説明

振動発電機

【課題】振動周波数が低くても所望の発電性能を得られるような振動発電機を得ること。
【解決手段】振動発電機1は、同極が対向して配置される複数の磁石M1〜M12を含み、所定の共振周波数によって振動する振動子10と、重力方向に落下する振動子10を支持すると共に、所定の共振周波数によって振動子10を振動させるコイルバネ5と、振動子10及びコイルバネ5が内部で振動する筒状の巻線ボビン8と、巻線ボビン8の外周に巻かれ、2以上に分けられるグループ内に直列接続されるコイルC1〜C12と、コイルC1〜C12の出力電圧をグループ毎に整流する複数の整流回路を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複数個のソレノイドコイルで構成される発電コイルの中で、長さ方向に着磁された磁石が振動子として振動することにより発電を行う振動発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やゲーム機などの携帯電子機器の普及が進み、これらに内蔵されている2次電池の容量がますます多くなってきている。また、無線技術の発展にともない、微小電力で信号を送受するRFID(Radio Frequency IDentification)の応用が拡がっている。特に電源を有するアクティブRFIDは、数百メートル以上の通信も可能である。このため、牧場の牛や馬などの健康管理や、子供達の登下校時の安全管理等への応用に期待が高まっている。
【0003】
一方、地球環境の維持改善のため、できるだけ環境負荷の少ない電池や発電機の研究開発も活発に行われている。その中で、従来は無意識かつ無駄に消費されているエネルギーを電気エネルギーに変換して、2次電池に充電し、この電気エネルギーを電子機器等の電源として利用することが検討されてきた。このような発電機の一例として、外部から加わる振動のエネルギーを電気エネルギーに変換して、2次電池に充電する振動発電機の構成が工夫されるようになっている。
【0004】
特許文献1には、同極対向の磁石からなる振動子と、この振動子を収容するパイプと、このパイプの外周に巻かれたコイルとを備える振動発電機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−296144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来、GPS情報を利用して、自機の位置情報等を海上から発信する海洋ブイと呼ばれる観測装置があった。この観測装置は、海上に浮かべて使用するものであり、電池を備えることによって、観測装置の各種の部品を動作させている。しかし、この観測装置は一般に遠洋に浮かべられるため、メンテナンスが容易でない。そこで観測装置に大容量の電池を積み込むことによって、できるだけメンテナンスフリーとすることが望まれていた。
【0007】
また、海の波を利用して発電できるように、特許文献1に開示されている振動発電機を海洋ブイに入れておくことが検討された。しかし、観測装置に従来の振動発電機を入れると、下記の(1)、(2)に示す場合に発電効率が下がることが判明した。
【0008】
(1)観測装置の大きさは限られており、装置内に様々な機器が設置されるため、導電ワイヤが所定のターン数で巻回された巻線を設置可能なスペースが制限されている。このため、全てのコイルを直列に接続すると、DCR(直流抵抗)が高くなり、コイルから得られる電力の発電効率が下がる。一方、DCRを下げるために、導電ワイヤの直径を大きくすると、巻線のターン数が少なくなるので、発電効率が下がって出力が下がってしまう。
【0009】
(2)波の振動による周波数は人間の運動より1桁低く、例えば、1Hz以下でしかない。このように低い共振周波数の帯域において、従来の振動発電機の構造では振動子の移動速度が遅くなるので、振動発電機の出力電圧が低下し、発電電力量が少なくなる。
【0010】
ここで、共振周波数frは、以下の式(1)で与えられる。この式は、質量Mのおもりをバネ定数kのコイルバネにつるして構成した共振系の共振周波数frを表すものである。
【0011】
【数1】

【0012】
例えば、従来の振動発電機では、振動子の共振周波数が数Hz以上であった。このため、発電に利用可能となる振動とは、モーターの振動や自転車・車の振動、または人の歩行による振動であった。このため、周波数が1Hz以下の波しかない海上に浮かべる観測装置に従来の振動発電機を用いると、所望の発電性能が得られなかった。
【0013】
