説明

抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法

【課題】抽出塔の分液不良現象を簡便かつ効率的に発見することができ、よって常に良好な状態で液−液抽出操作を実行することが可能であるという優れた特徴を有する抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法を提供する。
【解決手段】抽出塔の分液不良現象の感知方法であって、抽出塔出口の液流量を連続的に監視し、該流量の変動により抽出塔内の分液不良現象の発生を感知する抽出塔の分液不良現象の感知方法。自動制御により連続運転される抽出塔の運転方法であって、連続的に抽出塔の分液状態を監視する手段を制御システム内に有し、該手段が分液不良現象を感知した場合、自動的又は運転員が介在して分液不良現象を改善するための操作が行なわれる抽出塔の運転方法において、分液不良現象の感知方法が上記の感知方法である抽出塔の運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は抽出塔の運転中に分液不良が生じた場合、簡便かつ効率的に早期発見することができ、よって常に良好な状態で連続的に液−液抽出操作を実行することが可能であるという優れた特徴を有する抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抽出塔とは、一般に円筒形の容器であって、塔頂部に重い液を供給し、塔底部に軽い液を供給し、重い液が下降し、軽い液が上昇する間に両液が接触し、そこで液成分の一部に物質移動が生じて、抽出操作が実行される装置である。
【0003】
抽出塔の代表的なものに、動力式の回転円板抽出塔と非動力式の多孔板抽出塔がある。回転円板抽出塔は、塔内に回転する円板と逆混合防止の邪魔板により分割された複数の区画を有するもので、相分散に急速回転円板のせん断応力を用い、区画内の混合を促進し、各区画相互間の逆混合を減少させることで抽出効率を高め、また円板の回転速度を調節することで混合状態を柔軟に調節できるという長所を有する。反面、設備に駆動部を持ち、また内部構造が複雑であることや、大塔径ではどうしても逆混合が大きくなるという短所を有する。一方、多孔板抽出塔は、塔内に固定された多孔板を有するものであり、設備が簡単な構造の装置であって、各段間の連続相の逆混合がなく比較的抽出効率が良く、スケールアップも容易であるという長所を有する。反面、多孔板を通して液滴分散し、各段ごとに分散相の分散と合一が繰り返されることになるが、操作の柔軟性に劣る。
【0004】
このように、抽出塔は構造の異なるいくつかの形式が考案されているが、いずれの抽出塔においても液−液抽出操作の課題は、両液を充分に接触させて効率よく物質移動を行い、抽出後の2液相を分離して抽出塔から取り出すことにある。すなわち、一方の液(分散相)を他方の液(連続相)中に安定的に分散させること、及び2液相を確実に分離するという相反する現象を同一容器内で適切に行うことが運転のポイントである。
【0005】
ところが、実際の運転に際しては、分散相の液滴が過小になりすぎ、両相の分離が困難になることがある。この現象は「分液不良」として知られており、抽出塔の運転に際し避けなければならない重要点である。
【0006】
このため、抽出塔の本体の抽出部、界面位置付近、多孔板位置等に覗き窓を設け、目視で2液相の状態を監視する方法がある。しかしながらこの方法は、判断の的確性と効率性に問題がある。別の方法として、特許文献1には、回転円板抽出塔を対象にし、抽出塔の塔底部に圧力と基準ヘッド圧との差圧を差圧系にて測定する方法が開示されている。さらに別の方法として、特許文献2には、多孔板抽出塔において、一段以上の分散板を挟んだ上下の差圧を測定するキャピラリー式差圧計を有する多孔板抽出塔の差圧を監視する方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、これらの方法は抽出塔内部に存在する重液と軽液のホールドアップ比率の変化を差圧変化として検知するものであるから、分液不良によって徐々に重液と軽液のホールドアップ比率が変化し、差圧計の指示値の有意差として認識されるまでの間、時間遅れが生じる場合がある。
【0008】
また、設備的な問題として、差圧計を内液の導圧管タイプとした場合、液比重に外乱を与えない観点から導圧管の保温が必要となり、ダイアフラムで受圧する場合は、圧力を伝達するためのキャピラリー管の許容長さから測定範囲が制限される。したがって、簡便かつ効率的に分液不良を早期発見することのできる抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法の確立が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開昭59−169506号公報
