説明

振動生成方法および振動生成装置

【課題】 振動体に発生する実振動を忠実に再現可能とする。
【解決手段】 振動体に発生する実振動の振動波形データから各周波数成分fごとのパワースペクトル密度を算出するとともに、前記実振動の振動波形データの尖度を算出する第1のステップと、算出された前記パワースペクトル密度に基づき、各周波数成分fについて振幅Dを設定する第2のステップと、前記の各周波数成分fについて位相角Φを与えた後、逆フーリエ変換を行うことによって実振動を再現した振動の振動波形データを生成する第3のステップとを備えている。前記第3のステップでは、生成される振動波形データの尖度が前記実振動の振動波形データの尖度と一致するように各周波数成分fに与える位相角Φを設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の振動環境下で、振動体に生じる実振動をシミュレートするために用いられる振動生成方法および振動生成装置に関し、特にこの発明は、車両、鉄道などの輸送手段により輸送される輸送品や、輸送手段などの常に振動を伴う装置に搭載される機器、部品の振動耐久性を評価する振動試験において、実際に輸送手段などに発生する実振動をシミュレートするために用いられる振動生成方法および振動生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、鉄道、航空機などの輸送手段に積載される機器や貨物などの被輸送品に対しては、事前に不規則振動を被輸送品に与えることにより、輸送時の振動に対する耐久性を評価する振動試験が一般的に行われている。このような振動試験は、実際の輸送時に車両などの輸送手段に発生する不規則振動(以下、「実振動」という。)を測定し、この実振動を振動試験機で再現して被輸送品を振動させることにより行われる。そして、被輸送品に損傷が発生しているかどうかを検査し、これによって実輸送時に被輸送品に損傷が発生するか否かを予測している。
【0003】
従来、振動試験機で実輸送時に生じる実振動を再現する方法として、まず、測定した実振動の振動波形データから、周波数成分ごとのパワースペクトル密度(PSD)を算出し、算出したパワースペクトル密度に基づき、各周波数成分についてその振幅を算出する。さらに、この各周波数成分に位相角をランダムに与えた後、逆フーリエ変換を行うことにより、実振動のパワースペクトル密度と等しいパワースペクトル密度を有する振動を振動試験機で再現している。
【0004】
ここで、従来から、ほとんど全ての不規則振動は、その確率密度分布が正規分布であると仮定されている。そのため、振動試験においても、各周波数成分に位相を[0〜2π]の間で一様分布となるよう与えることで、正規分布を有する不規則振動を再現している。しかし、測定される実振動の振動波形データは、その確率密度分布が必ずしも正規分布になっていないことが認識されている。具体的には、正規分布はその尖度が3を示すのに対し、実振動の振動波形データでは3以外の尖度を示すことが認識されている。よって、従来の方法によって再現される不規則振動は、実輸送時に輸送手段に生じる実振動を忠実に再現しているとはいえず、振動試験の振動耐久性の評価精度に問題がある。
【0005】
そこで、不規則振動を再現する際に、その尖度を制御して、実振動の尖度と同等の尖度を有することにより、実振動に沿った不規則振動を生成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−531896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1に開示された方法によると、振動試験などにおいて不規則振動を再現する際に、その尖度を制御することで実輸送時の不規則振動の尖度と等しくすることができるが、尖度を制御するために加わるショットノイズのせいで、再現される不規則振動のパワースペクトル密度が実輸送時の不規則振動のパワースペクトル密度と比べて乱れるという問題が生じる(特表2007−531896号公報の図5を参照)。
【0008】