このため、上述したように振動発電機のコイル数を増やすと出力電圧が上がるため、振動発電機の発電性能が上がり、振動発電機の発電電力量を増やせると考えられる。しかし、実際にはコイルのDCRも上がるため、コイルの電圧降下が大きくなってしまい、発電性能はさほど上がらない。また、巻き線の線径を太くしてDCRを抑えようとすると、コイル自体が巨大化するため、観測装置に取付けることが困難となる。
【0014】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、振動周波数が低くても所望の発電性能を得られるような振動発電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の振動発電機は、同極が対向して配置される複数の磁石を有する振動子と、重力方向に落下する振動子を支持すると共に、所定の共振周波数によって振動子を振動させる第1の弾性部と、この振動子及び第1の弾性部が内部で振動する筒状の巻線ボビンと、巻線ボビンの外周面に形成され、2以上のグループ毎に分けられ、グループ内で直列接続される複数のコイルと、コイルの出力電圧をグループ毎に整流する複数の整流回路と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2以上のグループ毎に分けられ、グループ内で直列接続される複数のコイルを備えることにより、グループ毎にコイルが発電した発電電圧を出力することができる。このため、コイルの直流抵抗を抑えながら、発電電圧を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る振動発電機の構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る振動発電機が備えるコイルと振動子の配置例を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るコイルと負荷の接続例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るパイプの内部を振動子が変位する様子を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る振動発電機が波によって振動する際の出力電圧の電圧波形の例を示す説明図である。
【図6】従来のコイルの接続例を示すブロック図である。
【図7】振動周波数が約4Hzである場合に、従来の振動発電機から出力される電圧波形の例を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るコイルの接続例を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るコイルの接続例を示すブロック図である。
【図10】本発明の第1〜第3の実施の形態に係る振動発電機の磁石が4個、コイルが12個の場合における直流抵抗と発電電力量の比較例を示す説明図である。
【図11】本発明の第1〜第3の実施の形態に係る振動発電機の磁石が12個、コイルが12個の場合における直流抵抗と発電電力量の比較例を示す説明図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態に係るコイルの接続例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1.第1の実施の形態>
以下、本発明の第1の実施の形態例に係る振動発電機1の構成例について、図1〜図5を参照して説明する。以下の説明において、図中に重力方向を示す矢印を表記する。そして、矢印が向く方向を「下側」と呼んで説明する場合がある。
【0019】
図1は、振動発電機1の構造を示す断面図である。
振動発電機1は、非磁性材料(例えば摺動性に優れたプラスチック)で形成される中空の外装ケース3と、外装ケース3に形成された発電コイル2を備える。また、外装ケース3の下側に設置され、第1の弾性部として用いられるコイルバネ5と、コイルバネ5の振動によって外装ケース3の内部を上下に移動可能な振動子10を備える。
【0020】
外装ケース3は、振動子10を内部に収容する筒状の収容部として用いられる。外装ケース3の内部には、振動子10及びコイルバネ5が内部で振動する筒状の巻線ボビン8が設置される。巻線ボビン8には、
導電ワイヤが巻回され、複数個のコイルC1〜C12を備える発電コイル2を形成する。外装ケース3は、巻線ボビン8を収容する収容部として用いられる。
【0021】
