抵抗性誘導能力評価方法及び抵抗性誘導能力評価装置
【課題】 被検物質による抵抗性誘導能力を確実に評価することができる抵抗性誘導能力評価方法及び評価装置を提供すること。
【解決手段】 好適な抵抗性誘導能力評価方法は、植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価方法であって、植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料、及び、発光誘起物質を用い、植物の試料を静置した後、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させて静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、また、植物の試料を静置した後、被検物質を接触させて静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、基準発光強度と比較発光強度とを比較して、被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する。
【解決手段】 好適な抵抗性誘導能力評価方法は、植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価方法であって、植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料、及び、発光誘起物質を用い、植物の試料を静置した後、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させて静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、また、植物の試料を静置した後、被検物質を接触させて静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、基準発光強度と比較発光強度とを比較して、被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗性誘導能力評価方法及び抵抗性誘導能力評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温暖化等の地球環境の悪化が進むなかで、高温・乾燥などの環境ストレスや、それにより助長される病害の多発が原因で、作物の生産性の低下が顕在化してきている。この解決策としては、薬剤により植物に対して抵抗性を誘導して、生産性の低下を防ぐことが考えられる。従来、薬剤として用いられる物質の抵抗性誘導能力は、物質を与えることで抵抗性を誘導した植物を、実際に病害や環境ストレスに晒し、これにより直接的に抵抗性誘導能力を評価する方法がある。しかしながら、このような方法には、評価に時間がかかり、迅速性に欠けるほか、評価技術には習熟を要するという不都合があった。
【0003】
物質の抵抗性誘導能力をより迅速かつ正確に評価する方法としては、例えば、植物が病害に対して抵抗反応を示す際に生じる微弱な発光を利用して、物質の抵抗性誘導能力(病害抵抗性誘導能力)を評価する方法が試みられている。下記特許文献1には、植物に被検物質を接触させて植物の生理特性を変化させた後、更に発光誘起物質を接触させ、上記変化した生理特性に対応する生理反応を生じさせて、この生理反応に起因する発光の強度を測定することにより、目的とする病害抵抗性誘導能力に基づく発光を良好に観察できるようになることが示されている。
【特許文献1】特開2004−279276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の方法によれば、被検物質(化学物質)の目的とする抵抗性誘導能力を正確に評価することができる。ところが、本発明者らが研究を行った結果、上記従来の評価方法では、未だ正確に抵抗性誘導能力を評価することが困難な場合や、評価不可能な場合があることが判明した。
【0005】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、被検物質による抵抗性誘導能力をより確実に評価することができる抵抗性誘導能力評価方法及びそれに用いる抵抗性誘導能力評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の抵抗性誘導能力評価方法は、植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価方法であって、植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料、及び、発光誘起物質を用い、この植物の試料を静置した後、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させて再び静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、また、植物の試料を静置した後、被検物質を接触させて再び静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、基準発光強度と比較発光強度とを比較して被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価することを特徴とする。
【0007】
このように、本発明の抵抗性誘導能力評価方法においては、植物の試料に被検物質を接触させて植物の抵抗性を変化させた後、更に発光誘起物質を接触させることで、上記変化した抵抗性に対応する抵抗反応を生じさせ、この抵抗反応に起因する発光の強度を測定している。そのため、得られる発光強度は評価対象とする抵抗性にのみ基づいて変化するようになる。これにより、例えば、被検物質が、抵抗反応は生じないが植物に発光を生じさせるような物質であったとしても、そのような物質による発光の影響を受けずに、評価対象とする抵抗性に基づく発光のみを観察できるようになる。したがって、被検物質の抵抗性誘導能力を正確に評価することができる。
【0008】
また、上記本発明では、植物の試料が、当該植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態のものを用いる。植物の細胞を、例えば液体振とう培養などにより増殖させた場合、細胞量の推移は、増殖が鈍い誘導期から対数増殖期を経て、増殖が停止する定常期に達するシグモイド曲線を描く。ここで、「対数増殖期の後期」とは、このようなシグモイド曲線において、対数増殖期から増殖曲線の傾きが小さくなり始めて定常期に差し掛かる時期である。このような状態にある植物の試料は、植物の細胞が評価対象としている抵抗性に対応する抵抗反応を特に生じ易い状態となっている。
【0009】
さらに、このような状態の植物の試料を被検物質と接触させる前に、一定の時間静置することにより、例えば、培養中に受けているストレス等の影響が大きく減じられることから、これによって被検物質による植物の試料の抵抗性の変化を極めて大きく生じさせることができる。そのため、本発明においては、従来に比して、発光誘起物質の接触後に得られる発光強度に、被検物質の接触による抵抗性への影響が大きく反映される結果となる。また、このようにストレス等の影響が少ないことから、被検物質による抵抗性誘導が迅速に行われ、これにより、発光の増強をより短時間で確認することも可能となる。したがって、本発明によれば、被検物質の抵抗性誘導能力をより確実に評価できるようになるほか、従来、抵抗反応による発光を生じ難かった植物種に対してや、例えば特許文献1に記載したような方法では測定が困難であったような抵抗性誘導についても、十分な評価を行うことが可能となる。
【0010】
上記本発明の抵抗性誘導能力評価方法において評価する抵抗性誘導能力としては、病害抵抗性誘導能力が挙げられる。植物の病害抵抗性誘導は、植物の試料の状態に影響されて大きく変動し易い傾向にある。したがって、本発明の方法によれば、従来に比して、被検物質の病害抵抗性誘導能力を一層良好に評価することが可能となる。
【0011】
また、評価する抵抗性誘導能力としては、環境ストレス抵抗性誘導能力も挙げられる。植物の環境ストレス抵抗性は、上述した病害抵抗性とは全く異なる特性であり、互いに拮抗するものであると考えられている。それ故、環境ストレス抵抗誘導により病害抵抗反応に基づく発光が増強されることは、これまで全く知られていなかった。ところが、本発明者らは、上述した本発明の方法のような条件とすることで、環境ストレス抵抗性誘導による発光の増強も測定できるようになることを見出した。したがって、本発明によれば、従来の方法では評価することが極めて困難であった、被検物質による植物の環境ストレス抵抗性誘導能力を評価することが可能となる。
【0012】
さらに、本発明により評価する抵抗性誘導能力としては、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の複合的ストレス抵抗性誘導能力も挙げられる。上述の通り、環境ストレス抵抗性は、病害抵抗性とは全く異なる性質であり、これらを複合的に誘導する能力の評価については全く明らかではなかった。これに対し、本発明の方法によれば、複合的ストレス抵抗性誘導に基づく発光の増強を測定することができ、その結果、被検物質による複合的ストレス抵抗性誘導能力を評価することが可能となる。
【0013】
本発明の抵抗性誘導能力評価方法においては、基準物質として、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒は、植物の試料に対する影響が小さく、発光への影響も極めて小さいことから、基準物質として有機溶媒を用いることで、被検物質を用いた場合に得られた発光との比較を行い易くなる。その結果、被検物質の抵抗性誘導能力をより正確に評価することが可能となる。
【0014】
さらに、発光の強度としては、発光誘起物質の接触後、経時的に測定した発光の強度を時間で積分した積分値を用いることが好ましい。こうすることで、例えば、発光が小さかったり、一時的にのみ発光が強くなったりする場合でも、全体としての発光の強度の比較を行い易くなり、その結果、植物や抵抗性の種類によらず、更に正確な評価を行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明の抵抗性誘導能力評価装置は、植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価装置であって、内部の温湿度条件を設定でき、外部の光を遮光可能な測定容器と、測定容器内に配置され、植物の試料を収容する収容部を複数有する試料保持部と、測定容器内に配置され、複数の収容部に収容された植物の試料のそれぞれに、被検物質又は抵抗性誘導能力を有しない基準物質を供給した後、発光誘起物質を供給する試料供給手段と、測定容器内に配置され、収容部に収容された植物の試料からの発光を測定する光検出手段を備えることを特徴とする。
【0016】
このような抵抗性誘導能力評価装置は、基準物質や被検物質の接触前後、静置することが可能である。そのため、上記本発明の抵抗性誘導能力評価方法を実施するのに特に好適である。すなわち、具体的には、試料供給手段は、植物の試料を静置した後、被検物質又は抵抗性誘導能力を有しない基準物質を供給して更に静置し、その後、発光誘起物質を供給するものであると好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被検物質による抵抗性誘導能力をより確実に評価することができる抵抗性誘導能力評価方法及びそれに用いる抵抗性誘導能力評価装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
[抵抗性誘導能力評価方法]
まず、本発明の抵抗性誘導能力評価方法の好適な実施形態について詳細に説明する。好適な実施形態の抵抗性誘導能力評価方法は、前記植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料、及び、発光誘起物質を用い、植物の試料を静置した後、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させて静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、また、植物の試料を静置した後、被検物質を接触させて静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、基準発光強度と前記比較発光強度とを比較して、被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する。以下、かかる抵抗性誘導能力評価方法を幾つかの形態に分けて説明する。
【0020】
(第1の形態)
第1の形態は、植物に対する病害抵抗性誘導能力を評価する方法である。第1の形態において、まず、植物の試料及び発光誘起物質を準備する。植物は、特に限定されないが、本方法により好適に病害抵抗性誘導能力を評価できるものとしては、例えばコムギ、バレイショ、イネ、ブドウ、シロイヌナズナ、タバコ等が挙げられる。
【0021】
本実施形態において、植物の試料としては、植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態のものを用いる。培養は、例えば、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で行うことができる。
【0022】
植物の試料として、対数増殖期の後期の状態の植物の細胞を得るためには、培養における温度、時間及び明暗条件を植物に応じて適切に設定する。例えば、コムギでは、20〜25℃が好ましく、例えば、6gの細胞を100mLの培地で増殖する場合は10〜14日、暗条件で培養を行うことが好ましい。バレイショでは、20〜23℃が好ましく、例えば、10gの細胞を100mLの培地で増殖する場合は10〜12日、暗条件で培養を行うことが好ましい。イネでは、24〜28℃が好ましく、例えば、15gの細胞を100mlの培地で増殖する場合は7〜12日、暗条件で培養を行うことが好ましい。ブドウでは、20〜25℃が好ましく、5gの細胞を100mLの培地で増殖する場合は10〜14日、暗条件で培養を行うことが好ましい。
【0023】
また、発光誘起物質としては、エリシターが好適である。エリシターとしては、特定の病原菌に対する抵抗性遺伝子を有する植物にのみ抵抗反応を誘導する特異的エリシターや、植物品種に関係なく抵抗反応を誘導する非特異的エリシター等を適用できる。特に、エリシターは、評価に用いる植物の種類に対して好適な組み合わせがある。
【0024】
このような植物とエリシターとの好適な組み合わせは次の通りである。すなわち、植物がコムギである場合、エリシターとしては、6量体以上のキチンオリゴ糖や、キサンタンガムが好ましい。植物がバレイショである場合、エリシターとしては、アラキドン酸(AA)やリノール酸のような不飽和脂肪酸や、ラミナリンのような多糖類などが好ましい。植物がイネである場合、エリシターとしては、6量体以上のキチンオリゴ糖や4量体以上のキトサン、キシラナーゼ、ケイ酸カリウム、リン酸2水素カリウム、塩化銅などが好ましい。植物がブドウである場合、エリシターとしては、酵母エキスや、ケイ酸カリウムなどが好ましい。これらの組み合わせを満たさない場合、植物の試料からの抵抗反応に基づく有効な発光が得られず、被検物質の抵抗性誘導能力を評価し難くなる場合がある。
【0025】
第1の形態においては、被検物質を、上述したような植物の試料に接触させる。また、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を、同様に植物の試料に接触させる。この際、後述する発光の強度の比較を正確に行うため、植物の試料としては、被検物質及び基準物質に対し、それぞれ同時に培養された同一の株を用いることが好ましい。また、本方法では、複数種類の被検物質を同時に評価することもできるが、この場合も、植物の試料としては同時に培養された同一の株を用いることが好ましい。
【0026】
被検物質としては、対象とする植物に対する病害抵抗性誘導能力を評価しようとする任意の化合物等を適用することができる。病害抵抗性としては、例えば、全身的獲得抵抗性(SAR)、傷害により誘導される病害抵抗性(WSR)、根圏微生物が誘導する病害抵抗性(ISR)、ブラシノステロイドを介する病害抵抗性(BDR)、β−アミノ酸が誘導する病害抵抗性(BABA−IR)等がある。これらは、病害抵抗性を生じる経路がそれぞれ全く異なるものであり、従来は、経路に応じて異なる評価手法が用いられていた。
