説明

折板屋根の緑化工法および緑化設備

【課題】取付金具が要らず、簡単に迅速に施工することができ、施工費用が安くつく折板屋根の緑化工法および緑化設備を提供する。また、排水性および保水性に優れ、耐久性に優れた、折板屋根の緑化工法および緑化設備を提供する。
【解決手段】建物6の桁材7上の折板屋根1の各谷部2の軒先8側に逆台形状の吸出し防止材11を固着し、吸出し防止材11の内側と前記折板屋根1の各谷部2とで区画される収容空間Sを栽培ポットとみなして、同収容空間Sに軽石12、炭14、排水性軽量土16の各材料を順に敷き均して、軽石層13、炭層15、排水性軽量土層17を順に形成し、表層の排水性軽量土層17に植物18を植栽する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折板屋根に緑化設備を容易に施工できる緑化工法と、同工法により施工された緑化設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市のヒートアイランド現象、温暖化対策、あるいは建物の断熱性向上、景観の向上等を目的として、ビルやマンション等の屋上や家屋等の屋根に設置される緑化設備が普及している。
【0003】
従来の屋上の緑化設備としては、軽量土を用いる屋上庭園タイプと、薄層の緑化基板を用いる緑化基板タイプ等が知られている。いずれのタイプも植物の根対策のため、屋上の防水層の上に防根シートを敷設しその上に軽量土を敷き均しあるいは緑化基板を敷き並べるようにしている。後者の緑化基板タイプは、屋上庭園タイプに比較し、軽量であること、排水性および保水性に優れること、施工性に優れること等から、近年、注目を浴びている。
【0004】
後者の緑化基板タイプとしては、セダムなどを植生させた植生マットを用いるもの(特許文献1)や、軽量シラス基盤と芝草類または苔類とを組合わせた緑化軽量シラス基盤(特許文献2)等が知られている。さらに、折板屋根構造において、緑化トレーに植物を植栽し、固定金物で緑化トレーを折板屋根に固定するようにしたもの(特許文献3)等が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−225016号公報
【特許文献2】特開2003−245012号公報
【特許文献3】特開2007−332766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、緑化基板タイプのものは、平らな植生マットや緑化軽量シラス基盤を使用するため、平らな屋上や屋根に対しては直に取付けできるものの、谷部と山部が連続する折板屋根に対しては、そのまま直に取付けできない。折板屋根に対しては、特許文献3に示すように、浅底のトレーに植栽し、同トレーを折板屋根の山部間に縦横に並べて各トレーを取付け金具で折板屋根に取り付けるようにした工法が知られているが、この工法の場合、多数のトレーや取付け金具を用意する必要があり、施工費用が高くつき、また、メンテナンス費用も高くなるという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、取付金具が要らず、簡単に迅速に施工することができ、施工費用が安くつく折板屋根の緑化工法および緑化設備を提供することを目的とする。また、排水性および保水性に優れ、耐久性に優れた、折板屋根の緑化工法および緑化設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る請求項1記載の折板屋根の緑化工法は、建物の折板屋根の各谷部の軒先側に逆台形状の吸出し防止材を固着し、吸出し防止材の内側と前記折板屋根の各谷部とで区画される収容空間を栽培ポットとみなして、同収容空間に軽石、炭、排水性軽量土の各材料を順に敷き均して、軽石層、炭層、排水性軽量土層を順に形成し、表層の排水性軽量土層に植物を植栽してなる、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る請求項1記載の折板屋根の緑化工法によると、折板屋根の谷部を栽培ポットとして利用することにより、折板屋根の上に簡単にかつ迅速に緑化設備を施工できる。折板屋根の谷部を栽培ポットとして利用し、表層の排水性軽量土層に植物を植栽するから、植栽マット、緑化基板の施工のように専用の取付金具が要らず、施工費用を安くできる。
【0010】
