説明

押花絵の製造方法

【課題】生の草花から簡単な手順で押花を製作できるとともに、当該押花を素材とした原色鮮やかな押花絵の製作方法を提供する。
【解決手段】採取した草花1内の水分を滲出させる乾燥促進工程と、表面に顔料11を擦り付けて着色された台紙上に、水分を滲出させた草花1を絵画的に配置する配置工程と、草花1を配置してなる台紙を、乾燥剤15及び脱酸素剤16と共に透明硬質板13及びアルミ箔14などの防湿シートにて挟持し、さらにその周縁を接着して密封する密封工程と、同密封工程にて密封した半乾燥状態の草花1を無酸素状態で乾燥させる乾燥工程と、を有し、台紙は、紙繊維を空中に浮遊せしめ、加圧して板状にした複数のクッション材と、クッション材を巻回する細目の布体と、を有し、台紙上に、植物の老化を促進するエチレンガスを吸着する多孔性微粒子を塗布した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押花絵の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、押花絵として、台紙上に配置した乾燥押花を、乾燥剤及び脱酸素剤と共に透明硬質板及びアルミ箔にて挟持し、さらにその周縁を接着して密封したものが知られている。
【0003】
このような押花絵は、例えば、採取した草花を吸水紙で挟持すると共に加圧する整形工程と、水分の多く含まれている部分を押圧する乾燥促進工程と、乾燥促進処理した草花の表面を高温に加熱して草花をほぼ乾燥状態に至らしめる乾燥工程と、それらの乾燥処理を終えた草花、すなわち押花をキャンバスに配置する配置工程と、配置された押花を密封する密封工程と、を経て製造される。
【0004】
上述した押花絵を製造するに当たり、最も重要な点として、押花素材とする草花の採取した当時の鮮やかな原色を、変色や退色させることなく、いかに押花絵上において表現できるか、という点が挙げられる。
【0005】
草花の変色や退色は、草花を乾燥させて押花にする乾燥の末期に発生する。
【0006】
そこで、例えば特許文献1には、草花の乾燥の末期を無酸素状態で乾燥終了させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−234148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、本発明の発明者の鋭意研究の結果、展示中の押花絵が徐々に経日変色を起すのは、押花絵の中に密封されている乾燥押花から発生するエチレンガスの影響であることが分かった。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、密封した押花絵中の乾燥押花から発生するエチレンガスの影響による経時変化を抑制することができる押花絵の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る本発明は、採取した草花を押圧することにより、該草花内の水分を滲出させる乾燥促進工程と、クッション性を有すると共にその表面に顔料を擦り付けて着色された台紙上に、前記乾燥促進工程において水分を滲出させたのち、草花の表面を高温加熱処理した前記草花を絵画的に配置する配置工程と、前記配置工程にて前記草花を配置してなる前記台紙を、乾燥剤及び脱酸素剤と共に透明硬質板とアルミ箔で挟持し、さらにその周縁を接着して密封する密封工程と、を有し、前記台紙は、紙繊維を空中に浮遊せしめ、加圧して板状にした複数のクッション材と、前記クッション材を巻回する細目の布体と、を有し、前記台紙上に、植物の老化を促進するエチレンガスを吸着除去する多孔性微粒子を塗布するとともに、前記密封工程において同封した前記乾燥剤中に前記多孔性微粒子を配合したことを特徴とする押花絵の製造方法とした。
【0011】