なお、外装ケース3は、防水だけでなく、下記の支持部4、コイルバネ5、端部バネ6a,6bと振動子10を収容する容器や、または支持部4、コイルバネ5及び端部バネ6a,6bの取り付け土台として様々な機能を有する。しかし、海洋ブイの内部において、防水性が優れ、その両端に支持部4、コイルバネ5及び端部バネ6a,6bが取付けられる場所を備える収容部があれば、外装ケース3はなくてもよい。外装ケース3と巻線ボビン8の材質としては絶縁性の材料であることが必要で、好適なものは、樹脂では、ポリアセタール系素材や、摩擦係数が低いことで知られているポリテトラフルオロエチレン系素材が挙げられる。
【0022】
外装ケース3の両端には、振動子10が外装ケース3の外部に飛び出すことを防ぐために蓋部7a,7bが取付けられる。蓋部7a,7bの中心には第2の弾性部として用いられる端部バネ6a,6bをそれぞれ支持する突起が形成されている。端部バネ6a,6bは圧縮バネであり、外装ケース3の両端の内部に配置されると共に、コイルバネ5の外径より大きい内径を有する。そして、コイルバネ5の一端が端部バネ6aの芯部を通して、外装ケース3の一端に接続され、コイルバネ5の他端が振動子10に接続される。
【0023】
このため、端部バネ6a,6bは、振動子10が外装ケース3のいずれかの端部に近づきすぎた際には、振動子10を押し返す機能を有する。蓋部7a,7bに形成される突起と端部バネ6a,6bの直径はほぼ等しくしてあるため、端部バネ6a,6bは突起に確実に固定される。また、振動発電機1に長時間の振動が加わっても端部バネ6a,6bが突起から脱落しない。
【0024】
振動子10は、同極が互いに対向して配置される複数のリング状の磁石M1〜M12が、互いに逆の極性で隣り合ったまま固定されており、振動子10の外周面は、巻線ボビン8の内周面に対して摺動するように形成されている。また、振動子10を構成する磁石M1〜M12については、支持部4を挿通可能とするための貫通孔が形成されている。このため、磁石M1〜M12に形成された孔の直径は支持部4の直径よりもわずかに大きい。また、圧縮型のコイルバネ5の内径は、振動子10の貫通孔の直径より大きい。このため、振動子10と巻線ボビン8及び支持部4との摩擦が小さくなり、振動子10の摺動性が向上するという利点がある。
【0025】
隣り合う複数のコイルC1〜C12を形成する導線ワイヤの巻方向は、正・逆・正・逆…と互い違いにしてある。また、導線ワイヤの巻方向は、隣り合うグループ毎に互いに逆である。さらに、コイルC1〜C12は、2以上のグループ毎に分けられ、グループ内で2以上のコイルが直列接続される。
【0026】
外装ケース3の内部には、長さ方向に着磁された複数の磁石M1〜M12が連結された振動子10が挿入されており、振動発電機1に外部から振動が加わると、コイルバネ5の作用により振動子10が上下に振動する。図中に示す磁石M1〜M12の上下方向の矢印は、それぞれ長さ方向に着磁された磁石の磁界の向きを示す。
【0027】
コイルバネ5は、重力方向に落下する振動子10を支持すると共に、所定の共振周波数によって振動子10を振動させるものである。そして、コイルバネ5は、振動子10、並びに第1及び第2の弾性部の芯軸に挿通される支持部4によって支持される。そして、コイルバネ5は、振動子10が移動可能となる外装ケース3内の全ての位置で、コイルバネ5の自然長に対して常に圧縮状態とされる。このため、振動子10は、コイルバネ5によって、発電コイル2の巻軸方向に振動するように支持され、外装ケース3の内部を上下に移動することが可能である。
【0028】
また、コイルバネ5に圧縮バネを使用する場合、振動子10が外装ケース3の中を移動したときに、常に圧縮バネから圧縮力を得るように圧縮バネの長さを設計する。この場合、圧縮バネと振動子10、圧縮バネと外装ケース3を結合するフック、細孔等を、特別に形成しなくてもよい。このため、フック、細孔等を形成するための工程や部品を減らすことができるという利点がある。また、コイルバネ5は、自然長の状態で約80cmの長さとしてあり、外装ケース3内に設置され、上部から振動子10が挿入されると、約20cmの長さに縮む。そして、外部の振動を受けて、コイルバネ5が伸縮することに伴い、振動子10が上下に振動するようにしている。
【0029】
振動発電機1の組立ては、外装ケース3の一方の端部に蓋部7aがはめ込まれた後に、外装ケース3の内部に、コイルバネ5、振動子10、巻線ボビン8を順番に挿入し、最後に、蓋部7bで外装ケース3を封止することによって行われる。この組立工程を経るだけで振動発電機1の組立てが完了するため、組立てが極めて容易である。
【0030】
図2は、振動発電機1が備えるコイルC1〜C12と磁石M1〜M4の配置例を示す。
