説明

抗VEGF抗体による腫瘍治療

本発明は、抗VEGF抗体を用いて、抗HER2抗体で治療中又は治療後に再発したHER2陽性癌に罹患する患者の治療方法を提案するものである。本発明はまた、対応する製品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗VEGF抗体を用いて、抗HER2抗体で治療中又は治療後に再発したHER2陽性癌に罹患する患者の治療に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新脈管形成は様々な疾患の原因に関係があり、固形腫瘍、眼内新生血管症、例えば増殖性の網膜障害又は加齢黄斑変性症(AMD)、関節リウマチ、及び乾癬が含まれる(Folkman et al., J. Biol. Chem. 267 (1992) 10931- 10934; Klagsbrun et al., Annu. Rev. Physiol. 53 (1991) 217-239; and Garner, A., Vascular diseases, In:PathobioloGy of ocular disease, A dynamic approach, Garner, A., and Klintworth, G. K. (eds.), 2nd edition, Marcel Dekker, New York (1994), pp 1625-1710)。固形腫瘍においては、新生血管形成が腫瘍細胞に、正常細胞と比較して増殖優位性及び増殖自立性を獲得することを可能にする。従って、腫瘍切片における微小血管の密度と乳癌及びいくつかの他の腫瘍における患者の生存率との間に相関性が確認されている(Weidner et al., N. Engl. J. Med. 324 (1991) 1-8; Horak et al., Lancet 340 (1992) 1120- 1124; and Macchiarini et al., Lancet 340 (1992) 145-146)。
【0003】
血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) は、腫瘍又は眼内疾患(Ferrara et al., Endocr. Rev. 18 (1997) 4-25; Berkman et al., J. Clin. Invest. 91 (1993) 153-159; Brown et al., Human Pathol. 26 (1995) 86-91; Brown et al., Cancer Res. 53 (1993) 4727-4735; Mattern et al., Brit. J. Cancer. 73 (1996) 931-934; and Dvorak et al., Am. J. Pathol. 146 (1995) 1029-1039)に関連する、正常及び非正常な新脈管形成、並びに新生血管形成の調節に関与する。抗VEGF中和抗体は、マウスにおいて、様々なヒト腫瘍細胞系の増殖を抑制する(Kim et al., Nature 362 (1993) 841-844; Warren et al., J. Clin. Invest. 95 (1995) 1789-1797; Borgstrom et al., Cancer Res. 56 (1996) 4032-4039; and Melnyk et al., Cancer Res. 56 (1996) 921-924). WO 94/10202、WO 98/45332、WO 2005/00900及びWO 00/35956は、VEGF に対する抗体について言及している。ヒト化モノクローナル抗体のベバシズマブ (商標名Avastin(登録商標)で販売される)は腫瘍治療で使われる抗VEGF抗体であり、かつ癌治療のために承認された唯一の抗脈管形成剤である(WO 98/45331)。
【0004】
HER2は、ヒト上皮増殖因子受容体ファミリーの構成員であり、その細胞形質領域においてプロテインキナーゼ活性を有する。HER2は腫瘍細胞において過剰発現し、劣った予後及び生存期間と相関関係がある。それ故、HER2は乳癌治療の重要な標的である。HER2に対する抗体は、Takai N. et al., Cancer 104 (2005) 2701-2708; Yeon, C. H., et al., Invest New Drugs. 23 (2005) 391-409; Wong, W. M., et al, Cancer Pract. 7 (1999) 48-50; Albanell, J., et al., Drugs Today (Bare). 35 (1999) 931-46 によって知られている。
【0005】
トラスツズマブ (商標名Herceptin(登録商標)で販売される)は、HER2が過剰発現/HER2遺伝子が増殖した転移性乳癌の治療に用いられる、組換え型ヒト化抗HER2モノクローナル抗体である。前臨床試験では、当該抗体がin vivo及びin vitroで抗癌活性を有することが実証されている。さらに、トラスツズマブの抗腫瘍活性の相加的又は相乗的な上昇が、マウスモデルにおける様々な抗腫瘍剤との併用において観察された。臨床試験においては、HER2が過剰発現した転移性乳癌患者において生存期間の延長が観察された。
【0006】
WO 2005/012531は、直腸癌、転移性乳癌、及び腎臓癌の治療において、抗ErbB抗体(例えばHerceptin(登録商標)、別名トラスツズマブ)及び/又は抗VEGF抗体(例えばAvastin(登録商標)、別名ベバシズマブ)と併用することができる抗体について記述している。WO 2005/063816によれば、抗VEGF抗体は転移性乳癌の治療において抗ErbB抗体と併用できる。WO 98/45331によれば、疾病の予防又は治療における抗VEGF抗体の効果は、当該抗体を当該目的のために有効な他剤、例えばHER2受容体に結合できる抗体と、順次又は組み合わせて投与することにより改善され得る。WO2005/00090及びWO 2003/077841はまた、腫瘍治療のための抗ErbB2抗体と抗VEGF抗体の併用について開示している。Pegram, M. D., et al, Seminars in OncoloGy 29 (2002) 29-37 では、乳癌治療における抗VEGF抗体と抗ErbB2抗体の併用について説明している。
【0007】
臨床の腫瘍学者達は、癌治療の失敗は、必ずしも、一般的に外科手術で扱われる原発性腫瘍の増殖によるのではなく、むしろ別組織への転移拡散により引き起こされるということで意見が一致している。種々の細胞障害性薬物による原発性腫瘍の沈静は、必ずしも抗転移活性を示すものとは言えない。かえって、複数の抗癌剤に対する応答で増大した転移が観察された(Geldof et al., Anticancer Res 8 (1988) 1335-40, Murphy, J., Clin. Oncol. 11 (1993) 199-201, and De Larco et al., Cancer Res. 61 (2001) 2857-61)。原発性腫瘍を標的にするばかりでなく、転移を抑制するための治療法開発の必要性が明らかに存在する。
【0008】
これらの抗転移活性は例えば、Schneider, T., et al, Clin. Exp. Metas. 19 (2002) 571-582 による方法で評価することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者を治療するための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用を含んでなる。
【0010】
さらなる実施態様は、抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の予防又は低減のための医薬品の製造のための抗VEGF抗体の使用である。
【0011】
本発明はさらに、抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者の治療のための抗VEGF抗体を含んでなる。
【0012】
さらなる実施態様は、抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の予防又は低減のための抗VEGF抗体である。