【0027】
SARについては、エリシターが誘起する発光を増強することが知られており、これを利用して、被検物質のSARを誘導する病害抵抗性誘導能力を評価することが可能であった。これに対し、本実施形態の評価方法によれば、上記SAR以外の場合であっても測定に十分な程度の発光増強を生じさせることができるため、従来全く異なる評価手法が必要であった上記SAR以外の経路による病害抵抗性を誘導できる被検物質の評価を行うことが可能となる。
【0028】
基準物質は、植物の試料に接触させても植物の抵抗性を殆ど変化させない特性を有する物質である。このような基準物質としては、水や有機溶媒が挙げられる。特に、後述するような被検物質の分散や溶解に用いる希釈液と同じものを用いると好ましい。基準物質としては、有機溶媒がより好ましい。基準物質として有機溶媒を用いると、発光への影響が少なく、抵抗性誘導能力をより正確に評価し易い傾向にある。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、エタノール等を例示できる。
【0029】
被検物質及び基準物質を植物の試料に接触させる前には、上記のような対数増殖期の後期に達した状態にある植物の試料を準備した後、一定時間静置することが好ましい。このような静置により、培養中に行った振とうや、試料の移動による影響を少なくすることができ、これにより植物の試料の抵抗性の変化を大きく生じさせることができる。この静置時間は、植物の試料を被検物質及び基準物質を添加する状態に固定してから2〜24時間とすることが好ましい。
【0030】
被検物質及び基準物質の植物の試料への接触は、植物の細胞中に被検物質や基準物質が吸収されるように行うことが好ましい。そのためには、例えば、被検物質の場合、この被検物質を希釈液に溶解又は分散させた混合液を、上述のように植物の細胞が培養されている培地中に添加することが好ましい。希釈液としては、有機溶媒を用いることが好ましい。なお、被検物質の有機溶媒への溶解又は分散が不良な場合は、水を用いることもできる。この場合、細胞や被検物質等の培地中への均一な分散が可能となり、植物の試料と被検物質等との接触頻度が増大し、植物の試料中に被検物質がより多く吸収されるようになる。
【0031】
被検物質を植物の試料に接触させた後には、被検物質を植物の試料に確実に吸収させ、病害抵抗性を誘導するため、被検物質接触後の植物の試料を所定の時間静置する。この静置時間は、植物の試料や被検物質の種類に応じて適宜変更することができる。
【0032】
より具体的には、評価すべき抵抗性が上述したSARであるような試料の場合、静置時間は2〜6時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。WSRの場合、静置時間は2〜24時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。ISRの場合、静置時間は2〜24時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。BDRの場合、静置時間は2〜24時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。BABA−IRの場合、静置時間は2〜24時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。これらの条件を満たさない場合、植物の試料からの有効な発光が得られず、被検物質の抵抗性誘導能力を評価し難くなる傾向にある。
【0033】
植物の試料に発光誘起物質を接触させ静置した後には、後述するような抵抗性誘導能力評価装置等の微弱な発光の測定が可能な装置を用いて、発光を測定し、植物の試料から生じる発光の強度を測定する。基準物質を接触させた後、発光誘起物質を接触させた植物の試料から得られた発光強度が、基準発光強度となり、被検物質を接触させた後、発光誘起物質を接触させた植物の試料から得られた発光強度が、比較発光強度となる。
【0034】
発光の測定は、発光誘起物質を接触させた時点からの植物の試料による発光を経時的に測定することによって行うことができる。かかる測定は、発光誘起物質を接触した時点から始めればよいが、発光誘起物質の接触前に開始することが好ましく、被検物質を接触させた直後から開始することがより好ましい。また、被検物質の接触後に静置する間も、発光の測定を継続することが好ましい。温度は培養条件と同等であることが好ましい。これらにより、発光誘起物質の添加前後における発光強度の変化をより正確に観測することが可能となる。
【0035】
そして、本実施形態では、上記の発光の測定により得られた基準発光強度と、比較発光強度とを比較して、被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する。ここで、発光強度の大小の比較は、発光誘起物質接触後の発光強度の変化の値を時間で積分して得られるピーク面積を比較して行うことが好ましい。なお、発光強度の大小が判別し易い場合には、積分値ではなく、発光強度のピークの極大値を比較するようにしてもよい。
【0036】
基準発光強度は、上述の如く、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させることで、抵抗性が向上又は低下していない植物の試料に、発光誘起物質が作用して生じる抵抗反応に基づくものである。換言すれば、基準発光強度は、その植物自身が通常発揮しうる抵抗性にのみ基づく発光強度であると言える。これに対し、比較発光強度は、被検物質の接触によって抵抗性が変化した植物の試料に、発光誘起物質が作用して生じる抵抗反応に基づくものである。すなわち、被検物質による抵抗性の変化に対応した発光強度となっている。
【0037】
したがって、被検物質の接触により抵抗性(本実施形態においては、病害抵抗性)が向上した植物は、発光誘起物質の接触による抵抗反応を本来よりも活発に生じることとなるため、この場合の比較発光強度は、基準発光強度よりも大きなものとなる。被検物質の接触により植物の抵抗性(本実施形態においては、病害抵抗性)が低下した場合は、反対に、比較発光強度が基準発光強度よりも小さくなることになる。
【0038】
つまり、基準発光強度よりも比較発光強度が高くなった場合、用いた被検物質は、測定対象の植物に対して抵抗性誘導能力を有していると判定することができ、比較発光強度が基準発光強度と同等以下になった場合、用いた被検物質は、測定対象の植物に対して抵抗性誘導能力を有していないと判定することができる。このようにして、被検物質の植物に対する抵抗性誘導能力を評価することが可能となる。
【0039】
なお、上記の方法では、被検物質として複数種類のものを同時に評価してもよい。この場合、基準発光強度との比較とともに、各被検物質を用いた場合に得られた発光強度(比較発光強度)同士をも比較することで、被検物質の抵抗性誘導能力を比較することもできる。これにより、例えば、複数の被検物質のうち、最も大きい比較発光強度が得られたものを、最も優れた抵抗性誘導能力を有する物質として選抜することも可能となる。
【0040】
(第2の形態)
第2の形態は、植物に対する環境ストレス抵抗性誘導能力を評価する方法である。第2の形態において評価する環境ストレス抵抗性は、植物の温度(例えば高温)や乾燥(水分ストレス)に対する抵抗性であり、第1の形態のような病害抵抗性とは全く異なる経路によって発現される特性である。しかし、本実施形態では、このような環境ストレス抵抗性が反映される抵抗反応に基づく発光による評価を十分に行うことができ、上述した病害抵抗性の場合と同様の手法により、被検物質の環境ストレス抵抗性誘導能力の評価が可能である。なお、第2の形態における好適な評価手法は、以下の点を除いて第1の形態と同様である。
【0041】
この第2の形態により好適に環境ストレス抵抗性を評価できる植物としては、例えば、イネ、バレイショ、ブドウ、コムギ、シロイヌナズナ、タバコ等が挙げられる。これらの植物の試料としても、第1の形態と同様、対数増殖期の後期の状態の植物の細胞を用いる。そのために、植物の細胞の培養温度及び培養時間を適宜設定することが好ましい。また、上記の植物と組み合わせる発光誘起物質としては、キチン、キトサン、キシラナーゼ、リン酸2水素ナトリウム、アラキドン酸、リノール酸、ラミナリン、酵母エキス、ケイ酸カリウム等が好ましい。これらの植物及び発光誘起物質の組み合わせとすることで、被検物質の環境ストレス抵抗性誘導能力を良好に評価することができる。
【0042】
また、第2の形態において、植物の試料に基準物質や被検物質を接触させた後、静置する時間は、2〜72時間とすることが好ましく、2〜24時間とすることがより好ましい。さらに、発光誘起物質の接触時点からの温度は、20〜28℃とすることが好ましく、細胞の培養条件と同等とすることがより好ましい。これらの条件を満たさないと、発光を良好に生じさせて、発光強度の比較を十分に行うことが困難となる傾向にある。
【0043】
(第3の形態)
第3の形態は、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の複合的ストレス抵抗性誘導能力を評価する方法である。被検物質によっては、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の両方を変化させることができるものがある。ところが、病害抵抗性と環境ストレス抵抗性は、最終的な表現系では拮抗する例が多く、この両方の抵抗性を付与する能力はこれまで評価するのが極めて困難であった。これに対し、本形態の方法では、これらの両方の抵抗性において共用されるシグナル伝達経路である、活性酸素種の生成に関与する働きに基づく発光反応を指標としているため、これに基づいて、第1の形態等と同様の評価を行うことができる。つまり、被検物質の複合的ストレス付与能力を評価することが可能となる。なお、第3の形態における好適な評価手法は、以下の点を除いて第1の形態と同様である。
【0044】
この第3の形態により好適に環境ストレス抵抗性を評価できる植物としては、例えば、コムギ、バレイショ、イネ、ブドウ、シロイヌナズナ、タバコ等が挙げられる。これらの植物の試料としても、第1の形態と同様、対数増殖期の後期の状態の植物の細胞を用いる。そのために、植物の細胞の培養温度及び培養時間を適宜設定することが好ましい。また、上記の植物と組み合わせる発光誘起物質としては、キチン、キトサン、キシラナーゼ、リン酸2水素ナトリウム、アラキドン酸、リノール酸、ラミナリン、酵母エキス、ケイ酸カリウム等が好ましい。これらの植物及び発光誘起物質の組み合わせとすることで、被検物質の複合的ストレス抵抗性誘導能力を良好に評価することができる。
【0045】
また、第3の形態において、植物の試料に基準物質や被検物質を接触させた後、静置する時間は、2〜72時間とすることが好ましく、2〜24時間とすることがより好ましい。さらに、発光誘起物質の接触時点からの温度は、20〜28℃とすることが好ましく、細胞の培養条件と同等とすることがより好ましい。これらの条件を満たさないと、発光を良好に生じさせて、発光強度の比較を十分に行うことが困難となる傾向にある。
【0046】
[抵抗性誘導能力評価装置]
次に、上述した抵抗性誘導能力評価方法に用いることができる抵抗性誘導能力評価装置の好適な実施形態について説明する。
【0047】
図1は、好適な実施形態の抵抗性誘導能力評価装置の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、抵抗性誘導能力評価装置100は、暗箱10(測定容器)と、この暗箱10内にそれぞれ設置された、試料保持部20、光検出装置30(光検出手段)、試薬調製部40及び分注装置50(試薬搬送手段)と、暗箱10外に設置され、光検出部30に接続された演算装置60とを備えた構成を有している。
【0048】
まず、暗箱10は、外部からの光の侵入を極力排除できるとともに、内部を所定の温湿度条件に設定できるものである。このような暗箱10により、光検出装置30による植物の試料からの光の検出がより正確になされるようになる。
【0049】
試料保持部20は、暗箱10内に設置されており、試料収容部22を複数有している。この試料収容部22に、植物の試料等を収容することができる。
【0050】
また、光検出装置30は、暗箱10内において、試料収容部22内に収容された植物の試料からの発光を検出できるように試料保持部20と対向して配置されている。光検出装置30は、図示のように、複数の試料収容部22における発光を検出できるように、一方向に試料収容部22と同数の光検出部32を有していてもよい。この光検出装置30は、例えば、光子(フォトン)数による計測が可能となるように、光電子増倍管等を備える(図示せず)。
【0051】
試薬調製部40は、暗箱10内において、試料保持部20と併設されている。この試薬調製部40は、内部に被検物質、基準物質、発光誘起物質等を溶媒等とともに収容できる試薬収容部42を複数有している。この試薬収容部42は、上述した試料保持部20における試料収容部22と対応するように設けられている。試薬調製部40が暗箱10内に設置されることで、後述する分注装置50における搬送の際に、被検物質、基準物質又は発光誘起物質等の試薬を外部環境に晒さずに試料保持部20に移動させることができる。これにより、温度や乾燥等による試薬の劣化等を低減してより正確な評価を行うことが可能となる。
【0052】
分注装置50は、暗箱10内において、試薬調製部40から試料保持部20に被検物質等を搬送できる装置である。この分注装置50は、注入部52において、試薬調製部40における試薬収容部42から被検物質、基準物質又は発光誘起物質を汲み取り、移動してこれらを試料保持部20における試料収容部22に注入することができる。これにより、試料収容部42内に収容された植物の試料に、被検物質等を供給して接触させることができる。複数の注入部52は、複数の試薬収容部42や試料収容部22と対向できるように複数設けられていてもよい。
【0053】
さらに、演算装置60は、暗箱10の外部に設けられ、光検出部30と接続されている。この演算装置60は、光検出装置30によって検出された光子(フォトン)数を計測することができ、計測された時間ごとの光子数を、植物の試料から生じた発光の強度として測定する。得られた光子数は、時間ごとの光子数としてグラフ化され、これにより発光の強度を経時的に測定することができる。
【0054】
このような抵抗性誘導能力評価装置100を用いて抵抗性誘導能力評価方法を実施する場合、まず、試料保持部20における複数の試料収容部22に、それぞれ、好適な状態にまで培養された植物の試料を収容する。この複数の試料収容部22に収容する植物の試料は、上述したように、同時に培養された同一の株であることが好ましい。
【0055】
また、試薬保持部40における試薬収容部42に、基準物質及び被検物質をそれぞれ収容する。基準物質は、試薬収容部42の少なくとも一カ所に収容すればよい。また、被検物質は、異なる種類のものをそれぞれ別の試薬収容部42に収容してもよい。これにより、複数の被検物質の評価を同時に行うことができる。また、例えば異なる濃度の被検物質をそれぞれ別の試薬収容部42に収容してもよい。こうすれば、濃度による被検物質の抵抗性誘導能力の程度を評価することができる。
【0056】
次いで、分注装置50における注入部52により、試薬保持部40における試薬収容部42内の被検物質、基準物質を汲み上げた後、分注装置50を試料保持部20側に移動させて、注入部52から対応する位置の試料収容部22に被検物質、基準物質を供給する。これにより、植物の試料と被検物質又は基準物質とが接触する。試料保持部20においては、被検物質又は基準物質と接触した植物の試料を、好適な時間、静置する。
【0057】
次いで、試薬保持部40における複数の試薬収容部42に、発光誘起物質を収容する。なお、被検物質又は基準物質の場合とは別の試薬保持部を設け、これに発光誘起物質を収容しておいてもよい。それから、上述した好適な静置時間が経過したら、分注装置50により発光誘起物質を試料保持部20に搬送し、これを、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に供給し、接触させる。
【0058】
発光誘起物質との接触により、植物の試料は、発光誘起物質により誘起される抵抗反応を生じて、試料収容部22内で発光を生じることになる。この発光は、試料収容部22に対向して配置された光検出装置30の各検出部32で検出され、演算装置60によって、時間ごとの光子数として発光強度が経時的に計測される。