ここでは、振動子10を4個の磁石M1〜M4で構成した場合における振動子10の例を説明する。ただし、振動子10を12個の磁石M1〜M12で構成してもよい。図1に示したように振動子10は、振動発電機1に振動が加わると、コイルC1〜C12の中心軸方向に沿ってコイルC1〜C12の内部を移動する。このとき、コイルC1〜C12と磁石M1〜M4により電磁誘導によって生じた交流電圧を出力できる。
【0031】
このように、同極が対向する複数の磁石を含む振動子10を用い、隣り合う磁石間の磁石ピッチとほぼ同等の厚さとしてコイルを、隣り合うコイルが互いに巻き方向が逆になるように配置する。そして、コイルの中芯部分を振動子が往復運動することにより振動発電機1の発電出力を高めることができる。
さらに、本発明の発明者は、振動発電機1を設計するにあたって、コイルC1〜C12と整流回路との接続方法についても検討した。
【0032】
図3は、振動発電機1の内部構成例を示すブロック図である。
従来、複数のコイルは全て直列に接続され、両端のコイルから出力電圧を取り出していた。発電電力量を多くするには、振動子の運動エネルギーを効率的に電力に変換することが有効であるために、コイル数を増やす方法があった。しかし、従来のコイルの接続方法でコイル数を増やした場合、コイル数に比例してコイルの直流抵抗が増大し、このコイルの直流抵抗による電圧降下が大きくなり、期待通りに発電電力量を多くすることができない、という不具合があった。
【0033】
そこで本実施の形態に係る振動発電機1では、隣り合う複数のコイルを複数のグループに分け、それぞれのグループに含まれるコイルの両端から発電出力を取り出し、その後、複数のグループの発電出力を合成するようにしている。これにより、直流抵抗を増大させることなくコイル数を増やすことができ、効果的に全体の発電電力量を多くすることが可能となった。ただし、グループ毎の発電出力は、互いに干渉することを防ぐために、半導体素子で整流した後に合成することが必要である。
【0034】
具体的には、コイルC1〜C12を6個ずつに分割してコイルC1〜C6と、コイルC7〜C12を含む2つのグループを形成する。そして、振動発電機1は、コイルの出力電圧をグループ毎に整流する整流回路12−1,12−2を備える。また、整流回路12−1,12−2は、それぞれ交流電圧が入力する交流入力部11−1,11−2と、交流電圧を整流した整流電圧を出力する整流出力部13−1,13−2を備える。
【0035】
整流出力部13−1,13−2には、電波の発信機等からなる負荷14が接続されている。そして、複数のコイルが直列接続されるグループ、及びグループ毎に設けられる複数の整流回路12−1,12−2が負荷14に対して並列に配置される。整流出力部13−1,13−2が出力する整流電圧は負荷14に入力すると負荷14が動作し、位置情報等を電波に乗せて発信する。
【0036】
上述したように、従来の振動発電機では、振動子がバネ等で懸架されており、外部から振動が加わることによって振動子が振動し、発電していた。このとき、従来の振動発電機に用いられる振動子の共振周波数と同じか、それ以上の周波数で振動子を正弦波振動させることによって、コイルに起電力を発生させて発電出力を得ていた。しかし、外部から加わる振動の周波数が振動子の共振周波数より低い場合、振動子はコイルを収納する筐体と同じ周波数で変位するため、コイルと振動子の相対的な移動がなく、発電を行うことができない。なお、ここで言う変位は、コイルと振動子の相対的な変位量を指す。
【0037】
一方、振動発電機1の発電出力に伴う電圧は、コイルC1〜C12の内部を移動する振動子10の移動速度vmagに比例する。ここで、次式(2)は、発電電圧Vを表し、次式(3)は、振動子10の移動速度vmagを表す。
【0038】
【数2】

【0039】
【数3】

【0040】
式(2)に示すように、振動発電機1の発電電圧Vは、振動子10内の磁石M1〜M12から発生した磁束のコイルC1〜C12内における時間微分に導線ワイヤの巻き回数を乗じた値に比例する。また、式(3)に示すように、磁束の時間微分は、磁石M1〜M12を含む振動子10の移動速度vmagに比例する。即ち、振動周波数が低くなるに従って、振動子10の移動速度vmagが小さくなっており、完全な振動波形とするためには、振動子10の振幅を長くする必要がある。しかし、振動子10の振幅を長くするためには、振動子10を収納する外装ケース3の全長を長くしなければならず、振動発電機1が大型化してしまう。
【0041】
