説明

振動発電機

【課題】振動体の機械的強度を低下させることなく、高い発電効率を実現する振動発電機を提供する。
【解決手段】振動発電機100は、振動体10と、その周囲に配置されたコイル40と、を備え、振動体10をコイル40に対して相対移動させることで起電力を得る。振動体10は、同極の磁極面(N極、S極)どうしを互いに対向させた状態で並べて配置された複数の磁石20(20a〜20d)と、これらの磁石20を並び方向の両側より支持する端部支持部12、13と、磁極面どうしの反発力を超える応力で圧縮された状態で端部支持部12と磁石20とに挟持されて、この反発力に抗して磁石20を隙間なく連設させる緩衝材16と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石を含む振動体をコイルに対して相対移動させることで起電力を得る振動発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の維持改善や非常時の電源確保などの目的から、使い捨ての乾電池を補完または代替する簡易な発電機の実現が要望されている。このうち、永久磁石をコイルの内側で往復振動させて誘導電流を発生させる方式の振動発電機が提案されている。この種の技術に関し、特許文献1には、二つの磁石の磁極面を同極どうしで対向させて離間配置した振動体をコイルに対して往復振動させる振動発電機が開示されている。二つの磁石は、細い磁気ロッドによって相互に連結されている。
【0003】
また、特許文献2には、互いに同寸法の複数の磁石を、同極の磁極面が対向するように隙間なく配置してナットとボルトにより固定した振動体、およびこれを用いた振動発電機が開示されている。この振動発電機によれば、磁石どうしが隙間なく配置されていることで、磁極面が当接する位置において、磁極面の法線に対して直交する方向(以下、軸直交方向という場合がある)に急峻な磁場勾配が励起されて高い誘導起電力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−521785号公報
【特許文献2】特開2009−213194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の振動発電機は、細い磁気ロッドで磁石どうしを連結させているため、往復振動の両端で振動体に衝撃力が作用すると磁気ロッドと磁石との連結部分等が容易に破損するという問題がある。また、特許文献2の振動発電機に関しては、ボルトの締め付け力が過大であると磁石が圧潰する虞がある一方で、締め付け力が不十分であると磁石どうしの間に隙間(ガタ)が生じるため、振動体の振動時に磁石どうしまたは磁石とボルト(もしくはナット)とが衝突して磁石が破損する虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、機械的強度が高く耐久性に優れる振動発電機を提供することを目的とする。本発明の他の目的は以下の実施形態より明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明の振動発電機は、同極の磁極面どうしを互いに対向させた状態で並べて配置された複数の磁石と、前記複数の磁石を並び方向の両側より支持する端部支持部と、前記磁極面どうしの反発力を超える応力で圧縮された状態で前記端部支持部と前記磁石とに挟持されて、前記反発力に抗して前記複数の磁石を隙間なく連設させる緩衝材と、を含む振動体と、前記振動体の周囲に配置されたコイルと、を備え、前記振動体を前記コイルに対して相対移動させることで起電力を得るものである。
【0008】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度が高く耐久性に優れる振動発電機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の振動発電機を振動軸に沿って切った縦断面図である。
【図2】振動体を振動軸に沿って切った縦断面図である。
【図3】磁石が形成する磁束を示す模式図である。
【図4】図4(a)は、2個の磁石のN極どうしが所定の間隔で離間して配置された状態を示す模式図および軸直交方向の磁束密度を示すグラフである。図4(b)は、2個の磁石の間隔を同図(a)よりも狭めた状態を示す模式図および軸直交方向の磁束密度を示すグラフである。
