説明

抗食物アレルギーワクチン

【課題】食物アレルギーを効果的に予防または治療するためのワクチン等を提供する。
【解決手段】食物アレルゲンを固定化または内包したポリペプチドを主材料とする生分解性ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食物アレルゲンを固定化または内包したポリペプチドを主材料とする生分解性ナノ粒子、該ナノ粒子を含む食物アレルゲンの治療または予防用ワクチン等に関する。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーはすべての食物に対して起こる可能性があり、時にアナフィラキシーショックなどの重篤な症状を呈することがある。食物アレルギーの有病率は、日本人の全年齢の1〜2%程度であり、乳児において5〜10%である。世界的に見ると、食物アレルギーの有病率は、フランスでは全人口の3〜5%、アメリカ合衆国では全人口の3.5〜5%であり、全世界で多くの人々が食物アレルギーに苦しんでいるというのが実態である(非特許文献1〜5参照)。
【0003】
食物アレルギーの発症予防は当該食品を控える以外方法が無く、その治療法も、当該食物を除去した食事を取るか、抗ヒスタミン薬の使用などの対症療法のみである。食物アレルギーの原因は、主にIgE抗体の産生増加であるといわれている(非特許文献6参照)。そのため、IgE抗体の産生を抑制することが食物アレルギーを治療または予防するために重要であるといえる。しかし、これまで食物アレルギーを効果的に治療または予防できたという報告は見当たらない。
【非特許文献1】杉崎千鶴子,池田有希子,田知本寛,海老澤元宏:アレルギー.2003;52:913.
【非特許文献2】杉崎千鶴子,池田有希子,田知本寛,海老澤元宏:アレルギー.2004;53:953.
【非特許文献3】今井孝成:日本小児科学会雑誌.2005;109:1117−1122.
【非特許文献4】Kanny G, Moneret Vautrin DA, Flabbee J. et al: J Allergy Clin Immunol. 2001; 108: 133-140
【非特許文献5】Munoz-Furlong A, Sampson HA, Sicherer SH: J Allergy Clin Immunol. 2004; 113: S100
【非特許文献6】日本小児アレルギー学会誌(2008);17:558−559.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の解決すべき課題は、食物アレルギーを効果的に予防または治療するためのワクチン等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、食物アレルゲンを固定化または内包したポリペプチドを主材料とする生分解性ナノ粒子を対象に投与したところ、食物アレルギーを効果的に治療または予防できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
したがって、本発明は下記:
(1)食物アレルゲンを固定化または内包したポリペプチドを主材料とする生分解性ナノ粒子;
(2)ポリペプチドがポリ(γ−グルタミン酸)、ポリ(α−アスパラギン酸)、ポリ(ε−リジン)、ポリ(α−グルタミン酸)、ポリ(α−リジン)、ポリアスパラギンまたはそれらの修飾体もしくは誘導体、またはそれらの混合物からなる群より選択されるものである(1)記載のナノ粒子;
(3)ポリペプチドがポリ(γ−グルタミン酸)である(2)記載のナノ粒子;
(4)ポリペプチドがポリ(γ−グルタミン酸)とフェニルアラニンエチルエステルのグラフト共重合体である(1)記載のナノ粒子;
(5)食物アレルゲンがナノ粒子に内包された(1)〜(4)のいずれかに記載のナノ粒子;
(6)食物アレルゲンが食物由来の蛋白である(1)〜(5)のいずれかに記載のナノ粒子;
(7)食物アレルゲンが食物の断片である(1)〜(5)のいずれかに記載のナノ粒子;
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載のナノ粒子を含む、食物アレルギーの治療または予防のためのワクチン;
(9)対象における細胞性免疫と液性免疫のバランスを細胞性免疫優位へと導くことにより食物アレルギーを治療または予防するものである、(8)記載のワクチン;
(10)(1)〜(7)のいずれかに記載のナノ粒子あるいは(8)または(9)記載のワクチンを対象に投与することを特徴とする、食物アレルギーの治療または予防方法;
(11)食物アレルギーの治療または予防のためのワクチンの製造における、(1)〜(7)のいずれかに記載のナノ粒子の使用