また、請求項2に係る本発明は、請求項1に係る押花絵の製造方法において、前記乾燥剤は、無水塩化カルシウムと前記多孔性微粒子との混合とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、台紙をクッション材と該クッション材を巻回する細目の布体により構成したので、該台紙を極めて軟かく形成することができる。これにより、台紙を着色する際に、顔料のパステルを非常に塗りやすくすることができる。従って、多彩なパステルで着色した着色台紙は押花絵の芸術化を図るために不可欠という意匠的効果を高めることができる。また、台紙を着色するに際して、エチレンガスを吸着する多孔性微粒子を塗布するため、パステルは非常に塗りやすくなり、しかも、乾燥草花の変退色を抑制することができ、乾燥草花の色鮮やかさを可及的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施形態の生の草花を略平板状に整形する草花整形工程を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施形態の生の草花を乾燥させる工程の前処理として行う乾燥促進工程を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施形態の生の草花を最終的に乾燥させる高温加熱の工程後の草花乾燥工程を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施形態の押花絵台紙の構造を説明する断面図である。
【図5】本発明に係る実施形態の押花絵台紙への押花を配置する押花配置工程を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施形態の押花絵台紙へ配置された押花を密封する密封工程を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施形態の完成した押花絵を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、表面着色の台紙の上側には、高温加熱して得た乾燥草花(すなわち、押花)を配置すると共に、台紙の下側には乾燥剤と脱酸素剤とを配設し、乾燥押花と台紙と乾燥剤と脱酸素剤とを透明硬質板とアルミ箔などの防湿シートにより挟み込んで、透明硬質板と防湿シートとの周縁を接着することにより乾燥押花と台紙と乾燥剤と脱酸素剤とを密封状態とし、しかも、乾燥押花の上面は透明硬質板に圧着状態となるように構成してなる押花絵であって、前記台紙は、紙繊維を空中に浮遊せしめ、加圧して板状にした複数のクッション材と、前記クッション材を巻回する細目の布体と、を有し、前記台紙上に、植物の老化を促進するエチレンガスを吸着する多孔性微粒子を介して顔料を塗布することを特徴とする押花絵を提供するものである。
【0015】
すなわち、本願発明は、草花整形工程、乾燥促進工程、草花乾燥工程の順で実行することにより、生の草花から押花絵に用いる素材である乾燥した押花を製作し、さらに、押花配置工程、押花密封工程の順で実行することにより制作した押花絵である。
【0016】
そして、上記草花乾燥工程において、一定温度を保持することが可能な伝熱板(例えば、アイロン等の放熱板)を有する加熱機器(例えば、アイロン等)を用い、所定温度に保持された伝熱板を一定時間草花の表面から押圧することにより、草花の表面からの水蒸気の発生を防止するとともに草花の裏面から水蒸気を発生させ、発生した水蒸気を、通気性マットを通過して当該通気性マットの下に敷設された前記吸湿性紙で吸収している。このように、乾燥させる草花の表面から水分が蒸発することを防ぐことで、乾燥させる草花の表面に生起する凹凸の発生を防止して透明感や艶があり生の草花に近い状態の押花を製作することができ、このため、この押花を素材として用いた押花絵は、原色鮮やかな美しく潤いがある押花絵とすることができる。
【0017】
また、上記押花配置工程では、多孔性微粒子(例えば、タルクなど)を塗布し、塗布した多孔性微粒子の上に顔料をさらに塗布することを特徴とする。これにより、完成した押花絵は、長期間変色が起こらず美しい状態を保つことができる。さらに、多孔性微粒子を塗布することで、例えば、パステル(顔料を蝋燭からなるつなぎ剤で固めたもの)などによる彩色が容易となり、非常に淡く塗ることも可能になる。
【0018】
(押花絵30の構成)
