説明

抽だい耐性判定方法

【課題】ポット栽培法より省スペース化を達成することができ、且つより短い試験期間で抽だい耐性の判定が可能である抽だい耐性判定方法を提供する。
【解決手段】表面殺菌したホウレンソウ種子10をバーミキュライトを敷き詰めたバーミキュライト培地20に播種し(播種工程)、このホウレンソウ種子10を人工気象機内で25℃および8h日長にて同調的に発芽させる(発芽工程)。2日後、発芽した胚軸を1/2MS寒天培地40に移植して1週間育成し(第1移植工程)、育成した胚軸44を子葉42から約1cm近傍の長さで切断し、子葉42のついた胚軸44を直接1/2MS寒天培地40に移植する(第2移植工程)。第2移植工程で移植した子葉42のついた胚軸44を人工気象機内で25℃および8h日長にて2週間育成させる(育成工程)。育成工程により育成したホウレンソウの内、第1葉節82以上が伸長しているものを抽だいと判定する(判定工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の葉菜類、特にホウレンソウの抽だい耐性を判定する抽だい耐性判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウレンソウは、夏等のように明期が暗期より長い長日条件で生育させると、花を咲かせるために茎が著しく伸びる抽だいが促進される。抽だいしたホウレンソウは食用とする器官である葉等の栄養が少なくなり、繊維質になると言われている。このため、抽だいしたホウレンソウは商品価値が著しく減ずることになる。従って、抽だいしにくい品種の作出は、品種改良において従来から重要な項目の一つとされてきた(非特許文献1参照)。
【0003】
抽だいしにくいホウレンソウの品種の作出を行うためには、抽だいが起きるかどうか、抽だいする程度等のいわゆる抽だいの特性を示す抽だい耐性の判定法が重要である。この抽だい耐性の判定法として、どのように栽培するのかという点に着目した畑栽培法とポット栽培法とがある。
【0004】
畑栽培法とは、ホウレンソウを畑で栽培し、その抽だい耐性を判定する判定法である。自然環境で栽培するため、抽だい耐性の判定法として最も確実性が高い。一方、広い敷地が必要であり、育成可能株数は約50株/m程度であるという問題があった。自然環境で栽培するということは、1年に1回しか試験を行うことができないという欠点を有することでもあった。
【0005】
上述した畑栽培法の問題を解決する判定法として、ポット栽培法がある。ポット栽培法とは、ホウレンソウを直径約4cm程度の多穴ポットを利用して栽培し、その抽だい耐性を判定する判定法である。ポット栽培法は人工気象室を利用するため畑栽培法と比較して広い敷地は不要であり、育成可能株数は約500株/m程度である。加えて、人工気象室で栽培するため1年中試験を行うことが可能であり、播種から約60日程度の試験期間で抽だい耐性の判定が可能である。
【0006】
【非特許文献1】“たより18号”、東北農業研究センターたより、[online]、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、[平成20年6月12日検索]、インターネット、<URL: http://tohoku.naro.affrc.go.jp/periodical/tayori/18/no18_01.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、ポット栽培法で利用する人工気象室のスペースは畑栽培法が必要とする広い敷地よりは少ない。しかし、人工気象室は一般に大型施設であり、育成可能株数は約500株/m程度であったため、より省スペース化が要求されているという問題があった。ポット栽培法では畑栽培法より短い試験期間で抽だい耐性の判定が可能であるが、それでも播種から約60日程度の試験期間を要していたため、より短い試験期間が要求されているという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、ポット栽培法より省スペース化を達成することができ、且つより短い試験期間で抽だい耐性の判定が可能である抽だい耐性判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の抽だい耐性判定方法は、所定の葉菜類の抽だい耐性を判定する抽だい耐性判定方法であって、殺菌した所定の葉菜類の種子をバーミキュライト培地に播種する播種工程と、前記播種工程で播種した所定の葉菜類の種子を人工気象機内で発芽させる発芽工程と、前記発芽工程により発芽した胚軸を寒天培地に移植する第1移植工程と、前記第1移植工程で移植した胚軸を子葉から所定の長さで切断し、子葉のついた胚軸を寒天培地に移植する第2移植工程と、前記第2移植工程で移植した子葉のついた胚軸を人工気象機内で育成させる育成工程と、前記育成工程により育成した所定の葉菜類の内、所定の葉節以上が伸長しているものを抽だいと判定する判定工程とを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、この発明の抽だい耐性判定方法において、前記バーミキュライト培地及び寒天培地は各々所定の容積以下の小型容器内に設けることができる。