折板屋根の各谷部の軒先側に逆台形状の吸出し防止材を固着したから、折板屋根の上に降った雨水のうち、排水性軽量土層、炭層、軽石層で保水された以外の余分の雨水は軒先へ向け速やかに排出される。一方、折板屋根の谷部に敷き均された軽石、炭、排水性土壌の各材料は流出が防止される。最下層の軽石層は、空隙が多く保水性に優れ、折板屋根の上に降った雨水の保水性を良好にする。したがって、折板屋根の上に降った雨水が軒先を経て側溝や河川に一気に流れ込むのが防止される。雨水を長期間保水するので、植栽した植物の管理メンテナンスを容易にできる。
【0011】
また、最下層の軽石層は、排水性軽量土層に植栽した植物の根の先端が下に延びて折板屋根を貫通しその下側へ侵入するのを有効に防ぐ。排水性軽量土層に植栽した植物はその根が下方に成長するが、根の先端は最下層の軽石層の表面にぶつかり側方に曲がるか、軽石の表面の空隙に進入し、そこから内部の空隙に沿って曲進し多くは側方へ向け成長する。
【0012】
中間層に炭層を形成したので、中間層の炭の作用により表層の排水性軽量土層に降った雨水が清浄化され、雨水が泥水となって谷部から流出される事態が防止される。炭としては、木炭、竹炭等がある。また、中間層の炭層は、炭が酸性を中和させる作用があるので、酸性雨害による金属製の折板屋根の錆・腐食の発生を抑制し、また防止する効果を発揮し、折板屋根の耐久性を向上させる。さらに、炭層と軽石層の二層によって、植物の根が折板屋根1の谷部の底面に進展するのを抑制できる。
【0013】
表層の排水性軽量土層は、折板屋根の上に降った雨水を保水し、それ以外の雨水を炭層、軽石層、吸出し防止材を介して速やかに排水する。また、普通土に較べて軽量であり、強度の低い既存の建物屋根にも施工できる。また、軽石層、炭層も比較的軽量であるから、全体として緑化設備の軽量化が実現される。排水性軽量土としては、無機質系、有機質系、有機無機混合系の人工軽量土があり、有機質系の人工軽量土としては、例えば、商品名ルーフソイル等が挙げられる。
【0014】
排水性軽量土層に植栽される植物としては、比較的乾燥に強いセダム系等が用いられる。例えば、メキシコマンネン草、キリン草、ベンケイ草等が用いられる。
【0015】
本発明に係る請求項2記載の折板屋根の緑化工法は、軽石層を形成する軽石の平均粒径が20mm〜50mmであり、炭層を形成する炭の平均の角寸又は外径が20mm〜50mmであることを特徴とする。折板屋根の谷部は通常150mm程度の高さを有する。平均粒径20mm〜50mmの軽石を混合して軽石層とし、また、平均の角寸又は外径が20mm〜50mmの炭を混合して炭層とすることで、主として軽石層による雨水の保水性の効果、炭層による泥水の流出防止の効果をバランスよく発揮させることができる。
【0016】
本発明に係る請求項3記載の折板屋根の緑化工法は、前記排水性軽量土層を形成する排水性軽量土が、比重0.3〜0.8kg/l、空隙率30〜50%の、団粒構造からなることを特徴とする。折板屋根に降った雨水の排水性および保水性の両効果を発揮させることができる。
【0017】
本発明に係る請求項4記載の折板屋根の緑化工法は、前記吸出し防止材が、天然繊維を主材料とし、目付量300g/m〜600g/mであることを特徴とする。逆台形状に成形しやすく、また、軽量で、折板屋根の谷部にシール状態に容易に固着しやすくなる。
【0018】
本発明に係る請求項5記載の折板屋根の緑化設備は、建物の折板屋根の各谷部の軒先側に逆台形状の吸出し防止材が固着され、吸出し防止材の内側と前記折板屋根の各谷部とで区画される収容空間を栽培ポットとみなして、同収容空間に軽石、炭、排水性軽量土の各材料が順に敷き詰められて、軽石層、炭層、排水性軽量土層が順に形成され、表層の排水性軽量土層に植物が植栽されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る折板屋根の緑化工法によると、折板屋根の谷部を栽培ポットとして利用することにより、折板屋根の上に簡単にかつ迅速に緑化設備を施工でき、従来の植栽マット、緑化基板の施工のように専用の取付金具が要らず、施工費用およびメンテナンス費用を安くできる。軽量であるから、既存建物屋根への施工も容易である。また、保水性に優れ、雨水を長期間保持し、雨水が一気に側溝や河川に流れ込むことを防ぐ一方、植栽した植物の管理メンテナンスを容易にできる。また、降雨による泥水の流出のおそれについては、中間層の炭層による泥水の浄化によって、その流出を防ぐことができる。さらには、中間層の炭層は、炭の中和作用によって、酸性雨害により金属製の折板屋根に発生する錆・腐食を抑制し、防止する効果を発揮し、折板屋根の耐久性を向上させるという効果を奏する。その他、本発明によって、折板屋根の断熱効果・水分の蒸散効果が得られ、建物内の温度の上昇を抑制し、COの吸収といった効果も得られる。
