説明

振動式密度計の校正パラメータ決定方法及び密度算出方法

【課題】既知の密度をもつ2種類の物質による膨大なデータ取得することなく、種々の温度での校正パラメータを決定することができる振動式密度計の校正パラメータ決定方法を提供する。
【解決手段】純水と空気の種々の温度における振動周期から種々の温度における校正パラメータを算出し、算出した校正パラメータと温度との関係に基づいてフィッティング関数を作成しておく。そして、温度スキャンの設定画面で各測定ステップにおけるセル温度、使用可能な任意の校正パラメータを選択した後、測定を開始すると、サーミスタ14の温度検出出力が各ステップでの設定温度となるように、銅ブロック12のペルチェ素子が制御されて測定セル1の固有振動周期が測定され、校正パラメータをフィッティング式から算出する場合には、フィッティング式に設定温度を入力することにより測定温度での校正パラメータK、Kが算出され、被測定試料の密度が演算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動式密度計に関し、特に、異なる温度での測定セル(振動子)の校正パラメータを決定する方法及び密度算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
振動式密度計は被測定試料を収容した測定セルを振動させて、測定した固有振動周期から被測定試料の密度を演算、出力する装置であり、例えば清涼飲料の濃度管理等の各種流体の密度測定に利用されている。
【0003】
この振動式密度計は、例えば、ガラス製のU字型測定セルを備え、この測定セルの先端部に永久磁石を固定し、永久磁石に対向する位置に駆動コイルと検出部を内蔵した測定ヘッドを配置している。密度測定時には、測定セル内に被測定試料を導入し、測定ヘッドの駆動コイルに駆動電流を流して永久磁石に電磁力を作用させることにより測定セルを振動させ、検出部により検出した測定セルの固有振動周期から被測定試料の密度を求めている。
【0004】
上記の振動式密度計は他の振動系と同様に、図6に示すように、バネ定数kと質量mで示すことができる。この振動系において、固有振動周期をTとすると、
T=√(m/k)
すなわち、
=m/k
である。
質量mはガラス管の質量mglass、被測定試料の質量msampleに分かれ、
=(msample+mglass)/k
であるので、被測定試料の質量msampleは、
sample=k・T−mglass・・・(1)
となる。
【0005】
上記の(1)式より被測定試料の密度ρSAMPは、測定セルの容量をVcellとすると、
ρSAMP=msample/Vcell=k・T/Vcell−mglass/Vcell
となる。ここで、k/VcellをK、−mglass/VcellをKとすると、
ρSAMP=K・T+K・・・(2)
で表すことができる。
【0006】
次に、被測定試料の密度の算出方法について説明する。
既知の密度をもつ2種類の物質、例えば純水(ρWATER)と空気(ρAIR)を測定セルで測定した固有振動周期をTWATER、TAIRとすると、
ρWATER =K・TWATER
+K・・・(3)
ρAIR =K・TAIR2 +K・・・(4)
であり、上記式(3)、(4)より校正パラメータK、Kは、
=(ρWATER―ρAIR)/(TWATER−TAIR)・・・(5)
=−TAIR・(ρWATER―ρAIR)/(TWATER−TAIR)+ρAIR・・・(6)
となる。
そして、純水と空気の測定温度での密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期TWATER、TAIRから上記校正パラメータK、Kを算出することができ、上記の式(2)により被測定試料を測定した固有振動周期Tから被測定試料の密度ρSAMPを求めることができる。
【0007】
上記のようにして算出した校正パラメータK、Kは、ある基準温度tの下での特定の2つの物質の密度及び固有振動周期に基づいて決定する定数であるので、この基準温度tと異なる温度の測定セルで被測定試料を測定した固有振動周期に基づいて被測定試料の密度を算出した場合には、真の値との誤差が生じる。
【0008】