本実施形態に係る押花絵30の構成について図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係る押花絵の構成を示す斜視図であり、図2は本実施形態に係る押花絵の断面を模式的に示した図である。
【0019】
本実施形態に係る押花絵30は、図1〜3に示すように、整形工程、乾燥促進工程および高温加熱工程を経た草花1を、キャンバス9上に絵画的に配置し、これを乾燥剤15と脱酸素剤16と共に透明硬質板13とアルミ箔14とで挟持し、その周縁を接着剤で接着し、密封して構成している。
【0020】
乾燥剤15には、無水塩化カルシウムを主剤とする配合乾燥剤が用いられ、この乾燥剤15にエチレンガスを吸着する多孔性微粒子が含有される。多孔性微粒子としては、例えば、タルク10が用いられ、50%容量比で乾燥剤15に含有される。これにより、乾燥草花から発生するエチレンガスが吸着除去され、密封押花絵素材の経時変色が防止される。
【0021】
また、無水塩化カルシウムにタルクを含有することで、以下の効果も奏する。すなわち、無水塩化カルシウムは吸水性が強力であり流動性が乏しく、乾燥剤としての利用が大きく妨げられてきたが、希釈剤としてタルク10を配合することで、流動性を付与することができる。これにより、乾燥剤15の製造効率を向上させることができ、ひいては乾燥剤15の製造コストを節減することができる。従って、乾燥剤15を安値で提供することができる。
【0022】
なお、多孔性微粒子の含有量は、上述した50%容量比に限定されることなく、例えば、50%容量比以上であればよい。これにより、無水塩化カルシウムに流動性を付与することができ、無水塩化カルシウムを主剤とする乾燥剤を作成することができる。
【0023】
透明硬質板13は、キャンバス9に乾燥押花1を圧着するプレートである。透明硬質板13の材質としては、硝子、ペット樹脂等が用いられる。
【0024】
アルミ箔14は、例えば、約35μの膜厚を有する。
【0025】
透明硬質板13とアルミ箔14は、その周辺部を接着剤により接着し、図示しない吸引ポンプにより脱気することで、その内部が密封されるようになっている。接着剤としては、例えば、シリコン樹脂が用いられる。
【0026】
キャンバス9は、本実施形態の押花絵30の特徴的な構成である。このキャンバス9は、例えば、軟い布張りキャンバスであり、クッション材22と、不織布9bを巻回し、表面を織り目の細かい布9cと、を有する。
【0027】
不織布9bは、例えば、天然木材パルプをバインダにより接着した乾式パルプ不織布であり、微小な紙繊維を空中に浮遊せしめ、加圧して板状に形成したものである。
【0028】
不織布9bの米坪量は、例えば、52.0〜68.0g/m2程度であり、好ましくは60.0g/m2である。なお、この不織布9bの米坪量は、0.1m2にて重量を測定し、1.0m2換算した。また、不織布9bの引張強度は、例えば、22.0M/100mm以上であり、好ましくは、31.0M/100mmである。なお不織布9bの引張強度は100mm幅×スパン100mm 引張速度200mm/分にて測定した。このように、不織布9bは、60g/m2の米坪量を有し、31.0M/100mmの引張強度を有するため、通気性およびクッション性に優れている。
【0029】
布9cは、例えば、木綿ローン布(織目の小さな布)である。
【0030】
このように、本実施形態に係る押花絵30のキャンバス9では、不織布9bを2枚重ねにしたので、キャンバス9に弾力性を有する軟い布張りキャンバスを形成することができる。これにより、キャンバス9の表面にパステルを斑なく、しかも淡く塗り広げることができるため、美しい背景を作成することができ、押花絵の芸術的価値を高めることができる。
【0031】
キャンバス9の表面に多孔性微粒子を塗布しているため、密封乾燥を経て出来上がった押花絵が展示中に変退色を起すのを防止することができる。これは、絵の中に素材として用いた乾燥押花が放出したエチレンガスを、多孔性微粒子が吸着除去するためである。
【0032】
キャンバス9の表面は、顔料11により着色されている。この顔料11には、例えば、多彩な色を組み合わせたセットとして市販されているセミハードタイプのパステルが用いられる。
【0033】
