説明

振動発電機

【課題】コイルにおける消費電力を抑え、電圧3Vに対応する電力を変圧回路なしで蓄電することができる振動発電機を提供する。
【解決手段】永久磁石がコイルの内部を移動することにより発生する交流電流を直流電流に整流する整流回路と、整流回路により整流された直流電流から電圧3Vを蓄電可能な蓄電回路と、を含む電気回路は、電圧を変圧する変圧回路を含まず、コイルを構成する導線の線径が0.08mm〜0.14mmの範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石がコイルの内部を一方向に往復移動することにより発生する電流から電力を得る振動発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、永久磁石がコイルの内部を一方向に往復移動することにより発生する電流から電力を得る電磁誘導型の振動発電機が特許文献1などにより知られている。この振動発電機は、乾電池形状の筐体を備える。この筐体の内部に永久磁石と、コイルと、電気回路部と、が配置される。コイルに発生した交流電流が、整流回路と変圧回路とを含む電気回路部により、規格化された電圧に変圧される。この規格化された電圧により、振動発電機の+電極部、及び−電極部から、電力が、振動発電機が取り付けられた外部装置に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−94832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変圧回路が電気回路部に含まれると、筐体内部に変圧回路を設けるスペース、及び変圧回路を設けるコストが必要になる。変圧回路を含まない電気回路部を備える振動発電機は、変圧回路を設けるスペースだけ、永久磁石を大きくするなどにより、発電量を増加させることができ、また、振動発電機に変圧回路を設けるコストを下げることができる。
【0005】
変圧回路が含まれない振動発電機では、コイルに発生した起電圧は変圧されずに、電力がコンデンサなどの蓄電回路に蓄電される。従って、振動発電機の出力電圧を大きくしようとすると、起電圧を大きくすることが求められる。コイルの巻数を多くすれば、起電圧は大きくなる。筐体内の一定のスペースにおいて、コイルの巻数を多くするには、コイルを構成する導線の径を小さくすればよいことが考えられる。しかし、導線の径を小さくすれば、導線の断面積が小さくなるので電気抵抗が大きくなる。電気抵抗が大きくなると、コイルにおける消費電力が大きくなり蓄電回路に効率よく電力が蓄電されない。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、コイルにおける消費電力を抑え、電圧3Vに対応する電力を変圧回路なしで蓄電することができる振動発電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明は、中空のボビンケースと、このボビンケースの巻回領域に巻回されるコイルと、前記ボビンケースの内部に配置される複数の永久磁石と、を収容する単3乾電池形状の第1筐体と、前記複数の永久磁石が、前記コイルの内部を往復移動することにより発生する交流電流を直流電流に整流する整流回路と、整流回路により整流された直流電流から電圧3Vを蓄電可能な蓄電回路と、を含む電気回路を収容する単3乾電池形状の第2筐体と、前記コイルの両端と前記電気回路とを電気的に接続する接続部と、を備え、前記複数の永久磁石は、隣接する永久磁石と互いに同極が対向して固定され、前記電気回路は、電圧を昇圧するための変圧回路を含まず、前記ボビンケースの長手方向に延びる前記巻回領域は、複数の分割領域に分割され、前記コイルを構成する導線は、前記複数の分割領域に、隣接する分割領域と互いに巻回方向を逆にして巻回され、この導線の線径が0.08mm〜0.14mmの範囲にあることを特徴とするものである。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の振動発電機において、前記コイルを構成する導線の線径は、0.10mm〜0.12mmの範囲にあることを特徴とするものである。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項3記載の本発明は、請求項1または2に記載の振動発電機において、前記ボビンケースの外側に磁性材料からなるシールドが配置され、前記各永久磁石の外径は、8.5mm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の振動発電機によれば、コイルを構成する導線の線径が0.08mm〜0.14mmの範囲にある。線径範囲の設定により、コイルを構成する導線の線径が0.08mm〜0.14mmの範囲にない振動発電機よりも、コイルにおける消費電力を抑え、電圧3Vを変圧回路なしで早く蓄電することができる。
