説明

振動式密度測定方法及び振動式密度計

【課題】測定対象の液体試料に帯電した静電気の振動周期への影響を除去することができる振動式密度測定方法及び測定対象の液体試料に帯電した静電気を放電することができる振動式密度計を提供する。
【解決手段】試料導入チューブ8a、金属継ぎ手7a、セル導入配管6aを通じてガラスセル1内に液体試料を導入するとともに、金属継ぎ手7aまたは7bにアース線を接触させることにより、液体試料に帯電している静電気を放電させる。この後、永久磁石2に電磁力を作用させることによりガラスセル1を振動させ、測定したガラスセル1の振動周期から液体試料の密度を算出する。このように、測定対象の液体試料に帯電した静電気が放電されるので、静電気によってガラスセルの振動周期が変化することなく、正しい密度値を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動式密度計に関し、特に、測定対象の液体試料に帯電する静電気の影響を除去する振動式密度計に関する。
【背景技術】
【0002】
振動式密度計は被測定試料を収容した測定セルを振動させて、測定した固有振動周期から被測定試料の密度を演算、出力する装置であり、例えば清涼飲料の濃度管理等の各種流体の密度測定に利用されている。
【0003】
この振動式密度計は、例えば、ガラス製のU字型測定セルを備え、このガラスセルの先端部に永久磁石を固定し、永久磁石に対向する位置に駆動コイルと検出部を内蔵した測定ヘッドを配置している。そして、被測定試料の密度測定時には、ガラスセルに被測定試料を導入するとともに、測定ヘッドの駆動コイルに駆動電流を流して永久磁石に電磁力を作用させることによりガラスセルを振動させ、検出部により検出したガラスセルの固有振動周期から被測定試料の密度を求めている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
以下、固有振動周期から被測定試料の密度を算出する方法について説明する。
ガラスセルの固有振動周期をTとし、被測定試料の密度をρとすると、ρは、
ρ=PT/4πV−M/V・・・(1)
で求めることができる。ただし、上記のPは振動系の振動定数、Vは被測定流体の体積(ガラスセルの容積)、Mはガラスセル及び永久磁石の質量である。
上記各P、V、Mはセンサ部の構造によって決定される定数であるから、P/4πV=K、M/V=Kとすると、
ρ=K−K・・・(2)
で表すことができる。
【0005】
ここで、既知の密度をもつ2種類の物質、例えば純水(ρWATER)と空気(ρAIR)をガラスセルで測定した固有振動周期をTwater、TAIRとすると、
ρWATER =KWATER−K・・・(3)
ρAIR =KAIR2 −K・・・(4)
であり、上記(3)、(4)式より定数K、Kは、
=(ρAIR−ρWATER)/(TAIR−TWATER)・・・(5)
=TAIR・(ρAIR−ρWATER)/(TAIR−TWATER)−ρAIR・・・(6)
となる。
【0006】
上記(5)、(6)式より、(2)式は、
ρ=ρAIR+(ρAIR−ρWATER)*(T−TAIR)/(TAIR−TWATER)・・・(7)
となり、純水と空気の設定温度での密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期TAIR、TWATER、被測定試料を測定した振動周期Tから被測定試料の密度ρを算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−58862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにして測定がおこなわれる振動式密度計のガラスセルの一方の開口端にはセル導入配管が接続され、他方の開口端にはセル出口配管が接続されている。このセル導入配管とセル出口配管は、継ぎ手を介してそれぞれ被測定試料を導入する試料導入チューブ及び測定の完了した被測定試料を排出する試料排出チューブに接続され、被測定試料の密度測定時には、試料導入チューブを介してガラスセルに被測定試料が導入される。
【0009】
このように、ガラスセルのセル導入配管やセル出口配管は、試料変更時に試料を容易に交換できるように、継ぎ手を介して試料導入チューブと試料排出チューブに接続されるが、これらのセル導入配管、セル出口配管、試料導入チューブ、試料排出チューブ及び継ぎ手は、被測定試料に対し耐蝕性を備える必要があり、一般にはフッ素系樹脂、例えば、テフロン(登録商標)チューブ及びテフロン製継ぎ手が使用されている。
【0010】