そのため、断熱材、サーモモジュール等の温度制御手段を用いて測定セルの温度を基準温度tに保持するようにし、測定セルの温度が基準温度tになった時点での固有振動周期を測定するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−58862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、石油業界などの業界では、いくつかの測定温度での密度測定が必要とされることがあるが、上記のように、校正パラメータK、Kが温度によって異なるので、測定温度が変われば、密度既知の空気と純水でその都度校正パラメータを算出する必要があり、温度変更後の待ち時間も含め、異なる温度での密度測定には非常に長い拘束時間が必要であった。
【0011】
このため、既知の密度をもつ2種類の物質、例えば純水(ρWATER)と空気(ρAIR)を用いた校正パラメータを種々の温度で算出して、テーブルとして記憶しておき、このテーブルから測定温度での校正パラメータを読み出すことにより、上記の式(2)を用いて種々の温度での被測定試料の密度を算出することが可能である。
しかしながら、すべての温度での校正パラメータを準備するためには、理論上無限の点で関係を取得する必要があり、既知の密度をもつ2種類の物質、例えば純水と空気を用いた校正パラメータのテーブル作成はほとんど不可能である。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために創案されたものであり、既知の密度をもつ2種類の物質による膨大なデータを取得することなく、種々の温度での校正パラメータを決定することができる振動式密度計の校正パラメータ決定方法及び決定した校正パラメータを用いた密度算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明の振動式密度計の校正パラメータ決定方法は、被測定試料を収容した測定セルの振動周期と校正パラメータから被測定試料の密度を演算する振動式密度計の校正パラメータ決定方法であって、密度既知の二つの物質の種々の温度における振動周期から種々の温度における校正パラメータを算出し、算出した種々の温度における校正パラメータと温度との関係に基づいてフィッティング関数を作成し、作成したフィッティング関数により所定温度での校正パラメータを算出することを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に係る発明の振動式密度計の校正パラメータ決定方法は、被測定試料を収容した測定セルの振動周期と校正パラメータから被測定試料の密度を演算する振動式密度計の校正パラメータ決定方法であって、密度既知の二つの物質の種々の温度における振動周期から種々の温度における密度0、1の振動周期を算出し、算出した種々の温度における密度0及び密度1の振動周期と温度との関係に基づいてフィッティング関数を作成し、作成したフィッティング関数により所定温度での密度0、1の振動周期を得、この振動周期から所定温度での校正パラメータを算出することを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項3に係る発明の振動式密度計の密度算出方法は、被測定試料を収容した測定セルの振動周期と校正パラメータから被測定試料の密度を演算する振動式密度計の密度算出方法であって、被測定試料の測定温度での校正パラメータを、上記請求項1または請求項2に係る発明の校正パラメータ決定方法により決定し、当該校正パラメータと取得した測定セルの振動周期に基づいて被測定試料の密度を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明の振動式密度計の校正パラメータ決定方法によれば、密度既知の二つの物質の種々の温度における振動周期から種々の温度における校正パラメータを算出し、算出した校正パラメータと温度との関係を示すフィッティング関数から所定温度での校正パラメータを算出するので、既知の密度をもつ2種類の物質による膨大なデータを取得することなく、種々の温度での校正パラメータを決定することができる。
【0017】
一方、上記の校正パラメータと温度との関係を示すフィッティング関数を複数の温度における空気と純水の振動周期を用いて作成した場合、フィッティング関数には空気、純水の密度の温度変化、測定セルの温度変化が含まれ、特に、純水密度の温度変化は4℃にピークを持つために、内容が複雑になり、フィッティングが難しく、精度を向上させるためには、関係式作成に使用するデータ数を大幅に増やす必要がある。しかしながら、請求項2に係る発明の振動式密度計の校正パラメータ決定方法によれば、密度既知の二つの物質の種々の温度における振動周期から種々の温度における密度0、1の振動周期を算出し、算出した密度0及び密度1の振動周期と温度との関係を示すフィッティング関数を作成し、作成したフィッティング関数により所定温度での密度0、1の振動周期を得、この振動周期から所定温度での校正パラメータを算出するので、密度の温度変化の影響をなくすことができ、フィッティング関数作成に必要なデータ数が少なくとも、フィッティング誤差を少なくすることができる。
