説明

振動式密度計

【課題】外部温度変化、試料温度変化によりセル内温度分布が変化した場合の密度指示値への影響を除去することができる振動式密度計を提供する。
【解決手段】サンプリングチューブ16を通じて測定セル1内に被測定試料を導入し、測定セル1の固有振動周期TSAMPを測定するとともに、測定セルの温度tCELL、節温度tJOINTもサーミスタ14、15の出力により取得する。そして、測定セルの温度tCELL=20.00℃、節温度tJOINT=20.01℃であった場合、記憶部25から読み出したフィッティング式に20.01℃を入力して空気、純水の振動周期TAIR、20.01℃、TWATER、20.01℃を算出し、この算出したTAIR、20.01℃、TWATER、20.01℃から温度20.01℃での校正パラメータK120.01℃、K220.01℃の値を求め、被測定試料の密度ρSAMPをρSAMP=K120.01℃×TSAMP+K220.01℃により算出して表示部24に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動式密度計に関し、特に、測定セル(振動子)への環境温度変化による影響を除去する機能を備えた振動式密度計に関する。
【背景技術】
【0002】
振動式密度計は被測定試料を収容した測定セルを振動させて、測定した固有振動周期から被測定試料の密度を演算、出力する装置であり、例えば清涼飲料の濃度管理等の各種試料の密度測定に利用されている。
【0003】
この振動式密度計は、例えば、ガラス製のU字型測定セルを備え、この測定セルの先端部に永久磁石を固定し、永久磁石に対向する位置に駆動コイルと検出部を内蔵した測定ヘッドを配置している。密度測定時には、測定セル内に被測定試料を導入し、測定ヘッドの駆動コイルに駆動電流を流して永久磁石に電磁力を作用させることにより測定セルを振動させ、検出部により検出した測定セルの固有振動周期から被測定試料の密度を求めている。
【0004】
上記の振動式密度計は他の振動系と同様に、図4に示すように、バネ定数kと質量mで示すことができる。この振動系において、固有振動周期をTとすると、
T=√(m/k)
すなわち、
=m/k
である。
質量mはガラス管の質量mglass、被測定試料の質量msampleに分かれ、
=(msample+mglass)/k
であるので、被測定試料の質量msampleは、
sample=k・T−mglass・・・(1)
となる。
【0005】
上記の(1)式より被測定試料の密度ρsampleは、測定セルの容量をVcellとすると、
ρsample=msample/Vcell=k・T/Vcell−mglass/Vcell
となる。ここで、k/VcellをK、−mglass/VcellをKとすると、
ρsample=K・T+K・・・(2)
で表すことができる。
【0006】
次に、被測定試料の密度の算出方法について説明する。
既知の密度をもつ2種類の物質、例えば純水(ρWATER)と空気(ρAIR)を測定セルで測定した固有振動周期をTWATER、TAIRとすると、
ρWATER =K・TWATER
+K・・・(3)
ρAIR =K・TAIR2 +K・・・(4)
であり、上記式(3)、(4)より校正パラメータK、Kは、
=(ρWATER―ρAIR)/(TWATER−TAIR)・・・(5)
=−TAIR・(ρWATER―ρAIR)/(TWATER−TAIR)+ρAIR・・・(6)
となる。
そして、純水と空気の測定温度での密度ρWATER及びρAIRは既知であるので、純水と空気を測定した振動周期TWATER、TAIRから上記校正パラメータK、Kを算出することができ、上記の式(2)により被測定試料を測定した固有振動周期Tから被測定試料の密度ρsampleを求めることができる。
【0007】
上記のようにして算出した校正パラメータK、Kは、ある基準温度tの下での特定の2つの物質の密度及び固有振動周期に基づいて決定する定数であるので、この基準温度tと異なる温度の測定セルで被測定試料を測定した固有振動周期に基づいて被測定試料の密度を算出した場合には、真の値との誤差が生じる。
【0008】