しかしながら、液体試料の変更時には、付着した液を除去するためにセル導入配管、セル出口配管を紙等で拭く必要があり、フッ素系樹脂はこのような接触摩擦で帯電しやすく、その電荷が測定対象の液体試料にも影響を及ぼし、その静電場のために振動周期が変化し、正しい密度測定ができないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために創案されたものであり、測定対象の液体試料に帯電した静電気の振動周期への影響を除去することができる振動式密度測定方法及び測定対象の液体試料に帯電した静電気を放電することができる振動式密度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明の振動式密度測定方法は、被測定試料を収容したガラスセルの振動周期から被測定試料の密度を測定する振動式密度測定方法において、測定対象の液体試料に帯電した静電気を放電させた後、被測定試料の密度を測定することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に係る発明の振動式密度計は、被測定試料を収容したガラスセルの振動周期から被測定試料の密度を測定する振動式密度計において、測定対象の液体試料に帯電した静電気を放電させる放電機構を備えたことを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項3に係る発明の振動式密度計は、請求項2に係る発明の振動式密度計において、上記放電機構を、上記ガラスセルの配管と被測定試料の導入チューブ、及び/または、排出チューブとを接続する金属継ぎ手により構成したことを特徴とし、
請求項4に係る発明の振動式密度計は、請求項2に係る発明の振動式密度計において、上記放電機構を、上記ガラスセルに取り付けられたアース電極により構成したことを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に係る発明の振動式密度計は、請求項2に係る発明の振動式密度計において、上記放電機構を、上記ガラスセルに施したメッキコーティングにより構成したことを特徴とし、
請求項6に係る発明の振動式密度計は、請求項2に係る発明の振動式密度計において、上記放電機構として、上記ガラスセルに被測定試料を導入、排出する導入チューブ、及び/または、試料排出チューブを金属チューブとしたことを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項7に係る発明の振動式密度計は、請求項2に係る発明の振動式密度計において、上記放電機構として、上記ガラスセルに被測定試料を導入、排出する試料導入チューブ、及び/または、試料排出チューブを導電性素材の樹脂チューブとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明の振動式密度測定方法によれば、測定対象の液体試料に帯電した静電気を放電させた後、液体試料の密度を測定するので、測定対象の液体試料が帯電状態となっていても、静電気が放電されるので、静電気によってガラスセルの振動周期が変化することなく、正しい密度値を測定することができる。
【0018】
また、請求項2〜請求項7に係る発明の振動式密度計によれば、測定対象の液体試料に帯電した静電気を放電させる放電機構を備えているので、測定対象の液体試料に静電気が帯電しないようにすることができ、同様に、静電気によってガラスセルの振動周期が変化することなく、正しい密度値を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図である。
【図2】図1のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図である。
【図3】静電気を放電させた場合の振動周期の時間変化を示す図である。
【図4】本発明の放電機構を備えたセンサ部の構造を示す図である。
【図5】本発明の放電機構を備えたセンサ部の他の実施例の構造を示す図である。
【図6】本発明の放電機構を備えたセンサ部の他の実施例の構造を示す図である。
【図7】本発明の放電機構を備えたセンサ部の他の実施例の構造を示す図である。
【図8】本発明の放電機構を備えたセンサ部の他の実施例の構造を示す図である。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図であり、このセンサ部は、ガラスセル1、永久磁石2、ホルダ3a、3b、温度センサ4、ガラス製の外筒5、セル導入配管6a、セル出口配管6bにより構成されている。
ガラスセル1は、肉厚0.2mm程度のガラスで作成した細いU字管であり、その先端部には永久磁石の薄板2が接着剤により固着されている。また、このガラスセル1の基端部はホルダ3a、3bに固定され、このホルダ3a、3bは外筒5に固定されている。また、温度センサ4は、ガラス管の内部にサーミスタが挿入されたものであり、試料の温度を測定する。
【0021】