なお、押花配置工程で塗布される多孔性微粒子は、含水珪酸マグネシウムを含有するものであり、例えば、タルク(Talc:滑石)である。タルクの粒度は、5μm〜20μm程度である。これにより、乾燥押花1から発生するエチレンガスを吸着する効果がある。
【0034】
従来の乾燥方法(乾燥マット、かんたんボックス、ミラクルボックスによる乾燥)によって得た押花で作った押花絵を含めて素材となる押花の経時的変退色を防止することが押花絵の価値を高めるための最も有効なことである。また押花絵の芸術化を図るためにもキャンバスにパステルを塗って、素材押花をこよなく美しく見せることが必要である。
【0035】
そこでパステルを塗りやすく、自在に調色することが必要であり、2枚重ねのキノクロスの表面を綿ローン(緻密な織目)を張ったもの、(両端を粘着テープで軽く貼付ける)をキャンバスにした。この表面にタルクを塗り広げ、その上にパステル(チョーク状)を塗り広げるが、パステルを斑なく、かつ薄色に塗ることができる。この塗りやすさにはタルクも一役買っている。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る押花絵30によれば、タルクを塗布したキャンバス9上に乾燥押花1を配置したので、乾燥押花1を透明硬質板13とアルミ箔14により密封しても透明硬質板13およびアルミ箔14内で発生したエチレンガスはタルクで除去され、変色や退色が防止される。
【0037】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。まず、図1を参照して生の草花を略平板状に整形する草花整形工程を説明する。図1は生の草花を略平板状に整形する草花整形工程を説明する図である。
【0038】
[1.草花整形工程]
図1に示すように、生の草花1は、枝や柄、葉や花が八方に立体的に広がっているため、このままでは押花絵の作成には用いることができない。そこで、複数の草花1を、吸湿性紙である新聞紙で形成した複数の新聞紙シート2に交互に挟み、最上部の新聞紙シート2に、例えば、5〜20kgの重量の重量物3を載せて所定時間(例えば、1〜2時間)放置する。これにより、所定時間放置後の草花1は略平板状に整形される。なお、上記新聞紙シート2は、新聞紙の全紙を4つ折りにし、その4つ折りにした全紙を3枚程上下に重ねて形成されたものである。なお、この草花整形工程は省略して、次の工程の乾燥促進工程で草花の整形を行うことができる。草花の種類によって異なるが整形工程を省略できる場合が多い。
【0039】
具体的に説明すると、図1に示すように、まず、机等の平坦面20に新聞紙シート2を1枚敷く。次に、その新聞紙シート2の上に生の草花1を載置する。そして、草花1の上に1枚の新聞紙シート2を重ねて載置し、その新聞紙シート2の上に再び草花1を載置して、草花1の上に再び1枚の新聞紙シート2を載置する。このように、複数の草花1を交互に複数の新聞紙シート2の間に繰り返し挟みこんで積み上げる。最後に、木の板や書籍(例えば、辞書)などの新聞紙シート2と同程度の大きさの所定重量(例えば、5〜20kg)の重量物3を準備し、最上段の新聞紙シート2の上に載置し、この状態で例えば1〜2時間程放置する。
【0040】
以上の草花整形工程により、生の草花1は略平板状に整形される。上記草花整形工程では、草花1に細い木の枝等が含まれていた場合でも、押花絵の素材となるように草花1を略平板状に整形することができる。なお、草花整形工程においては、吸湿性紙である新聞紙を用いて説明したが、本発明はこれに限らす、吸湿性に優れた紙であれば吸湿性紙として用いることができる。
【0041】
[2.乾燥促進工程]
草花整形工程を終えたら、新聞紙シート2に挟んでいた草花1を取り出し、草花1中の水分の含有量の多い部分を、平坦面を有する重量物を用いて強く押圧し、草花1から外に水分を滲み出させる乾燥促進工程を実行する。以下、図2を用いて生の草花の乾燥促進工程を説明する。図2は、生の草花の乾燥促進工程を説明する図である。
【0042】
