説明

抗P−LAP抗体を用いた癌の予後評価方法

本発明は、抗P−LAP抗体を有効成分とする癌患者の予後を判定するための試薬に関する。また、本発明は、癌患者の予後因子となるP−LAPを測定する方法であって、(a)癌患者から外科的手術により分離された癌組織に抗P−LAP抗体を接触させる工程;および(b)癌組織中に含有するP−LAPと抗P−LAP抗体との特異的抗原抗体反応の強度を測定する工程;を含むことを特徴とするP−LAPの測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の発症および/または予後因子となる胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ(P−LAP)を測定して癌の発症および/または予後を評価するための試薬、癌組織中のP−LAPの測定方法、および癌の予後を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は近年増加の傾向にある。たとえば、子宮体癌(子宮内膜癌、類内膜線癌を含む)は、米国では普通に見られる婦人科の悪性疾患であるが、近年、この癌の発生が日本でも増加している。また子宮体癌においては、初期段階の患者のうちかなりの患者が、局在化した再発と遠隔転移とを発症することが知られている[非特許文献1]。
【0003】
ところで、外科手術を受けた癌患者においては、早い時期に予後を正確に評価することは、術後に適切な処置を行う上で極めて重要である。例えば、予後が良好で化学療法が必要でない患者に対しては、副作用が危惧される化学療法は避けるべきである。また、癌が再発したり、再手術になる危険性が高い患者に対しては、癌の再発や再手術に至らないよう化学療法を含む適切な処置を施すべきである。このため、予後因子を見出す研究が種々行われているが、信頼できる予後因子はまだ見出されていないのが現状である。
【0004】
例えば子宮体癌においては、現在、数種の臨床病理学的指標が、手術進行期、リンパ節転移、子宮筋層浸潤、組織学的細胞タイプ、癌の分化度、腹腔内拡散(intraperitoneal spread)、頚部拡大(cervical extension)、血管侵襲などの予後評価に使用されている(非特許文献2)。しかしながら、この文献に記載の臨床病理学的指標は、子宮体癌の予後評価のための必ずしも信頼できる指標とはいい難い。
【0005】
一方、P−LAPは細胞表面アミノペプチダーゼであり、オキシトシナーゼと同義語である[非特許文献3]。P−LAPはまた、ベシクルを含むグルコーストランスポーター4(GLUT4)と関連するインスリン調節性膜アミノペプチダーゼとも呼ばれている[非特許文献4]。最近、P−LAPがヒト子宮体癌の組織および細胞に存在していること、ならびにP−LAPが癌成長の制御因子として作用していることが明らかにされた[非特許文献5]。また、月経周期中における正常な子宮内膜でのP−LAPの興味ある変化が報告されている[非特許文献6]。
しかしながら、P−LAPが癌の予後因子となることについては知られていない。
【0006】
【非特許文献1】Am. J. Obstet. Gynecol., 1983; 146: 141-144
【非特許文献2】Gynecol. Oncol., 1991; 40: 55-65
【非特許文献3】Arch. Biochem. Biophys., 1992; 292: 388-392
【非特許文献4】J. Biol. Chem., 1995; 270: 23612-23618
【非特許文献5】Clin. Cancer Res., 2003; 9(4): 1528-1534
【非特許文献6】J. Clin. Endocrinol. Metab., 2002; 87: 1384-1389
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、癌の発症および/または予後を評価するための試薬を提供するものである。また、本発明の他の目的は、癌の予後因子を測定する方法を提供するものである。さらに、本発明の他の目的は、癌の予後を評価する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、P−LAPが癌(子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌などの婦人科癌を含む)の予後因子となりうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 抗P−LAP抗体を有効成分として含有することを特徴とする癌の発症および/または予後を評価するための試薬、
(2) 癌が婦人科癌である前記(1)記載の試薬、
(3) 婦人科癌が子宮体癌、子宮頸癌または卵巣癌である前記(2)記載の試薬、
(4) 抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAP抗体である前記(1)〜(3)にいずれかに記載の試薬、
(5) 抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAPポリクロナール抗体である前記(1)〜(3)にいずれかに記載の試薬、
(6) 癌の予後因子となるP−LAPを測定する方法であって、
(a)癌患者から分離された癌組織に抗P−LAP抗体を接触させる工程;および