【図5】磁石どうしに作用する反発力を示す模式図である。
【図6】第一磁石および第二磁石が芯部に対して偏心して装着された状態を示す縦断面図である。
【図7】図7(a)は、変形例にかかる振動体を振動軸に沿って切った縦断面図である。図7(b)は、かかる振動体を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
図1は本発明の実施形態にかかる振動発電機100を振動軸に沿って切った縦断面図である。振動軸の方向は、同図の左右方向である。また、図2は振動体10を振動軸に沿って切った縦断面図である。
【0013】
はじめに、本実施形態の振動発電機100の概要について説明する。
振動発電機100は、複数の磁石20(20a〜20d)、端部支持部12、13および緩衝材16を含む振動体10と、この振動体10の周囲に配置されたコイル40と、を備え、振動体10をコイル40に対して相対移動させることで起電力を得るための装置である。
磁石20は、同極の磁極面(N極、S極)どうしを互いに対向させた状態で並べて配置されている。端部支持部12、13は、これらの複数の磁石20を並び方向の両側より支持する。緩衝材16は、磁極面どうしの反発力を超える応力で圧縮された状態で端部支持部12、13の少なくとも一方(本実施形態では端部支持部12)と磁石20とに挟持されて、この反発力に抗して複数の磁石20を隙間なく連設させる。
【0014】
次に、本実施形態の振動発電機100について詳細に説明する。
磁石20は、1個または2個以上(本実施形態では2個)の第一磁石20a、20bと、これらの第一磁石20a、20bよりも磁力が弱く振動体10の端部側に配置された第二磁石20c、20dと、を少なくとも含む。第二磁石は振動体10の両端にそれぞれ配置されていてもよく、または一端にのみ配置されていてもよい。すなわち、振動体10は2個の第二磁石を備えてもよく、1個のみの第二磁石を備えてもよい。本実施形態では、振動体10の両端にそれぞれ1個、合計2個の第二磁石20c、20dが配置されている態様を例示する。
そして、本実施形態の振動体10において、端部支持部12、13はこれら複数の磁石20の両側を内向きに押圧して磁極面どうしの反発力に抗してこれらの磁石20を隙間なく連設させる。かかる押圧力により、緩衝材16は圧縮された状態で端部支持部12と磁石20(具体的には第二磁石20c)との間に挟まれている。
【0015】
図1に示すように、中空のパイプ30の内部には、パイプ30の軸心に沿って往復揺動(振動)する振動体10が収容されている。パイプ30の周囲にはコイル40が巻回されている。パイプ30は樹脂などの絶縁性で非磁性の材料からなる。パイプ30の両端には、コイル40の弛み止めのための大径の鍔部31がそれぞれ設けられている。また、パイプ30の軸方向の中間部(本実施形態では2箇所)には、隣接するコイル40どうしを隔てる仕切板35が径方向に突出して形成されている。パイプ30、鍔部31および仕切板35は、複数の部材を互いに組み合わせて構成してもよく、または同一材料により一体成形してもよい。
【0016】
コイル40はソレノイドコイルである。本実施形態の振動発電機100は、複数のコイル40が直列接続されている。隣り合うコイル40どうしは逆極性であり巻線方向が互いに逆である。隣接するコイル40の終端どうしの軸方向距離にあたるコイルピッチLcは、第一磁石20a、20b(図2を参照)の軸方向長さとほぼ同等である。パイプ30の両端の鍔部31には絡げ端子32がそれぞれ形成されており、コイル40のワイヤの巻端42が個別に絡げられている。巻端42が絡げられた絡げ端子32は樹脂製の端子カバー33に包埋されて巻端42の断線が防止されている。端子カバー33は、絡げ端子32の端子長と略同等の厚みを有するリング形状をなしている。
【0017】
パイプ30は、円筒状の筐体60に収容されている。筐体60は、たとえば単三型などの規格化された乾電池と同径および同長さである。筐体60の両端には金属製の端子50、52が配置されている。端子50はマイナス極にあたり、平坦な円盤状である。端子52はプラス極にあたり、乾電池と同様に突起部が形成された円盤状をなしている。端子50、52のいずれか一方または両方は、筐体60と絶縁されている。筐体60が金属などの導電性材料からなる場合、図1に示すように端子50、52と筐体60との間に樹脂シート46などの絶縁性スペーサを介挿して、端子50、52と筐体60とを絶縁するとよい。なお、筐体60が絶縁性材料からなる場合には、かかる樹脂シート46は不要である。