ここで、海洋ブイ等に代表される、波の振動を利用して発電を行う振動発電機1を観測装置に設置することを考える。一般に海の波の振動は、短周期重力波、重力波、長周期重力波、長周期波、表面張力波、潮汐波等があるが、定常的に観測され、かつ周波数が高い波の振動は0.5〜2Hz程度であることが知られている。従って、振動発電機1の振動子10を振動させるために波を利用する場合には、バネ等で懸架された振動子10及びコイルバネ5との共振周波数をおよそ1Hz以下、可能であれば0.5Hz程度にする必要がある。
【0042】
このように従来に比べて低い共振周波数の外部振動を用いる振動子10を備えた振動系では、振動子10の振動の振幅が長くなり、振動発電機1(外装ケース3)の全長がきわめて大きくなるため、コスト、強度、重量等の点で、大きなデメリットとなる。そこで、振動子10の振動を、正弦波ではなく、略矩形波とすることによって、振動子10の移動速度を維持したまま、振動子10の振幅を短くし、振動発電機1の全長を小さくすることが可能となることを見いだした。
【0043】
具体的には、共振周波数を0.5Hzに設計したコイルバネ5で懸架された振動子10を作製し、これを制限された全長内で得られる振幅の端部に端部バネ6a,6b等を配置する。これにより、端部バネ6a,6bが振動子10の移動を制限する。こうして外部からの振動により、振動子10は振幅内で擬似的に矩形波状の振動を行うこととなる。
【0044】
このように振動子10を、矩形波状に振動させることによって、振動発電機1を大型化することなく、コイルC1〜C12内を移動する振動子10が必要な移動速度を維持することができる。その結果、十分な発電出力が得られる振動発電機1を得られる。
【0045】
図4は、外装ケース3の内部を振動子10が変位する様子を示す。
図4には理論的な正弦波振動の変位を破線で示すグラフと、第1の実施の形態に係る振動子10がコイルC1〜C12を移動する際に推定される変位を実線で示すグラフが併記されている。
【0046】
ここで、破線で示す正弦波振動の変位は、周期が2秒で相対変位が±100cm程度となることが見込まれる。一方、実線で示す推定変位は、振動子10が端部バネ6a,6bによって振動が制限されるため、周期が2秒で相対変位が±25cm程度となることを見込める。そして、推定変位の1周期は約2秒であるため、振動子10の振動周波数が約1Hzであることが分かる。このため、推定変位の1周期を長くすることにより、振動子10の振動周波数を1Hzより小さくすることができる。
【0047】
図5は、振動発電機1が波によって振動する際の出力電圧の電圧波形の例を示す。
この電圧波形において、区間15では振動子10がコイルC1〜C12の内部を移動中であるため、出力電圧が発生していることが示される。なお、区間16では、振動子10がいずれかの端部バネ6a,6bに押しつけられている状態で、移動していないため、出力電圧が発生していないことが示される。このようにして発生した出力電圧により、不図示の2次電池に充電すれば、1回の振動で発生する出力電圧がわずかであっても、負荷14に示される電子機器を動作させるために十分な電力(約0.3W)を不図示の二次電池に蓄電し、所定時間後に取り出すことができる。
【0048】
ここで、第1の実施の形態に係る振動発電機1の発電性能を比較するため、従来の振動発電機100の構成及び出力電圧の波形を図6と図7を参照して説明する。以下の説明において、既に第1の実施の形態で説明した部分には同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0049】
図6は、直列接続したコイルC1〜C12から電力を取り出す例を示す。
従来の振動発電機100は、直列接続されたコイルC1〜C12に加えて、コイルC1〜C12の交流電圧が入力する交流入力部101と、交流電圧を整流する整流回路102と、整流電圧を出力する整流出力部103を備える。そして、整流出力部103には、電波の発信機等からなる負荷104が接続されており、整流出力部103が出力する整流電圧が負荷104に入力すると負荷104が動作する。
【0050】
図7は、振動周波数が約4Hzである場合に、従来の振動発電機100から出力される交流電圧の電圧波形の例を示す。
従来の振動発電機100では、振動子10が外装ケース3の両端部に衝突しない設計としてあり、高い振動周波数で発電することが可能である。そして、振動発電機100は、直列接続されたコイルC1〜C12により出力電圧を取り出す。しかし、従来の振動発電機100を海上に浮かべた観測装置に用いても、波の周波数が振動周波数よりも低いため、振動子10が振動しない。また、コイルC1〜C12のうち、あるコイルが正電圧を出力するのと同時に別のコイルが負電圧を出力する場合がある。このため、電圧が互いに打ち消され本実施の形態に係る振動発電機1に比べて、振動発電機100の出力電圧が低くなる。