図2に示すように、吸湿性薄膜紙としてのティシュペーパー(または新聞紙)4を机等の平坦面20の上に広げ、その上に草花整形工程を終えた草花1を裏返しにして載置する。そして、盛り上がって見える草花1の葉の葉脈、柄及び茎などを、重量物としてのゴム槌5で強く押圧する。これにより、草花1は組織の表皮が破れて、中の水分が外に滲み出し、ティシュペーパー(または新聞紙)4で吸い取られる。
【0043】
このように、乾燥促進工程は、草花1の水分含有量の多い部分(例えば、草花1の葉の葉脈、柄及び茎)を重量物であるゴム槌5で押圧し、草花1から外部に強制的に染み出させた水分を吸湿性紙であるティシュペーパー(または新聞紙)4で吸収して、草花1に含まれる水分を除去する作業である。これにより、草花1はさらに平板上に整形され、後に行う草花1を乾燥させて押花を製作する前の有効な乾燥促進対策となる。さらに、草花1の裏面を重量物であるゴム槌5で押圧するため、草花の表面を傷つけることがなく、押花絵を完成した際に人目に触れる草花1の表面を美しく仕上げることができる。
【0044】
また、乾燥促進工程において、草花1の葉の葉脈、柄及び茎などを押圧する重量物としては、ゴム槌5意外にも、木槌や牛乳瓶の胴などを用いることもできる。つまり、ある程度の重量があり、草花1を破損させることなく水分を多く含む部分を選択的に押圧できるものであればよい。
【0045】
[3.高温加熱工程]
以下に、乾燥促進工程を終えた草花1の表面の高温加熱工程を、図3を用いて説明する。図3は草花1の表面加熱工程を説明する図である。この処理によって草花はほぼ乾燥状態となる。
【0046】
草花表面加熱工程では、図3(a)に示すように、台座7(例えば、アイロン台)の上に、吸湿性紙としての新聞紙シート2を敷き、その上に、通気性に優れた通気性マットとしてのウレタンマット6(サイズは10×250×345mm)を2枚重ねで新聞紙シート2の上に重畳して敷設する。そして、ウレタンマット6の上に、乾燥促進工程を終えた草花1を、表面を上にして載置する。
【0047】
このウレタンマット6は、一般的な三次元網目構造のウレタンフォームを特殊な処理により通気性を高めたものであり、空気清浄機のエアフィルターなどに用いられるものである。なお、本実施形態においては、ウレタンマット6(サイズは10×250×345mm)を二枚重ねで使用しているが、十分な厚み(例えば20mm以上)があれば一枚のウレタンマット6でも構わない。さらに、ウレタンマット6に限らず、通気性に優れたマットであれば、スポンジマット等を用いてもよい。
【0048】
そして、図3(b)に示すように、草花1の上から、所定温度(110〜130℃のうち、例えば、110℃)に加熱したアイロン8の伝熱面8aで、一定時間(20秒づつ数回)の間草花1の表面を押圧して加熱する。次に草花を裏返し、20秒づつ数回裏面から押圧して加熱する。
【0049】
なお、本実施形態においては、一定温度を保持することが可能な伝熱面8aを備えたアイロン8を加熱機器として用いているが、草花1を加熱する加熱機器は、アイロン8に限らず一定温度を保持することが可能な伝熱板を有する加熱機器であればよい。
【0050】
このように、草花1の表面を所定温度(例えば、110℃)で一定時間(例えば、20秒づつ数回)押圧することで草花ほぼ乾燥終結するが、植物の種類によっては、一部に未乾燥部分が残ることがあるが、それも押花絵の素材として用いることができる。詳細は後述の押花密封工程(図5参照)で詳述するが、押花絵を完成する際に、該押花絵には乾燥剤15と脱酸素剤16も同封されるため、半乾燥状態の草花1は押花絵に仕上げた状態で乾燥が進行することになる。
【0051】
また、草花1が細長い線状脈葉の場合または広い葉で表面がアイロン8の伝熱面8aより大きい場合は、伝熱面8aの加熱温度を120℃に調節し、草花1の表面全体に伝熱面8aをスライドさせて押圧する。
【0052】
また、高温(110℃又は120℃)に加熱したアイロン8の伝熱面8aで草花1の表面を押圧するとき、加熱されて温度上昇する草花1の温度上昇は、草花1が黒色や褐色に変色する酵素活性領域の温度(例えば、60℃〜80℃)を瞬時に通過することができる。これにより、酵素活性領域の温度(例えば、60℃〜80℃)を緩やかに通過することで生じる活性化した酵素による草花1の変色を防止することができる。さらに、高温(110℃又は130℃)のアイロン8による加熱により、草花1に含まれる酵素を死滅させることができるので、酵素を含まない乾燥した押花を製作することができる。