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、食物アレルギーの効果的な治療または予防手段が提供される。特に、本発明のナノ粒子は、生体内の細胞性免疫と液性免疫のバランスを細胞性免疫優位へと導くので、対症療法でなく、根本的な食物アレルギーの治療または予防が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、1の態様において、食物アレルゲンを固定化または内包したポリペプチドを主材料とする生分解性ナノ粒子を提供する。
【0009】
本発明のポリペプチドを主材料とする生分解性ナノ粒子(以下、「生分解性ポリペプチドナノ粒子」という)に固定化または内包される食物アレルゲンは、生体内でアレルギー反応を引き起こす食物中の成分またはその一部分あるいは当該食物自体またはその断片をいう。食物アレルゲンが食物中の成分である場合には、例えば蛋白またはその部分ペプチドであってもよい。多くの種類の食物についてアレルゲンが同定されている。例えば、小麦のアレルゲンの例としてはグリアジンが挙げられ、卵のアレルゲンの例としてはオボアルブミンやオボムコイドが挙げられる。牛乳のアレルゲンの例としてはβ−ラクトグロブリンが挙げられる。しかし、食物アレルゲンは上記蛋白に限定されることはない。本発明に用いる場合、これらのアレルゲンは均一にまで精製されていなくてもよい。上述のごとく、食物アレルゲンはアレルギーを引き起こす食物の断片であってもよく、例えば、当該食物を生分解性ポリペプチドナノ粒子に固定化または内包されうる程度のサイズに細断したものを食物アレルゲンとして用いてもよい。さらに、食物アレルゲンは、1種のみならず2種以上であってもよい。これらは同種の食物に由来するものであってもよく、別種の食物に由来するものであってもよい。
【0010】
本発明に用いる生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドは、いずれのアミノ酸から構成されていてもよい。アミノ酸以外の構成成分、例えば、糖類、有機酸類、脂質等を含んでいてもよい。好ましい生分解性ポリペプチドナノ粒子は、アミノ酸からなるポリペプチドを主材料あるいは骨格とし、食物アレルゲンを固定化または内包しない状態で、ポリペプチドが50重量%以上を占めるものである。本発明に用いる生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドの構成アミノ酸は1種類であってもよく、複数種類であってもよい。したがって、本発明に用いる生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドは1種またはそれ以上の天然アミノ酸から構成されていてもよく、あるいは1種またはそれ以上の非天然アミノ酸から構成されていてもよく、あるいはそれらの両方から構成されていてもよい。ここで、非天然アミノ酸は天然に存在するアミノ酸以外のものをいい、化学合成されたもの、天然アミノ酸を化学的に修飾したもの等が含まれる。さらに構成アミノ酸はL−体であってもD−体であってもよいが、L−体が好ましい。従って、本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドは、その修飾体および誘導体も包含する。ここで、ポリアミノ酸の「修飾体」、「誘導体」という語は当該分野において通常に使用される意味を有する。本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドの修飾体および誘導体の例としては、構成アミノ酸の一部を別のアミノ酸としたもの、あるいは構成アミノ酸の利用可能な官能基を用いて修飾したもの(例えば、エステル化アミノ酸など)が挙げられる。具体的には、ポリ(γ−グルタミン酸)のペプチド鎖中に1種またはそれ以上の他のアミノ酸(またはその修飾体もしくは誘導体)を導入したもの、あるいはポリ(ε−リジン)の構成アミノ酸たるリジンの利用可能なα−位の一部をメチル化したもの等が挙げられる。本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドの修飾体、誘導体の種類およびその製造方法については、当業者が容易に選択し、得ることができるものである。
【0011】
また例えば、本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドの親水性ポリアミノ酸の側鎖に疎水性アミノ酸を導入して、所望の親水性−疎水性のバランスとすることもできる。したがって、例えば本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドがポリ(γ−グルタミン酸)とフェニルアラニンエチルエステルのクラフト重合体であってもよい。
【0012】