【0059】
このようにして計測された被検物質を用いた場合の発光強度(比較発光強度)と、基準物質を用いた場合の発光強度(基準発光強度)とを比較することで、上述したように、被検物質による植物への抵抗性誘導能力を評価することができる。この比較は、例えば、演算装置60において自動的に行うこともできる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、必ずしも上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
[病害抵抗性誘導能力の評価]
(評価1)
まず、コムギの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、120rpmの条件で13日間培養して、対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料を得た。
【0063】
次に、培養したコムギの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0064】
次いで、被検物質としてメチルジャスモン酸(MJ、200μM、溶媒;DMF)、基準物質としてジメチルホルムアミド(DMF)を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0065】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を被検物質又は基準物質と接触された植物の試料にそれぞれ接触させたものを準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0066】
この測定においては、発光誘起物質を接触させなかった(本実施例では水を接触)対象試験の発光強度をベースとし、これと発光誘起物質を接触させた場合に得られた発光強度とを対比して、発光誘起物質によって誘起された発光強度を評価する。そして、この発光強度を、被検物質(抵抗性を誘導する物質)を接触させた場合と、基準物質(抵抗性を誘導しない物質)を接触させた場合とで比較することで、被検物質によって誘導された抵抗性に基づく発光増強の程度を評価することができる。
【0067】
図2は、評価1における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図2に示すように、被検物質としてメチルジャスモン酸を接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光強度が大きくなっていた。これにより、メチルジャスモン酸は、コムギに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0068】
メチルジャスモン酸は、傷害により誘導される病害抵抗性(WSR)の経路で病害抵抗反応を増強するものである。したがって、本発明の評価方法によればWSRの経路で病害抵抗性を誘導する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0069】
(評価2)
まず、バレイショの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、20℃、暗所、120rpmの条件で10日間培養して、対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料を得た。
【0070】
次に、培養したバレイショの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0071】
次いで、被検物質としてメチルジャスモン酸(50μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0072】
その後、エリシターであるアラキドン酸(AA、20μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、DMFを接触させた試料をそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0073】
図3は、評価2における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図3に示すように、被検物質としてメチルジャスモン酸を接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、メチルジャスモン酸は、バレイショに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0074】
(評価3)
まず、イネの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、120rpmの条件で9日間培養して、対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料を得た。
【0075】
次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0076】
次いで、被検物質としてエチレン(10ppm)を用い、植物の試料に接触させるとともに、基準物質は用いずに無処理とした植物の試料を準備し、24時間静置した。
【0077】
その後、エリシターであるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質と接触された植物の試料及び無処理の植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、エリシターの代わりに、水を接触させた試料をそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0078】
図4は、評価3における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図4に示すように、被検物質としてエチレンを接触させた場合、無処理とした場合に比して、エリシターの接触による発光強度が大きくなっていた。これにより、エチレンは、イネに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0079】
エチレンは、根圏微生物が誘導する病害抵抗性(ISR)の経路で病害抵抗反応を増強するものである。したがって、本発明の評価方法によればISRの経路で病害抵抗性を誘導する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0080】
(評価4)
まず、コムギの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したコムギの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移して24時間静置した。
【0081】
次いで、被検物質としてエチレン(10ppm)を用い、植物の試料に接触させるとともに、基準物質は用いずに無処理とした植物の試料を準備し、24時間静置した。
【0082】
その後、エリシターであるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質と接触された植物の試料及び無処理の植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、エリシターの代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0083】
図5は、評価4における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図5に示すように、被検物質としてエチレンを接触させた場合、無処理とした場合に比して、エリシターの接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、エチレンは、コムギに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0084】
(評価5)
まず、バレイショの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したバレイショの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0085】
次いで、被検物質としてブラシノライド(BL、200μM、溶媒:DMSO)、基準物質としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0086】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるアラキドン酸(AA、20μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、DMFを接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0087】
図6は、評価5における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図6に示すように、被検物質としてブラシノライドを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、ブラシノライドは、バレイショに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0088】
ブラシノライドは、ブラシノステロイドを介する病害抵抗性(BDR)の経路で病害抵抗反応を増強するものである。したがって、本発明の評価方法によればBDRの経路で病害抵抗性を誘導する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0089】
(評価6)
まず、ブドウの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、110rpmの条件で14日間培養して、対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料を得た。
【0090】
次に、培養したブドウの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0091】
次いで、被検物質としてブラシノライド(BL、200μM、溶媒:DMSO)、基準物質としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0092】
その後、発光誘起物質(エリシター)である酵母エキス(YE、0.3mg/mL)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0093】
図7は、評価6における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図7に示すように、被検物質としてブラシノライドを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光強度が大きくなっていた。これにより、ブラシノライドは、ブドウに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0094】
(評価7)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0095】
次いで、被検物質としてβ−アミノ酪酸(BABA、500μM、溶媒:水)、基準物質として水を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0096】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0097】
図8は、評価7における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図8に示すように、被検物質としてBABAを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、BABAは、イネに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0098】
BABAは、β−アミノ酸が誘導する病害抵抗性(BABA−IR)の経路で病害抵抗反応を増強するものである。したがって、本発明の評価方法によればBABA−IRの経路で病害抵抗性を誘導する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
(評価8)
まず、バレイショの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0099】
次いで、被検物質としてβ−アミノ酪酸(BABA、500μM、溶媒:水)、基準物質として水を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0100】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるアラキドン酸(AA、20μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、DMFを接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0101】
図9は、評価8における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図9に示すように、被検物質としてBABAを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、BABAは、バレイショに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0102】
(評価9)
まず、バレイショの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したバレイショの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0103】
次いで、被検物質としてアシベンゾラル−S−メチル(ASM、20μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0104】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるアラキドン酸(AA、20μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、DMFを接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0105】
図10は、評価9における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図10に示すように、被検物質としてASMを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、ASMは、バレイショに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0106】
(評価9の対比試験)
まず、バレイショの細胞を、培養時間を11日間としたこと以外は、上記と同様にして培養した。なお、培養10〜12日目が対数増殖期の後期に当たる。次に、培養したバレイショの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した。
【0107】
次に、ペトリ皿に移した植物の試料を静置せずにすぐに用いたこと以外は、評価9と同様にして、被検物質としてASM、基準物質としてDMFを用いた場合の発光の測定を行った。
【0108】
得られた結果を図11に示す。そして、評価9の結果である図10と、評価9の対比試験の結果である図11とを対比すると、まず、植物の試料に被検物質又は基準物質を接触させる前に、24時間の静置を行った評価9の場合、エリシター添加後0〜5時間で積算した発光強度が、対象試験に対して4.9倍となっていたのに対し、この静置を行わなかった対比試験では2.3倍であった。このことから、被検物質又は基準物質の接触前に静置を行うことで、病害抵抗性誘導能力をより正確に評価できることが確認された。また、図10と図11との対比から、上記の静置を行った場合の図10では、図11と比較して、発光の増強がエリシター添加後の早い時間で顕著であり、抵抗性誘導を早めることができることも確認された。