【0013】
抗HER2抗体による治療は、好ましくは当該抗HER2抗体での一次単剤治療である。
【0014】
当該抗VEGF抗体は、好ましくはベバシズマブと同じエピトープに結合するものである。
【0015】
当該抗VEGF抗体は、好ましくはベバシズマブである。
【0016】
当該抗HER2抗体は、好ましくはトラスツズマブである。
【0017】
好ましい実施形態としては、本発明が患者に対して、抗VEGDF抗体及び抗HER2を共投与することを含んでなる。
【0018】
本発明はさらに、容器、抗VEGF抗体を含んでなるその容器に入った組成物、及び抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者に当該抗VEGF抗体を投与するようにその組成物の使用者に指示する包装インサートを含んでなる製品、を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】トラスツズマブ治療失敗後の腫瘍増殖に対する、a)トラスツズマブ及びベバシズマブ組み合わせた治療、及び、b)ベバシズマブ単独治療の抗腫瘍活性。腫瘍体積(mm3)の平均値をy軸にプロット;腫瘍細胞の注入後の日数をx軸にプロットした。A)媒体(円)、B)負荷用量30 mg/kg、維持用量15 mg/kg、週1回のトラスツズマブ(四角)。60日で、B群の動物はさらに3群、B’(60日後四角)、C及びDに分けられた。トラスツズマブ単独での治療を、週1回、15 mg/kg(維持用量)でB'群にのみ続けた。C)61日後から、週1回のトラスツズマブ 維持用量15 mg/kgと、週2回の追加的なベバシズマブ治療5 mg/kgを組み合わせ(三角)、D)61日後から、トラスツズマブでの治療を中止し、週2回のベバシズマブ5 mg/kg(×)。1(*)又は複数(***)のマウスを、終結基準に基づき犠牲にした時点が、1又は複数のアスタリスク(*)で示されている。
【図2】(A)無治療の媒体群、(B)トラスツズマブ治療のみ(83日まで)、(C)トラスツズマブ治療のみ(27日−60日)の後、トラスツズマブ及びベバシズマブの組み合わせ治療(61日−112日)、並びに(D)トラスツズマブ治療のみ(27日−60日)の後、ベバシズマブ治療のみ(61日−112日)の肝移転の結果。ヒトAlu DNA配列の平均値(pg/ml)を、リアルタイムPCRを用いて肝組織から定量しy軸にプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において"VEGF"なる語は、血管内皮細胞増殖因子(Swiss-Prot No. P 15692)であって、選択的(alternative)スプライシング型(例えば、Leung et al., Science, 246 (1989) 1306-1309, and Houck et al., MoI. Endocrin., 5 (1991) 1806-14を参照)、及び活性フラグメントであって好ましくはそのN末端フラグメントを表す。
【0021】
本発明において"抗VEGF抗体"なる語は、特異的にVEGFに結合し、抗新脈管形成活性を発現する抗体である。好適なヒト化抗VEGF抗体又は本明細書中の変異型抗VEGF抗体は、ヒトVEGFに、Kd値が1×10-8 M以下、好ましくは5×lO-9 M以下で結合する。該抗VEGF抗体は Presta et al.,Cancer Res. 57 (1997) 4593-4599 に従って作成された、組換え型ヒト化抗VEGFモノクローナル抗体(ベバシズマブ)と同じ当該エピトープに結合するモノクローナル抗体である。好適な抗体はベバシズマブである。抗VEGF抗体及びその製造法は、例えば、米国特許第6,054,297号, US2003/0190317, 米国特許第6,632,926, 米国特許第6,884,879号, 及び US 2005/0112126 に述べられている。
【0022】
ベバシズマブは、変異導入されたヒトIgG1フレームワーク領域、及びヒトVEGFがその受容体へ結合することを阻止する、マウス抗hVEGFモノクローナル抗体由来の抗原結合性相補性決定領域を含む。フレームワーク領域の大部分を含む、ベバシズマブのアミノ酸配列のおよそ93%は、ヒトIgG1由来である。また配列の約7%はマウス抗体A4.6.1由来である。ベバシズマブは分子量約149,000ダルトンであり、グリコシル化されている。ベバシズマブ及びその調製方法はEP 1325932に記載されている。
【0023】
本発明における"HER2"なる語は、185-kDaの成長因子受容体を表し、neu及びc‐erbB‐2 (Slamon et al., Science 235 (1987) 177-182; Swiss-Prot P04626)とも表記され、その機能がヒト乳癌細胞における腫瘍性形質転換と関連している。乳癌の20-30%の患者において該タンパク質の過剰発現が確認され、これは、疾患の局所的な進行、癌再発可能性の増大、及び患者の生存期間の低下と相関関係がある。胃、子宮内膜、唾液腺、非小細胞肺、膵臓、卵巣、腹膜、前立腺又は結腸直腸の癌に罹患している患者の30-40%にも、当該タンパク質の過剰発現が確認され得る。
【0024】
本発明における"抗HER2抗体"なる語は、マウスの抗HER2抗体4D5と同じHER2のエピトープに特異的に結合する抗体であり、Hudziak et al., MoI. Cell. BioL 9 (1989) 1165-1172 に記載されている。抗HER2抗体4D5それ自身も含む、"HER2の4D5エピトープ"に結合する抗HER2抗体とその製造法は、例えば米国特許第6,054,297号, WO 89/06692, 米国特許第6,399,063号, 第6,165,464号, 第6,054,297号, 第5,772,997号, WO 2003/087131, WO 01/00245, WO 01/00238, WO 00/69460, WO 99/31140, WO 98/17797に記載されている。本発明の好ましい実施形態としては、その抗HER2抗体はトラスツズマブであり、それは長期間事前に抗癌治療を受けていた、HER2が過剰発現する転移乳癌を有する患者において、臨床的に活性である組換え型ヒト化抗HER2モノクローナル抗体(rhuMAb HER2又はトラスツズマブと呼ばれる、マウスの抗HER2抗体4D5のヒト化版)(Baselga et al, J Clin. Oncol. 14 (1996) 737-744) である。トラスツズマブ及びその製造法はEP 590058に記載されている。
【0025】
"エピトープ4D5"は、該抗体4D5 (ATCC CRL 10463) が結合する、ErbB2の細胞外ドメインにおける領域である。このエピトープは、ErbB2の膜貫通領域に隣接している。4D5エピトープに結合する抗体をスクリーニングする、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed. Harlow and David Lane (1988)に記載される如き、日常的なクロス‐ブロッキングアッセイ(cross-blocking assay)が実施できる。他にErbB2の4D5エピトープに抗体結合の有無を評価するエピトープマッピングが実施し得る。
【0026】
当該出願において使用される"エピトープ"なる語は、抗体に特異的に結合できるタンパク質決定基を表す。エピトープは通常、アミノ酸又は糖の側鎖の如き化学的に活性な表面分子群で構成され、特異的な3次元構造特性及び特異的なチャージ特性を有している。コンフォメーション又は非コンフォメーションのエピトープは、前者へ結合するが後者に結合しないことが変性溶媒の存在で消失するという点で識別される。エピトープが属する抗原のサイズに依存し、1の抗原当たり複数のエピトープが有効であり得、よって同様に1の抗原当たり複数の抗体結合部位(=エピトープ)の可能性がある。
【0027】
抗体は例えばヒト、マウス、又はラットのポリペプチドに対して産生することができる。抗体はポリクローナル又はモノクローナルのいずれであっても、標的抗原を特異的に認識するものは本発明に包含される。該抗体は当業者に周知の標準の免疫学的技術を用いることで産生される。抗体は、ポリクローナルもしくはモノクローナルで、又は例えばヒト化抗体のために組換えで作成され得る。抗体が既知の治療用抗体と同じエピトープに結合しないことの判定は、競合試験システムで容易に結論付けることができる。
