振動式密度計
【課題】リファレンスセルを用いることなく、セル温度変更後のドリフトの影響を補償し、測定に必要な待ち時間を短縮できる振動式密度計。
【解決手段】ドリフト対策ルーチンが起動されると、セル設定温度の変更前温度、変更後温度を取得し、その差Δtが負の場合、温度下降時補正式の傾きをを算出した後、ユーザにセル温度変更後の空気・純水校正を要請する。そして、被測定流体の測定が実行された場合、測定した振動周期を温度変更10時間後の値に補正する。この補正値と純水と空気を測定した振動周期の補正値により被測定流体の密度ρを算出する。また、温度差が正の場合には、温度下降時補正式の傾きをを算出した後、被測定流体を測定した振動周期の補正値を算出し、被測定流体の密度ρを算出する。
【解決手段】ドリフト対策ルーチンが起動されると、セル設定温度の変更前温度、変更後温度を取得し、その差Δtが負の場合、温度下降時補正式の傾きをを算出した後、ユーザにセル温度変更後の空気・純水校正を要請する。そして、被測定流体の測定が実行された場合、測定した振動周期を温度変更10時間後の値に補正する。この補正値と純水と空気を測定した振動周期の補正値により被測定流体の密度ρを算出する。また、温度差が正の場合には、温度下降時補正式の傾きをを算出した後、被測定流体を測定した振動周期の補正値を算出し、被測定流体の密度ρを算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動式密度計に関し、特に、測定セル(振動子)の温度変更時のドリフト、すなわち、振動周期の一方向への変化を補正する機能を備えた振動式密度計に関する。
【背景技術】
【0002】
振動式密度計は被測定流体を収容したガラス製の測定セルを振動させ、測定した固有振動周期から被測定流体の密度を演算、出力する装置であり、例えば清涼飲料の濃度管理等の各種流体の密度測定に利用されている。
【0003】
このような振動式密度計で流体を測定する場合、アルコールは15℃、石油は50℃・60℃・70℃等、その他の流体は20℃で測定することが多く、試料が変更になった場合には、測定セルの温度を変更する必要がある。また、特定の試料の密度の温度特性を測定する場合にも、測定セルの温度を変更する必要がある。
【0004】
しかしながら、上記のように測定セルの温度を変更した場合、試料の温度が設定温度になっても、振動周期のドリフト、すなわち、振動周期が長時間ゆっくり一方向に変化する現象が確認されている。これは、ガラス特有の性質により、物性が変化しているためと考えており、電源のON時にも、設定されたセル温度と電源ON時のセル温度が異なっていた場合には、ドリフトが生じる。
有効桁数が5桁〜6桁の高精度の振動式密度計の測定精度に影響を及ぼす変化が10時間程度続くことから、測定セルの温度が設定温度になってから10時間程度経過し、ドリフトが安定した後、測定を行う必要があった。
【0005】
このような温度変更時のドリフトの補償を行うために、測定セルと熱的に接触状態にあるリファレンスとなるリファレンスセルを設け、測定セルとリファレンスセルの共振振動を比較することにより、セル温度変更によるドリフトに起因する測定セルの測定結果の偏差を補償することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−215659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、測定セルの温度変更時のドリフトの影響を除去するためには、ドリフトが安定するのを待ってから測定しなければならず、高精度測定を行うには、セル温度変更後長い待ち時間が必要になる、という問題があった。
このため、上記のように、測定セルの他にリファレンスセルを用意し、温度変更時のドリフトの影響をキャンセルすることが提案されているが、このようにリファレンスセルを設けると、セル内部の形状や、振動の駆動回路、受信回路が複雑になる、という問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために創案されたものであり、リファレンスセルを用いることなく、セル温度変更後に必要な待ち時間を短縮できるとともに、セル温度変更直後の試料密度測定値の繰り返し性を向上できる振動式密度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明の振動式密度計は、試料で満たされた測定セルの振動周期に基づいて試料の密度を算出する制御装置を備えた振動式密度計であって、上記制御装置が、上記測定セル温度の変更前、変更後の温度、温度変更からの経過時間に基づく補正関数により検出された振動周期を補正することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明の振動式密度計は、上記請求項1に記載された振動式密度計において、Xを温度変更後の経過時間、Δtを温度変更前後の温度差としたとき、上記制御装置が、補正関数f(X、Δt)を用いて、補正した振動周期TCOMPをTCOMP=TSAMP/f(X、Δt)により求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る振動式密度計によれば、測定セル温度下降時には、TCOMP=TSAMP/f(X、Δt)、例えば、TSAMP/{β1・Δt・(logX−1)+1}により、また、測定セル温度上昇時には、TCOMP=TSAMP/{β2・Δt・logX+1}により測定した振動周期が補正されるので、リファレンスセルを用いることなく、セル温度変更後のドリフトを補償でき、セル温度変更後に必要な待ち時間を短縮することができるとともに、セル温度変更直後の試料密度測定値の繰り返し性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図である。
【図2】図1のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図である。
【図3】セル温度を20℃に12時間保った後、セル温度を0℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図4】セル温度を30℃に12時間保った後、セル温度を10℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図5】セル温度を20℃に12時間保った後、セル温度を10℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図6】セル温度を30℃に12時間保った後、セル温度を20℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図7】セル温度を0℃に12時間保った後、セル温度を30℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値のグラフである。
【図8】セル温度を20℃に1時間保った後、セル温度を30℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図9】温度下降時の測定振動周期のドリフトの状態を示すグラフである。
【図10】図9のグラフの時間軸を対数表示したグラフである。
【図11】図10のグラフの傾きAの温度差Δtに対する変化を示すグラフである。
【図12】温度上昇時の測定振動周期のドリフトの状態を示すグラフである。
【図13】図12のグラフの時間軸を対数表示したグラフである。