そのため、断熱材、サーモモジュール等の温度制御手段を用いて測定セルの温度を基準温度tに保持するようにし、測定セルの温度が基準温度tになった時点での固有振動周期を測定するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−58862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような振動式密度計は、測定時間が短く、試料が少なくてすみ、かつ、高精度であるが、外気温度や試料温度の変化による測定セルへの温度影響があり、測定セル温度計の指示値が一定であっても、環境温度が変化した場合、元々ある測定セル内の温度分布が変化し、測定した振動周期が変化する。すなわち、完全に断熱された系(測定セル)では温度分布は存在しないが、通常の装置では、試料注入側の断熱性が不十分であり、測定セルの中心部から試料注入側にかけて、大きな温度分布が存在する。
このため、測定セル温度計の指示値が一定であっても、環境温度が変化した場合、元々ある測定セル内の温度分布が変化し、振動周期、密度指示値が変化する。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために創案されたものであり、外部温度変化、試料温度変化によりセル内温度分布が変化した場合の密度指示値への影響を除去することができる振動式密度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
図4の振動系において、バネ定数kと質量mの代表温度が常に一定であれば、振動周期は変化しないが、バネ定数または質量mの代表温度が変化すると、振動周期も変化する。そして、測定セルの一点で温度制御する場合、最も振動周期に影響の大きい質量mの代表温度で温度制御を行うが、この場合、バネ定数kの代表温度は外気温の影響を受ける。
この影響を除去する方法として、別途、バネ定数kの代表温度を温度制御する二点での温度制御、あるいは、温度とバネ定数kとの関係から得られる振動周期の補正が考えられるが、二点での温度制御は構造上難しいため、本発明では、振動周期の補正を実施する。
【0013】
図5に示すように、振動式密度計の振動子において、質量mの代表温度は、先端から1/3付近であることが知られているため、この部分の温度をサーミスタで測定し、測定セルの温度制御を行う。一方、振動式密度計の振動子において、バネ定数kの代表温度は、節付近であるため、この部分の温度をサーミスタで測定し、振動周期の温度補正に使用する。
【0014】
すなわち、上記の式(2)において、校正パラメータKはガラス管の質量/測定セル容量であるので、バネ定数kの代表温度、質量mの代表温度から影響を受けにくいが、校正パラメータKは、バネ定数kの代表温度により変化する。この影響を除去するために、バネ定数kの代表温度を使用して校正パラメータK、Kを補正する。
【0015】
言い換えると、バネ定数kの代表温度から校正パラメータK、Kを決定するのが正しい方法であるが、今までは質量mの代表温度(校正時の設定温度)から校正パラメータK、Kを決定していた不具合を修正するために、常時、バネ定数kの代表温度、すなわち、測定セルの節付近の温度を測定し、これにより校正パラメータK、Kを決定する。
ただし、校正パラメータK、Kの値は、予め作成した温度と校正パラメータK、Kの表、あるいは、各温度の校正パラメータK、Kを算出するための関数から抽出、または、算出する。
【発明の効果】
【0016】
上記のように、環境温度が変化した場合の振動周期変化の要因として最も大きいものは、1番目にセル内部温度変化によるセル内試料の温度変化、2番目に測定セルの節部温度変化による校正パラメータK、Kの変化であるが、本発明の振動式密度計によれば、セル部の代表点を一定温度にして測定セルの節付近の温度を測定し、これにより校正パラメータK、Kを決定するので、外部温度変化、試料温度変化によりセル内温度分布が変化した場合の密度指示値への影響を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図である。
【図2】図1のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図である。
【図3】空気と純水を種々の温度で測定した固有振動周期の二乗を温度に対してプロットしたグラフである。
【図4】振動式密度計の振動系をモデル化した図である。