【0018】
また、請求項3に係る発明の振動式密度計の密度算出方法によれば、被測定試料の測定温度での校正パラメータを、上記請求項1または請求項2に係る発明の校正パラメータ決定方法により決定し、当該校正パラメータと取得した測定セルの振動周期に基づいて被測定試料の密度を算出するので、種々の温度で空気、純水による校正を実施することなしに、任意のセル温度に変更したときの密度を測定することができる。このため、空気と純水による校正時と異なる複数の温度での被測定試料の密度測定を連続して行う場合に、測定に必要な拘束時間を大幅に短縮することができる。また、一般的な温調機能を持たない密度計で任意温度での密度算出を行うことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図である。
【図2】図1のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図である。
【図3】温度スキャンの設定画面の一例である。
【図4】空気と純水を種々の温度で測定した固有振動周期の二乗を温度に対してプロットしたグラフである。
【図5】密度0、密度1の場合の種々の温度における固有振動周期の二乗を温度に対してプロットしたグラフである。
【図6】振動式密度計の振動系をモデル化した図である。
【実施例1】
【0020】
図1は振動式密度計のセンサ部の構造を示す図であり、図1(a)はセンサ部の側面図、図2(b)はセンサ部の上面図である。このセンサ部は、測定セル1、永久磁石2、ホルダ3a、3b、温度センサ4、ガラス製の外筒5により構成されている。
【0021】
測定セル1は、肉厚0.2mm程度のガラスで作成した細いU字管であり、その先端部には永久磁石の薄板2が接着剤により固着されている。また、この測定セル1の基端部はホルダ3a、3bに固定され、このホルダ3a、3bは図1(a)に示すように、外筒5に設けられた突起6により固定されている。また、温度センサ4は、ガラス管の内部にサーミスタが挿入されたものであり、試料の温度を測定する。このセンサ部は組み立て後、ヘリウム注入口7を介して内部にヘリウムが注入された後、封止される。
【0022】
一方、図2は図1のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図であり、センサ部が断熱材11の内部に収容されるとともに、ペルチェ素子(図示せず)を備えた銅ブロック12がセンサ部、すなわち、測定セル1内の被測定試料の温度を設定温度に保つように制御される。また、測定セル1の先端部に固定された永久磁石2に対向する位置に、駆動コイルと検出コイルを内蔵した測定ヘッド13が配置されている。
【0023】
また、図に示すように、温度センサ4のガラス管内には、サーミスタ14が配置され、測定セル1の先端付近の温度を測定する。
一方、測定セル1の一方の開口端は被測定試料を導入するサンプリングチューブ15に接続され、他方の開口端は測定の完了した被測定試料を排出する排液チューブ16に接続されている。
【0024】
制御装置17は、制御部21、駆動部22、検出部23、表示部24及び記憶部25を備え、制御部21には上記サーミスタ14の温度検出出力が入力され、サーミスタ14の温度が測定設定温度となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御する。また、駆動部22は測定ヘッド13の駆動コイルに駆動電流を流し、検出部23は測定ヘッド13の検出コイルの出力を検出して測定セル1の振動周期を検出する。さらに、制御部21は、表示部24に測定の設定画面や密度の測定値を表示するとともに、ユーザが設定した測定条件や検出した振動周期等を記憶部25に記憶する。また、この記憶部25には種々の温度での空気、純水の密度のデータを記憶したテーブルを備えている。
【0025】
次に、測定時に純水と空気を用いた校正を行うことなく、種々の温度での被測定試料の密度を算出するために使用する校正パラメータの算出方法について説明する。