【図14】図13のグラフの傾きAの温度差Δtに対する変化を示すグラフである。
【図15】ドリフト対策ルーチンを実行する場合の作用を示すフローチャートである。
【実施例】
【0013】
図1は本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図であり、図1(a)はセンサ部の側面図、図1(b)はセンサ部の上面図である。このセンサ部は測定セル1、永久磁石2、ホルダ3a、3b、温度センサ4、ガラス製の外筒5により構成されている。
【0014】
測定セル1は、肉厚0.2mm程度のガラスで作成した細いU字管であり、その先端部には永久磁石の薄板2が接着剤により固着されている。また、この測定セル1の基端部はホルダ3a、3bに固定され、このホルダ3a、3bは図1(a)に示すように、外筒5に設けられた突起6により固定されている。また、温度センサ4は、ガラス管の内部にサーミスタが挿入されたものであり、試料の温度を測定する。このセンサ部は、組み立て後、ヘリウム注入口7を介して内部にヘリウムが注入された後、封止される。
【0015】
一方、図2は上記のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図であり、センサ部が断熱材11の内部に収容されるとともに、ペルチェ素子(図示せず)を備えた銅ブロック12がセンサ部、すなわち、測定セル1内の被測定試料の温度を設定温度に保つように制御される。また、測定セル1の先端部に固定された永久磁石2に対向する位置に、駆動コイルと検出コイルを内蔵した測定ヘッド13が配置されている。また、図に示すように、温度センサ4内にサーミスタ14が配置され、測定セル1の先端付近の温度、すなわち、被測定試料の温度を測定する。
一方、測定セル1の一方の開口端は被測定流体を導入するサンプリングチューブ15に接続され、他方の開口端は測定の完了した被測定流体を排出する排液チューブ16に接続されている。
【0016】
制御装置17は、制御部21、駆動部22、検出部23、表示部24及び記憶部25を備え、制御部21には上記サーミスタ14の温度検出出力が入力され、サーミスタ14の温度が測定設定温度となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御する。また、駆動部22は測定ヘッド13の駆動コイルに駆動電流を流し、検出部23は測定ヘッド13の検出コイルの出力を検出して測定セル1の振動周期を検出する。さらに、制御部21は、表示部24に測定の設定画面や密度の測定値を表示するとともに、ユーザが設定した測定条件や検出した振動周期等を記憶部25に記憶する。
【0017】
測定にあたっては、まずサンプリングチューブ15を通じて測定セル1内に被測定流体を導入し、制御装置17の駆動部22より測定ヘッド13の駆動コイルに駆動電流を入力し、永久磁石2に電磁力を作用させることにより、測定セル1に振動を開始させる。
このときの振動を測定ヘッド13の検出コイルが検出して検出信号を検出部23に入力し、この振動周期に同期した駆動信号を引き続き、測定ヘッド13の駆動コイルに入力することにより、測定セル1を一定の周期で振動させ、固有振動周期を求める。
【0018】
次に、検出した固有振動周期に基づいて被測定流体の密度を制御部21が算出して表示部24に表示するが、以下、固有振動周期から被測定試料の密度を算出する方法について説明する。
測定セルの固有振動周期をTとし、被測定流体の密度をρとすると、ρは、
ρ=PT2/4π2V−M/V・・・(1)
で求めることができる。ただし、上記のPは振動系の振動定数、Vは被測定流体の体積(測定セル1の容積)、Mは測定セル1及び永久磁石2の質量である。
上記各P、V、Mはセンサ部の構造によって決定される定数であるから、P/4π2V=K1、M/V=K2とすると、
ρ=K1T2 −K2・・・(2)
で表すことができる。
【0019】
ここで、既知の密度をもつ2種類の物質、例えば純水(ρWATER)と空気(ρAIR)を測定セル1で測定した固有振動周期をTWATER、TAIRとすると、
ρWATER =K1TWATER2−K2・・・(3)
ρAIR =K1TAIR2 −K2・・・(4)
であり、上記(3)、(4)式より定数K1、K2は、
K1=(ρAIR―ρWATER)/(TAIR2−TWATER2)・・・(5)
K2=TAIR2・(ρAIR―ρWATER)/(TAIR2−TWATER2)−ρAIR・・・(6)
となる。
【0020】
上記(5)、(6)式より、(2)式は、
ρ=ρAIR+(ρAIR−ρWATER)*(T2―TAIR2)/(TAIR2−TWATER2)・・・(7)
となり、純水と空気の設定温度での密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期TAIR、TWATER、被測定流体を測定した振動周期Tから被測定流体の密度ρを算出することができる。
【0021】
次に、本発明によるセル温度変更時のドリフトの補正について説明する。
図3〜図8はセル温度変更時の純水の密度への影響、すなわち、純水の密度の測定値の時間変化とドリフトの影響がなくなったときの値との差異εのセル温度変更時からの経過時間に対する変化を図示したグラフである。
図3のグラフは、セル温度を20℃に12時間保った後、セル温度を0℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値であり、図4のグラフは、セル温度を30℃に12時間保った後、セル温度を10℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値である。
【0022】
また、図5のグラフは、セル温度を20℃に12時間保った後、セル温度を10℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値であり、図6のグラフは、セル温度を30℃に12時間保った後、セル温度を20℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値である。さらに、図7のグラフは、セル温度を0℃に12時間保った後、セル温度を30℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値であり、図8は、セル温度を20℃に1時間保った後、セル温度を30℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値である。
【0023】
図3〜図8において、εはセル温度を下降または上昇させた場合の純水の密度の測定値の時間変化とドリフトの影響がなくなったときの値との差異であり、tはセル温度の測定値であるが、図に示すように、セル温度変更直後にセル温度の測定値tは設定値に到達するが、純水の密度の測定値には、セル温度下降時には10時間程度、セル温度上昇時には1時間程度ドリフトが生じている。
このように、セル温度変更によるドリフトの現象は、温度変更の方向によって影響が異なり、温度下降時に影響が大であり、温度上昇時には、影響が小である。
【0024】
本発明では、セル温度変更によるドリフトの影響の補正方法として、測定セルの振動周期変化を補正式で補正するが、以下、この補正式の作成方法について説明する。
まず、セル温度変更によるドリフトがある状態からない状態、すなわち、生の振動周期を測定している状態に変化した場合にも、校正ファクタを変更せずに使用できるようにするため、比率によって補正し、補正後の振動周期TCOMPを算出するための補正式fΔt(X)を作成する。すなわち試料の測定周期をTSAMPとすると、
