説明

抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物及びその製造方法並びに未加硫ゴム生地の作製方法

【課題】履物のゴム製部材に対し、履物製造工程による影響を受けず、製品完成後に長期間維持される安定な抗菌消臭性を付与する。
【解決手段】抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の製造方法は、抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の製造方法において、ゴム製部材用の原料ゴムと水溶性抗菌消臭剤を含有する水溶液とを含む材料を配合し混練することにより未加硫ゴム生地を作製する工程と、前記未加硫ゴム生地を分出しすることにより未加硫ゴムシートを作製する工程と、前記未加硫ゴムシートをゴム製部材の形状に裁断する工程と、裁断された前記ゴム製部材と該ゴム製部材以外の部材を金型の上に貼り付けることにより半製品を作製する工程と、前記半製品を加硫した後、金型を抜き取る工程とを有する。前記水溶性抗菌消臭剤が、穀物由来の水溶性セルロース、水溶性プロテイン及び水溶性デキストリンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌消臭性を有するゴム製部材を備えた履物及びその製造方法、並びに抗菌消臭性を有するゴム製部材を製造するための未加硫ゴム生地の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
履物の内部は、湿度の高い状態となるため、しばしば雑菌が増殖したり不快な臭気が発生したりする。特に、防水構造の履物においては、短時間の使用でその内部に汗が水滴状となって溜まり、足の皮膚の一部や周囲の粉塵等も加わって、一層、この問題と顕著となる。
【0003】
防水構造の履物の多くは、ゴム製部材を備えている。このゴム製部材に対し、抗菌消臭性を付加する技術が提示されている。尚、本明細書では、抗菌性と消臭性を兼ね備えた性質を「抗菌消臭性」と称し、抗菌消臭性を有する物質を「抗菌消臭剤」と称する。
【0004】
特許文献1は、ゴム成分と銀ベース無機抗菌性化合物及び加硫化合物を含む抗菌性ゴム組成物を開示している。特許文献2は、ゴム成分に抗菌剤として層状りん酸塩に抗菌作用を有する第4級アンモニウムイオンをインターカレートせしめた抗菌性りん酸塩層間化合物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4180922号
【特許文献2】特開平9−157449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ゴム製部材に抗菌消臭剤を練り込む場合、ゴム含まれる加硫剤により抗菌消臭性が損なわれたり、加硫後にも抗菌消臭性を長期間に維持できないものが多かった。
【0007】
また、ゴム製部材を用いた履物は、未加硫のゴム組成物を成形して履物の形状とした後に加硫して完成させる製造方法が一般的である。従って、未加硫のゴム組成物に抗菌消臭剤を練り込んでも、成形時の圧力や加硫時の熱により抗菌消臭性が損なわれる場合もあった。
【0008】
以上の現状に鑑み、本発明の目的は、履物のゴム製部材に対し、履物製造工程による影響を受けず、製品完成後に長期間維持される安定な抗菌消臭性を付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明による履物及びその製造方法は、以下の構成を備えたものである。
本発明による抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物は、履物を構成するゴム製部材の中に水溶性抗菌消臭剤が分散されていることを特徴とする。この水溶性抗菌消臭剤は、穀物由来の水溶性セルロース、水溶性プロテイン及び水溶性デキストリンを含むことが好適である。
【0010】
本発明による抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の製造方法は、以下の各工程を有する。
・ゴム製部材用の原料ゴムと水溶性抗菌消臭剤を含有する水溶液とを含む材料を配合し混練することにより未加硫ゴム生地を作製する工程
・前記未加硫ゴム生地を分出しすることにより未加硫ゴムシートを作製する工程
・前記未加硫ゴムシートをゴム製部材の形状に裁断する工程
・裁断された前記ゴム製部材と該ゴム製部材以外の部材を金型の上に貼り付けることにより半製品を作製する工程
・前記半製品を加硫した後、金型を抜き取る工程
【0011】
