説明

抵抗溶接方法

【課題】ワークを構成するメッキ層の一部が電極に付着することを抑えることにより、該電極の長寿命化を図るとともに連続打点性を向上することができる抵抗溶接方法を提供する。
【解決手段】メッキが施された第1板部材12と第2板部材14とを重ねることにより形成されるワークWを第1電極16と第2電極18とで第2加圧力値P2まで加圧する加圧工程中に、溶接電流よりも低い初期電流を該ワークWに通電する。これにより、第1板部材12の第1外側メッキ層24aと第2板部材14の第2外側メッキ層28bとを軟化させて、第1電極16を第1板部材本体22に接触させるとともに第2電極18を第2板部材本体26に接触させる。次いで、ワークWに前記第2加圧力値P2の加圧力を作用させた状態で第1電極16と第2電極18を介してワークWに溶接電流を通電することにより、ナゲットNを形成及び成長させる溶接工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の板材を重ねることにより形成されるワークを抵抗溶接する抵抗溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、抵抗溶接では、複数の板材を重ねることにより形成されるワークを一対の電極で挟持して該ワークを所定圧力まで加圧する加圧工程と、前記加圧工程後、該一対の電極を介して該ワークに溶接電流を通電することによりナゲットを形成及び成長させる溶接工程とを行う。
【0003】
そして、従来、メッキが施されたホットスタンプ材を重ねることにより形成されるワークを抵抗溶接する方法として、低電流値の溶接電流を通電することにより、ホットスタンプ材のメッキ層を軟化させて安定した通電経路を確保した後で、高電流値の溶接電流を通電することにより、ナゲットを成長させる技術的思想が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−188408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の発明では、溶接工程において、メッキ層の一部が溶融して各電極に付着することがある。例えば、前記ホットスタンプ材がアルミニウムメッキ鋼板であり、各電極が銅製であると、該各電極の先端部にメッキ層の一部が付着して銅−アルミニウム合金が形成されることがある。
【0006】
このような場合、該電極を研磨して、該電極に付着したメッキ層の一部を除去する必要があるため、電極の消耗が激しくなり、ワークの複数箇所において、連続して抵抗溶接を円滑に行うことができなくなる(連続打点性が損なわれる)おそれがある。
【0007】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、ワークを構成するメッキ層の一部が電極に付着することを抑えることにより、該電極の長寿命化を図るとともに連続打点性を向上することができる抵抗溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 本発明に係る抵抗溶接方法は、複数の板材を重ねることにより形成されるワークを第1電極と第2電極とで挟持して抵抗溶接する抵抗溶接方法であって、前記ワークの一方の面には、前記第1電極に接触するメッキ層が形成されており、前記第1電極と前記第2電極とで前記ワークを所定圧力まで加圧する加圧工程と、前記ワークに所定圧力を作用させた状態で該第1電極と該第2電極とを介して該ワークに溶接電流を通電することにより、ナゲットを成長させる溶接工程と、を行い、前記加圧工程では、前記メッキ層に前記溶接電流よりも低い初期電流を通電することを特徴とする。
【0009】
上記の本発明に係る抵抗溶接方法によれば、加圧工程において、第1電極に接触するメッキ層に初期電流を通電するので、該メッキ層を軟化させることができる。そうすると、該メッキ層のうち前記第1電極に押圧された部位が、該第1電極の側方に流動しながら押し出されるため、該第1電極は該メッキ層を貫通することができる。これにより、該第1電極の先端を前記ワークの被メッキ部分(メッキが施されていない部分)に接触させることができる。よって、溶接工程において、前記ワークに溶接電流を通電した場合であっても、該第1電極にメッキ層の一部が付着することを好適に抑えることができる。なお、前記加圧工程において、初期電流は、溶接電流よりも低いので、メッキ層が溶融して該第1電極に付着することも好適に抑えることができる。
