大豆粕、魚粉、脱脂米糠、油脂、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化ナトリウム、ビタミン剤、硫酸マグネシウム、硫酸鉄等が挙げられ、これらの一部または全部が混合して使用される。
【0036】本発明化合物の飼料中の含有量は、1日あたり50〜2000ppmの範囲が適当である。非経口投与する場合は、上記医薬として非経口投与する場合と同様の方法で用いることができる。本発明化合物の投与量は、通常、経口投与の場合、10〜400mg/kg/日であり、非経口投与の場合、5〜200mg/kg/日であり、これを数日間連続投与する。
【実施例】以下に実施例、試験例及び製剤例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例、試験例及び製剤例のみに限定されるものではない。
【0037】実施例1 I−a、I−b、I−c、I−dの単離(1)産生菌産生菌としては、ストレプトマイセス エスピー.PA−48424を使用した。
(2)発酵工程ソルブルスターチ0.5%、グルコース0.5%、ポリペプトン(日本製薬社製)0.5%、牛肉エキス(ディフコ社製)0.5%、酵母エキス(ディフコ社製)0.25%、塩化ナトリウム0.25%、水道水よりなる培地800ml(2N−NaOHでpH7.0に調整)を含む2L容三角フラスコにスラント培養したストレプトマイセス エスピー.PA−48424を接種し、振幅70mm、毎分180回転で、28℃、72時間振盪培養した。この培養液800mlを、グルコース1.0%、ソルブルスターチ3.0%、廃糖蜜2.0%、乾燥酵母1.0%、総合アミノ酸粉末F(味の素社製)1.0%、硫酸亜鉛7水塩0.001%、りん酸第一カリウム0.005%、消泡剤(ハイプロックスDP−2000、大日本インキ化学工業社製)0.05%、水道水よりなる培地35L(2N−NaOHでpH7.0に調整)を含む50L容ジャーファーメンターに接種し、通気量24.5L/分、内圧0.35kg/cm2 G、攪拌回転数300rpm、培養温度28℃で96時間培養した。
【0038】(3)分離工程上記工程を繰り返して得た培養液140Lを、6N塩酸でpH3.5に調整し、シャープレス型遠心分離機を用いて湿菌体7kgを得た。水道水3Lを加えた後、アセトン12Lで2回抽出し、得られた抽出液を減圧濃縮し、水相5Lを得た。次に、酢酸エチル6Lで抽出した後、脱イオン水7Lで水洗し、Na2 SO4 500gを加えて濾過して、減圧濃縮し、粗抽出物を123g得た。
【0039】(4)精製工程上記工程で得られた123gの粗抽出物のうち、65gを20mlの脱イオン水を含む620mlのメタノールに溶解し、n−ヘキサン200mlで2回分配し、n−ヘキサン可溶化物を除き、粗抽出物を24g得た。この粗抽出物(24g)を塩化メチレン50mlに溶解し、内径5cm、長さ50cmのシリカゲル(MERCK Kieselgel60、70〜230メッシュ)のカラムを用いて塩化メチレンでクロマトグラフィーを行い、抽出混合物の分画として850mlを得、減圧濃縮後、n−ヘキサンから結晶化を行い、1.18gの粉末を得た。次に、上記粉末を6分割し、その各々を4mlのメタノールに溶解し、YMC ODSカラム(S−15/30μ、5.0i.d.×50cm、CH3 CN:0.1%H3 PO4 −H2 O=65:35、50ml/分、220nm)を用いて、分取高速液体クロマトグラフィーを繰り返し行い、I−aを主成分とする分画(計1.7L)を得た。分取液は、アセトニトリルを留去後、酢酸エチル500mlで抽出し、脱イオン水300mlで水洗した後、Na2 SO4 50gを加え濾過して、減圧濃縮し、n−ヘキサンから結晶化を行い、751mgのI−aを得た。また、分取高速液体クロマトグラフィー工程で、副成分として、I−bを主成分とする分画(250ml)、I−cを主成分とする分画(550ml)、I−dを主成分とする分画(300ml)を得、これらについても同様の処理を行い、I−b、I−c、I−dをそれぞれ35mg、41mg、15mgを得た。
【0040】得られたI−a〜I−dの化合物名及び物理化学的性状を下記に示した。
I−a1.化合物名(3−クロロ−5−ヘキシル−2,6−ジヒドロキシ−フェニル)−(4,5−ジクロロ−1H−ピロール−2−イル)−メタノン2.物理化学的性状外観:淡黄色の粉末溶解性:CHCl3 、ジエチルエーテル、アセトン、酢酸エチル、メタノールに可溶。n−ヘキサンに僅かに溶解。水に不溶。
融点:145〜147℃[α]D 23.5=±0℃(c=1.005、メタノール)
元素分析値(C1718NO3 Cl3 );
理論値;C:52.26 H:4.64 N:3.59 Cl:27.22実測値;C:51.96 H:4.75 N:3.69 Cl:26.93
【0041】HR−LSIMS、m/z:理論値(C1719NO3 Cl3 );390.0430実測値;390.0433(MH+
EI−MS、m/z:183(ベースピーク)、254、389(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3513、3419、2957、2928、2858、1613、1600、1571、1469、1421、1393、1249、1137、1064、1024、848UV(メタノール中)、nm(ε):225(sh,14500)、310(10000)、358(10700)
(希塩酸−メタノール中)、nm(ε):225(sh,13000)、260(5200)、310(15000)、340(sh,8800)