本発明による抗菌消臭性を有するゴム製部材を製造するための未加硫ゴム生地の作製方法は、ゴム製部材用の原料ゴムと水溶性抗菌消臭剤を含有する水溶液とを含む材料を配合し混練することにより未加硫ゴム生地を作製するものである。
【0012】
上記の履物の製造方法又は未加硫ゴム生地の作製方法において、前記水溶性抗菌消臭剤が、水溶性セルロース、水溶性プロテイン及び水溶性デキストリンを含むことが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による履物は、履物を構成するゴム製部材に対し、水溶性抗菌消臭剤が分散されているものである。この水溶性抗菌消臭剤は、未加硫の原料ゴムと混練され、成形され、そして加硫されるという製造工程を経ても、その抗菌消臭性に影響を受けない。また、日常的な履物の寿命に相当する程度の期間であれば、十分な抗菌消臭性を維持することができる。ゴム製部材は、例えば、内貼又は中底などである。
未加硫の原料ゴムと水溶性抗菌消臭剤の水溶液とが十分に混練可能であることは、本発明による新規の知見である。抗菌消臭剤を水溶液の形態で根練することにより、原料ゴム全体に均一に抗菌消臭剤を分散させることができる。この分散性は、従来の粉末状の抗菌消臭剤を練り込むことに比べて優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は、本発明による、抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の一実施例の外観側面図であり、(B)は、(A)の履物の内部に用いられているゴム製部材の部分のみを示した図である。
【図2】図1(A)のX−X断面図である。
【図3】図1(B)に示した各ゴム製部材についての、裁断時の形状を示す平面図と、成形時の形状を示す側面図であり、(A1)(A2)は中底1aを、(B1)(B2)は爪先部1bを、(C1)(C2)は踵部1cを、(D1)(D2)は胛部をそれぞれ示している。
【図4】(A)(B)は、本発明を適用した履物のさらに別の実施例を示す平面図及び側面図である。
【図5】本発明による抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の製造方法の一実施例を概略的に示した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ゴム製部材を構成要素として具備する履物に適用される。履物の種類は、布靴(キャンバス)、革靴、合皮靴、合成樹脂靴等のいずれでもよい。ゴム製部材は、例えばこれらの履物における中底又は内貼であるが、これに限定されず、ゴム製部材であれば他の構成要素にも適用可能である。
【0016】
以下、本発明の一実施例を示した図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
図1及び図2に示した履物は、一実施例のゴム製長靴10である。
図1(A)は、本発明による、抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の一実施例の外観側面図であり、(B)は、(A)の履物の内部に用いられているゴム製部材の部分のみを示した図である。図2は、図1(A)のX−X断面図である。
【0017】
図1(A)に示すように、表部材はゴム製の胴ゴム3であり、本底5の周縁と接合されている。胴ゴム3と本底5の接合部の周囲には、底巻テープ6が重ねられ接合されている。点線は、外観には現れない内部のゴム製部材1b、1c、1dの輪郭を示している。
図1(B)に示すように、本実施例の内部に設けられたゴム製部材1は、中底1a、爪先部内貼1b、踵部内貼1c、胛部内貼1dの4つの部品から構成されている。これらのゴム製部材1は、いずれも抗菌消臭性を有している。
図2のX−X断面図に示すように、本底5の上面に中芯2が接合されている。最も内側の部材は、内面全体を覆う裏布4である。中芯2と裏布4の間にゴム製部材である中底1aが配置されている。また、胴ゴム3と裏布4の間にゴム製部材である胛部内貼1dが配置されている。
【0018】
図3は、図1(B)に示した各ゴム製部材についての、裁断後の形状を示す平面図と、成形後の形状を示す側面図である。(A1)(A2)は中底1aを、(B1)(B2)は爪先部1bを、(C1)(C2)は踵部1cを、(D1)(D2)は胛部1dをそれぞれ示している。
【0019】
図1〜図3に示した実施例のように、中底1a、爪先部1b、踵部1c及び胛部1dの全てを用いる以外に、これらのゴム製部材のうち一部のみを、特に必要とされる箇所に用いてもよい。その場合、他の箇所には通常の、すなわち抗菌消臭性をもたない中底又は内貼を配置してもよい。
【0020】