【0011】
請求項2に記載の振動発電機によれば、コイルを構成する導線の線径が、0.10mm〜0.12mmの範囲にある。より好ましい線径範囲の設定により、コイルを構成する導線の線径が、0.10mm〜0.12mmの範囲にない振動発電機よりも、コイルにおける消費電力をより抑え、電圧3Vを変圧回路なしでより早く蓄電することができる。
【0012】
請求項3に記載の振動発電機によれば、各永久磁石の外径の設定により、複数の永久磁石は、シールドとの間の磁気的な引力により阻害されることなく、円滑に往復移動を行うことができる。従って、電圧3Vを変圧回路なしでより早く蓄電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る振動発電機1を示す斜視図である。
【図2】図1に示す第1筐体2のA−A線に沿う断面図である。
【図3】永久磁石20A、20B、20C、およびコイル30A、30B、30Cの長手方向における長さを示す説明図である。
【図4】ボビンケース10、およびコイル30A、30B、30Cを示す斜視図である。
【図5】振動発電機1の電気回路40の回路図である。
【図6】振動発電機1が、外部装置の電池ボックスに取り付けられた状態を示す斜視図である。
【図7】振動発電機1が、外部装置の電池ボックスに取り付けられた状態における電気的接続関係を示す結線図である。
【図8】実験条件が、4Hzにおいてコイル線径Cdを変えた場合、蓄電回路42の蓄電電圧Vconが時間経過に伴って変化する状態を示す図面である。
【図9】実験条件が、4Hzにおいてコイル線径Cdを変えた場合、コイルユニット30の両端の電圧Vを測定したデータを示す説明図である。
【図10】実験条件が、5Hzにおいてコイル線径Cdを変えた場合、蓄電回路42の蓄電電圧Vconが時間経過に伴って変化する状態を示す図面である。
【図11】実験条件が、5Hzにおいてコイル線径Cdを変えたときのコイルユニット30の両端の電圧Vを測定したデータを示す説明図である。
【図12】振動発電機1の振動を開始してから200秒後の蓄電回路42の蓄電電圧Vconを、コイル線径Cdごとに示すグラフである。
【図13】永久磁石20の外径Mdを変化させた場合、コイルユニット30の両端に発生する発電量Pcoilを測定した結果を示すグラフである。
【図14】振動発電機1が電池ボックスに固定されたリモートコントローラRCをユーザーが振った場合、リモートコントローラRCの振動の周波数を示すグラフである。
【図15】振動発電機1が電池ボックスに固定されたリモートコントローラRCをユーザーが振った場合、振動発電機1の振幅Yshの平均値が時間経過に伴って変化する状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
本発明の一実施形態について、図1を参照して説明する。図1は振動発電機1の概略構成を示す斜視図である。図1に示すように、振動発電機1は、第1筐体2と第2筐体3とケーブル4とを備える。第1筐体2、及び第2筐体3は共に単3乾電池形状を有する。第1筐体2は、鉄、ケイ素鋼などの導電性材料、かつ磁性材料から形成される。第2筐体3は、ABS、PCなどの非磁性材料から形成される。第1筐体2は、本発明のシールドの一例である。
【0015】
ボビンケース10と永久磁石ユニット20とコイルユニット30とが第1筐体2の内部に収容される。ボビンケース10は中空形状を有し、ABS、POM、PC、LCP、アルミナなどの非磁性材料から形成される。ボビンケース10は、永久磁石ユニット20が一定の方向に往復移動するようにガイドの役割を果たす。図1に示すように、ボビンケース10の長手方向D1が、永久磁石ユニット20が往復移動する方向である。
【0016】