TCOMP=TSAMP/fΔt(X)・・・(8)
となる。
【0025】
一方、温度下降時のX時間後の振動周期をTXとすると、Txは
TX=a・(logX−1)+b・・・(9)
で表せ、この温度下降時には、セル温度変更後10時間でドリフトの影響がなくなるため、10時間後の振動周期T10を基準とし、上記の(9)式を基準値T10で割ると、振動周期変化の比率の式(8)となり、
fΔt(X)=TX/T10=A・(logX−1)+B・・・(10)
となる。ただし、A=a/T10、B=b/T10である。
【0026】
図9はセル温度の変更前、変更後の温度を様々に変えて温度を降下させた場合の、純水の振動周期の時間変化である測定値TXをT10で基準化した値を時間軸に対してグラフ化したものであり、温度変更前のセル温度に関わりなく、温度変更前後の温度差が同じであれば、同じグラフとなることが判明した。図9のグラフの時間軸を対数表示すると、図10に示すようになり、この図10の各温度差における傾きAの温度差Δtに対する変化をグラフにすると、図11に示すようになって、傾きAがセル温度変更前後の温度差Δtに比例する。したがって、A=a/T10=β1・Δtであり、また、X=10を入力時、基準である10時間後の仮想振動周期T10となるので、b=T10であり、B=b/T10=1となる。そして、製造した密度測定装置により温度変更前後の温度差を変えて純水の振動周期を測定した結果に基づいて算出した傾きβ1は0.0000007であった。
【0027】
したがって、温度差Δtが−10℃差、温度差Δtが−20℃差、温度差Δtが−30℃差、温度差Δtが−40℃差のときのfΔt(X)は、
f−10(X)=TX/T10=-0.0000070・(logX−1)+1
f−20(X)=TX/T10=-0.0000140・(logX−1)+1
f−30(X)=TX/T10=-0.0000210・(logX−1)+1
f−40(X)=TX/T10=-0.0000280・(logX−1)+1
となる。
【0028】
よって、セル温度変更によるドリフトの影響補正式は、温度差Δtが−10℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f−10(X)=TSAMP/{-0.0000070・(logX−1)+1}
温度差Δtが−20℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f−20(X)=TSAMP/{-0.0000140・(logX−1)+1}
温度差Δtが−30℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f−30(X)=TSAMP/{-0.0000210・(logX−1)+1}
温度差Δtが−40℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f−40(X)=TSAMP/{-0.0000280・(logX−1)+1}
となる。
【0029】
一方、温度上昇時のX時間後の振動周期をTxとすると、Txは
Tx=a・logX+b・・・(11)
で表せ、温度上昇時には、セル温度変更後1時間でセル温度変更によるドリフトの影響がなくなるため、1時間後の振動周期T1を基準とし、上記の(11)式を基準値T1で割ると、振動周期変化の比率の式(8)となり、
fΔt(X)=TX/T1=A・logX+B・・・(12)
となる。ただし、A=a/T1、B=b/T1である。
【0030】
図12はセル温度の変更前、変更後の温度を様々に変えて温度を上昇させた場合の、純水の振動周期の時間変化である測定値TXをT1で基準化した値を時間軸に対してグラフ化したものであり、温度下降時と同様に、温度変更前のセル温度に関わりなく、温度変更前後の温度差が同じであれば、同じグラフとなることが判明した。図12のグラフの時間軸を対数表示すると、図13に示すようになり、この図13の各温度差における傾きAの温度差Δtに対する変化をグラフにすると、図14に示すようになって、傾きAがセル温度変更前後の温度差Δtに比例する。したがって、A=a/T1=β2・Δtであり、また、X=1を入力時、基準である1時間後の仮想振動周期T1となるので、b=T1であり、B=b/T1=1となる。そして、製造した密度測定装置により温度変更前後の温度差を変えて純水の振動周期を測定した結果に基づいて算出した傾きβ2は0.0000005であった。
【0031】
したがって、温度差Δtが+10℃差、温度差Δtが+20℃差、温度差Δtが+30℃差、温度差Δtが+40℃差のときのfΔt(X)は、
f+10(X)=TX/T1=+0.0000050・logX+1
f+20(X)=TX/T1=+0.0000100・logX+1
f+30(X)=TX/T1=+0.0000150・logX+1
f+40(X)=TX/T1=+0.0000200・logX+1
となる。
【0032】
よって、セル温度変更によるドリフトの影響補正式は、温度差Δtが+10℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f+10(X)=TSAMP/{+0.0000050・logX+1}
温度差Δtが+20℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f+20(X)=TSAMP/{+0.0000100・logX+1}
温度差Δtが+30℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f+30(X)=TSAMP/{+0.0000150・logX+1}
温度差Δtが+40℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f+40(X)=TSAMP/{+0.0000200・logX+1}
となる。
【0033】
次に、ドリフト対策ルーチンを実行する場合の手順について、図15のフローチャートにより説明する。
ドリフト対策ルーチンが起動されると、制御装置17の制御部21は、まず、温度変更時のドリフト影響対策ルーチンが起動されたか否かを判定し(ステップ101)、温度変更時のドリフト影響対策ルーチンが起動されたと判定した場合、セル設定温度の変更前温度(t1)、変更後温度(t2)を取得し、記憶部25に記憶する(ステップ102)。
【0034】
一方、ステップ101で温度変更時のドリフト影響対策ルーチンが起動されたのではない、すなわち、電源ON時のドリフト影響対策ルーチンが起動されたと判定した場合、制御部21はセルの電源ON直後の温度(t1)、セル設定温度(t2)を取得し、記憶部25に記憶する(ステップ103)。
温度を取得した後、制御部21は、温度差Δt=t2−t1を算出し、温度差Δtの正負を判定することにより、温度上昇か、温度下降かを判定する(ステップ104)。
【0035】
ステップ104で温度下降と判定した場合、制御部21は、温度差Δtを用いて温度下降時補正式の傾きA1を
A1=β1・Δt=0.0000007・Δt
により算出し、記憶部25に記憶する(ステップ105)。
次に、制御部21はユーザにセル温度変更後の空気・純水校正をユーザに促す画面を表示部24に表示する(ステップ106)。
【0036】