(希NaOH−メタノール中)、nm(ε):233(sh,13800)、280(6400)、369(21300)
【0042】1HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.89(3H,t,J=6.9Hz)、1.31(4H,m)、1.35(2H,m)、1.56(2H,m)、2.55(2H,m)、6.08(1H,br.s)、7.08(1H,d,J=2.9Hz)、7.22(1H,s)、9.74(1H,br.s)、9.94(1H,br.s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:14.14(q)、22.65(t)、29.10(t)、29.27(t)、29.44(t)、31.72(t)、110.31(s)(×2)、112.61(s)、119.76(d)、121.62(s)、124.81(s)、128.93(s)、133.77(d)、147.89(s)、157.31(s)、182.77(s)
【0043】I−aの赤外線スペクトルを図1に、紫外線スペクトルを図2に、 1HNMRを図3に、13CNMRを図4に示した。
【0044】I−b1.化合物名[3−クロロ−2,6−ジヒドロキシ−5−(4−メチル−ペンチル)−フェニル]−(4,5−ジクロロ−1H−ピロール−2−イル)−メタノン2.物理化学的性状外観:淡黄色の粉末溶解性:CHCl3 、ジエチルエーテル、アセトン、酢酸エチル、メタノールに可溶。n−ヘキサンに僅かに溶解。水に不溶。
融点:148〜150℃HR−LSIMS、m/z:理論値(C1719NO3 Cl3 );390.0430実測値;390.0429(MH+
EI−MS、m/z:389(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3513、3419、2956、2928、2869、1613、1601、1571、1469、1421、1394、1338、1252、1138、1065、1024UV(メタノール中)、nm(ε):255(sh,14300)、310(10400)、358(10300)
(希塩酸−メタノール中)、nm(ε):225(sh,13100)、260(5300)、310(14900)、340(sh,8300)
(希NaOH−メタノール中)、nm(ε):233(sh,13500)、280(6300)、370(20700)
【0045】1HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.88(6H,d,J=6.6Hz)、1.23(2H,m)、1.56(2H,m)、1.57(2H,m)、2.53(2H,t,J=7.8Hz)、6.07(1H,s)、7.09(1H,d,J=2.9Hz)、7.22(1H,s)、10.01(1H,s)、9.55(1H,br.s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:22.60(q)(×2)、27.31(t)、27.88(d)、29.50(t)、38.66(t)、110.23(s)(×2)、112.55(s)、119.58(d)、121.37(s)、124.80(s)、128.91(s)、133.73(d)、147.84(s)、157.36(s)、182.70(s)
【0046】I−bの赤外線スペクトルを図5に、紫外線スペクトルを図6に、 1HNMRを図7に、13CNMRを図8に示した。
【0047】I−c1.化合物名[3−クロロ−2,6−ジヒドロキシ−5−(4−メチル−ヘキシル)−フェニル]−(4,5−ジクロロ−1H−ピロール−2−イル)−メタノン2.物理化学的性状外観:淡黄色の粉末溶解性:CHCl3 、ジエチルエーテル、アセトン、酢酸エチル、メタノールに可溶。n−ヘキサンに僅かに溶解。水に不溶。
融点:138〜140℃HR−LSIMS、m/z:理論値(C1821NO3 Cl3 );404.0587実測値;404.0587(MH+
EI−MS、m/z:183(ベースピーク)、268、403(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3513、3420、3226、2960、2928、2872、1613、1600、1570、1463、1421、1393、1250、1138、1065、1024、943、929、894、840UV(メタノール中)、nm(ε):225(sh,15100)、310(9800)、357(9800)
(希塩酸−メタノール中)、nm(ε):225(sh,13600)、258(4900)、310(14200)、340(sh,7900)
(希NaOH−メタノール中)、nm(ε):233(sh,13200)、281(6100)、371(19700)
【0048】1HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.86(3H,t,J=7.3Hz)、0.86(3H,d,J=6.2Hz)、1.14(1H,m)、1.17(1H,m)、1.35(2H,m)、1.36(1H,m)、1.55(2H,m)、2.51(1H,d,d,d,J=6.7,8.8,14.0Hz)、2.55(1H,d,d,d,J=6.7,8.8,14.0Hz)、6.08(1H,s)、7.09(1H,d,J=2.9Hz)、7.23(1H,s)、9.58(1H,br.s)、10.00(1H,s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:11.41(q)、19.17(q)、27.00(t)、29.43(t)、29.57(t)、34.26(d)、36.33(t)、110.23(s)(×2)、112.54(s)、119.58(d)、121.38(s)、124.81(s)、128.91(s)、133.72(d)、147.84(s)、157.34(s)、182.70(s)
