説明

抵抗溶接の品質評価方法及び装置

【課題】抵抗溶接の品質評価を、設備の肥大化を生じることなく実現する。
【解決手段】溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップ(S120)において、抵抗溶接装置の制御パラメータである、溶接ガンに通電する電流値と、測定値である溶接ガンの電極間電圧とから、溶接ガンの電極間抵抗を示す抵抗波形を把握し、溶接品質を判定する。又、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S130)では、溶接直前の電極間距離に基づいて、溶接前の板隙の有無を把握し、板隙無しと判断される場合には、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップ(S120)における良品判定を、最終的な品質評価として採用する。なお、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S130)で、板隙有りと判断される場合には、判定結果の正確性を欠くとして、最終的な品質評価を不良品と判定する(S160)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接の品質評価方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部品同士を固定する手法として、従来から抵抗溶接が広く用いられている。そして、その溶接品質を向上させるための工夫がなされている(例えば、特許文献1、2参照)。又、抵抗溶接の溶接品質を判定する技術として、溶接ガンの電極間電圧を用いる判定方法も発案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−311426号公報
【特許文献2】特開2000−190082号公報
【特許文献3】特開2008−073703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献3記載の溶接品質の判定方法は、良否判断にあたり、被溶接材の板組み毎に異なる判断基準値(電極間抵抗値)を、予め被溶接材の全ての板組みに対応するデータテーブルとして具備する必要があった。又、溶接品質の良否判断をするための適切な判断基準値を選択するため、制御部の良否判断手段に対して、その都度、溶接前に被溶接材の板組み情報を入力する必要があった。更には、溶接ロボットを用いて連続的に溶接を行うためには、膨大な板組み情報を制御部から溶接ロボットへと送信する機器が必要となり、設備の肥大化を避けることが困難であった。
【0005】
本発明は、抵抗溶接の品質評価を、設備の肥大化を生じることなく実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップと、溶接前の電極間距離から板隙に関する溶接品質を判定するステップとを含み、前記両ステップの判定結果に基づいて溶接品質を評価する抵抗溶接の品質評価方法(請求項1)。
【0008】
本項に記載の抵抗溶接の品質評価方法は、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップにおいて、抵抗溶接装置の制御パラメータである、溶接ガンに通電する電流値と、測定値である溶接ガンの電極間電圧とから、溶接ガンの電極間抵抗を時間経過と関連付けて把握する。そして、時間経過に伴う電極間抵抗の変化態様を示す抵抗波形から、溶接品質を判定するものである。
又、溶接前の電極間距離から板隙に関する溶接品質を判定するステップでは、溶接前の電極間距離に基づいて、溶接前の板隙の有無を把握し、板隙無しと判断される場合には、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップにおける良品判定を、最終的な品質評価として採用するものである。なお、溶接前の電極間距離から板隙に関する溶接品質を判定するステップで、板隙有りと判断される場合には、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップにおいて測定される、溶接ガンの電極間電圧が不正確となる。よって、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップにおいて良品判定された場合であっても、その判定結果の正確性を欠くとして、最終的な品質評価を不良品と判定するものである。
【0009】
(2)上記(1)項の、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップにおいて得られる、時間経過に伴う電極間抵抗の変化を示す抵抗波形を、複数種類の波形パターンに区分し、それらのパターン区分毎に予め定められた良否判定を行うための寄与率が高い変数を、実際に得られた前記抵抗波形から抽出し、該抽出した変数を用いて求められる値と所定の閾値との比較により、品質判定を行う抵抗溶接の品質評価方法。
【0010】
本項に記載の抵抗溶接の品質評価方法は、溶接ガンに通電する電流値と、溶接ガンの電極間電圧の測定値とから求められる抵抗波形をパターン区分するための、複数の波形パターン情報と、各波形パターン情報に付随する、良否判定を行うための寄与率が高い変数の種別情報と、当該変数を用いて求められる値と比較するための閾値とを、予め、データテーブルとして具備する。一方、無限に存在し得る被溶接材の板組み情報を、データテーブルとして具備する必要はない。