【0028】
同一の標的抗原に結合する2の抗体の考えられるエピトープの重複は、競合試験システムを用いて検出できる。本目的のために、例えば酵素イムノアッセイを用いて、固定された標的抗原に対する結合について、該新規抗体がどの程度既知の抗体と競合するかがテストされる。このため、適切に固定された標的抗原はラベルされた当該既知の抗体及び過剰の注目の抗体とともにインキュベートされる。結合したラベルしているものの検出により、注目の抗体がどの程度結合部位(=エピトープ)から当該既知の抗体を追い出し得るのか、容易に確認し得る。当該既知の抗体に対して注目の抗体が、同濃度又はより高濃度において、好ましくはlO5 倍過剰である場合において、もし10%超、好ましくは20%超の置換が生じていれば、エピトープの重複がある。それは注目の抗体が、当該既知の抗体と同じエピトープに結合したことを意味する。
【0029】
"標的抗原"なる語は、その対応する治療用抗体が結合する生体分子のことを表す。例えば、HER2(= ErbB2 又はp185 neu)に対する治療用抗体、例えば Herceptin(登録商標)又は Omnitarg(登録商標)の標的抗原はHER2であり、EGFrに対する治療用抗体、例えば Erbitux(登録商標)の標的抗原はEGFrであり、VEGFに対する治療用抗体、例えば Avastin(登録商標)の標的抗原はVEGFである。標的抗原は、可溶性、即ち分泌しているかもしくは分散している標的抗原、または(細胞)膜結合の標的抗原のいずれかがあり得る。
【0030】
イムノアッセイは当業者にとって周知である。当該アッセイを実施する方法、並びに実際の応用及び手順は関係する教科書に要約されている。関係する教科書の例としては、Tijssen, P., Preparation of enzyme- antibody or enzyme-macromolecule conjugates, In: Practice and theory of enzyme immunoassays, Burdon, R.H. and v. Knippenberg, P. H. (eds.), Elsevier, Amsterdam (1990), pp. 221-278; 、免疫学検出法を扱っている各巻で、Colowick, S. P. and Caplan, N.O. (eds.), Methods in EnzymoloGy, Academic Press,、の特に70, 73, 74, 84, 92 及び121巻が挙げられる。
【0031】
HER2受容体タンパク質の"過剰発現"の語は、特定の組織又は器官由来の正常細胞における発現レベルと比較して、患者のその組織又は器官にある腫瘍由来の細胞におけるHER2受容体タンパク質の異常な発現レベルを意味している。HER2受容体の過剰発現を特徴とする癌に罹患している患者は、当業界において既知の標準的アッセイによって決定され得る。好ましくは、過剰発現は、免疫組織化学的(IHC)検出法を用いて、凍結され又はパラフィンに包埋された組織断片の固定された細胞で測定される。組織染色と組み合わせると、標的タンパク質の所在が決定され、腫瘍の中でのその発現の程度が、定性的及び半定量的に測定可能である。当該IHC検出アッセイは当業界において既知であり、臨床試験法(Clinical Trial Assay (CTA))、市販のLabCorp 4D5試験、及び市販のDAKO HercepTest(登録商標)(DAKO, Carpinteria, Calif.)が含まれる。最後の測定法は、当該HER2タンパク質の過剰発現を有する癌を同定するため、0から3+の細胞染色の特定の範囲(0は通常発現、3+は最も強い陽性発現を意味する)を用いる(Herceptin(登録商標)(トラスツズマブ)全処方情報; September 1998; Genentech, Inc., San Francisco, Calif.参照)。それ故、1+, 2+, 又は3+、好ましくは2+ 又は3+、さらに好ましくは3+の範囲で、HER2タンパク質の過剰発現を特徴とする癌に罹患している患者は、本発明の治療法の恩恵を受ける。
【0032】
"HER2陽性癌"の語は、例えば乳癌、胃癌(gaster cancer)、子宮内膜癌、唾液腺癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、卵巣癌、腹膜癌、前立腺癌、又は結腸直腸癌、の如きHER2タンパク質の過剰発現を特徴とする癌を意味する。
【0033】
HER2陽性癌は、例えば肺癌、非小細胞肺癌(NSCL)、気管支肺胞性肺癌、骨癌 、膵臓癌、皮膚癌、頭部や首の癌、皮膚又は眼内の黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌(stomach cancer)、胃癌(gastric cancer)、結腸癌、乳癌、子宮癌、ファローピウス管癌、子宮内膜癌、頸癌、膣癌、外陰部癌、ホジキン病、食道癌、腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎又は尿道の癌(cancer of the kidney or urethra)、腎細胞癌、腎盤癌、中皮腫、肝細胞癌、胆管癌、慢性又は急性白血病、リンパ球のリンパ腫(lymphocytic lymphomas)、中枢神経系(CNS)癌、脊髄ブロック癌、脳幹神経膠腫、多形性グリア芽細胞腫、星状細胞増加症、シュヴァン細胞腫(schwannomas)、上衣細胞腫(ependymomas)、髄芽細胞腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、上記記載中任意の難治性癌、又は1もしくは複数の上記記載の癌の組合せがあり得る。前癌状態又は病変には、例えば口腔白斑症、日光角化症、結腸又は直腸の前癌ポリープ、胃上皮形成異常、腺腫形成異常(adenomatous dysplasia)、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)、バレット症候群、膀胱形成異常(bladder dysplasia)、及び頸部前癌状態(precancerous cervical conditions)が含まれる。好ましい実施形態としては、癌は再発したHER2陽性乳癌であり、それは好ましくは当該抗HER2抗体で一次単剤治療中又は治療後である。ここで当該抗HER2抗体は好ましくはトラスツズマブである。
【0034】
"乳癌"なる語は、異常な胸部細胞(breast cells)の無秩序な増殖を表す。それは、上皮内腺管癌(ductal carcinoma in situ)、侵襲性腺管癌、上皮内小葉癌、侵襲性小葉癌、髄様癌、乳頭のパジェット病、及び転移性乳癌を含む。
【0035】
"再発した癌"なる語は、当初は先の治療に応答していたが、その治療応答が維持されなくなった、腫瘍患者の異常な細胞の無秩序な増殖を意味する。"再発したHER2陽性癌"なる語は、当初は抗HER2抗体、好ましくはトラスツズマブを用いた先の治療に応答していたが、その治療応答が、当該抗HER2抗体で治療中に維持されなくなった、腫瘍患者におけるHER2タンパク質の過剰発現を特徴とする、異常細胞の無秩序な増殖を意味する。腫瘍患者であって、当初は抗HER2抗体を用いた先の治療に応答していたが、その治療応答が維持されなくなった者を"再発者"と表す。
【0036】
治療応答(RE)は、患者の治療を評価するための当業界に周知の臨床及び研究室データから得られる結果により確認された、医師の医療判断に基づいて確立されている。当該データは例えば、臨床試験、細胞学的又は組織学的な技術、内視鏡検査法又は腹腔鏡検査、超音波、CT及びMRIスキャン、胸部X線及びマンモグラフィ、並びに腫瘍マーカー、例えばCEA、Cyfra、CA15−3、インターロイキン8、及び可溶性HER2の濃度測定から得ることができる。好ましくは、腫瘍応答(RE)の決定にはRECIST基準が使用できる(Therasse et al., J. Nat. Cancer Institute. 92 (2000) 205-216)。