【0018】
一対の絡げ端子32は、それぞれ導電スペーサ44を介して端子50、52に個別に接続されている。導電スペーサ44はリング形状をなしており、その中空部には衝撃吸収用の端部材34が配置されている。端部材34は、振動体10の振動軸の両端に配置されている。また、本実施形態に代えて、一対の絡げ端子32は、導電スペーサ44を介して端子50、52に接続せず、筐体60と絶縁された状態で、2線のワイヤにそれぞれ接続され、筐体60の外部に取り出されるように形成されてもよい。
【0019】
振動体10の磁石20の外径はパイプ30の内径よりも僅かに小さい。ユーザは振動発電機100の筐体60を把持して、これを軸方向に揺動させる。これにより、振動体10はパイプ30および端子カバー33の中空の軸心の内部で振動する。コイル40が巻回されたパイプ30の内部で振動体10を振動させることで、コイル40には誘導起電力が生じ、端子50、52の間には電位差が生じる。したがって、端子50、52に接続されたコンデンサなどの外部回路(図示せず)に電流を取りだすことができる。
【0020】
本実施形態の振動発電機100は乾電池の形状および寸法を有しており、乾電池に代替して使用することができる。特に、リモコンなど間欠的に使用される電子機器に好適に用いられる。使用時間よりも待機時間の方が長い電子機器の場合、待機電力による乾電池の消耗の無駄が顕著であるところ、本実施形態の振動発電機100のように使用時にユーザが振動させて発電する方式とすることで、待機電力の無駄を省くことができる。
【0021】
リング形状の端子カバー33の内径は、パイプ30の内径と同径であるか、またはパイプ30の内径よりも大径であることが好ましい。筐体60の中央から端部側に進行する振動体10における先端側に位置する第二磁石20cまたは20dが、端子カバー33と衝突することを避けるためである。本実施形態の場合、図1に示すように、端子カバー33の内径はパイプ30の内径よりも大きく、鍔部31と端子カバー33との間には段差36が存在している。
【0022】
図2を用いて本実施形態の振動体10をより詳細に説明する。
振動体10は複数個の磁石を備えている。本実施形態の振動体10は、2個の第一磁石および2個の第二磁石の合計4個の磁石を備えている。ただし、磁石の個数はこれに限定されない。第一磁石20a、20bおよび第二磁石20c、20dは、ともに永久磁石である。磁力の強さからネオジム磁石が好適に用いられる。
【0023】
第一磁石20a、20bは振動体10の中間部に配置され、一対の第二磁石20c、20dが振動体10の両端にそれぞれ配置されている。第二磁石20c、20dは第一磁石20a、20bよりも肉厚が小さい。第一磁石20aのN極の磁極面21Nは、隣接する第一磁石20bのN極の磁極面22Nと接している。第一磁石20aのS極の磁極面21Sは、第一磁石20bと反対側に隣接する第二磁石20cのS極の磁極面23Sと接している。そして、第一磁石20bのS極の磁極面22Sは、第一磁石20aと反対側に隣接する第二磁石20dのS極の磁極面24Sと接している。
【0024】
磁石20(20a〜20d)および緩衝材16には貫通孔26(26a〜26e)がそれぞれ形成されている。振動体10は、貫通孔26に挿通されて端部支持部12が両端に形成された芯部18をさらに含んでいる。
【0025】
芯部18は円筒状の非磁性の金属材料からなる。具体的にはアルミニウム、銅、真鍮などが好適に用いられる。本実施形態の芯部18の両端部には、かしめ加工により貫通孔26よりも大径に形成された端部支持部12、13がそれぞれ設けられている。端部支持部12、13は、芯部18の両端部を90度折り曲げてフランジ状に潰し、そのフランジ面が磁石20の端面を抑えるように形成されている。
【0026】
緩衝材16は、ゴムなどの粘弾性樹脂材料やバネなどの弾性素子からなる。緩衝材16の形状は特に限定されないが、リング状または円盤(ディスク)状などとすることができる。本実施形態では貫通孔26eが中心に穿設されたリング状の緩衝材16(Oリング部材)を例示する。このようなOリング部材については、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、ブチルゴム(IIR)、ウレタンゴム(U)などの材質が用いられる。特に、高い耐磨耗性と力学強度をもつニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)またはウレタンゴム(U)が望ましい。