安全性または毒性の面、特に生体内で分解された際の産物の安全性または毒性(無毒であるかあるいは低毒性であること)を考慮すると、本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子は生分解性で、かつ天然アミノ酸から構成されているものが好ましい。本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドを構成する好ましい構成アミノ酸としてはグルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アスパラギン、アルギニン等が挙げられる。本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子中のポリペプチドの構成アミノ酸はL−体、D−体、あるいはそれらの混合物であってよいが、好ましくはL−体である。本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子中のポリペプチドの構成アミノ酸の結合は一般的にはペプチド結合であるが、それ以外の結合あるいはリンカーにより構成アミノ酸が結合されていてもよい。ペプチド結合以外の結合としては、例えば、エステル結合、エーテル結合等があり、リンカーとしては、例えば、グルタルアルデヒド、ジイソシアネート等があるが、これらに限らない。さらに、本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子は構成アミノ酸の官能基間において架橋されていてもよい。架橋することにより、生分解性ポリペプチドナノ粒子の物性を変化させ、所望のアジュバント特性を得ることも可能である。架橋剤としては、例えば、カルボジイミド、ジグリシジルエステル等があるが、これらに限らない。本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子中のポリペプチドは水可溶性のものが好ましいが、経時的に徐々に溶解するものであってもよい。また生分解性ポリペプチドナノ粒子の分子量も特に限定されないが、所望の粘度や溶解度に応じて変更され得る。本発明に用いられる好ましい生分解性ポリペプチドナノ粒子のポリペプチドは、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリ(α−アスパラギン酸)、ポリ(ε−リジン)、ポリ(α−グルタミン酸)、ポリ(α−リジン)、ポリアスパラギン等であり、さらに好ましいポリアミノ酸は、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリ(ε−リジン)またはそれらの修飾体もしくは誘導体、またはそれらの混合物等であり、特に好ましいポリペプチドは、ポリ(γ−グルタミン酸)である。好ましい生分解性ポリペプチドナノ粒子の選択は、使用する抗原その他の成分との相互作用も考慮すべきである。
【0013】
本発明に用いる生分解性ポリペプチドナノ粒子はナノ粒子化されたものである。ナノ粒子化することによりアジュバント作用が発揮され、あるいは成立する。
【0014】
本発明に用いる生分解性ポリペプチドナノ粒子の形状は特に限定されないが、一般的には球状であり、そのサイズは通常約20nm〜約1μmであり、好ましくは約20nm〜約300nmである。このようなサイズにすることによって、例えば単位重量あたりの粒子表面積増加に伴う食物アレルゲンの固定化量の増加、組織貯留性の向上、細胞への取り込みの制御などの効果を生じる。球状以外の形状のナノ粒子についても、好ましいサイズおよびそれにより生じる効果は球状のナノ粒子に準じる。
【0015】
なお、生分解性とは、生体内に摂取された場合に粒子の全体または一部が分解されることをいう。分解は生体の酵素の作用によるものであってもよく、咀嚼等の物理的作用によるものであってもよい。分解速度は、用いる食物アレルゲンの種類や特性、治療または予防すべき症状の程度や種類などに応じて、適宜変更されうる。分解速度の制御は、公知方法により粒子の分子量を変更すること、構成成分を変更すること、架橋度を変更すること等により行うことができる。
【0016】
本発明に用いる生分解性ポリペプチドナノ粒子は公知の方法を適用することにより製造することができ、例えば、液中乾燥法、噴霧乾燥法、球形晶析法、溶媒置換法(沈殿・透析法)、直接超音波分散法を用いることができる。例えば、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリ(ε−リジン)からなる生分解性ナノ粒子は、溶媒置換法により製造することができる。このような方法を適宜選択あるいは組み合わせて、生分解性ナノ粒子の材料、構成成分、分子量、サイズ、電荷その他のパラメータを目的に応じたものとすることができる。さらに、所望によりナノ粒子を結合するマトリクス間を架橋してもよい。
【0017】