【0011】
ここで、この発明の抽だい耐性判定方法において、前記人工気象機は所定の容積以下の小型人工気象機とすることができる。
【0012】
ここで、この発明の抽だい耐性判定方法において、前記寒天培地は無機塩類の濃度を1/2とすることができる。
【0013】
ここで、この発明の抽だい耐性判定方法において、前記所定の長さは1cm近傍とすることができる。
【0014】
ここで、この発明の抽だい耐性判定方法において、前記所定の葉節は第1葉節とすることができる。
【0015】
ここで、この発明の抽だい耐性判定方法において、前記所定の葉菜類はホウレンソウとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の抽だい耐性判定方法では、表面殺菌したホウレンソウ種子をバーミキュライトを敷き詰めたバーミキュライト培地に播種する(播種工程)。バーミキュライト培地は、例えば300mL容(所定の容積)以下の例えばカルチャーボトル(小型容器)内に設けることが好適である。次に、播種工程で播種したホウレンソウ種子を人工気象機(不図示)内で発芽させる(発芽工程)。具体的には、ホウレンソウ種子が播種されたカルチャーボトルを人工気象機内に置き、好適には25℃および8h日長にて同調的に発芽させる。本発明の抽だい耐性判定方法(播種工程および発芽工程)によれば、例えば60粒のホウレンソウ種子を15粒ずつ4本のカルチャーボトルに入れるため、極めて省スペース化を達成することができるという効果がある。このため、使用する人工気象機は小型人工気象機でよい。上述の発芽工程は好適には2日間であり、その後、発芽した胚軸を1/2MS寒天培地(別の4本のカルチャーボトル)に移植して好適には1週間育成する(第1移植工程)。次に、第1移植工程で移植し1週間育成した後の胚軸を子葉から所定の長さで切断し、子葉のついた胚軸を直接寒天培地に移植する(第2移植工程)。胚軸は子葉から約1cm近傍(所定の長さ)で切断する。その後、子葉のついた胚軸を直接1/2MS寒天培地に移植する。1/2MS寒天培地は、例えば100mL容(所定の容積)以下の例えばコニカルビーカー(小型容器)内に設けることが好適であり、1/2MS寒天培地はコニカルビーカー内に約20mL入っている。次に、第2移植工程で移植した子葉のついた胚軸を上記発芽工程で用いた人工気象機内で育成させる(育成工程)。具体的には、子葉のついた胚軸を移植した1/2MS寒天培地の入ったコニカルビーカーを人工気象機内に置き、好適には25℃および8h日長にて2週間育成する。本発明の抽だい耐性判定方法(第2移植工程および育成工程)によれば、例えば胚軸を5個ずつ12本のコニカルビーカーに入れるため、極めて省スペース化を達成することができるという効果がある。このため、使用する人工気象機は小型人工気象機でよい。以上のように、本発明の抽だい耐性判定方法(播種工程から育成工程)では大幅な省スペース化が可能となり、約2000株/mとなった。播種から20日程度で育成が終了し、抽だいの判定が可能となった。本発明の抽だい耐性判定方法におけるバーミキュライト培地での2日間の発芽工程と1/2MS寒天培地での1週間の第1移植工程との併用により、雑菌汚染を極めて有効に軽減することができるため、ホウレンソウの効率的な発芽および育成を行うことができるという効果がある。育成工程により育成したホウレンソウの内、所定の葉節以上が伸長しているものを抽だいと判定する(判定工程)。所定の葉節としては第1葉節を用い、育成工程により育成したホウレンソウの内、第1葉節以上が伸長しているものを抽だいと判定する。
【0017】
上記10種類の品種のホウレンソウ種子について本発明の抽だい耐性判定方法を適用して抽だい率を算出した結果、当該10種類の品種の既知の抽だい耐性と一致したため、本発明の抽だい耐性判定方法により抽だい耐性を判定できることが検定された。
【0018】