【0011】
(3)上記(2)項において、電極間電圧の検出時間の全体にわたる波形形状と、電極間電圧の検出時間を複数の時間帯に区分し、最大抵抗値及び最少抵抗値が現れた各時間帯とに基づき、抵抗波形をパターン区分することを特徴とする抵抗溶接の品質評価方法。
【0012】
本項に記載の抵抗溶接の品質評価方法は、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップにおいて、電極間電圧の検出時間の全体にわたる波形形状と、最大抵抗値及び最少抵抗値が現れた各時間帯とを、抵抗波形をパターン区分する際の判断項目として採用し、抵抗波形のパターン化を行うものである。
【0013】
(4)上記(1)から(3)項の、溶接前の電極間距離から板隙に関する溶接品質を判定するステップにおいて、溶接ガンの設定加圧力到達時の電極間距離から、被溶接部材の溶接前の総板厚を差し引いた値を、板隙量とする抵抗溶接の品質評価方法。
【0014】
本項に記載の品質評価方法は、溶接ガンの設定加圧力到達時の電極間距離から、被溶接部材の溶接前の総板厚を差し引いた値が零である場合は、板隙無しと判断するものである。すなわち、溶接ガンの設定加圧力到達時に、板隙無く被溶接部材同士が密着していれば、この時点での電極間距離と、被溶接部材の総板厚とが一致するからである。
一方、溶接ガンの設定加圧力到達時に板隙が存在する場合には、被溶接部材の総板厚に板隙分が加算された値が電極間距離として測定される。よって、溶接ガンの設定加圧力到達時の電極間距離から、被溶接部材の溶接前の総板厚を差し引いた値が正の値である場合には、板隙有りと判断するものである。
【0015】
(5)上記(1)から(4)項において、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップを含む抵抗溶接の品質評価方法(請求項2)。
【0016】
本項に記載の品質評価方法は、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップにおいて、板厚減少率が所定の閾値に満たない場合には、「端打ち」が発生していると判断して、溶接品質を不良品と判定するものである。ここで「端打ち」とは、被溶接部材の端部から溶接ナゲットが飛び出す等によって、板厚減少率が許容範囲を超えて低くなってしまう現象である。この「端打ち」は、例えば、被溶接部材を複数点で溶接する際に、少なくとも一方の被溶接部材の端部に溶接打点を設定せざるを得ないようなケースにおいて、不可避的に発生する。
なお、設定された打点位置から「端打ち」が発生しないことが明らかな場合や、「端打ち」の程度によっては、良品と判定し得るケースも存在するために、本ステップは、選択的に採用するものとする。
【0017】
(6)上記(5)項において、前記溶接前の電極間距離から板隙に関する溶接品質を判定するステップ、及び、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップの後に、前記溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップを実行する抵抗溶接の品質評価方法(請求項3)。
【0018】
前記溶接前の電極間距離から板隙に関する溶接品質を判定するステップ、及び、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップを実施した時点で、溶接品質を不良品と判定した場合であっても、溶接条件の変更や溶接位置の再調整を行って、再度、被溶接部材に抵抗溶接を施すことで、これらのステップにおける判定が良品となる場合がある。このような場合には、良否判断に多くの時間をかけることなく、可及的速やかに再溶接工程へと進むことが望ましい。
そこで、本項に記載の品質評価方法では、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップを除く、上記二つのステップの一方又は双方を先に実行し、その時点で不良品と判定され、かつ、再溶接に回すことが可能な被溶接部材については、前記溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップを実行することなく、再溶接工程へと移行するものである。
【0019】
(7)溶接ガンの電極間距離を測定する距離測定手段と、溶接時の電極間抵抗値を測定する抵抗値測定手段と、前記距離測定手段によって測定された溶接直前の電極間距離から溶接品質を判定する板隙判定部と、前記抵抗値測定手段によって測定された電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定する抵抗波形判定部とを含む抵抗溶接の品質評価装置(請求項4)。
【0020】
本項に記載の抵抗溶接の品質評価装置は、抵抗値測定手段において、抵抗溶接装置の制御パラメータである、溶接ガンに通電する電流値と、測定値である溶接ガンの電極間電圧とから、溶接ガンの電極間抵抗を時間経過と関連付けて把握する。そして、抵抗波形判定部において、時間経過に伴う電極間抵抗の変化を示す抵抗波形から、溶接品質を判定するものである。
又、距離測定手段において、溶接ガンの電極間距離を測定し、溶接直前の電極間距離に基づいて、溶接前の板隙の有無を把握し、板隙無しと判断される場合には、抵抗波形判定部における良品判定を、最終的な品質評価として採用するものである。一方、板隙有りと判断される場合には、抵抗値判定手段において測定される溶接ガンの電極間電圧が不正確となることから、抵抗波形判定部において良品判定された場合であっても、その判定結果の正確性を欠くとして、最終的な品質評価を不良品と判定するものである。