また、ガラスセル1への試料の導入、排出を行うセル導入配管6a及びセル出口配管6bは、試料変更時に試料を容易に交換できるように、金属継ぎ手7a、7bを介して試料導入チューブ8a及び試料排出チューブ8bに接続される。そして、セル導入配管6a、セル出口配管6b、試料導入チューブ8a、試料排出チューブ8bにはテフロンチューブが使用されており、金属継ぎ手7a、7bには、金属、例えば、SUSが使用されている。
【0022】
一方、図2は図1のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図であり、センサ部が断熱材11の内部に収容されるとともに、ペルチェ素子(図示せず)を備えた銅ブロック12がセンサ部、すなわち、ガラスセル1内の被測定試料の温度を設定温度に保つように制御される。また、ガラスセル1の先端部に固定された永久磁石2に対向する位置に、駆動コイル13と、光により振動を検出する振動検出センサ14を内蔵した測定ヘッド15が配置されている。
また、図に示すように、温度センサ4のガラス管内には、サーミスタ16が配置され、ガラスセル1の先端付近の温度を測定する。
【0023】
制御装置17は、制御部21、駆動部22、検出部23、表示部24及び記憶部25を備え、制御部21には上記サーミスタ16の温度検出出力が入力され、サーミスタ16の温度が測定設定温度となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御する。また、駆動部22は測定ヘッド15の駆動コイル13に駆動電流を流し、検出部23は測定ヘッド15の振動検出センサ14の出力を検出してガラスセル1の振動周期を検出する。さらに、制御部21は、表示部24に測定の設定画面や密度の測定値を表示するとともに、ユーザが設定した測定条件や検出した振動周期等を記憶部25に記憶する。
【0024】
次に、液体試料の密度測定時の作用について説明する。
測定にあたっては、まず試料導入チューブ8a、金属継ぎ手7a、セル導入配管6aを通じてガラスセル1内に液体試料を導入するとともに、金属継ぎ手7aまたは7bにアース線を接触させることにより、液体試料に帯電している静電気を放電させる。この後、制御装置17の駆動部22より測定ヘッド15の駆動コイル13に駆動電流を入力し、永久磁石2に電磁力を作用させることにより、ガラスセル1に振動を開始させる。
【0025】
このときの振動を測定ヘッド15の振動検出センサ14が検出して検出信号を検出部23に入力し、この振動周期に同期した駆動信号を引き続き、測定ヘッド15の駆動コイル13に入力することにより、ガラスセル1を一定の周期で振動させて固有振動周期を求め、測定した振動周期から液体試料の密度を算出する。
【0026】
図3は振動周期の測定中に静電気を放電させた場合の振動周期の時間変化をプロットしたものであり、図3に示すように、測定開始後、0.1時間経過した時点で静電気を放電させることにより、それまで静電気によって変動していた振動周期の変化が発生せず、正しい密度値を測定するできることが理解できる。
【0027】
なお、上記の実施例では、密度測定時に金属継ぎ手7aまたは7bにアース線を接触させることにより、液体試料に帯電した静電気を放電させたが、図4に示すように、常時、金属継ぎ手7a、7bの一方、または両方をアースしておくことにより、測定対象の液体試料に静電気が帯電しても、放電させることができるので、静電気によってガラスセル1の振動周期が変化することなく、正しい密度値を測定することができる。
また、上記の実施例では、密度測定時に金属継ぎ手をアースすることにより液体試料の静電気を放電させたが、他の金属部分をアースしたり、液体試料自体にアースした金属を触れさせて液体試料の静電気を放電させることも可能である。
【実施例2】
【0028】
上記の実施例では、継ぎ手を金属製とすることにより、液体試料に帯電した静電気を放電させるようにしたが、その他の構成により放電機構を構成することもでき、以下、他の放電機構の実施例について説明する。
【0029】
図5は、放電機構としてガラスセルにアース電極を取り付けた実施例を示す図であり、図に示すように、ガラスセル1内部にホルダ3aを貫通してアース電極31が挿入されている。なお、アース電極31としては、ガラスセル1にクラックが入らないように白金を使用することが望ましい。
これにより、上記と同様に、測定対象の液体試料に静電気が帯電しても、放電させることができるので、静電気によってガラスセルの振動周期が変化することなく、正しい密度値を測定することができる。
【0030】
また、図6は、放電機構としてガラスセルにメッキコーティングを施したものであり、図に示すように、外筒5の端部の外周、及び、ガラスセル1の端部の内周面にメッキコーティング32が施され、このメッキ部分がアースされている。
これにより、上記と同様に、測定対象の液体試料に静電気が帯電しても、放電させることができるので、静電気によってガラスセルの振動周期が変化することなく、正しい密度値を測定することができる。