(b)癌組織に含まれるP−LAPと抗P−LAP抗体との特異的抗原抗体反応の強度を測定する工程;
を含むことを特徴とする方法、
(7) 癌が婦人科癌である前記(6)記載の方法、
(8) 婦人科癌が子宮体癌、子宮頸癌または卵巣癌である前記(7)記載の方法、
(9) 抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAP抗体である前記(6)〜(8)のいずれかに記載の方法、
(10) 抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAPポリクロナール抗体である前記(6)〜(8)のいずれかに記載の方法、
(11) 癌の予後を評価する方法であって、
(a)癌患者から分離された癌組織に抗P−LAP抗体を接触させる工程;
(b)癌組織に含まれるP−LAPと抗P−LAP抗体との特異的抗原抗体反応の強度を測定する工程;および
(c)特異的抗原抗体反応の強度を癌の予後と関連付ける工程;
を含むことを特徴とする方法、
(12) 癌が婦人科癌であるである前記(11)記載の方法、
(13) 婦人科癌が子宮体癌、子宮頸癌または卵巣癌である前記(12)記載の方法、
(14) 抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAP抗体である前記(11)〜(13)のいずれかに記載の方法、
(15) 抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAPポリクロナール抗体である前記(11)〜(13)のいずれかに記載の方法、
(16) 癌患者から分離された癌組織に含まれるP−LAPをイムノアッセイ法により測定するための測定キットであって、抗P−LAP抗体、および該P−LAPと結合した抗P−LAP抗体の量を測定するための標識酵素を含むことを特徴とする測定キット、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の試薬を用い、癌(子宮体癌などの婦人科癌を含む)患者から分離された癌組織中に含まれるP−LAPを測定することにより、癌の予後を的確に予測できる。このため、術後の患者に対する適切な対処が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の試薬の有効成分である抗P−LAP抗体は、抗ヒトP−LAP抗体が好ましい。また、抗ヒトP−LAP抗体はポリクローナル抗体であってもよく、またモノクローナル抗体であってもよい。これら抗体は、P−LAPを抗原として常法により製造することができる。たとえば、抗ヒトP−LAPポリクローナル抗体は、中西ら、プラセンタ(Placenta)、2000年、第21巻、628−634頁に記載の方法により製造することができる。
【0012】
本発明の試薬を用いて癌の予後を評価するためには、癌患者から分離された癌組織が用いられる。癌の種類は、特に限定されないが、子宮体癌(子宮内膜癌、類内膜線癌を含む)、卵巣癌、子宮頸癌などの婦人科癌、膵臓癌、前立腺癌などがあげられ、とりわけ子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌などの婦人科癌が好適にあげられる。
【0013】
癌患者から分離された癌組織は、通常ホルマリン固定しパラフィン包埋したのち、適当な大きさの切片とすることにより癌組織標本とし、この標本を用いて癌組織中のP−LAPの量が測定される。
【0014】
癌患者の組織中に含まれるP−LAPの量を測定するには、イムノアッセイ法により、行うことができ、具体的には(a)癌患者から分離された癌組織に抗P−LAP抗体を接触させ、ついで(b)癌組織に含まれるP−LAPと抗P−LAP抗体との特異的抗原抗体反応の強度を測定することにより行うことができる。
【0015】
上記イムノアッセイ法を、例えばストレプトアビジン−ビオチン−パーオキシダーゼ法を採用して実施するときは、次のようにして行うことができる。まず、癌組織標本を脱パラフィン後、過酸化水素と共にインキュベーションして内在性パーオキシダーゼをブロックする。ついでヤギ正常血清と共にインキュベートションして非特異的結合をブロックしたのち、抗P−LAP抗体(一次抗体)を加えて抗原−抗体反応を行う。引き続き、ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG(二次抗体)および西洋わさびパーオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを加えて、結合反応を行う。この抗原−抗体反応および結合反応の条件には特に制限はなく、通常この種の反応に採用される条件と同様のものとすることができる。
【0016】
上記の如くして得られる複合体(P−LAP・抗P−LAP抗体・ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG・パーオキシダーゼ結合ストレプトアビジン複合体)に、過酸化水素の存在下、発色基質(たとえば、3−アミノ−9−エチルカルバゾール)を作用させ発色させ、ついでヘマトキシリンで対比染色する。得られる標本の染色度合いを調べることにより、癌組織中のP−LAPを測定できる。
【0017】