図4(A)(B)は、本発明を適用した履物のさらに別の実施例を示す平面図及び側面図である。この実施例における抗菌消臭性ゴム製部材1’は、足首より下の部分(爪先部、胛部、踵部)を全て覆う1枚の内貼となっている。このように、抗菌消臭性ゴム製部材は、必要に応じて様々な形状とすることができる。
【0021】
図5は、本発明による抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の製造方法の一実施例を概略的に示した流れ図である。
【0022】
ステップS1〜ステップS3は、上述の抗菌消臭性ゴム製部材の作製工程のみを示している。なお、履物を構成する他の部品の作製工程については、履物の種類によっても異なり、またいずれも公知であるのでここでは省略する。
【0023】
[ステップS1:配合及び混練工程]
ゴム製部材用の原料ゴム及び抗菌消臭剤、その他の材料を配合し、均等に分散するまで混練し、未加硫ゴム生地を作製する。抗菌消臭剤は、水溶性であり、水溶液の形態で配合する。全ての材料を、例えば、オープンゴムロール機を用いて55℃、25分混練する。これにより、水溶性抗菌消臭剤が未加硫ゴム生地の中に均一に分散することとなる。
配合割合の一例は、次の通りである。
・原料ゴム :100重量部
・充填材 :95.2重量部
・加硫剤 :2.4重量部
・加硫助剤 :1重量部
・加硫促進剤 :1.4重量部
・水溶性抗菌消臭剤(水溶液) :10重量部
【0024】
以上の配合において、水溶性抗菌消臭剤以外の材料及び割合は通常のものであり、技術常識の範囲内で適宜増減してもよい。原料ゴムは、天然ゴムラテックス、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ブチルゴムおよびクロロプレンゴム等、必要に応じて選択される。
【0025】
水溶性抗菌消臭剤の水溶液は、原料ゴム100重量部に対して10重量部程度混合する。厳密にこの値に限定されるものではないが、水溶液をあまり大量に配合した場合、均一に分散しなかったり、ゴムの加硫に影響を及ぼしてゴムとしての特性が損なわれたりする可能性がある。従って、原料ゴムに対し15重量部程度を上限とする。
【0026】
水溶液中の水溶性抗菌消臭剤の濃度は、当然、抗菌消臭効果の大小に反映されるため、必要に応じて設定される。例えば、履物の種類、使用条件、使用期間等である。水溶性抗菌消臭剤の成分としては、穀類由来の水溶性セルロース、水溶性プロテイン及び水溶性デキストリンを含む。穀類は、例えば、米又は大豆である。
水溶性抗菌消臭剤の水溶液の一例は、以下の成分組成を有する。
・水溶性セルロース及び水溶性プロテイン:0.5重量%
・水溶性デキストリン :0.5重量%
・分散剤及び界面活性剤 :1重量%未満
・精製水 :残部
水溶性セルロース及び水溶性プロテインの含有量は、厳密に上記の値に限定されるものではなく、0.1〜1.0重量%の範囲でもよい。水溶性デキストリンの含有量についても同様である。分散剤及び界面活性剤は、通常、化粧品等に使用されているものである。
【0027】
このような穀物由来の水溶性抗菌消臭剤の水溶液としては、商品名「Raxy Air γ010(ラクシィエアガンマ010)」(株式会社ボルカン谷岡)として知られている製品がある。この製品自体は、種々の物品にスプレー噴射して除菌消臭を行うものである。この穀物由来の水溶性抗菌消臭剤の水溶液を、原料ゴムに練り込むことは、本発明にて初めて試みられたことである。
【0028】
従って、このステップS1の工程は、抗菌消臭性を有するゴム製部材を製造するための新規の未加硫ゴム生地の作製方法としても、有意義である。当然ながら、この未加硫ゴム生地は、履物を構成するゴム製部材に限られず、他の物品のゴム製部材に加工することも可能である。
【0029】
[ステップS2:分出し・シート作製工程]
混練した未加硫ゴム生地を分出しすることにより未加硫ゴムシートを作製する。例えば、ロールカレンダー装置を用いて65℃にて厚さ0.5mm〜3mmの未加硫ゴムシートを得る。
【0030】
[ステップS3:裁断工程]
未加硫ゴムシートを、ゴム製部材の所定の形状に裁断する。例えば、図3又は図4の平面図に示したような形状である。
【0031】
[ステップS4:成形工程]
ステップS1〜S3で得られたゴム製部材と、履物の構成要素として必要な他の部材とを用意し、所定の金型の上に貼り付けることにより、半製品を作製する。他の部材とは、例えば、図1及び図2に示した中芯2、胴ゴム3、本底5、底巻テープ6等である。
【0032】
[ステップS5:塗装工程]
半製品の表面保護のために塗料を塗る。
【0033】
[ステップS6:加硫工程]