図2を参照して、ボビンケース10とコイルユニット30とについて説明する。図2は、図1に示す第1筐体2のA−A線に沿う断面図である。巻回領域Z1がボビンケース10の外周面Z0に設けられる。より具体的には、巻回領域Z1は、つば11a、11bにより複数の分割領域Z1a、Z1b、Z1cに分割される。分割領域Z1a、Z1b、Z1cの各々は、長手方向D1において同じ長さを有する。
【0017】
コイルユニット30は、複数のコイル30A、30B,30Cを備える。以下、複数のコイルを3つのコイル30A、30B,30Cとして記載する。導電性材料かつ非磁性材料からなる導線が、分割領域Z1a、Z1b、Z1cの各々に巻回される。これにより、コイル30A、30B、30Cが、分割領域Z1a、Z1b、Z1cにそれぞれ設けられる。コイル30A、30B、30Cを形成する導線が、隣り合うコイル30A、30B、30Cに対して、互いに巻回方向が逆方向になるように巻回される。この導線は、絶縁性材料からなる材料により被覆される。
【0018】
図2を参照して、永久磁石ユニット20を説明する。永久磁石ユニット20は、複数の永久磁石20A、20B、20Cと締結部材21とを備える。以下、複数の永久磁石を3つの永久磁石20A、20B、20Cとして記載する。中空で円筒形状の3つの永久磁石20A、20B、20Cが、締結部材21によりかしめ固定される。この固定状態では、永久磁石20A、20B、20Cの各々は、隣接する永久磁石20A、20B、20Cと同極が対向するように配置され、永久磁石20A、20B、20Cの着磁方向は長手方向D1に向く。同極が対向する状態で永久磁石20A、20B、20Cが配置されると、斥力が永久磁石20A、20B、20Cの各々に働く。締結部材21は、この斥力が永久磁石20A、20B、20Cの各々に働いている状態において、永久磁石20A、20B、20Cを締結する。同極が対向するように永久磁石20A、20B、20Cが配置されると、永久磁石20A、20B、20Cのそれぞれの磁束が長手方向D1に対して交差する方向に向くので、コイル30A、30B,30Cを横切る磁束密度が増加する。
【0019】
永久磁石20A、20B、20Cは、ネオジム磁石、フェライト磁石などの永久磁石である。締結部材21はオーステナイト系ステンレス材料、アルミ合金材料、真鍮などの非磁性材料から形成される。
【0020】
長手方向D1における3つの永久磁石20A、20B、20Cの長さLmA、LmB、LmCと長手方向D1における3つのコイル30A、30B、30Cの長さLcA、LcB、LcCとについて図3を参照して説明する。図3は、永久磁石20A、20B、20C、およびコイル30A、30B、30Cの長手方向D1における長さを示す説明図である。以降の記載において、3つの分割領域Z1a、Z1b、Z1cのそれぞれの長手方向D1における長さが3つのコイル30A、30B、30Cの長さLcA、LcB、LcCのそれぞれと同じである。永久磁石20Aの長さLmAと、永久磁石20Bの長さLmBと、永久磁石20Cの長さLmCとは同じである。コイル30Aの長さLcAと、コイル30Bの長さLcBと、コイル30Cの長さLcCとは同じである。長手方向D1におけるつば11aの長さと、長手方向D1におけるつば11bの長さとは同じである。永久磁石20Aの長さLmAは、コイル30Aの長さLcAと長手方向D1におけるつば11aの長さとの和である。具体的には、永久磁石20Aの長さLmAは7.0mm〜9.0mmの範囲から設定される。永久磁石が往復移動できる長さLsは、約43mmである。
【0021】
図4はボビンケース10、およびコイル30A、30B、30Cを示す斜視図である。コイル30A、30B、30Cを構成する導線は、分割領域Z1a、Z1b、Z1cに長手方向D1に交差する方向に巻回される。図4に示すように、導線は、分割領域Z1cで時計回りに巻回される。分割領域Z1cに時計回りに巻回された導線は、次に、つば11bに形成された溝12bを通って、分割領域Z1bに反時計回りに巻回される。分割領域Z1bに反時計回りに巻回された導線は、次に、つば11aに形成された溝12aを通って、分割領域Z1aに時計回りに巻回される。分割領域Z1aに時計回りに巻回された導線は、接続線CW1として、図1に示した電気回路40と接続される。分割領域Z1cに巻回される前の導線は、接続線CW2として、図1に示した電気回路40と接続される。図3において、コイル30A、30B、30Cを構成する導線は、分割領域Z1a、Z1b、Z1cを隙間無く満たすように巻回される。