癌組織中のP−LAPを測定するためには、P−LAPと結合した抗P−LAP抗体を検出できる方法であれば、標識としてパーオキシダーゼ以外の酵素も使用できる。そのような酵素の例としては、たとえばリンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファーグリセロールリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、アルカリフォスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベーターガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、アセチルコリンエステラーゼなどがあげられる。
【0018】
上記の標識酵素は、抗P−LAP抗体と組み合わせて、測定用キットとすることができる。なお、該キットには、所望により、抗P−LAP抗体と標識酵素とを結合させる試薬、反応溶液、基質、基質溶解液、および/または反応停止液を含んでいてもよい。
【0019】
また、酵素以外に、標識として、放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質、生物発光物質などであってもよい。これら標識を所望の分子に結合させるには、当業者に慣用される標準的な技術を用いてなされる。
【0020】
ついで、上記で測定された癌組織中のP−LAPの免疫反応強度(P−LAPと抗P−LAP抗体との特異的抗原抗体反応の強度)を癌の予後と関連付けることにより、当該癌の予後を評価することができる。たとえば、子宮体癌(例えば、類内膜腺癌)の場合を例にして説明すれば、次のとおりである。
【0021】
上記イムノアッセイ法により測定された、P−LAPと抗P−LAP抗体との特異的抗原抗体反応の強度、例えばP−LAP免疫染色の強度を、陰性(−)、弱い陽性(+)および強い陽性(++)の3段階に分類し、子宮体癌(例えば、類内膜腺癌)の無病生存期間との関係を調べたところ、陰性または弱い陽性の患者は、強い陽性の患者に較べて、有意に高い無病生存率を示した。さらに、P−LAP免疫染色の強度と手術進行期、腫瘍のグレード(分化度)、子宮内膜浸潤、血管浸潤、リンパ節転移との関係を調べたところ、いずれの特性に対しても正の相関を示した。
【0022】
これらの事実から、癌組織に存在するP−LAPが癌の予後を評価する信頼しうるマーカーであることが分かる。したがって、癌の患者から分離された癌組織中に含有されるP−LAPを、抗P−LAP抗体を用いる前記したイムノアッセイ法により測定し、P−LAPと抗P−LAP抗体との免疫反応の強度を癌の予後と関連付けることにより、癌の予後評価を行うことができる。
【0023】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
(1)患者
本研究には、名古屋大学病院で1993年1月から2000年12月の間に外科的な処置を受けた子宮体癌(子宮内膜癌、類内膜腺癌)の患者99人を含めた。診断は、子宮内膜掻爬により術前に全ての患者で確立された。患者の多くは、骨盤リンパ節切除を伴う根治的子宮摘出術により処置された。しかしながら、21人の患者においては、年齢および合併症のためにリンパ節切除は行われなかった。全ての患者を国際婦人科学産科学連盟(FIGO)の分類にしたがって段階化し、腫瘍を、高分化(G1,<5%固形成分)、中程度分化(G2,6−50%固形成分)または低分化(G3,>50%固形成分)にランク付けした。本研究では、他の組織学的タイプが少数であることから、類内膜腺癌に限定して検討した。アジュバント化学療法は、高い組織学的グレードなどの危険因子を有する進行期I期の患者、並びに進行期II期、III期およびIV期の患者全てに施した。外科手術の2〜3週間後に、これら患者に4−6サイクルのシスプラチン化学療法を受けさせた。生存患者の平均追跡期間は55.3ヶ月であり、20〜120ヶ月にわたった。被験者はすべて最初の2年間は3ヶ月毎に、それ以後は6ヶ月毎に検査を受けた。
【0025】
なお、進行期の段階は次の通りである。
I期 :癌組織が子宮内膜のみ。
II期 :子宮内膜を超えて子宮頚部に広がっているもの。
III期:子宮外に広がっているが、小骨盤外には広がっていない。
IV期 :小骨盤を超えて身体の他の部位へ広がるか、または膀胱あるいは直腸に達している。
【0026】
(2)P−LAP免疫染色
標本使用のためにインフォームドコンセントを各患者から取得した。全ての組織標本は10%ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋し、組織学的検査のためにヘマトキシリン−エオシンで通常どおり染色した。
