説明

抵抗溶接方法及びその装置

【課題】抵抗溶接においてワーク同士の間に生成する溶融部の成長の度合いを、高精度に評価する。
【解決手段】ワークW1、W2を挟持した第1電極チップ12と第2電極チップの14間に通電を行って抵抗溶接を行う最中、第1電極チップ12から第2電極チップ14に至るまでのチップ間抵抗R、第1電極チップ12の抵抗r1、第1電極チップ12とワークW1との接触抵抗r2、ワークW1の抵抗r3、ワークW2の抵抗r5、第2電極チップ14とワークW2との接触抵抗r6、第2電極チップ14の抵抗r7を求める。チップ間抵抗Rの値から抵抗r1〜r3、r5〜r7を差し引くと、ワークW1、W2同士の接触抵抗r4が得られる。この接触抵抗r4に基づき、溶融部30の径を求めることができる。抵抗r1〜r3、r5〜r7は、抵抗溶接を行う最中に変化するので、超音波を用いてリアルタイムに求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のワークを第1電極チップと第2電極チップで挟持するとともに、前記第1電極チップと前記第2電極チップとの間に通電を行うことで前記ワーク同士を接合する抵抗溶接方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接の一手法である抵抗溶接(「スポット溶接」とも指称される)は、周知の通り、互いに当接した複数個のワーク同士を1組の電極チップで挟持し、これら電極チップ同士の間に通電を行うことで前記ワーク同士を点状に溶接するものである。
【0003】
抵抗溶接は、例えば、ティーチング可能なロボットのアーム部先端に配設された溶接ガンによって行われる。すなわち、予めティーチングされた前記ロボットは、先ず、前記溶接ガンの開閉可能なクランプ部に設けられた電極チップ同士の間にワークが挿入されるように動作し、次に、前記クランプ部が閉じることで前記ワークを電極チップ同士で挟持する。この状態で前記電極チップ間に通電がなされ、ワークに溶融部が生じる。最終的に、この溶融部が凝固してナゲットと呼称される固相となることに伴って、ワークに点状の溶接部が形成される。
【0004】
このように実施される抵抗溶接において、ワークに生成する溶融部が如何なる程度に成長しているのかを調査することがある。この種の調査手法としては、例えば、特許文献1に記載されるように、電極チップ同士の間の抵抗値に基づいて溶融部の径を推測することが挙げられる。また、特許文献2には、熱伝導モデルを用いた数値解析を行い、この解析に基づいてワーク同士の接触抵抗を求める技術が記載されている。
【0005】
さらに、本出願人は、電極チップが次第に摩耗して電極チップとワークとの接触面積が変化することに起因して溶融部の界面位置の検出精度、ひいては溶融部の成長速度の計算精度が低下することを見出し、前記の変化が生じてもなお、溶融部の成長速度を高精度に評価し得る技術を提案している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−334935号公報
【特許文献2】特開平9−196881号公報
【特許文献3】特開2010−60412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記特許文献3記載の技術に関連してなされたもので、溶融部の成長の度合いを一層高精度に評価し得る抵抗溶接方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、複数個のワークを挟持した第1電極チップと第2電極チップの間に通電し、前記ワーク同士を溶接する抵抗溶接方法であって、
抵抗溶接を行う最中、前記複数個のワークを挟持した状態の前記第1電極チップから前記第2電極チップに至るまでのチップ間抵抗値を求める工程と、
前記第1電極チップ及び前記第2電極チップの各抵抗値を、該第1電極チップ及び該第2電極チップの温度に基づいて求める工程と、
前記第1電極チップと該第1電極チップに当接したワークとの第1接触抵抗値を双方の接触面積に基づいて求めるとともに、前記第2電極チップと該第2電極チップに当接したワークとの第2接触抵抗値を双方の接触面積に基づいて求める工程と、
前記複数個のワークの各々の抵抗値を、該ワークの温度に基づいて求める工程と、