【0049】I−cの赤外線スペクトルを図9に、紫外線スペクトルを図10に、 1HNMRを図11に、13CNMRを図12に示した。
【0050】I−d1.化合物名[3−クロロ−2,6−ジヒドロキシ−5−(5−メチル−ヘキシル)−フェニル]−(4,5−ジクロロ−1H−ピロール−2−イル)−メタノン2.物理化学的性状外観:淡黄色の粉末溶解性:CHCl3 、ジエチルエーテル、アセトン、酢酸エチル、メタノールに可溶。n−ヘキサンに僅かに溶解。水に不溶。
融点:153〜155℃HR−LSIMS、m/z:理論値(C1821NO3 Cl3 );404.0587実測値;404.0585(MH+
EI−MS、m/z:183(ベースピーク)、268、403(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3513、3419、3222、2955、2928、2858、1613、1601、1571、1468、1421、1393、1250、1138、1065、1023、943、848UV(メタノール中)、nm(ε):225(sh,13900)、310(9300)、358(10000)
(希塩酸−メタノール中)、nm(ε):225(sh,13100)、260(4800)、310(14100)、340(sh,8000)
(希NaOH−メタノール中)、nm(ε):233(sh,13100)、279(6100)、370(19600)
【0051】1HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.87(6H,d,J=6.8Hz)、1.21(2H,m)、1.34(2H,m)、1.53(3H,m)、2.55(2H,t,J=7.7Hz)、6.08(1H,s)、7.09(1H,d,J=2.6Hz)、7.22(1H,s)、9.58(1H,br.s)、10.00(1H,s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:22.65(q)(×2)、27.19(t)、27.92(d)、29.28(t)、29.69(t)、38.77(t)、110.24(s)(×2)、112.54(s)、119.58(d)、121.38(s)、124.78(s)、128.91(s)、133.72(d)、147.85(s)、157.33(s)、182.70(s)
【0052】I−dの赤外線スペクトルを図13に、紫外線スペクトルを図14に、 1HNMRを図15に、13CNMRを図16に示した。
【0053】得られたI−a〜I〜dの薄層クロマトグラフィー(以下「TLC」という)及び高速液体クロマトグラフィー(以下「HPLC」という)の結果を下記に示した。
TLCのRf値(濃硫酸で検出):(CH2 Cl2 )I−a=I−b=I−c=I−d=0.28(n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1)I−a=I−b=I−c=I−d=0.40HPLC分析:保持時間;I−a=8.40分、I−b=7.73分、I−c=10.21分、I−d=10.61分HPLC分析の分析条件:カラム;Ultron VX−ODS、5μm、4.6i.d.×150mm(信和化工社製)
移動相;0.1%H3 PO4 −CH3 CN:0.1%H3 PO4 −水=75:25流速;1ml/分検出波長;220nm
【0054】実施例2 I−eの単離(1)産生菌産生菌としては、ストレプトマイセス エスピー.PA−48424を使用した。
(2)発酵工程ソルブルスターチ0.5%、グルコース0.5%、ポリペプトン(日本製薬社製)0.5%、牛肉エキス(ディフコ社製)0.5%、酵母エキス(ディフコ社製)0.25%、塩化ナトリウム0.25%、水道水よりなる培地100ml(2N−NaOHでpH7.0に調整)を含む500ml容三角フラスコにスラント培養したストレプトマイセス エスピー.PA−48424の保存菌液(−80℃に凍結保存)1mlを接種し、振幅70mm、毎分180回転で、28℃、72時間培養した。この培養液4mlを、グルコース1.0%、ソルブルスターチ3.0%、廃糖蜜1.0%、臭化ナトリウム1.0%、乾燥酵母1.0%、総合アミノ酸粉末F(味の素社製)1.0%、硫酸亜鉛7水塩0.001%、りん酸第一カリウム0.005%、水道水よりなる培地100ml(2N−NaOHでpH7.0に調整)を含む500ml容三角フラスコに接種し、振幅70mm、毎分180回転で、28℃、96時間培養した。
【0055】(3)分離工程上記工程により得た培養液5Lにアセトン5Lを加え、2時間攪拌した後、セライト300gを用いて吸引濾過して得られたろ液から、減圧下アセトンを留去後、水層を酢酸エチル(3L)抽出し、粗抽出物(1.2g)を得た。
