説明

抵抗溶接方法及び溶接構造体

【課題】板材と薄板材間の抵抗溶接を確実に行うことが可能な抵抗溶接方法及び溶接構造体を提供する。
【解決手段】重ね合わせた厚板材12、14よりも板厚が薄い薄板材16を載置し、一対の電極24、30で抵抗溶接方法及び溶接構造体であって、薄板材16は、ヘミング加工されており、電極24を薄板材16の折り返し部20に当接し、電極30を厚板材14の下面28に当接し、電極24、30で、厚板材12、14、薄板材16を抵抗溶接する。折り返し部20から薄板材16への通電を接触部18を介して行うことにより、厚板材14と薄板材16との抵抗溶接を確実にすることができ、また、厚板材14と薄板材16とが確実に抵抗溶接された溶接構造体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わせた2枚以上の板材と薄板材とを抵抗溶接する方法及びその溶接構造体に関し、一層詳細には、2枚以上の板材とヘミング加工されている薄板材とを抵抗溶接するための抵抗溶接方法及び溶接構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、重ね合わせた金属板を棒状の電極で挟み、強く加圧しながら短時間で大電流を通電し、前記金属板間の接触面で溶融凝固させてナゲットを形成させることにより溶接する抵抗溶接が知られている。
【0003】
特許文献1には、厚板材100上に厚板材102が載置され、さらに厚板材102上に、厚板材100、102よりも板厚が薄い薄板材104が載置されたワーク106の抵抗溶接についての記載がある(図4A参照)。この特許文献1に開示されている方法では、ワーク106を電極108、110で圧接しながら電極108、110間で図示しない電源から電流を通電すると、厚板材100と厚板材102との接触面を中心としてナゲットが生成され、このナゲットが成長することにより、厚板材100、102、薄板材104が溶接される。
【0004】
また、特許文献2には、薄板材112、114間に樹脂材116が介装された複合部材118が、厚板材120上に載置されたワーク122に抵抗溶接される技術的思想が開示されている(図4B参照)。該特許文献2に開示されている方法では、薄板材114上に、厚板材120と同じ板厚の当て板124を載置し、電極126を前記当て板124に当接し、電極128を厚板材120の下面に当接して、電極126、128間で通電することにより、厚板材120、薄板材112、114が溶接される。
【0005】
【特許文献1】特開2003−251468号公報
【特許文献2】特開平6−246462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の溶接に通常使われる電極108の先端部は、内部を循環する冷却水により冷却されており、電極108の先端部から厚板材100と厚板材102との接触面までの距離に比べると、電極108の先端部から厚板材102と薄板材104との接触面までの距離の方がより短いためにナゲットの成長が妨げられ、厚板材102と薄板材104との溶接が不十分になる場合がある。また、電極108で薄板材104を圧接した場合には、厚板材102と薄板材104との間には隙間がほとんど形成されないために、電極108から電極110に流れる電流が厚板材102と薄板材104との接触面を通過する場合に、電流が拡散して、電流密度が低下し、ジュール熱の発生が抑えられ、厚板材102と薄板材104との溶接が不十分になる場合がある。さらに、特許文献1では、電流密度を徐々に小さくしてナゲットの成長を均一にするために電極108の先端部と薄板材104との接触面積よりも、電極110の先端部と厚板材100との接触面積を大きくしている。このため、厚板材100、102、薄板材104の板厚との関係で先端径が異なる複数の電極108、110を用意する必要が生じる。
【0007】
また、特許文献2の溶接方法では、当て板124を用いてワーク122の溶接をしているが、樹脂材116を中心として板厚に関して上下対称にして、圧力を均一にするために、厚板材120と当て板124との板厚を同じくする必要があり、厚板材120の板厚に応じてその都度当て板124を用意しなければならず、工程上煩雑となる。
【0008】
本発明は、上記の課題を考慮してなされたものであって、重ね合わせた2枚以上の板材と薄板材間の抵抗溶接を可及的に確実に行うための抵抗溶接方法及び溶接構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の抵抗溶接方法は、重ね合わせた2枚以上の板材上に、前記各板材よりも板厚が小さい薄板材を載置し、一対の電極で抵抗溶接する抵抗溶接方法において、前記薄板材は、折り返し部を有するようにヘミング加工されており、一方の電極を前記薄板材の折り返し部に当接し、他方の電極を前記2枚以上の板材の最下部の板材の下面に当接し、前記一方と他方の電極で、前記2枚以上の板材、前記薄板材を抵抗溶接することを特徴とする。
【0010】
また、他の本発明の溶接構造体は、重ね合わせた2枚以上の板材と、前記各板材よりも板厚が小さい薄板材とを備え、前記板材上に載置された前記薄板材と、前記2枚以上の板材とが抵抗溶接された溶接構造体において、前記薄板材は、ヘミング加工されており、前記薄板材のヘミング加工された折り返し部と前記板材との接触面で抵抗溶接部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抵抗溶接方法及び溶接構造体では、2枚以上の重ね合わせた板材と電極との間にヘミング加工した薄板材を介在させて、板材と電極との間隔を薄板材の板厚によって拡大して、薄板材と板材との接触面に対する電極による冷却効果を緩和することにより、ナゲットの成長を前記接触面で妨げずに継続させ、薄板材と板材との抵抗溶接を確実にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1A〜図1Eは、溶接構造体10の抵抗溶接工程の説明図であり、図2Aは、溶接構造体10の概略斜視図であり、図2Bは、図2AのIIB−IIB線に沿う断面図である。
【0013】