前記チップ間抵抗値から、前記第1電極チップ及び前記第2電極チップの各抵抗値、前記第1接触抵抗値及び前記第2接触抵抗値、前記複数個のワークの各々の抵抗値を差し引き、前記ワーク同士の接触抵抗値を求める工程と、
を有することを特徴とする。
【0009】
なお、本明細書においていう「チップ間抵抗値」には、第1電極チップの抵抗値、及び第2電極チップの抵抗値が含まれる。すなわち、チップ間抵抗値は、第1電極チップ及び第2電極チップの両抵抗値を加味した値である。
【0010】
本発明においては、抵抗溶接に際して第1電極チップ、第2電極チップ及び複数個のワークの温度が上昇し、これに伴って抵抗が上昇したり、又は溶融部が生成することに伴って抵抗が低下したりすることを考慮して、抵抗溶接の最中の第1電極チップ、第2電極チップ及び複数個のワークの抵抗値を、温度に基づいて求めるようにしている。換言すれば、これらの抵抗値をリアルタイムで得る。
【0011】
さらに、第1電極チップと、これに当接するワークとの接触面積、及び、第2電極チップと、これに当接するワークとの接触面積も、抵抗溶接の進行に伴って変化する。ワークが軟化するので、第1電極チップ及び第2電極チップがワークに埋入し易くなるからである。
【0012】
そこで、本発明では、第1電極チップと、これに当接するワークとの接触抵抗値、及び、第2電極チップと、これに当接するワークとの接触抵抗値を、各々の接触面積の変化に基づいて求めるようにしている。すなわち、これらの接触抵抗値もリアルタイムで得る。なお、この技術については、前記特許文献3に詳述されている。
【0013】
以上のようにして求めた抵抗値を、チップ間抵抗値から差し引けば、ワーク同士の接触抵抗値を精度よく、しかも、リアルタイムで求めることができる。この接触抵抗値に基づいて、溶融部の成長の度合いを評価することができる。ワーク同士の接触抵抗値を精度よく求めることができるので、前記の評価が高精度となる。
【0014】
なお、ワーク同士の接触抵抗値に基づいて溶融部の成長の度合いを評価するには、例えば、ワーク同士の接触抵抗値と、該ワーク同士の間に形成される溶融部の径との相関関係を予め求めておく。そして、この相関関係と、実際のワーク同士の接触抵抗値とに基づいて、溶融部の径を求めるようにすればよい。
【0015】
また、本発明は、複数個のワークを挟持した第1電極チップと第2電極チップの間に通電し、前記ワーク同士を溶接する抵抗溶接装置であって、
前記第1電極チップと第2電極チップの間の通電を制御する制御部を備え、
前記制御部は、抵抗溶接を行う最中、前記複数個のワークを挟持した状態の前記第1電極チップから前記第2電極チップに至るまでのチップ間抵抗値と、
前記第1電極チップ及び前記第2電極チップの温度に基づく各抵抗値と、
前記第1電極チップと前記ワークとの接触面積に基づく該第1電極チップと前記ワークとの間の第1接触抵抗値、及び、前記第2電極チップと前記ワークとの接触面積に基づく該第2電極チップと前記ワークとの間の第2接触抵抗値と、
前記複数個のワークの温度に基づく各々の抵抗値と、
を求め、
さらに、前記チップ間抵抗値から、前記第1電極チップ及び前記第2電極チップの各抵抗値、前記第1接触抵抗値及び前記第2接触抵抗値、前記複数個のワークの各々の抵抗値を差し引き、前記ワーク同士の接触抵抗値を求めることを特徴とする。
【0016】
このような構成とすることにより、上記した抵抗溶接方法を自動的且つ容易に実施することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、抵抗溶接を行う際、電極チップ及びワークの温度が変化することに伴ってこれらの抵抗値が変化すること、及び、電極チップとワークとの接触面積が変化することの双方を考慮してワーク同士の接触抵抗値を求めるようにしている。このため、ワーク同士の接触抵抗値を一層精度よく、しかも、リアルタイムで求めることが可能となる。
【0018】
この接触抵抗値に基づいて、例えば、溶融部の径、ひいては溶融部の成長の度合いを求めることができる。上記したように、ワーク同士の接触抵抗値が精度よく求められているので、溶融部の成長の度合いを一層高精度に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る抵抗溶接装置の要部概略構成図である。