【0056】(4)精製工程上記工程で得られた粗抽出物1.2gを(メタノール:水=9:1)100mlに溶解し、n−ヘキサン100mlで2回抽出し、残渣のメタノール層から減圧下溶媒留去後、粗分画(700mg)を得た。この粗分画(700mg)をメタノール(5ml)に溶解し、シリカゲル(MERCK Kieselgel60、70〜230メッシュ、1.9g)に吸着、乾固させた後、内径3cm、長さ50cmのシリカゲル(MERCK Kieselgel60、70〜230メッシュ、80g)カラムに積層し、トルエン:酢酸エチル=98:2を用いたクロマトグラフィーを行い、I−eを主成分とする分画(50mg)を得た。次に、この分画(50mg)をメタノール(1.25ml)に溶解し、分取高速液体クロマトグラフィー(カラム:ULTRON VX−ODS 20i.d.×250mm(信和化工社製))を繰り返し行い、I−e溶出分画(120ml)を得た。クロマトグラフィーの条件は、溶出液としてアセトニトリル:0.1%TFAaq.=70:30、流速8ml/分、試料注入量250ml/回とし、検出は230nmで行った。分取液は、アセトニトリルを留去後、酢酸エチル(50ml)で抽出した後、飽和食塩水(50ml)で洗浄し、無水Na2 SO4を加えて濾過して、減圧濃縮し、n−ヘキサン−アセトンから結晶化を行い、13.7mgのI−eを得た。
【0057】得られたI−eの化合物名及び物理化学的性状を下記に示した。
I−e1.化合物名(3−ブロモ−5−ヘキシル−2,6−ジヒドロキシ−フェニル)−(4,5−ジブロモ−1H−ピロール−2−イル)−メタノン2.物理化学的性状外観:淡褐色の粉末融点:128〜130℃HR−LSIMS、m/z:理論値(C1719NO3 Br3 );521.8916実測値;521.8914(MH+
L−SIMS、m/z:522(MH+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3493、3417、3021、3017、2957、2928、2857、1611、1596、1566、1463、1421、1403、1382、1240、1223、1213、1204、1132、1057、981、939、895、836UV(メタノール中)、nm(ε):224(sh,17700)、313.7(11100)、357.2(10800)
(希塩酸−メタノール中)、nm(ε):225(sh,15600)、313.0(15400)
(希NaOH−メタノール中)、nm(ε):220(sh,21900)、240(sh,13000)、281.4(7000)、370.3(22400)
【0058】1HNMR(CDCl3 ,300MHz)δ:0.89(3H,t,J=6.9Hz)、1.31(6H,m)、1.59(2H,m)、2.55(2H,t,J=8.1Hz)、6.05(1H,s)、7.12(1H,d,J=2.7Hz)、7.35(1H,s)、9.72(1H,br.s)、9.93(1H,s)
13CNMR(CDCl3 ,75MHz)δ:14.11、22.61、29.09、29.24、29.45、31.69、100.00、101.76、110.23、110.93、122.25、125.37、132.45、136.55、148.78、157.96、182.58
【0059】I−eの赤外線スペクトルを図17に、紫外線スペクトルを図18に、 1HNMRを図19に、13CNMRを図20に示した。
【0060】得られたI−eのTLC及びHPLCの結果を下記に示した。
TLCのRf値(濃硫酸で検出):(CH2 Cl2 )I−e=0.32(I−a=0.27)
(n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1)I−e=0.40(I−a=0.38)
HPLC分析:保持時間;I−e=10.22分(I−a=8.12分)
HPLC分析の分析条件:カラム;Ultron VX−ODS、5μm、4.6i.d.×150mm(信和化工社製)
移動相;0.1%H3 PO4 −CH3 CN:0.1%H3 PO4 −水=75:25流速;1ml/分検出波長;220nm
【0061】実施例3 I−aのアセチル化I−a(8mg、0.02mmol)のピリジン(0.5ml)溶液に無水酢酸(0.25ml)を加え10分間攪拌した。反応液にトルエンを加え減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Merck Kieselgel60、70〜230メッシュ、1g)に付し、CH2 Cl2 :メタノール=50:1の混合溶媒で溶出し、I−aのジアセチル化物(以下このものを「I−a1 」という)(9mg)を得た。
【0062】このものの物理化学的性状を下記に示した。
HR−LSIMS、m/z:理論値(C2123NO5 Cl3 );474.0642実測値;474.0641(MH+
LSIMS、m/z:474(MH+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3418、2958、2930、2859、1772、1638、1453、1424、1390、1370、1323、1183、1139、1100、1059、1043、1023、8951HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.89(3H,t,J=6.6Hz)、1.31(4H,m)、1.35(2H,m)、1.58(2H,m)、2.09(3H,s)、2.13(3H,s)、2.46(2H,t,J=7.8Hz)、6.66(1H,br.s)、7.44(1H,s)、9.50(1H,br.s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:14.06、20.26、20.35、22.53、29.11、29.27、29.78、31.51、112.83、119.30、122.24、125.48、126.97、128.39、132.02、135.55、142.60、144.87、167.58、168.34、177.82