そこで、本発明は、上記した問題に着目してなされたもので、実際に輸送手段などの振動体に生じる実振動を再現することが可能な振動生成方法および振動生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による振動生成方法は、振動体に発生する実振動の振動波形データから各周波数成分fごとのパワースペクトル密度を算出するとともに、前記実振動の振動波形データの振動加速度についての確率密度関数を算出する第1のステップと、算出された前記パワースペクトル密度に基づき、各周波数成分fについて振幅Dを設定する第2のステップと、前記の各周波数区間fについて位相角Φを与えた後、逆フーリエ変換を行うことによって実振動を再現した振動の振動波形データである再現振動波形データを生成する第3のステップとを備えている。前記第3のステップでは、再現振動波形データから算出される振動加速度についての確率密度関数が前記実振動の振動波形データの確率密度関数と一致もしくは略一致するように各周波数fに与える位相角Φを設定することを特徴としている。
【0010】
本発明の上記した構成において、「振動体」としては、例えば、機器や部品、貨物などを輸送する車両や鉄道、飛行機などの輸送手段が挙げられる。本発明は、このような輸送手段により輸送される被輸送品の振動耐久性を評価する振動試験において、実輸送時に輸送手段に発生する不規則振動をシミュレートするために用いられるが、必ずしもそれに限られるものではない。例えば、作動中、常に振動が加わる装置などに搭載される機器や部品などに対して行われる振動試験においても、その振動をシミュレートするために用いることができる。
【0011】
本発明の振動生成方法によれば、生成される振動は、実振動のパワースペクトル密度と等しいパワースペクトル密度を有しているとともに、その確率密度関数が実振動の確率密度関数と一致あるいは略一致するため、実振動をより高精度に再現することができる。
【0012】
この発明の好ましい実施態様は、前記第3のステップでは、再現振動波形データの確率密度関数と前記実振動の振動波形データの確率密度関数との間の誤差の2乗を最小とするように各周波数成分fに与える位相角Φを設定することを特徴としている。この実施態様によると、生成される振動の確率密度関数が実振動の確率密度関数とほぼ一致するため、実振動を高精度に再現することができる。
【0013】
この発明の他の好ましい実施態様は、前記第3のステップでは、確率密度関数をt(x)、振動加速度をx、加速係数をαとし、
【0014】
【数1】

【0015】
前記数式1で表される再現振動波形データの蓄積疲労評価値と前記実振動の振動波形データの蓄積疲労評価値とについて、その間の誤差の2乗を最小とするように各周波数成分fに与える位相角Φを設定することを特徴としている。この実施態様によると、生成される振動の確率密度関数が実振動の確率密度関数に近似するため、実振動を高精度に再現することができる。
【0016】
この発明の他の好ましい実施態様は、前記第1のステップでは、前記実振動の振動波形データの尖度をさらに算出し、前記第3のステップでは、再現振動波形データの尖度が前記実振動の振動波形データの尖度と一致するように各周波数成分fに与える位相角Φを設定することを特徴としている。この実施態様によると、生成される振動の尖度が実振動の尖度と一致するため、実振動を高精度に再現することができる。
【0017】
この発明のさらに好ましい実施態様は、前記第3のステップにおいて、各周波数成分fの位相角の遅れを表す位相差ΔΦ(ΔΦ=Φ(k+1)−Φ)の確率密度分布(ただし、0≦ΔΦ≦2π)を、前記実振動の振動波形データを包絡する線の形状に沿うように設定し、この確率密度分布に基づき、各周波数成分間の位相差ΔΦを算出して各周波数成分fの位相角Φを設定することを特徴としている。この実施態様によれば、生成する振動について、その尖度を実振動の尖度と一致するようコントロールすることができる。
【0018】
この発明の他のさらに好ましい実施態様は、前記第1のステップでは、前記実振動の振動波形データの歪度をさらに算出し、前記第3のステップにおいて、再現振動波形データの尖度および歪度が前記実振動の振動波形データの尖度および歪度と一致するように、各周波数成分fの位相角Φを、角振動数ωと、再現振動波形データの歪度に応ずるパラメータである初期位相Φ(0≦Φ≦2π)と、平均μおよび再現振動波形データの尖度に応ずるパラメータである分散σをもとにした正規乱数N(μ,σ)を用いて算出される群遅延時間tとで表した数式:Φ(k+1)=Φ+t(k+1)dωにより設定することを特徴としている。この実施態様によれば、生成される振動について、その尖度だけでなく歪度も、実振動の尖度および歪度と一致するようコントロールすることができるため、実振動をさらに高精度に再現することができる。
