説明

抗菌性金属イオン溶出を活性化させる染色加工方法

【課題】抗菌性を有する金属イオン溶出型のわた状繊維や糸やそれらをその原料の一部として、又は金属イオンを担持させた抗菌剤を原料樹脂に混入し作られた合成繊維をその構成の一部として含んで製造された布地が通常周知の方法で染色加工工程を経た直後からそのイオン溶出を促進し、抗菌性を具現化できる染色加工方法の提供。
【解決手段】通常行われている周知の染色工程の最終段階で、染色した糸や布地をレモン酸などでph4から6に調整された水またはお湯を通し余分な水分を絞り乾燥・巾出し・整理すると、糸自体若しくは布地自体が弱酸性に確実に仕上がり、抗菌性金属イオン溶出型の抗菌性を期待され製造された糸や布地は洗濯0回・洗濯10回から20回というふうな洗濯回数の少ない状況でも、JIS−L−1902にいう抗菌防臭機能のみならず、場合によっては糸や布地が本来持つ制菌機能も実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抗菌性、抗カビ性など微生物の増殖抑制機能を期待して製造された抗菌性金属イオン溶出型の繊維や糸、及びその繊維や糸を使って抗菌性を付与する布地の染色加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来抗菌性を持つ糸や布地は、抗菌性を有する化学物質を染色工程の間で繊維表面にマイクロカプセルに入れ付着させたり、または直接いわゆる抗菌剤を含浸するなどで繊維や糸に付着させ製造されていた。
【0003】
しかし洗濯での抗菌機能の耐久性や耐紫外線などで問題が多く、今では主に銅や亜鉛あるいは銀といった抗菌性を有する無機物である金属自体を真空蒸着などの技術で付着させた糸や、糸やそれを構成する繊維自体に前述の抗菌性を持つ金属をメッキしたものやそれを断裁した繊維で製造された糸や布地、または抗菌性金属イオンを錯体化してゼオライトなど多孔質物質に担持させた抗菌剤を糸に付着させるもしくは合成繊維を構成する合成樹脂に閉じ込めたりして作られた繊維や糸及びそれらを原料に布地が作られ染色加工されている。いわゆる金属イオン溶出型の抗菌性を持つ糸や布地が最近ではその機能の永続性や安全性から主流になってきている。そして長期間に亘って耐久性のある高い抗菌性を維持させる点に、開発の重点が置かれるようになってきた(特許文献1参照。)
【特許文献1】特開平6−306705
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしイオン溶出型の抗菌性を持つ繊維や糸、もしくはそれらを原料の一部として有する布地を染色する場合、抗菌機能が染色工程を経た後、使用される初期、例えば洗濯回数が0回から10回ないしは20回前後まで抗菌機能が働かない、JIS-L-1902にある抗菌テストで有効データが出ないことが良く見られるという問題があった。綿やビスコースなどセルロース系繊維でも染色加工に使われる繊維の柔軟材が撥水性を有しイオン溶出を妨げることもある。ポリエステル繊維及びポリエステル繊維高混率の布地では染色加工直後では洗濯0回、洗濯10ないしは20回位まで抗菌防臭性、ないしは病院などで要求される特定用途の抗菌性が具現化しない事もあるし、他の天然繊維や合成繊維もしくはそれらが2つ以上複数で混合された布地でも同様な問題が起こりうる。
【0005】
そこで、この発明は、抗菌性を有する金属イオン溶出型のわた状繊維や糸やそれらをその原料の一部として、又は金属イオンを担持させた抗菌剤を原料樹脂に混入し作られた合成繊維をその構成の一部として含んで製造された布地が通常周知の方法で染色加工工程を経た直後からそのイオン溶出を促進し、抗菌性を具現化できる染色加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係る抗菌性金属イオン溶出を活性化させる染色加工方法は、銅、亜鉛、銀のいずれか一又はこれらの複数の組合せよりなる抗菌性金属イオンを利用した金属イオン溶出型の糸やその糸を構成原料の一部に含む布地の染色加工の最終仕上げに、ph4からph6の酸性水または湯を潜らせることで、洗濯回数が0回の場合でも金属イオン溶出を促進することを