【0027】
振動体10においては、第一磁石20a、20bの両側に、これらの第一磁石よりも磁力が弱い第二磁石20c、20dが配置されている。これにより、端部支持部12、13のフランジ面から軸方向の外側へ放射される磁束が低減される。このため、往復揺動する振動体10が筐体60の両端に近接したときにも、第二磁石20c、20dが端子50、52に吸着してしまうことがない。かかる原理を、図3を用いて説明する。図3は磁石20が形成する磁束を示す模式図である。図3では、説明のため、磁石20どうしを離間させて図示している。
【0028】
第一磁石20a、20bのN極の磁極面21N、22Nからそれぞれ放射された磁束により、軸直交方向の磁束が励起される。同様に、第一磁石20aのN極の磁極面21NからS極の磁極面21Sに向かう磁束と、第二磁石20cのN極の磁極面23NからS極の磁極面23Sに向かう磁束により軸直交方向の磁束が励起される。一方、第一磁石20aよりも磁力が弱い第二磁石20cのN極の磁極面23Nから面直方向に放射された磁束φ1の軸方向への広がりは、磁力が強い第一磁石20aのS極の磁極面21Sに面直に入射する磁束φ2と互いに反発しあうことにより抑制される。第二磁石20dと第一磁石20bとの関係も同様である。
【0029】
このため、振動体10の両端に配置された第二磁石20c、20dから振動軸方向の外側に向かう磁束の大きさは大幅に低下する。よって、金属製の端子50、52に対して第二磁石20c、20dが吸着することがなく、振動体10の振動が阻害されることがない。
【0030】
第二磁石20c、20dは第一磁石20a、20bよりも磁力が弱い。本実施形態の第二磁石20c、20dは、第一磁石20a、20bと同種のネオジム磁石からなり、第一磁石20a、20bよりも厚みが小さい。このほか、第一磁石20a、20bを磁力の強いネオジム磁石とし、第二磁石20c、20dを磁力の弱いフェライト磁石としてもよい。ネオジム磁石、フェライト磁石とも脆性を有し、耐衝撃性が低い。このため、振動体10が振動して筐体60の端部に衝突すると、特に本実施形態のように薄い第二磁石20c、20dの場合には破損するおそれがある。そこで本実施形態の振動発電機100においては、筐体60の端部に柔軟な端部材34を配置して振動体10の衝突衝撃を吸収している。また、振動体10の内部においては、磁石20どうしを隙間なく配置して磁石間の衝撃を防止し、さらに端部支持部12と磁石20(第二磁石20c)との間に緩衝材16を挟み込んで磁石20に負荷される衝撃を吸収している。
【0031】
ここで、隣接する磁石20の磁極面どうしを密着させることで軸直交方向の磁場勾配が励起されて高い誘導起電力が得られることについて説明する。
図4(a)、(b)は、同極の磁極面どうしを対向させた磁石における磁力線を示す模式図と、軸直交方向の磁束密度Bを示すグラフである。磁束密度Bの空間分布は磁場勾配の大きさに相当する。図4(a)は2個の磁石20aと20bのN極どうしが所定の間隔で離間して配置された状態を示しており、図4(b)は磁石20aと20bの間隔を同図(a)よりも狭めた状態を示している。これらの図において、磁石20aと20bの磁極面(N極)から垂直内向きに放射された磁束は、軸直交方向に曲げられる。このため、単体の磁石を用いる場合に比べて、同極の磁極面どうしを内向きに対向させることで軸直交方向の磁場勾配が励起される。このため、コイルの内側でかかる磁石を振動させた場合には、励起された磁場勾配によって高い誘導起電力が得られる。そして図4(b)に示すように、磁石20aと20bの磁極面の距離を近づけることで磁場勾配の励起が顕著となる。
【0032】
逆にいうと、磁石20a、20bの間に微細の隙間ができると、軸直交方向の磁束密度の空間分布がブロードになって誘導起電力が低下するという問題が生じる。このため、図2に示す本実施形態の振動体10においては、磁石20の磁極面どうしを直接に当接させて、軸直交方向の磁場勾配を励起させている。なお、ここでいう磁石20の磁極面とは磁石の素地面またはコーティング面を意味している。コーティングの例としては、磁石20の防錆のためのメッキ処理が挙げられる。そして、磁石20の磁極面どうしが直接に当接しているとは、スペーサなど磁石以外の部材を介挿することなく磁極面(コーティング面)どうしが接触している状態をいう。