【0019】
この発明の他のさらに好ましい他の実施態様は、前記第1のステップでは、前記実振動の振動波形データの歪度をさらに算出し、前記第3のステップにおいて、再現振動波形データの尖度および歪度が前記実振動の振動波形データの尖度および歪度と一致するように、各周波数成分fの位相角Φを、再現振動波形データの尖度および歪度に応ずるパラメータである係数aおよび初期値Φ(ただし、0<a<4、0≦Φ≦1)を用いて表した数式:Φ(k+1)=α×Φ(1−Φ)により設定することを特徴としている。この実施態様においても、生成する不規則振動について、その尖度だけでなく歪度も、実振動の尖度および歪度と一致するようコントロールすることができるため、実振動をさらに高精度に再現することができる。
【0020】
また、本発明の前記目的は、振動体に発生する実振動の振動波形データから各周波数成分fごとのパワースペクトル密度を算出するとともに、前記実振動の振動波形データの振動加速度についての確率密度関数を算出するデータ算出手段と、前記データ算出手段により算出されたパワースペクトル密度に基づき、各周波数成分fについて振幅Dを設定する振幅設定手段と、前記の各周波数成分fについて位相角Φを与える位相角設定手段と、前記振幅設定手段および位相角設定手段により振幅Dおよび位相角Φが設定された各周波数成分fを逆フーリエ変換することにより、実振動を再現した振動の振動波形データである再現振動波形データを生成する波形生成手段とを備え、前記位相角設定手段は、再現振動波形データの確率密度関数が前記実振動の振動波形データの確率密度関数と一致するように各周波数成分fに与える位相角Φを設定して成る振動生成装置により達成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の振動生成方法および振動生成装置によると、そのパワースペクトル密度が実振動のパワースペクトル密度と変わることがなく、かつ、その確率密度関数が実振動の確率密度関数に合った振動を生成することができるので、例えば振動試験などにおいて、実際の振動環境に合致した振動試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の振動生成方法を用いた振動試験機の機略構成図である。
【図2】本発明の振動生成方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】図2のステップ3の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図4】位相差の確率密度分布と実振動の振動波形データとの関係を示す説明図である。
【図5】図2のステップ3の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図6】分散群遅延時間と振動波形データとの関係を示す説明図である。
【図7】初期位相と振動波形データとの関係を示す説明図である。
【図8】第2実施形態により生成される振動の振動波形データである。
【図9】図2のステップ3の第3実施形態を示すフローチャートである。
【図10】第3実施形態により生成される振動の振動波形データである。
【図11】第3実施形態により生成される振動の振動波形データである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。
【0024】
本発明の振動生成方法は、例えば、車両、鉄道、飛行機などの輸送手段により輸送される被輸送品の振動耐久性を評価する振動試験において、実輸送時に輸送手段に生ずる不規則振動(以下、「実振動」という。)を再現するために用いられるものである。
【0025】
図1は、本発明の振動生成方法が用いられる振動試験装置1の概略構成を示す。振動試験装置1は、被輸送品Pが載置される振動台2aと、所定の加速度の振動を振動台2aに付与することが可能な加振機2と、加振機2の作動を制御する制御装置10と、振動台2aの振動加速度を検出する第1の加速度センサ4と、被輸送品Pの振動加速度を検出する第2の加速度センサ6とを備えている。第1の加速度センサ4は振動台2aに、第2の加速度センサ6は被輸送品Pに、それぞれ取り付けられる。
【0026】