【0051】
<2.第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る振動発電機20の内部構成例について説明する。
図8は、振動発電機20の内部構成例を示すブロック図である。
振動発電機20は、コイルC1〜C12を備える点が振動発電機1と共通するが、4つのコイル毎にグループ分けして発電電圧を出力する点が異なる。
【0052】
振動発電機20は、第1のグループとして、直列接続されたコイルC1〜C4、コイルC1,C4の端部に接続される交流入力部11−1、交流入力部11−1に入力する交流電圧を整流する整流回路12−1、整流回路12−1が整流した整流電圧を出力する整流出力部13−1を備える。同様に、振動発電機20は、第2のグループとして、コイルC5〜C8、交流入力部11−2、整流回路12−2、整流出力部13−2を備え、第3のグループとして、コイルC9〜C12、交流入力部11−3、整流回路12−3、整流出力部13−3を備える。そして、整流出力部13−1〜13−3の両端部は、それぞれ負荷14に接続される。
【0053】
<3.第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態に係る振動発電機30の内部構成例について説明する。
図9は、振動発電機30の内部構成例を示すブロック図である。
振動発電機30は、コイルC1〜C12を備える点が振動発電機1と共通するが、3つのコイル毎にグループ分けして発電電圧を出力する点が異なる。
【0054】
振動発電機30は、第1のグループとして、直列接続されたコイルC1〜C3、コイルC1〜C3の端部に接続される交流入力部11−1、交流入力部11−1に入力する交流電圧を整流する整流回路12−1、整流回路12−1が整流した整流電圧を出力する整流出力部13−1を備える。同様に、振動発電機30は、第2のグループとして、コイルC4〜C6、交流入力部11−2、整流回路12−2、整流出力部13−2を備え、第3のグループとして、コイルC7〜C9、交流入力部11−3、整流回路12−3、整流出力部13−3を備え、第4のグループとして、コイルC10〜C12、交流入力部11−4、整流回路12−4、整流出力部13−4を備える。そして、整流出力部13−1〜13−4の両端部は、それぞれ負荷14に接続される。
【0055】
<4.直流抵抗と発電電力量の比較例>
図10は、本発明の第1〜第3の実施の形態に係る振動発電機の磁石が4個、コイルが12個の場合における直流抵抗と発電電力量の比較例を示す。
ここでは、振動子10に4個の磁石M1〜M4を設けた第1〜第3の実施の形態に係る振動発電機の発電出力と、従来の振動発電機100(図中では「比較例」と呼ぶ。)の発電出力を比較した例を示す。このとき、振動子10は共振周波数が5Hz、振動可能な振幅が20cmとする。
【0056】
従来の振動発電機100(図6を参照。)は、12個のコイルC1〜C12が直列に接続されるため、DCRが最高であり、発電電力量は最低である。
一方、第1〜第3の実施の形態に係る振動発電機1,20,30は、順にDCRが低く、いずれも従来の振動発電機100の発電電力量に比べて2倍以上となっているため、発電出力が大きいことが分かる。なお、グループ分けの数が増えるとグループ毎に設けられる整流回路の数も増えるが、このとき整流回路による消費電力量が上がるため、グループ分けの数を増やしても発電電力量が上がり続けるわけではない。
【0057】
図11は、本発明の第1〜第3の実施の形態に係る振動発電機の磁石が12個、コイルが12個の場合における直流抵抗と発電電力量の比較例を示す。
ここでは、振動子10に12個の磁石M1〜M12を設けた第1〜第3の実施の形態に係る振動発電機の発電出力と、従来の振動発電機100の発電出力を比較した例を示す。このとき、振動子10は共振周波数が1Hz、振動可能な振幅が50cmとする。
【0058】
従来の振動発電機100(図6を参照。)は、12個のコイルC1〜C12が直列に接続されるため、DCRが最高であり、発電電力量は最低である。
一方、第1〜第3の実施の形態に係る振動発電機1,20,30は、順にDCRが低く、いずれも従来の振動発電機100の発電電力量に比べて2倍以上となっており、発電出力が大きいことが分かる。
【0059】
なお、複数のコイルを分けたグループ数は、1個のコイル毎に整流回路を接続する場合を考慮すれば、総コイル数とすることも可能である。しかし、グループ数が増えると出力電圧が低下するため、負荷の要求電圧に応じて設計することが必要である。また、分割数と同じ数の整流回路が必要となりコストが掛かるため、その点でも最適設計が必要である。
