説明

振動伝達型イヤホン

【課題】
特殊な構造の耳栓に限ることなく、単純な発泡樹脂体として形成された耳栓を用いている場合であっても、良好な音声伝達をすることができる振動伝達型イヤホンを提供すること。
【解決手段】
振動伝達型イヤホンであって、柔軟なゴム若しくは樹脂素材によって先端を半球形状若しくは先端に向かって直径が細くなるように形成した中空筒状の振動伝達体と、当該振動伝達体の内部空間内に音声を出力するように配置された音発生体と、前記振動伝達体の先端を突出させるとともに当該振動伝達体の基部を内部に収容し固定するケースを有したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外耳道に装着した耳栓を介して音の振動を伝達し使用者に音声を知覚させる振動伝達型のイヤホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
労働省から各事業場において実施すべき騒音障害防止対策を体系化して、「騒音障害防止のためのガイドライン」(平成4年10月1日付け基発第546号)を策定し、騒音作業に従事する労働者の健康障害防止を推進しており、騒音職場では騒音性難聴を防止するために耳栓等の防音保護具が使用されている。
しかし、防音保護具を使用すると作業指示等の会話ができないため、片方の耳の防音保護具を外して会話をしたり、無線機や携帯電話のイヤホンを耳に差込んで通話をして片耳難聴を誘発してしまう。そこで、騒音はしっかりと遮断しながら、無線機や携帯電話からの音声だけを耳の奥まで伝えるために内部に硬質ゴム製の振動体を挿入した発泡ポリウレタン製の耳栓を用いたイヤホンであって、当該耳栓を外耳道に装着した後に骨伝導スピーカーを接触させて音声等を伝達するように構成したものが知られている(特許文献1)。当該イヤホンは、騒音の激しい作業現場において、耳栓によって騒音を遮蔽したままの状態で通信機器を使用した音声会話若しくは音声等の可聴を行わせるために使用されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−253488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、発泡ポリウレタン等の素材によって形成されたスポンジ状の耳栓がよく利用されている。当該耳栓は、加圧しない無負荷の状態で円柱状を成したものであり、圧縮して外耳道に挿入した後に体積の回復によって外耳道の内壁に密着させて外耳道を塞ぎ、騒音となる空気振動が鼓膜に対して直接的に到達するのを防ぐものである。上記特許文献1記載の耳栓は、このようなスポンジタイプの耳栓を改良したものである。
しかし、上記特許文献1記載の耳栓のように内部に振動体を挿入したものは当然ながらコストが高くなる。また、耳栓は日々消費されるような消耗品的な物品であり、騒音軽減用の耳栓でありながら単なる騒音防止用あるいは通信機器用という用途に応じて種類の異なる耳栓を用意するのは管理面からも面倒である。また、耳栓は、ちぎって丸めて使用するグラスウールや、圧縮して外耳道に挿入して体積回復するウレタンフォームや、ゴムや軟質プラスチック等の弾力性のある素材で作られた形が決まっている耳栓等多種多様なものがあり、それを装着する人に耳も人種、性別、年齢、体型等により異なり、耳に合う耳栓は個人差が大きいものである。
また、耳栓と骨伝導スピーカーを接続部分においても、骨伝導スピーカーの環状部に耳栓の一端部を挿入してかん合する必要があり、装着がしにくいうえに、骨伝導スピーカー側が作業中に引っ掛かった場合に耳栓も一緒に取れてしまったり、その際に耳を傷つけてしまう恐れもある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み発明されたものであって、特殊な構造の耳栓に限ることなく、単純な発泡樹脂体として形成された耳栓を用いている場合であっても、良好な音声伝達をすることができる振動伝達型イヤホンを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
柔軟なゴム若しくは樹脂素材によって先端を半球形状若しくは先端に向かって直径が細くなるように形成した振動伝達体と、
当該振動伝達体の内部空間内に音声を出力するように配置された音発生体と
前記振動伝達体の先端を突出させるとともに、当該振動伝達体の基部を内部に収容し固定するケースを有したことを特徴とする振動伝達型イヤホン。
【0007】
前記振動伝達体が、中空筒状に形成されていること。
【0008】