制御装置10は、制御、演算の主体であるCPU13、記憶手段であるROM14、RAM15の他に、表示部11、入力部12、およびメモリ部16を備えている。それぞれはバス19を介して接続されている。この制御装置10は、例えばパーソナルコンピュータなどの情報処理装置により構成される。
【0027】
表示部11は、液晶モニタやCRTモニタなどで構成される。入力部12は、マウス、入力キー、タッチパネルなどで構成される。ROM14は、CPU13が実行するプログラムや各種データなどを格納する。RAM15は、プログラムの実行時に必要なデータの読み書きに用いられる。
【0028】
メモリ部16には、予め各種の輸送手段による輸送経路毎に計測された実振動の振動波形データ、これを基に算出される実振動の振動加速度についての確率密度関数、PSD( Power Spectrum Density:パワースペクトル密度)、尖度および歪度などの各種情報が格納される。CPU13は、ROM14に格納されたプログラムに従ってRAM15に対するデータの読み書きを行いつつ、振動試験で再現する不規則振動の振動波形データを作成し、これを加振機2に付与して振動台2aを振動させることで被輸送品Pについての振動試験を行う。
【0029】
次に、本発明に係る振動生成方法について、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、同図において、STは「STEP(ステップ)」の略である。
【0030】
まず、ステップ1では、制御装置10は、実輸送時に輸送手段(例えば、車両)に生じる実振動の一定時間の振動波形データをフーリエ変換して、各周波数成分fごとのPSDを算出する処理を行う。この振動波形データは、例えば、実輸送時における被輸送品Pの載置面(例えば、車両の荷台など)の振動加速度を、振動記録計により実際に計測することにより得られる。
【0031】
また、実振動の振動波形データから、振動波形データの特徴を表すパラメータである尖度と歪度とを算出する処理を行う。ここで、尖度とは振動加速度の度数分布の急峻度(尖っている度合い)を表す特徴量であり、歪度とは振動加速度の度数分布の非対称性を表す特徴量であり、どちらも統計学で用いられる一般的な指標である。これらのデータはメモリ部16に格納される。なお、ここでは、車両について言及しているが、各種の輸送手段(鉄道や飛行機、台車など)に発生する実振動の振動波形データを計測しておき、各振動波形データからPSD、尖度、歪度などを算出して、輸送手段ごとにメモリ部16に格納しておく。
【0032】
次に、ステップ2では、制御装置10は、これら算出したPSDに基づき、各周波数成分f各々について、以下の数式(2)を用いて、その振幅Xを算出する処理を行う。なお、本明細書においては、kを各周波数成分へのインデックスとしている。
【0033】
【数2】

【0034】
次に、制御装置10は、ステップ3において、各周波数成分fk各々について位相角Φkを設定する処理を実行する。
【0035】
図3は、図2のステップ3の位相角設定処理の第1実施形態を示しており、図3に示すフローチャートを適宜参照しながら第1実施形態の位相各設定処理を説明する。ここで、例えば地震などにおいては、地震波の時刻歴波形データをフーリエ変換して求められる各成分波の位相角φの遅れΔφ(=φ(k+1)−φ。以下、「位相差」という)の度数分布の形状が、地震波の時刻歴波形データの包絡線の形状に類似することが経験則的に知られている。
【0036】
この第1実施形態は、この経験則を利用しており、制御装置10は、まずステップ10において、各周波数成分fの位相角Φの遅れ(位相差)ΔΦ(=Φ(k+1)−Φ)の確率密度分布を予め設定する。このとき、位相差ΔΦの確率密度分布の形状が、図4(1)に示すように、実輸送の振動波形データを包絡する包絡線L1の形状(図4(2)を参照)に沿うように、かつ、位相差ΔΦの確率密度分布のピーク値の位置が、例えば、位相差の最大値2πと最小値0の中央部であるπの位置に位置するようにして位相差ΔΦの確率密度分布を作成する。
【0037】
次に、制御装置10は、ステップ11において、作成した位相差ΔΦの確率密度分布を用いて各周波数成分間の位相差ΔΦをそれぞれ算出する処理を行い、最後に、制御装置10は、基準とする周波数成分fの位相角Φを適宜設定することにより、各周波数成分f各々について、位相角Φkを設定する処理を行う(ステップ12)。
【0038】