【特許文献2】特開2008−173563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、抽出塔の分液不良現象を簡便かつ効率的に発見することができ、よって常に良好な状態で液−液抽出操作を実行することが可能であるという優れた特徴を有する抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明のうち第一の発明は、抽出塔の分液不良現象の感知方法であって、抽出塔出口の液流量を連続的に監視し、該流量の変動により抽出塔内の分液不良現象の発生を感知する抽出塔の分液不良現象の感知方法に関する。
また、本発明のうち第二の発明は、抽出塔入口と出口の液流量を連続的に測定し、該流量差を連続的に監視し、該流量差の変動により抽出塔内の分液不良現象の発生を感知する抽出塔の分液不良現象の感知方法に関する。
また、本発明のうち第三の発明は、任意の時間間隔で抽出塔の抜出界面位置を測定し、抽出塔入口と出口の流量差に対して界面位置変化の補正を行うことを特徴とする請求項2に記載の抽出塔の分液不良現象の感知方法に関する。
また、本発明のうち第四の発明は、自動制御により連続運転される抽出塔の運転方法であって、連続的に抽出塔の分液状態を監視する手段を制御システム内に有し、該手段が分液不良現象を感知した場合、自動的又は運転員が介在して分液不良現象を改善するための操作が行なわれる抽出塔の運転方法において、分液不良現象の感知方法が請求項1〜3のいずれかに記載の感知方法である抽出塔の運転方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、抽出塔の分液不良現象を簡便かつ効率的に発見することができ、よって常に良好な状態で液−液抽出操作を実行することが可能であるという優れた特徴を有する抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のうち第一の発明の抽出塔の分液不良現象の感知方法は、抽出塔出口の液流量を連続的に監視し、該流量の変動により抽出塔内の分液不良現象の発生を感知する抽出塔の分液不良現象の感知方法である。
【0014】
以下、本発明を連続相が軽液、分散相が重液であるケースにて説明するが、連続相が重液、分散相が軽液である場合であっても同様である。
【0015】
本発明の抽出塔の運転方法を行うための抽出装置は、一般に液−液抽出塔として知られるものであればよく、例えば非特許文献1に記載されている。特に代表的なものとして、回転円板抽出塔や多孔板抽出塔を例示することができる。汎用的に多く用いられる多孔板抽出塔を具体的に説明すると、塔状容器の内部に孔を多数あけた分散板を適当な間隔で設置した多孔板抽出塔であって、上部から重液、下部から軽液を供給するための供給ノズルを、塔頂部から軽液、塔底部から重液を抜き出すノズルを有するものが一般的である。
【0016】
多孔板抽出塔の内部は、分散相を微細な液滴状に分散する多数の孔のあいた分散板と、連続相が上昇するための流路(アップカマーと呼ばれる)からなり、分散板としては、シーブトレーと呼ばれる多孔板を用いるのが一般的であるが、分散板の構造はこれに限定されるものではなく、本発明の方法は多孔板抽出塔に限定されるものでもない。
【0017】
分散相の液滴径が小さくなることでホールドアップは大きくなり、液−液抽出界面が増大し、二相間の物質移動は起こりやすくなることで抽出効率が上がる。
【0018】
一方、過剰に微細化された分散相は、エマルジョン化を招き、塔頂から抜き出される軽液の清澄液に重液が、あるいは塔底から抜き出される重液の清澄液に軽液が混入するといった分液不良状態を引き起こすため、段間での適切な分散状態と抜出液の分液状態を維持することが安定運転上重要なのである。
【0019】
そこで、抽出塔の必要個所に覗き窓やグラスゲージを設置して目視確認する方法や、実際に塔頂や塔底から抜き出された液を採取して分液状態を確認することが行われる。
【0020】
しかし、これらの方法は判断の的確性と効率性に問題があり、分液不良現象を連続的かつ的確に検知できる方法とはいえない。
【0021】
別の運転方法は、常時計測可能な差圧計の指示値の変化から、運転状態を連続的に監視することで塔内の抽出状態を把握するものである。この方法では、抽出塔の塔頂付近と塔底付近の差圧が急激に変化すれば、抽出塔内の重液と軽液のホールドアップ比率が変化したことを意味し、分液不良現象と判断されるが、差圧計の有意差として認識されるまでの間、時間遅れが生じる場合がある