図4には図示されていないが、具体的には、コイル30Aを構成する導線は、絶縁皮膜を介して隣り合う導線と接触するように巻回される。この巻回により、第1筐体2内の一定のスペースにおいて、コイルの巻数を多くすることができる。また、図4では、導線は、分割領域Z1a、Z1b、Z1cに1重で巻回されているが、実際は、何重にも巻回される。これにより、コイルユニット30を構成する導線の巻数が増え、起電力が大きくなる。また、コイルユニット30を構成する導線が、何重にも巻回される場合、長手方向D1と垂直な方向におけるコイルユニット30の長さである外径が、つば11a、11bの外径以下になるように、導線は、分割領域Z1a、Z1b、Z1cに巻回される。これにより、導線が分割領域Z1a、Z1b、Z1cに巻回された時に、つば11a、11bからの抗力により、導線が分割領域Z1a、Z1b、Z1cに緩まずに巻回される。後述する図8〜図11に示す実験においては、コイルユニット30を構成する導線は12重に巻回される。
【0022】
図1において、正極端子5と負極端子6とが第1筐体2の長手方向D1における両端に設けられる。第1筐体2が導電性材料から形成されるので、正極端子5と負極端子6とは、第1筐体2を介して電気的に接続される。プラス電極7とマイナス電極8とが第2筐体3の長手方向D1における両端に設けられる。正極端子5、負極端子6、プラス電極7、およびマイナス電極8は、導電性材料から形成される。孔9aが正極端子5側の第1筐体2の面に形成される。孔9bがマイナス電極8側の第2筐体3の面に形成される。コイル30Aからの接続線CW1とコイル30Cからの接続線CW2とは、絶縁性材料からなるケーブル4の内部に挿通される。ケーブル4の内部に挿通された2本の接続線CW1、CW2は、孔9a、および孔9bを介して、後述する第2筐体3内の電気回路40に電気的に接続される。電気回路40とプラス電極7とは、接続線CW3を介して電気的に接続される。電気回路40とマイナス電極8とは、接続線CW4を介して電気的に接続される。電気回路40に電気的に接続されるコイル30Aからの接続線CW1、およびコイル30Cからの接続線CW2が、本発明の接続部の一例である。
【0023】
電気回路40が第2筐体3の内部に収容される。電気回路40は、整流回路41と蓄電回路42とを含む。整流回路41は、例えばブリッジダイオードにより形成される。蓄電回路42は、例えば、コンデンサにより形成される。電気回路40は、基板43上に形成される。基板43は、第2筐体3の内部に固定される。
【0024】
図5は、電気回路40の回路図である。図5において、電気回路40に供給された電流は、整流回路41により全波整流される。整流回路41により全波整流された電流により、電力が蓄電回路42に蓄電される。蓄電回路42は、接続線CW3を介してプラス電極7と電気的に接続される。蓄電回路42は、接続線CW4を介してマイナス電極8と電気的に接続される。また、電気回路40は変圧回路を含まない。ここで記載する変圧回路は、乾電池の種類に応じて規格化された電圧に到達させるために、蓄電回路42の電圧を昇圧する昇圧回路である。
【0025】
蓄電回路42は、少なくとも3Vまで蓄電可能である。すなわち、振動発電機1に備えられる蓄電回路42は、市販されている単3乾電池2本分の電圧を蓄電可能である。
【0026】
図6は、振動発電機1が、外部装置の電池ボックスBoに取り付けられた状態を示す斜視図である。以下の記載では、外部装置の一例としてリモートコントローラRCを挙げる。図7は、振動発電機1が、リモートコントローラRCの電池ボックスBoに取り付けられた状態における電気的接続関係を示す結線図である。リモートコントローラRCは、外部負荷Rxと、外部回路50、51、52とを備える。外部負荷Rxは、リモートコントローラRCが所定の動作を行うときに電力が消費される負荷である。外部回路50は、外部負荷Rxとプラス電極7とを電気的に接続する。外部回路51は、外部負荷Rxと負極端子6とを電気的に接続する。外部回路52は、正極端子5とマイナス電極8とを電気的に接続する。振動発電機1が電池ボックスBoに取り付けられたリモートコントローラRCをユーザーが振ると、永久磁石ユニット20がボビンケース10の内部で移動する。これにより、コイル30A、30B、30Cを横切る磁束密度が変化し、コイル30A、30B、30Cに起電圧が発生する。この起電圧により、誘導電流が、整流回路41に供給され、電力が蓄電回路42に蓄電される。蓄電された電力により、電流が、蓄電回路42、接続線CW3、プラス電極7、外部回路50、外部負荷Rx、外部回路51、負極端子6、第1筐体2、正極端子5、外部回路52、マイナス電極8、接続線CW4、蓄電回路42の順に供給される。すなわち蓄電回路42に蓄電された電力は外部負荷Rxで消費され、リモートコントローラRCの所定の動作が可能となる。