【0020】
また、本発明の緑化設備によると、上記の各種の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の緑化工法によって施工された折板屋根の緑化設備を示すもので、同図において、符号1は折板屋根、符号10は緑化設備を示している。
【0022】
まず、折板屋根1について説明すると、折板屋根1は、図1に示すように、谷部2を有する金属製の隣接する折板構成材3,3どうしが山部4において、シール状態にボルト5によって接合されて、谷部2および山部4が連続的に形成されている。かかる折板屋根1は、図2に示すように、建物6の桁材7の上に架設された状態で、軒先8に向けて排水用の下り勾配が設けられている。谷部2の高さは通常150mm程度有する。
【0023】
次に、折板屋根1の緑化設備10(以下、「緑化設備」と称する)について説明すると、折板屋根1の各谷部2の軒先8側に、予め逆台形状に成形された吸出し防止材11がシール状態に接着剤で固着されている。吸出し防止材11は、折板屋根1の上に降った雨水のうち、図2に示す排水性軽量土層17、木炭層15、軽石層13で保水された分以外の余分の雨水を軒先8へ向け速やかに排出する一方、折板屋根1の谷部2に敷き均した軽石12、木炭14、排水性軽量土16の各材料の流出を防止する機能を果たす。かかる吸出し防止材11は、椰子繊維等の天然繊維を主材料とし、目付量は300g/m〜600g/m間から選択される。
【0024】
折板屋根1の各谷部2には、吸出し防止材11の内側と折板屋根1の各谷部2とで区画される収容空間Sを栽培ポットとみなして、同収容空間Sに軽石12、木炭14、排水性軽量土16の各材料を順に敷き均して、最下層に軽石層13、中間層に木炭層15、表層に排水性軽量土層17がそれぞれ形成されている。
【0025】
最下層の軽石層13は、平均粒径20mm〜50mmの軽石12を混合して高さ約20mm〜50mmに形成される。軽石12は、空隙が多く保水性に優れ、軽石層13全体で折板屋根1の上に降った雨水の保水性を良好にし、高度の保水性により、折板屋根1の上に降った雨水が軒先8を経て建物外の側溝や河川に一気に流れ込むのを防止する。軽石層13に雨水を長期間保水するので、排水性軽量土層17に植栽した植物の管理メンテナンスを容易にする。さらに、軽石層13は、排水性軽量土層17に植栽した植物18の根19の先端が下に延びて折板屋根1を貫通しその下側へ侵入するのを防ぐ。
【0026】
中間層の木炭層15は、平均の角寸又は外径が20mm〜50mmの木炭14を混合して高さ約20mm〜50mmに形成される。最下層の軽石層13と中間層の木炭層15とを合わせた高さは約70mmに調整される。木炭14は、雨水を浄化させる作用があり、降雨により排水性軽量土層17から生じる泥水を木炭層15で浄化し、木炭層15全体で泥水の流出を防止する。また、木炭層15は、軽石層13と同様に、雨水を保水するので、木炭層15と軽石層13で雨水の保水作用と泥水の流出防止作用をバランスよく発揮させることができる。
【0027】
表層の排水性軽量土層17は、比重0.3〜0.8kg/l、空隙率30〜50%の団粒構造からなる排水性軽量土16を高さ約80mmに敷いたもので、排水性および保水性の両方を兼ね備える。排水性軽量土16としては、無機質系、有機質系、有機無機混合系の人工軽量土があるが、有機質系の人工軽量土としては、例えば、商品名ルーフソイル等が用いられる。
【0028】
表層の排水性軽量土層17には、谷部2に沿って植物18が植栽されている。植物18としては、比較的乾燥に強いセダム系等が用いられる。例えば、メキシコマンネン草、キリン草、ベンケイ草等が用いられる。
【0029】
次に、上記緑化設備10の施工手順を説明すると、まず、折板屋根1の各谷部2の軒先8側に予め逆台形状に成形された吸出し防止材11を接着剤でシール状態に固着し、次に、図3(A)に示すように、吸出し防止材11の内側と各谷部2とで区画される収容空間Sに平均粒径20mm〜50mmの軽石12を混ぜて敷き均し最下層の軽石層13を形成する。次に、図3(B)に示すように、最下層の軽石層13の上に、平均の角寸又は外径が20mm〜50mmの木炭14を混ぜて敷き均し中間層の木炭層15を形成し、軽石層13と木炭層15を合わせた高さを約70mmとする。そして、図3(C)に示すように、中間層の木炭層15の上に、排水性軽量土16を敷き均し、表層の排水性軽量土層17を形成し、最後に、表層の排水性軽量土層17の上に、比較的乾燥に強いセダム系等の植物18を谷部2に沿って植栽する。図3(D)は、植物18を植栽した後、根19が成長した後の様子を示している。折板屋根1の谷部2に軽石12、木炭14、排水性軽量土16を順次敷き均して、最後に植物18を植栽するだけでよく、本発明の緑化工法によれば、緑化設備10の施工が非常に簡単で迅速に行える。