前記振動伝達体が、軟質のシリコン樹脂によって形成されていること。
【0009】
前記音発生体は、表面に小孔を設けた樹脂若しくは非鉄金属によって形成されたケース内に、磁石とコイルおよび当該磁石とコイルによって駆動される振動板を設けたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願発明に係る振動伝達型イヤホンは、外耳道に装着した耳栓に接触させる振動伝達体を有するとともに、当該振動伝達体を柔軟なゴム若しくは樹脂素材によって先端を半球形状若しくは先端に向かって直径が細くなるように形成したものである。これにより、振動伝達体の一部が耳栓に接触しやすくなる。
また、振動伝達体を耳栓に接触させた際に、先端部が耳栓の外形にしたがって変形し、当該変形によって両者の接触面積を大きくすることができる。その結果、振動伝達体の内部空間内に出力された音声振動を、前記面積を増すことができた接触面を介して効率よく耳栓に伝達することができ、耳栓を介して鼓膜に到達する空気振動および耳栓に接した外耳周辺の骨および組織を介して、良好な音声を使用者に対して可聴させることができる。
また、当該振動伝達体を中空体として形成することにより、より変形しやすくすることができるという効果を有している。
また、耳栓を押さえつけるので耳栓がはずれることがない。
【0011】
また、本願発明に係る振動伝達型イヤホンは、振動伝達体にシリコン樹脂によって形成した気嚢状の中空体を用いている。シリコン樹脂は人体に接触しても安全な素材であるとともに、気密状の空間を形成しやすいものとなっている。
【0012】
また、本願発明に係る振動伝達型イヤホンは、音発生体として樹脂若しくは非鉄金属によって形成されたケース内に、磁石とコイルおよび当該磁石とコイルによって駆動される振動板を設けたものを用いている。また、コイルと磁石による駆動は、電気素子による音源と比較して大きな振動を発生させることができるので、騒音下で使用するイヤホンとして十分な出力の音声を発生することができるという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る振動伝達型イヤホンの外観斜視図である。
【図2】本発明に係る振動伝達型イヤホンの断面図である。
【図3】本発明に係る振動伝達型イヤホンの側面図である。
【図4】本発明に係る振動伝達型イヤホンの使用方法に関する説明図である。
【図5】本発明に係る振動伝達型イヤホンの装着状態に関する説明図である。
【図6】本発明に係る他の実施例に係る振動伝達型イヤホンの説明図である。
【図7】本発明に係る他の実施例に係る振動伝達型イヤホンの要部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1において、1は本発明に係る振動伝達型イヤホン(以下「イヤホン」という)の一例を表している。イヤホン1は、主に通信機器等からの電気信号を可聴可能な空気振動に変換する駆動部を収容したケース体2と、当該ケース体2から突出した振動伝達体3と、当該イヤホン1を耳に保持させる耳掛け体4を有している。また、図2は内部構造を簡略化して表したイヤホン1の断面図、図3はイヤホン1の側面図を表している。
なお、図1には一個のイヤホン1しか示していないが、通常は左右の耳用にそれぞれ設けられており、2個のイヤホンを一組として使用するものである。また、図1に示したイヤホンは、左右の耳に対して個々に装着されるタイプのものを示しているが、後述するように左右の耳用に設けたそれぞれの筐体(ケース)をアーム体によって連結させたタイプのヘッドフォンとして形成してもよいものである。
【0015】
図2を用いて、イヤホン1の構造を説明する。ケース体2は、プラスチック製の中空体として形成されたやや厚みのある円板状を成しており、内部に電気信号を音声振動に変換する音発生体5を有したものとなっている。音発生体5は、ケース体2の一部を構成する円板状側壁の内面中央に固定されている。
本実施の形態に用いている音発生体5は、薄い非鉄金属による円盤状の金属ケース内にコイル6と磁石7および振動板8を収容した小型の振動(音声変換)デバイスとして形成されたものである。音発生体5は、信号ケーブル9を介して入力された電気信号に基づきコイル6を駆動(振動)させ、当該コイル6と結合している薄板状の振動板8を振動させることによって可聴帯域の振動を発生させるものである。
なお、本実施の形態では、磁石とコイルを用いた音声発生手段を用いているが、振動素子を用いたものであっても差し支えがないものである。
【0016】