生分解性ポリペプチドナノ粒子への抗原の固定化または内包は種々の公知方法にて行うことができる。例えば、共有結合、イオン結合、分子間力による結合法、吸着による方法、あるいは包括法などが知られている。例えば、生分解性ポリペプチドナノ粒子上の官能基と食物アレルゲンが有する官能基とを共有結合させて固定化または内包してもよく、生分解性ポリペプチドナノ粒子の電荷と食物アレルゲンの電荷が相反する場合にはイオン結合により固定化または内包してもよい。包括法においては、例えば、ポリ(γ−グルタミン酸)からなる、あるいはこれを構成成分とする生分解性ポリペプチドナノ粒子に蛋白性の食物アレルゲンを固定化する場合には、ポリ(γ−グルタミン酸)に疎水性アミノ酸を共有結合により導入し、これを有機溶媒に溶解し、次に食物アレルゲン水溶液に滴下することにより、固定化または内包することができる。また、結合法、吸着法および/または包括法を適宜組み合わせて食物アレルゲンを生分解性ポリペプチドナノ粒子に固定化または内包してもよい。食物アレルゲンは生分解性ポリペプチドナノ粒子に内包されていてもよく、あるいは生分解性ポリペプチドナノ粒子の表面に存在していてもよく、このような固定化様式は、ワクチンの使用目的(例えば、対象、疾病の種類等)に応じて適宜選択することができる。アレルゲンとなる食物の細断片等を生分解性ポリペプチドナノ粒子に固定化または内包する場合、生分解性ポリペプチドナノ粒子の製造過程の適当な段階において食物の細断片等を混合させておいてもよい。本発明の食物アレルゲンを固定化または内包した生分解性ポリペプチドナノ粒子においては、食物アレルゲンの立体構造は生分解性ポリペプチドナノ粒子との結合あるいは生分解性ポリペプチドナノ粒子における内包によっては影響されず、例えば凍結乾燥後であっても食物アレルゲンの量や性質に変化が少なく、長期間保存可能であるという利点を有する。
【0018】
特に、食物アレルゲンが生分解性ポリペプチドナノ粒子に内包される場合、生体内でナノ粒子が分解されるにつれて食物アレルゲンが放出される。したがって、食物アレルゲンが除放的かつ持続的に放出されることになる。
【0019】
本発明のナノ粒子、すなわち、食物アレルゲンを固定化または内包したポリペプチドを主材料とする生分解性ナノ粒子をワクチンとして用いて食物アレルギーを治療または予防することができる。すなわち、本発明は、もう1つの態様において、食物アレルゲンを固定化または内包した生分解性ポリペプチドナノ粒子を含むワクチンを提供する。
【0020】
実施例にて示すように、本発明のナノ粒子を含むワクチンは、対象における細胞性免疫(Th1)と液性免疫(Th2)のバランスを細胞性免疫優位(Th1)へと導き、抗原特異的なIgE抗体産生低下を引き起こすことにより、食物アレルギーを治療または予防するものである。したがって、本発明のワクチンを用いることにより、対症療法ではなく、根本的に体質を改善することにより、食物アレルギーを治療または予防することができる。
【0021】
本発明のワクチンにおいて、食物アレルゲンは対象のアレルギーの種類に応じて選択することができる。食物アレルゲンは1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。食物アレルゲンを固定化または内包する担体およびアジュバントとして用いられるのは生分解性ポリペプチドナノ粒子である。該ナノ粒子は、最終的には生体の作用、例えば酵素の作用あるいは咀嚼等の物理的作用などにより完全にまたは部分的に分解されるものである。本発明のワクチンは、食物アレルゲンを固定化または内包した生分解性ポリペプチドナノ粒子および賦形剤または担体、所望により懸濁化剤、等張化剤、防腐剤などその他の成分を含むものである。担体または賦形剤は、例えば、水、エタノール、またはグリセリンのような水性媒体、あるいは脂肪酸、脂肪酸エステルなどの脂質類のような非水性媒体が挙げられる。本発明のワクチンの剤形はいずれのものであってもよく、対象の状態、アレルギー症状の種類や重さ等に応じて選択することができる。本発明のワクチンは、例えば、適当な水性担体中の懸濁液であってもよく、粉末、カプセル剤、錠剤等であってもよい。凍結乾燥したワクチンを、投与前に適当な担体または賦形剤に懸濁して用いるものであってもよい。本発明のワクチンの投与方法、投与経路および投与回数も特に限定はなく、剤形、対象の状態、疾病の種類等の因子に応じて選択することができる。例えば、本発明のワクチンを注射、輸液等、あるいは経口投与により対象に投与してもよく、患部に局所的に投与してもよい。本発明のワクチンの投与量および投与頻度は、対象の食物アレルギー種類や重さに応じて、あるいは予防すべき食物アレルギーの種類や程度に応じて、適宜決定することができる。また、本発明の生分解性ポリペプチドナノ粒子に対する食物アレルゲンの割合を適宜変更して固定化または内包することによって、ワクチン単位重量あたりの食物アレルゲンの量を調節することもできる。
【0022】