図2に戻って、制御装置10は、ステップ4において、振幅Dおよび位相角Φが設定された各周波数成分fを逆フーリエ変換することにより、振動試験において再現する振動(以下、「生成振動」という。)の振動波形データを生成する。この振動波形データは、図1のD/A変換部18を介して加振機2に与えられ、加振機2は、与えられた振動波形データに基づき振動台2aを振動させて、振動台2a上に載置される被輸送品Pに不規則振動を付与する。被輸送品Pの振動は第2の加速度センサ6で検出され、A/D変換部17を介して制御装置10に送信される。これにより、被輸送品Pの振動耐久性が評価されるが、振動試験の詳細については、本明細書ではその説明を省略する。
【0039】
このようにして生成される不規則振動は、実輸送時に輸送手段に発生する実振動のPSDと同じPSDを有しているとともに、その尖度が実振動の振動波形データから求められる尖度とほぼ一致する。よって、この第1実施形態によれば、実輸送により近い振動環境で被輸送品Pについて振動試験を行うことができるため、試験精度を向上することが可能である。
【0040】
図5は、図2のステップ3の位相角設定処理の第2実施形態を示しており、図5に示すフローチャートを適宜参照しながら第2実施形態の位相各設定処理を説明する。
【0041】
この第2実施形態は、各周波数成分fに位相角Φを設定するために、群遅延時間tを導入したものである。ここで、群遅延時間tとは、一般的に、フーリエ変換された各成分波の位相角Φの遅れΔφ(=φ(k+1)−φ)を角振動数ωで微分したものを指し、t=dΦ/dω(ただし、ω=2πf)で定義されるものである。この第2実施形態では、各周波数成分fの位相角Φを、この群遅延時間tを用いた以下の数式3に基づいて設定している。
【0042】
【数3】

【0043】
具体的に、位相角Φの設定方法を説明すると、制御装置10はまず、ステップ20において、群遅延時間tの分布が正規分布に従っているとし、その平均μ(以下、「平均群遅延時間μ」という。)および分散σ(以下、「分散群遅延時間σ」という。)を適宜設定することにより、設定した平均群遅延時間μおよび分散群遅延時間σをもとに群遅延時間tの正規乱数N(μ、σ)を発生させて、各周波数成分f各々に対してそれぞれ群遅延時間tを算出する処理を行う(ステップ21)。
【0044】
ここで、分散群遅延時間σは、成分波群の継続時間に対応している。図6に示すように、平均群遅延時間μを一定にし、分散群遅延時間σを1秒(図6(1)),20秒(図6(2)),50秒(図6(3)),100秒(図6(4))と変化させたとき、生成される振動波形データを確認すると、分散群遅延時間σが大きくなればなるほど、振動の衝撃度が分散して振幅が小さくなり、振動波形データは定常波形となることが確認できる。よって、分散群遅延時間σは、生成される振動波形データの尖度と対応するパラメータであり、分散群遅延時間σを適切に設定することにより、生成される振動波形データの尖度をコントロールすることができる。
【0045】
なお、平均群遅延時間μは、成分波群の重心位置に対応している。図示は省略するが、分散群遅延時間σを一定にして平均群遅延時間μを変化させたとき、生成される振動波形データを確認すると、平均群遅延時間μが大きくなればなるほど、振動波形のピークの位置が遅れる。よって、平均群遅延時間μを適切に設定することにより、生成される振動波形データのピーク位置をコントロールすることも可能である。
【0046】
図5に戻って、制御装置10はまた、ステップ22において、初期位相Φを[0〜2π]の間で適宜設定する処理を行う。ここで、初期位相Φは成分波群の時間軸に関する上下対称性に対応している。図7に示すように、分散群遅延時間σおよび平均群遅延時間μを一定にし、初期位相Φを0(図7(1)),π/2(図7(2)),π(図7(3)),3π/2(図7(4))と変化させたとき、生成される振動波形データを確認すると、初期位相Φが変化することにより、生成される振動波形データの時間軸に関する上下対称性、つまり歪度が変化することが確認できる。よって、初期位相Φ0は、生成される振動波形データの歪度に対応するパラメータであり、初期位相Φを適切に設定することにより、生成される振動波形データの歪度をコントロールすることができる。
【0047】
制御装置10は、ステップ20〜ステップ22において、実振動の振動波形データから求められる尖度および歪度を目標値として、生成される振動波形データの尖度および歪度が前記目標値と一致するよう分散群遅延時間σと初期位相Φとを設定する。さらに、平均群遅延時間μを適宜設定し、各周波数成分f各々について群遅延時間tを正規乱数N(μ,σ)を基に発生させる。そして、次のステップ23において、前記数式3を用いて各周波数成分fについて位相角Φkを設定する。