【0010】
このように、抵抗溶接において、メッキ層の一部が第1電極に付着することを抑えることができるので、該第1電極の長寿命化を図ることができるとともに連続打点性を向上させることができる。
【0011】
[2] 上記の抵抗溶接方法において、前記加圧工程では、前記第1電極と前記第2電極とを介して前記メッキ層に前記初期電流を通電してもよい。
【0012】
このような方法によれば、加圧工程において、メッキ層のうち第1電極に押圧される部位に対して効率的に初期電流を通電して軟化させることができる。
【0013】
[3] 上記の抵抗溶接方法において、前記加圧工程では、前記複数の板材同士が接触した後に、前記初期電流を通電してもよい。
【0014】
このような方法によれば、初期電流を通電した際に、重なり合う板材間で放電が生じることを好適に抑えることができる。
【0015】
[4] 上記の抵抗溶接方法において、前記加圧工程では、前記ワークを前記所定圧力に加圧するまで前記初期電流を継続して通電してもよい。
【0016】
このような方法によれば、例えば、初期電流を間欠的に通電した場合よりも、メッキ層を軟化させるのに要する時間を短くすることができる。
【0017】
[5] 上記の抵抗溶接方法において、前記ワークに作用する圧力が前記所定圧力に達した時に前記溶接電流の通電を開始してもよい。
【0018】
このような方法によれば、ワークに作用する圧力が所定圧力に達した時に該ワークに溶接電流の通電が開始されるため、溶接サイクル(1回の抵抗溶接に要する時間)が長期化することを抑えることができる。
【0019】
[6] 上記の抵抗溶接方法において、前記ワークの他方の面には、前記第2電極に接触するメッキ層が形成されていてもよい。このように、ワークの両面にメッキ層が形成されている場合であっても、第1電極及び第2電極のそれぞれにメッキ層の一部が付着することを抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、加圧工程において、第1電極が接触するメッキ層に溶接電流よりも低い初期電流を通電するので、該第1電極にメッキ層の一部が付着することを好適に抑えることができ、これにより、該第1電極の長寿命化を図るとともに連続打点性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る抵抗溶接方法を実施する抵抗溶接装置の概略説明図である。
【図2】本発明に係る抵抗溶接方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態に係る抵抗溶接における加圧力変化と電流変化を示すグラフである。
【図4】ワーク、第1電極、及び第2電極の一部省略断面図において、図4Aは初期電流を通電した直後の状態を示す断面図であり、図4Bは第1電極の先端が第1板部材本体の一方の面に接触するとともに第2電極の先端が第2板部材本体の他方の面に接触した状態を示す断面図であり、図4Cは第1板部材と第2板部材とが反り変形した状態を示す断面図であり、図4Dはナゲットが成長した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る抵抗溶接方法について、それを実施する抵抗溶接装置との関係で好適な実施形態を例示し、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
本実施形態に係る抵抗溶接装置10は、図1に示すように、第1板部材12と第2板部材14とを重ねることにより形成されるワークWをその厚み方向(重ね方向、積層方向)から挟持する第1電極16と第2電極18と、ワークWに対する加圧力や通電量等を制御する溶接制御部20と、を備える。
【0024】
第1板部材12は、第1板部材本体22と、前記第1板部材本体22の一方の面に形成されて第1電極16に接触可能な第1外側メッキ層24aと、前記第1板部材本体22の他方の面に形成された第1内側メッキ層24bとを含んで構成されている。
【0025】