そして、ユーザが空気・純水校正を実行した場合、空気測定時の振動周期TX・AIR、その時の温度変更後の経過時間tAIR、純水測定時の振動周期TX・WATER、その時の温度変更後の経過時間tWATERを記憶部25に記憶し、温度変更後10時間時点での空気、純水の振動周期T10・AIR、T10・WATERを下記式により算出し、この値を校正ファクタとして記憶部25に記憶する。
T10・AIR=TX・AIR/{A1・(logtAIR−1)+1}
T10・WATER=TX・WATER/{A1・(logtWATER−1)+1}
【0037】
この後、制御部21は、被測定流体の測定が実行されたか否かを判定し(ステップ107)、被測定流体の測定が実行された場合、被測定流体の振動周期TX・SAMP、被測定流体測定時の温度変更後の経過時間tSAMPを記憶部25に記憶する(ステップ108)。
【0038】
次に、制御部21は、経過時間tSAMPが10時間以内か否かを判定することにより、被測定流体の測定時が測定セルの温度変更後10時間以内か否かを判定する(ステップ109)。被測定流体の測定時が測定セルの温度変更後10時間以内であると判定した場合、制御部21は、測定した振動周期TX・SAMPを温度変更10時間後の値T10・SAMPに下記式により補正する(ステップ110)。
T10・SAMP=TX・SAMP/{A1・(logtSAMP−1)+1}
【0039】
また、ステップ109で経過時間tSAMPが10時間を越えていると判定した場合、制御部21は、測定した振動周期TX・SAMPを温度変更10時間後の値T10・SAMPに補正する(ステップ111)。ただし、このときtSAMP=10として処理を行う。すなわち、
T10・SAMP=TX・SAMP/{A1・(log10−1)+1}=TX・SAMP
となり、補正しない振動周期となる。
【0040】
振動周期の補正後、制御部21は、上記の(7)式に基づいて、
ρ=ρAIR+(ρAIR−ρWATER)*(T10・SAMP2―T10・AIR2)/(T10・AIR2−T10・WATER2)
により被測定流体の密度ρを算出し、表示部24に表示する(ステップ112)。なお、測定温度での純水と空気の密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期の補正値T10・WATER、T10・AIR及び被測定流体を測定した振動周期の補正値T10・SAMPから被測定流体の密度ρを算出することができる。
【0041】
一方、ステップ104で温度上昇と判定した場合、制御部21は、温度差Δtを用いて温度上昇時補正式の傾きA2を
A2=β2・Δt=0.0000005・Δt
により算出し、記憶部25に記憶する(ステップ113)。
次に、制御部21は、上記と同様に、ユーザにセル温度変更後の空気・純水校正をユーザに促す画面を表示部24に表示する(ステップ114)。
【0042】
そして、ユーザが空気・純水校正を実行した場合、空気測定時の振動周期TX・AIR、その時の温度変更後の経過時間tAIR、純水測定時の振動周期TX・WATER、その時の温度変更後の経過時間tWATERを記憶部25に記憶し、温度変更後1時間時点での空気、純水の振動周期T1・AIR、T1・WATERを下記式により算出し、この値を校正ファクタとして記憶部25に記憶する。
T1・AIR=TX・AIR/{A2・log(tAIR)+1}
T1・WATER=TX・WATER/{A2・log(tWATER)+1}
【0043】
この後、制御部21は、被測定流体の測定が実行されたか否かを判定し(ステップ115)、被測定流体の測定が実行された場合、被測定流体の振動周期TX・SAMP、被測定流体測定時の温度変更後の経過時間tSAMPを記憶部25に記憶する(ステップ116)。
【0044】
次に、制御部21は、経過時間tSAMPが1時間以内か否かを判定することにより、被測定流体の測定時が測定セルの温度変更後1時間以内か否かを判定する(ステップ117)。被測定流体の測定時が測定セルの温度変更後1時間以内であると判定した場合、制御部21は、測定した振動周期TX・SAMPを温度変更1時間後の値T1・SAMPに下記式により補正する(ステップ118)。
T1・SAMP=TX・SAMP/{A2・log(tSAMP)+1}
【0045】
また、ステップ117で経過時間tSAMPが1時間を越えていると判定した場合、制御部21は、測定した振動周期TX・SAMPを温度変更1時間後の値T1・SAMPに補正する(ステップ119)。ただし、このときtSAMP=1として処理を行う。すなわち、
T1・SAMP=TX・SAMP/{A2・(log1)+1}=TX・SAMP
となり、補正しない振動周期となる。
【0046】
振動周期の補正後、制御部21は、上記と同様に、
ρ=ρAIR+(ρAIR−ρWATER)*(T1・SAMP2―T1・AIR2)/(T1・AIR2−T1・WATER2)
により被測定流体の密度を算出し、表示部24に表示する(ステップ112)。なお、測定温度での純水と空気の密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期の補正値T1・WATER、T1・AIR及び被測定流体を測定した振動周期の補正値T1・SAMPから被測定流体の密度ρを算出することができる。
【0047】
以上のように、測定セル温度下降時には、TCOMP=TSAMP/{β1・Δt・(logX−1)+1}により、また、測定セル温度上昇時には、TCOMP=TSAMP/{β2・Δt・logX+1}により振動周期が補正されるので、リファレンスセルを用いることなく、セル温度変更後のドリフトを補償でき、セル温度変更後に必要な待ち時間を短縮することができる。なお、図3〜図8において、compは上記の補正を行った振動周期を用いて算出した純水の密度の測定値の時間変化とドリフトの影響がなくなったときの値との誤差であり、セル温度変更後のドリフトが補償されていることがわかる。
【0048】
なお、上記の実施例で使用した傾きβ1、β2の値、0.0000007、0.0000005は使用した装置での測定結果であり、密度測定装置の構造、材料が変更になれば、再度算出し直す必要がある。
また、上記の実施例では、f(X、Δt)として、測定セル温度下降時には、β1・Δt・(logX−1)+1を採用し、また、測定セル温度上昇時には、β2・Δt・logX+1を採用したが、この関数f(X、Δt)は測定セルの温度変化時のドリフトの影響がなくなる時間に応じて適宜変更することが可能であり、例えば、β1・Δt・(logX−γ)+1(γは一定値)とすることができ、さらに、logXの代わりに多項式で表現することも可能である。
【0049】
さらに、上記の実施例では、被測定流体の密度算出時に空気と純水による校正を実施したが、当該測定温度で使用できる校正ファクタが装置内に記憶されていれば、空気と純水による校正を実施することなく密度を算出することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 測定セル
2 永久磁石
3a、3b ホルダ
4 温度センサ
5 外筒
6 突起
7 ヘリウム注入口
11 断熱材
12 銅ブロック
13 測定ヘッド
14 サーミスタ
15 サンプリングチューブ
16 排液チューブ
17 制御装置
21 制御部
22 駆動部
23 検出部
24 表示部
25 記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動式密度計に関し、特に、測定セル(振動子)の温度変更時のドリフト、すなわち、振動周期の一方向への変化を補正する機能を備えた振動式密度計に関する。