【0027】
コイル30A、30B、30Cを構成する導線の線径について説明する。以降の記載では、コイル30A、30B、30Cを構成する導線の線径をコイル線径Cdと記載する。但し、コイル線径Cdは、導線のみの線径であり、前述の絶縁性材料からなる材料により被覆する被膜部分の厚さを含まない。すなはち、コイル線径Cdは絶縁皮膜を含まない導体部分の外径を意味する。コイル線径Cdが異なれば、振動発電機1から出力される電圧が異なる。具体的には、コイル30A、30B、30Cに発生する起電圧Vは、時間の経過により磁束が変化する量であるdφ/dtを用いて、数式(1)により表される。
【数1】

【0028】
この数式(1)によれば、導線の巻数Nが多ければ、起電圧Vが大きくなる。しかし、コイル30A、30B、30Cが巻回されるボビンケース10が、単3乾電池形状の第1筐体2の内部に配置される状態において、導線の断面積Sを小さくすれば、導線が一定の巻回領域Z1に巻回されても、巻数Nを増やすことができる。しかし、導線の断面積Sを小さくすれば、導線の長さLと電気抵抗率ρとにより表される数式(2)に示されるように、コイル30A、30B、30Cにおける電気抵抗Rが大きくなる。
【数2】

【0029】
これにより、電流Iと電気抵抗Rとにより表される数式(3)に示すように、コイル30A、30B、30Cでの消費電力Pが大きくなる。
【数3】

従って、導線の断面積Sを小さくすると、コイル30A、30B、30Cでの消費電力Pが大きくなってしまい、蓄電回路42に効率よく蓄電できなくなる。
【0030】
以下に、コイル線径Cdを変えたときの発電量と蓄電量とについて説明する。図8、および図10は、コイル線径Cdを変えたときの、蓄電回路42の蓄電電圧Vconを測定したデータを示す説明図である。この蓄電回路42の蓄電電圧Vconの測定では、プラス電極7への接続線CW3とマイナス電極8への接続線CW4とをオシロスコープに接続し、振動発電機1の出力電圧を測定した。
【0031】
図9、および図11は、コイル線径Cdを変えたときのコイルユニット30の両端に発生する電圧Vを測定したデータを示す説明図である。このコイルユニット30の両端に発生する電圧Vの測定では、コイルユニット30の両端からの接続線CW1、および接続線CW2をオシロスコープに接続した。この電圧の平均二乗偏差Vrmsとコイルユニット30の両端の間の電気抵抗Rとから、コイルユニット30の両端における発電量Pcoilが求められる。
【0032】
図8、および図9に示した実験結果は、振動発電機1を周波数4Hz、および振幅50mmで振動させた条件での結果である。図10、および図11に示した実験結果は、振動発電機1を周波数5Hz、および振幅50mmで振動させた条件での結果である。周波数は、振動発電機1が振動させられているときの振動の周波数である。図8、および図10では、振動発電機1を振動させた時間(秒)を横軸に示し、蓄電回路42の蓄電電圧Vcon(ボルト)を縦軸に示した。図8〜図11に示す実験において、導線の線径Cdは、「0.07mm」、「0.08mm」、「0.10mm」、「0.12mm」、「0.14mm」、および「0.16mm」である。
【0033】
図8、および図10に示すように、コイル線径Cdが異なると、蓄電回路42における電圧Vconが、3Vになるまでの時間が異なる。図8に示す実験結果では、コイル線径Cdが0.12mmでは、約240秒で3Vが蓄電される。コイル線径Cdが0.10mm、0.08mm、0.14mmの順に3Vが蓄電されるまでに要する時間が長くなる。これに対し、コイル線径Cdが0.07mm、および0.16mmでは、300秒経過しても、3Vが蓄電されない。図10に示す実験結果では、コイル線径Cdが0.10mmおよび0.12mmでは、約140秒で3Vが蓄電される。コイル線径Cdが0.14mm、0.08mmの順に3Vが蓄電されるまでに要する時間が長くなる。これに対し、コイル線径Cdが0.07mm、および0.16mmでは、200秒経過しても、3Vが蓄電されない。図8、および図10に示す実験結果から、コイル線径Cdが0.08mm〜0.14mmである場合は、蓄電回路42の蓄電電圧Vconが3Vに達するので、振動発電機1は、おおよそ300秒の間振動すると、3V出力可能である。これに対し、コイル線径Cdが0.07mm、および0.16mmである場合、振動発電機1の振動を長い時間行わないと、蓄電回路42の蓄電電圧Vconが3Vに達しない。もしくは、振動を長い時間継続しても、蓄電回路42の蓄電電圧Vconが3Vに達しない。
