説明

担架

【課題】ベルトで要介助者を抑えることなく、要介助者の上半身や臀部が傾いたりするのを防止して、正しい姿勢に保持できる。
【解決手段】担架1は、脚部を支持する脚部受け部3と臀部を支持する臀部受け部4と上半身を支持する背もたれ部5とを備え、臀部受け部4と背もたれ部5とに第一凹部13と第二凹部14をそれぞれ形成した。担架1の表面を被覆するマットを設け、マットと第一凹部13、第二凹部14との間隙に空気層を形成した。第一凹部13と第二凹部14にマットを介して要介助者の臀部や背中を嵌合させることで、担架1で要介助者を正しい姿勢に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば身体の不自由な人等を正しい仰臥姿勢等で載せるようにした担架に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、体が不自由で介助が必要な者(以下、要介助者と記す。)を入浴させる際に用いられる補助具として、例えば下記特許文献1に記載された担架が提案されている。この担架は、要介助者の下半身を受ける下半部と、上半身を受ける背凭れ部と、頭部を受ける枕部とを備え、台車に支持されている。入浴時には、担架の背凭れ部と頭部を水平な下半部に対して約30度程度上側に傾斜させてリクライニング状態で入浴させる場合が多かった。また、下半部も二つに折り曲げて脚部も膝で折り曲げて入浴させることでリラックスして入浴できる。
そして、入浴時には、昇降浴槽に担架の台車を係止させた状態で、担架を台車から外して昇降浴槽内の支持部に移動可能とされている。昇降浴槽は、固定浴槽に対して昇降可能な可動浴槽を備えている。そして、可動浴槽を最下端位置まで降下させた状態で、担架を台車から分離して固定浴槽上の支持台に移送させて、湯を満たした可動浴槽を上昇させることで、担架に載置された要介助者が入浴状態に保持されることになる。
【0003】
このような担架において、要介助者の中には身体の自由がきかない人があり、担架に寝た状態で上半身が背凭れ部上で傾いたり、下半部の方向に上半身がずれたりすることがあった。このような場合、可動浴槽を上昇させた際に、上半身が傾斜して担架に横たわっているために顔が湯面に水没したり、口に湯面が重なって湯を飲み込んだりする人がいた。あるいは、上半身が背凭れ部上で傾斜して腕や手が担架の背凭れ部から横方向に飛び出してしまう人がいたりして、入浴時に可動浴槽と担架との間に腕や上半身が挟まれるおそれがあった。
そのため、特許文献1に記載された担架では、ベルトを取り付けて要介助者の上半身が真っ直ぐで正しい姿勢であるように、或いは傾かないように固定することもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−56905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、入浴時にベルトで要介助者の身体を正しい姿勢に固定して昇降浴槽内に入浴させることは、リラックスできないために入浴者のストレスが溜まり好ましくなかった。また、担架の側面に側部ガイド部を設けて要介助者の上半身が傾いてもガイド部から担架の外側に腕や手がでないようにしたものもあるが、担架上での要介助者の上半身の傾きを抑えることができないため、手や腕等がガイド部から外側に飛び出すことを完全には防止できなかった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて、ベルトで要介助者を抑えることなく、要介助者の上半身や臀部が傾いたりするのを防止して、正しい姿勢に保持できるようにした担架を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による担架は、下半身を支持する下半受け部と上半身を支持する背もたれ部とを備えた担架であって、下半受け部の臀部受け部の部分と背もたれ部との一方または両方に凹部が形成されていることを特徴とする。
本発明に係る担架によれば、下半受け部の臀部受け部と背もたれ部との一方または両方に凹部が形成されているから、この凹部に要介助者の臀部や背中を嵌合させることで、担架上で要介助者を正しい姿勢に保持することができ、傾いたりすることを確実に防止できる。
【0008】
また、本発明に係る担架は、脚部を支持する脚部受け部と臀部を支持する臀部受け部と上半身を支持する背もたれ部とを備えた担架であって、臀部受け部と背もたれ部との一方または両方に凹部が形成されていることを特徴とする。
本発明に係る担架によれば、臀部受け部と背もたれ部との一方または両方に凹部が形成されているから、この凹部に要介助者の臀部や背中を嵌合させることで、担架上で要介助者を正しい姿勢に保持することができ、傾いたりすることを確実に防止できる。
【0009】
また、担架の表面を被覆するマットが設けられ、該マットと凹部との間隙に空気の層が形成されるようにすることが好ましい。
本発明による担架では、マットと凹部との間に空気層が形成されることになり、マットを介して凹部に要介助者の臀部や背中を着座させれば、凹部内の空気層が圧縮されてクッション性が向上するため、要介助者は凹部にクッション性を以て着座したり寝たりすることができてリラックスした状態で保持できる。
【0010】
また、マットの上に要介助者が乗って臀部または/及び背部が凹部にはまりこむことで位置ずれを防止できるようにしてもよい。