【0021】
(8)上記(7)項において、前記距離測定手段によって測定された溶接後の電極間距離と予め入力された被溶接部材の板厚とから板厚減少率を割出し、当該板厚減少率に基づいて溶接品質を判定する板厚減少率判定部を更に含む抵抗溶接の品質評価装置(請求項5)。
【0022】
本項に記載の抵抗溶接の品質評価装置は、板厚減少率検出部において、距離測定手段によって測定された溶接後の電極間距離と予め入力された被溶接部材の板厚とから板厚減少率を割出し、板厚減少率が所定の閾値に満たない場合には、板厚減少率判定部において「端打ち」が発生していると判断して、溶接品質を不良品と判定するものである。
なお、設定された打点位置から「端打ち」が発生しないことが明らかな場合や、「端打ち」の程度によっては、良品と判定し得るケースも存在するために、板厚減少率検出部は、選択的に採用するものとする。
【発明の効果】
【0023】
本発明はこのように構成したので、抵抗溶接の品質評価を、設備の肥大化を生じることなく実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る、抵抗溶接の品質評価装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る、抵抗溶接の品質評価装置を構成する溶接ロボットと、その溶接ガンの電極によって被溶接部材を加圧した状態とを、拡大図示したものである。
【図3】本発明の実施の形態に係る、抵抗溶接の品質評価方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係る、抵抗溶接の品質評価方法の応用例を示すフローチャートである。
【図5】(a)は、本発明の実施の形態に係る、抵抗溶接の品質評価装置の、抵抗値測定手段において、抵抗溶接装置の制御パラメータである、溶接ガンに通電する電流値と、測定値である溶接ガンの電極間電圧とから、溶接ガンの電極間抵抗を時間経過と関連付けて把握される抵抗波形を示す模式図であり、(b)は、(a)の抵抗波形から抽出される各種パラメータを例示する図表である。
【図6】本発明の実施の形態に係る、抵抗溶接の品質評価装置の抵抗波形判定部において実行される、抵抗波形のパターン区分を例示した図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る、抵抗溶接の品質評価装置の抵抗波形判定部において品質判定を行う際に用いられる変数を例示する図表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて説明する。
本発明の第1の実施の形態に係る抵抗溶接の品質評価装置10は、図1に示される電圧値検出部12として、図2に示される溶接ロボット14の溶接ガン16に、電圧検出線18を設置している。この電圧検出線18により、溶接ガン16の電極20によって被溶接部材W1、W2を加圧し、電極20からの通電によって抵抗溶接を行う際の、電極間電圧を測定する。なお、溶接ガン16に対して電圧検出線18を装着する手法は、固定金具やタイラップ等、適宜使用可能な固定手段を用いることとする。
【0026】
又、図1に示される電流値検出部22は、抵抗溶接装置の一般的な制御パラメータである、溶接ガン16に通電する電流値を検出するものであり、溶接ガン16の制御装置に含まれるものである。又、溶接ガン16の制御装置を構成する溶接タイマー24には、通常の溶接タイマーと同様に、溶接条件テーブル26と溶接条件抽出部28とが含まれている。
加えて、本発明の実施の形態では、溶接タイマー24に、電圧値検出部12で検出された電極間電圧と、電流値検出部22で検出された溶接ガン16に通電する電流値とに基づき、電極間抵抗値を算出する抵抗値変換部30を備えている。従って、電圧値検出部12、電流値検出部22及び抵抗値変換部30は、溶接時の電極間抵抗値を測定する「抵抗値測定手段」である。更に、溶接タイマー24には、後述する抵抗値波形に基づき溶接品質を判定する抵抗波形判定部32と、抵抗波形判定部32における溶接品質の良否判定に用いられる、抵抗波形判定式が記憶されたテーブル34とを備えている。
【0027】
又、ロボット14の制御装置には、板隙検出部36と、板厚減少率検出部38とを備えている。板隙検出部36は図2に示される溶接ロボット14の、ロボットアームのガン軸モータ40に設置されたエンコーダ42により得られる、電極20、20間の距離から、被溶接部材W1、W2間に板隙があるか否かを把握するものである。具体的には、溶接ガン16の電極20によって被溶接部材W1、W2を加圧し、設定加圧に到達した時(ガン軸モータ40の電圧変化から把握される)のエンコーダ42の値から、被溶接部材W1、W2の総板厚(予め入力された既知の値)を差し引くことで、板隙を把握するものである。すなわち、エンコーダ42は、抵抗溶接装置の、溶接ガンの電極間距離を測定することが可能な「距離測定手段」である。
又、板厚減少率検出部38は、溶接前後のエンコーダ42の値の差値を、被溶接部材W1、W2の総板厚で除することで、板厚減少率を把握するものである。
【0028】