半製品を加硫する。これにより混練工程で分断されたゴムの分子が硫黄を介して架橋される。加硫条件は、例えば、高圧加硫缶を用いた場合、133℃、気圧0.029kgf/mm(0.28MPa)、60分である。加硫後のゴム製部材の中には、水溶性抗菌消臭剤が均一に分散した状態で含まれている。
【0034】
[ステップS7:金型抜き取り工程]
金型を抜き取ることにより、履物製品として完成する。
【実施例】
【0035】
本発明の抗菌消臭性ゴム製部材の抗菌性について検証した。なお、悪臭の原因は主として菌の発生によるため、抗菌性についての検証は、消臭性についての検証としても有効である。
【0036】
(1)実施例及び比較例
実施例として2つの検体を用いた。検体1)及び検体2)は、上述の本発明の実施例のゴム製長靴の抗菌消臭性中底である。
比較例の無加工品は、ポリエチレンフィルムである。
【0037】
(2)試験概要
JIS Z 2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」5.2プラスチック製品などの試験方法により、各検体及び無加工品の抗菌力試験を行った。試験に用いた試験片、被覆フィルム及び菌の概要は、表1の通りである。
【0038】
【表1】

【0039】
(3)試験結果
試験片の生菌数測定結果を表2に示す。実施例の検体1)、検体2)のいずれも35℃、24時間後には、菌が検出されなかったのに対し、比較例では、接種直後と同程度かそれよりも多い菌が検出された。
【0040】
【表2】

【0041】
次に、表2の結果を基に、次式から抗菌活性値を算出した結果を表3に示す。
抗菌活性値=log(B/C)
B:無加工試験片(ポリエチレンフィルム)の24時間後の生菌数の平均値
C:各検体の24時間後の生菌数の各々の平均値
実施例である検体1)、検体2)のいずれも、大腸菌及び黄色ぶどう球菌に対する抗菌効果が認められた。
【0042】
【表3】

【符号の説明】
【0043】
1、1’:ゴム製部材
1a:中底
1b:爪先部内貼
1c:踵部内貼
1d:胛部内貼
2:中芯
3:銅ゴム
4:裏布
5:本底
6:底巻テープ
10:履物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物を構成するゴム製部材の中に水溶性抗菌消臭剤が分散されていることを特徴とする、抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物。
【請求項2】
前記水溶性抗菌消臭剤が、穀物由来の水溶性セルロース、水溶性プロテイン及び水溶性デキストリンを含むことを特徴とする請求項1に記載の、抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物。
【請求項3】
抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の製造方法において、
ゴム製部材用の原料ゴムと水溶性抗菌消臭剤を含有する水溶液とを含む材料を配合し混練することにより未加硫ゴム生地を作製する工程と、
前記未加硫ゴム生地を分出しすることにより未加硫ゴムシートを作製する工程と、
前記未加硫ゴムシートをゴム製部材の形状に裁断する工程と、
裁断された前記ゴム製部材と該ゴム製部材以外の部材を金型の上に貼り付けることにより半製品を作製する工程と、
前記半製品を加硫した後、金型を抜き取る工程とを有することを特徴とする
抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性抗菌消臭剤が、穀物由来の水溶性セルロース、水溶性プロテイン及び水溶性デキストリンを含むことを特徴とする請求項3に記載の、抗菌消臭性ゴム製部材を備えた履物の製造方法。
【請求項5】
抗菌消臭性ゴム製部材を製造するための未加硫ゴム生地の作製方法において、
ゴム製部材用の原料ゴムと水溶性抗菌消臭剤を含有する水溶液とを含む材料を配合し混練することにより未加硫ゴム生地を作製することを特徴とする未加硫ゴム生地の作製方法。
【請求項6】
前記水溶性抗菌消臭剤が、穀物由来の水溶性セルロース、水溶性プロテイン及び水溶性デキストリンを含むことを特徴とする請求項5に記載の、未加硫ゴム生地の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−85685(P2012−85685A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232656(P2010−232656)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(510275356)
【Fターム(参考)】