【0037】
これらのRECIST基準によると、固形腫瘍に対する腫瘍応答は、腫瘍の進行又は退行の体積(例えばCTにより測定)に依存して4つのレベルに分類される(Therasse, et al. J. Nat. Cancer Institute. 92 (2000) 205-216))。:完全応答 (CR) 又は部分応答 (PR)、安定疾患 (SD) 及び進行性疾患 (PD) (表1参照)。さらに、欧州癌研究治療機構(EORTC) は、2-[18F]-フルオロ- 2 - デオキシグルコース 陽電子発光トモグラフィ(FDG−PET) (Young H., et al., Eur J Cane 35 (1999) 1773-1782 and Kellof, G. J. , et al, Clin Cane Res 11 (2005) 2785- 2808) により測定された腫瘍の代謝作用に依存した4つのレベルの分類を提唱した。: 完全代謝応答(CMR) 又は部分代謝応答(PMR)、安定代謝疾患(SMD)及び進行性代謝疾患(PMD) (表2参照)。
【0038】
【表1】

【0039】
それゆえ、本発明における、応答(RE)及び非応答(NR)は、もっとも好ましくは、上記のRECIST及びFDG−PET基準の両方を用いた、CT及び2-[18F]-フルオロ- 2 - デオキシグルコース 陽電子発光トモグラフィ(FDG−PET) (Kellof, G. J. ., et al, Clin Cane Res 11 (2005) 2785- 2808 and Young H., et al., Eur J Cane 35 (1999) 1773-82) の組み合わせにより得られたデータに基づいて確立されるものである。ゆえに、本発明に係る応答(RE)及び非応答(NR)は以下のように決定される:
【0040】
応答(RE):CR又はPRはCT−RECIST基準により確立され(表1)、CMR又はPMRはFDG−PETにより確立される(表2)。ゆえに、応答(RE)は、CT及びPET測定の組み合わせによる以下の4ケースの1を意味する:CR及びCMR、PR及びPMR、CR及びPMR、PR及びCMR。
【0041】
非応答(NR):SD又はPDはCT−RECIST基準により確立され(表1)、SMD又はPMDはFDG−PETにより確立される(表2)。ゆえに、CT及びPET測定の組み合わせによる以下の4ケースが、非応答(NR)を意味する:SD及びSMD、SD及びPMD、PD及びSMD、並びにPD及びPMD。
【0042】
応答は、通常治療開始後3から8週程度、好ましくは6週程度で決定される。この応答決定は通常4から8週の間隔で、好ましくは6から8週で繰り返される。第一の決定で、有意な応答(RE)が確認されると、その後再発(最初の決定後の非応答(NR)を意味する)は最短でも第二の応答決定で決定付けられる。抗VEGF抗体での治療は、最短でもHER2陽性癌の再発の決定後に開始される。好ましくは、再発したHER2陽性癌に罹患した患者の抗VEGF抗体での治療は、当該抗HER2抗体での治療開始後、最短でも12週、さらに好ましくは15週、一層さらに好ましくは18週後に開始される。好ましい実施形態は、治療されるべき癌が、再発したHER2陽性癌であり、好ましくは再発したHER2陽性の乳癌である。
【0043】
"HER2陽性癌に罹患している患者"なる語は、患者であって、第一の応答決定後に応答(RE)が決定され、且つ第二の又はその後の応答決定において非応答(NR)が決定された者を表す。
【0044】
本明細書において使用する際には、"患者"なる語は、治療すべき癌、前癌状態もしくは病変の治療を必要としているヒトを表す。しかしながら、"患者"なる語は、治療を必要としている、非ヒト動物、とりわけ好ましくはイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、及び非ヒト霊長類の如き哺乳類を表し得る。
【0045】
"群"の語は、患者群並びに患者亜群を表す。
【0046】
本発明は、抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者を治療するための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用を含んでなる。
【0047】
本発明はさらに、抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者の治療のための抗VEGF抗体を含んでなる。抗VEGF抗体は好ましくはベバシズマブであり、それはトラスツズマブで一次単剤治療後に投与されることが望ましい。
【0048】
より好ましい実施態様は、本発明は、抗HER2抗体で治療中に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者を治療するための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用を含んでなる。これは、再発したHER2陽性癌に罹患した患者を治療するための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用であり、HER2陽性癌の再発後、患者に対し当該抗VEGF抗体及び当該抗HER2抗体を共投与することを含んでなる。
【0049】
ゆえに、好適には当該医薬品は、当該抗HER2抗体で治療中の患者に投与されるものである。好ましい実施形態としては、本発明は、抗HER2抗体で一次単剤治療中、再発したHER2陽性癌に罹患した患者の治療のための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用を含んでなる。ゆえに、好ましくは、当該医薬品は、当該抗HER2抗体で一次単剤治療中の患者に対し、投与されるものである。
【0050】
好ましい実施態様としては、本発明は、抗HER2抗体で治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者を治療するための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用を含んでなる。これは、再発したHER2陽性癌に罹患した患者を治療するための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用であり、HER2陽性癌の再発後、患者に対し当該抗VEGF抗体のみを患者に投与することを含んでなる。
【0051】
ゆえに、好適には当該医薬品は、当該抗HER2抗体で治療後の患者に投与されるものである。好ましい実施形態としては、本発明は、抗HER2抗体で一次単剤治療後、再発したHER2陽性癌に罹患した患者の治療のための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用を含んでなる。ゆえに、好ましくは、当該医薬品は、当該抗HER2抗体で一次単剤治療後の患者に対し、投与されるものである。
【0052】
当該抗VEGF抗体は、好ましくはベバシズマブと同じエピトープに結合するものである。
【0053】
当該抗VEGF抗体は、好ましくはベバシズマブである。
【0054】
当該抗HER2抗体は、好ましくはトラスツズマブである。
【0055】
本明細書における"一次治療"は、初期の診断及び/又は外科手術の後に最初に癌又は転移の治療のために与えられるものを表す。これは補助療法的又は新補助療法的な化学療法又は免疫療法であってよい。本明細書における"補助療法的化学療法又は免疫療法"とは、癌再発を阻止する目的の外科手術後の治療を意味し、"新補助療法的化学療法又は免疫療法"とは、腫瘍サイズを縮小させるという考えで、外科手術より先に与えられる治療を意味する。本明細書における"化学療法"とは、癌治療のための化学的もしくは生化学的物質、例えば、5‐フルオルウラシル(5-fluoruracil)の如き細胞障害性薬物、又はトラスツズマブの如きモノクローナル抗体もしくはエルロチニブ(erlotinib)の如きキナーゼ阻害剤でのターゲット療法を表す。
【0056】
本明細書における"一次単剤治療"なる語は、(2又はそれ以上の化学的又は生化学的物質での一次治療を意味する、"一次の組み合わせ治療"なる語と対照的に)単一の化学的もしくは生化学的な物質での、上記の如く定義された一次治療を意味する。