【0033】
隣接する磁石20は、同極の磁極面どうしを互いに対向させて連設されている。したがって、磁石20どうしには反発力が作用する。図5は、磁石20どうしに作用する反発力を示す模式図である。説明のため、端部支持部12、13、緩衝材16および磁石20は互いに離間させて図示してあるが、本実施形態の振動体10において、磁極面どうしは直接に接している。緩衝材16は、隣接する磁極面どうしの最大反発力よりも高い応力で圧縮されている。
【0034】
図5に示されるように、第一磁石20a、20bにおいては、それぞれの左右から受ける力F12およびF43の大きさが同じで、方向が正反対であるので、第一磁石20a、20bは相対的に静止状態になる。同じように、第二磁石20cにおいても、第一磁石20aから受ける力F21(第一磁石20aから受ける磁気反発力と、圧接力に対する反力との和)が、緩衝材16の復位力Frと釣り合っている。したがって、圧縮された緩衝材16の復位力が磁石20間の最大反発力より大きければ、同極対向する複数の磁石20は隙間なく緊密的に接触して所定の圧接力で互いに圧接される。本実施形態では第一磁石20a、20bの磁力が第二磁石20c、20dの磁力よりも強いことから、最大反発力は第一磁石20a、20bどうしの間、すなわち磁極面21N、22Nの間で生じる。そして、緩衝材16の復位力はこの最大反発力よりも大きく、磁石20(第一磁石20a、20bおよび第二磁石20c、20d)を隙間なく緊密的に接触させる。ここで、磁極面どうしの最大反発力を超える応力で緩衝材16が圧縮されているとは、緩衝材16が端部支持部12から受ける圧縮応力が、磁石20の最大反発力を磁石20と緩衝材16との接触面積で除した値よりも大きいことをいう。
【0035】
緩衝材16の復位力Frは、磁石20どうしの最大反発力の1.1倍以上、かつ、この最大反発力の2倍以下が好ましい。これにより、隣接する磁石20どうしは最大反発力の0.1倍から1倍の圧接力で互いに密着しているため、振動体10がコイル40を通過する際に磁石20どうしが離間することがない。また、上記範囲とすることで、磁石20に負荷される圧接力が過大にならず、磁石20の圧潰が抑えられる。具体的には、磁石20の最大反発力を2kgfとした場合、緩衝材16の復位力Frが3kgf程度となるように、芯部18のかしめ加工を行って端部支持部12、13を形成するとよい。
【0036】
図2に戻り、端部支持部12と磁石20とで圧縮された状態の緩衝材16の貫通孔26eの穴径は、端部支持部12の外径よりも小さい。このため、緩衝材16(Oリング)が端部支持部12から離脱することがない。
【0037】
端部支持部12と13のフランジ径の大小は任意であり、互いに同じフランジ径でもよい。本実施形態の場合、振動体10の両側に設けられた端部支持部12、13は、互いに外径が異なるフランジ状に形成されている。そして、フランジ径がより大径の端部支持部12と磁石20との間に緩衝材16が配置されている。これにより、緩衝材16を介して端部支持部12、13から磁石20に押圧力が良好に伝達される。
【0038】
振動体10を製造するための工程について簡単に説明する。まず、磁石20間の最大反発力にあたる、第一磁石20a、20bどうしの反発力を測定する。一般に、この反発力は磁石の体積に比例するので、磁石の径が一定の場合、長い磁石(第一磁石)ほど、互いの反発力が高くなる。次に、上記の芯部18の片側の端部を潰して端部支持部12を形成し、緩衝材16(Oリング)を芯部18に装着する。次に、第二磁石20c、第一磁石20a、20b、第二磁石20dの順に芯部18に装着したうえで、芯部18の他方側の端部をかしめ加工してフランジ状の端部支持部13を形成する。端部支持部13のかしめ長さ(フランジ径)を増すことで芯部18の軸長が短くなり、磁石20が圧接される。そして、緩衝材16(Oリング)を圧縮する圧力が、上記磁石間の最大反発力よりも大きくなるように設定された所定のフランジ径で端部支持部13を形成する。これにより、緩衝材16が圧縮された状態で磁石20どうしが緊密に密着する。なお、端部支持部13と第二磁石20dとの間にも第二の緩衝材を装着してもよい。
【0039】