【0053】
また、草花1の表面をアイロン8の伝熱面8aにより押圧して加熱することにより、草花1の表面からの水蒸気の発生を抑えるとともに、草花1の裏面から発散する水蒸気は、ウレタンマット6を通過して新聞紙シート2に吸収される。このように、草花1の表面からの水分の蒸発を抑えることで、草花の表面に凹凸が生じることを防いて滑らかな状態とすることができ、表面に透明感があり、例えば椿の葉のような照葉は乾燥が終えても表面に艶が残り、生の草花に近い乾燥した押花を製作することができる。
【0054】
また、草花1の表面を所定温度(例えば、110℃)で一定時間(例えば、約90秒)押圧することにより、草花1中の緑葉に含まれる葉緑素が熱変性して、鮮やかな緑色に変化する効果(この現象は公知)が得られる。このように、草花1の表面を押圧して加熱することにより乾燥させた草花1の表面は、該草花1を押花絵の素材として用いた場合に、経時的変化による色あせなどの変色が生じにくい。
【0055】
さらに、従来の温風(例えは、常温〜40℃)による乾燥では、草花1の最深部の毛細管に存在する水分を完全に脱水することは困難であった。この結果、水分が残留したままの草花1を素材として押花絵を制作すると、経時的変化に伴い押花絵に変色を生じる場合がある。つまり、草花1の最深部の毛細管に残留した水分にもとづく、押花絵の経時的変化による変色が、しばしば起きていた。しかしながら、本実施形態の草花の高温加熱工程においては、高温(110℃又は120℃)のアイロン8により、草花1の表面を押圧して加熱することで草花1を乾燥させるので、草花1の最深部の毛細管に存在する水分までを脱水することができる。このため、本実施形態における草花加熱工程の処理を行った草花1を素材として製作した押花絵は、経時的変化による変色を防ぐことができる。
【0056】
上述してきたように、本実施形態においては、所定温度(110〜120℃)に加熱したアイロン8の伝熱面8aで一定時間(20秒づつ数回)草花1の表面を押圧して加熱することで草花1の乾燥が進み、従来の常温〜40℃での乾燥では実現できなかった、草花1の組織の深部における水分を蒸発させ、さらに草花中の酵素も死滅させることができる。このため、押花絵の素材として用いた場合に、色彩鮮やかな押花絵の状態を長期間保つことができる。
【0057】
ここで、所定温度(例えば、略110℃)のアイロン8による加熱により、草花1の花の色がアントシアン系の赤い色のときは、花の色が暗紫色に変化する場合がある。その場合は、乳酸を含侵させた布を変色した花の上に載せ、略80℃に加熱したアイロン8の伝熱面8aで数秒間押圧すれば、元の赤色に複色することができる。この赤い花の色の複色を赤花処理という。
【0058】
さらに、同じアイロン8による加熱でも草花1を構成する花の色が白い色のときは、花の色が半透明になる場合がある。これは、白い花の色は、白色の色素があるのではなく、水分のエマルジョン白色に見えるだけである。このため、水分を蒸発させると花の色が半透明化になってしまう。この場合は、花の裏面に白色塗料をスプレーして元の白色に複色すればよい。この白い花の色の複色を白花処理という。
【0059】
このように、本実施形態においては、アイロン8の加熱により草花乾燥工程において、草花1を構成する花の色が変色した場合は、変色した花の色を本来の色に戻す複色作業が行われる。
【0060】
以上、上述した草花整形工程、乾燥促進工程及び草花の高温加熱工程が終われば、最終工程の押花絵製作にとりかかることができる。なお、以下の説明においては、草花1と押花は本来同じものであるため同じ符号を付して押花1として説明する。
【0061】
[4.押花配置工程]
以下、押花製作手段により製作した押花1を用いた押花絵の制作について、図4及び図5を用いて説明する。図4は押花1を配置する押花絵台紙の構造を説明する断面図である。図5は押花1の押花絵台紙への配置を説明する図である。
【0062】