【0048】
そして、制御装置10は、振幅Dおよび位相角Φが設定された各周波数成分fを逆フーリエ変換することにより(図2のステップ4)、図8に示される振動波形データを生成し、この振動波形データを、D/A変換部18を介して加振機2に与える。
【0049】
この第2実施形態により生成される不規則振動(図8参照)は、実輸送時に発生する実振動のPSDと同じPSDを有しているとともに、その尖度、さらには歪度が、実振動の振動波形データから求められる尖度および歪度とほぼ一致する。よって、本実施形態によれば、第1実施形態よりさらに実輸送に近い振動環境の下、被輸送品Pの振動試験を行うことができるため、試験精度をさらに向上することが可能である。
【0050】
図9は、図2のステップ3の位相角設定処理の第3実施形態を示しており、図9に示すフローチャートを適宜参照しながら第3実施形態の位相各設定処理を説明する。
【0051】
この第3実施形態は、各周波数成分fに位相角Φを設定するために、カオス振動を発生させる数式を導入したものである。カオス振動とは、非線形振動の一種であり、数式などで表せる決定論的な規則をもつ系であるにもかかわらず、初期値が僅かに異なるだけで、その差が指数関数的に増大し、予測が困難となるという意味でランダム性を備えているものである。
【0052】
このカオス振動の数式には、例えばロジスティック方程式を用いることができ、このロジスティック方程式を用いて各周波数成分fに与える位相角Φを表すと以下の数式4のようになる。このf(Φ)は、係数α,初期値Φに鋭敏に依存し、係数α,初期値Φの僅かな違いによって各位相角Φの結果が全く異なってしまうため、これより生成される振動波形データの形状も全く異なるものとなる。
【0053】
【数4】

【0054】
例えば、α=3.87,Φ=0.792として数式4を用いて各周波数成分fの位相角Φを設定すると、これにより生成される振動波形データは図10に示すような形状をとる。この振動波形データから求まる尖度は8.24、歪度は0.91となる。一方、例えば、α=3.98,Φ=0.46として数式4を用いて各成分波の位相角Φを設定すると、これにより生成される振動波形データは図11に示すような形状をとる。この振動波形データから求まる尖度は3.0、歪度は0.02となる。
【0055】
このように、数式4における係数α,初期値Φは、生成される振動波形データの尖度および歪度に対応するパラメータであり、係数αおよび初期値Φを適切に設定することにより、生成される振動波形データの尖度および歪度をコントロールすることができる。
【0056】
図9のステップ30では、制御装置10は、実振動の振動波形データから求められる尖度および歪度を目標値として、生成される振動波形データの尖度および歪度が前記目標値と一致するよう係数αと初期値Φとを設定する。そして、次のステップ31において、数式3に基づき、各周波数成分fについて位相角Φkを設定する。
【0057】
そして、制御装置10は、振幅Dおよび位相角Φが設定された各周波数成分fを逆フーリエ変換することにより(図2のステップ4)、振動波形データを生成し、この振動波形データを、D/A変換部18を介して加振機2に与える。
【0058】
この第3実施形態により生成される不規則振動は、第2実施形態と同じく、実輸送時に生ずる実振動のPSDと同じPSDを有しているとともに、その尖度、さらには歪度が、実振動の振動波形データから求められる尖度および歪度とほぼ一致する。よって、本実施形態によれば、第1実施形態よりさらに実輸送に近い振動環境の下、被輸送品Pの振動試験を行うことができるため、試験精度をさらに向上することが可能となる。
【0059】
なお、各成分波の位相角Φを設定するために用いられるカオス振動の式は、必ずしもロジスティック方程式に限られるものではなく、適宜その他の数式を用いて設定することも可能である。
【0060】
以上のように、本発明の振動生成方法によれば、逆フーリエ変換するときに各周波数成分fに設定する位相角Φに着目し、各位相角Φを適宜設定することにより、生成振動の振動波形データから求まる尖度、さらには歪度を、実振動の振動波形データから求まる尖度、さらには歪度と一致するようにしているので、振動のPSDが変わることがなく、実輸送の振動環境に即した不規則振動を生成できる。