【0060】
同極が対向する磁石を備えた振動子を用い、複数の磁石ピッチとほぼ同等の厚さの巻き線コイルを、隣り合うコイルが互いに巻き方向が逆になるように配置し、コイルの中芯部分を振動子が往復運動することにより振動発電機の発電出力が改善する。
【0061】
また、端部バネ6aにより、外装ケース3の内部で振動子10を振動させることにより、振動子10のコイルC1〜C12に対する相対振動が矩形波状の振動である。このため、振動子10の共振周波数を1Hz以下とする振動発電機1とすることが可能となる。これにより、振動発電機1を海洋ブイ等に設置することができる。
【0062】
なお、グループ毎のコイルの数は異ならせてもよい。
図12は、グループ毎にコイルの数が異なる場合における振動発電機40の内部構成例を示すブロック図である。
本例では、10個のコイルC1〜C10を4つのグループに分けている。ここで、各グループには、コイルC1,C2、コイルC3〜C5、コイルC6〜C8、コイルC9,C10が分けて設置される。そして、各グループ内で直列接続されるコイルには、上述した第3の実施の形態に係る振動発電機30と同様に、交流入力部11−1〜11−4、整流回路12−1〜12−4、整流出力部13−1〜13−4が接続される。
このように、各グループ内に含まれるコイルの数は異なっていても、全てのコイルを直列接続する場合に比べて十分に高い発電電力量を得ることが可能である。
【0063】
なお、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1…振動発電機、2…発電コイル、3…外装ケース、4…支持部、5…コイルバネ、6a…端部バネ、7a…蓋部、8…巻線ボビン、10…振動子、11−1,11−2…交流入力部、12−1,12−2…整流回路、13−1,13−2…整流出力部、14…負荷、16a…第1の封止部材、16b…第2の封止部材、20…振動発電機、30…振動発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同極が対向して配置される複数の磁石を有する振動子と、
重力方向に落下する前記振動子を支持すると共に、所定の共振周波数によって前記振動子を振動させる第1の弾性部と、
前記振動子及び前記第1の弾性部が内部で振動する筒状の巻線ボビンと、
前記巻線ボビンの外周面に形成され、2以上のグループ毎に分けられ、前記グループ内で直列接続される複数のコイルと、
前記コイルの出力電圧を前記グループ毎に整流する複数の整流回路と、を備える
振動発電機。
【請求項2】
前記グループ、及び前記グループ毎に設けられる複数の前記整流回路が負荷に対して並列に配置される
請求項1に記載の振動発電機。
【請求項3】
前記グループ毎に直列接続されている前記コイルの数は2以上である
請求項1又は2に記載の振動発電機。
【請求項4】
前記グループ毎に直列接続されている複数の前記コイルを形成するワイヤの巻き方向は、前記グループ内の隣り合う前記コイル毎に互いに逆である
請求項3に記載の振動発電機。
【請求項5】
隣り合う前記グループ毎に隣り合う前記コイルを形成するワイヤの巻き方向は、互いに逆である
請求項4に記載の振動発電機。
【請求項6】
前記振動子の振動周波数は1Hz以下である
請求項1〜5のいずれか1項に記載の振動発電機。
【請求項7】
さらに、
前記巻線ボビンを収容する収容部と、
前記収容部の両端の内部には、前記第1の弾性部の外径より大きい内径を有する第2の弾性部と、を備え、
前記第1の弾性部の一端が前記収容部の一端に接続され、前記第1の弾性部の他端が前記振動子に接続される
請求項1〜3のいずれか1項に記載の振動発電機。
【請求項8】
前記振動子、並びに前記第1及び第2の弾性部に挿通される支持部を備える
請求項7記載の振動発電機。
【請求項9】
前記振動子及び前記第1の弾性部との共振周波数が0.5Hzである
請求項8に記載の振動発電機。
【請求項10】
前記振動子及び前記第1の弾性部の振動波形は略矩形波である
請求項9に記載の振動発電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−62984(P2013−62984A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200939(P2011−200939)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000107804)スミダコーポレーション株式会社 (285)