【0034】
図12は、図8および図10に示した実験結果において、振動発電機1を振動させてから200秒後の蓄電回路42の蓄電電圧Vconを、コイル線径Cdごとに示すグラフである。図12は、コイル線径Cd(mm)を横軸に示し、蓄電回路42の蓄電電圧Vcon(ボルト)を縦軸に示す。
【0035】
図9、および図11に示すように、コイル線径Cdが異なると、コイルユニット30の両端における発電量Pcoilが異なる。4Hzで振動発電機1を振動させた場合、コイル線径Cdが、0.12mm、0.14mm、0.16mm、0.10mm、0.08mm、0.07mmの順に発電量Pcoilが小さくなる。5Hzで振動発電機1を振動させた場合、コイル線径Cdが、0.16mm、0.12mm、0.14mm、0.10mm、0.08mm、0.07mmの順に発電量Pcoilが小さくなる。この結果から、コイルユニット30の両端における発電量Pcoilを増加させようとすると、コイル線径Cdは、0.12mm〜0.16mmの範囲から設定されるのがよいように思われる。しかし、図12に示すように、200秒後の蓄電回路42の蓄電電圧Vconについては、コイル線径Cdが0.08mm〜0.14mmの範囲にあるものがよい。この範囲の中でも、コイル線径Cdが0.10mm〜0.12mmの範囲にあるものは、コイル線径Cdが0.10mm〜0.12mmの範囲外にあるものよりも短い時間で蓄電回路42の蓄電電圧Vconが3Vに達するので、コイル線径Cdは、0.10mm〜0.12mmの範囲から設定されるのがよい。蓄電回路42に蓄電された電力が、プラス電極7、およびマイナス電極8から供給されることを目的として使用される振動発電機に関しては、コイルユニット30の両端における発電量Pcoilが高い値を示すよりも、蓄電回路42の蓄電電圧がより早く3Vに蓄電されたほうがよい。この理由により、コイル線径Cdは、0.08mm〜0.14mmの範囲から選定されるのがよい。コイル線径Cdが異なるだけで、蓄電回路42の蓄電電圧が3Vに達するまでの時間が短くなった理由として、コイルユニット30において発電された電力からコイルユニット30において消費される消費電力が差し引かれた電力が大きくなったことが一例として考えられる。具体的には、コイル線径Cdが0.08mm〜0.14mmの範囲にある振動発電機は、コイル線径Cdが0.08mm〜0.14mmの範囲外にある振動発電機よりも、コイルユニット30において発電された電力からコイルユニット30において消費される消費電力が差し引かれた電力が大きくなったといえる。
【0036】
図8〜図11に示す実験結果では、図3で示す永久磁石20の外径MdはΦ8.0mmである。永久磁石20A、20B、20Cの体積を大きくしたほうが、コイル30A、30B、30Cを横切る磁束密度が大きくなるので、単3電池形状の第1筐体2の内部に配置可能な限り、永久磁石20A、20B、20Cの外径Mdは大きくしたほうが良い。しかし、第1筐体2の外部に永久磁石20A、20B、20Cの磁束が漏れないように、コイル30A、30B、30Cを横切る磁束密度を増大させるために、第1筐体2は磁性材料から形成される。第1筐体2が磁性材料から形成され、第1筐体2と永久磁石20A、20B、20Cとの位置が近接しすぎると、永久磁石20A、20B、20Cは磁性材料から形成される第1筐体2との間で引力の作用を受ける。これにより、永久磁石20の往復移動が阻害され、発電量Pcoilが減少する。図13は、第1筐体2が磁性材料からなる振動発電機1において、永久磁石20A、20B、20Cの外径Mdを変化させたとき、発電量Pcoilが変化する関係を示す。図13に示すように、永久磁石20A、20B、20Cの外径Mdが、Φ7.3mm〜Φ8.5mmの範囲にある場合に比べ、Φ9.0mmになると発電量Pcoilが急激に減少する。