本実施形態によれば、溶接構造体10の抵抗溶接は、まず、重ね合わせた厚板材12、14上に薄板材16を載置する(図1A参照)。厚板材12、14の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、高張力鋼が好ましい。薄板材16には一端を折り返すヘミング加工が施され、厚板材14と接触する薄板材16の接触部18の上面と、折り返し部20の下面とが接するように折り曲げ部22を形成しておく。ヘミング加工された全体としての薄板材16の板厚は、厚板材12、14の板厚よりも薄く、好ましくは厚板材12、14の板厚の半分程度である。また、薄板材16の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、軟鋼が好ましい。
【0014】
次に、薄板材16の折り返し部20上に電極24の先端部26を当接させ、薄板材16が載置されていない側の面である厚板材12の下面28に電極(他方の電極)30の先端部32を当接させる(図1B参照)。次いで、電極24と30とを互いに接近する方向に押圧させるとともに、図示しない電源から電極24、30に電流を供給し、薄板材16、厚板材14、12の順に電極24から電極30の方向に電流を通電させる。
【0015】
電極24の内部には冷却水が循環しているために、この冷却水による冷却効果は電極24の先端部26を通じて薄板材16に伝わり、先端部26からの距離が近い接触面ほど、その温度が低下する。従って、厚板材12と厚板材14との接触面34の温度は、厚板材14と薄板材16との接触面36の温度よりも高いので、接触面34の近傍からナゲット38の生成が始まる(図1C参照)。さらに、電極24、30による押圧、電流の通電を続けると、ナゲット38が接触面36まで成長する(図1D参照)。
【0016】
電極24、30による押圧、電流の通電を所定時間続けると、ナゲット38が接触面36を超えて薄板材16内まで成長することにより厚板材12、14、薄板材16が一体化されて抵抗溶接が完了する(図1E参照)。そこで、折り返し部20から電極24を離間させ、厚板材12の下面28から電極30を離間させることにより溶接構造体10が得られる(図2A参照)。
【0017】
前記のように溶接構造体10の抵抗溶接工程では、厚板材14と電極24との間にヘミング加工した薄板材16を介在させて、電極24の先端部26を当接させ、厚板材14と電極24との間を所定距離離間させることにより接触面36に対する電極24内を循環する冷却水による冷却効果が緩和される。その結果、接触面34の近傍から形成が始まったナゲット38の成長を接触面36で妨げずに継続させることが可能となり、厚板材14と薄板材16との抵抗溶接を確実にすることができる(図2B参照)。
【0018】
また、本発明の実施形態の変形例として、図3A、図3Bに示すように、ヘミング加工が施された薄板材16a、16bを厚板材14上に載置し、抵抗溶接してもよい。すなわち、図3Aに示す薄板材16aは、厚板材14と接触する薄板材16aの接触部18aの上面と、折り返し部20aの下面とが接するように折り曲げ部22aを形成し、さらに、折り返し部20aの端部40が厚板材14に接するようにしてもよい。また、図3Bに示す薄板材16bは、厚板材14と接触する薄板材16bの接触部18bの上面と、折り返し部20bの下面とが接するように折り曲げ部22bを形成し、さらに折り返し部20bの上面と折り返し部42の下面とが接するように折り曲げ部44を形成し、さらにまた、折り返し部42の端部46を厚板材14に接触させる。厚板材12、14、薄板材16の材質、板厚との関係で、厚板材14と薄板材16とを抵抗溶接を確実にするために、薄板材16a、16bのように好適なヘミング加工を選択することができる。
【0019】
なお、上記実施形態では、厚板材12、14と2枚の厚板材を重ね合わせていたが、枚数は特に限定されるものではなく、3枚以上の厚板材を重ね合わせてもよい。かかる場合には、最下部の厚板材に電極30を当接することとなる。
【0020】
また、本発明は、上述の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1A〜図1Eは、本発明の実施形態の溶接構造体の抵抗溶接工程の説明図である。
【図2】図2Aは、本発明の実施形態の溶接構造体の概略斜視図であり、図2Bは、図2AのIIB−IIB線に沿う断面図である。
【図3】図3A、図3Bは、本発明の実施形態の溶接構造体の変形例の断面図である。
【図4】図4A、図4Bは、従来の溶接構造体の抵抗溶接の説明図である。
【符号の説明】
【0022】
10…溶接構造体
12、14、100、102、120…厚板材
16、16a、16b、104、112、114…薄板材
18、18a、18b…接触部
20、20a、20b、42…折り返し部
22、22a、22b、44…折り曲げ部
24、30、108、110、126、128…電極
26、32…先端部 28…下面
34、36…接触面 38…ナゲット
40、46…端部 106、122…ワーク
116…樹脂材 118…複合部材
124…当て板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた2枚以上の板材上に、前記各板材よりも板厚が小さい薄板材を載置し、一対の電極で抵抗溶接する抵抗溶接方法において、
前記薄板材は、折り返し部を有するようにヘミング加工されており、
一方の電極を前記薄板材の折り返し部に当接し、他方の電極を前記2枚以上の板材の最下部の板材の下面に当接し、
前記一方と他方の電極で、前記2枚以上の板材、前記薄板材を抵抗溶接する
ことを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項2】
重ね合わせた2枚以上の板材と、前記各板材よりも板厚が小さい薄板材とを備え、前記板材上に載置された前記薄板材と、前記2枚以上の板材とが抵抗溶接された溶接構造体において、
前記薄板材は、ヘミング加工されており、前記薄板材のヘミング加工された折り返し部と前記板材との接触面で抵抗溶接部が形成されている
ことを特徴とする溶接構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−291824(P2009−291824A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149339(P2008−149339)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】