【0109】
[環境ストレス抵抗性誘導能力の評価]
(評価10)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0110】
次いで、被検物質としてマンニトール(300mM、溶媒:水)、基準物質として水を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0111】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0112】
図12は、評価10における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図12に示すように、被検物質としてマンニトールを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、マンニトールは、イネに対して環境ストレス抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0113】
マンニトールは、水分ストレス抵抗性の経路で環境ストレス抵抗反応を生じるものである。したがって、本発明の評価方法によれば水分ストレス抵抗性の経路で環境ストレス抵抗性を発現する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0114】
(評価10の対比試験)
まず、イネの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、120rpmの条件で14日間培養して、定常期に達した状態の植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した。
【0115】
そして、上記の植物(イネ)の試料を用い、評価10と同様にして、被検物質としてマンニトール、基準物質として水を用いた場合の発光の測定を行った。得られた結果を図13に示す。図13より、細胞の培養において対数増殖期の後期を超えた状態のものを植物の試料として用いた場合、評価10の場合と比べて、被検物質(マンニトール)による発光増強が見られておらず、抵抗性誘導能力を十分に評価できないことが判明した。
【0116】
(評価11)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0117】
次いで、被検物質としてアブシジン酸(ABA、100μM、溶媒:エタノール)、基準物質としてエタノールを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0118】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0119】
図14は、評価11における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図14に示すように、被検物質としてアブシジン酸を接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、アブシジン酸は、イネに対して環境ストレス抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0120】
アブシジン酸は、ストレスホルモンであり環境ストレス抵抗反応を生じるものである。したがって、本発明の評価方法によればストレスホルモンによる環境ストレス抵抗性を発現する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0121】
[複合的ストレス抵抗性誘導能力の評価]
(評価12)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0122】
次いで、被検物質としてイミダクロプリド(TRIMAX(登録商標)、200μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0123】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0124】
図15は、評価12における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図15に示すように、被検物質としてTRIMAXを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、TRIMAXは、イネに対して抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0125】
TRIMAXは、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の両方を誘導するものであり、複合的ストレス抵抗反応を生じるものである。したがって、本発明の評価方法によれば複合的ストレス抵抗性を発現する被検物質の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0126】
(評価13)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0127】
次いで、被検物質としてピラクロストロビン(Headline(登録商標)、20μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0128】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0129】
図16は、評価13における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図16に示すように、被検物質としてHeadlineを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、Headlineは、イネに対して抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0130】
Headlineも、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の両方を誘導するものであり、複合的ストレス抵抗反応を生じるものである。したがって、本発明の評価方法によれば複合的ストレス抵抗性を発現する被検物質の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0131】
[高温ストレス抵抗性誘導能力の評価]
(評価14)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0132】
次いで、得られた植物の試料の一部に、35℃4時間の熱処理を行い、また、別の一部を24℃で4時間維持する2通りの処理を施した。
【0133】
それから、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、上記2通りの処理が施された植物の試料のそれぞれに接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0134】
図17は、評価14における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図17に示すように、35℃の熱処理を施した場合、ほぼ室温(24℃)で維持した場合に比べて発光が増強されており、35℃の処理によって、植物に高温ストレスに対する抵抗性が誘導されていることが確認された。
【0135】
この結果から、35℃の処理に代えて、高温ストレス抵抗性を誘導できる被検物質で処理した場合でも、高温ストレス抵抗性誘導による発光の増強を確認することができることが予想され、したがって、本発明の方法によれば、被検物質の高温ストレス抵抗性誘導能力も評価できることが判明した。
【0136】
(評価14の対比試験)
まず、イネの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、120rpmの条件で14日間培養して、定常期に達した状態の植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した。
【0137】
そして、上記の植物(イネ)の試料を用い、評価14と同様にして、35℃の熱処理を施した場合、及び24℃で維持した場合のそれぞれの発光の測定を行った。得られた結果を図18に示す。図18より、細胞の培養において対数増殖期の後期を超えた状態のものを植物の試料として用いた場合、評価14の場合と比べて、高温(35℃)ストレス誘導による発光増強が見られておらず、高温ストレス抵抗性誘導能力を十分に評価できないことが判明した。
【0138】
[細胞の培養時間と発光誘起物質による発光増強効果との関係の評価]
(評価15)
植物の試料として、ブドウの細胞の培養を上記と同様の条件で行い、培養時間を0(植物植え継ぎ直後)〜10週の間で一週ずつ代えたものをそれぞれ準備した。次に、培養したブドウの細胞をそれぞれ用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した
【0139】
次いで、抵抗性誘導物質としてアシベンゾラル−S−メチル(ASM、20μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0140】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるケイ酸カリウム(1mM)を、それぞれの植物の試料に接触させ、この時点から各植物の試料の発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を各植物の試料に接触させたものも準備し、これらの発光を測定する対象試験も行った。
【0141】
そして、それぞれの試料で得られた発光測定の結果から、ASMによる発光増強(ASMを接触させた場合とさせなかった場合との発光強度の比)を求めた。得られた結果を図19に示す。図19は、細胞の培養時間に対する、それぞれの培養時間で培養して得られた植物の試料を用いた場合の発光増強を示すグラフである。なお、図19中、各試料における培養時間で得られた細胞量を対比のために示した。
【0142】
図19より、培養時間が3週において、ブドウの細胞が対数増殖期の後期に達しており、この時点の細胞を用いた植物の試料を用いた場合に、エリシターによる発光増強が顕著に高められることが判明した。これよりも培養時間が長くても短くても、エリシターによる発光増強が大幅に小さくなっていた。このことから、対数増殖期の後期にない細胞による植物の試料を用いた場合、抵抗性誘導を十分に正確に評価するのが困難となる場合もあることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】好適な実施形態の抵抗性誘導能力評価装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】評価1における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図3】評価2における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図4】評価3における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図5】評価4における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図6】評価5における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図7】評価6における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図8】評価7における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図9】評価8における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図10】評価9における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図11】評価9の対比試験における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図12】評価10における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図13】評価10の対比試験における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図14】評価11における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図15】評価12における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図16】評価13における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図17】評価14における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図18】評価14の対比試験における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図19】評価15における、細胞の培養時間に対する、それぞれの培養時間で培養して得られた植物の試料を用いた場合の発光増強を示すグラフである。
【符号の説明】
【0144】
100…抵抗性誘導能力評価装置、10…暗箱、20…試料保持部、22…試料収容部、30…光検出装置、32…光検出部、40…試薬調製部、42…試薬収容部、50…分注装置、52…注入部、60…演算装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗性誘導能力評価方法及び抵抗性誘導能力評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温暖化等の地球環境の悪化が進むなかで、高温・乾燥などの環境ストレスや、それにより助長される病害の多発が原因で、作物の生産性の低下が顕在化してきている。この解決策としては、薬剤により植物に対して抵抗性を誘導して、生産性の低下を防ぐことが考えられる。従来、薬剤として用いられる物質の抵抗性誘導能力は、物質を与えることで抵抗性を誘導した植物を、実際に病害や環境ストレスに晒し、これにより直接的に抵抗性誘導能力を評価する方法がある。しかしながら、このような方法には、評価に時間がかかり、迅速性に欠けるほか、評価技術には習熟を要するという不都合があった。
【0003】
物質の抵抗性誘導能力をより迅速かつ正確に評価する方法としては、例えば、植物が病害に対して抵抗反応を示す際に生じる微弱な発光を利用して、物質の抵抗性誘導能力(病害抵抗性誘導能力)を評価する方法が試みられている。下記特許文献1には、植物に被検物質を接触させて植物の生理特性を変化させた後、更に発光誘起物質を接触させ、上記変化した生理特性に対応する生理反応を生じさせて、この生理反応に起因する発光の強度を測定することにより、目的とする病害抵抗性誘導能力に基づく発光を良好に観察できるようになることが示されている。
【特許文献1】特開2004−279276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の方法によれば、被検物質(化学物質)の目的とする抵抗性誘導能力を正確に評価することができる。ところが、本発明者らが研究を行った結果、上記従来の評価方法では、未だ正確に抵抗性誘導能力を評価することが困難な場合や、評価不可能な場合があることが判明した。