【図5】振動式密度計のセルの模式図である。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の振動式密度計のセンサ部の構造を示す図であり、図1(a)はセンサ部の側面図、図2(b)はセンサ部の上面図である。このセンサ部は、測定セル1、永久磁石2、ホルダ3a、3b、温度センサ4、ガラス製の外筒5により構成されている。
測定セル1は、肉厚0.2mm程度のガラスで作成した細いU字管であり、その先端部には永久磁石の薄板2が接着剤により固着されている。また、この測定セル1の基端部はホルダ3a、3bに固定され、このホルダ3a、3bは図1(a)に示すように、外筒5に設けられた突起6により固定されている。また、温度センサ4は、ガラス管の内部にサーミスタが挿入されたものであり、試料の温度及び測定セル1の節部の温度を測定する。このセンサ部は組み立て後、ヘリウム注入口7を介して内部にヘリウムが注入された後、封止される。
【0019】
一方、図2は図1のセンサ部を取り付けた振動式密度計の概念図であり、センサ部が断熱材11の内部に収容されるとともに、ペルチェ素子(図示せず)を備えた銅ブロック12がセンサ部、すなわち、測定セル1内の被測定試料の温度を設定温度に保つように制御される。また、測定セル1の先端部に固定された永久磁石2に対向する位置に、駆動コイルと検出コイルを内蔵した測定ヘッド13が配置されている。
【0020】
また、図に示すように、温度センサ4のガラス管内には、二つのサーミスタ14、15が配置され、サーミスタ14は測定セル1の先端付近の温度を測定し、サーミスタ15は測定セル1の根元付近の温度、すなわち、節温度を測定する。
一方、測定セル1の一方の開口端は被測定流体を導入するサンプリングチューブ16に接続され、他方の開口端は測定の完了した被測定流体を排出する排液チューブ17に接続されている。
【0021】
制御装置18は、制御部21、駆動部22、検出部23、表示部24及び記憶部25を備え、制御部21には上記サーミスタ14の温度検出出力が入力され、サーミスタ14の温度が測定設定温度となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御する。また、駆動部22は測定ヘッド13の駆動コイルに駆動電流を流し、検出部23は測定ヘッド13の検出コイルの出力を検出して測定セル1の振動周期を検出する。さらに、制御部21は、表示部24に測定の設定画面や密度の測定値を表示するとともに、ユーザが設定した測定条件や検出した振動周期等を記憶部25に記憶する。また、この記憶部25には種々の温度での空気、純水の密度のデータを記憶したテーブルを備えている。
【0022】
本発明では、環境温度補正、すなわち、測定セルの節温度を用いて校正パラメータを算出するが、以下、種々の温度での校正パラメータの算出方法について説明する。
まず、5℃、20℃、50℃、70℃での純水、空気の振動周期TWATER、TAIRを振動式密度計で測定する。
図3は測定した純水と空気の振動周期の二乗と温度との関係をプロットしたものであり、■が純水(WATER)、◆が空気(AIR)を測定した振動周期である。そして、図3の曲線は、下記式(7)、(8)に示すように、この振動周期の二乗と温度との関係を2次式の関数でフィッティングしたものであり、校正パラメータの算出に使用するため、この関数を制御装置18の記憶部25に記憶しておく。
AIR、t=aAIR・t+bAIR・t+cAIR・・・(7)
WATER、t=aWATER・t+bWATER・t+cWATER・・・(8)
【0023】
そして、密度の演算時等には、上記の式(7)、(8)に所定の温度を入力することにより、その温度における空気、純水の振動周期が得られるので、式(5)、(6)にその値を代入することにより、各温度での校正パラメータK1t、K2tを下記式により求めることができる。
1t=(ρWATER―ρAIR)/(TWATER、t−TAIR、t)・・・(9)
2t=−TAIR、t・(ρWATER―ρAIR)/(TWATER、t−TAIR、t)+ρAIR・・・(10)
【0024】
次に、20℃で被測定試料の密度を測定する場合の作用について説明する。
制御部18は、上記したように、サーミスタ14の温度検出出力が20℃となるように、銅ブロック12のペルチェ素子を制御するとともに、サンプリングチューブ16を通じて測定セル1内に被測定試料を導入する。そして、制御装置18の駆動部22より測定ヘッド13の駆動コイルに駆動電流を入力して永久磁石2に電磁力を作用させることにより、測定セル1に振動を開始させる。