生分解性ポリペプチドナノ粒子の材料や、構成成分、分子量、サイズ、その他のパラメータを適宜変更して、食物アレルゲンの放出速度および放出時間をコントロールすることもできる。そのための方法も当該分野において公知である。例えば、ポリ(γ−グルタミン酸)と疎水性アミノ酸のグラフト共重合体からなるナノ粒子の場合、疎水性アミノ酸の種類、含量を制御することにより、徐放性のワクチンを得ることもできる。また、例えば、特定の臓器または部位に局在する酵素により分解されうる結合を、生分解性ポリペプチドナノ粒子と食物アレルゲンとの結合、あるいは生分解性ポリペプチドナノ粒子中に導入して、特定の臓器または部位で食物アレルゲンが放出されるようにしてもよい。
【0023】
本発明のワクチンを投与する対象は、特に限定はないが、好ましくは哺乳動物であり、さらに好ましくはイヌ、ネコのようなペットやブタ、ウシのような家畜であり、最も好ましくはヒトである。
【0024】
本発明は、さらにもう1つの態様において、上で説明した本発明のナノ粒子あるいはワクチンを対象に投与することを特徴とする、食物アレルギーの治療または予防方法を提供する。本発明のナノ粒子あるいはワクチンの投与方法、投与経路、投与回数等は、例えば、対象の状態、疾病の種類、抗原の種類等の種々の因子に応じて適宜選択できる。
【0025】
本発明のワクチンに含まれる生分解性ナノ粒子に固定化または内包される食物アレルゲンを症状に応じて選択することができる。用いる食物アレルゲンは1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。本発明のナノ粒子またはワクチンの投与方法、投与経路、投与回数等は、例えば、対象の状態、疾病の種類、抗原の種類等の種々の因子に応じて適宜選択できる。本発明の食物アレルギーの治療または予防方法によれば、対象における細胞性免疫(Th1)と液性免疫(Th2)のバランスを細胞性免疫優位(Th1)へと導き、抗原特異的なIgE抗体産生低下を引き起こすことにより、食物アレルギーを治療または予防することができる。したがって、本発明の食物アレルギーの治療または予防方法は、対症療法ではなく、根本的に体質を改善することにより食物アレルギーを治療または予防することができるものである。
【0026】
本発明は、さらなる態様において、食物アレルギーの治療または予防のためのワクチンを製造するための、本発明のナノ粒子または食物アレルゲンを固定化または内包した生分解性ポリペプチドナノ粒子の使用に関するものである。
【0027】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0028】
卵白アルブミンを内包したポリ(γ−グルタミン酸)ナノ粒子(NP−OVA)の調製
ポリ(γ−グルタミン酸)(分子量380,000)607mgを50mM炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.5)100mlに溶解させた。これに水溶液カルボジイミド(WSC)901mgおよびL−フェニルアラニンエチルエステル(L−Phe)1080mgを加え、撹拌しながら室温で一晩反応させた。反応後、分子量分画50,000の透析膜を用いて水で3日間透析を行い、その後凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥物を100mlのエタノールで一晩撹拌し、遠心分離後、沈殿物を減圧乾燥し、L−Phe修飾ポリ(γ−グルタミン酸)(γ−PGA−g−L−Phe)を得た。
【0029】
γ−PGA−g−L−Phe 100mgをジメチルスルホキシド(DMSO)10mlに溶解させ、この溶液と2mg/mlの卵白アルブミン(OVA)溶液とを等量混合した。混和後、14,000xgで15分間遠心し、上清溶液を除去後、水で再分散を行った。この操作を繰り返し未反応のOVAを除去した。最終的に、粒子濃度10mg/ml、OVA濃度1mg/mlのOVA内包ナノ粒子(NP−OVA)を調製した。動的光散乱法にて粒子径を測定した結果、NP−OVAの粒径は250nmであった。
【実施例2】
【0030】
NP−OVA投与によるIgE産生抑制
C57BL/6マウス(4匹/群)に卵白アルブミン(OVA)を内包したγ−PGAナノ粒子(NP−OVA)を経鼻投与し(ナノ粒子100μg、OVA10μg、投与体積20μl)、その1週間後にOVAと水酸化アルミニウム(Alum−OVA)(2.5μg OVA、4mg Alum、投与体積400μl、腹腔投与)で初回免疫した。初回免疫後12日目および35日目に採血し、マウス血漿中のOVA特異的IgE抗体をELISA法で測定した。さらに、初回免疫後35日目にOVA抗原単独(2.5μg OVA、投与体積400μl、腹腔投与)で追加免疫を行い、その7日後に採血した血漿中のIgE抗体をELISA法で測定した。