そこで、本発明では分散相の蓄積現象を分液不良現象の発見手段として利用する方法を検討した。
【0022】
その結果、分液不良現象に伴って抽出塔の内部の重液と軽液のホールドアップ比率が変動すること、すなわち分散相が抽出塔内に蓄積する際に、抽出塔出口の液流量が著しく変化するため、分液不良現象の早期発見の手段として適切であることを見出した。
【0023】
本発明の第一は、抽出塔出口の液流量を連続的に監視し、該流量の変動により抽出塔内の分液不良現象に伴って発生する抽出塔内の分散相の蓄積をいち早く検知することにより、従来の方法よりも抽出塔の分液不良現象を簡便かつ効率的に感知するものである。本発明は、定常状態の抽出塔の運転条件、特に重液と軽液の入口流量が安定している場合に好適である。抽出塔では、重液及び軽液の入口流量を制御弁等で流量制御している場合が多く、抽出塔出口液は入口流量に対して成り行きとなるため、抽出塔の出口流れには流量計を設置しない、あるいは簡易的な現場指示計である場合があるが、本発明を実施するためには、抽出塔出口の液流量のうち、重液又は軽液の少なくともいずれか一方の流量を常時測定して監視することが必須であるが、分液不良現象の感知の信頼性の観点から、重液と軽液の両方を常時監視することが好ましい。
【0024】
抽出塔出口の液流量の測定方法は、一般的な流量計であれば特に形式の指定はないが、オリフィス流量計、ローターメーター、渦流量計などを挙げることができる。また、液出口にコントロール弁が設置されている場合、この弁の開度信号の出力を自動制御システムに取り込んで、開度と流量の関係から計算で流量を求めてもよいが、いずれの場合でも出口液の流量の指示値が計器室で連続監視できることが好ましい。
【0025】
本発明の第二は、抽出塔入口と出口の液流量を連続的に測定し、該流量差を連続的に監視し、該流量差の変動により抽出塔内の分液不良現象の感知する方法である。この方法は、抽出塔入口条件が刻々と変化するような抽出塔への適応が可能である点で第一の発明と異なる。つまり、第一の発明において、抽出塔の出口流量の変化が抽出塔へ供給される液の流量変化に起因する場合を除くことができ、より簡便かつ効率的に抽出塔の分液不良現象を検知することができるが、常時監視のために必要な計装点が増えるため、実施者がプロセスの特徴に応じて第一の発明と第二の発明を選択して有利なものを用いてよい。
【0026】
本発明の実施にあたっては、第一の発明に加えて、重液と軽液の少なくとも一方の抽出塔入口の液流量を連続的に測定する必要がある。
【0027】
液流量の測定方法は、出口の測定方法と同様に特に制限はない。
【0028】
本発明の第三は、第二の発明に加えて、任意の時間間隔で抽出塔の抜出界面位置を測定し、抽出塔入口と出口の流量差に対して界面位置変化の補正を行うことを特徴とする発明である。分液不良現象の感知精度を上げる観点において、第三の発明はより好ましいが、抽出塔の界面位置の変化を任意の間隔で連続的に取り込み、出口流量の変化に及ぼす界面位置の変化を補正するステップが新たに必要となるため、実施者が抽出塔の界面位置の制御性から補正の要否を判断し、第二の発明と第三の発明のどちらを実施するか選べばよい。
【0029】
本発明の第四は、自動制御により連続運転される抽出塔の運転方法であって、連続的に抽出塔の分液状態を監視する手段を制御システム内に有し、該手段が分液不良現象を感知した場合、自動的又は運転員が介在して分液不良現象を改善するための操作が行なわれる抽出塔の運転方法において、分液不良現象の感知方法が本発明の第一から第三のいずれかの抽出塔の運転方法である。
【0030】
本発明の抽出塔は、自動制御により連続運転される抽出塔であって、石油化学、製薬、食品プロセス等の連続抽出工程で一般的に用いられるものであってよい。
【0031】
本発明における、自動制御により連続運転される抽出塔とは、抽出塔の操作条件、例えば入口液流量、抽出温度、圧力等の操作変数が所望の範囲に自動的に制御される抽出塔を意味する。
【0032】
連続的に抽出塔の分液状態を監視する手段としては、抽出塔出口の液流量、必要に応じて入口の液流量や界面高さの情報を制御室内の制御コンピューターなどに取り込み、表示させ、該数値が異常値を示した場合に警報を発令させる手段を例示することができる。
【0033】
分液不良現象の感知方法としては、本発明の第一から第三のいずれかに記載の方法を用いることができる。
【0034】
そして、抽出塔の分液不良現象が感知された場合、分液改善するようアクションを取ることができる。具体的には、分液を改善するために、重液と軽液の供給比率を変えて液組成を変化させたり、抽出温度を変更することが挙げられるが、これらの運転条件変更は実施者がプロセス上許容される変更因子を適切な範囲で実施すればよく、自動制御システムにおいて、あらかじめ設定されたシーケンスで実施してもよいし、運転員に異常を知らしめるための警報を発令し、必要な処置を取るよう促してもよい。