抗ヒトP−LAPポリクローナル抗体を、プラセンタ(Placenta)、2000年、第21巻、628〜634頁に記載されている方法で調製した。免疫組織化学染色はアビジン−ビオチン免疫パーオキシダーゼ技術(Histofine SAB-POキット、ニチレイ、東京、日本)を用いて行った。切片を4μmの厚さに切り、ストレプトアビジン/ビオチン/パーオキシダーゼ法により免疫染色した。生存癌細胞を含む領域を、病理学者が確認し、選択した。0.01Mクエン酸緩衝液中の脱パラフィン化切片をH2500電子レンジで750W、90℃で5分間3回処理した。切片を0.3%過酸化水素と共に20分間インキュベーションし、ついで10%ヤギ正常血清と共にインキュベーションした。抗ヒトP−LAPポリクローナル抗体(0.4μg/切片)を組織切片に加え、1時間インキュベーションした。抗体の結合の後、ビオチン化ヤギ抗ウサギIgGおよび西洋ワサビパーオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Histofine SAB-PO、ニチレイ、東京、日本)と結合させた。発色は、切片を3−アミノ−9−エチルカルバゾール(AEC,ニチレイ、東京、日本)に浸漬することにより実施した。スライドをマイヤーのヘマトキシリンでカウンター染色した。反応の特異性を評価するために、全ての患者においてネガティブコントロールをつけた。ネガティブコントロールのスライドは、同じ組織ブロックから調製した。免疫染色強度は、既知の正および負のコントロールに比例させて、半定量的に3段階スケール(陰性=−、弱い陽性=+、強い陽性=++)でスコアー化した。通常のヘマトキシリン・エオシンスライドおよびP−LAP反応は、2人の病理学者により独立して評価された。
【0027】
(3)統計的分析
P−LAPの分布と臨床病理学的特徴との間の関連はフィッシャー精密検定を用いて評価した。無病生存期間の分布を要約するために、カプラン−メイアー(Kaplan-Meier)法を用いた。これらの結果に関して個々の因子を評価するために、ロッグ−ランク(Log-rank)検定を用い、かつ複数の因子を同時に評価するために、段階的なコックス比例ハザードモデルを用いた。疾病再発の証拠なしで死亡した患者は、死亡日時点で検死した。2個のパラメーター間での比較のため、0.05未満のp値を有意と判定した。
【0028】
(4)結果
P−LAPのタンパク質発現と細胞局在を、ヒト子宮体癌患者から得た組織切片の免疫組織化学染色により分析した。図1AはG1類内膜腺癌における弱い陽性の代表例を示す。図1BはG1類内膜腺癌における強い陽性の代表例を示す。P−LAPに対する最強の免疫反応は、G2およびG3類内膜腺癌の子宮筋層浸潤を有する領域に集中していた(図1C、D)。正常な子宮内膜細胞は陰性または弱い陽性のいずれかであった。
【0029】
患者の平均年齢は58.5歳(幅:36−75歳)であった。99症例のうち、69症例(69.7%)で、特異的なP−LAP免疫染色を示した。38症例(38.4%)で弱い染色が見られ、31症例(31.3%)で強い染色が見られた。表1は、P−LAPと、組織学的グレード、疾病の手術進行期、子宮筋層浸潤、リンパ節転移、血管浸潤などのいくつかの臨床的特徴との関連を示す。

【表1】

【0030】
本発明者はP−LAPと患者年齢との間には有意な相関関係を見出さなかった。P−LAPは、G1患者の7.2%、G2患者の62%、およびG3患者の60%で、強い陽性として確立された。本発明者はP−LAPと組織学的グレードとの間で正の相関関係(p<0.01)を見出した。本発明者はまた、P−LAPと疾患の手術進行期(p=0.02)、筋層浸潤(p=0.01)、リンパ節転移(p<0.01)、血管浸潤(p<0.01)との間で正の相関関係を見出した。
P−LAP発現の予後影響(prognostic impact)を評価するために、無病生存期間曲線をカプラン−メイアー法により作成した。P−LAPに関して陰性、弱い陽性および強い陽性の発現を示した患者の10年間無病生存率(DFS)は、それぞれ100%、94,7%、47.3%であった(図2)。強い陽性のP−LAP染色を示す患者は、陰性または弱い陽性のP−LAP染色を示す患者と較べて、有意に低い無病生存期間を示した(p<0.01)。さらに、無病生存期間の分析を、進行期分類の初期段階(I期−II期、n=77)および進行期分類の高い段階(III期−IV期、n=22)の患者で個別に行った。初期段階の患者では、P−LAPに対して陰性、弱い陽性および強い陽性の発現を示した患者の中で、10年無病生存率は、それぞれ100%、96.6%および73.9%であった(図3)。強い陽性のP−LAP染色を示した患者はまた、陰性の又は弱い陽性のP−LAP染色を示した患者と較べて、有意に低い無病生存期間を示した(p<0.05)。進行した患者においては、1人の患者のみがP−LAPに対して陰性であり、したがってこの患者は弱い陽性のP−LAP発現を有する患者の中に含めた。P−LAPに対して陰性のまたは弱い陽性の発現を示した患者の10年無病生存率は90%であり、有意な差(p<0.01)で強い陽性発現を示した患者では8.3%であった(図4)。
【0031】
表2は臨床的特徴およびP−LAP状態にしたがって無病生存期間の単変量および多変量分析を示している。

【表2】

【0032】
21人の患者がリンパ節切除を受けていないので、リンパ節転移はこれらの分析における因子としては除外した。単変量分析から、次の因子、すなわち外科手術段階、腫瘍グレード(分化度)、およびP−LAP発現が有意であったことが立証された。これらの因子は多変量法でさらに分析した。多変量分析からP−LAP発現および手術進行期が独立した予後因子であることが立証された。
【実施例2】
【0033】
外科的な処置を受けた卵巣癌の患者について、実施例1と同様の手法によりP−LAP発現の予後影響を評価した。
61例の患者(平均年齢:52.5歳、年齢幅:33〜78歳)のうち、P−LAPに対して陰性の発現を示したのは12例、弱い陰性の発現を示したのは20例、強い陽性を示したのは29例であった。