【図2】(a)は、ワーク同士の接触抵抗値と、溶融部の径の経時変化を簡易的に示すグラフであり、(b)は、ワーク同士の接触抵抗値と、溶融部の径の大小との相関関係を簡易的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る抵抗溶接方法につき、それを実施するための抵抗溶接方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
先ず、本実施の形態に係る抵抗溶接装置につき、その要部概略構成図である図1を参照して説明する。この抵抗溶接装置10は、図示しないロボットのアーム部先端に配設された開閉可能な図示しない溶接ガンを有し、該溶接ガンの先端には、第1電極チップ12と、第2電極チップ14とが互いに対向するように設けられる。図1に示すように、これら第1電極チップ12及び第2電極チップ14は、互いに積層された2枚のワークW1、W2を挟持する。従って、第1電極チップ12の先端は上方のワークW1に当接し、第2電極チップ14の先端は下方のワークW2に当接する。
【0022】
第1電極チップ12には、超音波を発信及び受信することが可能な第1送受信器16が内蔵される。同様に、第2電極チップ14にも、超音波を発信及び受信することが可能な第2送受信器18が内蔵される。
【0023】
なお、これら第1電極チップ12、第2電極チップ14のワークW1、W2に対する接触面積と、ワークW1、W2への超音波の入射波率との相関関係は、前記特許文献3に記載した公知技術によって予め求められている。
【0024】
第1送受信器16及び第2送受信器18は、エコー測定器20に接続されている。このエコー測定器20は、第1送受信器16に戻った超音波(反射波)の強度や、第2送受信器18に到達した超音波(透過波)の強度を測定することが可能である。
【0025】
さらに、溶接ガンには、第1電極チップ12の先端と第2電極チップ14の先端との離間距離、換言すれば、チップ間距離Dを測定するためのエンコーダ22が設けられる。前記チップ間距離Dは、このエンコーダ22によって常時測定される。
【0026】
以上の構成において、エコー測定器20及びエンコーダ22は、制御回路24(制御部)に電気的に接続されている。
【0027】
次に、基本的には上記のように構成される抵抗溶接装置10を用いる本実施の形態に係る抵抗溶接方法につき説明する。
【0028】
抵抗溶接において、第1電極チップ12から第2電極チップ14に至るまでのチップ間抵抗Rは、第1電極チップ12の抵抗r1、第1電極チップ12とワークW1との接触抵抗r2、ワークW1の抵抗r3、ワークW1とワークW2との接触抵抗r4、ワークW2の抵抗r5、ワークW2と第2電極チップ14との接触抵抗r6、第2電極チップ14の抵抗r7の総和である。すなわち、下記の式(1)が成立する。
R=r1+r2+r3+r4+r5+r6+r7 …(1)
【0029】
溶融部30(ナゲット)は、いうまでもなくワークW1、W2の接触界面に生成する。そして、図2に(a)及び(b)として示すように、接触抵抗r4と溶融部30の径とは相関関係があり、溶融部30の径が大きくなるほど接触抵抗r4が小さくなる。溶融部30の径が大きいと、該溶融部30に流れる電流密度が小さくなるからである。
【0030】
勿論、図2に(a)及び(b)として示す相関関係は、予備的に抵抗溶接を行って実測されたものであり、制御回路24(図1参照)に入力されている。制御回路24は、前記相関関係と接触抵抗r4の実値とに基づいて、抵抗溶接が進行する最中の溶融部30の径を判断する。従って、ワークW1、W2同士の接触抵抗r4の実値を精度よく求めることができれば、抵抗溶接が進行する最中の溶融部30の径、すなわち、溶融部30の成長の度合いを高精度に評価することが可能となる。
【0031】
このため、抵抗溶接が進行する最中の抵抗r1〜r3、r5〜r7の実値を個別に求め、チップ間抵抗Rの実値から差し引く。これにより、接触抵抗r4の実値を求めることができる。
【0032】
ここで、第1電極チップ12、ワークW1、W2及び第2電極チップ14は、抵抗溶接(通電)の最中に温度上昇を起こす。これに伴い、抵抗r1、r3、r5、r7が上昇する。従って、接触抵抗r4を精度よく求めるには、抵抗溶接を行っている最中の抵抗r1、r3、r5、r7の値を精度よく得る必要がある。