そして、パーソナルコンピュータ等の演算装置により構成される、検査装置(本体)44には、溶接品質判定部46と、板隙テーブル48と、板厚減少率テーブル50とを備えている。ここで、溶接品質判定部46は、溶接タイマー24の抵抗波形判定部32から得られる、抵抗波形に基づく溶接品質の良否判定結果と、ロボット14の板隙検出部36から得られる板隙(量)と、板厚減少率検出部38から得られる板厚減少率とを受けて、溶接品質の総合的な良否判断を行うものである。板隙に基づく良否判定は、板隙テーブル48に記憶された閾値と、板隙検出部36から得られる値との比較により行われる。又、板隙減少率に基づく良否判定は、板厚減少率テーブル50に記憶された閾値と、板厚減少率検出部38から得られる値との比較により行われる。
従って、溶接品質判定部46は、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定する「板隙判定部」であり、なおかつ、板厚減少率検出部38で得られる板厚減少率に基づき、溶接品質を判定する「板厚減少率判定部」でもある。
【0029】
続いて、図1〜図3を参照しながら、本発明の実施の形態に係る抵抗溶接の品質評価手順について説明する。
S100:溶接タイマー24の溶接条件テーブル26から、溶接条件抽出部28によって、被溶接部材W1、W2の適した溶接条件を抽出し、溶接ガン16によって被溶接部材W1、W2の抵抗溶接を行う。
S110:上記S100にて実施された抵抗溶接の抵抗データを送信する。抵抗データは、上述のように抵抗値変換部30によって得られ、抵抗波形判定部32へと送信されるものである。
S120:抵抗波形判定部32において、電極間抵抗波形パターン判別分析による判定を行う。本ステップは、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するものである。
この判定手順は、具体的には、以下のS121〜S125の通りである。なお、本ステップにおける判定結果は、検査装置(本体)44の溶接品質判定部46へと送信され、良品と判定される場合には(OK)、S130へと移行する。一方、電極間抵抗波形パターン判別分析による判定がNGの場合には、不良品(S160)と判定される。
【0030】
以下、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップの詳細ステップである、S121〜S125について、図5〜図7を参照しながら説明する。
S121:抵抗値変換部30によって得られた、溶接ガン16の電極間抵抗値に基づき、図5(a)に示される抵抗波形を求める。この抵抗波形は、電極間抵抗値(μΩ)を、時間経過(1サイクル1/60秒)と関連付けて把握したものである。図示の例では、計測開始から1.0サイクル経過後から設定時間Tまでを、検出区間(検出時間)とする。
S122:上記S121で得られた抵抗波形(図5(a))から、図5(b)に示される各種パラメータを抽出する。このパラメータには、初期抵抗値Rs、最大抵抗値Rmax、最少抵抗値Rmin、最終抵抗値Reが含まれる。
S123:上記S121で得られた抵抗波形を、図6に示される、複数種類の波形パターンに区分する。図6の例では、A.一般波形、B.右下がり波形、C.ルート型波形、D.水平型波形の区分が示されている。これらの各波形は、電極間電圧の検出区間の全体にわたる波形形状と、最大抵抗値Rmax及び最少抵抗値Rminが現れた時間Tmax、Tminが含まれる各時間帯とを判断項目として採用し、抵抗波形をパターン区分したものである。
S124:図5(b)に示される各種パラメータに基づき、図7に示される、抵抗波形に基づく良否判定を行うための変数を求める。図7の例では、X1〜X31の31種類の変数が挙げられている。そして、図5(a)に示される抵抗波形の波形パターンの、予め定められた良否判定を行うための寄与率が高い変数を抽出する。図5(a)に示される抵抗波形は図6の「A.一般波形」に属し、寄与率が高い変数として、例えば、X5(最大変化量の傾き)、X24(最小値割合)、X26(最終変化割合)、X27(減少率1)、X28(減少率2)が抽出される。そして、これらの変数を用いて、抵抗波形に基づく良否判断に用いる値(本説明の便宜上(Hn1_A)と表示する。)を、パターン区分毎に設定された算術式に取り込んで算出する。
なお、上記の寄与率が高い変数Xnはパターン区分毎に異なり、いずれの変数を抽出するかについては、経験則等に基づいて決められるものである。又、パターン区分毎に設定された算術式についても同様である。
S125:上記S124で求めた、値(Hn1_A)と、図5(a)に示される抵抗波形が属する波形パターン(A.一般波形)の、所定の閾値との比較により、品質判定を行う。例えば、閾値は50とし、Hn1_Aが50以上のとき、不良品と判定する。
【0031】
S130:検査装置(本体)44の溶接品質判定部46において、板隙(電極間距離)による判定を行う。本ステップは、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するものである。
この判定は、前述のように、溶接ガン16の電極20によって被溶接部材W1、W2を加圧し、設定加圧に到達した時のエンコーダ42の値から、被溶接部材W1、W2の総板厚(既知)を差し引くことで、板隙を把握するものである。ここで、板隙無しと判断されると(OK)、S140へと移行する。一方、板隙有りと判断される場合には、不良品(S160)と判断される。