【0035】
このようにして、抽出塔の運転中に分液不良が生じた場合、簡便かつ効率的に早期発見することができ、よって常に良好な状態で連続的に液−液抽出操作を実行することが可能であるという優れた特徴を有する抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法を提供することができる。
【実施例】
【0036】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例1
実段92段のシーブトレーを有する多孔板抽出塔において、分液不良検知用の差圧計の指示値(従来の方法)と本発明である抽出塔出口液の流量指示値(本発明の方法)、及び抽出塔入口と出口の液流量の差を抜出液界面位置変化で補正した指示値(本発明の方法)をそれぞれ連続監視できるように流量計、差圧計、界面計を設置した。概略を図1に示した。
この抽出塔を用いて、加圧下、満液状態にて連続相がケトン類を主とする軽液、分散相がアルカリ水溶液を主とする重液との間で連続抽出操作を行った。本発明の方法で分液不良現象を感知した時刻を横軸の0とし、1分刻みにそれぞれの値を取得し図2に示した。(ただし横軸のマイナス領域は、分液不良が発生する前の抽出塔が安定した状態における各指示値である。)
分液不良発生時、抽出塔出口液の流量指示値、及び抽出塔入口と出口の液流量の差を抜出液界面位置変化で補正した指示値は直ちに変動が見られた。
(ここでは、連続相である軽液の流量を連続的に監視しているため、流量の急激な増加は、すなわち分散相である重液の抽出塔内への蓄積を意味するため、図中横軸0分、135分付近に見られるような流量の急激な増加に注意すればよいのである。)
【0037】
比較例1
図2における抽出塔の差圧指示値の変動は、軽液抜出流量の変動よりも約10分遅れて検知された。
【0038】
以上のことから、従来の抽出塔の差圧指示値から分液不良を検知する方法よりも本発明の方法は簡便かつ効率的に分液不良現象を発見することができ、速やかに分液改善するためのアクションを取ることができ、よって常に良好な状態で液−液抽出操作を実行することが可能であるという優れた特徴を有する抽出塔の分液不良現象の感知方法及び抽出塔の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1における抽出塔の概略図である。
【図2】実施例1及び比較例1における抽出塔の分液不良現象の検知感度を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 軽液供給ライン
2 重液供給ライン
3 軽液抜出ライン
4 重液抜出ライン
5 抽出塔本体
6 軽液抜出流量計
7 軽液供給流量計
8 界面計
9 重液と軽液の液液界面
10 シーブトレー(全段は記載せず)
11 軽液供給用液分散器
12 重液供給用液分散器
13 受圧ダイアフラム
14 シリコン封入キャピラリー
15 差圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出塔の分液不良現象の感知方法であって、抽出塔出口の液流量を連続的に監視し、該流量の変動により抽出塔内の分液不良現象を感知する抽出塔の分液不良現象の感知方法。
【請求項2】
抽出塔入口と出口の液流量を連続的に測定し、該流量差を連続的に監視し、該流量差の変動により抽出塔内の分液不良現象を感知する抽出塔の分液不良現象の感知方法。
【請求項3】
任意の時間間隔で抽出塔の抜出界面位置を測定し、抽出塔入口と出口の流量差に対して界面位置変化の補正を行うことを特徴とする請求項2に記載の抽出塔の分液不良現象の感知方法。
【請求項4】
自動制御により連続運転される抽出塔の運転方法であって、連続的に抽出塔の分液状態を監視する手段を制御システム内に有し、該手段が分液不良現象を感知した場合、自動的または運転員が介在して分液不良現象を改善するための操作が行なわれる抽出塔の運転方法において、分液不良現象の感知方法が請求項1〜3のいずれかに記載の感知方法である抽出塔の運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−119905(P2010−119905A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293248(P2008−293248)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】