本実施形態の第一磁石20a、20bおよび第二磁石20c、20dは円環状であり、第二磁石20c、20dの外径は、第一磁石20a、20bの外径よりも小さく形成されている。また、端部支持部12、13の外径は、第一磁石20a、20bの外径よりも小さく、さらに第二磁石20c、20dの外径よりも小さい。これにより、パイプ30の内部で振動体10が振動する際に、第二磁石20c、20dよりも肉厚で機械強度が高い第一磁石20a、20bがパイプ30の内周面に接することになる。このため、振動体10における脆弱部にあたる第二磁石20c、20dの損耗が抑制されて振動体10の耐久性が良好となる。
【0040】
さらに、磁石20の貫通孔26の内周面と芯部18の外周面との間に間隙(クリアランス)があることで、磁石20に芯部18を挿通する際に磁石20の損耗がなく良好である。この場合において、第二磁石20c、20dの軸心位置と第一磁石20a、20bの軸心位置とが互いにずれることが考えられる。
【0041】
図6は、第一磁石20a、20bおよび第二磁石20cが芯部18に対して偏心して装着された状態を示す縦断面図である。第二磁石20cは同図の下方に偏心し、第一磁石20a、20bは同図の上方に偏心して芯部18に装着されている。ただし、かかる状態においても、本実施形態の第二磁石20cの外周面25cは、第一磁石20a、20bの外周面25a、25bの外側に突出しない。これにより、磁石20がたとえ偏心して芯部18に装着されたとしても、パイプ30の内部で振動体10が振動する際に、第二磁石20cの外周面25cがパイプ30の内周面と接触することが防止される。すなわち、本実施形態の振動体10においては、円環状の第二磁石20cの環幅と、貫通孔26cと芯部18とのクリアランスと、の合計が、第一磁石20a、20bの環幅を超えないことが好ましい。第二磁石20dの外周面25dに関しても同様である。
【0042】
また、図1に示したように端子カバー33と鍔部31との間に段差36が存在する場合にも、本実施形態のように第二磁石20c、20dの外周面25c、25dが第一磁石20a、20bの外周面25a、25bから径方向の外側に突出しないことにより、第二磁石20c、20dが段差36に衝突することがない。これにより、第二磁石20c、20dの損耗が抑制されて振動体10の耐久性が良好となる。
【0043】
なお本実施形態については種々の変形を許容する。
上記実施形態では、複数の磁石に貫通孔をそれぞれ設けて芯部をこれらに挿通することで磁石どうしを連設した。かかる態様に代えて、金属パイプに磁石を内包する形式としてもよい。
【0044】
図7(a)は、本実施形態の変形例にかかる振動体10を振動軸に沿って切った縦断面図である。図7(b)は、かかる振動体10を模式的に示す斜視図である。
【0045】
本変形例の振動体10は、非磁性材料からなる金属パイプ27に磁石20が収容され、この金属パイプ27の両端に端部支持部12、13がそれぞれ形成されているとともに、緩衝材16が配置された側の端部支持部12には、緩衝材16の一部を露出させる開口窓29が形成されている。
【0046】
以下、より詳細に説明する。本変形例の振動体10は、非磁性金属材料からなる金属パイプ27の内部に、同極の磁極面どうしを互いに対向させて圧接した複数の磁石20(第一磁石20a、20bおよび第二磁石20c、20d)が内包されている。金属パイプ27は一端が開口した有底円筒状をなしている。底面は端部支持部13にあたる。開口端は、磁石20および緩衝材16を内包した状態で所定の押圧力で潰されて端部支持部12となっている。緩衝材16は、端部支持部12と磁石20(第二磁石20c)との間に介挿されてもよく、端部支持部13と磁石20(第二磁石20d)との間に介挿されてもよく、または両者に介挿されてもよい。緩衝材16は外部応力無負荷の自然状態に対して、所定の厚みに圧縮されて金属パイプ27に収容されている。
【0047】
本変形例の端部支持部12は複数個(本実施形態では4個)の折曲片28からなる。折曲片28は、金属パイプ27の周面に切れ込みを入れて、これを軸心に向かって折り曲げたものである。端部支持部12には、互いに突き合わされた折曲片28の隙間に開口窓29が形成されており、緩衝材16の一部が露出している。金属パイプ27の内部で圧縮されている緩衝材16は、折曲片28による押圧力が作用しない開口窓29の内側で膨出して、膨出部17が形成されている。かかる膨出部17の存在を、開口窓29を通じて目視確認することにより、磁石20どうしが所定の押圧力で隙間なく圧接されていることが確認される。このため、本変形例のように、緩衝材16が介挿されている側の端部支持部12、13に、緩衝材16の一部を露出させる開口窓29を形成することが好ましい。