この実験結果に従って、磁性材料からなる第1筐体2との間の磁気的な引力により、永久磁石ユニット20の往復移動が阻害されない永久磁石20A、20B、20Cの外径Mdは、Φ7.3mm〜Φ8.5mmの範囲から定められる。図13に示す実験結果では、永久磁石20A、20B、20Cの外径Mdは、Φ7.3mm〜Φ8.5mmの範囲から定められた。しかし、磁性材料からなる第1筐体2との間の磁気的な引力は、永久磁石20A、20B、20Cとシールドとの距離の二乗に反比例するので、永久磁石20A、20B、20Cの外径をΦ7.3mm未満に設定しても、磁気的な引力により、永久磁石ユニット20の往復移動が阻害されない。また、この実験結果において、発電量Pcoilが一番高い値を示したΦ8.0mmを図8〜図11に示す実験結果を得た際の実験条件として設定した。
【0037】
図8〜図11に示した実験結果は、周波数(Hz)がそれぞれ4Hz、または5Hzである場合の結果である。振動発電機1はリモートコントローラRCなどの外部装置に取り付けられ、ユーザーによって、振動させられて、発電する。図14は振動発電機1が電池ボックスBoに固定されたリモートコントローラRCをユーザーが振っている時間において、どの値の周波数が振動発電機1の振動において多く含まれているかを統計解析したデータを示す説明図である。このデータは、ユーザーがリモートコントローラRCを振ったときのデータである。図14では、周波数を横軸に示し、統計値を任意量(arbitary unit)として縦軸に示す。図14に示すように、振動発電機1が電池ボックスに固定されたリモートコントローラRCがおおよそ5Hzの周波数で振られている。この実験結果に従って、図10、および図11に示す実験結果を得た際の実験条件に5Hzを設定した。また、蓄電回路42の蓄電電圧がより早く3Vに達するコイル線径Cdが周波数によって、変わらないか否かを確認するために、図8、および図9に示す実験結果を得た際の実験条件に4Hzを設定した。なお、振動発電機1を振動させる周波数を高くすると、単位時間における永久磁石ユニット20の位置の変化量が増えるので、発電量が大きくなる。すなわち、図12に示すように、周波数が変化しても、蓄電回路42の蓄電電圧がより早く3Vに達成するコイル線径Cdは変わらない。
【0038】
図8〜図11に示した実験結果を得たときの条件として、振幅Yshが50mmである。図15は振動発電機1が電池ボックスに固定されたリモートコントローラRCをユーザーが振ったとき、振動発電機1の振幅Yshの平均値が時間経過に伴って変化する関係を示す。図15は、振動時間(秒)を横軸に示し、振幅Ysh(mm)を縦軸に示す。図15に示すように、ユーザーが、振幅Yshが50mmの領域で、振動発電機1が電池ボックスに固定されたリモートコントローラRCを振っている。この実験結果に従って、振幅50mmを、図8〜図11に示す実験結果を得た際の実験条件に設定した。
【0039】
図8、および図10に示すように、4Hzで行った実験と5Hzで行った実験とも、一定の振動時間において、蓄電回路42の蓄電電圧が高い値を示すコイル線径Cdは、0.08mm〜0.14mmの範囲にある。特に、コイル線径Cdが0.10mm〜0.12mmの範囲にあれば、より高い電圧を示す。この実験結果より、3Hz〜10Hzの範囲においては、0.08mm〜0.14mmの範囲にコイル線径Cdを選べば、短い時間で、3Vを蓄電回路42に蓄電することができる。特に、0.10mm〜0.12mmの範囲にコイル線径Cdを選べば、より短い時間で、3Vを蓄電することができる。
【0040】
[変形例1]
本実施形態において、1本の導線からなる接続線CW1、および接続線CW2は、ケーブル4の内部に挿通されたが、これに限られない。接続端子がケーブル4の先端に設けられ、第1筐体2または第2筐体3の内部に配置される接続線と電気的に接続する接続口が設けられる構成であってもよい。この構成においては、接続端子が接続口に接続されることにより、コイルユニット30を構成する導線と電気回路40とが電気的に接続される。
【0041】
[変形例2]