イヤホン1は、半球状の先端12と、後端に円形の開口13を有する中空筒状体として形成された振動伝達体3を有している。振動伝達体3は、自立的に形状を保持できる程度の肉厚で形成されたシリコンゴム製であり、後端の開口13によって音発生体5を覆うようにケース体2の内部に取り付けられている。また、振動伝達体3は音発生体5を気密的に内包する形でケース体2に取り付けられている。
本実施の形態では、後端の開口13の内径と音発生体5の外形を成すケース外径の一部を一致させ、音発生体5の外形部によって開口13を塞ぐようになっている。また、音発生体5はケース体2の一部を構成する円板状側壁の内面中央に固定されているので、振動伝達体3は音発生体5を介してケース体2の所定位置に固定された状態になっている。
なお、振動伝達体3を形成する素材は前述したようにシリコンゴムが最適であるが、同様の作用を有する他の樹脂素材、ゴム素材によって形成しても差し支えがないものである。また、振動伝達体3は前述したように中空筒状体として形成したものが最適であるが、中空ではない棒状体に形成しても差し支えがないものである。
【0017】
装着時に耳側に面するケース体2の円形側壁10の中央には、円形の開口11が設けられており、当該円形の開口11を介して振動伝達体3がケース体2の側壁面から突出するように設けられている。これにより、ケース体2の円形側壁10が耳等に接触する前に、振動伝達体3の先端12が耳の外耳道入り口付近に当接するようになっている。
また、開口11は、振動伝達体3の外径よりもやや大きく形成されており、振動伝達体3の外形部が開口11の内面に接触しないようになっている。音発生体5からの音声振動は、音発生体5と振動伝達体3との接触部から振動伝達体3に伝わり表面を振動させる。また、前述のように、振動伝達体3の内部は概ね気密的な空間として形成されており、かつ音発生体5を覆うように取り付けられているので、音発生体5によって発生した空気振動である音が振動伝達体3の内部空間に放出されるようになっている。そして、内部空間に放出された音声振動は振動伝達体3の表面を振動させる。それらの相乗効果によって伝わった振動伝達体3の振動により当該振動伝達体3に接触した物体に音発生体5によって発生した音声振動を伝達するようになっている。
振動伝達体5は、中空ではない棒状体でも振動が伝わるが、中空ではない棒状体では高音や高い周波数がカットされてこもった音になるため、中空筒状体として高音や高い周波数の振動が伝わるようにするとなお良い。
前記のように、振動伝達体3の外形部が開口11の内面に接触しないようにしているのは、音発生体5によって発生した空気振動をケース体2によって減衰させることなく、振動伝達体3を振動させるためである。
【0018】
次に、上記構成のイヤホン1の使用方法について説明する。図4は、耳栓Sを装着した人体Hの外耳道G部分の断面と、イヤホン1との関係を表している。
本願発明に係るイヤホン1は、外耳道に装着した耳栓Sとイヤホン1の振動伝達体3とを直接接触させることによって、音発生体5によって発生した音声を耳栓Sを介して人体に知覚させようとするものである。耳栓Sには、発泡ウレタン等の発泡素材を外耳道に装着できるように円柱状に成型したものが最適である。当該耳栓Sを用いることによって、騒音の大きい作業現場において騒音を遮断しつつ、通信用機器等によって受信した音声についてはイヤホン1を介して鮮明に聞くことができるものとなっている。
【0019】
耳掛け体4を耳の外周に掛けると、図5に示すようにイヤホン1を耳に装着することができる。この際、外耳道に耳栓Sが装着されていると、ケース体2から突出している振動伝達体3の半球状の先端12が変形し、耳栓Sの後端面に対して接触面積を増しつつ密に接触する。そして、振動伝達体3内の空気振動が前記密に接触した部位を介して耳栓Sに伝達され、耳栓Sに伝達された音声振動は、耳栓Sの他端から外耳道を介して鼓膜Kに伝達される。また、耳栓Sに伝達された一部の音声は外耳付近の骨や組織にも伝達され、骨伝導の方式によって音声として知覚される。
【0020】
図6、図7は本発明に係る振動伝達型イヤホンの他の実施形態に関する説明図である。上述したイヤホンは所謂耳掛け式であるが、次に説明する振動伝達型イヤホンは2個のイヤホンをアームで連結したヘッドフォン型として形成したものである。図6は当該ヘッドフォン型に形成した振動伝達型イヤホン(以下「連結型イヤホン」という)20の一部断面図として表した正面図であり、図7は耳に当接させるイヤホン部分の分解斜視図を表している。