第2板部材14は、第2板部材本体26と、前記第2板部材本体26の一方の面に形成されて第1内側メッキ層24bに接触する第2内側メッキ層28aと、前記第2板部材本体26の他方の面に形成されて第2電極18に接触可能な第2外側メッキ層28bとを含んで構成されている。
【0026】
このような第1板部材12及び第2板部材14としては、例えば、アルミニウムメッキ鋼板に対してホットスタンプ(ホットプレス)と呼ばれる処理を施したものが用いられる。
【0027】
第1電極16と第2電極18は、その先端同士が対向した状態で図示しない溶接ガンに設けられている。本実施形態においては、第1電極16が前記溶接ガンに固定される一方、第2電極18がその軸線方向に沿って第1電極16に対して進退可能な状態で前記溶接ガンに設けられている。
【0028】
第1電極16と第2電極18は、電気伝導率が良好な材料(例えば、銅又は銅合金等)で構成されている。なお、第1電極16と第2電極18の各先端は、丸みを帯びており、ワークWに対して適度な面積で接触可能となっている。
【0029】
溶接制御部20は、電極駆動制御部30、電流制御部32、記憶部34、第1判定部36、及び第2判定部38を有する。
【0030】
電極駆動制御部30は、第2電極18を進退駆動可能であって、第1電極16と第2電極18からワークWに作用する加圧力を制御する。電流制御部32は、第1電極16と第2電極18に供給される電流を制御する。
【0031】
記憶部34には、図示しない入力手段に入力された所定の溶接条件が記憶されている。溶接条件としては、例えば、第1加圧力値P1、第2加圧力値P2、溶接電流値Iw、初期電流値Ip、溶接時間Tw等が用いられる。
【0032】
第1加圧力値P1は、第1電極16と第1板部材12、第1板部材12と第2板部材14、及び第2板部材14と第2電極18のそれぞれが十分に接触するような加圧力値に設定される。具体的には、第1加圧力値P1は、例えば、50[kgf]〜150[kgf]の範囲内に設定される。
【0033】
第2加圧力値P2は、ナゲットN(図4D参照)の形成及び成長に必要な加圧力値(第1加圧力値P1よりも大きい加圧力値)に設定される。この第2加圧力値P2は、ワークWの種類や大きさ等によって適宜設定される。
【0034】
溶接電流値Iwは、ナゲットNの形成及び成長に必要な電流値に設定される。この溶接電流値Iwは、ワークWの種類や大きさ等によって適宜設定される。
【0035】
初期電流値Ipは、溶接電流値Iwよりも低い値に設定されており、例えば、第1外側メッキ層24aと第2外側メッキ層28bとを軟化させることができる程度の電流値に設定される。つまり、初期電流値Ipは、第1外側メッキ層24aと第2外側メッキ層28bとが溶融しない程度の値に設定されている。
【0036】
本実施形態では、初期電流値Ipは、ワークWに作用する加圧力が第2加圧力値P2に達するまでに、第1外側メッキ層24aと第2外側メッキ層28bとを軟化させることができる程度の電流値に設定されている。こうすることで、ワークWに作用する加圧力が第2加圧力値P2に達した時に、溶接電流値Iwの電流(溶接電流)を第1電極16と第2電極18に供給することが可能となる。
【0037】
ここで、第1外側メッキ層24aと第2外側メッキ層28bとを軟化させることができる程度とは、ワークWに対して所定の加圧力(第1加圧力値P1以上第2加圧力値P2以下の加圧力)を作用させた場合に、該第1外側メッキ層24aが第1電極16に押されて流動するとともに、第2外側メッキ層28bが第2電極18に押されて流動するような程度の軟らかさを言う。
【0038】
なお、初期電流値Ipは、第1外側メッキ層24a及び第2外側メッキ層28bは軟化するが、ナゲットNは発生しない程度の電流値(例えば、1[kA]〜3[kA])に設定するのが好ましい。加圧中(初期電流の通電中)にナゲットNが発生してしまうと、第1板部材本体22及び第2板部材本体26が潰れ易くなり、第2加圧力値P2の加圧力を精度よくワークWに作用させることが難しくなるからである。
【0039】
溶接時間Twは、溶接電流を通電する時間であって、ワークWの材質等によって適宜設定される。
【0040】
第1判定部36は、ワークWに作用する加圧力が第1加圧力値P1又は第2加圧力値P2に達したか否かを判定する。第2判定部38は、溶接電流の通電時間が所定の溶接時間Twに達したか否かを判定する。