本発明の抽だい耐性判定方法によれば、大幅な省スペース化が可能となり、約2000株/mとなる。この結果、約500株/mのポット栽培法の4倍というより大幅な省スペース化を達成することができるという効果がある。さらに、播種から20日程度で育成が終了し、抽だい耐性の判定が可能となった。この結果、約60日の試験期間を要するポット栽培法より約1/3の短い試験期間で抽だい耐性の判定が可能となるという効果がある。1年中試験を行うことが可能である上、試験に使用する人工気象機は小型の装置ですむため、単位時間当たりの消費電力も小さくなり低コスト化を図ることもできるという効果がある。この結果、ポット栽培法より省スペース化を達成することができ、且つより短い試験期間で抽だい耐性の判定が可能である抽だい耐性判定方法を提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の抽だい耐性判定方法を説明するために、以下では所定の葉菜類としてホウレンソウを採り上げるが、所定の葉菜類はホウレンソウに限定されるものではなく、例えばサニーレタス、チンゲンサイ、サラダ菜等であってもよい。
【0021】
1.種子殺菌
図1(A)ないし(D)は、本発明の抽だい耐性判定方法を適用するホウレンソウ種子の殺菌方法の概要を示す。種子殺菌に用いられる薬剤は、従来用いられているエタノール、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等を用いればよい。市販の種々の濃度の薬剤は、有効(実効)塩素濃度によって適宜調節する。まず、図1(A)に示されるように、ホウレンソウ種子10を不織布で作成した袋11に詰める。ホウレンソウ種子10は市販されているものでよく、果皮を除いた種子等である必要はない。袋11内には同じ品種のホウレンソウ種子10が約60粒入っている。約60粒というのは便宜上の数字であって、60粒に限定されるものではない。後述するように、本発明の抽だい耐性判定方法の妥当性を示すため、10種類の品種のホウレンソウ種子(各約60粒)について本発明の抽だい耐性判定方法が適用される。
【0022】
次に、図1(B)に示されるように、ホウレンソウ種子10が入った袋11を80%エタノール12が入ったビーカー13等内に数秒間浸して表面殺菌する。ビーカー13等内に浸す時間は数秒間から30秒間であってもよい。続いて、図1(C)に示されるように、Tween20またはTween20相当品のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを3滴滴下した実効塩素濃度0.5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液14が入ったビーカー15等内に約40分間浸して表面殺菌する。ビーカー15等内に浸す時間は40分間から4時間であってもよい。最後に、図1(D)に示されるように、表面殺菌したホウレンソウ種子10を袋11ごと滅菌済みの蒸留水(滅菌水)16でよくすすいで洗浄する。
【0023】
2.播種および発芽
図2(A)、(B)は、各々表面殺菌したホウレンソウ種子10を播種した状態を示す斜視図および平面図である。図2(A)に示されるように、表面殺菌したホウレンソウ種子10をバーミキュライトを敷き詰めたバーミキュライト培地20に播種する(播種工程)。バーミキュライト培地20は、例えば300mL容(所定の容積)程度のカルチャーボトル22a(小型容器)内に設けることが好適である。カルチャーボトル22aの容積は300mL容に限定されるものではなく、300mL容以下であってもよい。小型容器としてはカルチャーボトル22aに限定されるものではなく、上から光をあてやすく、ガラスのように割れるおそれがなく、適切な培地面積を有するものであれば、他の容器であってもよい。300mL容カルチャーボトル22aに入れられるホウレンソウ種子10の数は約15粒程度が好適である。ホウレンソウ種子10をカルチャーボトル22aに多く入れすぎると、発芽後に植物同士がぶつかることになるためである。従って、60粒のホウレンソウ種子10をすべて播種するためには4本のカルチャーボトル22aを用いる。図2(B)は、図2(A)に示される雑菌の侵入を防ぐ密閉キャップ23を外して上から撮影した写真を示す。
【0024】