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明の染色加工方法は、抗菌性金属イオンの溶出により抗菌性を実現しようとして製造された糸や布地の洗濯0回・10回後JIS-L-1902の評価方法に耐えうる静菌活性値が2以上のみならず、殺菌活性値が洗濯0回・10回および50回でも正の値を示すことを要求する病院などの特定用途用の抗菌性を有する布地の染色加工方法として利用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明による染色加工方法は前述の背景技術でも述べたが、抗菌性を有する金属イオンが染色加工直後から10回前後、場合によっては20回から50回前後までそのイオンの溶出が妨げられないように、染色工程の一貫ラインの最終段階でも、または個別の工程としても加工方法として採用できるものである。
【0009】
前述のイオン溶出が妨げられる原因としては、2つ考えられる。
先ず第1番目は布地の風合いや地合いを向上させるために使用される柔軟剤で、柔軟剤によってはその副次効果として撥水性を持つものがあり、撥水性が起こす水分の表面張力の関係で抗菌性金属イオンが溶出しない又はし難いことが挙げられる。この問題解決は親水性をもつ柔軟剤にすることで簡単に解決することもあるが、後述するようにそうでない場合もありうる。
【0010】
第2番目は天然繊維・合成繊維・それらの単独・複数を問わず混合された繊維でできた糸や布地で、染料が酸性であったり、染着した時が酸性環境にあった場合は、その後苛性ソーダ等に代表されるアルカリ性をもつ物質で中和されるという工程を経て、又はその逆の工程を経て所謂phが中和されて工程を終えられる。
【0011】
しかし厳密なph7という中性に仕上がってくることを染色工場に強いても、ph管理されている工場廃液は別とはしても現実的には不可能であり、染色済みの糸や布地がph5〜6の弱酸性で若しくはph8〜9の弱アルカリ性で染色工程を終了させられている。
【0012】
この発明はことに布地が弱アルカリ性で仕上げられた時に有効ではあるが、酸性染料で染色された、酸性環境を経てきた糸や布地がいつでもどの染色工程でも完全なph中和工程を経てくるとは限らないのが現状ではあるので、すべての染色工程で意図的に採用されることが適切である。
【0013】
ここにポリエステル長繊維98%と純銀を真空蒸着しポリエステルフィルムでサンドイッチ構造に銀被膜もつスリット糸2%という混率で丸編みを製造し、分散染料で染色する通常のポリエステル高圧染色工程を経てきた布地のJIS-L-1902による、黄色ブドウ状球菌を使って行った、(財)日本紡績検査協会の抗菌テストデータを示す。
【0014】
1.洗濯0回 殺菌活性値=−1.6 静菌活性値=1.1
2.洗濯10回 殺菌活性値=−0.9 静菌活性値=1.8
【0015】
何れのデータ値も試験の評価としては、抗菌防臭性を示すには至っていない。
そこで、上のデータを得た同じ丸編み生地の染色工程の最後の水洗い時に、水にレモン酸を加えてphを4.0に調整した液体の中を潜らせ、水分を絞り乾燥工程を経た布地の同様の抗菌テストデータを以下に示す。
【0016】
3.洗濯0回 殺菌活性値=2.9 静菌活性値=5.6
4.洗濯10回 殺菌活性値=2.9 静菌活性値=5.6
【0017】
劇的なデータの変わりようを見せた布地の風合いや地合は通常の工程を経たものと何らの変わりもなかった。
【0018】
又、別の布地で、主な繊維の種別構造はポリエステル短繊維が約64%、綿が約34%、純銀を真空蒸着しポリエステルフィルムでサンドイッチ構造に銀被膜もつスリット糸が約2%というユニフォーム用に作られ、染色仕上げされた布地の、上と同様の抗菌テストデータを示す。
【0019】
5.洗濯0回 殺菌活性値=−1.7 静菌活性値=1.0
6.洗濯10回 殺菌活性値=−1.9 静菌活性値=0.8
7.洗濯20回 殺菌活性値=−0.5 静菌活性値=2.3
【0020】
JIS-L-1902の評価方法では抗菌防臭機能の確認は黄色ぶどう状球菌を使用して洗濯0回・10回での静菌活性値がいずれも2.0以上あることとされていて、洗濯20回で有効データが出たとしても抗菌防臭機能としては意味を持たない。ただ、洗濯回数が増えて機能が現れたと証明されるという現象は抗菌性を持つ金属イオンの溶出が何らかの理由で洗濯回数が少ない時には抑制されているといえ、その原因究明と対策が待ち望まれていたところ、この発明に係る方法により、前述の効果を呈するに至った。