【0041】
次に、本実施形態に係る抵抗溶接方法について図2〜図4を参照しながら説明する。なお、図3は、本実施形態の抵抗溶接における加圧力の制御波形(図中の太線A)と電流の制御波形(図中の細線B)とを示したグラフである。
【0042】
先ず、第1電極16と第2電極18を溶接準備位置(図1に示す位置)にセットする(図2のステップS1)。具体的には、第1電極16と第2電極18の間にワークWの溶接対象部位が位置するように、前記溶接ガンを図示しないロボット等によって移動させる。なお、この溶接準備状態において、第1電極16の先端は第1外側メッキ層24aに接触している。
【0043】
続いて、電極駆動制御部30は、第2電極18を第1電極16に対して進行させる(ステップS2)。そうすると、第2電極18の先端は、第2外側メッキ層28bに接触する。そして、電極駆動制御部30は、第2電極18を駆動制御して、第2電極18を第2外側メッキ層28bに押し付ける(ステップS3)。そうすると、第1電極16と第2電極18からワークWに作用する加圧力が徐々に増加することになる(図3参照)。
【0044】
この加圧力が上昇する過程において、第1判定部36は、ワークWに作用した加圧力が第1加圧力値P1に達したか否かを判定する(ステップS4)。ここで、前記加圧力は図示しない圧力センサ等から取得され、第1加圧力値P1は記憶部34から取得される。
【0045】
第1判定部36にて加圧力が第1加圧力値P1に達していないと判定された場合(ステップS4:NO)、ステップS4の処理を繰り返し行う。第1電極16と第1板部材12、第1板部材12と第2板部材14、第2板部材14と第2電極18のそれぞれが未だ十分に接触していないからである。
【0046】
第1判定部36にて加圧力が第1加圧力値P1に達したと判定した場合(ステップS4:YES)、電流制御部32は、第1電極16と第2電極18に初期電流値Ipの電流(初期電流、予備電流)を供給する(ステップS5、図3の時間T1を参照)。このとき、ワークWに入力される加圧力が第1加圧力値P1に達しているので、第1電極16と第1板部材12、第1板部材12と第2板部材14、第2板部材14と第2電極18のそれぞれが十分に接触している。そのため、ワークWに初期電流を通電した場合であっても、放電(スパーク)が生じることはない。
【0047】
ワークWに初期電流が通電されると、該ワークWの通電経路においてジュール熱が発生する。そのため、第1外側メッキ層24aのうち第1電極16に接触している部分の近傍(第1外側通電部40a)、第1内側メッキ層24bのうち前記第1外側通電部40aと対向する部分(第1内側通電部40b)、第2内側メッキ層28aのうち前記第1内側通電部40bに接触する部分(第2内側通電部42a)、及び第2外側メッキ層28bのうち第2電極18に接触している部分の近傍(第2外側通電部42b)が軟化する(図4A参照)。
【0048】
そして、この段階においても、第2電極18のワークWに対する第1電極16側への押圧力(加圧力)は上昇しているので、図4Bに示すように、第2電極18が第1電極16側に変位しながら、第1外側通電部40aのうち第1電極16に押圧された部位が該第1電極16の側方に押し出される(流動する)とともに、第2外側通電部42bのうち第2電極18に押圧された部位が該第2電極18の側方に押し出される(流動する)。
【0049】
その結果、第1電極16の先端が、第1外側通電部40aを貫通し第1板部材本体22の一方の面に接触するとともに、第2電極18の先端が、第2外側通電部42bを貫通し第2板部材本体26の他方の面に接触するに至る。なお、この段階で、第1外側通電部40a及び第2外側通電部42bは溶融していないので、第1電極16に第1外側通電部40aの一部が付着したり、第2電極18に第2外側通電部42bの一部が付着したりすることはない。
【0050】
その後、ワークWに作用する加圧力がさらに上昇すると、図4Cに示すように、第1板部材12と第2板部材14が互いに逆方向に反り変形するため、第1内側通電部40bと第2内側通電部42aの周囲に若干の隙間Sが形成される。そのため、第2電極18が第1電極16側にさらに変位しながら、第1内側通電部40bと第2内側通電部42aが前記隙間Sに押し出される(流動する)。その結果、第1板部材本体22の他方の面が第2板部材本体26の一方の面に接触するに至る。