【0005】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、被検物質による抵抗性誘導能力をより確実に評価することができる抵抗性誘導能力評価方法及びそれに用いる抵抗性誘導能力評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の抵抗性誘導能力評価方法は、植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価方法であって、植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料、及び、発光誘起物質を用い、この植物の試料を静置した後、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させて再び静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、また、植物の試料を静置した後、被検物質を接触させて再び静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、基準発光強度と比較発光強度とを比較して被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価することを特徴とする。
【0007】
このように、本発明の抵抗性誘導能力評価方法においては、植物の試料に被検物質を接触させて植物の抵抗性を変化させた後、更に発光誘起物質を接触させることで、上記変化した抵抗性に対応する抵抗反応を生じさせ、この抵抗反応に起因する発光の強度を測定している。そのため、得られる発光強度は評価対象とする抵抗性にのみ基づいて変化するようになる。これにより、例えば、被検物質が、抵抗反応は生じないが植物に発光を生じさせるような物質であったとしても、そのような物質による発光の影響を受けずに、評価対象とする抵抗性に基づく発光のみを観察できるようになる。したがって、被検物質の抵抗性誘導能力を正確に評価することができる。
【0008】
また、上記本発明では、植物の試料が、当該植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態のものを用いる。植物の細胞を、例えば液体振とう培養などにより増殖させた場合、細胞量の推移は、増殖が鈍い誘導期から対数増殖期を経て、増殖が停止する定常期に達するシグモイド曲線を描く。ここで、「対数増殖期の後期」とは、このようなシグモイド曲線において、対数増殖期から増殖曲線の傾きが小さくなり始めて定常期に差し掛かる時期である。このような状態にある植物の試料は、植物の細胞が評価対象としている抵抗性に対応する抵抗反応を特に生じ易い状態となっている。
【0009】
さらに、このような状態の植物の試料を被検物質と接触させる前に、一定の時間静置することにより、例えば、培養中に受けているストレス等の影響が大きく減じられることから、これによって被検物質による植物の試料の抵抗性の変化を極めて大きく生じさせることができる。そのため、本発明においては、従来に比して、発光誘起物質の接触後に得られる発光強度に、被検物質の接触による抵抗性への影響が大きく反映される結果となる。また、このようにストレス等の影響が少ないことから、被検物質による抵抗性誘導が迅速に行われ、これにより、発光の増強をより短時間で確認することも可能となる。したがって、本発明によれば、被検物質の抵抗性誘導能力をより確実に評価できるようになるほか、従来、抵抗反応による発光を生じ難かった植物種に対してや、例えば特許文献1に記載したような方法では測定が困難であったような抵抗性誘導についても、十分な評価を行うことが可能となる。
【0010】
上記本発明の抵抗性誘導能力評価方法において評価する抵抗性誘導能力としては、病害抵抗性誘導能力が挙げられる。植物の病害抵抗性誘導は、植物の試料の状態に影響されて大きく変動し易い傾向にある。したがって、本発明の方法によれば、従来に比して、被検物質の病害抵抗性誘導能力を一層良好に評価することが可能となる。
【0011】
また、評価する抵抗性誘導能力としては、環境ストレス抵抗性誘導能力も挙げられる。植物の環境ストレス抵抗性は、上述した病害抵抗性とは全く異なる特性であり、互いに拮抗するものであると考えられている。それ故、環境ストレス抵抗誘導により病害抵抗反応に基づく発光が増強されることは、これまで全く知られていなかった。ところが、本発明者らは、上述した本発明の方法のような条件とすることで、環境ストレス抵抗性誘導による発光の増強も測定できるようになることを見出した。したがって、本発明によれば、従来の方法では評価することが極めて困難であった、被検物質による植物の環境ストレス抵抗性誘導能力を評価することが可能となる。
【0012】
さらに、本発明により評価する抵抗性誘導能力としては、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の複合的ストレス抵抗性誘導能力も挙げられる。上述の通り、環境ストレス抵抗性は、病害抵抗性とは全く異なる性質であり、これらを複合的に誘導する能力の評価については全く明らかではなかった。これに対し、本発明の方法によれば、複合的ストレス抵抗性誘導に基づく発光の増強を測定することができ、その結果、被検物質による複合的ストレス抵抗性誘導能力を評価することが可能となる。
【0013】
本発明の抵抗性誘導能力評価方法においては、基準物質として、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒は、植物の試料に対する影響が小さく、発光への影響も極めて小さいことから、基準物質として有機溶媒を用いることで、被検物質を用いた場合に得られた発光との比較を行い易くなる。その結果、被検物質の抵抗性誘導能力をより正確に評価することが可能となる。
【0014】
さらに、発光の強度としては、発光誘起物質の接触後、経時的に測定した発光の強度を時間で積分した積分値を用いることが好ましい。こうすることで、例えば、発光が小さかったり、一時的にのみ発光が強くなったりする場合でも、全体としての発光の強度の比較を行い易くなり、その結果、植物や抵抗性の種類によらず、更に正確な評価を行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明の抵抗性誘導能力評価装置は、植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価装置であって、内部の温湿度条件を設定でき、外部の光を遮光可能な測定容器と、測定容器内に配置され、植物の試料を収容する収容部を複数有する試料保持部と、測定容器内に配置され、複数の収容部に収容された植物の試料のそれぞれに、被検物質又は抵抗性誘導能力を有しない基準物質を供給した後、発光誘起物質を供給する試料供給手段と、測定容器内に配置され、収容部に収容された植物の試料からの発光を測定する光検出手段を備えることを特徴とする。
【0016】
このような抵抗性誘導能力評価装置は、基準物質や被検物質の接触前後、静置することが可能である。そのため、上記本発明の抵抗性誘導能力評価方法を実施するのに特に好適である。すなわち、具体的には、試料供給手段は、植物の試料を静置した後、被検物質又は抵抗性誘導能力を有しない基準物質を供給して更に静置し、その後、発光誘起物質を供給するものであると好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被検物質による抵抗性誘導能力をより確実に評価することができる抵抗性誘導能力評価方法及びそれに用いる抵抗性誘導能力評価装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
[抵抗性誘導能力評価方法]
まず、本発明の抵抗性誘導能力評価方法の好適な実施形態について詳細に説明する。好適な実施形態の抵抗性誘導能力評価方法は、前記植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料、及び、発光誘起物質を用い、植物の試料を静置した後、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させて静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、また、植物の試料を静置した後、被検物質を接触させて静置し、発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、基準発光強度と前記比較発光強度とを比較して、被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する。以下、かかる抵抗性誘導能力評価方法を幾つかの形態に分けて説明する。
【0020】
(第1の形態)
第1の形態は、植物に対する病害抵抗性誘導能力を評価する方法である。第1の形態において、まず、植物の試料及び発光誘起物質を準備する。植物は、特に限定されないが、本方法により好適に病害抵抗性誘導能力を評価できるものとしては、例えばコムギ、バレイショ、イネ、ブドウ、シロイヌナズナ、タバコ等が挙げられる。
【0021】
本実施形態において、植物の試料としては、植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態のものを用いる。培養は、例えば、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で行うことができる。
【0022】
植物の試料として、対数増殖期の後期の状態の植物の細胞を得るためには、培養における温度、時間及び明暗条件を植物に応じて適切に設定する。例えば、コムギでは、20〜25℃が好ましく、例えば、6gの細胞を100mLの培地で増殖する場合は10〜14日、暗条件で培養を行うことが好ましい。バレイショでは、20〜23℃が好ましく、例えば、10gの細胞を100mLの培地で増殖する場合は10〜12日、暗条件で培養を行うことが好ましい。イネでは、24〜28℃が好ましく、例えば、15gの細胞を100mlの培地で増殖する場合は7〜12日、暗条件で培養を行うことが好ましい。ブドウでは、20〜25℃が好ましく、5gの細胞を100mLの培地で増殖する場合は10〜14日、暗条件で培養を行うことが好ましい。
【0023】
また、発光誘起物質としては、エリシターが好適である。エリシターとしては、特定の病原菌に対する抵抗性遺伝子を有する植物にのみ抵抗反応を誘導する特異的エリシターや、植物品種に関係なく抵抗反応を誘導する非特異的エリシター等を適用できる。特に、エリシターは、評価に用いる植物の種類に対して好適な組み合わせがある。
【0024】
このような植物とエリシターとの好適な組み合わせは次の通りである。すなわち、植物がコムギである場合、エリシターとしては、6量体以上のキチンオリゴ糖や、キサンタンガムが好ましい。植物がバレイショである場合、エリシターとしては、アラキドン酸(AA)やリノール酸のような不飽和脂肪酸や、ラミナリンのような多糖類などが好ましい。植物がイネである場合、エリシターとしては、6量体以上のキチンオリゴ糖や4量体以上のキトサン、キシラナーゼ、ケイ酸カリウム、リン酸2水素カリウム、塩化銅などが好ましい。植物がブドウである場合、エリシターとしては、酵母エキスや、ケイ酸カリウムなどが好ましい。これらの組み合わせを満たさない場合、植物の試料からの抵抗反応に基づく有効な発光が得られず、被検物質の抵抗性誘導能力を評価し難くなる場合がある。
【0025】
第1の形態においては、被検物質を、上述したような植物の試料に接触させる。また、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を、同様に植物の試料に接触させる。この際、後述する発光の強度の比較を正確に行うため、植物の試料としては、被検物質及び基準物質に対し、それぞれ同時に培養された同一の株を用いることが好ましい。また、本方法では、複数種類の被検物質を同時に評価することもできるが、この場合も、植物の試料としては同時に培養された同一の株を用いることが好ましい。
【0026】
被検物質としては、対象とする植物に対する病害抵抗性誘導能力を評価しようとする任意の化合物等を適用することができる。病害抵抗性としては、例えば、全身的獲得抵抗性(SAR)、傷害により誘導される病害抵抗性(WSR)、根圏微生物が誘導する病害抵抗性(ISR)、ブラシノステロイドを介する病害抵抗性(BDR)、β−アミノ酸が誘導する病害抵抗性(BABA−IR)等がある。これらは、病害抵抗性を生じる経路がそれぞれ全く異なるものであり、従来は、経路に応じて異なる評価手法が用いられていた。
【0027】
SARについては、エリシターが誘起する発光を増強することが知られており、これを利用して、被検物質のSARを誘導する病害抵抗性誘導能力を評価することが可能であった。これに対し、本実施形態の評価方法によれば、上記SAR以外の場合であっても測定に十分な程度の発光増強を生じさせることができるため、従来全く異なる評価手法が必要であった上記SAR以外の経路による病害抵抗性を誘導できる被検物質の評価を行うことが可能となる。
【0028】
基準物質は、植物の試料に接触させても植物の抵抗性を殆ど変化させない特性を有する物質である。このような基準物質としては、水や有機溶媒が挙げられる。特に、後述するような被検物質の分散や溶解に用いる希釈液と同じものを用いると好ましい。基準物質としては、有機溶媒がより好ましい。基準物質として有機溶媒を用いると、発光への影響が少なく、抵抗性誘導能力をより正確に評価し易い傾向にある。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、エタノール等を例示できる。
【0029】
被検物質及び基準物質を植物の試料に接触させる前には、上記のような対数増殖期の後期に達した状態にある植物の試料を準備した後、一定時間静置することが好ましい。このような静置により、培養中に行った振とうや、試料の移動による影響を少なくすることができ、これにより植物の試料の抵抗性の変化を大きく生じさせることができる。この静置時間は、植物の試料を被検物質及び基準物質を添加する状態に固定してから2〜24時間とすることが好ましい。
【0030】
被検物質及び基準物質の植物の試料への接触は、植物の細胞中に被検物質や基準物質が吸収されるように行うことが好ましい。そのためには、例えば、被検物質の場合、この被検物質を希釈液に溶解又は分散させた混合液を、上述のように植物の細胞が培養されている培地中に添加することが好ましい。希釈液としては、有機溶媒を用いることが好ましい。なお、被検物質の有機溶媒への溶解又は分散が不良な場合は、水を用いることもできる。この場合、細胞や被検物質等の培地中への均一な分散が可能となり、植物の試料と被検物質等との接触頻度が増大し、植物の試料中に被検物質がより多く吸収されるようになる。
【0031】
被検物質を植物の試料に接触させた後には、被検物質を植物の試料に確実に吸収させ、病害抵抗性を誘導するため、被検物質接触後の植物の試料を所定の時間静置する。この静置時間は、植物の試料や被検物質の種類に応じて適宜変更することができる。
【0032】
より具体的には、評価すべき抵抗性が上述したSARであるような試料の場合、静置時間は2〜6時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。WSRの場合、静置時間は2〜24時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。ISRの場合、静置時間は2〜24時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。BDRの場合、静置時間は2〜24時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。BABA−IRの場合、静置時間は2〜24時間が好ましく、温度は培養条件と同等であることが好ましい。これらの条件を満たさない場合、植物の試料からの有効な発光が得られず、被検物質の抵抗性誘導能力を評価し難くなる傾向にある。
【0033】
植物の試料に発光誘起物質を接触させ静置した後には、後述するような抵抗性誘導能力評価装置等の微弱な発光の測定が可能な装置を用いて、発光を測定し、植物の試料から生じる発光の強度を測定する。基準物質を接触させた後、発光誘起物質を接触させた植物の試料から得られた発光強度が、基準発光強度となり、被検物質を接触させた後、発光誘起物質を接触させた植物の試料から得られた発光強度が、比較発光強度となる。
【0034】
発光の測定は、発光誘起物質を接触させた時点からの植物の試料による発光を経時的に測定することによって行うことができる。かかる測定は、発光誘起物質を接触した時点から始めればよいが、発光誘起物質の接触前に開始することが好ましく、被検物質を接触させた直後から開始することがより好ましい。また、被検物質の接触後に静置する間も、発光の測定を継続することが好ましい。温度は培養条件と同等であることが好ましい。これらにより、発光誘起物質の添加前後における発光強度の変化をより正確に観測することが可能となる。