まず、5℃、20℃、50℃、70℃での純水、空気の振動周期TWATER、TAIRを振動式密度計で測定し、上記の式(5)、(6)を用いて5℃、20℃、50℃、70℃での校正パラメータK(t)、K(t)を
(t)=(ρWATER、t―ρAIR、t)/(TWATER、t−TAIR、t
(t)=−TAIR、t・(ρWATER、t―ρAIR、t)/(TWATER、t−TAIR、t)+ρAIR、t
により求める。なお、各温度での純水、空気の密度ρWATER、t、ρAIR、tは既知であるので、各温度での純水、空気の振動周期TWATER、t、TAIR、tを用いて各温度での校正パラメータK(t)、K(t)を求めることができる。
【0026】
次に、上記の5℃、20℃、50℃、70℃での校正パラメータK(t)、K(t)を用いて校正パラメータと温度との関係式、すなわち、下記式(7)、(8)の2次式のフィッティング関数K1t、K2tを作成し、制御装置17の記憶部25に記憶しておく。
1、t=a・t+b・t+c・・・(7)
2、t=a・t+b・t+c・・・(8)
密度の演算時等には、上記の式(7)、(8)に所定の温度tを入力することにより、各温度での校正パラメータK1、t、K2、tを求めることができる。
【0027】
次に、異なる複数の温度での被測定試料の密度を測定する場合の作用について説明する。
制御装置17の表示部24の機能選択画面で、温度スキャンを選択すると、表示部24に温度スキャンの設定画面が表示される。図3は温度スキャンの設定画面の一例であり、図に示すように、この設定画面では、各測定ステップにおけるセル温度を入力することができる。各測定ステップにおけるセル温度が入力されると、制御部21は、そのセル温度で使用できる校正パラメータを判定して「校正パラメータ」欄に明るく表示する。
【0028】
すなわち、直前に純水と空気を用いて校正を行ったパラメータ(現在)、過去にその温度で純水と空気を用いて校正を実施したことのあるパラメータ(過去)、及び、上記のフィッティング式を使用して算出する校正パラメータ(関係式)の三種類の校正パラメータがあり、図3の例では、20℃で現在の校正パラメータを使用でき、30℃と40℃で過去に校正を実施した校正パラメータを使用できることが表示されている。なお、この過去に校正を実施した校正パラメータの表示欄には、実施した校正日も明るく表示される。
【0029】
そして、ユーザは三種類の校正パラメータの中から使用可能な任意の校正パラメータを選択することができ、図3の例では、20℃で現在の校正パラメータ、30℃で過去の校正パラメータ、40℃と50℃でフィッティング式を使用して算出する校正パラメータの使用が選択されている。
【0030】
次に、図3の設定画面で上記のように温度スキャンの設定を行った後、被測定試料を測定する場合の作用について説明する。
制御部21は、まず、サンプリングチューブ15を通じて測定セル1内に被測定試料を導入するとともに、サーミスタ14の温度検出出力がステップ1の設定温度、20℃となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御する。そして、サーミスタ14の温度検出出力が20℃になると、制御部21が駆動部22より測定ヘッド13の駆動コイルに駆動電流を入力して永久磁石2に電磁力を作用させることにより、測定セル1に振動を開始させる。
【0031】
このときの振動を測定ヘッド13の検出コイルが検出して検出信号を検出部23に入力し、この振動周期に同期した駆動信号を引き続き、測定ヘッド13の駆動コイルに入力することにより、測定セル1を一定の周期で振動させ、固有振動周期TSAMP、20℃を測定する。
次に、制御部21は、20℃で選択されている校正パラメータを判定し、この場合、現在の校正パラメータK(20℃)、K(20℃)が選択されているので、被測定試料の密度ρSAMPを以下の式により算出して表示部24に表示する。
ρSAMP=K(20℃)×TSAMP、20℃+K(20℃)
【0032】
次に、制御部21は、サーミスタ14の温度検出出力がステップ2の設定温度、30℃となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御する。そして、例えば、1時間の待ち時間が経過した後、同様にして測定セル1の固有振動周期TSAMP、30℃を測定する。次に、制御部21は、30℃で選択されている校正パラメータを判定し、この場合、過去の校正パラメータK(30℃)、K(30℃)が選択されているので、被測定試料の密度ρSAMPを以下の式により算出して表示部24に表示する。