このときの振動を測定ヘッド13の検出コイルが検出して検出信号を検出部23に入力し、この振動周期に同期した駆動信号を引き続き、測定ヘッド13の駆動コイルに入力することにより、測定セル1を一定の周期で振動させ、固有振動周期TSAMPを測定する。このとき、測定セルの温度tCELL、節温度tJOINTもサーミスタ14、15の出力により取得する。
【0025】
いま、例えば、測定セルの温度tCELL=20.00℃、節温度tJOINT=20.01℃であった場合、被測定試料の密度を以下のようにして演算する。
制御部21は、記憶部25から読み出した上記式(7)、(8)のフィッティング式に20.01℃を入力してTAIR、20.01℃、TWATER、20.01℃を算出し、この算出したTAIR、20.01℃、TWATER、20.01℃を式(9)、(10)に代入することにより、温度20.01℃での校正パラメータK120.01℃、K220.01℃の値を求める。
【0026】
そして、校正パラメータとして、上記のK120.01℃、K220.01℃の値を使用し、振動周期として、上記のTSAMPを使用することにより、制御部21は、被測定試料の密度ρSAMPを以下の式により算出して表示部24に表示する。
ρSAMP=K120.01℃×TSAMP+K220.01℃
以上のように、測定セルの節温度に基づいて算出した校正パラメータを用いて被測定試料の密度を演算するので、外部温度変化、試料温度変化によりセル内温度分布が変化しても密度指示値への影響を除去することができる。
【0027】
なお、上記の実施例では、純水と空気の振動周期の二乗と温度との関係を2次式の関数でフィッティングし、この関数から所望温度での純水と空気の振動周期の二乗を算出したが、振動式密度計の温度を様々に変えて、種々の温度における空気と純水の振動周期のデータを多数取得し、純水と空気の振動周期の二乗と温度との関係の表をテーブルとして記憶部25に記憶しておき、この表から所望温度での純水と空気の振動周期の二乗を抽出することも可能である。
また、上記の実施例では、純水と空気の振動周期の二乗と温度との関係を2次式の関数でフィッティングしたが、純水、空気の振動周期を測定する温度の測定点数を増やすことにより、3次式、4次式等の多項式で純水と空気の振動周期の二乗と温度との関係をフィッティングすることも可能である。
【0028】
さらに、以上の実施例では、測定セルの先端に取り付けた永久磁石に対向して配置される駆動コイル及び検出コイルよりなる測定ヘッドを備えた振動式密度計を例として説明したが、振動を光により検出するタイプの振動式密度計等の他の密度計にも、本発明の振動式密度計を適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 測定セル
2 永久磁石
3a、3b ホルダ
4 温度センサ
5 外筒
6 突起
7 ヘリウム注入口
11 断熱材
12 銅ブロック
13 測定ヘッド
14、15 サーミスタ
16 サンプリングチューブ
17 排液チューブ
18 制御装置
21 制御部
22 駆動部
23 検出部
24 表示部
25 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定試料を収容した測定セルの振動周期と校正パラメータとから被測定試料の密度を演算する制御装置を備えた振動式密度計であって、
測定セルの根元付近に配置した温度センサを備え、上記制御装置が、密度演算時に、上記温度センサにより検出した測定セルの節温度での校正パラメータを算出して被測定流体の密度を演算することを特徴とする振動式密度計。
【請求項2】
上記制御装置が、密度既知の二つの物質の種々の温度における振動周期と温度との関係に基づいて各温度での密度既知の二つの物質の振動周期を得、この振動周期から各温度での校正パラメータを算出することを特徴とする、上記請求項1に記載された振動式密度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−27653(P2011−27653A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175980(P2009−175980)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)