次に、播種工程で播種したホウレンソウ種子10を人工気象機(不図示)内で発芽させる(発芽工程)。具体的には、ホウレンソウ種子10が播種されたカルチャーボトル22aを人工気象機内に置き、ホウレンソウの生育適温である15℃から25℃の範囲(好適には実験で良い結果を得られた25℃)で、植物を育てる通常の8h日長から16h日長の範囲(好適には実験で良い結果を得られた8h日長)にて同調的に発芽させる。ここで、8h日長等は人工気象機における日の長さが1日あたり8時間ということであり、同調的にとはバラツキなくという程度の意味である。今回使用した人工気象機は株式会社日本医化器械製作所製の人工気象機LPH-200-RDSMPであり、外寸は横700mm、奥行750mm、高さ1750mmであり、内寸は横480mm、奥行450mm、高さ950mmである(所定の容積)。一般に、人工気象機のサイズは様々であり、館内設置のもの、屋外設置の巨大温室まで色々ある。本発明の抽だい耐性判定方法(播種工程および発芽工程)では、カルチャーボトル22aを4本のみ用いるため極めて省スペース化を達成することができる。このため、使用する人工気象機は上記の所定の容積で示されるように小型人工気象機でよい。上述の発芽工程は好適には2日間であり、その後、発芽した胚軸を1/2MS寒天培地に移植して好適には1週間育成する(第1移植工程)。図3(A)、(B)は、各々第1移植工程で移植し1週間育成した後の発芽した状態を示す斜視図および平面図である。図3(A)、(B)で図2(A)、(B)と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図3(A)、(B)で、符号40は上述した第1移植工程における1/2MS寒天培地であり、22bはこの1/2MS寒天培地40が設けられたカルチャーボトルであってカルチャーボトル22aと同様のものである。図3(A)、(B)に示されるように、ホウレンソウ種子10が発芽して胚軸および子葉が観察される。
【0025】
3.移植および育成
第1移植工程により1/2MS寒天培地40に移植し約1週間育成した後に、第1移植工程で移植した胚軸44を子葉42から所定の長さで切断し、子葉42のついた胚軸44を直接寒天培地に移植する(第2移植工程)。図4(A)、(B)は、第2移植工程の概要を示す。図4(A)、(B)において、符号44は上述した発芽工程で発芽した胚軸、42は子葉(一部)、40は上述した第2移植工程における1/2MS寒天培地である。図4(A)に示されるように、胚軸44を子葉42から約1cm近傍(所定の長さ)で切断する。その後、図4(B)に示されるように、子葉42のついた胚軸44を直接1/2MS(Murashige & Skoog)寒天培地40に移植する。1/2MS寒天培地40は無機塩類の濃度だけを1/2にしているが、MS寒天培地であってもよい。
【0026】
図5(A)、(B)は上述した子葉42のついた胚軸44を移植した状態を示す斜視図である。図5(A)、(B)で図4(A)、(B)と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図5(A)、(B)に示されるように、1/2MS寒天培地40は、例えば100mL容(所定の容積)程度のコニカルビーカー50(小型容器)内に設けることが好適である。コニカルビーカー50の容積は100mL容に限定されるものではなく、100mL容以下であってもよい。1/2MS寒天培地40はコニカルビーカー50内に約20mL入っている。図5(A)では雑菌汚染を防ぐために、コニカルビーカー50の上をアルミホイル52で覆っている。図5(B)は観察しやすくするために、コニカルビーカー50からアルミホイル52を取り去った状態を示す。上述した4本のカルチャーボトル22bから胚軸を5個ずつ12本のコニカルビーカー50に入れる。
【0027】
次に、第2移植工程で移植した子葉42のついた胚軸44を上記発芽工程で用いた人工気象機内で育成させる(育成工程)。具体的には、子葉42のついた胚軸44を移植した1/2MS寒天培地40の入ったコニカルビーカー50を人工気象機内に置き、ホウレンソウの生育適温である15℃から25℃の範囲(好適には実験で良い結果を得られた25℃)で、植物を育てる通常の8h日長から16h日長の範囲(好適には実験で良い結果を得られた8h日長)にて2週間育成する。育成期間は1週間から3週間の範囲であればよく、好適には実験で良い結果が得られた2週間である。本発明の抽だい耐性判定方法(移植工程および育成工程)では、コニカルビーカー50を12本のみ用いるため極めて省スペース化を達成することができる。このため、使用する人工気象機は上記の所定の容積で示されるように小型人工気象機でよい。以上のように、本発明の抽だい耐性判定方法(播種工程から育成工程)では大幅な省スペース化が可能となり、約2000株/mとなった。播種から20日程度で育成が終了し、以下で述べる抽だいの判定が可能となった。