【背景技術】
【0002】
振動式密度計は被測定流体を収容したガラス製の測定セルを振動させ、測定した固有振動周期から被測定流体の密度を演算、出力する装置であり、例えば清涼飲料の濃度管理等の各種流体の密度測定に利用されている。
【0003】
このような振動式密度計で流体を測定する場合、アルコールは15℃、石油は50℃・60℃・70℃等、その他の流体は20℃で測定することが多く、試料が変更になった場合には、測定セルの温度を変更する必要がある。また、特定の試料の密度の温度特性を測定する場合にも、測定セルの温度を変更する必要がある。
【0004】
しかしながら、上記のように測定セルの温度を変更した場合、試料の温度が設定温度になっても、振動周期のドリフト、すなわち、振動周期が長時間ゆっくり一方向に変化する現象が確認されている。これは、ガラス特有の性質により、物性が変化しているためと考えており、電源のON時にも、設定されたセル温度と電源ON時のセル温度が異なっていた場合には、ドリフトが生じる。
有効桁数が5桁〜6桁の高精度の振動式密度計の測定精度に影響を及ぼす変化が10時間程度続くことから、測定セルの温度が設定温度になってから10時間程度経過し、ドリフトが安定した後、測定を行う必要があった。
【0005】
このような温度変更時のドリフトの補償を行うために、測定セルと熱的に接触状態にあるリファレンスとなるリファレンスセルを設け、測定セルとリファレンスセルの共振振動を比較することにより、セル温度変更によるドリフトに起因する測定セルの測定結果の偏差を補償することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−215659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、測定セルの温度変更時のドリフトの影響を除去するためには、ドリフトが安定するのを待ってから測定しなければならず、高精度測定を行うには、セル温度変更後長い待ち時間が必要になる、という問題があった。
このため、上記のように、測定セルの他にリファレンスセルを用意し、温度変更時のドリフトの影響をキャンセルすることが提案されているが、このようにリファレンスセルを設けると、セル内部の形状や、振動の駆動回路、受信回路が複雑になる、という問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために創案されたものであり、リファレンスセルを用いることなく、セル温度変更後に必要な待ち時間を短縮できるとともに、セル温度変更直後の試料密度測定値の繰り返し性を向上できる振動式密度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明の振動式密度計は、試料で満たされた測定セルの振動周期に基づいて試料の密度を算出する制御装置を備えた振動式密度計であって、上記制御装置が、上記測定セル温度の変更前、変更後の温度、温度変更からの経過時間に基づく補正関数により検出された振動周期を補正することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明の振動式密度計は、上記請求項1に記載された振動式密度計において、Xを温度変更後の経過時間、Δtを温度変更前後の温度差としたとき、上記制御装置が、補正関数f(X、Δt)を用いて、補正した振動周期TCOMPをTCOMP=TSAMP/f(X、Δt)により求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る振動式密度計によれば、測定セル温度下降時には、TCOMP=TSAMP/f(X、Δt)、例えば、TSAMP/{β1・Δt・(logX−1)+1}により、また、測定セル温度上昇時には、TCOMP=TSAMP/{β2・Δt・logX+1}により測定した振動周期が補正されるので、リファレンスセルを用いることなく、セル温度変更後のドリフトを補償でき、セル温度変更後に必要な待ち時間を短縮することができるとともに、セル温度変更直後の試料密度測定値の繰り返し性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図である。
【図2】図1のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図である。
【図3】セル温度を20℃に12時間保った後、セル温度を0℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図4】セル温度を30℃に12時間保った後、セル温度を10℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図5】セル温度を20℃に12時間保った後、セル温度を10℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図6】セル温度を30℃に12時間保った後、セル温度を20℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図7】セル温度を0℃に12時間保った後、セル温度を30℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値のグラフである。
【図8】セル温度を20℃に1時間保った後、セル温度を30℃に変更した場合の純水の密度測定値への影響を示すグラフである。
【図9】温度下降時の測定振動周期のドリフトの状態を示すグラフである。
【図10】図9のグラフの時間軸を対数表示したグラフである。
【図11】図10のグラフの傾きAの温度差Δtに対する変化を示すグラフである。
【図12】温度上昇時の測定振動周期のドリフトの状態を示すグラフである。
【図13】図12のグラフの時間軸を対数表示したグラフである。
【図14】図13のグラフの傾きAの温度差Δtに対する変化を示すグラフである。
【図15】ドリフト対策ルーチンを実行する場合の作用を示すフローチャートである。
【実施例】
【0013】
図1は本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図であり、図1(a)はセンサ部の側面図、図1(b)はセンサ部の上面図である。このセンサ部は測定セル1、永久磁石2、ホルダ3a、3b、温度センサ4、ガラス製の外筒5により構成されている。
【0014】
測定セル1は、肉厚0.2mm程度のガラスで作成した細いU字管であり、その先端部には永久磁石の薄板2が接着剤により固着されている。また、この測定セル1の基端部はホルダ3a、3bに固定され、このホルダ3a、3bは図1(a)に示すように、外筒5に設けられた突起6により固定されている。また、温度センサ4は、ガラス管の内部にサーミスタが挿入されたものであり、試料の温度を測定する。このセンサ部は、組み立て後、ヘリウム注入口7を介して内部にヘリウムが注入された後、封止される。
【0015】
一方、図2は上記のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図であり、センサ部が断熱材11の内部に収容されるとともに、ペルチェ素子(図示せず)を備えた銅ブロック12がセンサ部、すなわち、測定セル1内の被測定試料の温度を設定温度に保つように制御される。また、測定セル1の先端部に固定された永久磁石2に対向する位置に、駆動コイルと検出コイルを内蔵した測定ヘッド13が配置されている。また、図に示すように、温度センサ4内にサーミスタ14が配置され、測定セル1の先端付近の温度、すなわち、被測定試料の温度を測定する。