S140:検査装置(本体)44の溶接品質判定部46において、板厚減少率による判定を行う。本ステップは、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するものである。
検査装置(本体)44の溶接品質判定部46では、ロボット14の板厚減少率検出部38から送信される板厚減少率が、所定の閾値に満たない場合には、端打ちが発生していないと判断され(OK)、良品(S150)と判定される。一方、板厚減少率が所定の閾値を上回る場合には、端打ちが発生していると判断され、不良品と判定される(S160)。
なお、設定された打点位置から「端打ち」が発生しないことが明らかな場合や、「端打ち」の程度によっては、良品と判定し得るケースも存在するため、本ステップは、選択的に実行するものとする。
S160:上記S120〜S14の各ステップの何れか1つでも、良判定されない場合には(NG)、検査装置(本体)44の溶接品質判定部46において、不良品と判定される。
【0032】
又、図4には、図3の抵抗溶接の品質評価手順の応用例が示されているが、両者の相違点は以下の通りである。
S200:図3のS100と同じである。
S210:図3のS110と同じである。
S220:図3のS130と同じである。
S230:図3のS140と同じである。
S240:図3のS120と同じである。
S250:図3のS150と同じである。
S260:図3のS160と同じである。
【0033】
すなわち、図4の例は、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S220)、及び、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップ(S230)の後に、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップ(S240)を実行するものである。
そして、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S220)で不良品と判定された場合(NG)であっても、溶接条件の変更を行って、再度、被溶接部材に抵抗溶接を施すことで、このステップにおける判定が良品となり得る場合には、再度、溶接(S200)を行うものである。同様に、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップ(S230)で不良品と判定された場合(NG)であっても、溶接位置の再調整を行って、再度、被溶接部材に抵抗溶接を施すことで、このステップにおける判定が良品となり得る場合には、再度、溶接(S200)を行うものである。
【0034】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態により得られる作用効果は、以下の通りである。
すなわち、本発明の実施の形態に係る抵抗溶接の品質評価方法は、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップ(S120、S240)において、抵抗溶接装置の制御パラメータである、溶接ガン16に通電する電流値と、測定値である溶接ガン16の電極間電圧とから、溶接ガン16の電極間抵抗を時間経過と関連付けて把握する(図5(a))。そして、時間経過に伴う電極間抵抗の変化態様を示す抵抗波形から、溶接品質を判定するものである。
【0035】
又、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S130、S220)では、溶接直前の電極間距離に基づいて、溶接前の板隙の有無を把握し、板隙無しと判断される場合には、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップ(S120、S240)における良品判定を、最終的な品質評価として採用するものである。なお、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S130、S220)で、板隙有りと判断される場合には、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップ(S120、S240)において測定される、溶接ガン16の電極間電圧が不正確となることから、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から品質を判定するステップ(S120、S240)において良品判定された場合であっても、その判定結果の正確性を欠くとして、最終的な品質評価を不良品と判定するものである(S160、S260)。
【0036】
又、本発明の実施の形態では、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S130、S220)において、溶接ガン16に通電する電流値と、溶接ガン16の電極間電圧の測定値とから求められる抵抗波形をパターン区分するための、複数の波形パターン情報(図6)と、各波形パターン情報に付随する、良否判定を行うための寄与率が高い変数の種別情報(図7)と、当該変数を用いて求められる値(Hn1_A)と比較するための閾値とを、予め、データテーブル34として具備する。
しかしながら、従来技術のように、無限に存在し得る被溶接材の板組み情報を、データテーブルとして具備する必要はなくなることから、従来技術のように、膨大な板組み情報を制御部から溶接ロボットへと送信する機器が不用となり、設備の肥大化を避けることが出来る。
【0037】