連結型イヤホン20は、バネ性を有する一つの頭部バンド21の両端に、音源となる音発生体22と振動伝達体23を収容したケース体24(24a、24b)を設けたものとなっている。
【0021】
頭部バンド21は、硬質の合成樹脂若しくは金属製のバネ材によって形成された細幅の板状体であり、頭部を挟む方向に向かって適度な弾性を有するように形成されたC字状の部材である。
頭部バンド21の両端には、ケース体24が取り付けられている。ケース体24は、2分割されたケース部品24a、24bの接合によって形成されており、耳の位置にあわせることが出来るように頭部バンド21に対してスライドできるようになっている。
ケース体24の下端部には音源となる音発生体22が収容されている。音発生体22は、円板状の筐体を有したスピーカーユニットであり、内部に振動素子若しくはマグネットとコイルで駆動される振動板を内蔵したものである。音発生体22は、信号ケーブル25を介して入力された音声信号を出力し振動伝達体23に伝達するようになっている。
【0022】
振動伝達体23は、弾力性を有するゴム若しくは樹脂素材によって形成された中空の部材であり、本実施の形態ではシリコン樹脂を素材として先端を球面(半球状)に形成した筒状体として形成されたものである。
振動伝達体23の基部は音発生体22と直接若しくは間接的に取り付けられており、振動伝達体23の内部空間に音発生体22が出力した音声を放出するようになっている。内部空間に放出された音の振動は振動伝達体23全体に伝達され、当該振動伝達体23に接触した物体に音の振動を伝えることが出来るようになっている。
【0023】
当該連結型イヤホン20の使用方法も前述したイヤホン1と同様である。すなわち、連結型イヤホン20を頭部に装着すると、両耳の外耳道付近にケース体24に保持された振動伝達体23が配置される。この際、外耳道に耳栓が装着されていると、ケース体24から突出している振動伝達体23の半球状の先端が変形しつつ、耳栓の後端面に対して接触面積を増しつつ密に接触する。そして、振動伝達体23内の空気振動が前記密に接触した部位を介して耳栓に伝達され、耳栓に伝達された音声振動が耳栓の他端から外耳道を介して鼓膜に伝達される。また、耳栓に伝達された一部の音声は外耳付近の骨や組織にも伝達され、骨伝導の方式によって音声として知覚される。
以上、上記実施の形態に係る連結型イヤホン20は、前記イヤホン1と同様に騒音下において騒音から耳を保護しつつ、音発生体が出力した音声を聞くことができるようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、騒音の激しい作業現場等において、耳栓をしたまま使用することができる振動伝達型イヤホンに利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 イヤホン
2 ケース体
3 振動伝達体
4 耳掛け体
5 音発生体
6 コイル
7 磁石
8 振動板
9 信号ケーブル
10 円形側壁
11 開口
12 先端
S 耳栓
H 人体
G 外耳道
K 鼓膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟なゴム若しくは樹脂素材によって先端を半球形状若しくは先端に向かって直径が細くなるように形成した振動伝達体と、
当該振動伝達体の内部空間内に音声を出力するように配置された音発生体と
前記振動伝達体の先端を突出させるとともに、当該振動伝達体の基部を内部に収容し固定するケースを有したことを特徴とする振動伝達型イヤホン。
【請求項2】
前記振動伝達体が、中空筒状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の振動伝達型イヤホン。
【請求項3】
前記振動伝達体が、軟質のシリコン樹脂によって形成されていることを特徴とする請求項1記載の振動伝達型イヤホン。
【請求項4】
前記音発生体は、表面に小孔を設けた樹脂若しくは非鉄金属によって形成されたケース内に、磁石とコイルおよび当該磁石とコイルによって駆動される振動板を設けたものであることを特徴とする請求項1〜3記載の振動伝達型イヤホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−15890(P2012−15890A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151959(P2010−151959)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】