一方、測定セル1の一方の開口端は被測定流体を導入するサンプリングチューブ15に接続され、他方の開口端は測定の完了した被測定流体を排出する排液チューブ16に接続されている。
【0016】
制御装置17は、制御部21、駆動部22、検出部23、表示部24及び記憶部25を備え、制御部21には上記サーミスタ14の温度検出出力が入力され、サーミスタ14の温度が測定設定温度となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御する。また、駆動部22は測定ヘッド13の駆動コイルに駆動電流を流し、検出部23は測定ヘッド13の検出コイルの出力を検出して測定セル1の振動周期を検出する。さらに、制御部21は、表示部24に測定の設定画面や密度の測定値を表示するとともに、ユーザが設定した測定条件や検出した振動周期等を記憶部25に記憶する。
【0017】
測定にあたっては、まずサンプリングチューブ15を通じて測定セル1内に被測定流体を導入し、制御装置17の駆動部22より測定ヘッド13の駆動コイルに駆動電流を入力し、永久磁石2に電磁力を作用させることにより、測定セル1に振動を開始させる。
このときの振動を測定ヘッド13の検出コイルが検出して検出信号を検出部23に入力し、この振動周期に同期した駆動信号を引き続き、測定ヘッド13の駆動コイルに入力することにより、測定セル1を一定の周期で振動させ、固有振動周期を求める。
【0018】
次に、検出した固有振動周期に基づいて被測定流体の密度を制御部21が算出して表示部24に表示するが、以下、固有振動周期から被測定試料の密度を算出する方法について説明する。
測定セルの固有振動周期をTとし、被測定流体の密度をρとすると、ρは、
ρ=PT2/4π2V−M/V・・・(1)
で求めることができる。ただし、上記のPは振動系の振動定数、Vは被測定流体の体積(測定セル1の容積)、Mは測定セル1及び永久磁石2の質量である。
上記各P、V、Mはセンサ部の構造によって決定される定数であるから、P/4π2V=K1、M/V=K2とすると、
ρ=K1T2 −K2・・・(2)
で表すことができる。
【0019】
ここで、既知の密度をもつ2種類の物質、例えば純水(ρWATER)と空気(ρAIR)を測定セル1で測定した固有振動周期をTWATER、TAIRとすると、
ρWATER =K1TWATER2−K2・・・(3)
ρAIR =K1TAIR2 −K2・・・(4)
であり、上記(3)、(4)式より定数K1、K2は、
K1=(ρAIR―ρWATER)/(TAIR2−TWATER2)・・・(5)
K2=TAIR2・(ρAIR―ρWATER)/(TAIR2−TWATER2)−ρAIR・・・(6)
となる。
【0020】
上記(5)、(6)式より、(2)式は、
ρ=ρAIR+(ρAIR−ρWATER)*(T2―TAIR2)/(TAIR2−TWATER2)・・・(7)
となり、純水と空気の設定温度での密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期TAIR、TWATER、被測定流体を測定した振動周期Tから被測定流体の密度ρを算出することができる。
【0021】
次に、本発明によるセル温度変更時のドリフトの補正について説明する。
図3〜図8はセル温度変更時の純水の密度への影響、すなわち、純水の密度の測定値の時間変化とドリフトの影響がなくなったときの値との差異εのセル温度変更時からの経過時間に対する変化を図示したグラフである。
図3のグラフは、セル温度を20℃に12時間保った後、セル温度を0℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値であり、図4のグラフは、セル温度を30℃に12時間保った後、セル温度を10℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値である。
【0022】
また、図5のグラフは、セル温度を20℃に12時間保った後、セル温度を10℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値であり、図6のグラフは、セル温度を30℃に12時間保った後、セル温度を20℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値である。さらに、図7のグラフは、セル温度を0℃に12時間保った後、セル温度を30℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値であり、図8は、セル温度を20℃に1時間保った後、セル温度を30℃に変更した場合の純水の密度への影響の12時間の測定値である。
【0023】
図3〜図8において、εはセル温度を下降または上昇させた場合の純水の密度の測定値の時間変化とドリフトの影響がなくなったときの値との差異であり、tはセル温度の測定値であるが、図に示すように、セル温度変更直後にセル温度の測定値tは設定値に到達するが、純水の密度の測定値には、セル温度下降時には10時間程度、セル温度上昇時には1時間程度ドリフトが生じている。
このように、セル温度変更によるドリフトの現象は、温度変更の方向によって影響が異なり、温度下降時に影響が大であり、温度上昇時には、影響が小である。
【0024】
本発明では、セル温度変更によるドリフトの影響の補正方法として、測定セルの振動周期変化を補正式で補正するが、以下、この補正式の作成方法について説明する。
まず、セル温度変更によるドリフトがある状態からない状態、すなわち、生の振動周期を測定している状態に変化した場合にも、校正ファクタを変更せずに使用できるようにするため、比率によって補正し、補正後の振動周期TCOMPを算出するための補正式fΔt(X)を作成する。すなわち試料の測定周期をTSAMPとすると、
TCOMP=TSAMP/fΔt(X)・・・(8)
となる。
【0025】
一方、温度下降時のX時間後の振動周期をTXとすると、Txは
TX=a・(logX−1)+b・・・(9)
で表せ、この温度下降時には、セル温度変更後10時間でドリフトの影響がなくなるため、10時間後の振動周期T10を基準とし、上記の(9)式を基準値T10で割ると、振動周期変化の比率の式(8)となり、
fΔt(X)=TX/T10=A・(logX−1)+B・・・(10)
となる。ただし、A=a/T10、B=b/T10である。
【0026】
図9はセル温度の変更前、変更後の温度を様々に変えて温度を降下させた場合の、純水の振動周期の時間変化である測定値TXをT10で基準化した値を時間軸に対してグラフ化したものであり、温度変更前のセル温度に関わりなく、温度変更前後の温度差が同じであれば、同じグラフとなることが判明した。図9のグラフの時間軸を対数表示すると、図10に示すようになり、この図10の各温度差における傾きAの温度差Δtに対する変化をグラフにすると、図11に示すようになって、傾きAがセル温度変更前後の温度差Δtに比例する。したがって、A=a/T10=β1・Δtであり、また、X=10を入力時、基準である10時間後の仮想振動周期T10となるので、b=T10であり、B=b/T10=1となる。そして、製造した密度測定装置により温度変更前後の温度差を変えて純水の振動周期を測定した結果に基づいて算出した傾きβ1は0.0000007であった。
【0027】