【0028】
図6は抽だいを判定可能な程度に育成された状態のホウレンソウを示す。図6で図5(A)、(B)と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図6に示されるように、バーミキュライト培地20で発芽させた後、1/2MS寒天培地40で2週間育成した状態のホウレンソウは、効率的に発芽および育成が行われている。図7は参考のためバーミキュライト培地20での発芽工程を行わず、従来のように寒天培地40で発芽させた状態のホウレンソウを示す。図7で図6と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図7に示されるように、寒天培地40で発芽させた場合、雑菌汚染が起こりやすくなるため、効率的な発芽および育成を行うことが難しい。以上のように、本発明の抽だい耐性判定方法におけるバーミキュライト培地20での2日間の発芽工程と1/2MS寒天培地40での1週間の第1移植工程との併用により、雑菌汚染を極めて有効に軽減することができるため、ホウレンソウの効率的な発芽および育成を行うことができる。
【0029】
4.判定
育成工程により育成したホウレンソウの内、所定の葉節以上が伸長しているものを抽だいと判定する(判定工程)。図8は、育成工程で抽だいと判定されたホウレンソウを示す。図8に示されるように、胚軸44の上に子葉42が対生で向かい合ってつき、その上に子葉節80から第1葉81が伸び、その後は互生で子葉節80の上の第1葉節82から第2葉83が伸び、第1葉節82の上には第2葉節84が観察される。所定の葉節としては第1葉節82を用い、育成工程により育成したホウレンソウの内、第1葉節82以上が伸長しているものを抽だいと判定する。
【0030】
図9は、判定工程で判定された抽だい株と非抽だい株とを例示する。図9で図8と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図9に示されるように、株90および91は第1葉節82以上が伸長しているため、抽だい株と判定される。一方、図9に示される株92ないし95は、いずれも子葉節80までは伸長しているが第1葉節82以上が伸長していないため、非抽だい株と判定される。
【0031】
図10は、本発明の抽だい耐性判定方法の妥当性を示すため、抽だい率が既知の10種類の品種のホウレンソウ種子について、各々本発明の抽だい耐性判定方法を適用して抽だい率を算出した結果を示すグラフである。ここで抽だい率は、例えば100個のホウレンソウの粒の内、60個が発芽、育成して抽だい株となった場合、抽だい率60%とする。図10で、縦軸は抽だい率(%)であり、横軸は抽だい率が既知の10種類のホウレンソウ種子の品種および抽だい耐性(弱、中、強)を並べて示す。図10に示されるように、品種まほろばの抽だい率は100%、品種日本ホウレンソウの抽だい率は約90%、品種ディンプルの抽だい率は約85%、品種ミストラルの抽だい率は約70%、品種ソロモンの抽だい率は約70%、品種リードの抽だい率は約50%、品種晩抽パルクの抽だい率は約35%、品種アクティブの抽だい率は約20%、品種サンライトの抽だい率は約5%、品種アクティオンの抽だい率は約5%であった。既知の事実として、品種まほろば、品種日本ホウレンソウおよび品種ディンプルは抽だい耐性が弱とされており、品種ミストラル、品種ソロモンおよび品種リードの抽だい耐性は中とされており、品種晩抽パルク、品種アクティブ、品種サンライトおよび品種アクティオンの抽だい耐性は強とされている。図10に示されるように、本発明の抽だい耐性判定方法を適用して抽だい率を算出した結果、品種まほろば、品種日本ホウレンソウおよび品種ディンプルは抽だい率が80%以上となったため、抽だい耐性は弱と考えられる。品種ミストラル、品種ソロモンおよび品種リードは抽だい率が50%から70%となったため、抽だい耐性は中と考えられる。品種晩抽パルク、品種アクティブ、品種サンライトおよび品種アクティオンは抽だい率が40%以下となったため、抽だい耐性は強と考えられる。従って、上記10種類の品種のホウレンソウ種子について本発明の抽だい耐性判定方法を適用して抽だい率を算出した結果、当該10種類の品種の既知の抽だい耐性と一致したため、本発明の抽だい耐性判定方法により抽だい耐性を判定できることが検定された。上記10種類以外のホウレンソウの品種についても、本発明の抽だい耐性判定方法により抽だい耐性を判定できるものと考えられる。
【0032】