ρSAMP=K(30℃)×TSAMP、30℃+K(30℃)
【0033】
30℃での密度測定が完了すると、次に、制御部21は、サーミスタ14の温度検出出力がステップ3の設定温度、40℃となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御し、同様に、1時間経過した後、測定セル1の固有振動周期TSAMP、40℃を測定する。次に、制御部21は、40℃で選択されている校正パラメータを判定し、この場合、「関係式」が選択されているので、フィッティング式から校正パラメータを算出する。すなわち、制御部21は、記憶部25から読み出した上記式(7)、(8)のフィッティング式に40℃を入力することにより40℃での校正パラメータK1、40℃、K2、40℃を算出する。
【0034】
そして、制御部21は、校正パラメータとして、上記のK1、40℃、K2、40℃を使用し、振動周期として、上記のTSAMP、40℃を使用することにより、被測定試料の密度ρSAMPを以下の式により算出して表示部24に表示する。
ρSAMP=K1、40℃×TSAMP、40℃+K2、40℃
また、ステップ4においても、同様に、50℃での校正パラメータK1、50℃、K2、50℃を算出し、被測定試料の密度ρSAMPを以下の式により算出して表示部24に表示する。
ρSAMP=K1、50℃×TSAMP、50℃+K2、50℃
【0035】
以上のように、種々の温度で空気、純水による校正を実施することなしに、任意のセル温度に変更したときの密度を測定することができるので、サンプルの温度変更を行った測定を連続的に実行することができる。
すなわち、通常測定→温度変更→待ち時間(1時間)→通常測定→温度変更→待ち時間(1時間)→通常測定というように、測定を実施することにより、温度を変えた試料の密度測定値を連続的に得ることが可能となる。
【実施例2】
【0036】
上記の実施例では、校正パラメータと温度との関係を示すフィッティング関数を作成したが、フィッティング関数には空気、純水の密度の温度変化、測定セルの温度変化が含まれ、特に、純水密度の温度変化は4℃にピークを持つために、内容が複雑になり、フィッティングが難しく、精度を向上させるためには、関係式作成に使用するデータ数を大幅に増やす必要がある。このため、本実施例では、純水と空気の種々の温度における振動周期から種々の温度における密度0、1の振動周期を算出し、算出した密度0及び密度1の振動周期と温度との関係を示すフィッティング関数を作成することにより、密度の温度変化の影響をなくし、フィッティング関数作成に必要なデータ数が少なくとも、フィッティング誤差を少なくする。
【0037】
以下、本実施例での校正パラメータの算出方法について説明する。
まず、上記と同様に、5℃、20℃、50℃、70℃での純水、空気の振動周期TWATER、TAIRを振動式密度計で測定する。
図4は測定した純水と空気の振動周期の二乗と温度との関係をプロットしたものであり、■が純水(WATER)、◆が空気(AIR)を測定した振動周期であり、図示の曲線はこの振動周期の二乗と温度との関係を関数でフィッティングしたものである。この関数中にはサンプル(空気、純水)の密度の温度変化、測定セルの温度変化が含まれ、特に、純水密度の温度変化は4℃にピークを持つために、内容が複雑になり、フィッティングが難しい。このため、振動周期の測定を行った各温度での校正パラメータK(t)、K(t)を算出し、算出した値に基づいて、各温度におけるρ=0及びρ=1の振動周期を算出することにより、フィッティング誤差を少なくする。
【0038】
すなわち、上記の式(5)、(6)を用いて5℃、20℃、50℃、70℃での校正パラメータK(t)、K(t)を
(t)=(ρWATER、t―ρAIR、t)/(TWATER、t−TAIR、t
(t)=−TAIR、t・(ρWATER、t―ρAIR、t)/(TWATER、t−TAIR、t)+ρAIR、t
により求める。なお、各温度での純水、空気の密度ρWATER、t、ρAIR、tは既知であるので、各温度での純水、空気の振動周期TWATER、t、TAIR、tを用いて各温度での校正パラメータK(t)、K(t)を求めることができる。
【0039】
次に、ρ=0、ρ=1の時の5℃、20℃、50℃、70℃での振動周期Tρ=0、t、Tρ=1、tを上記の式(2)を用いて、
ρ=0、t=√{(ρ−K(t))/K(t)}=√{−K(t)/K(t)}