【0057】
好ましい実施形態としては、本発明は該抗VEGF抗体と該HER2抗体を患者に共投与することを含んでなる。
【0058】
"医薬品の製造のための方法"の語は、本明細書で特定された指示での使用、及び特に腫瘍、腫瘍転移、又は一般的な癌の治療においての使用のための医薬品の製造を表す。
【0059】
さらに本発明は、治療的に効果的な量の抗VEGF抗体を患者に投与することを含んでなる、抗HER2抗体での治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者の治療法を含んでなる。好ましい実施形態としては、本発明は抗HER2抗体での治療中に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者の治療法で、HER2陽性癌の再発後、患者に対し当該抗VEGF抗体及び当該抗HER2抗体を共投与することを含んでなる。
【0060】
好ましい実施形態としては、本発明は抗HER2抗体で治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者の治療法で、HER2陽性癌の再発後、患者に対し治療的に効果的な量の当該抗VEGF抗体のみを患者に投与することを含んでなる。
【0061】
本明細書で使われる"治療"なる語は、特にことわりのない場合は、患者における、腫瘍、腫瘍転移、他の発癌性もしくは腫瘍性細胞の増殖の、進行の逆行、軽減、阻害、又は部分的もしくは完全な増殖の阻止を意味する。本明細書で使われる"治療"の語は、特にことわりのない場合は、当該治療の行為を表す。
【0062】
"治療の方法" 又はそれと同意なる語句は、例えば癌に適用したときに、患者における癌細胞の数を減少もしくは除去させるべく、又は癌の症状の軽減のために設計された行為を表す。癌又は他の増殖性の疾患の"治療方法"は、実際に癌細胞もしくは他の疾患が除去され、実際に細胞数もしくは疾患が減少し、又は実際に癌もしくは他の疾患の症状が軽減するであろうことを必ずしも意味している訳ではない。しばしば、癌治療の方法は、成功可能性が低い状態であっても行われ、しかしそれは、医療の歴史及び患者の推定生存確率を鑑みて、それでもなお全体的に有益な行為とみなされる。
【0063】
抗体は患者に対し治療的に効果的な量を投与されることは自明であり、その効果的な量とは、研究者、獣医、医師又は他の臨床医により探求されてきている、組織、器官系、動物又はヒトの生化学的又は医学的応答を誘導するであろう対象の化合物又は組み合わせの量である。
【0064】
抗VEGF抗体の投与量もしくは抗VEGF及び抗HER2抗体の共投与量、又は投与タイミングは、治療される患者のタイプ(種、性、年齢、体重、等)及び状態ならびに治療される病気や状態の重篤度に依存するであろう。通常は、典型的なベバシズマブ及びトラスツズマブの如き抗VEGF抗体及び抗HER2抗体の用量が用いられる。例えば、本発明による抗体の投与のための用量は、1又は複数回の独立した投与、又は連続的点滴で、抗体が約1μg /kg から 50 mg/kg (例えば 0.1-20 mg/kg)であり得る。典型的な日常の用量は、約1μg /kg から約100 mg/kg の範囲であろう。好ましい観点においては、抗体は、2から3週毎に、約1mg/kg から約 15 mg/kgの範囲で投与される。好ましいトラスツズマブの用量は、負荷量として4mg/kg投与され、及びその後の連続的点滴として週に3度の2mg/kg から6mg/kg、好ましくは2mg/kgの投薬が、疾患の進行が確認されるまで施される。好ましいベバシズマブの用量は、静脈点滴として14日毎に1度、5mg/kg から 15mg/kg、好ましくは5mg/kg から 10 mg/kgである。
【0065】
"抗HER2抗体で治療中"なる語は、抗HER2抗体と投与される抗VEGF抗体の"共投与"を表す。"共投与"は、同時か連続的のいずれかで抗HER2抗体に加えて抗VEGF抗体が投与されることを意味する。共投与は、同時又はいずれの順序で連続的でも可能であるが、ここで、両方の(又は全ての)活性剤がそれらの生化学的活性を同時に発揮する期間があることが好ましい。両抗体が同時に投与される場合は、用量は1回の投与で同日に、例えば1回の連続的な点滴で投与される。両抗体が連続的に投与される場合は、用量は2回の独立した投与で同日に、例えば2の独立した連続的な点滴がなされるか、又は当該抗体の1種が1日目に投与され第2抗体が2日目から7日目、好ましくは2日目から4日目に投与される。抗VEGF抗体及び抗HER2抗体の維持量に関しての"共投与"なる語は以下のことを意味している。即ち、治療サイクルが両抗体にとって適切であれば、維持量が同時に投与される例えば1回の連続的な点滴か、または維持量が連続的に投与される例えば1日か数日以内のどちらかで、例えば抗HER2抗体の維持量が3週ごとに投与され抗VEGF抗体の維持量が2週間ごとに投与される、のいずれでもよい。他の治療サイクル、通常1から4週、好ましくは2から3週、も両抗体に使用し得る。
【0066】
"抗HER2抗体で治療後"なる語は、抗VEGF抗体の投与であって、それが抗HER2抗体での治療が中断した後に投与されるものを表す。
【0067】
好ましい実施形態においては、当該医薬品は患者における転移の低減、当該患者の生存期間の延長、当該患者の無増悪生存率の上昇、応答期間の延長のために有用であり、生存期間、無増悪生存率、応答率、又は応答期間により測定された、治療された患者の統計的に有意でかつ臨床的に意義ある進歩をもたらす。好ましい実施形態においては、当該医薬品はある患者群において応答率の上昇に有用である。
【0068】
好ましい実施形態においては、当該医薬品は、当該抗VEGF抗体、好適にはベバシズマブと抗HER2抗体、好適にはトラスツズマブの患者への共投与により、抗HER2抗体で治療中に再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の低減に有用である。
【0069】
好ましい実施形態においては、本発明は、抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の予防又は低減のための医薬品の製造のための抗VEGF抗体の使用を含んでなる。
【0070】
さらなる実施形態は、抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の予防又は低減のための医薬品の製造のための抗VEGF抗体である。当該抗VEGF抗体は、好ましくはベバシズマブであり、それは好適にはトラスツズマブで一次単剤治療の後に投与される。
【0071】
好ましい実施形態においては、本発明は、抗HER2抗体で治療中に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の予防又は低減のための医薬品の製造のための抗VEGF抗体の使用を含んでなる。
【0072】
ゆえに、好適には当該医薬品は、当該抗HER2抗体で治療中に投与される。
【0073】
好ましい実施形態においては、本発明は、抗HER2抗体での一次単剤治療中に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の予防又は低減のための医薬品の製造のための抗VEGF抗体の使用を含んでなる。
【0074】
ゆえに、好適には当該医薬品は、当該抗HER2抗体で一次単剤治療中に投与される。
【0075】
好ましい実施形態においては、本発明は、抗HER2抗体で治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の予防又は低減のための医薬品の製造のための抗VEGF抗体の使用を含んでなる。
【0076】
ゆえに、好適には当該医薬品は、当該抗HER2抗体で治療後に投与される。
【0077】
好ましい実施形態においては、本発明は、抗HER2抗体で一次単剤治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者において、転移の予防又は低減のための医薬品の製造のための抗VEGF抗体の使用を含んでなる。
【0078】
ゆえに、好適には当該医薬品は、当該抗HER2抗体で一次単剤治療後に投与される。
【0079】