【0061】
なお、上記した実施形態においては、振動の尖度、さらには歪度を指標として、生成振動の尖度さらには歪度を、実振動の尖度さらには歪度と一致するよう、各周波数成分fの位相角Φを設定することで、生成振動の確率密度関数と実振動の確率密度関数とをほぼ一致させ、生成振動を実振動に近いものとしている。
【0062】
これに限らず、尖度、歪度以外の指標として、例えば、実振動の確率密度関数に対して生成振動の確率密度関数を最小二乗近似法により近似させることにより、生成振動を実振動に近づけることもできる。
【0063】
具体的には、図2のステップ3の位相角設定処理において、例えば上記した数式3を用いた位相角Φの設定方法では、実振動の確率密度関数T(x)を基準として、下記の数式5で表される、生成振動の確率密度関数T(x)と実振動の確率密度関数T(x)との誤差の二乗Jが最小となるように、群遅延時間t(具体的には分散群遅延時間σおよび平均群遅延時間μ)と初期位相Φとを適宜設定する。そして、数式3を用いて各周波数成分fについて位相角Φkを設定するようにする。なお、数式5において、xは振動加速度である。
【0064】
【数5】

【0065】
また、上記した数式4を用いた位相角Φの設定方法においても、生成振動の確率密度関数T(x)と実振動の確率密度関数T(x)との誤差の二乗Jが最小となるように、係数αと初期値Φとを適宜設定する。そして、上記の数式4を用いて各周波数成分fについて位相角Φkを設定するようにする。
【0066】
この実施態様によっても、生成振動の確率密度関数T(x)と実振動の確率密度関数T(x)とがほぼ一致し、生成振動を実振動に近いものとすることが可能である。
【0067】
さらに、その他の指標として、実振動により、例えば振動台2a(図1に示す)に生ずる蓄積疲労評価値Eを基準し、生成振動により振動台2aに生ずる蓄積疲労評価値Eを最小二乗近似法により近似させることにより、生成振動を実振動に近づけることも可能である。ここで、蓄積疲労評価値Eとは、下記の数式6を用いて表されるものであり、T(x)は確率密度関数を、xは振動加速度を、αは振動台2aに固有の値である加速係数を、それぞれ示している。
【0068】
【数6】

【0069】
この実施態様では、予め、振動台2aの疲労強度(S−N曲線)に基づき加速係数αを適宜(例えば、3〜5)に設定し、実振動により振動台2aに生ずる蓄積疲労評価値Eを、実振動の確率密度関数T(x)および振動加速度xから前記数式6を用いて算出しておく。そして、図2のステップ3の位相角設定処理においては、実振動の蓄積疲労評価値Eを基準として、生成振動により振動台2aに生ずる蓄積疲労評価値E(生成振動の確率密度関数T(x)および振動加速度xから前記数式6を用いて算出される)と実振動の蓄積疲労評価値Eとの誤差の二乗L(=|E−E)が最小となるように、各周波数成分fについて位相角Φkを設定するようにする。
【0070】
この実施態様においても、実振動の蓄積疲労評価値Eと生成振動の蓄積疲労評価値Eとが一致する結果、生成振動の確率密度関数T(x)が実振動の確率密度関数T(x)に近似し、生成振動を実振動に近いものとすることが可能である。
【0071】
また、本実施形態においては、輸送手段により輸送される被輸送品Pについての振動試験において、輸送手段に生ずる不規則振動をシミュレートするのに本発明が用いられているが、例えば、タービンなど、常に振動が加わる装置に搭載される機器や部品などについての振動試験において、その加わる振動をシミュレートする際にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
10 制御装置
13 CPU
14 ROM
15 RAM
16 メモリ部
P 被輸送品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体に発生する実振動の振動波形データから各周波数成分fごとのパワースペクトル密度を算出するとともに、前記実振動の振動波形データの振動加速度についての確率密度関数を算出する第1のステップと、
算出された前記パワースペクトル密度に基づき、各周波数成分fについて振幅Dを設定する第2のステップと、
前記の各周波数成分fについて位相角Φを与えた後、逆フーリエ変換を行うことによって実振動を再現した振動の振動波形データである再現振動波形データを生成する第3のステップとを備え、