【0031】
さらに、図7は、放電機構として、ガラスセルに被測定試料を導入、排出する試料導入チューブ、試料排出チューブを金属配管としたものであり、図に示すように、試料導入チューブ8a、試料排出チューブ8bが金属配管33によって構成されており、この金属配管33の一方または両方がアースされている。
これにより、上記と同様に、測定対象の液体試料に静電気が帯電しても、放電させることができるので、静電気によってガラスセルの振動周期が変化することなく、正しい密度値を測定することができる。
【0032】
また、図8は放電機構として、ガラスセルに被測定試料を導入、排出する試料導入チューブ、試料排出チューブを導電性素材の樹脂チューブとしたものであり、図に示すように、試料導入チューブ8a、試料排出チューブ8bが導電性樹脂チューブ34によって構成されており、この導電性樹脂チューブ34の一方または両方がアースされている。
これにより、上記と同様に、測定対象の液体試料に静電気が帯電しても、放電させることができるので、静電気によってガラスセルの振動周期が変化することなく、正しい密度値を測定することができる。
【0033】
なお、図1、図4の実施例では、試料導入側、試料排出側の二つの継ぎ手の両方を金属継ぎ手としたが、試料導入側、または、試料排出側の一方のみ金属継ぎ手としてもよく、また、図7、図8の実施例では、試料導入チューブ、試料排出チューブの両方を金属配管または導電性樹脂チューブとしたが、試料導入チューブ、または、試料排出チューブの一方のみを金属配管または導電性樹脂チューブとしてもよい。
【0034】
また、以上の実施例では、金属継ぎ手、アース電極、メッキコーティング、金属配管、あるいは、導電性チューブを接地したが、必ずしも接地する必要はなく、接地しなくとも、静電気を減らす効果を得ることができる。
【0035】
さらに、以上の実施例では、測定セルの先端に取り付けた永久磁石に対向して配置される、駆動コイル及び光により振動を検出するセンサを有する測定ヘッドを備えた振動式密度計を例として説明したが、振動を検出コイルにより検出するタイプの振動式密度計等の他の振動式密度計にも、本発明の振動式密度測定方法及び振動式密度計を適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ガラスセル
2 永久磁石
3a、3b ホルダ
4 温度センサ
5 外筒
6a セル導入配管
6b セル出口配管
7a、7b 金属継ぎ手
8a 試料導入チューブ
8b 試料排出チューブ
11 断熱材
12 銅ブロック
13 駆動コイル
14 振動検出センサ
15 測定ヘッド
16 サーミスタ
17 制御装置
21 制御部
22 駆動部
23 検出部
24 表示部
25 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定試料を収容したガラスセルの振動周期から被測定試料の密度を測定する振動式密度測定方法において、
測定対象の液体試料に帯電した静電気を放電させた後、被測定試料の密度を測定することを特徴とする振動式密度測定方法。
【請求項2】
被測定試料を収容したガラスセルの振動周期から被測定試料の密度を測定する振動式密度計において、
測定対象の液体試料に帯電した静電気を放電させる放電機構を備えたことを特徴とする振動式密度計。
【請求項3】
請求項2に記載した振動式密度計において、上記放電機構を、上記ガラスセルの配管と被測定試料の導入チューブ、及び/または、排出チューブとを接続する金属継ぎ手により構成したことを特徴とする振動式密度計。
【請求項4】
請求項2に記載した振動式密度計において、上記放電機構を、上記ガラスセルに取り付けられたアース電極により構成したことを特徴とする振動式密度計。
【請求項5】
請求項2に記載した振動式密度計において、上記放電機構を、上記ガラスセルに施したメッキコーティングにより構成したことを特徴とする振動式密度計。
【請求項6】
請求項2に記載した振動式密度計において、上記放電機構として、上記ガラスセルに被測定試料を導入、排出する導入チューブ、及び/または、試料排出チューブを金属チューブとしたことを特徴とする振動式密度計。
【請求項7】
請求項2に記載した振動式密度計において、上記放電機構として、上記ガラスセルに被測定試料を導入、排出する試料導入チューブ、及び/または、試料排出チューブを導電性素材の樹脂チューブとしたことを特徴とする振動式密度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−38810(P2011−38810A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183997(P2009−183997)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)