【0051】
本実施形態において、電流制御部32は、図3に示すように、ワークWに作用する加圧力が第1加圧力値P1から第2加圧力値P2に至るまでの間(加圧継続時間Tp)、初期電流値Ipの通電を継続する。これにより、第1外側通電部40a、第1内側通電部40b、第2内側通電部42a、及び第2外側通電部42bを効率的に軟化させることができる。
【0052】
なお、電流制御部32は、初期電流を間欠的に通電してもよい。また、電流制御部32は、第1電極16と第2電極18に供給する電流値を一次関数的又は段階的に初期電流値Ipまで上昇しても構わない。これら場合であっても、第1外側通電部40a、第1内側通電部40b、第2内側通電部42a、及び第2外側通電部42bを軟化させることが可能である。
【0053】
続いて、第1判定部36は、ワークWに作用する加圧力が第2加圧力値P2に達したか否かを判定する(ステップS6)。ここで、第2加圧力値P2は記憶部34から取得される。
【0054】
第1判定部36にて加圧力が第2加圧力値P2に達していないと判定された場合(ステップS6:NO)、ステップS6の処理を繰り返し行う。ナゲットNを形成するのに十分な加圧力に達していないからである。
【0055】
第1判定部36にて加圧力が第2加圧力値P2に達したと判定された場合(ステップS6:YES)、電極駆動制御部30が、第2電極18を駆動制御して、ワークWに作用する加圧力を第2加圧力値P2に保持するとともに、電流制御部32が、第1電極16と第2電極18に供給する電流値を初期電流値Ipから溶接電流値Iwに切り替える(ステップS7、図3の時間T2参照)。これにより、第1板部材本体22と第2板部材本体26の接触部分にナゲットNが形成される(図4D参照)。
【0056】
この場合、第1電極16の先端が第1板部材本体22の一方の面に接触するとともに、第2電極18の先端が第2板部材本体26の他方の面に接触しているので、溶接電流を通電した際に、第1電極16の先端に第1外側メッキ層24aの一部が付着したり、第2電極18の先端に第2外側メッキ層28bの一部が付着したりすることを好適に抑えることができる。
【0057】
そして、第2判定部38は、溶接電流の通電時間が所定の溶接時間Twに達したか否かを判定する(ステップS8)。ここで、溶接時間Twは、記憶部34から取得される。
【0058】
第2判定部38にて溶接電流の通電時間が溶接時間Twに達していないと判定された場合(ステップS8:NO)、ステップS8の処理を繰り返し実行する。ナゲットNが十分に成長していないためである。
【0059】
第2判定部38にて溶接電流の通電時間が溶接時間Twに達したと判定された場合(ステップS8:YES)、電極駆動制御部30が、第2電極18を駆動制御して、ワークWに作用する加圧力を除去するとともに、電流制御部32が、溶接電流の供給を停止する(ステップS9)。このように、第2加圧力値P2の加圧力をワークWに作用させた状態で溶接電流を溶接時間Tw継続して通電することにより、ナゲットNを十分に成長させることができるので、第1板部材12と第2板部材14とが良好に溶接される。
【0060】
その後、電極駆動制御部30は、第2電極18を退行させる(ステップS10)。この段階で、本実施形態に係る抵抗溶接方法が終了する。
【0061】
本実施形態に係る抵抗溶接方法では、上述したように、第1電極16と第2電極18とでワークWを第2加圧力値P2まで加圧する加圧工程において、該ワークWに初期電流を通電して第1外側通電部40aと第2外側通電部42bを軟化させるので、該第1外側通電部40aを第1電極16の側方に押し出してその先端を第1板部材本体22に接触させるとともに、該第2外側通電部42bを第2電極18の側方に押し出してその先端を第2板部材本体26に接触させることができる。
【0062】
これにより、第1電極16と第2電極18に溶接電流を供給する溶接工程において、第1電極16に第1外側メッキ層24aの一部が付着したり、第2電極18に第2外側メッキ層28bの一部の付着したりすることを好適に抑えることができる。よって、第1電極16及び第2電極18の長寿命化を図ることができるとともに、連続打点性を向上させることができる。