前記第3のステップでは、再現振動波形データから算出される振動加速度についての確率密度関数が前記実振動の振動波形データの確率密度関数と一致もしくは略一致するように各周波数成分fに与える位相角Φを設定することを特徴とする振動生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載された振動生成方法であって、
前記第3のステップでは、再現振動波形データの確率密度関数と前記実振動の振動波形データの確率密度関数との間の誤差の2乗を最小とするように各周波数成分fに与える位相角Φを設定することを特徴とする振動生成方法。
【請求項3】
請求項1に記載された振動生成方法であって、
前記第3のステップでは、確率密度関数をT(x)、振動加速度をx、加速係数をαとし、
【数1】


前記数式1で表される再現振動波形データの蓄積疲労評価値と前記実振動の振動波形データの蓄積疲労評価値とについて、その間の誤差の2乗を最小とするように各周波数成分fに与える位相角Φを設定することを特徴とする振動生成方法。
【請求項4】
請求項1に記載された振動生成方法であって、
前記第1のステップでは、前記実振動の振動波形データの尖度をさらに算出し、
前記第3のステップでは、再現振動波形データの尖度が前記実振動の振動波形データの尖度と一致するように各周波数成分fに与える位相角Φを設定することを特徴とする振動生成方法。
【請求項5】
前記第3のステップにおいて、各周波数成分fの位相角の遅れを表す位相差ΔΦ(ΔΦ=Φ(k+1)−Φ)の確率密度分布(ただし、0≦ΔΦ≦2π)を、前記実振動の振動波形データを包絡する線の形状に沿うように設定し、この確率密度分布に基づき各周波数成分間の位相差ΔΦを算出して各周波数成分fの位相角Φを設定することを特徴とする請求項4に記載された振動生成方法。
【請求項6】
前記第1のステップでは、前記実振動の振動波形データの歪度をさらに算出し、
前記第3のステップにおいて、再現振動波形データの尖度および歪度が前記実振動の振動波形データの尖度および歪度と一致するように、各周波数成分fの位相角Φを、角振動数ωと、再現振動波形データの歪度に応ずるパラメータである初期位相Φ(0≦Φ≦2π)と、平均μおよび再現振動波形データの尖度に応ずるパラメータである分散σをもとにした正規乱数N(μ,σ)を用いて算出される群遅延時間tとで表した数式:
Φ(k+1)=Φ+t(k+1)dω
により設定することを特徴とする請求項4に記載された振動生成方法。
【請求項7】
前記第1のステップでは、前記実振動の振動波形データの歪度をさらに算出し、
前記第3のステップにおいて、再現振動波形データの尖度および歪度が前記実振動の振動波形データの尖度および歪度と一致するように、各周波数成分fの位相角Φを、再現振動波形データの尖度および歪度に応ずるパラメータである係数aおよび初期値Φ(ただし、0<a<4、0≦Φ≦1)を用いて表した数式:
Φ(k+1)=α×Φ(1−Φ
により設定することを特徴とする請求項4に記載された振動生成方法。
【請求項8】
振動体に発生する実振動の振動波形データから各周波数成分fごとのパワースペクトル密度を算出するとともに、前記実振動の振動波形データの振動加速度についての確率密度関数を算出するデータ算出手段と、
前記算出手段により算出されたパワースペクトル密度に基づき、各周波数成分fについて振幅Dを設定する振幅設定手段と、
前記の各周波数成分fについて位相角Φを与える位相角設定手段と、
前記振幅設定手段および位相角設定手段により振幅Dおよび位相角Φが設定された各周波数成分fを逆フーリエ変換することにより、実振動を再現した振動の振動波形データである再現振動波形データを生成する波形生成手段とを備え、
前記位相角設定手段は、再現振動波形データの確率密度関数が前記実振動の振動波形データの確率密度関数と一致するように各周波数成分fに与える位相角Φを設定して成る振動生成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−204007(P2010−204007A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51940(P2009−51940)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)