したがって、温度差Δtが−10℃差、温度差Δtが−20℃差、温度差Δtが−30℃差、温度差Δtが−40℃差のときのfΔt(X)は、
f−10(X)=TX/T10=-0.0000070・(logX−1)+1
f−20(X)=TX/T10=-0.0000140・(logX−1)+1
f−30(X)=TX/T10=-0.0000210・(logX−1)+1
f−40(X)=TX/T10=-0.0000280・(logX−1)+1
となる。
【0028】
よって、セル温度変更によるドリフトの影響補正式は、温度差Δtが−10℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f−10(X)=TSAMP/{-0.0000070・(logX−1)+1}
温度差Δtが−20℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f−20(X)=TSAMP/{-0.0000140・(logX−1)+1}
温度差Δtが−30℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f−30(X)=TSAMP/{-0.0000210・(logX−1)+1}
温度差Δtが−40℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f−40(X)=TSAMP/{-0.0000280・(logX−1)+1}
となる。
【0029】
一方、温度上昇時のX時間後の振動周期をTxとすると、Txは
Tx=a・logX+b・・・(11)
で表せ、温度上昇時には、セル温度変更後1時間でセル温度変更によるドリフトの影響がなくなるため、1時間後の振動周期T1を基準とし、上記の(11)式を基準値T1で割ると、振動周期変化の比率の式(8)となり、
fΔt(X)=TX/T1=A・logX+B・・・(12)
となる。ただし、A=a/T1、B=b/T1である。
【0030】
図12はセル温度の変更前、変更後の温度を様々に変えて温度を上昇させた場合の、純水の振動周期の時間変化である測定値TXをT1で基準化した値を時間軸に対してグラフ化したものであり、温度下降時と同様に、温度変更前のセル温度に関わりなく、温度変更前後の温度差が同じであれば、同じグラフとなることが判明した。図12のグラフの時間軸を対数表示すると、図13に示すようになり、この図13の各温度差における傾きAの温度差Δtに対する変化をグラフにすると、図14に示すようになって、傾きAがセル温度変更前後の温度差Δtに比例する。したがって、A=a/T1=β2・Δtであり、また、X=1を入力時、基準である1時間後の仮想振動周期T1となるので、b=T1であり、B=b/T1=1となる。そして、製造した密度測定装置により温度変更前後の温度差を変えて純水の振動周期を測定した結果に基づいて算出した傾きβ2は0.0000005であった。
【0031】
したがって、温度差Δtが+10℃差、温度差Δtが+20℃差、温度差Δtが+30℃差、温度差Δtが+40℃差のときのfΔt(X)は、
f+10(X)=TX/T1=+0.0000050・logX+1
f+20(X)=TX/T1=+0.0000100・logX+1
f+30(X)=TX/T1=+0.0000150・logX+1
f+40(X)=TX/T1=+0.0000200・logX+1
となる。
【0032】
よって、セル温度変更によるドリフトの影響補正式は、温度差Δtが+10℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f+10(X)=TSAMP/{+0.0000050・logX+1}
温度差Δtが+20℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f+20(X)=TSAMP/{+0.0000100・logX+1}
温度差Δtが+30℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f+30(X)=TSAMP/{+0.0000150・logX+1}
温度差Δtが+40℃差の場合、
TCOMP=TSAMP/f+40(X)=TSAMP/{+0.0000200・logX+1}
となる。
【0033】
次に、ドリフト対策ルーチンを実行する場合の手順について、図15のフローチャートにより説明する。
ドリフト対策ルーチンが起動されると、制御装置17の制御部21は、まず、温度変更時のドリフト影響対策ルーチンが起動されたか否かを判定し(ステップ101)、温度変更時のドリフト影響対策ルーチンが起動されたと判定した場合、セル設定温度の変更前温度(t1)、変更後温度(t2)を取得し、記憶部25に記憶する(ステップ102)。
【0034】
一方、ステップ101で温度変更時のドリフト影響対策ルーチンが起動されたのではない、すなわち、電源ON時のドリフト影響対策ルーチンが起動されたと判定した場合、制御部21はセルの電源ON直後の温度(t1)、セル設定温度(t2)を取得し、記憶部25に記憶する(ステップ103)。
温度を取得した後、制御部21は、温度差Δt=t2−t1を算出し、温度差Δtの正負を判定することにより、温度上昇か、温度下降かを判定する(ステップ104)。
【0035】
ステップ104で温度下降と判定した場合、制御部21は、温度差Δtを用いて温度下降時補正式の傾きA1を
A1=β1・Δt=0.0000007・Δt
により算出し、記憶部25に記憶する(ステップ105)。
次に、制御部21はユーザにセル温度変更後の空気・純水校正をユーザに促す画面を表示部24に表示する(ステップ106)。
【0036】
そして、ユーザが空気・純水校正を実行した場合、空気測定時の振動周期TX・AIR、その時の温度変更後の経過時間tAIR、純水測定時の振動周期TX・WATER、その時の温度変更後の経過時間tWATERを記憶部25に記憶し、温度変更後10時間時点での空気、純水の振動周期T10・AIR、T10・WATERを下記式により算出し、この値を校正ファクタとして記憶部25に記憶する。
T10・AIR=TX・AIR/{A1・(logtAIR−1)+1}
T10・WATER=TX・WATER/{A1・(logtWATER−1)+1}
【0037】
この後、制御部21は、被測定流体の測定が実行されたか否かを判定し(ステップ107)、被測定流体の測定が実行された場合、被測定流体の振動周期TX・SAMP、被測定流体測定時の温度変更後の経過時間tSAMPを記憶部25に記憶する(ステップ108)。
【0038】
次に、制御部21は、経過時間tSAMPが10時間以内か否かを判定することにより、被測定流体の測定時が測定セルの温度変更後10時間以内か否かを判定する(ステップ109)。被測定流体の測定時が測定セルの温度変更後10時間以内であると判定した場合、制御部21は、測定した振動周期TX・SAMPを温度変更10時間後の値T10・SAMPに下記式により補正する(ステップ110)。
T10・SAMP=TX・SAMP/{A1・(logtSAMP−1)+1}
【0039】
また、ステップ109で経過時間tSAMPが10時間を越えていると判定した場合、制御部21は、測定した振動周期TX・SAMPを温度変更10時間後の値T10・SAMPに補正する(ステップ111)。ただし、このときtSAMP=10として処理を行う。すなわち、
T10・SAMP=TX・SAMP/{A1・(log10−1)+1}=TX・SAMP
となり、補正しない振動周期となる。
【0040】