押花1を配置するための押花絵台紙として用いられるキャンバス9は、図4に示すように構成されている。すなわち、キャンバス9は、通気性に優れた短い紙繊維を軽く押し固めたクッション性を有する不織布9b(厚さは2mm)を2枚重ねて、表面を織り目の細かい布9cで巻回して形成している。これにより、キャンバス9の押花1が配置される面は、織り目の細かい布9cで布張りされていることになる。不織布9bは、微小な紙繊維を空中に浮遊せしめ、加圧して板状に形成しているため、通気性に優れクッション性がある。
【0063】
なお、本実施形態においては、クッション性を有する不織布9bを2枚重ねてキャンバス9を構成しているが、これにより、押花1が厚い場合、例えば、木の枝も支障なく配置することができる。これはキャンバスのクッション性とアルミ箔が押花の厚みを吸収するためである。
【0064】
上述した構成のキャンバス9を用いて、まず、図5(a)に示すように、キャンバス9の布張りされた押花配置面9aには、押花1を配置する前に、多孔性微粒子としての含水珪酸マグネシウムを含有するタルク10(Talc:滑石)が全面に塗布される。この多孔性微粒子としてのタルク10の粉末の粒度は5〜20μm程度である。タルク10は粒度の細かい粉末であるため、タルク10はスポンジ12によりキャンバス9の押花配置面9aの全面に均一に塗布される。
【0065】
タルク10の粉末をキャンバス9の押花配置面9aに塗布するのは、完成した押花絵を、仕上げ用の額縁等に入れて鑑賞する場合に生じる押花1の経時的変色(紫外線によって促進される)を抑制するためである。すなわち、タルク10の粉末で塗布することで、押花1は長期間変色を起こさず、その商品価値を著しく高める結果となる。これは、押花1から発生する植物老化促進ガスの一種であるエチレンガスをタルク10が吸着して除去するからである。
【0066】
次に、図5(b)に示すように、押花配置面9aに塗布されたタルク10の白い粉の上に、押花配置面9aに配置した押花1が映えるように、押花配置面9aの任意の位置又は全面に対して、パステル12a(顔料11を蝋燭のつなぎ剤で固めたもの)を用いて配色する。タルク10の粉末をキャンバス9の押花配置面9aの全面に予め塗布することにより、パステルの配色が非常にし易くなるという効果がある。
【0067】
最後に、図5(c)に示すように、押花1をキャンバス9の押花配置面9aに構図よく配置する。このように、クッション性のあるキャンバス9に押花1を配置することで、押花1が木の枝や厚い花や薄い花で構成されていた場合でも、後述の押し花密封工程(図6参照)において、押花1が様々の厚みであっても、それぞれの押花の表面を透明硬質板13に圧着させることができる。
【0068】
[5.押花密封工程]
上記押花配置工程により、キャンバス9の押花配置面9aへの押花1の配置が終了すると、次に、キャンバス9上に配置された押花1を密封する押花密封工程を行う。以下、図6を参照して押花密封工程を説明する。図6は、押花密封工程を説明する図である。
【0069】
図6に示すように、押花配置面9aへの押花1の構図よい配置を終えると、キャンバス9の押花配置面9aの裏面に乾燥剤15と脱酸素剤16とを当接させて、これを透明硬質板13と水蒸気透過性の極めて低いアルミ箔14とで挟み込む。
【0070】
すなわち、キャンバス9の押花1の押花配置面9aは、透明硬質板13で覆われ、キャンバス9の押花配置面9aの裏面は、乾燥剤15と脱酸素剤16とを当接させて水蒸気透過性の極めて低いアルミ箔14で覆われる。そして、透明硬質板13とアルミ箔14の周縁部17を接着剤(例えば、シリコン樹脂)で接着するとともに、周縁部17の一部である吸引口18aから内部の空気を吸引ポンプ18で吸引する。
【0071】
吸引ポンプ18で吸引は、キャンバス9の押花配置面9aに配置した押花1が、透明硬質板13とキャンバス9の押花配置面9aとで圧着されて固定されるまで行われ、その後、内部空気の吸引口18aを、接着剤であるシリコンで接着することにより、キャンバス9の押花配置面9aに配置された押花1は、押花配置面9aの裏面に配置された乾燥剤15と脱酸素剤16とともに、透明硬質板13とアルミ箔14とで密封されることになる。なお、密封後に内部に少量の空気が残留していても、同時封入した脱酸素剤16の作用により酸素が除去されるので、最終的に密封後は無酸素状態とすることができる。