【0063】得られたI−a1 の化学構造式を下記に示した。下記式中、Acはアセチル基を表す。
【0064】
【化4】


【0065】実施例4 I−aのメチル化(1)I−a(40mg、0.10mmol)のメタノール:ベンゼン(1:1)混合溶液(1ml)に過剰のトリメチルシリルジアゾメタン(10%n−ヘキサン溶液、ナカライテスク社製)を加え12時間室温下に放置した。減圧下溶媒を留去し、残渣を薄層クロマトグラフィー(Pre−Coated TLC Plates、SILICA GEL F−254、E.Merck社製)に付し、n−ヘキサン:酢酸エチル=15:1の混合溶媒で分離精製し、I−aのトリメチル化物(以下このものを「I−a2 」という)(20mg)を得た。
【0066】このものの物理化学的性状を下記に示した。
LSIMS、m/z:432(MH+
IR、λmax CHCl3 cm-1:2957、2930、2858、1642、1586、1569、1469、1416、1380、1342、1256、1173、1143、1104、1078、1002、979、944、885、8611HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.87(3H,t,J=6.6Hz)、1.29(4H,m)、1.34(2H,m)、1.58(2H,m)、2.54(2H,m)、3.65(3H,s)、3.75(3H,s)、4.05(3H,s)、6.37(1H,s)、7.24(1H,s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:14.33、22.83、29.26、30.54、34.56(×2)、62.64、63.20、111.05、120.98、123.06、126.00、129.82、130.04、132.05、133.82、151.55、154.48、182.15
【0067】得られたI−a2 の化学構造式を下記に示した。
【0068】
【化5】


【0069】実施例5 I−aのメチル化(2)I−a(10mg、0.026mmol)のベンゼン溶液(1ml)に過剰のトリメチルシリルジアゾメタン(10%n−ヘキサン溶液、ナカライテスク社製)を加え12時間室温下に放置した。減圧下溶媒を留去し、残渣を薄層クロマトグラフィー(Pre−Coated TLC Plates、SILICA GEL F−254、E.Merck社製)に付し、CH2 Cl2 溶媒で分離精製し、I−aのジメチル化物(以下このものを「I−a3 」という)(3.6mg)を得た。
【0070】このものの物理化学的性状を下記に示した。
EIMS、m/z:197(ベースピーク)、268、417(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:2957、2929、2858、1600、1571、1523、1468、1455、1399、1344、1273、1179、1146、1104、1073、1008、966、894、8541HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.89(3H,t,J=6.6Hz)、1.31(4H,m)、1.36(2H,m)、1.58(2H,m)、2.57(2H,m)、3.63(3H,s)、4.00(3H,br.s)、6.73(1H,s)、7.24(1H,s)、8.48(1H,br.s)13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:14.11、22.60、29.12、29.34、29.41、31.67、34.51、62.22、110.91、117.79、118.25、121.63、125.81、128.12、129.64、134.01、152.16、154.83、184.09
【0071】得られたI−a3 の化学構造式を下記に示した。
【0072】
【化6】


【0073】実施例6 I−aのメチル化(3)I−a(10mg、0.026mmol)のベンゼン溶液(1ml)を5〜10℃に保ち、トリメチルシリルジアゾメタン(10%n−ヘキサン溶液、ナカライテスク社製)を加え20分間放置した。減圧下溶媒を留去し、残渣を薄層クロマトグラフィー(Pre−Coated TLC Plates、SILICAGEL F−254、E.Merck社製)に付し、CH2 Cl2 溶媒で分離精製し、I−aのモノメチル化物(以下このものを「I−a4 」という)(6mg)を得た。
【0074】このものの物理化学的性状を下記に示した。
EIMS、m/z:197(ベースピーク)、268、403(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3418、3249、2957、2929、2858、1594、1562、1506、1467、1423、1329、1264、1139、1101、1073、1023、980、937、898、850、8441HNMR(CDCl3 ,400MHz)δ:0.89(3H,t,J=6.6Hz)、1.31(4H,m)、1.34(2H,m)、1.58(2H,m)、2.56(2H,m)、3.67(3H,s)、7.14(1H,d,J=2.9Hz)、7.28(1H,s)、9.69(1H,br.s)、9.97(1H,s)