本実施形態において、第1筐体2が磁性材料から形成されることにより、シールドが形成されたが、これに限られない。磁性材料からなる円筒が、第1筐体2とボビンケース10との間に配置されてもよい。この場合、磁性材料から形成される円筒が、本発明のシールドの一例である。磁性材料からなる円筒が、第1筐体2とボビンケース10との間に配置された場合、第1筐体2は磁性材料から形成される必要はなく、非磁性材料から形成されてもよい。また、正極端子5と負極端子6とは、磁性材料、かつ導電性材料から形成される円筒により電気的に接続されてもよいし、導電性材料から形成される第1筐体2により電気的に接続されてもよい。この他にも、正極端子5と負極端子6とは、電気的に接続する金属線などの導電性部材により電気的に接続されてもよい。
【0042】
[変形例3]
本実施形態において、巻回領域Z1は、つば11a、11bにより分割領域Z1a、Z1b、Z1cに分割されたが、これに限られない。凸部が巻回領域Z1に設けられる構成であってもよい。巻回領域Z1は、長手方向D1において間隔をおいて設けられた凸部により分割領域に分割される。この構成の場合、分割領域のそれぞれに巻回される導線の巻回方向は、凸部の両側の領域において、逆方向になる。また、ボビンケース10の外周方向において、任意の複数個数の凸部が設けられてもよい。すなわち、巻回領域Z1は、所定の領域を有する分割領域に分割するつば、または凸部などの分割部により分割されればよい。更に、各コイルが重層の巻回状態で所定の形状に予め形成されている場合には、分割部が設けられなくてもよい。
【0043】
[変形例4]
本実施形態において、永久磁石ユニット20は、3つの永久磁石20A、20B、20Cを備えたが、これに限られず、2つ、4つ、5つと複数の永久磁石を備えてもよい。
【0044】
[変形例5]
本実施形態において、3つの永久磁石20A、20B、20Cは締結部材21により同極が対向されて締結されたが、これに限られない。複数の永久磁石が接着剤などの固定手段により、同極が対向されて固定されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 振動発電機
2 第1筐体
3 第2筐体
4 ケーブル
5 正極端子
6 負極端子
7 プラス電極
8 マイナス電極
9a、9b 孔
10 ボビンケース
11a、11b つば
12a、12b 溝
20 永久磁石ユニット
20A、20B、20C 永久磁石
21 締結部材
30 コイルユニット
30A、30B、30C コイル
40 電気回路
41 整流回路
42 蓄電回路
D1 長手方向
Z1 巻回領域
Z1a、Z1b、Z1c 分割領域
RC リモートコントローラ
Bo 電池ボックス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のボビンケースと、このボビンケースの巻回領域に巻回されるコイルと、前記ボビンケースの内部に配置される複数の永久磁石と、を収容する単3乾電池形状の第1筐体と、
前記複数の永久磁石が、前記コイルの内部を往復移動することにより発生する交流電流を直流電流に整流する整流回路と、整流回路により整流された直流電流から電圧3Vを蓄電可能な蓄電回路と、を含む電気回路を収容する単3乾電池形状の第2筐体と、
前記コイルの両端と前記電気回路とを電気的に接続する接続部と、
を備え、
前記複数の永久磁石は、隣接する永久磁石と互いに同極が対向して固定され、
前記電気回路は、電圧を昇圧するための変圧回路を含まず、
前記ボビンケースの長手方向に延びる前記巻回領域は、複数の分割領域に分割され、
前記コイルを構成する導線は、前記複数の分割領域に、隣接する分割領域と互いに巻回方向を逆にして巻回され、この導線の線径が0.08mm〜0.14mmの範囲にあること
を特徴とする振動発電機。
【請求項2】
前記コイルを構成する導線の線径は、0.10mm〜0.12mmの範囲にあること
を特徴とする請求項1に記載の振動発電機。
【請求項3】
前記ボビンケースの外側に磁性材料からなるシールドが配置され、
前記各永久磁石の外径は、8.5mm以下であること
を特徴とする請求項1または2に記載の振動発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−182919(P2012−182919A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44616(P2011−44616)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【出願人】(000107804)スミダコーポレーション株式会社 (285)