本発明における"転移"なる語は、患者において、原発性腫瘍からどこか他の1又は複数の部位への癌性細胞の伝播を表す。癌が転移したかを決定する方法は、当業界で既知であり、骨スキャン、胸部X線、CATスキャン、MRIスキャン、及び腫瘍マーカーテストが含まれる。
【0080】
"転移予防のための医薬品"又は"転移低減のための医薬品"なる語は、本明細書中で、患者において、原発性腫瘍から他の1又は複数の部位への癌性細胞のさらなる伝播を阻害又は低減するように、再発したHER2陽性癌に罹患した患者における転移に対して予防する薬剤としての医薬品の使用を意味する。これは、原発性、転移性腫瘍又は癌の転移が阻止され、遅らせられ、又は抑制されることを意味する。好ましくは、肝臓の転移が予防又は低減され、それは原発性腫瘍から肝臓への癌性細胞の転移性伝播が予防又は低減されることを意味する。
【0081】
本発明との関係において、抗HER2抗体と抗VEGF抗体の組み合わせ治療において、又は先の治療、好ましくは抗HER2抗体による先の一次単剤治療の失敗後の抗VEGF抗体治療において(即ち一次トラスツズマブ単剤治療で治療後に再発したHER2陽性癌に罹患した患者において)、追加的な他の細胞障害性、化学療法性、又は抗癌性の薬剤又は化合物でこれらの薬剤の効果を高めるものを使用し得る。抗HER2抗体を加えた抗VEGF抗体の組み合わせ治療又は抗VEGF抗体治療は、好ましくは、当該薬剤の効果を高める追加的な細胞障害性の化学療法的な又は抗癌性の薬剤又は化合物なしで使用される。
【0082】
当該薬剤は、例えば、アルキル化剤又はアルキル化作用を持つ剤、例えばシクロホスファミド(CTX;例えばcytoxan(登録商標))、クロラムブシル(CHL;例えばleukeran(登録商標))、シスプラチン(CisP;例えばplatinol(登録商標))、ブスルファン(例えばmyleran(登録商標))、メルファラン、カルムスチン(BCNU)、ストレプトゾトシン、トリエチレンメラミン(TEM)、マイトマイシンC等;代謝拮抗剤、例えばメトトレキサート(MTX)、エトポシド(VP16;例えばvepesid(登録商標))、6‐メルカプトプリン(6MP)、6‐チオクアニン (6TG)、シタラビン(Ara−C)、5‐フルオロウラシル(5−FU)、カペシタビン(例えばXeloda(登録商標))、ダカルバジン(DTIC)等、抗生物質、例えばアクチノマイシンD、ドキソルビシン(DXR;例えばadriamycin(登録商標))、ダウノルビシン(ダウノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン等;アルカロイド、例えばビンクリスチン(VCR)、ビンブラスチンの如きビンカアルカロイド、その他の抗腫瘍剤、例えばパクリタキセル(例えばtaxol(登録商標))及びパクリタキセル誘導体、細胞増殖抑制性剤、デキサメタゾン(DEX;例えばdecadron(登録商標))の如きグルココルチコイド、プレドニゾンの如きコルチコステロイド、ヒドロキシウレアの如きヌクレオシド酵素阻害剤、アスパラギナーゼ、ロイコボリン及びその他の葉酸誘導体の如きアミノ酸枯渇酵素、及び同様の多種多様な抗腫瘍剤を含む。下記薬剤も追加的薬剤として使い得る:アルニフォスチン(arnifostine (例えばethyol(登録商標))、ダクチノマイシン、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシンリポ(例えばdoxil(登録商標))、ゲムシタビン(例えばgemzar(登録商標))、ダウノルビシンリポ(例えばdaunoxome(登録商標))、プロカルバジン、マイトマイシン、ドセタキセル(例えばtaxotere(登録商標))、アルデスロイキン、カルボプラチン、オキサリプラチン、クラドリピン、カンプトセシン、CPT 11(イリノテカン)、10‐ヒドロキシ 7‐エチル‐カンプトセシン(SN38)、フロクスウリジン、フルダラビン、イホスファミド、イダルビシン、メスナ、インターフェロンベータ、インターフェロンアルファ、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパルガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、タモキシフェン、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル。好ましくは、抗HER2抗体と抗VEGF抗体の組み合わせ治療又は抗VEGF抗体治療は、これら追加的な薬剤又は化合物なしで使用される。
【0083】
本発明との関係において、抗HER2抗体と抗VEGF抗体の組み合わせ治療において、又は先の治療、好ましくは抗HER2抗体による先の一次単剤治療の失敗後の抗VEGF抗体治療において(即ち一次トラスツズマブ単剤治療で治療後に再発したHER2陽性癌に罹患した患者において)、抗ホルモン剤を使用し得る。本明細書中では、"抗ホルモン剤"なる語は、腫瘍に対するホルモン作用を、調節又は阻害するよう作用する、天然又は合成有機又はペプチド化合物を含む。抗ホルモン剤は、例えば:ステロイドレセプターアンタゴニスト、タモキシフェンの如き抗エストロゲン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性 4(5)−イミダゾール、他のアロマターゼ阻害剤、42‐ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY 117018、オナプリストン(onapristone)、及びトレミフェン(Farestpm(登録商標));抗アンドロゲン、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド、及びゴセレリン;医学的に許容可能な塩、酸、又は上記の任意の誘導体;糖タンパク質ホルモンのアゴニスト 及び/又は アンタゴニスト、例えば卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン、及びLHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン);LHRHアゴニストコセレリン酢酸塩、市販のZoladex(登録商標)(AstraZeneca);LHRHアンタゴニスト D−アラニンアミド N−アセチル-3-(2-ナフタルエチル) - D-アラニル-4-クロロ-D-フェニルアラニル-3-(3-ピリジニル)-D-アラニル-L-セリル-N6-(3-ピリジニルカルボニル)-L-リシル-N6-(3-ピリジニル-カルボニル)-D-リシル-L-ロイシル-N6-(l-メチルエチル)-L-リシル-L-プロリン(例えばAntide(登録商標)、Ares−Serono);LHRHアンタゴニストガニレリクス酢酸塩;ステロイド性抗アンドロゲン シプロテロン酢酸エステル(CPA)、メゲストロール酢酸エステル、市販のMegace(登録商標)(Bristol−Myers OncoloGy);非ステロイド性抗アンドロゲンフルタミド(2-メチル-N-[4.20-ニトロ-3-(トリフルオロメチル)フェニルプロパンアミド)、市販のEulexin(登録商標)(Schering Corp);非ステロイド性抗アンドロゲンニルタミド、(5,5-ジメチル-3-[4- ニトロ-3-(トリフルオロメチル-4’-ニトロフェニル)-4,4-ジメチル-イミダゾリジン-ジオン);及びその他の非許容性レセプター(non−permissive receptors)、例えばRAR(レチノイン酸レセプター)アンタゴニスト、RXR(レチノイドXレセプター)、TR(甲状腺レセプター)、VDR(ビタミン-Dレセプター)等。好ましくは、抗HER2抗体を加えた抗VEGF抗体の組み合わせ治療又は抗VEGF抗体治療は、当該追加的な抗ホルモン剤なしで使用される。
【0084】
化学的療法における、上記の細胞障害性又はその他の抗癌剤の使用は、癌治療業界において一般的に十分に特徴付けられており、ここでのそれらの使用は、寛容や効果のモニタリング及び投与の経路や投与量のコントロールと同様に、若干の調整を伴って検討される。例えば、細胞障害性薬剤の実際の投与量は、組織培養法(histoculture methods)を使用することにより決定された、その患者の培養細胞の応答に依存して変化し得る。一般的に、投与量は、追加的な他の薬剤がない場合に使用される量と比較して低減されるであろう。