【0033】
このため、溶接抵抗を行うに先んじて、第1電極チップ12の抵抗r1の温度依存性を求める。具体的には、第1電極チップ12の抵抗値を、温度を変化させながら測定すればよい。同様にして、ワークW1、W2の各抵抗r3、r5、及び第2電極チップ14の抵抗r7の温度依存性を求める。
【0034】
一方、第1電極チップ12とワークW1との接触抵抗r2、ワークW2と第2電極チップ14との接触抵抗r6は、抵抗溶接の開始によって軟化したワークW1、W2に対して第1電極チップ12、第2電極チップ14が埋入する(換言すれば、接触面積が大きくなる)ことによって変化する。そこで、上記の通り、前記特許文献3の記載に準拠して、第1電極チップ12、第2電極チップ14のワークW1、W2に対する接触面積と、ワークW1、W2への超音波の各入射波率との相関関係を予め求めておく。なお、以下の説明では、第1電極チップ12における入射波率を第1入射波率、第2電極チップ14における入射波率を第2入射波率という。
【0035】
さらに、第1電極チップ12、第2電極チップ14中の第1送受信器16、第2送受信器18から超音波をそれぞれ発信する。この時点では、第1電極チップ12、第2送受信器18の各々は、ワークW1又はワークW2に当接していない。従って、第1電極チップ12、第2送受信器18の先端に到達した超音波の全ては、音響インピーダンスの相違が大きい大気又は真空等の媒体によって反射され、それぞれ、第1反射波、第2反射波として第1送受信器16、第2送受信器18に戻る。これら第1反射波、第2反射波の強度が、前記エコー測定器20によって測定されるとともに、制御回路24に情報として送信される。制御回路24は、この際の第1反射波、第2反射波の強度を、第1強度、第2強度として記憶する。
【0036】
次に、前記ロボットが動作することにより、互いに積層されたワークW1、W2が前記溶接ガンの第1電極チップ12及び第2電極チップ14の間に挿入される。勿論、この時点では溶接ガンは開いており、従って、第1電極チップ12と第2電極チップ14は、ワークW1、W2から離間している。
【0037】
次に、前記溶接ガンが閉じられ、第1電極チップ12の先端が上方のワークW1に当接するとともに、第2電極チップ14の先端が下方のワークW2に当接する。すなわち、ワークW1、W2が第1電極チップ12及び第2電極チップ14に挟持される。
【0038】
この時点で、第1送受信器16から第2送受信器18に向けて超音波が発信される。制御回路24は、ワークW1、W2を透過して第2送受信器18に受信された透過波につき、発信から受信に至るまでの伝播時間を記憶する。制御回路24は、さらに、この伝播時間と、ワークW1、W2の合計厚みとから、透過波の速度(音速)を算出する。なお、ワークW1、W2の合計厚みは、エンコーダ22によって求められる第1電極チップ12と第2電極チップ14との間のチップ間距離Dに等しい。
【0039】
次に、第1電極チップ12及び第2電極チップ14に電圧が印加され、これら第1電極チップ12及び第2電極チップ14の間に通電がなされる。勿論、これに伴ってワークW1、W2の内部を電流が通過し、その結果、ワークW1、W2の界面が溶融する。すなわち、溶融部30が生成する。
【0040】
また、前記通電と同時に、第1送受信器16から超音波が再発信される。このとき、超音波の一部は、第1電極チップ12の先端におけるワークW1に対して当接している部位からワークW1の内部に入射する。その一方で、第1電極チップ12におけるワークW1に対して超音波を入射可能な部位(以下、超音波入射可能部位とも表記する)であってもワークW1に対して当接していない部位では超音波が反射する。また、ワークW1に対して当接している部位に到達した超音波であっても、一部はワークW1に入射し得ずに反射する。このような反射によって第3反射波が生成し、第1送受信器16に戻る。
【0041】
第3反射波は、第1送受信器16にて受信される。前記エコー測定器20は、このときの第3反射波の強度を測定する。制御回路24は、この際の第3反射波の強度を第3強度として記憶する。
【0042】