ρ=1、t=√{(ρ−K(t))/K(t)}=√{(1−K(t))/K(t)}
により算出する。
【0040】
図5は、上記のTρ=0、tとTρ=1、tの二乗を温度tに対してプロットしたグラフであり、■がρ=1の振動周期、◆がρ=0の振動周期である。このグラフより、ρ=0、ρ=1の振動周期の二乗と温度との関係式、すなわち、下記式(9)、(10)の2次式のフィッティング式を作成し、制御装置17の記憶部25に記憶しておく。なお、図4のグラフと比べると判るように、図5のグラフは密度の温度変化の影響がなく、1次式で近似しても誤差が小さい関数であるため、フィッティング誤差を少なくすることができる。
ρ=0、t=aρ=0・t+bρ=0・t+cρ=0・・・(9)
ρ=1、t=aρ=1・t+bρ=1・t+cρ=1・・・(10)
【0041】
そして、密度の演算時等には、上記の式(9)、(10)に所定の温度を入力することにより、ρ=0、ρ=1の時の振動周期が得られるので、式(5)、(6)のρWATER、ρAIRに換えてρ=1、ρ=0を代入することにより、各温度での校正パラメータK1、t、K2、tを下記式により求めることができる。
1、t=1/(Tρ=1、t−Tρ=0、t)・・・(11)
2、t=−Tρ=0、t/(Tρ=1、t−Tρ=0、t)・・・(12)
【0042】
次に、ρ=0、ρ=1の振動周期の二乗と温度とのフィッティング式を用いて被測定試料の密度を測定する場合の作用について説明する。
温度スキャンの設定が図3の設定画面に示すように設定された後、選択されている校正パラメータとして「関係式」が選択されている測定を行う場合、例えば、40℃での密度測定を行う場合、制御部21は、サーミスタ14の温度検出出力が40℃となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御する。そして、例えば、1時間の待ち時間が経過した後、測定セル1の固有振動周期TSAMP、40℃を測定する。
【0043】
次に、制御部21は、記憶部25から読み出した上記式(9)、(10)のフィッティング式に40℃を入力することにより40℃でのρ=0、ρ=1の時の振動周期の二乗Tρ=0、40℃、Tρ=1、40℃を得、これを式(11)、(12)に入力し、
1、40℃=1/(Tρ=1、40℃−Tρ=0、40℃
2、40℃=−Tρ=0、t/(Tρ=1、40℃−Tρ=0、40℃
によって、40℃での校正パラメータK1、40℃、K2、40℃を算出する。
【0044】
そして、制御部21は、校正パラメータとして、上記のK1、40℃、K2、40℃を使用し、振動周期として、上記のTSAMP、40℃を使用することにより、被測定試料の密度ρSAMPを以下の式により算出して表示部24に表示する。
ρSAMP=K1、40℃×TSAMP、40℃+K2、40℃
以上のように、純水と空気の種々の温度における振動周期から種々の温度における密度0、1の振動周期を算出し、算出した密度0及び密度1の振動周期と温度との関係を示すフィッティング関数を作成することにより、密度の温度変化の影響をなくすことができるので、フィッティング関数作成に必要なデータ数が少なくとも、フィッティング誤差を少なくすることができる。
【0045】
なお、以上の実施例では、温度スキャンの設定画面で複数の測定温度を設定することにより異なる複数の温度で被測定試料の密度を測定する例について説明したが、単に特定の一点の所定温度における被測定試料の密度を測定する場合にも本発明は適用できる。
【実施例3】
【0046】
以上の実施例では、サーミスタの温度が測定設定温度となるように、銅ブロックのペルチェ素子を制御したが、本発明の密度算出方法は、一般的な温調機能を持たない密度計で任意温度での密度算出を行う場合にも適用することができ、以下、一般的な温調機能を持たない密度計で任意温度での密度算出を行う場合について説明する。なお、振動式密度計の構成は、図2の振動式密度計において、断熱材11と銅ブロック12を備えていないだけで、他の構成は図2と同様であるので、説明は省略する。
【0047】
測定時には、測定セル1の固有振動周期TSAMP、tを求めるとともに、サーミスタ14の検出出力から密度測定時の温度tを検出する。いま、密度測定時の温度tが25.02℃であったとすると、制御部21は、記憶部25から読み出した上記式(7)、(8)のフィッティング式に25.02℃を入力することにより、25.02℃での校正パラメータK1、25.02℃、K2、25.02℃を算出し、被測定試料の密度ρSAMPを以下の式により算出して表示部24に表示する。