【0063】
本実施形態によれば、第1電極16と第2電極18を介してワークWに初期電流を通電しているので、第1外側メッキ層24aのうち第1電極16に接触する部分の近傍と、第2外側メッキ層28bのうち第2電極18に接触する部分の近傍とを効率的に軟化させることができる。
【0064】
また、ワークWに作用する加圧力が第2加圧力値P2に達した時に、第1電極16及び第2電極18に供給する電流を初期電流値Ipから溶接電流値Iwに切り替えているので、溶接サイクル(1回の抵抗溶接に要する時間)が長期化することを抑えることができる。
【0065】
次に、本実施形態の作用効果について表1を参照しながらさらに詳細に説明する。表1は、初期電流の通電によりワークWに入力される熱量(ジュール熱)に対する連続打点性を示している。
【0066】
【表1】

【0067】
この表1において、基準熱量Qは、溶接電流値Iwと同じ大きさの初期電流を加圧継続時間Tp(ワークWに作用する加圧力が第1加圧力値P1から第2加圧力値P2に至るまでの間)継続して通電した場合にワークWに入力される熱量を、熱量Qaは、実際にワークWに入力する熱量をそれぞれ示している。
【0068】
また、表中のA〜Dは、連続打点性の評価を示しており、連続溶接可能回数が20回以上のものをAと、連続溶接可能回数が15回以上20回未満のものをBと、連続溶接可能回数が10回以上15回未満のものをCと、連続溶接可能回数が10回未満のものをDと、それぞれ表記している。なお、連続打点性の評価において、溶接後のワークWの断面写真からナゲットNの大きさ(面積)を取得し、該面積が規定面積よりも小さくなった段階で、連続溶接ができなくなったと判断している。
【0069】
表1によれば、熱量Qaが基準熱量Qの0%よりも大きく5%未満であった場合、連続打点性の評価はDとなった。この理由としては、ワークWに対して十分な熱量が入力されなかったことで、第1外側通電部40aと第2外側通電部42bの軟化量が少な過ぎた(例えば、第1外側通電部40a及び第2外側通電部42bの全体における5%程度の量が軟化した)ことが考えられる。
【0070】
つまり、加圧工程において、第1外側通電部40aを第1電極16の側方に十分に流動させることができず、第1電極16と第1板部材本体22の接触面積が比較的小さくなってしまい、溶接工程において、第1外側通電部40aの一部が該第1電極16に付着したものと考えられる。なお、第2電極18についても同様である。
【0071】
熱量Qaが基準熱量Qの5%以上10%未満であった場合、連続打点性の評価はCとなった。この理由としては、熱量Qaが基準熱量Qの0%よりも大きく5%未満であった場合と比較して、第1外側通電部40aと第2外側通電部42bの軟化量が多くなった(例えば、第1外側通電部40a及び第2外側通電部42bの全体における25%程度の量が軟化した)ことが考えられる。
【0072】
熱量Qaが基準熱量Qの10%以上15%未満であった場合、連続打点性の評価はBとなった。この理由としては、熱量Qaが基準熱量Qの5%以上10%未満であった場合と比較して、第1外側通電部40aと第2外側通電部42bの軟化量が多くなった(例えば、第1外側通電部40a及び第2外側通電部42bの全体における50%程度の量が軟化した)ことが考えられる。
【0073】
熱量Qaが基準熱量Qの15%以上25%未満であった場合、連続打点性の評価はAとなった。この理由としては、第1外側通電部40aと第2外側通電部42bが十分に軟化したことが考えられる。
【0074】
熱量Qaが基準熱量Qの25%以上30%未満であった場合、連続打点性の評価はBとなった。この理由としては、加圧工程において、第1外側通電部40aの一部(例えば、第1外側通電部40aの全体における25%程度の量)と第2外側通電部42bの一部(例えば、第2外側通電部42bの全体における25%程度の量)が溶融したことが考えられる。
【0075】
つまり、加圧工程において、第1外側通電部40aの一部が溶融して第1電極16に付着するとともに第2外側通電部42bの一部が溶融して第2電極18に付着したことが考えられる。
【0076】