【0085】
効果的な細胞障害性薬剤の典型的な投与量は、メーカーによる推奨範囲であり得、in vitro応答又は動物モデルでの応答によって示される場合、濃度又は量を最大で約10分の1まで減少させることができる。ゆえに、実際の投与量は、医師の判断、患者の状態、及び初期の培養された悪性細胞もしくは組織培養された(histocultured)組織サンプルのin vitro応答性、又は適切な動物モデルにおいて観察された応答に基づいた治療方法の有効性に依存するであろう。
【0086】
本発明との関係において、抗HER2抗体と抗VEGF抗体の組み合わせ治療において、又は先の治療、好ましくは抗HER2抗体による先の一次単剤治療の失敗後の抗VEGF抗体治療において(即ち一次トラスツズマブ単剤治療で治療後に再発したHER2陽性癌に罹患した患者において)追加的な抗増殖剤を使用し得る。例えば:酵素,ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼの阻害剤及びレセプター,チロシンキナーゼPDGFRの阻害剤、米国特許 第6,080,769号, 第6,194,438号, 第6,258,824号, 第6,586,447号, 第6,071,935号, 第6,495,564号, 第6,150,377号, 第6,596,735号, 第6,479,513号, 及び国際特許公開公報 WO 01/40217に開示され請求の範囲に記載されている化合物を含む。好ましくは、抗HER2抗体を加えた抗VEGF抗体の組み合わせ治療又は抗VEGF抗体治療は、当該追加的な抗増殖剤なしで使用される。
【0087】
本発明との関係において、抗HER2抗体と抗VEGF抗体の組み合わせ治療において、又は先の治療、好ましくは抗HER2抗体による先の一次単剤治療の失敗後の抗VEGF抗体治療において(即ち再発したHER2陽性癌に罹患した患者において)、追加して、有効量の電離放射線が照射され及び/又は放射性医薬品が使われ得る。放射線源は、治療される患者に対し外部的か内部的のいずれかであり得る。線源が患者に対して外部的である場合は、当該治療は外照射療法(EBRT)として知られている。線源が患者に対して内部的である場合は、当該治療は近接照射療法(BT)と呼ばれる。本発明との関係において使用される放射性原子は、ラジウム、セシウム-137、イリジウム-192、アメリシウム-241、金-198、コバルト-57、銅-67、テクネチウム-99、ヨウ素-123、ヨウ素-131、及びヨウ素-111からなる群から選択されるが、必ずしもそれらに限定されない。本発明によるEGFRキナーゼ阻害剤が抗体である場合、当該放射性同位体で該抗体をラベルすることもできる。好ましくは、抗HER2抗体を加えた抗VEGF抗体の組み合わせ治療又は抗VEGF抗体治療は、当該電離放射線なしで使用される。
【0088】
放射線治療は、切除不能な又は手術不能な腫瘍及び/又は腫瘍転移を制御するための標準的な治療である。放射線治療が化学療法と組み合わされる場合は、改善された結果が得られている。放射線治療は、標的領域に投射された高線量放射線が、腫瘍と正常組織の両方において増殖細胞を死に至らしめるという原理に基づいている。放射線量療法は、一般的に、放射線吸収線量(Gy)、時間及び分割法の観点で定義され、腫瘍学者によって慎重に定義されるべきものである。患者が受ける照射量は、多種多様な考慮に基づくが、2つの最も重要なことは、身体の他の臨界的構造体や器官との関係における腫瘍の所在と、どの程度まで腫瘍が広がっているかということである。放射線治療中の患者のための治療の典型的な過程は、治療スケジュールが1から6週間に渡り、患者に対して1週間に5日、1日あたり約1.8から2.0Gyの単回照射で、全照射量が10から80Gyの間となる。本発明の好ましい実施形態においては、ヒトの患者における腫瘍が本発明及び放射線療法の組み合わせ治療で治療される場合に相乗効果がある。言い換えれば、本発明の組み合わせ又は単独治療を含んでなる薬剤による腫瘍増殖の阻害が向上するのは、放射線治療、随意に追加的な化学療法又は抗癌剤と組み合わせた場合である。補助的な放射線治療のパラメータは、例えば国際特許公開公報 WO 99/60023に記載されている。
【0089】
当該抗体は、既知の手法に従い、ボーラス投与としての静脈注射により、又は一定時間の連続的な点滴により、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内(intracerobrospinal)、皮下、関節内、滑液内、クモ膜下腔内による経路により患者に投与される。抗体の静脈内又は皮下投与が好ましい。
【0090】
本発明はさらに、容器、抗VEGF抗体を含んでなるその容器に入った組成物、及び抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者に当該抗VEGF抗体を投与するようにその組成物の使用者に指示する包装インサートを含んでなる、製品を提供する。
【0091】
"包装インサート"なる語は、治療用製品の商品包装に習慣的に含まれ、指示、使用法、用量、投与、禁忌及び/又は当該治療用成否の使用に関する警告についての情報を含み得る使用書を表す。
【0092】
好ましい実施形態としては、製品は医学的に許容されるキャリアをさらに含んでなる。製品はさらに殺菌した希釈剤を含むことができ、それは好ましくは分けられた付加的な容器に貯蔵される。
【0093】
本明細書中で使用される、"医学的に許容されるキャリア"は、医学的な投与において適合する任意の及び全ての物質であって、溶媒、分散媒、被覆剤、防菌防黴剤、等張吸収遅延剤(isotonic and absorption delaying agents)、並びに医学的な投与において適合する他の物質及び化合物を含むものを意味している。任意の慣習的な媒体又は薬剤が活性化合物と非適合である場合を除いて、本発明の組成物中におけるそれらの使用は検討される。補助的な活性化合物も、当該組成物に組み込まれ得る。
【0094】
下記の実施例及び図は本発明の理解の補助として提供され、真の範囲は添付の請求の範囲において説明している。本発明の精神から逸脱しない限り、説明された手法における変更は許容され得る。
【実施例】
【0095】
序論
本研究は、ヒト胸部異種移植モデルにおいてトラスツズマブ単独治療の失敗の後に、a)トラスツズマブ及びベバシズマブの組み合わせ、ならびに、b)ベバシズマブ単独治療の抗腫瘍活性を調べた。
本研究のさらなる目的は、転移における治療の効果を調べることであった。
【0096】
試験試薬
トラスツズマブを、ヒスチジン-塩酸、α‐αトレハロース(6O mM)、0.01% ポリソルブ(Polysorb),pH 6.0中に25 mg/ml 原液として用意した(Herceptin(登録商標))。ベバシズマブを、リン酸Na、α‐αトレハロース(6O mM)、0.01% ポリソルブ(Polysorb), pH 6.0中に25 mg/ml 原液として用意した(Avastin(登録商標))。両溶液は注入のためにPBSで適切に希釈した。
【0097】
細胞系及び培養条件
ヒト乳癌細胞系KPL−4は、炎症性皮膚転移を伴う乳癌患者の悪性胸水から樹立され、ErbBファミリーレセプターを過剰発現させる(Kurebayashi et al., Br. J. Cancer 79 (1999) 707-17)。腫瘍細胞は、10 %ウシ胎児血清(PAA)及び2 mM L-グルタミン (Gibco)を添加したDMEM培地 (PAA Laboratories,Austria)、で5% CO2の水飽和雰囲気下37℃で定法にて培養した。
継代培養は、2回/週で分割しながらトリプシン/EDTA 1×(PAA)で行い、第6代継代細胞をin vivo研究に使用した。
【0098】
動物
ベージュのSCIDマウス(C.B.−17);10−12週齢、体重18−20g(Charles River, Sulzfeld, Germany)は、国際基準により12h 明/12h 暗の1日サイクルで(GV- Solas; Felasa; TierschG)、特定病原体フリー状態で維持する。到着後、動物は新環境に順応させるため、また観察のために動物施設の隔離した部分において1週間飼育される。継続的な健康モニタリングが定期的に行われる。飼料(Alltromin)及び水(pH 2.5−3に酸性化した)は適宜与えた。