上記と同様に、第2送受信器18からも超音波が再発信される。超音波の一部は、第2電極チップ14の先端におけるワークW2に対して当接している部位からワークW2の内部に入射する。その一方で、第2電極チップ14における超音波入射可能部位であってもワークW2に対して当接していない部位では超音波が反射する。また、ワークW2に対して当接している部位に到達した超音波であっても、一部はワークW2に入射し得ずに反射する。このような反射によって第4反射波が生成し、第2送受信器18に戻る。
【0043】
制御回路24は、以上のようにして測定された第1反射波の第1強度及び第3反射波の第3強度と、第2反射波の第2強度及び第4反射波の第4強度とから、第1強度比(第1反射波率)、第2強度比(第2反射波率)を算出する。この算出には、下記の式(2)、(3)が用いられる。
第1強度比=第3強度/第1強度 …(2)
第2強度比=第4強度/第2強度 …(3)
【0044】
例えば、溶接ガンを閉じたとしても該溶接ガンの動作不良によって第1電極チップ12がワークW1に当接していない場合、超音波は全て第1電極チップ12の先端で反射する。従って、第3強度が第1強度に等しくなり、上記の式(2)によって求められる第1強度比、換言すれば、第1反射波率が1となる。
【0045】
これに対し、第1電極チップ12がワークW1に当接している場合、超音波がワークW1に入射する。仮に第3反射波の強度がゼロである場合、第1強度比(第1反射波率)がゼロであるから、超音波の全てがワークW1に入射されたことになる。この場合、第1電極チップ12における超音波入射可能部位が全域にわたってワークW1に接触しており、超音波入射可能部位の全面積=接触面積であると評価する。
【0046】
勿論、第2電極チップ14についても、第2強度比(第2反射波率)の数値に基づいて同様の評価がなされる。
【0047】
実際には、第1電極チップ12及び第2電極チップ14をワークW1、W2に当接させて通電を開始した直後は、ワークW1、W2の温度はさほど上昇していない。このため、ワークW1、W2はこの時点では軟化しておらず、従って、第1電極チップ12、第2電極チップ14は、各々の極先端がワークW1、W2に当接するのみである。
【0048】
すなわち、ワークW1、W2に対し、第1電極チップ12、第2電極チップ14における超音波入射可能部位の全域が当接しているとは限らない。このことから諒解されるように、特に、抵抗溶接を開始した直後は超音波入射可能部位の全面積と接触面積とが等しいとは限らない。
【0049】
そこで、制御回路24は、前記第1及び第2強度比(第1及び第2反射波率)に基づき、下記の式(4)、(5)によって、第1入射波率、第2入射波率を算出する。
第1入射波率=1−第1強度比
=1−第3強度/第1強度 …(4)
第2入射波率=1−第2強度比
=1−第4強度/第2強度 …(5)
【0050】
例えば、第1反射波及び第3反射波の強度がそれぞれ100、20である場合、上記の式(3)に従って計算される強度比は0.2である。これは、抵抗溶接時に第1送受信器16が発信した超音波の20%が、第3反射波として反射されたことを意味する。
【0051】
そして、式(4)に従って第1入射波率を求めると、0.8である。すなわち、この場合、第1送受信器16から発信された超音波の80%がワークW1に入射されている。制御回路24は、予め求められている前記相関関係から、第1入射波率が80%となるときの、ワークW1に対する第1電極チップ12の接触面積を求める。
【0052】
制御回路24は、さらに、以上のようにして求められた接触面積に基づき、第1電極チップ12とワークW1との接触抵抗r2を求める。勿論、これと同様にして、ワークW2に対する第2電極チップ14の接触面積、及び第2電極チップ14とワークW2との接触抵抗r6が制御回路24によって求められる。
【0053】
制御回路24は、さらに、抵抗溶接を行っている間の第1電極チップ12の抵抗r1、ワークW1、W2の各抵抗r3、r5、及び第2電極チップ14の抵抗r7の各値を求める。
【0054】
ここで、抵抗溶接の進行に伴って第1電極チップ12、第2電極チップ14の温度が上昇すると、第1送受信器16、第2送受信器18が超音波を発信してから、これら第1送受信器16、第2送受信器18に第3反射波、第4反射波が戻ってくるまでの時間が変化する。周知の通り、高温になるほど音速が遅くなるからである。