マットの上に要介助者が載って臀部や背中を凹部にはまりこませることで、クッション性を確保しつつ要介助者の姿勢を正しく位置ずれを防止して保持できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る担架によれば、担架の臀部受け部と背もたれ部の一方または両方に凹部を形成したから、直接またはマットを介して担架に要介助者を乗せて横たわる場合、要介助者の臀部や背部が凹部内に嵌合されて正しい姿勢で保持される。しかも、マットを介して凹部内に臀部や背部を乗せた場合には凹部とマットとの間に空気層が形成されるためにクッション性を有しその上に要介助者が乗せられた状態になり、凹部によって要介助者の上半身が担架上で傾いたりすることを防止して保持できる。
そのため、要介助者は傾くことなく正しい姿勢で担架に乗せられ、上半身が傾いて保持されることで手や腕が担架の外に飛び出したりすることや入浴時に水没したりすることを確実に防止できて安全性が増すと共に、例えば入浴に際してもリラックスして安全な姿勢で入浴できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による担架を示す斜視図である。
【図2】担架の表面にマットを載置した状態の平面図である。
【図3】図2に示すマット付き担架の側面図である。
【図4】図3に示すマット付き担架のA−A線断面図である。
【図5】図4において、マットと担架を分離した断面図である。
【図6】背もたれ部を起こした状態の担架の斜視図であり、(a)はマットを設けない状態の図、(b)はマットを被覆した状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態による担架1について、図面に基づいて説明する。
図1には担架1の斜視図が示されている。図1に示す担架1は、例えば図示しない台車に乗せられた入浴用のストレッチャーの一部を構成する。このストレッチャーは例えば入浴時において、浴槽の側部に台車を連結させ、台車から担架1を分離して浴槽内に設けた支持台に移送して固定する。そして、その後に、例えば湯を満たした可動浴槽を上昇させるようにしている。
【0014】
図1に示す担架1は例えば板金で製造されており、要介助者の脚部が乗せられる脚部受け部3と、臀部が乗せられる臀部受け部4と、上半身と頭部が乗せられる背もたれ部5とが、互いに分離して構成され、これらは担架本体6を構成する。担架本体6はその裏面に鋼材からなる2条の支持部材8によって脚部受け部3と臀部受け部4と背もたれ部5とが互いに接続されている。
担架本体6は、脚部受け部3と臀部受け部4の間、臀部受け部4と背もたれ部5との間に設けた間隙でそれぞれ折り曲げ可能とされ、脚部受け部3と臀部受け部4の間を上方に凸に曲げることで要介助者の膝を折り曲げ可能とされ、臀部受け部4と背もたれ部5との間を上方に凹に曲げることで背もたれ部5を30度〜40度程度上側に折り曲げてリクライニング状態にすることができる。
【0015】
また、図1乃至図3において、担架本体6の脚部受け部3と臀部受け部4にかけて両側面に下側ガイド部10が形成され、身体の脚部や手等が担架本体6の外側に突出することを防止する。背もたれ部5の両側部にも上側ガイド部11が形成され、頭部や腕部等が担架本体6の外側に突出することを防止する。
【0016】
臀部受け部4には、要介助者の身体の長手方向に沿って凹部が延びる第一凹部13が形成されている。第一凹部13は両側の傾斜部13aと中央底部13bとで断面略台形状に形成され、要介助者の臀部が着座して嵌合可能とされている。背もたれ部5にも、要介助者の背中部分に凹部が延びる第二凹部14が形成されている。第二凹部14は両側の傾斜部14aと中央底部14bとで断面略台形状に形成され、要介助者の背中が着座して嵌合可能とされている。
また、担架本体6には、脚部受け部3と臀部受け部4と背もたれ部5とに亘って、所定間隔で貫通孔16が形成されている。
【0017】
図2及び図3に示すマット2の裏面には、担架本体6の各貫通孔16に嵌合可能な突起部17がスポンジ等の弾性体で形成され、突起部17は略貫通孔16の内径より若干大きい外径寸法を有している。そして、突起部17を弾性圧縮させた状態で貫通孔16に押し通すことでマット2を担架本体6の貫通孔16に係合可能とされている。
マット2は、担架本体6と略同一形状で全体に弾性体からなるシート体であり、担架本体6の貫通孔16に突起部17を嵌合させると共に、背もたれ部6の全体をほぼ被覆することで、担架本体6と一体化される。また、マット2は上述した担架本体6の脚部受け部3と臀部受け部4との間隙、臀部受け部4と背もたれ部5との間隙に対向する位置に折り曲げ部2aが形成され、担架本体2の折り曲げに追従して折り曲げ可能とされている。
【0018】
図4はマット2付き担架1の背もたれ部5におけるA−A線断面図であり、図5はその分解図が示されている。
担架本体1は断面略台形状の第二凹部14を有する部分の両端部に断面略L字形状の受け部19が連結されて形成されている。一方、この断面におけるマット2は、両側端部が折り曲げられて内側に屈曲する逆テーパ形状の端部2bをそれぞれ有しており、第二凹部14の一対の傾斜部14aに対向する内面にはマット2の折り曲げが容易なように一対の凹溝20が形成されている。そして、マット2と断面略台形状の第二凹部14との間は空気が満たされた空気層Kを形成する。