以上より、本発明の実施例1によれば、表面殺菌したホウレンソウ種子10をバーミキュライトを敷き詰めたバーミキュライト培地20に播種する(播種工程)。バーミキュライト培地20は、例えば300mL容以下のカルチャーボトル22a内に設けることが好適である。次に、播種工程で播種したホウレンソウ種子10を人工気象機内で発芽させる(発芽工程)。具体的には、ホウレンソウ種子10が播種されたカルチャーボトル22aを人工気象機内に置き、好適には実験で良い結果を得られた25℃および8h日長にて同調的に発芽させる。本発明の抽だい耐性判定方法(播種工程および発芽工程)では、カルチャーボトル22を4本のみ用いるため極めて省スペース化を達成することができる。このため、使用する人工気象機は上記の所定の容積で示されるように小型人工気象機でよい。上述の発芽工程は好適には2日間であり、その後、発芽した胚軸を1/2MS寒天培地(別のカルチャーボトル22b)に移植し好適には1週間育成する(第1移植工程)。次に、第1移植工程で移植し1週間育成した後の胚軸44を子葉42から約1cm近傍の長さで切断し、子葉のついた胚軸を直接寒天培地に移植する(第2移植工程)。その後、子葉42のついた胚軸44を直接1/2MS寒天培地40に移植する。1/2MS寒天培地40は、例えば100mL容以下のコニカルビーカー50内に設けることが好適であり、1/2MS寒天培地40はコニカルビーカー50内に約20mL入っている。次に、移植工程で移植した子葉42のついた胚軸44を上記発芽工程で用いた人工気象機内で育成させる(育成工程)。具体的には、子葉42のついた胚軸44を移植した1/2MS寒天培地40の入ったコニカルビーカー50を人工気象機内に置き、好適には実験で良い結果を得られた25℃および8h日長にて2週間育成する。育成期間は1週間から3週間の範囲であればよく、好適には実験で良い結果が得られた2週間である。本発明の抽だい耐性判定方法(第2移植工程および育成工程)では、コニカルビーカー50を12本のみ用いるため極めて省スペース化を達成することができる。このため、使用する人工気象機は上記の所定の容積で示されるように小型人工気象機でよい。以上のように、本発明の抽だい耐性判定方法(播種工程から育成工程)では大幅な省スペース化が可能となり、約2000株/mとなった。播種から20日程度で育成が終了し、抽だいの判定が可能となった。本発明の抽だい耐性判定方法におけるバーミキュライト培地20での2日間の発芽工程と1/2MS寒天培地40での1週間の第1移植工程との併用により、雑菌汚染を極めて有効に軽減することができるため、ホウレンソウの効率的な発芽および育成を行うことができる。育成工程により育成したホウレンソウの内、所定の葉節以上が伸長しているものを抽だいと判定する(判定工程)。所定の葉節としては第1葉節82を用い、育成工程により育成したホウレンソウの内、第1葉節82以上が伸長しているものを抽だいと判定する。
【0033】
上記10種類の品種のホウレンソウ種子について本発明の抽だい耐性判定方法を適用して抽だい率を算出した結果、当該10種類の品種の既知の抽だい耐性と一致したため、本発明の抽だい耐性判定方法により抽だい耐性を判定できることが検定された。上記10種類以外のホウレンソウの品種についても、本発明の抽だい耐性判定方法により抽だい耐性を判定できるものと考えられる。
【0034】
以上より、本発明の抽だい耐性判定方法では大幅な省スペース化が可能となり、約2000株/mとなった。この結果、約500株/mのポット栽培法の4倍というより大幅な省スペース化を達成することができた。さらに、播種から20日程度で育成が終了し、抽だい耐性の判定が可能となった。この結果、約60日の試験期間を要するポット栽培法より約1/3の短い試験期間で抽だい耐性の判定が可能となった。1年中試験を行うことが可能である上、試験に使用する人工気象機は小型の装置ですむため、単位時間当たりの消費電力も小さくなり低コスト化を図ることもできる。以上により、ポット栽培法より省スペース化を達成することができ、且つより短い試験期間で抽だい耐性の判定が可能である抽だい耐性判定方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の活用例として、種々の葉菜類、例えばホウレンソウ、サニーレタス、チンゲンサイ、サラダ菜等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の抽だい耐性判定方法を適用するホウレンソウ種子の殺菌方法の概要を示す図である。
【図2】表面殺菌したホウレンソウ種子10を播種した状態を示す斜視図および平面図である。