【0055】
温度と超音波の音速との相関関係は既知である。従って、第1送受信器16、第2送受信器18が超音波を発信してから、該第1送受信器16、該第2送受信器18に第3反射波、第4反射波が戻ってくるまでの時間に基づいて音速を算出し、さらに、求めた音速と温度との相関関係から、第1電極チップ12、第2電極チップ14の温度を求めることができる。
【0056】
そして、このようにして求められた第1電極チップ12、第2電極チップ14の温度と、上記のようにして予め求めた第1電極チップ12、第2電極チップ14の抵抗値の温度依存性とに基づいて、該温度における第1電極チップ12の抵抗r1の実値、第2電極チップ14の抵抗r7の実値のそれぞれを精確に求めることができる。
【0057】
一方、抵抗溶接の進行に伴ってワークW1、W2の温度が上昇すると、該ワークW1、W2が熱膨張を起こすことに伴って、ワークW1、W2の合計厚みが変化する。これに対応して、第1電極チップ12と第2電極チップ14との間のチップ間距離Dも変化する。このようにして変化するチップ間距離Dは、エンコーダ22によって逐一測定され、制御回路24に情報として送られる。
【0058】
制御回路24は、さらに、通電を開始した後に第1送受信器16が超音波を発信開始して第2送受信器18が第1透過波を受信するまでの時間から、第1電極チップ12、第2電極チップ14内での第1透過波の伝播時間を差し引き、透過波がワークW1、W2を透過する伝播時間を求める。このワークW1、W2内の伝播時間と、変化後のチップ間距離Dとに基づいて、ワークW1、W2内での音速を算出する。
【0059】
なお、第1電極チップ12内における第1透過波の伝播時間は、第1送受信器16が超音波を発信した後に該第1送受信器16が第3反射波を受信するまでの時間を先ず求め、次に、この時間に1/2を乗することで算出し得る。第2電極チップ14内における第1透過波の伝播時間も同様に、第2送受信器18からワークW2の界面までの距離と、第2送受信器18が超音波を発信した後に該第2送受信器18が第4反射波を受信するまでの時間を求め、この時間に1/2を乗することで算出される。
【0060】
以上のようにして求められた音速は、通電を開始する前の音速に比して遅い。上記の通り、音速は高温になるほど遅くなるからである。
【0061】
従って、制御回路24は、温度と、ワークW1、W2内での音速との相関関係(既知)に基づいて、この際のワークW1、W2の温度を求めることができる。そして、制御回路24は、求めた温度と、該制御回路24が予め記憶したワークW1、W2の各抵抗r3、r5の温度依存性とに基づき、超音波を発信した際のワークW1、W2の各抵抗r3、r5の実値を得る。
【0062】
以上のようにして、超音波を発信した際の第1電極チップ12とワークW1との接触抵抗r2、ワークW2と第2電極チップ14との接触抵抗r6、第1電極チップ12、ワークW1、W2、第2電極チップ14の各抵抗r1、r3、r5、r7の実値が得られる。
【0063】
その一方で、チップ間抵抗Rの実値が逐一実測される。このため、チップ間抵抗Rの実値、抵抗r1〜r3、r5〜r7の実値が分かることになる。従って、上記の式(1)に実値を代入することにより、ワークW1、W2同士の接触抵抗r4の実値を精度よく求めることができる。
【0064】
上記したように、制御回路24には、接触抵抗r4と溶融部30の径との相関関係(図2参照)が予め入力されている。従って、制御回路24(図1参照)は、前記のようにして得た接触抵抗r4の実値から、溶融部30の径をリアルタイムで判断することができる。
【0065】
前記特許文献3記載の技術では、抵抗溶接の進行に伴って第1電極チップ12、第2電極チップ14のワークW1、W2に対する接触面積が変化し、これにより接触抵抗r2、r6が変化することを考慮した上で溶融部30の成長の度合いを評価するようにしている。一方、本実施の形態では、接触抵抗r2、r6のみならず、第1電極チップ12、ワークW1、W2及び第2電極チップ14の温度が上昇することで抵抗r1、r3、r5、r7が変化することをさらに考慮に加え、抵抗r1〜r3、r5〜r7、ひいては接触抵抗r4をリアルタイムで求め、その上で、溶融部30の成長の度合いを評価する。
【0066】