13CNMR(CDCl3 ,100MHz)δ:14.12、22.61、29.12、29.25、29.53、31.68、62.63、113.01、115.72、117.23、120.37、121.63、128.70、129.08、135.03、151.89、156.95、182.77
【0075】得られたI−a4 の化学構造式を下記に示した。
【0076】
【化7】


【0077】実施例7 I−aの接触還元I−a(40mg、0.10mmol)のエタノール溶液(2ml)に10%Pd−C(28mg、50%湿重量、日本エンゲルハルド社製)を加え室温下中圧(3kg/cm3 水素ガス圧)水素添加を17時間行う。触媒濾去後、減圧下に溶媒を留去し、残渣を高速液体クロマトグラフィー(Ultron VX−ODS、2.0i.d.×25cm、アセトニトリル:0.1%H3 PO4 −水=(66:34)から(80:20)へ33分間のリニアグラジエント)に付し、I−aの3種類の水素置換体(以下、これらのものをそれぞれ「I−a5 」、「I−a6 」、「I−a7 」という)及びI−aをそれぞれ分離精製した。各フラクションは減圧下に溶媒を留去し、残渣の水層を酢酸エチルで抽出し、I−a5(1.3mg)、I−a6 (4.4mg)、I−a7 (3.1mg)及びI−a(2.2mg)をそれぞれ得た。
【0078】得られたI−a5 、I−a6 、I−a7 の物理化学的性状を下記に示した。
【0079】I−a5EIMS、m/z:183(ベースピーク)、254、355(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3515、3437、3141、2957、2928、2857、1613、1601、1573、1454、1421、1383、1341、1248、1134、1109、1064、1023、940、895、8471HNMR(CDCl3 ,400MHz)δ:0.89(3H,t,J=6.6Hz)、1.31(4H,m)、1.34(2H,m)、1.57(2H,m)、2.55(2H,m)、6.38(1H,t,d,J=2.3,4.0Hz)、6.44(1H,d,J=8.4Hz)、7.14(1H,d,J=8.4Hz)、7.14(1H,m)、7.18(1H,m)、7.40(1H,br.s)、8.82(1H,s)、9.55(1H,br.s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:14.13、22.63、29.10、29.28、29.45、31.72、110.31、110.72、115.02、118.94、122.90、124.61、130.86、133.60、148.05、157.05、183.75
【0080】得られたI−a5 の化学構造式を下記に示した。
【0081】
【化8】


【0082】I−a6EIMS、m/z:149(ベースピーク)、220、321(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3528、3437、3141、2957、2928、2857、1624、1594、1576、1454、1422、1385、1340、1245、1177、1108、1038、988、939、8381HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.88(3H,t,J=7.0Hz)、1.32(6H,m)、1.57(2H,m)、2.55(2H,t,J=8.0Hz)、6.41(1H,d,J=8.2Hz)、6.98(1H,s)、7.07(2H,m)、7.14(1H,d,J=8.2Hz)、8.77(1H,s)、9.52(1H,br.s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:14.14、22.66、29.15、29.38、29.68、31.74、107.80、110.18、115.31、117.97、122.43、123.26、130.49、135.74、154.81、156.41、184.07
【0083】得られたI−a6 の化学構造式を下記に示した。
【0084】
【化9】


【0085】I−a7EIMS、m/z:149(ベースピーク)、220、287(M+
IR、λmax CHCl3 cm-1:3523、3445、2956、2927、2856、1626、1593、1575、1539、1472、1424、1400、1340、1176、1118、1103、1092、1046、9931HNMR(CDCl3 ,600MHz)δ:0.88(3H,t,J=7.0Hz)、1.31(4H,m)、1.35(2H,m)、1.57(2H,m)、2.55(2H,m)、6.38(1H,t,d,J=2.3,4.0Hz)、6.44(1H,d,J=8.4Hz)、7.14(1H,d,J=8.4Hz)、7.14(1H,m)、7.18(1H,m)、7.40(1H,br.s)、8.82(1H,s)、9.55(1H,br.s)
13CNMR(CDCl3 ,150MHz)δ:14.11、22.60、29.12、29.34、29.41、31.67、34.51、62.22、110.91、117.79、118.25、121.63、125.81、128.12、129.64、134.01、152.16、154.83、184.09