【図3】第1移植工程で移植し1週間育成した後の発芽した状態を示す斜視図および平面図である。
【図4】第2移植工程の概要を示す図である。
【図5】子葉42のついた胚軸44を移植した状態を示す斜視図である。
【図6】抽だいを判定可能な程度に育成された状態のホウレンソウを示す図である。
【図7】参考のためバーミキュライト培地20での発芽工程を行わず、従来のように寒天培地40で発芽させた状態のホウレンソウを示す図である。
【図8】育成工程で抽だいと判定されたホウレンソウを示す図である。
【図9】判定工程で判定された抽だい株と非抽だい株とを例示する図である。
【図10】本発明の抽だい耐性判定方法の妥当性を示すため、抽だい率が既知の10種類の品種のホウレンソウ種子について本発明の抽だい耐性判定方法を適用して抽だい率を算出した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
10 ホウレンソウ種子、 11 袋、 12 エタノール、 13、15 ビーカー等、 14 次亜塩素酸ナトリウム水溶液、 16 滅菌水、 20 バーミキュライト培地、 22a、22b カルチャーボトル、 23 密閉キャップ、 40 1/2MS寒天培地、 42 子葉、 44 胚軸、 50 コニカルビーカー、 80 子葉節、 81 第1葉、 82 第1葉節、 83 第2葉、 84 第2葉節、 90、91 抽だい株、 92、93、94、95 非抽だい株。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の葉菜類の抽だい耐性を判定する抽だい耐性判定方法であって、
殺菌した所定の葉菜類の種子をバーミキュライト培地に播種する播種工程と、
前記播種工程で播種した所定の葉菜類の種子を人工気象機内で発芽させる発芽工程と、
前記発芽工程により発芽した胚軸を寒天培地に移植する第1移植工程と、
前記第1移植工程で移植した胚軸を子葉から所定の長さで切断し、子葉のついた胚軸を別の寒天培地に移植する第2移植工程と、
前記第2移植工程で移植した子葉のついた胚軸を人工気象機内で育成させる育成工程と、
前記育成工程により育成した所定の葉菜類の内、所定の葉節以上が伸長しているものを抽だいと判定する判定工程とを備えたことを特徴とする抽だい耐性判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の抽だい耐性判定方法において、前記バーミキュライト培地及び寒天培地は各々所定の容積以下の小型容器内に設けられたことを特徴とする抽だい耐性判定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の抽だい耐性判定方法において、前記人工気象機は所定の容積以下の小型人工気象機であることを特徴とする抽だい耐性判定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の抽だい耐性判定方法において、前記寒天培地は無機塩類の濃度を1/2としたことを特徴とする抽だい耐性判定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の抽だい耐性判定方法において、前記所定の長さは1cm近傍であることを特徴とする抽だい耐性判定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の抽だい耐性判定方法において、前記所定の葉節は第1葉節であることを特徴とする抽だい耐性判定方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の抽だい耐性判定方法において、前記所定の葉菜類はホウレンソウであることを特徴とする抽だい耐性判定方法。


【図1】
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【図4】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−17149(P2010−17149A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181773(P2008−181773)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、「実用化のための可能性試験(FS)」(野菜の安定供給を目指した抗抽だい剤の実証試験)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】