従って、ワークW1、W2同士の接触抵抗r4の実値を精度よく求めることができる。このため、溶融部30の径を一層高精度に求めることができ、結局、溶融部30の成長の度合いを一層高精度に評価することができる。
【0067】
なお、例えば、輻射温度計等の温度測定手段を設けるようにしてもよい。この場合、ワークW1、W2の温度が所定の閾値を超えたときに溶融部30が生成されていると判断することにより、ワークW1、W2の抵抗r3、r5が圧接によって低下したのか、又は、溶融部30が生成することに伴って低下したのかを区別することが容易となるという利点がある。
【0068】
また、上記した実施の形態では、2枚のワークW1、W2を抵抗溶接する場合を例示して説明したが、ワークの個数は特にこれに限定されるものではなく、例えば、3枚であってもよい。この場合、溶融部に反射されて戻る反射波の伝播時間からも、溶融部の成長の度合いを認識することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
10…抵抗溶接装置 12、14…電極チップ
16、18…送受信器 20…エコー測定器
22…エンコーダ 24…制御回路
30…溶融部 W1、W2…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のワークを挟持した第1電極チップと第2電極チップの間に通電し、前記ワーク同士を溶接する抵抗溶接方法であって、
抵抗溶接を行う最中、前記複数個のワークを挟持した状態の前記第1電極チップから前記第2電極チップに至るまでのチップ間抵抗値を求める工程と、
前記第1電極チップ及び前記第2電極チップの各抵抗値を、該第1電極チップ及び該第2電極チップの温度に基づいて求める工程と、
前記第1電極チップと該第1電極チップに当接したワークとの第1接触抵抗値を双方の接触面積に基づいて求めるとともに、前記第2電極チップと該第2電極チップに当接したワークとの第2接触抵抗値を双方の接触面積に基づいて求める工程と、
前記複数個のワークの各々の抵抗値を、該ワークの温度に基づいて求める工程と、
前記チップ間抵抗値から、前記第1電極チップ及び前記第2電極チップの各抵抗値、前記第1接触抵抗値及び前記第2接触抵抗値、前記複数個のワークの各々の抵抗値を差し引き、前記ワーク同士の接触抵抗値を求める工程と、
を有することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の抵抗溶接方法において、前記ワーク同士の接触抵抗値と、該ワーク同士の間に形成される溶融部の径との相関関係を予め求め、実際の前記ワーク同士の接触抵抗値から、前記溶融部の径を求めることを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項3】
複数個のワークを挟持した第1電極チップと第2電極チップの間に通電し、前記ワーク同士を溶接する抵抗溶接装置であって、
前記第1電極チップと第2電極チップの間の通電を制御する制御部を備え、
前記制御部は、抵抗溶接を行う最中、前記複数個のワークを挟持した状態の前記第1電極チップから前記第2電極チップに至るまでのチップ間抵抗値と、
前記第1電極チップ及び前記第2電極チップの温度に基づく各抵抗値と、
前記第1電極チップと前記ワークとの接触面積に基づく該第1電極チップと前記ワークとの間の第1接触抵抗値、及び、前記第2電極チップと前記ワークとの接触面積に基づく該第2電極チップと前記ワークとの間の第2接触抵抗値と、
前記複数個のワークの温度に基づく各々の抵抗値と、
を求め、
さらに、前記チップ間抵抗値から、前記第1電極チップ及び前記第2電極チップの各抵抗値、前記第1接触抵抗値及び前記第2接触抵抗値、前記複数個のワークの各々の抵抗値を差し引き、前記ワーク同士の接触抵抗値を求めることを特徴とする抵抗溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−99758(P2013−99758A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244187(P2011−244187)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)