図5に示すマット2を背もたれ部5から分離した状態で、背もたれ部5のA−A断面における長さはマット2の逆テーパ状の端部2b、2b間の開口間の長さより広く形成されており、マット2の端部2b、2bを押し広げながら担架本体6の背もたれ部5を嵌合させると、マット2が容易に抜けないようになっている。
【0019】
本実施形態によるマット2付き担架1は上述の構成を備えており、次にその使用方法について説明する。
まず、例えば図6(a)に示すように、担架1の背もたれ部5を脚部受け部3や臀部受け部4に対して上方に約30度〜40度程度折り曲げたリクライニング状態において、図6(b)に示すように、マット2を担架本体6の表面に重ねて嵌合孔16内に突起部17を嵌合させ、背もたれ部5を被覆することで両者を一体化させる。この状態で、担架1の臀部受け部4と背もたれ部5に設けた第一凹部13と第二凹部14には、マット2との間に断面略台形状の空気層Kが形成されている。
【0020】
そして、このマット2付き担架1に、要介助者が着座すると、マット2を介して臀部は臀部受け部4の第一凹部13に嵌り、背中は背もたれ部5の第二凹部14に嵌り込む。この状態で、要介助者は臀部と背中が位置決めされてマット2を介して担架本体6に係止保持されており、容易に動かない。しかも、第一凹部13と第二凹部14では要介助者の臀部と背中が入り込むが、マット2により第一及び第二凹部13,14内の空気の逃げ場がないために圧縮され、クッション性が向上する。
この状態で、浴槽の側部に固定されたストレッチャーの台車から担架1を外して浴槽内へ移動させ、更に湯を満たした可動浴槽を上昇させることで要介助者は入浴状態になる。このとき、要介助者の臀部と背中はマット2を介して第一凹部13と第二凹部14に嵌合しているため容易に動かず、マット2付き担架1に対して正しい姿勢を維持できるため、正しい入浴状態になって頭部は湯面から出ており、要介助者の姿勢が傾いて湯中に水没したり湯面から湯を飲み込んだりすることはない。
【0021】
上述のように、本実施形態によるマット2付き担架1によれば、担架本体6の臀部受け部4と背もたれ部5に設けた第一凹部13と第二凹部14に、それぞれ要介助者の臀部と背中がマット2を介して嵌合するため、要介助者は担架1上で正しい姿勢に保持され、例えば入浴時に姿勢が傾いた状態で湯につかって湯中に水没したり湯を飲み込んだりすることがない。
また、要介助者の臀部や背中が担架1の第一凹部13や第二凹部14に嵌合する際、マット2と第一凹部13及び第二凹部14との間に空気層Kを形成しており、第一凹部13と第二凹部14内に臀部と背中が嵌合されることで第一凹部13及び第二凹部14内の空気が圧縮されてクッション性が向上するという利点もある。
【0022】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、担架1の脚部受け部3と臀部受け部4を分離して別に構成したが、一体に構成して下半受け部としてもよく、この場合には下半受け部に臀部を受ける第一凹部13を形成することになる。或いは、背もたれ部を下半受け部と一体に形成してもよいし、背もたれ部と、頭部受け部を別に形成してもよい。担架1の受け部の分割構成は任意である。
【0023】
また、担架1に形成する凹部は必ずしも2つ設ける必要はなく、いずれか一方の凹部だけでもよく、例えば背もたれ部5に第二凹部14のみ設けても良いし、臀部受け部4または下半受け部に第一凹部13のみ設けても良い。
また、第一凹部13,第二凹部14で形成される凹部の形状は断面台形状に限定されるものではなく、断面半円形状や多角形形状や凹曲線形状等、適宜断面形状の凹部を採用できることはいうまでもない。
【0024】
また、本発明の本実施の形態では、担架1として、入浴用の担架を用いたが、これに限定されることなく、救急用の担架や入浴用車椅子の椅子部として用いる担架等、適宜の担架に本発明を適用できる。
また、上述の実施形態では、担架1にマット2を被覆するようにしたが、必ずしもマット2を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 担架
2 マット
3 下半部
4 臀部受け部
5 背もたれ部
13 第一凹部
14 第二凹部
K 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下半身を支持する下半受け部と上半身を支持する背もたれ部とを備えた担架であって、前記下半受け部の臀部受け部の部分と背もたれ部との一方または両方に凹部が形成されていることを特徴とする担架。
【請求項2】
脚部を支持する脚部受け部と臀部を支持する臀部受け部と上半身を支持する背もたれ部とを備えた担架であって、前記臀部受け部と背もたれ部との一方または両方に凹部が形成されていることを特徴とする担架。
【請求項3】
前記担架の表面を被覆するマットが設けられ、該マットと前記凹部との間隙に空気の層が形成されるようにした請求項1または2に記載された担架。
【請求項4】
前記マットの上に要介助者が乗って臀部または/及び背中が前記凹部に嵌り込むことで位置ずれを防止できるようにした請求項3に記載された担架。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−105718(P2012−105718A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255078(P2010−255078)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000182373)酒井医療株式会社 (46)