なお、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップ(S130、S220)において、電極間電圧の検出時間の全体にわたる波形形状と、最大抵抗値及び最少抵抗値が現れた各時間帯とを、抵抗波形をパターン区分する際の判断項目として採用し(図5(b)、図6)、抵抗波形のパターン化を行うものである。
【0038】
又、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S130、S220)において、溶接ガン16の設定加圧力到達時の電極間距離から、被溶接部材W1、W2の溶接直前の総板厚を差し引いた値が零である場合は、板隙無しと判断するものである。これは、溶接ガン16の設定加圧力到達時に、板隙無く被溶接部材W1、W2同士が密着していれば、この時点での電極間距離と、被溶接部材W1、W2の総板厚とが一致するからである。
一方、溶接ガン16の設定加圧力到達時に板隙が存在する場合には、被溶接部材W1、W2の総板厚に板隙分が加算された値が電極間距離として測定される。よって、溶接ガン16の設定加圧力到達時の電極間距離から、被溶接部材の溶接直前の総板厚を差し引いた値が正の値である場合には、板隙有りと判断するものである。
【0039】
又、本発明の実施の形態では、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップ(S140、S230)において、板厚減少率が所定の閾値に満たない場合には、「端打ち」が発生していると判断して、溶接品質を不良品と判定するものである(S160、S260)。
【0040】
又、溶接前の電極間距離から溶接品質を判定するステップ(S130、S220)、及び、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップ(S140、S230)を実施した時点で、溶接品質を不良品と判定した場合であっても、溶接条件の変更や溶接位置の再調整を行って、再度、被溶接部材に抵抗溶接を施すことで、これらのステップにおける判定が良品となる場合がある。このような場合には、良否判断に多くの時間をかけることなく、可及的速やかに再溶接工程へと進むことが望ましい。
そこで、図4に示されるように、溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップ(S240)を除く、上記二つのステップの一方又は双方(S220、S230)を先に実行する。そして、その時点で不良品と判断され、かつ、再溶接に回すことが可能な被溶接部材については、前記溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップ(S240)を実行することなく、再溶接工程へと移行することで、良品判定を得るまでの溶接サイクルを短縮することが出来る。
【符号の説明】
【0041】
10:抵抗溶接の品質評価装置、12:電圧検出部、14:溶接ロボット、16:溶接ガン、18:電圧検出線、20:電極、22:電流値検出部、24:溶接タイマー、26:溶接条件テーブル、28:溶接条件抽出部、30:抵抗値変換部、32:抵抗波形判定部、34:抵抗波形判定式が記憶されたテーブル、36:板隙検出部、38:板厚減少率検出部、40:ガン軸モータ、42:エンコーダ、44:検査装置(本体)、46:溶接品質判定部、48:板隙テーブル、50:板厚減少率テーブル、W1、W2:被溶接部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップと、溶接前の電極間距離から板隙に関する溶接品質を判定するステップとを含み、前記両ステップの判定結果に基づいて溶接品質を評価することを特徴とする抵抗溶接の品質評価方法。
【請求項2】
溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップを含むことを特徴とする請求項1記載の抵抗溶接の品質評価方法。
【請求項3】
前記溶接前の電極間距離から板隙に関する溶接品質を判定するステップ、及び、溶接前後の板厚減少率から溶接品質を判定するステップの後に、前記溶接時の電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定するステップを実行することを特徴とする請求項2記載の抵抗溶接の品質評価方法。
【請求項4】
溶接ガンの電極間距離を測定する距離測定手段と、溶接時の電極間抵抗値を測定する抵抗値測定手段と、前記距離測定手段によって測定された溶接直前の電極間距離から溶接品質を判定する板隙判定部と、前記抵抗値測定手段によって測定された電極間抵抗値の変化態様から溶接品質を判定する抵抗波形判定部とを含むことを特徴とする抵抗溶接の品質評価装置。
【請求項5】
前記距離測定手段によって測定された溶接後の電極間距離と予め入力された被溶接部材の板厚とから板厚減少率を割出し、当該板厚減少率に基づいて溶接品質を判定する板厚減少率判定部を更に含むことを特徴とする請求項4記載の抵抗溶接の品質評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−200765(P2012−200765A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67934(P2011−67934)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)