【0035】
そして、本実施形態では、上記の発光の測定により得られた基準発光強度と、比較発光強度とを比較して、被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する。ここで、発光強度の大小の比較は、発光誘起物質接触後の発光強度の変化の値を時間で積分して得られるピーク面積を比較して行うことが好ましい。なお、発光強度の大小が判別し易い場合には、積分値ではなく、発光強度のピークの極大値を比較するようにしてもよい。
【0036】
基準発光強度は、上述の如く、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させることで、抵抗性が向上又は低下していない植物の試料に、発光誘起物質が作用して生じる抵抗反応に基づくものである。換言すれば、基準発光強度は、その植物自身が通常発揮しうる抵抗性にのみ基づく発光強度であると言える。これに対し、比較発光強度は、被検物質の接触によって抵抗性が変化した植物の試料に、発光誘起物質が作用して生じる抵抗反応に基づくものである。すなわち、被検物質による抵抗性の変化に対応した発光強度となっている。
【0037】
したがって、被検物質の接触により抵抗性(本実施形態においては、病害抵抗性)が向上した植物は、発光誘起物質の接触による抵抗反応を本来よりも活発に生じることとなるため、この場合の比較発光強度は、基準発光強度よりも大きなものとなる。被検物質の接触により植物の抵抗性(本実施形態においては、病害抵抗性)が低下した場合は、反対に、比較発光強度が基準発光強度よりも小さくなることになる。
【0038】
つまり、基準発光強度よりも比較発光強度が高くなった場合、用いた被検物質は、測定対象の植物に対して抵抗性誘導能力を有していると判定することができ、比較発光強度が基準発光強度と同等以下になった場合、用いた被検物質は、測定対象の植物に対して抵抗性誘導能力を有していないと判定することができる。このようにして、被検物質の植物に対する抵抗性誘導能力を評価することが可能となる。
【0039】
なお、上記の方法では、被検物質として複数種類のものを同時に評価してもよい。この場合、基準発光強度との比較とともに、各被検物質を用いた場合に得られた発光強度(比較発光強度)同士をも比較することで、被検物質の抵抗性誘導能力を比較することもできる。これにより、例えば、複数の被検物質のうち、最も大きい比較発光強度が得られたものを、最も優れた抵抗性誘導能力を有する物質として選抜することも可能となる。
【0040】
(第2の形態)
第2の形態は、植物に対する環境ストレス抵抗性誘導能力を評価する方法である。第2の形態において評価する環境ストレス抵抗性は、植物の温度(例えば高温)や乾燥(水分ストレス)に対する抵抗性であり、第1の形態のような病害抵抗性とは全く異なる経路によって発現される特性である。しかし、本実施形態では、このような環境ストレス抵抗性が反映される抵抗反応に基づく発光による評価を十分に行うことができ、上述した病害抵抗性の場合と同様の手法により、被検物質の環境ストレス抵抗性誘導能力の評価が可能である。なお、第2の形態における好適な評価手法は、以下の点を除いて第1の形態と同様である。
【0041】
この第2の形態により好適に環境ストレス抵抗性を評価できる植物としては、例えば、イネ、バレイショ、ブドウ、コムギ、シロイヌナズナ、タバコ等が挙げられる。これらの植物の試料としても、第1の形態と同様、対数増殖期の後期の状態の植物の細胞を用いる。そのために、植物の細胞の培養温度及び培養時間を適宜設定することが好ましい。また、上記の植物と組み合わせる発光誘起物質としては、キチン、キトサン、キシラナーゼ、リン酸2水素ナトリウム、アラキドン酸、リノール酸、ラミナリン、酵母エキス、ケイ酸カリウム等が好ましい。これらの植物及び発光誘起物質の組み合わせとすることで、被検物質の環境ストレス抵抗性誘導能力を良好に評価することができる。
【0042】
また、第2の形態において、植物の試料に基準物質や被検物質を接触させた後、静置する時間は、2〜72時間とすることが好ましく、2〜24時間とすることがより好ましい。さらに、発光誘起物質の接触時点からの温度は、20〜28℃とすることが好ましく、細胞の培養条件と同等とすることがより好ましい。これらの条件を満たさないと、発光を良好に生じさせて、発光強度の比較を十分に行うことが困難となる傾向にある。
【0043】
(第3の形態)
第3の形態は、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の複合的ストレス抵抗性誘導能力を評価する方法である。被検物質によっては、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の両方を変化させることができるものがある。ところが、病害抵抗性と環境ストレス抵抗性は、最終的な表現系では拮抗する例が多く、この両方の抵抗性を付与する能力はこれまで評価するのが極めて困難であった。これに対し、本形態の方法では、これらの両方の抵抗性において共用されるシグナル伝達経路である、活性酸素種の生成に関与する働きに基づく発光反応を指標としているため、これに基づいて、第1の形態等と同様の評価を行うことができる。つまり、被検物質の複合的ストレス付与能力を評価することが可能となる。なお、第3の形態における好適な評価手法は、以下の点を除いて第1の形態と同様である。
【0044】
この第3の形態により好適に環境ストレス抵抗性を評価できる植物としては、例えば、コムギ、バレイショ、イネ、ブドウ、シロイヌナズナ、タバコ等が挙げられる。これらの植物の試料としても、第1の形態と同様、対数増殖期の後期の状態の植物の細胞を用いる。そのために、植物の細胞の培養温度及び培養時間を適宜設定することが好ましい。また、上記の植物と組み合わせる発光誘起物質としては、キチン、キトサン、キシラナーゼ、リン酸2水素ナトリウム、アラキドン酸、リノール酸、ラミナリン、酵母エキス、ケイ酸カリウム等が好ましい。これらの植物及び発光誘起物質の組み合わせとすることで、被検物質の複合的ストレス抵抗性誘導能力を良好に評価することができる。
【0045】
また、第3の形態において、植物の試料に基準物質や被検物質を接触させた後、静置する時間は、2〜72時間とすることが好ましく、2〜24時間とすることがより好ましい。さらに、発光誘起物質の接触時点からの温度は、20〜28℃とすることが好ましく、細胞の培養条件と同等とすることがより好ましい。これらの条件を満たさないと、発光を良好に生じさせて、発光強度の比較を十分に行うことが困難となる傾向にある。
【0046】
[抵抗性誘導能力評価装置]
次に、上述した抵抗性誘導能力評価方法に用いることができる抵抗性誘導能力評価装置の好適な実施形態について説明する。
【0047】
図1は、好適な実施形態の抵抗性誘導能力評価装置の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、抵抗性誘導能力評価装置100は、暗箱10(測定容器)と、この暗箱10内にそれぞれ設置された、試料保持部20、光検出装置30(光検出手段)、試薬調製部40及び分注装置50(試薬搬送手段)と、暗箱10外に設置され、光検出部30に接続された演算装置60とを備えた構成を有している。
【0048】
まず、暗箱10は、外部からの光の侵入を極力排除できるとともに、内部を所定の温湿度条件に設定できるものである。このような暗箱10により、光検出装置30による植物の試料からの光の検出がより正確になされるようになる。
【0049】
試料保持部20は、暗箱10内に設置されており、試料収容部22を複数有している。この試料収容部22に、植物の試料等を収容することができる。
【0050】
また、光検出装置30は、暗箱10内において、試料収容部22内に収容された植物の試料からの発光を検出できるように試料保持部20と対向して配置されている。光検出装置30は、図示のように、複数の試料収容部22における発光を検出できるように、一方向に試料収容部22と同数の光検出部32を有していてもよい。この光検出装置30は、例えば、光子(フォトン)数による計測が可能となるように、光電子増倍管等を備える(図示せず)。
【0051】
試薬調製部40は、暗箱10内において、試料保持部20と併設されている。この試薬調製部40は、内部に被検物質、基準物質、発光誘起物質等を溶媒等とともに収容できる試薬収容部42を複数有している。この試薬収容部42は、上述した試料保持部20における試料収容部22と対応するように設けられている。試薬調製部40が暗箱10内に設置されることで、後述する分注装置50における搬送の際に、被検物質、基準物質又は発光誘起物質等の試薬を外部環境に晒さずに試料保持部20に移動させることができる。これにより、温度や乾燥等による試薬の劣化等を低減してより正確な評価を行うことが可能となる。
【0052】
分注装置50は、暗箱10内において、試薬調製部40から試料保持部20に被検物質等を搬送できる装置である。この分注装置50は、注入部52において、試薬調製部40における試薬収容部42から被検物質、基準物質又は発光誘起物質を汲み取り、移動してこれらを試料保持部20における試料収容部22に注入することができる。これにより、試料収容部42内に収容された植物の試料に、被検物質等を供給して接触させることができる。複数の注入部52は、複数の試薬収容部42や試料収容部22と対向できるように複数設けられていてもよい。
【0053】
さらに、演算装置60は、暗箱10の外部に設けられ、光検出部30と接続されている。この演算装置60は、光検出装置30によって検出された光子(フォトン)数を計測することができ、計測された時間ごとの光子数を、植物の試料から生じた発光の強度として測定する。得られた光子数は、時間ごとの光子数としてグラフ化され、これにより発光の強度を経時的に測定することができる。
【0054】
このような抵抗性誘導能力評価装置100を用いて抵抗性誘導能力評価方法を実施する場合、まず、試料保持部20における複数の試料収容部22に、それぞれ、好適な状態にまで培養された植物の試料を収容する。この複数の試料収容部22に収容する植物の試料は、上述したように、同時に培養された同一の株であることが好ましい。
【0055】
また、試薬保持部40における試薬収容部42に、基準物質及び被検物質をそれぞれ収容する。基準物質は、試薬収容部42の少なくとも一カ所に収容すればよい。また、被検物質は、異なる種類のものをそれぞれ別の試薬収容部42に収容してもよい。これにより、複数の被検物質の評価を同時に行うことができる。また、例えば異なる濃度の被検物質をそれぞれ別の試薬収容部42に収容してもよい。こうすれば、濃度による被検物質の抵抗性誘導能力の程度を評価することができる。
【0056】
次いで、分注装置50における注入部52により、試薬保持部40における試薬収容部42内の被検物質、基準物質を汲み上げた後、分注装置50を試料保持部20側に移動させて、注入部52から対応する位置の試料収容部22に被検物質、基準物質を供給する。これにより、植物の試料と被検物質又は基準物質とが接触する。試料保持部20においては、被検物質又は基準物質と接触した植物の試料を、好適な時間、静置する。
【0057】
次いで、試薬保持部40における複数の試薬収容部42に、発光誘起物質を収容する。なお、被検物質又は基準物質の場合とは別の試薬保持部を設け、これに発光誘起物質を収容しておいてもよい。それから、上述した好適な静置時間が経過したら、分注装置50により発光誘起物質を試料保持部20に搬送し、これを、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に供給し、接触させる。
【0058】
発光誘起物質との接触により、植物の試料は、発光誘起物質により誘起される抵抗反応を生じて、試料収容部22内で発光を生じることになる。この発光は、試料収容部22に対向して配置された光検出装置30の各検出部32で検出され、演算装置60によって、時間ごとの光子数として発光強度が経時的に計測される。
【0059】
このようにして計測された被検物質を用いた場合の発光強度(比較発光強度)と、基準物質を用いた場合の発光強度(基準発光強度)とを比較することで、上述したように、被検物質による植物への抵抗性誘導能力を評価することができる。この比較は、例えば、演算装置60において自動的に行うこともできる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、必ずしも上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
[病害抵抗性誘導能力の評価]
(評価1)
まず、コムギの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、120rpmの条件で13日間培養して、対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料を得た。
【0063】
次に、培養したコムギの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0064】
次いで、被検物質としてメチルジャスモン酸(MJ、200μM、溶媒;DMF)、基準物質としてジメチルホルムアミド(DMF)を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0065】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を被検物質又は基準物質と接触された植物の試料にそれぞれ接触させたものを準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0066】
この測定においては、発光誘起物質を接触させなかった(本実施例では水を接触)対象試験の発光強度をベースとし、これと発光誘起物質を接触させた場合に得られた発光強度とを対比して、発光誘起物質によって誘起された発光強度を評価する。そして、この発光強度を、被検物質(抵抗性を誘導する物質)を接触させた場合と、基準物質(抵抗性を誘導しない物質)を接触させた場合とで比較することで、被検物質によって誘導された抵抗性に基づく発光増強の程度を評価することができる。
【0067】
図2は、評価1における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図2に示すように、被検物質としてメチルジャスモン酸を接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光強度が大きくなっていた。これにより、メチルジャスモン酸は、コムギに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0068】
メチルジャスモン酸は、傷害により誘導される病害抵抗性(WSR)の経路で病害抵抗反応を増強するものである。したがって、本発明の評価方法によればWSRの経路で病害抵抗性を誘導する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0069】
(評価2)
まず、バレイショの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、20℃、暗所、120rpmの条件で10日間培養して、対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料を得た。
【0070】
次に、培養したバレイショの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0071】
次いで、被検物質としてメチルジャスモン酸(50μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0072】
その後、エリシターであるアラキドン酸(AA、20μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、DMFを接触させた試料をそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0073】
図3は、評価2における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図3に示すように、被検物質としてメチルジャスモン酸を接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、メチルジャスモン酸は、バレイショに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0074】