【0086】得られたI−a7 の化学構造式を下記に示した。
【0087】
【化10】


【0088】試験例1 抗菌活性I−a、I−b、I−c、I−d、I−eのグラム陰性菌、グラム陽性菌に対する抗菌活性を測定して抗菌スペクトルを調べた。結果を表2に示した。
【0089】
【表2】


【0090】表2中、菌名は、E.coli NIHJ JC−2はEscherichia coli NIHJ JC−2を、P.aeruginosa ATCC25619はPseudomonas aeruginosa ATCC 25619を、K.pneumoniae ATCC 27736はKlebsiella pneumoniae ATCC 27736を、A.pleuropneumoniae NB−001はActinobacillus pleuropneumoniae NB−001を、P.multocida D−6はPasteurella multocida D−6を、P.piscicida No.2はPasteurella piscicida No.2を、H.pylori ATCC 43629はHelicobacter pylori ATCC 43629を、S.aureus FDA 209PはStaphylococcus aureus FDA 209Pを、S.aureus 17004 (MRSA)はStaphylococcus aureus 17004 (MRSA)を、C.perfringens ATCC13124はClostridium perfringens ATCC 13124を、E.seriolicida SN86119はEnterococcus seriolicida SN86119をそれぞれ示す。
【0091】表2中、最小阻止濃度(以下「MIC」ともいう)は、表3に示す供試培地を接種源用培地及びMIC測定用培地とし、表3に示す培養条件の下で測定した。接種源濃度は、いずれも106 CFU/mlとした。
【0092】
【表3】


【0093】表3中、供試培地は、(1)がMuller Hinton Broth(ディフコ社製)を、(2)がMuller Hinton Agar(ディフコ社製)を、(3)が0.05%β−NAD添加Colombia Broth(ディフコ社製)を、(4)が2%NaCl添加Brain Heart Infusion Broth(ディフコ社製)を、(5)が7%ウマ血液添加Bllod Agar Base No.2(ディフコ社製)を、(6)がCoocked Meat Medium(ディフコ社製)を、(7)がGAM Agar(ディフコ社製)を、(8)がTrypto−Soya Broth(ニッスイ社製)を、(9)がSensitivity Disk Agar−N(ニッスイ社製)をそれぞれ示す。菌名は上記と同様である。
【0094】表2から明らかなように、本発明の物質は、グラム陰性菌、グラム陽性菌等に対する広範な抗菌活性を有している。グラム陰性菌の中では特にP.multocida,P.piscicida及びH.pyloriに強い活性を示した。また、グラム陽性菌に対しては全体的に顕著な抗菌活性を示し、MRSAに対しても有効であった。特にI−a、I−b、I−c、I−eは、広い範囲の抗菌スペクトルを有することが明らかとなった。
【0095】試験例2 小脳顆粒細胞におけるグルタミン酸トランスポーター阻害活性下記の化合物について、小脳顆粒細胞におけるグルタミン酸トランスポーター阻害活性を調べた。
I−a、I−b、I−c、I−d、I−e、I−a1 、I−a3 、I−a4 、I−a5 、I−a6 、I−a7(1)検体の調製検体は、すべてジメチルスルフォキサイド(DMSO)を用いて10mg/mlとなるように溶解した。活性測定のために持ち込むDMSO濃度は4%以下とした。
【0096】(2)小脳顆粒細胞の調製8日令のSD系ラットの小脳を20匹分摘出し、1%トリプシン液で10分間37℃で処理、ピペッティングにより細胞を分散させた。ナイロンメッシュを通し、大きな組織塊を除去した。ポリ−L−リジンを使用して表面をコーティングした24ウェルディッシュ20枚に分散した細胞を分注した。培地はα−MEM培地に10%ウシ血清、25mM KClを添加したものを用いた。細胞を24ウェルディッシュに分注後24〜48時間に終濃度10μMシトシンβ−D−アラビノフラノシドを添加し、増殖性細胞を除去した。その後、3日置きに培地交換を行い、1〜2週目の細胞を実験に用いた(Manual of the Nervous System、203〜206頁(1989年)、Alan R.Liss,Inc)。
【0097】(3)グルタミン酸トランスポーター活性の測定上記の細胞をクレブス−リンゲル液(KRB)で2回洗浄し、検体を含むKRBを添加して37℃10分間処理した。更に[3H]ラベル体を含む1μMグルタミン酸を添加して10分間37℃で反応させた。グルタミン酸取り込みの終了は細胞を1mlの冷却KRBで2回洗浄した。そして、0.05%のドデシル硫酸ナトリウムを含む0.01%デオキシコール酸ナトリウムで細胞を溶解し、液体シンチレーションカウンターで[3H]の放射活性を測定した。
【0098】(4)スクリーニング方法天然物培養液抽出物中から得られる神経細胞のグルタミン酸取り込み活性を阻害する検体を選択した。更に、同じ細胞でGABAの取り込み阻害活性を持たないものを選択した。以上の操作により、グルタミン酸トランスポーター特異性の高い成分を選択した。グルタミン酸取り込み阻害活性を指標に活性成分を分画精製した。