【0030】
本発明の緑化工法が適用される建物としては、ケアハウス、コンビニエンスストア、ガソリンスタンド、倉庫、工場等が好適であるが、適用される建物はこれらに限定されない。
【0031】
排水性軽量土層17の下に木炭層15、軽石層13の二層が形成されているので、この二層によって、植物18の根19が折板屋根1の谷部2の底面に進展するのを抑制することができ、また、最下層の軽石層13の軽石12の作用により、植物18の根19が折板屋根1を貫通し、その下側に侵入するのを防ぐことができる。なお、軽石層13の下に防根シートを敷設し、根19の進入を二重三重に防ぐようにしてもよい。
【0032】
かくして、本発明によれば、折板屋根の上に、簡単且つ迅速に緑化設備を施工することができ、また、取付金具が不要で施工コストが安くつく緑化工法を実現できる。また、施工された緑化設備は、排水性および保水性に優れ、植栽した植物の管理メンテナンスも容易である。さらに、防根シートを敷かずとも、最下層の軽石層によって、植栽した植物の根が折板屋根を貫通しその下に侵入するのを防ぐことができる他、中間層の炭層によって、泥水を浄化して泥水の流出を防止し、かつ炭の中和作用により酸性雨害による金属製の折板屋根に発生する錆・腐食を防ぐことができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、取付金具によらずとも、折板屋根の上に、簡単かつ迅速に緑化設備を施工できる緑化工法として、また、施工された緑化設備は排水性および保水性、耐久性に優れたものとして、広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態を示すもので、本発明の施工により折板屋根の上に形成された緑化設備を示す斜視図、
【図2】図1に示す緑化設備の断面図、
【図3】(A)乃至(D)は、本発明の施工手順を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 折板屋根
2 谷部
3 折板構成材
4 山部
5 ボルト
6 建物
7 桁材
8 軒先
10 緑化設備
11 吸出し防止材
12 軽石
13 軽石層
14 木炭
15 木炭層
16 排水性軽量土
17 排水性軽量土層
18 植物
19 根
S 収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の折板屋根の各谷部の軒先側に逆台形状の吸出し防止材を固着し、吸出し防止材の内側と前記折板屋根の各谷部とで区画される収容空間を栽培ポットとみなして、同収容空間に軽石、炭、排水性軽量土の各材料を順に敷き均して、軽石層、炭層、排水性軽量土層を順に形成し、表層の排水性軽量土層に植物を植栽してなる、ことを特徴とする折板屋根の緑化工法。
【請求項2】
前記軽石層を形成する軽石の平均粒径が20mm〜50mmであり、前記炭層を形成する炭の平均の角寸又は外径が20mm〜50mmであることを特徴とする、請求項1記載の折板屋根の緑化工法。
【請求項3】
前記排水性軽量土層を形成する排水性軽量土は、比重0.3〜0.8kg/lおよび空隙率30〜50%の団粒構造からなることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の折板屋根の緑化工法。
【請求項4】
前記吸出し防止材は、天然繊維を主材料とし、目付量300g/m〜600g/mであることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の折板屋根の緑化工法。
【請求項5】
建物の折板屋根の各谷部の軒先側に逆台形状の吸出し防止材が固着され、吸出し防止材の内側と前記折板屋根の各谷部とで区画される収容空間を栽培ポットとみなして、同収容空間に軽石、炭、排水性軽量土の各材料が順に敷き詰められて、軽石層、炭層、排水性軽量土層が順に形成され、表層の排水性軽量土層に植物が植栽されている、ことを特徴とする折板屋根の緑化設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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