熱量Qaが基準熱量Qの30%以上35%未満であった場合、連続打点性の評価はCとなった。この理由としては、加圧工程において、第1外側通電部40aと第2外側通電部42bの溶融量が多くなった(例えば、第1外側通電部40a及び第2外側通電部42bの全体における50%程度の量が溶融した)ことが考えられる。
【0077】
熱量Qaが基準熱量Qの35%以上100%未満であった場合、連続打点性の評価はDとなった。この理由としては、加圧工程において、第1外側通電部40aと第2外側通電部42bの略全てが溶融したことが考えられる。
【0078】
以上のように、表1によれば、加圧工程においてワークWに入力する熱量Qaとしては、基準熱量Qに対して、5%以上35%未満であることが好ましく、10%以上30%未満であることがさらに好ましく、15%以上25%未満であることが一層好ましい。
【0079】
本発明は上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは当然可能である。
【0080】
例えば、本発明に係る抵抗溶接法方では、加圧工程において、第1外側メッキ層24aと第2外側メッキ層28bに対して第1電極16及び第2電極18を介さずに直接的に初期電流を通電することにより、該第1外側メッキ層24aと該第2外側メッキ層28bを軟化させてもよい。
【0081】
本発明に係るワークWは、第1外側メッキ層24a又は第2外側メッキ層28bを省略してもよい。また、該ワークWは、3枚以上の板材を重ねて形成してもよい。
【符号の説明】
【0082】
10…抵抗溶接装置 12…第1板部材
14…第2板部材 16…第1電極
18…第2電極 20…溶接制御部
24a…第1外側メッキ層 24b…第1内側メッキ層
28a…第2内側メッキ層 28b…第2外側メッキ層
30…電極駆動制御部 32…電流制御部
34…記憶部 36…第1判定部
38…第2判定部 N…ナゲット
S…隙間 W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板材を重ねることにより形成されるワークを第1電極と第2電極とで挟持して抵抗溶接する抵抗溶接方法であって、
前記ワークの一方の面には、前記第1電極に接触するメッキ層が形成されており、
前記第1電極と前記第2電極とで前記ワークを所定圧力まで加圧する加圧工程と、
前記ワークに所定圧力を作用させた状態で該第1電極と該第2電極とを介して該ワークに溶接電流を通電することにより、ナゲットを成長させる溶接工程と、を行い、
前記加圧工程では、前記メッキ層に前記溶接電流よりも低い初期電流を通電することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の抵抗溶接方法において、
前記加圧工程では、前記第1電極と前記第2電極とを介して前記メッキ層に前記初期電流を通電することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項3】
請求項2記載の抵抗溶接方法において、
前記加圧工程では、前記複数の板材同士が接触した後に、前記初期電流を通電することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抵抗溶接方法において、
前記加圧工程では、前記ワークを前記所定圧力に加圧するまで前記初期電流を継続して通電することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の抵抗溶接方法において、
前記ワークに作用する圧力が前記所定圧力に達した時に前記溶接電流の通電を開始することを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抵抗溶接法方において、
前記ワークの他方の面には、前記第2電極に接触するメッキ層が形成されていることを特徴とする抵抗溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−35045(P2013−35045A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174447(P2011−174447)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)