(評価3)
まず、イネの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、120rpmの条件で9日間培養して、対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料を得た。
【0075】
次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0076】
次いで、被検物質としてエチレン(10ppm)を用い、植物の試料に接触させるとともに、基準物質は用いずに無処理とした植物の試料を準備し、24時間静置した。
【0077】
その後、エリシターであるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質と接触された植物の試料及び無処理の植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、エリシターの代わりに、水を接触させた試料をそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0078】
図4は、評価3における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図4に示すように、被検物質としてエチレンを接触させた場合、無処理とした場合に比して、エリシターの接触による発光強度が大きくなっていた。これにより、エチレンは、イネに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0079】
エチレンは、根圏微生物が誘導する病害抵抗性(ISR)の経路で病害抵抗反応を増強するものである。したがって、本発明の評価方法によればISRの経路で病害抵抗性を誘導する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0080】
(評価4)
まず、コムギの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したコムギの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移して24時間静置した。
【0081】
次いで、被検物質としてエチレン(10ppm)を用い、植物の試料に接触させるとともに、基準物質は用いずに無処理とした植物の試料を準備し、24時間静置した。
【0082】
その後、エリシターであるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質と接触された植物の試料及び無処理の植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、エリシターの代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0083】
図5は、評価4における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図5に示すように、被検物質としてエチレンを接触させた場合、無処理とした場合に比して、エリシターの接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、エチレンは、コムギに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0084】
(評価5)
まず、バレイショの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したバレイショの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0085】
次いで、被検物質としてブラシノライド(BL、200μM、溶媒:DMSO)、基準物質としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0086】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるアラキドン酸(AA、20μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、DMFを接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0087】
図6は、評価5における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図6に示すように、被検物質としてブラシノライドを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、ブラシノライドは、バレイショに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0088】
ブラシノライドは、ブラシノステロイドを介する病害抵抗性(BDR)の経路で病害抵抗反応を増強するものである。したがって、本発明の評価方法によればBDRの経路で病害抵抗性を誘導する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0089】
(評価6)
まず、ブドウの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、110rpmの条件で14日間培養して、対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料を得た。
【0090】
次に、培養したブドウの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0091】
次いで、被検物質としてブラシノライド(BL、200μM、溶媒:DMSO)、基準物質としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0092】
その後、発光誘起物質(エリシター)である酵母エキス(YE、0.3mg/mL)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0093】
図7は、評価6における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図7に示すように、被検物質としてブラシノライドを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光強度が大きくなっていた。これにより、ブラシノライドは、ブドウに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0094】
(評価7)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0095】
次いで、被検物質としてβ−アミノ酪酸(BABA、500μM、溶媒:水)、基準物質として水を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0096】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0097】
図8は、評価7における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図8に示すように、被検物質としてBABAを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、BABAは、イネに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0098】
BABAは、β−アミノ酸が誘導する病害抵抗性(BABA−IR)の経路で病害抵抗反応を増強するものである。したがって、本発明の評価方法によればBABA−IRの経路で病害抵抗性を誘導する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
(評価8)
まず、バレイショの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0099】
次いで、被検物質としてβ−アミノ酪酸(BABA、500μM、溶媒:水)、基準物質として水を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0100】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるアラキドン酸(AA、20μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、DMFを接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0101】
図9は、評価8における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図9に示すように、被検物質としてBABAを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、BABAは、バレイショに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0102】
(評価9)
まず、バレイショの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したバレイショの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0103】
次いで、被検物質としてアシベンゾラル−S−メチル(ASM、20μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0104】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるアラキドン酸(AA、20μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、DMFを接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0105】
図10は、評価9における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図10に示すように、被検物質としてASMを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、ASMは、バレイショに対して病害抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0106】
(評価9の対比試験)
まず、バレイショの細胞を、培養時間を11日間としたこと以外は、上記と同様にして培養した。なお、培養10〜12日目が対数増殖期の後期に当たる。次に、培養したバレイショの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した。
【0107】
次に、ペトリ皿に移した植物の試料を静置せずにすぐに用いたこと以外は、評価9と同様にして、被検物質としてASM、基準物質としてDMFを用いた場合の発光の測定を行った。
【0108】
得られた結果を図11に示す。そして、評価9の結果である図10と、評価9の対比試験の結果である図11とを対比すると、まず、植物の試料に被検物質又は基準物質を接触させる前に、24時間の静置を行った評価9の場合、エリシター添加後0〜5時間で積算した発光強度が、対象試験に対して4.9倍となっていたのに対し、この静置を行わなかった対比試験では2.3倍であった。このことから、被検物質又は基準物質の接触前に静置を行うことで、病害抵抗性誘導能力をより正確に評価できることが確認された。また、図10と図11との対比から、上記の静置を行った場合の図10では、図11と比較して、発光の増強がエリシター添加後の早い時間で顕著であり、抵抗性誘導を早めることができることも確認された。
【0109】
[環境ストレス抵抗性誘導能力の評価]
(評価10)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0110】
次いで、被検物質としてマンニトール(300mM、溶媒:水)、基準物質として水を用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0111】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0112】
図12は、評価10における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図12に示すように、被検物質としてマンニトールを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、マンニトールは、イネに対して環境ストレス抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0113】
マンニトールは、水分ストレス抵抗性の経路で環境ストレス抵抗反応を生じるものである。したがって、本発明の評価方法によれば水分ストレス抵抗性の経路で環境ストレス抵抗性を発現する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0114】
(評価10の対比試験)
まず、イネの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、120rpmの条件で14日間培養して、定常期に達した状態の植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した。
【0115】
そして、上記の植物(イネ)の試料を用い、評価10と同様にして、被検物質としてマンニトール、基準物質として水を用いた場合の発光の測定を行った。得られた結果を図13に示す。図13より、細胞の培養において対数増殖期の後期を超えた状態のものを植物の試料として用いた場合、評価10の場合と比べて、被検物質(マンニトール)による発光増強が見られておらず、抵抗性誘導能力を十分に評価できないことが判明した。
【0116】
(評価11)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0117】
次いで、被検物質としてアブシジン酸(ABA、100μM、溶媒:エタノール)、基準物質としてエタノールを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0118】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0119】
図14は、評価11における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図14に示すように、被検物質としてアブシジン酸を接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、アブシジン酸は、イネに対して環境ストレス抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0120】
アブシジン酸は、ストレスホルモンであり環境ストレス抵抗反応を生じるものである。したがって、本発明の評価方法によればストレスホルモンによる環境ストレス抵抗性を発現する場合の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0121】
[複合的ストレス抵抗性誘導能力の評価]
(評価12)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0122】
次いで、被検物質としてイミダクロプリド(TRIMAX(登録商標)、200μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0123】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0124】