ρSAMP=K1、25.02℃×TSAMP、25.02℃+K2、25.02℃
【0048】
一方、密度0及び密度1の振動周期と温度との関係を示すフィッティング関数を使用する場合には、制御部21は、記憶部25から読み出した上記式(9)、(10)のフィッティング式に25.02℃を入力することにより25.02℃でのρ=0、ρ=1の時の振動周期の二乗Tρ=0、25.02℃、Tρ=1、25.02℃を得、これを式(11)、(12)に入力し、
1、25.02℃=1/(Tρ=1、25.02℃−Tρ=0、25.02℃
2、25.02℃=−Tρ=0、t/(Tρ=1、25.02℃−Tρ=0、25.02℃
によって、25.02℃での校正パラメータK1、25.02℃、K2、25.02℃を算出する。
【0049】
そして、制御部21は、校正パラメータとして、上記のK1、25.02℃、K2、25.02℃を使用し、振動周期として、上記のTSAMP、25.02℃を使用することにより、被測定試料の密度ρSAMPを以下の式により算出して表示部24に表示する。
ρSAMP=K1、25.02℃×TSAMP、25.02℃+K2、25.02℃
以上のように、一般的な温調機能を持たない密度計でも任意温度での密度算出を行うことが可能となる。
【0050】
なお、以上の実施例では、校正パラメータと温度との関係、及び、ρ=0、ρ=1の振動周期の二乗と温度との関係を2次式の関数でフィッティングしたが、純水、空気の振動周期を測定する温度の測定点数を増やすことにより、3次式、4次式等の多項式でフィッティングすることも可能である。
【0051】
また、以上の実施例では、測定セルの先端に取り付けた永久磁石に対向して配置される駆動コイル及び検出コイルよりなる測定ヘッドを備えた振動式密度計を例として説明したが、振動を光により検出するタイプの振動式密度計等の他の密度計にも、本発明の振動式密度計を適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 測定セル
2 永久磁石
3a、3b ホルダ
4 温度センサ
5 外筒
6 突起
7 ヘリウム注入口
11 断熱材
12 銅ブロック
13 測定ヘッド
14 サーミスタ
15 サンプリングチューブ
16 排液チューブ
17 制御装置
21 制御部
22 駆動部
23 検出部
24 表示部
25 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定試料を収容した測定セルの振動周期と校正パラメータから被測定試料の密度を演算する振動式密度計の校正パラメータ決定方法であって、
密度既知の二つの物質の種々の温度における振動周期から種々の温度における校正パラメータを算出し、算出した種々の温度における校正パラメータと温度との関係に基づいてフィッティング関数を作成し、作成したフィッティング関数により所定温度での校正パラメータを算出することを特徴とする、振動式密度計の校正パラメータ決定方法。
【請求項2】
被測定試料を収容した測定セルの振動周期と校正パラメータから被測定試料の密度を演算する振動式密度計の校正パラメータ決定方法であって、
密度既知の二つの物質の種々の温度における振動周期から種々の温度における密度0、1の振動周期を算出し、算出した種々の温度における密度0及び密度1の振動周期と温度との関係に基づいてフィッティング関数を作成し、作成したフィッティング関数により所定温度での密度0、1の振動周期を得、この振動周期から所定温度での校正パラメータを算出することを特徴とする、振動式密度計の校正パラメータ決定方法。
【請求項3】
被測定試料を収容した測定セルの振動周期と校正パラメータから被測定試料の密度を演算する振動式密度計の密度算出方法であって、
被測定試料の測定温度での校正パラメータを、上記請求項1または請求項2に記載された校正パラメータ決定方法により決定し、当該校正パラメータと取得した測定セルの振動周期に基づいて被測定試料の密度を算出することを特徴とする、振動式密度計の密度算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−27654(P2011−27654A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175981(P2009−175981)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)