【実施例】
【0021】
以下、この発明にかかる染色加工方法の実施例について説明する。主だった繊維に対して、用いられる染料や染色方法はおおよそ次の通りである。
精錬・漂白の予備工程を経て、主には綿やビスコース繊維は反応染料による所謂反応染色若しくは直接染料による染色を経て、ナイロンは酸性染色、ポリエステルは分散染料による高圧染色又はカチオン染色、ウールは酸性染色・酸性媒染・金属錯塩染色・反応染色、アクリルはカチオン染色又は分散染料による染色、アセテートは分散染料による染色を経て、ph中和・水洗い工程・乾燥・巾だし整理工程を経て終えられる。もちろん繊維の種類によってはそれぞれ適した染料と染色方法が周知技術を用いて加工されているので、この発明は染料や染色方法には左右されるものではない。
【0022】
この発明は、その工程の最終段階で、その工程が染色整理加工一貫ラインの最終部分である、別工程であるとを問わず、ph4から6に調整した酸性を示す物質を溶解した水またはお湯を通しマングルなどで余分な水分を絞り落とした後に乾燥・巾だし・整理工程を通すことで、一連の工程を経た抗菌性金属イオン溶出型の抗菌性を持つ糸や布地自体が弱酸性を示すよう仕上げを行うことができ、糸や布地や布地を原料に製造された繊維製品の洗濯回数が0回から10回ないしは20回くらいまで通常染色工程を経た糸や布地では抑制されていた抗菌性金属イオンの溶出を促進し、期待されている抗菌性の具現化を実現できるし、布地自体の風合や地合を傷つけることもない。なお、弱酸性を示す糸・布地及びその布地で製造された繊維製品は肌を刺激することもない。
【0023】
ここでいう酸性を示す物質とは、染色用として良く知られている塩酸・硫酸・硝酸などで、りんご酸などオキシ琥珀酸でもよく、レモン酸などのクエン酸等々一般的に染色用に使われる物質を指す。
【0024】
布地の染色工程の最終段階でクエン酸の一種であるレモン酸を使用してph4の水に染着した布地を浸し、水分を搾り取った後、乾燥・巾だし・整理工程を通すことで、布地自体を弱酸性に仕上ることが出来、その布地はこの工程を通らないものに比べ洗濯回数0回でも10回でも、JIS-L-1902にいう抗菌防臭機能のみならず、制菌機能を得ることも出来る。この発明による染色加工方法では糸や布地に与える影響や安全性の観点からも、後に糸や布地から製造された繊維製品のイメージアップやこの発明の実効性からもレモン酸の採用が最適である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
抗菌性を期待して製造された抗菌性金属イオン溶出型の繊維や糸、またそれらの繊維や糸からなる布地を染色加工する際にこの発明を利用することで、洗濯回数が0回ないしは10回程度からでも安定的に十分な金属イオン溶出を促すことの出来る染色加工方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、亜鉛、銀のいずれか一又はこれらの複数の組合せよりなる抗菌性金属イオンを利用した金属イオン溶出型の糸やその糸を構成原料の一部に含む布地の染色加工の最終仕上げに、ph4からph6の酸性水または湯を潜らせることで、洗濯回数が0回の場合でも金属イオン溶出を促進する染色加工方法。
【請求項2】
洗濯回数が、10回以下の場合でも金属イオン溶出を促進する請求項1に記載の染色加工方法。
【請求項3】
洗濯回数が、50回以下の場合でも金属イオン溶出を促進する請求項1に記載の染色加工方法。

【公開番号】特開2006−233368(P2006−233368A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50294(P2005−50294)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(399082058)日本ウィシュボーン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】