【0048】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0049】
上記実施形態は以下の技術的思想を包含する。
(1)同極の磁極面どうしを互いに対向させた状態で並べて配置された複数の磁石と、
前記複数の磁石を並び方向の両側より支持する端部支持部と、
前記磁極面どうしの反発力を超える応力で圧縮された状態で前記端部支持部と前記磁石とに挟持されて、前記反発力に抗して前記複数の磁石を隙間なく連設させる緩衝材と、を含む振動体と、
前記振動体の周囲に配置されたコイルと、
を備え、前記振動体を前記コイルに対して相対移動させることで起電力を得る振動発電機;
(2)前記緩衝材が、隣接する前記磁極面どうしの最大反発力よりも高い応力で圧縮されており、前記磁極面どうしが直接に接している上記(1)項に記載の振動発電機;
(3)前記磁石および前記緩衝材に貫通孔がそれぞれ形成されており、前記振動体は、前記貫通孔に挿通されて前記端部支持部が両端に形成された芯部をさらに含むとともに、圧縮された状態の前記緩衝材の前記貫通孔の穴径が、前記端部支持部の外径よりも小さいことを特徴とする上記(2)項に記載の振動発電機;
(4)前記振動体の両側に設けられた前記端部支持部が、互いに外径が異なるフランジ状に形成されており、大径の前記端部支持部と前記磁石との間に前記緩衝材が配置されている上記(3)項に記載の振動発電機;
(5)非磁性材料からなる金属パイプに前記磁石が収容され、前記金属パイプの両端に前記端部支持部がそれぞれ形成されているとともに、前記緩衝材が配置された側の前記端部支持部には、前記緩衝材の一部を露出させる開口窓が形成されていることを特徴とする上記(1)項または(2)項に記載の振動発電機。
【符号の説明】
【0050】
10 振動体
12、13 端部支持部
16 緩衝材
17 膨出部
18 芯部
20 磁石
20a、20b 第一磁石
20c、20d 第二磁石
21N〜24N、21S〜24S 磁極面
25a〜25d 外周面
26 貫通孔
27 金属パイプ
28 折曲片
29 開口窓
30 パイプ
31 鍔部
32 絡げ端子
33 端子カバー
34 端部材
35 仕切板
36 段差
40 コイル
42 巻端
44 導電スペーサ
46 樹脂シート
50、52 端子
60 筐体
100 振動発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同極の磁極面どうしを互いに対向させた状態で並べて配置された複数の磁石と、
前記複数の磁石を並び方向の両側より支持する端部支持部と、
前記磁極面どうしの反発力を超える応力で圧縮された状態で前記端部支持部と前記磁石とに挟持されて、前記反発力に抗して前記複数の磁石を隙間なく連設させる緩衝材と、を含む振動体と、
前記振動体の周囲に配置されたコイルと、
を備え、前記振動体を前記コイルに対して相対移動させることで起電力を得る振動発電機。
【請求項2】
前記緩衝材が、隣接する前記磁極面どうしの最大反発力よりも高い応力で圧縮されており、前記磁極面どうしが直接に接している請求項1に記載の振動発電機。
【請求項3】
前記磁石および前記緩衝材に貫通孔がそれぞれ形成されており、
前記振動体は、前記貫通孔に挿通されて前記端部支持部が両端に形成された芯部をさらに含むとともに、
圧縮された状態の前記緩衝材の前記貫通孔の穴径が、前記端部支持部の外径よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の振動発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200093(P2012−200093A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63154(P2011−63154)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000107804)スミダコーポレーション株式会社 (285)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)