図15は、評価12における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図15に示すように、被検物質としてTRIMAXを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、TRIMAXは、イネに対して抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0125】
TRIMAXは、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の両方を誘導するものであり、複合的ストレス抵抗反応を生じるものである。したがって、本発明の評価方法によれば複合的ストレス抵抗性を発現する被検物質の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0126】
(評価13)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0127】
次いで、被検物質としてピラクロストロビン(Headline(登録商標)、20μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0128】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、被検物質又は基準物質と接触された植物の試料に接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0129】
図16は、評価13における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図16に示すように、被検物質としてHeadlineを接触させた場合、基準物質を接触させた場合に比して、発光誘起物質の接触による発光の強度が大きくなっていた。これにより、Headlineは、イネに対して抵抗性誘導能力を有することが確認された。
【0130】
Headlineも、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の両方を誘導するものであり、複合的ストレス抵抗反応を生じるものである。したがって、本発明の評価方法によれば複合的ストレス抵抗性を発現する被検物質の評価も十分に行うことができることが判明した。
【0131】
[高温ストレス抵抗性誘導能力の評価]
(評価14)
まず、イネの細胞を、上記と同様に培養して植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した後、24時間静置した。
【0132】
次いで、得られた植物の試料の一部に、35℃4時間の熱処理を行い、また、別の一部を24℃で4時間維持する2通りの処理を施した。
【0133】
それから、発光誘起物質(エリシター)であるキチン(6量体キチン、1μM)を、上記2通りの処理が施された植物の試料のそれぞれに接触させ、この時点から発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を接触させたものをそれぞれ準備し、発光を測定する対象試験を行った。
【0134】
図17は、評価14における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。図17に示すように、35℃の熱処理を施した場合、ほぼ室温(24℃)で維持した場合に比べて発光が増強されており、35℃の処理によって、植物に高温ストレスに対する抵抗性が誘導されていることが確認された。
【0135】
この結果から、35℃の処理に代えて、高温ストレス抵抗性を誘導できる被検物質で処理した場合でも、高温ストレス抵抗性誘導による発光の増強を確認することができることが予想され、したがって、本発明の方法によれば、被検物質の高温ストレス抵抗性誘導能力も評価できることが判明した。
【0136】
(評価14の対比試験)
まず、イネの細胞を、ビタミン、糖及びホルモンを添加したMS培地中で、25℃、暗所、120rpmの条件で14日間培養して、定常期に達した状態の植物の試料を得た。次に、培養したイネの細胞を用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した。
【0137】
そして、上記の植物(イネ)の試料を用い、評価14と同様にして、35℃の熱処理を施した場合、及び24℃で維持した場合のそれぞれの発光の測定を行った。得られた結果を図18に示す。図18より、細胞の培養において対数増殖期の後期を超えた状態のものを植物の試料として用いた場合、評価14の場合と比べて、高温(35℃)ストレス誘導による発光増強が見られておらず、高温ストレス抵抗性誘導能力を十分に評価できないことが判明した。
【0138】
[細胞の培養時間と発光誘起物質による発光増強効果との関係の評価]
(評価15)
植物の試料として、ブドウの細胞の培養を上記と同様の条件で行い、培養時間を0(植物植え継ぎ直後)〜10週の間で一週ずつ代えたものをそれぞれ準備した。次に、培養したブドウの細胞をそれぞれ用い、細胞と水分とが1:2となるように上清を除いて細胞懸濁液とし、得られた細胞懸濁液の3mLをプラスチック製の小型のペトリ皿に移した
【0139】
次いで、抵抗性誘導物質としてアシベンゾラル−S−メチル(ASM、20μM、溶媒:DMF)、基準物質としてDMFを用い、これらをそれぞれ植物の試料に接触させたのち、2時間静置した。
【0140】
その後、発光誘起物質(エリシター)であるケイ酸カリウム(1mM)を、それぞれの植物の試料に接触させ、この時点から各植物の試料の発光の測定を開始した。また、発光誘起物質の代わりに、水を各植物の試料に接触させたものも準備し、これらの発光を測定する対象試験も行った。
【0141】
そして、それぞれの試料で得られた発光測定の結果から、ASMによる発光増強(ASMを接触させた場合とさせなかった場合との発光強度の比)を求めた。得られた結果を図19に示す。図19は、細胞の培養時間に対する、それぞれの培養時間で培養して得られた植物の試料を用いた場合の発光増強を示すグラフである。なお、図19中、各試料における培養時間で得られた細胞量を対比のために示した。
【0142】
図19より、培養時間が3週において、ブドウの細胞が対数増殖期の後期に達しており、この時点の細胞を用いた植物の試料を用いた場合に、エリシターによる発光増強が顕著に高められることが判明した。これよりも培養時間が長くても短くても、エリシターによる発光増強が大幅に小さくなっていた。このことから、対数増殖期の後期にない細胞による植物の試料を用いた場合、抵抗性誘導を十分に正確に評価するのが困難となる場合もあることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】好適な実施形態の抵抗性誘導能力評価装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】評価1における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図3】評価2における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図4】評価3における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図5】評価4における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図6】評価5における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図7】評価6における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図8】評価7における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図9】評価8における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図10】評価9における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図11】評価9の対比試験における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図12】評価10における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図13】評価10の対比試験における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図14】評価11における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図15】評価12における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図16】評価13における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図17】評価14における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図18】評価14の対比試験における、エリシター添加後の時間に対する各試料で得られた時間ごとの光子数を示すグラフである。
【図19】評価15における、細胞の培養時間に対する、それぞれの培養時間で培養して得られた植物の試料を用いた場合の発光増強を示すグラフである。
【符号の説明】
【0144】
100…抵抗性誘導能力評価装置、10…暗箱、20…試料保持部、22…試料収容部、30…光検出装置、32…光検出部、40…試薬調製部、42…試薬収容部、50…分注装置、52…注入部、60…演算装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価方法であって、
前記植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料、及び、発光誘起物質を用い、
前記植物の試料を静置した後、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させて静置し、前記発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、
前記植物の試料を静置した後、被検物質を接触させて静置し、前記発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、
前記基準発光強度と前記比較発光強度とを比較して、前記被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する、ことを特徴とする抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項2】
前記抵抗性誘導能力が、病害抵抗性誘導能力である、ことを特徴とする請求項1記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項3】
前記抵抗性誘導能力が、環境ストレス抵抗性誘導能力である、ことを特徴とする請求項1記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項4】
前記抵抗性誘導能力が、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の複合的ストレス抵抗性誘導能力である、ことを特徴とする請求項1記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項5】
前記基準物質として、有機溶媒を用いる、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項6】
前記発光の強度として、前記発光誘起物質の接触後、経時的に測定した発光の強度を時間で積分した積分値を用いる、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項7】
植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価装置であって、
内部の温湿度条件を設定でき、外部の光を遮光可能な測定容器と、
前記測定容器内に配置され、前記植物の試料を収容する収容部を複数有する試料保持部と、
前記測定容器内に配置され、複数の前記収容部に収容された前記植物の試料のそれぞれに、被検物質又は抵抗性誘導能力を有しない基準物質を供給した後、発光誘起物質を供給する試料供給手段と、
前記測定容器内に配置され、前記収容部に収容された前記植物の試料からの発光を測定する光検出手段と、
を備えることを特徴とする抵抗性誘導能力評価装置。
【請求項8】
前記試料供給手段は、植物の試料を静置した後、被検物質又は抵抗性誘導能力を有しない基準物質を供給して更に静置し、その後、発光誘起物質を供給する、ことを特徴とする請求項7記載の抵抗性誘導能力評価装置。
【請求項1】
植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価方法であって、
前記植物の細胞を培養して対数増殖期の後期に達した状態の植物の試料、及び、発光誘起物質を用い、
前記植物の試料を静置した後、抵抗性誘導能力を有しない基準物質を接触させて静置し、前記発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して基準発光強度とし、
前記植物の試料を静置した後、被検物質を接触させて静置し、前記発光誘起物質を更に接触させて、生じる発光の強度を測定して比較発光強度とし、
前記基準発光強度と前記比較発光強度とを比較して、前記被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する、ことを特徴とする抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項2】
前記抵抗性誘導能力が、病害抵抗性誘導能力である、ことを特徴とする請求項1記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項3】
前記抵抗性誘導能力が、環境ストレス抵抗性誘導能力である、ことを特徴とする請求項1記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項4】
前記抵抗性誘導能力が、病害抵抗性及び環境ストレス抵抗性の複合的ストレス抵抗性誘導能力である、ことを特徴とする請求項1記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項5】
前記基準物質として、有機溶媒を用いる、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項6】
前記発光の強度として、前記発光誘起物質の接触後、経時的に測定した発光の強度を時間で積分した積分値を用いる、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の抵抗性誘導能力評価方法。
【請求項7】
植物に対する被検物質の抵抗性誘導能力の高さを評価する抵抗性誘導能力評価装置であって、
内部の温湿度条件を設定でき、外部の光を遮光可能な測定容器と、
前記測定容器内に配置され、前記植物の試料を収容する収容部を複数有する試料保持部と、
前記測定容器内に配置され、複数の前記収容部に収容された前記植物の試料のそれぞれに、被検物質又は抵抗性誘導能力を有しない基準物質を供給した後、発光誘起物質を供給する試料供給手段と、
前記測定容器内に配置され、前記収容部に収容された前記植物の試料からの発光を測定する光検出手段と、
を備えることを特徴とする抵抗性誘導能力評価装置。
【請求項8】
前記試料供給手段は、植物の試料を静置した後、被検物質又は抵抗性誘導能力を有しない基準物質を供給して更に静置し、その後、発光誘起物質を供給する、ことを特徴とする請求項7記載の抵抗性誘導能力評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−236731(P2009−236731A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84091(P2008−84091)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】
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