【0099】(5)結果上記の11の化合物に関して、そのグルタミン酸取り込み阻害活性の50%阻害濃度(以下「IC50」という)を表4に示した。
【0100】
【表4】


【0101】表4の結果、I−a、I−b、I−c、I−dは、グルタミン酸取り込み阻害のIC50値が0.8μMで、I−eは、0.4μMであった。更に、その阻害活性は、グルタミン酸取り込みを最大限65%抑制するという部分的なものであった。I−aのグルタミン酸取り込み阻害様式は、Line−Weaver Plot解析により非拮抗阻害型であることが認められた。I−aのCl基、OH基を修飾した化合物では、グルタミン酸取り込み阻害活性がI−a、I−b、I−c、I−d等よりも弱くなる傾向が認められた。I−a1 、I−a7 では、グルタミン酸取り込み阻害活性の最大値が95%となった。
【0102】製剤例1 I−a 50mg 乳糖 46mg トウモロコシデンプン 20mg 低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 8mg ヒドロキシプロピルメチルセルロース 5mg ステアリン酸マグネシウム 1mg 計 130mgヒドロキシプロピルメチルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを除く上記処方成分を均一に混合した後、ヒドロキシプロピルメチルセルロース8%(w/w)水溶液を結合剤として湿式造粒法にて打錠用顆粒を製造した。これにステアリン酸マグネシウムを混合した後、打錠機を用いて直径7mm、1錠重量130mgに形成し、内服錠とした。
【0103】製剤例2I−a 30mg生理食塩水 200mlI−aを生理食塩水に溶解し、点滴剤とした。
【0104】
【発明の効果】本発明により、広範な抗菌スペクトルを有する抗菌剤として使用することができるものを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】I−aの赤外線スペクトルを示す図。
【図2】I−aの紫外線スペクトルを示す図。
【図3】I−aの 1HNMRスペクトルを示す図。
【図4】I−aの13CNMRスペクトルを示す図。
【図5】I−bの赤外線スペクトルを示す図。
【図6】I−bの紫外線スペクトルを示す図。
【図7】I−bの 1HNMRスペクトルを示す図。
【図8】I−bの13CNMRスペクトルを示す図。
【図9】I−cの赤外線スペクトルを示す図。
【図10】I−cの紫外線スペクトルを示す図。
【図11】I−cの 1HNMRスペクトルを示す図。
【図12】I−cの13CNMRスペクトルを示す図。
【図13】I−dの赤外線スペクトルを示す図。
【図14】I−dの紫外線スペクトルを示す図。
【図15】I−dの 1HNMRスペクトルを示す図。
【図16】I−dの13CNMRスペクトルを示す図。
【図17】I−eの赤外線スペクトルを示す図。
【図18】I−eの紫外線スペクトルを示す図。
【図19】I−eの 1HNMRスペクトルを示す図。
【図20】I−eの13CNMRスペクトルを示す図。
【図21】試験例2の各種細胞によるグルタミン酸取り込み阻害活性を示す図。白丸は大脳皮質細胞を、黒丸はC6グリオーマ細胞を、白四角はアストログリアを、黒四角は小脳顆粒細胞をそれぞれ示す。縦軸はグルタミン酸取り込み率(対照に対する百分率)を、横軸はI−aの濃度(μM)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(I);
【化1】


〔式中、R1 は水素又は炭素数1〜6のアルキルを表し、R2 およびR3 はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアシルを表し、R4 は置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキルを表し、X1 、X2 、X3 、X4 およびX5 はそれぞれ独立して、水素又はハロゲンを表す。〕で表される化合物又はその製薬上許容される塩。
【請求項2】 請求項1記載の化合物を有効成分とすることを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】 請求項1記載の化合物を有効成分とすることを特徴とする抗菌剤。
【請求項4】 請求項1記載の化合物の生産能を有するストレプトマイセスエスピー.PA−48424。
【請求項5】 請求項1記載の化合物の生産能を有する微生物を培地に培養し、得られた培養物から請求項1記載の化合物を分離した後、精製し、その後、必要に応じて化学修飾することを特徴とする請求項1記載の化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図14】
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【図5】
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【図7】
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【図18】
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【図21】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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