P−LAPに関して陰性、弱い陽性の発現を示す患者の10年間無病生存率はともに75%であったのに対し、強い陽性を示す患者の10年間無病生存率は48.3%であった。このように、強い陽性のL−LAP染色を示す患者は、陰性または弱い陽性のL−LAP染色を示す患者と較べて、有意に低い無病生存率を示した(p<0.05)。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の試薬および測定方法は、癌の予後評価に使用できるので、医薬製造分野および医療分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ヒト類内膜腺癌組織におけるP−LAPの優先的過剰発現を示す写真。
【図2】子宮体癌患者のP−LAP免疫反応と無病生存の関係を示す線図。
【図3】進行期分類の初期段階における子宮体癌患者のP−LAP免疫反応と無病生存の関係を示す線図。
【図4】進行期分類の高い段階における子宮体患者のP−LAP免疫反応と無病生存の関係を示す線図。
【符号の説明】
【0036】
図1における記号は次の通りである。
A;グレード1の類内膜腺癌におけるP−LAPのネガティブ免疫反応。
B;グレード2の類内膜腺癌におけるP−LAPのネガティブ免疫反応。
C;グレード1の類内膜腺癌におけるP−LAPの弱い陽性免疫反応。
D;グレード1の類内膜腺癌におけるP−LAPの強い陽性免疫反応。
E;グレード2の類内膜腺癌におけるP−LAPの強い陽性免疫反応。
F;グレード3の類内膜腺癌におけるP−LAPの強い陽性免疫反応。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗P−LAP抗体を有効成分として含有することを特徴とする癌の発症および/または予後を評価するための試薬。
【請求項2】
癌が婦人科癌である請求項1記載の試薬。
【請求項3】
婦人科癌が子宮体癌、子宮頸癌または卵巣癌である請求項2記載の試薬。
【請求項4】
抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAP抗体である請求項1〜3のいずれかに記載の試薬。
【請求項5】
抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAPポリクロナール抗体である請求項1〜3のいずれかに記載の試薬。
【請求項6】
癌の予後因子となるP−LAPを測定する方法であって、
(a)癌患者から分離された癌組織に抗P−LAP抗体を接触させる工程;および
(b)癌組織に含まれるP−LAPと抗P−LAP抗体との特異的抗原抗体反応の強度を測定する工程;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
癌が婦人科癌であるである請求項6記載の方法。
【請求項8】
婦人科癌が子宮体癌、子宮頸癌または卵巣癌である請求項7記載の方法。
【請求項9】
抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAP抗体である請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAPポリクロナール抗体である請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
癌の予後を評価する方法であって、
(a)癌患者から分離された癌組織に抗P−LAP抗体を接触させる工程;
(b)癌組織に含まれるP−LAPと抗P−LAP抗体との特異的抗原抗体反応の強度を測定する工程;および
(c)特異的抗原抗体反応の強度を癌の予後と関連付ける工程;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
癌が婦人科癌であるである請求項11記載の方法。
【請求項13】
婦人科癌が子宮体癌、子宮頸癌または卵巣癌である請求項12記載の方法。
【請求項14】
抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAP抗体である請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
抗P−LAP抗体が抗ヒトP−LAPポリクロナール抗体である請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
癌患者から分離された癌組織中のP−LAPをイムノアッセイ法により測定するための測定キットであって、抗P−LAP抗体、および該P−LAPと結合した抗P−LAP抗体の量を測定するための標識用酵素を含むことを特徴とする測定キット。


【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2007−509313(P2007−509313A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516530(P2006−516530)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013883
【国際公開番号】WO2005/038462
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】