【0072】
このように、透明硬質板13とアルミ箔14の周縁部17を接着する際に、接着剤としてシリコン樹脂を用いることで、透明硬質板13とアルミ箔14の周縁部17は気密に接着され、永久的な密封状態を保つことができる。
【0073】
また、上記のキャンバス9の裏面に当接された乾燥剤15は、無水塩化カルシウム(粉状)とタルク10等とを所定の配分(例えば、無水塩化カルシウム:タルク10=50%:50%)で混合した混合物である。そして、水蒸気のみを通し水を通さない不織布で作った封筒状の袋に充填されている(シート状乾燥剤と略称)。
【0074】
乾燥剤15を無水塩化カルシウムとタルク10との混合とした理由は、同上袋入れ作業を円滑にするためで、無水塩化カルシウムだけではその吸湿性のために流動性がなく作業が困難だからである。
【0075】
上述した押花密封工程により、変色や退色の起こり易い押花1の乾燥末期を無酸素状態で徐々に乾燥させることができるため、押花1の変色や退色を可及的に低減させることができる。これにより、押花1を採取した当時の原色を可及的に鮮やかに保持した押花絵を制作することができるとともに、採取した当時の原色を長期間維持することができる。また、密封された完全乾燥状態の押花も展示中の日光の作用により、老化促進のエチレンガス発生により徐々に変色していくことがキャンバス面に塗布した多孔性微粒子およびシート状乾燥剤中に配合した多孔性微粒子によって大幅に抑制される。
【0076】
上記密封工程を終えると、図7に示す押花絵30が完成する。この後、完成した押花絵30は、例えば、額縁などに入れられて飾られることになる。
【0077】
上述してきたように、本実施形態における押花絵の製作方法によれば、生の草花から一連の作業工程により押花絵を直接制作することができる。また、押花絵の製作に要する労力や時間が著しく軽減される。特に、草花乾燥工程において、高温(110℃又は120℃)のアイロン8により、草花1の表面を押圧して加熱するので、完成した押花絵は、経時的変化による変色を起こしにくく、なおかつ、表面に透明感のあり原色鮮やかな美しい押花絵を制作することが可能となる。
【0078】
以上、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 押花
2 新聞紙シート
3 重量物
4 テッシュペーパ
5 ゴム槌
6 ウレタンマット
7 アイロン台
8 アイロン
9 キャンバス
10 タルク
11 顔料
12 スポンジ
13 透明硬質板
14 アルミ箔
15 乾燥剤
16 脱酸素剤
17 周縁部
18 吸引ポンプ
20 机
30 押花絵

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した草花を押圧することにより、該草花内の水分を滲出させる乾燥促進工程と、
クッション性を有すると共にその表面に顔料を擦り付けて着色された台紙上に、前記乾燥促進工程において水分を滲出させたのち、草花の表面を高温加熱処理した前記草花を絵画的に配置する配置工程と、
前記配置工程にて前記草花を配置してなる前記台紙を、乾燥剤及び脱酸素剤と共に透明硬質板とアルミ箔で挟持し、さらにその周縁を接着して密封する密封工程と、
を有し、
前記台紙は、
紙繊維を空中に浮遊せしめ、加圧して板状にした複数のクッション材と、
前記クッション材を巻回する細目の布体と、を有し、
前記台紙上に、植物の老化を促進するエチレンガスを吸着除去する多孔性微粒子を塗布するとともに、前記密封工程において同封した前記乾燥剤中に前記多孔性微粒子を配合したことを特徴とする押花絵の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥剤は、前記多孔性微粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の押花絵の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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