【0099】
in vivoでの腫瘍増殖阻害研究
腫瘍細胞は培養フラスコ(Greiner TriFlask)から回収し(trypsin−EDTA)、50 ml培養培地に移し、PBS中で一度洗浄して再懸濁した。PBSでの追加的な洗浄ステップとろ過(セル ストレイナー; ファルコン lOOμm)の後に、最終細胞濃度を0.75 × 108 / mlとした。腫瘍細胞懸濁物を、細胞凝集を回避するため慎重にホールピペットで混合した。事前保温したチャンバー(plexiglas)内で小動物用のStephens吸入装置を用い、個別のマウスノウズマスク(シリコン)とイソフルラン(Pharmacia-Upjohn, Germany)を用い、閉鎖循環システム内で麻酔を施した。注入の2日前に当該動物を剪毛した。乳腺上皮脂肪帯(i. m.f.p.)注入により、細胞を、個々の麻酔されたマウスの右鼠径部の乳腺脂肪帯から2番目の位置に20 μl、正所性注入した。正所性移植のために、細胞懸濁物を乳首の下の皮膚を通して注入した。腫瘍細胞注入が実験の第1日目に対応する。
【0100】
モニタリング
動物を、副作用の臨床的症状検出のため、日々コントロールした。本実験を通してモニタリングのために、動物の体重を週2回記録し、腫瘍体積をノギスで週2回測定した。原発性腫瘍体積は、NCIプロトコールにより計算した(TV = l/2ab2, ここでaとbはmmで表示する腫瘍サイズの長径と短径, Teicher, B., Anticancer drug development guide, Humana Press, 5, (1997) 92)。計算値は平均と標準偏差として記録した。
【0101】
動物の治療
腫瘍体積がおよそ100 mm3の腫瘍保持マウスを無作為抽出した(各々の群 n=10)。治療前の各群は密接にマッチングしており、細胞注入後27日に治療開始を行った。A群:媒体群−週1回、腹腔内(i.p.)10 ml/kg PBSバッファを与えた。B群:i.p.にトラスツズマブを、負荷量として30 mg/kg投与後、維持量として週1回 15 mg/kg投与した。60日目にB群の動物はさらなる3つの群、B’、C及びDに分けられた。トラスツズマブ単独での治療を、週1回、15 mg/kg(維持用量)でB'群にのみ続けた。C群:61日目に、C群の治療はトラスツズマブ (15 mg/kg 週1回、i.p.)とベバシズマブ(5 mg/kg 週2回、i.p.)の組み合わせ治療に転換した。D群:61日目に、D群の治療は、トラスツズマブ治療を中断し、ベバシズマブ単剤治療(5 mg/kg 週2回、i.p.)に転換した。
【0102】
転移の評価
犠牲にした動物における、腫瘍細胞の肺に至る転移の拡散を測定した。転移は、Schneider, T., et al., Clin. Exp. Metas. 19 (2002) 571- 582 に従って測定した。簡潔に言うと、肺組織を培養し、ヒトAlu配列をリアルタイムPCRで定量した。リアルタイムPCRで定量したヒトDNAレベルの高さが、転移レベルの高さと一致する。
【0103】
結果
原発性腫瘍増殖における治療効果を、図1及び表1に示す。媒体群(A群)における腫瘍は急速に増殖し、マウスは腫瘍細胞注入後73日で、腫瘍の潰瘍及び臨床的症状の進行により死亡した。トラスツズマブでの治療(B群)は腫瘍増殖を明らかに抑制している;しかし、腫瘍は50日あたりから再増殖している。61日目に開始した、トラスツズマブとベバシズマブの組み合わせ治療への変更(C群)及びベバシズマブ単剤治療への転換(D群)は、両方ともに、実験期間(112日)中の腫瘍増殖を完全に阻害し、治療はよく許容された。
【0104】
【表2】

【0105】
肝転移の治療効果を図2及び表2に示す。トラスツズマブ治療失敗後のトラスツズマブとベバシズマブの組み合わせは、転移の顕著な減少をもたらした。ヒトAlu配列のレベル(第2組織への腫瘍細胞の侵襲と一致する)は、73日目に犠牲にされた媒体で治療された動物と比較して、61日目から開始した31日間の組み合わせ治療で治療した動物において明らかに低い。トラスツズマブ又はベバシズマブの単剤治療で治療された動物で、それぞれ83日目又は112日目に犠牲にされた動物においても、転移は抑制されていた。転移に対するこの驚くべき効果は、細胞障害性薬剤で観察される効果とは大きく異なる(Geldof et al., Anticancer Res. 8 (1988) 1335-40, Murphy, J., Clin. Oncol. 11 (1993) 199-201, and De Larco et al., Cancer Res. 61 (2001) 2857-61)。
【0106】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者を治療するための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用。
【請求項2】
当該医薬品が抗HER2抗体で治療中の患者に投与されることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
当該医薬品が抗HER2抗体で一次単剤治療中の患者に投与されることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項4】
当該医薬品が抗HER2抗体で治療後の患者に投与されることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項5】
当該医薬品が抗HER2抗体で一次単剤治療後の患者に投与されることを特徴とする請求項4記載の使用。
【請求項6】
当抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者であって、再発を防止又は低減させるための医薬品の製造のための、抗VEGF抗体の使用。
【請求項7】
当該医薬品が抗HER2抗体で治療中の患者に投与されることを特徴とする請求項6記載の使用。
【請求項8】
当該医薬品が抗HER2抗体で一次単剤治療中の患者に投与されることを特徴とする請求項7記載の使用。
【請求項9】
当該医薬品が抗HER2抗体で治療後に投与されることを特徴とする請求項6記載の使用。
【請求項10】
当該医薬品が抗HER2抗体で一次単剤治療後に投与されることを特徴とする請求項9記載の使用。
【請求項11】
当該抗VEGF抗体が、ベバシズマブであるという点で特徴付けられる請求項1から10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
当該抗HER2抗体が、トラスツズマブであるという点で特徴付けられる請求項1から11のいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者を治療するための抗VEGF抗体。
【請求項14】
抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者における転移を防止又は低減させるための抗VEGF抗体。
【請求項15】
請求項13又は請求項14記載の抗VEGF抗体がベバシズマブであり、それがトラスツズマブでの一次単剤治療後に投与される、抗VEGF抗体。
【請求項16】
容器、抗VEGF抗体を含んでなるその容器に入った組成物、及び抗HER2抗体で治療中又は治療後に、再発したHER2陽性癌に罹患した患者に当該抗VEGF抗体を投与するようにその組成物の使用者に指示する包装インサートを含んでなることを特徴とする製品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−501498(P2010−501498A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524943(P2009−524943)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007276
【国際公開番号】WO2008/022746
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】