その結果、あらかじめNP−OVAを投与した群では、投与していない群に比べ12日で既に優位なIgE抗体の産生抑制効果が見られ(図1の12日目参照)、この抑制効果は35日目においても持続していた(図1の35日目参照)。さらに、追加免疫後の1週間後(42日目)では、IgE抗体の産生上昇がさらに強く抑制されていた(図1の42日目参照)。なお、NP−OVA自体のOVA特異的IgE抗体の誘導作用は非常に弱かった(図1の12日目〜42日目参照)。また、42日目にマウスより脾臓を摘出し、密度勾配遠心法にて脾臓細胞を得た。その細胞をOVA存在下で培養し、上清中のサイトカインであるIFN−γとIL−4をELISA法にて測定した。その結果、NP−OVA前投与群においては、前投与していない群と比較して、培養上清中のIFN−γの増加とIL−4の減少が見られた(図2参照)。
【0031】
細胞性免疫と液性免疫は常にバランスを保って働いており、このバランスの崩壊によりアレルギーが起こると考えられている。IFN−γは細胞性免疫を誘導するサイトカインであり、液性免疫に対しては抑制効果がある。NP−OVA前投与群では、このサイトカインが強く産生されることで、細胞系免疫が優位になっていると考えられる。また、IL−4は液性免疫に深く関与し、B細胞に対し抗体のクラススイッチを引き起こし、IgE抗体の産生を促すサイトカインでもある。NP投与群において培養上清中のIL−4の産生が優位に抑制されていることからも、NP−OVA前処理によってマウス中で細胞性免疫が優位になり、その結果、図1に示すように、OVAに対するIgE抗体の産生が抑制されたと考えられる。以上の結果より、本発明の食物アレルゲンを固定化または内包した生分解性ポリペプチドナノ粒子は、生体内において、細胞系免疫と液性免疫のバランスを細胞性免疫優位へと導き、抗原特異的なIgE抗体産生低下を引き起こすことにより、食物アレルギーを治療または予防することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、医薬品の分野、特に食物アレルギーの治療または予防剤の分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の食物アレルゲンを固定化または内包した生分解性ポリペプチドナノ粒子のマウスへの投与による抗原特異的IgE産生の抑制を調べた結果を示すグラフである。
【図2】図2は、図1は、本発明の食物アレルゲンを固定化または内包した生分解性ポリペプチドナノ粒子のマウスへの投与による細胞性免疫優位なサイトカイン(IFN−γ)の増強と液性免疫優位なサイトカイン(IL−4)の抑制を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物アレルゲンを固定化または内包したポリペプチドを主材料とする生分解性ナノ粒子。
【請求項2】
ポリペプチドがポリ(γ−グルタミン酸)、ポリ(α−アスパラギン酸)、ポリ(ε−リジン)、ポリ(α−グルタミン酸)、ポリ(α−リジン)、ポリアスパラギンまたはそれらの修飾体もしくは誘導体、またはそれらの混合物からなる群より選択されるものである請求項1記載のナノ粒子。
【請求項3】
ポリペプチドがポリ(γ−グルタミン酸)である請求項2記載のナノ粒子。
【請求項4】
ポリペプチドがポリ(γ−グルタミン酸)とフェニルアラニンエチルエステルのグラフト共重合体である請求項1記載のナノ粒子。
【請求項5】
食物アレルゲンがナノ粒子に内包された請求項1〜4のいずれか1項記載のナノ粒子。
【請求項6】
食物アレルゲンが食物由来の蛋白である請求項1〜5のいずれか1項記載のナノ粒子。
【請求項7】
食物アレルゲンが食物の断片である請求項1〜5のいずれか1項記載のナノ粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のナノ粒子を含む、食物アレルギーの治療または予防のためのワクチン。
【請求項9】
対象における細胞性免疫と液性免疫のバランスを細胞性免疫優位へと導くことにより食物アレルギーを治療または予防するものである、請求項8記載のワクチン。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項記載のナノ粒子あるいは請求項8または9記載のワクチンを対象に投与することを特徴とする、食物アレルギーの治療または予防方法。
【請求項11】
食物アレルギーの治療または予防のためのワクチンの製造における、請求項1〜7のいずれか1項記載のナノ粒子の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−77057(P2010−77057A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245955(P2008−245955)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】