振動周期の補正後、制御部21は、上記の(7)式に基づいて、
ρ=ρAIR+(ρAIR−ρWATER)*(T10・SAMP2―T10・AIR2)/(T10・AIR2−T10・WATER2)
により被測定流体の密度ρを算出し、表示部24に表示する(ステップ112)。なお、測定温度での純水と空気の密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期の補正値T10・WATER、T10・AIR及び被測定流体を測定した振動周期の補正値T10・SAMPから被測定流体の密度ρを算出することができる。
【0041】
一方、ステップ104で温度上昇と判定した場合、制御部21は、温度差Δtを用いて温度上昇時補正式の傾きA2を
A2=β2・Δt=0.0000005・Δt
により算出し、記憶部25に記憶する(ステップ113)。
次に、制御部21は、上記と同様に、ユーザにセル温度変更後の空気・純水校正をユーザに促す画面を表示部24に表示する(ステップ114)。
【0042】
そして、ユーザが空気・純水校正を実行した場合、空気測定時の振動周期TX・AIR、その時の温度変更後の経過時間tAIR、純水測定時の振動周期TX・WATER、その時の温度変更後の経過時間tWATERを記憶部25に記憶し、温度変更後1時間時点での空気、純水の振動周期T1・AIR、T1・WATERを下記式により算出し、この値を校正ファクタとして記憶部25に記憶する。
T1・AIR=TX・AIR/{A2・log(tAIR)+1}
T1・WATER=TX・WATER/{A2・log(tWATER)+1}
【0043】
この後、制御部21は、被測定流体の測定が実行されたか否かを判定し(ステップ115)、被測定流体の測定が実行された場合、被測定流体の振動周期TX・SAMP、被測定流体測定時の温度変更後の経過時間tSAMPを記憶部25に記憶する(ステップ116)。
【0044】
次に、制御部21は、経過時間tSAMPが1時間以内か否かを判定することにより、被測定流体の測定時が測定セルの温度変更後1時間以内か否かを判定する(ステップ117)。被測定流体の測定時が測定セルの温度変更後1時間以内であると判定した場合、制御部21は、測定した振動周期TX・SAMPを温度変更1時間後の値T1・SAMPに下記式により補正する(ステップ118)。
T1・SAMP=TX・SAMP/{A2・log(tSAMP)+1}
【0045】
また、ステップ117で経過時間tSAMPが1時間を越えていると判定した場合、制御部21は、測定した振動周期TX・SAMPを温度変更1時間後の値T1・SAMPに補正する(ステップ119)。ただし、このときtSAMP=1として処理を行う。すなわち、
T1・SAMP=TX・SAMP/{A2・(log1)+1}=TX・SAMP
となり、補正しない振動周期となる。
【0046】
振動周期の補正後、制御部21は、上記と同様に、
ρ=ρAIR+(ρAIR−ρWATER)*(T1・SAMP2―T1・AIR2)/(T1・AIR2−T1・WATER2)
により被測定流体の密度を算出し、表示部24に表示する(ステップ112)。なお、測定温度での純水と空気の密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期の補正値T1・WATER、T1・AIR及び被測定流体を測定した振動周期の補正値T1・SAMPから被測定流体の密度ρを算出することができる。
【0047】
以上のように、測定セル温度下降時には、TCOMP=TSAMP/{β1・Δt・(logX−1)+1}により、また、測定セル温度上昇時には、TCOMP=TSAMP/{β2・Δt・logX+1}により振動周期が補正されるので、リファレンスセルを用いることなく、セル温度変更後のドリフトを補償でき、セル温度変更後に必要な待ち時間を短縮することができる。なお、図3〜図8において、compは上記の補正を行った振動周期を用いて算出した純水の密度の測定値の時間変化とドリフトの影響がなくなったときの値との誤差であり、セル温度変更後のドリフトが補償されていることがわかる。
【0048】
なお、上記の実施例で使用した傾きβ1、β2の値、0.0000007、0.0000005は使用した装置での測定結果であり、密度測定装置の構造、材料が変更になれば、再度算出し直す必要がある。
また、上記の実施例では、f(X、Δt)として、測定セル温度下降時には、β1・Δt・(logX−1)+1を採用し、また、測定セル温度上昇時には、β2・Δt・logX+1を採用したが、この関数f(X、Δt)は測定セルの温度変化時のドリフトの影響がなくなる時間に応じて適宜変更することが可能であり、例えば、β1・Δt・(logX−γ)+1(γは一定値)とすることができ、さらに、logXの代わりに多項式で表現することも可能である。
【0049】
さらに、上記の実施例では、被測定流体の密度算出時に空気と純水による校正を実施したが、当該測定温度で使用できる校正ファクタが装置内に記憶されていれば、空気と純水による校正を実施することなく密度を算出することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 測定セル
2 永久磁石
3a、3b ホルダ
4 温度センサ
5 外筒
6 突起
7 ヘリウム注入口
11 断熱材
12 銅ブロック
13 測定ヘッド
14 サーミスタ
15 サンプリングチューブ
16 排液チューブ
17 制御装置
21 制御部
22 駆動部
23 検出部
24 表示部
25 記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が満たされた測定セルの振動周期に基づいて試料の密度を算出する制御装置を備えた振動式密度計であって、
上記制御装置が、上記測定セル温度の変更前、変更後の温度、温度変更からの経過時間に基づく補正関数により検出された振動周期を補正することを特徴とする振動式密度計。
【請求項2】
上記請求項1に記載された振動式密度計において、TSAMPを試料を測定した振動周期、Xを温度変更後の経過時間、Δtを温度変更前後の温度差としたとき、上記制御装置が、補正関数f(X、Δt)を用いて、補正した振動周期TCOMPをTCOMP=TSAMP/f(X、Δt)により求めることを特徴とする振動式密度計。
【請求項1】
試料が満たされた測定セルの振動周期に基づいて試料の密度を算出する制御装置を備えた振動式密度計であって、
上記制御装置が、上記測定セル温度の変更前、変更後の温度、温度変更からの経過時間に基づく補正関数により検出された振動周期を補正することを特徴とする振動式密度計。
【請求項2】
上記請求項1に記載された振動式密度計において、TSAMPを試料を測定した振動周期、Xを温度変更後の経過時間、Δtを温度変更前後の温度差としたとき、上記制御装置が、補正関数f(X、Δt)を用いて、補正した振動周期TCOMPをTCOMP=TSAMP/f(X、Δt)により求めることを特徴とする振動式密度計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−27521(P2011−27521A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172899(P2009−172899)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
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