説明

振動試験装置

【課題】振動試験装置において、加振可能な周波数帯域を拡大し、ハイブリッド振動試験の性能を向上すること。
【解決手段】振動試験装置100は、波形発生装置11、加振機15、供試体16、反力計測手段17、応答計測手段18、評価対象構造物の他の部分を表した数値モデルを用いて外力に対する数値モデルの振動応答を計算して目標応答信号を出力する数値モデル演算部12、加振機15を制御する加振機制御部14を備える。振動試験装置100は、数値モデル演算部12と供試体16と加振機15および加振機制御部14を制御ループと考えた場合に、制御ループを安定化するための安定化補償器13と、数値モデル演算部12から出力される目標応答42と供試体16の加振により得られる供試体応答47を入力として、補正出力49を生成する補正信号演算部19とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動試験装置に係り、特に加振実験と数値モデル計算によるシミュレーションとを実時間で組み合わせて行うハイブリッド式の振動試験装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
加振実験と数値モデル計算によるシミュレーションとを実時間で組み合わせて行う振動試験装置に関する従来技術としては、特開平5−10846号公報(特許文献1)に開示された技術がある。この振動試験装置では、評価対象構造物の一部分に供試体を用いてこれを加振し、残りの部分を数値モデル化して数値計算シミュレーションによってその振動応答を計算し、加振実験と数値計算シミュレーションとを実時間で組み合わせて振動試験を行う。数値計算シミュレーションでは、供試体の加振実験によって得られる供試体からの反力と地震加速度とを外力として数値モデルの運動方程式を解いて、供試体に与えるべき変位を計算していた。
【0003】
【特許文献1】特開平5−10846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術においては、一般に加振機制御系と数値計算シミュレーションを含めたシステム全体の安定性を別々に検討しているため、加振機制御系が安定であっても、加振機の応答遅れの影響と数値計算シミュレーションの特性により、加振実験と数値モデル計算によるシミュレーションとを実時間で組み合わせて行うハイブリッド実験システムとしては不安定となる場合が存在する。また、ハイブリッド実験システムとして安定になるようにシステムを構築すると、加振機追従特性の劣化や、加振可能な周波数帯域が制限されることで、実際の地震波形ならびに構造物の振動応答を十分に再現できない場合がある。
【0005】
本発明の目的は、加振機制御系と数値計算シミュレーションを含んだハイブリッド実験システムを一つの制御ループと考え、その制御ループの安定性を確保する補償器を作成することでシステム全体の安定性を確保しつつ、加振機の応答遅れを補償する補正信号生成器を別途付加することにより、加振機の目標追従特性を向上させることで加振可能な周波数帯域の拡大を図りその結果、ハイブリッド振動試験の性能を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、供試体とこの供試体に仮想的に接続された数値モデルとからなる構造物を用いて振動試験する振動試験装置において、前記供試体に付与する目標加速度を発生する波形発生装置と、前記供試体を加振する加振機と、この加振機を制御する加振機制御部と、前記供試体を加振したときに、この供試体から前記加振機に加えられる反力を計測する反力計測手段および供試体の応答を計測する応答計測手段と、前記波形発生装置が発生した目標加速度および前記反力計測手段が計測した反力を入力し、数値モデルの振動応答を演算して目標応答を出力する数値モデル演算部と、この目標応答と前記応答計測手段が計測した供試体の応答とを入力し補正出力を出力する補正信号演算部とを備え、前記補正出力を前記波形発生装置と前記加振機制御部間にフィードバックした。
【0007】
そしてこの特徴において、前記波形発生装置が発生した目標加速度から前記補正出力を減算する減算器と、この減算器の出力および前記反力計測手段が計測した反力を入力し、前記数値モデルを用いて前記加振機制御部に入力する数値シミュレータとを備えるのがよく、前記数値モデル演算部と前記供試体と前記加振機と前記加振機制御部とで構成される制御ループに、この制御ループを安定化させる安定化補償器を設け、前記補正出力を前記数値モデル演算部と前記加振機制御部間にフィードバックしてもよい。
【0008】
また上記目的を達成するために、目標加速度を発生する波形発生装置と、評価対象構造物の一部を構成する供試体を加振する加振機と、前記供試体を加振したときにこの供試体から前記加振機へ加えられる反力を計測する反力計測手段および前記供試体の応答を計測する応答計測手段と、前記目標加速度および前記反力を入力し、前記供試体に仮想的に接続され前記評価対象構造物の残りの部分を構成する数値モデルを用いてこの数値モデルの振動応答を演算し前記加振機への目標応答を出力する数値モデル演算部と、この数値モデル演算部からの目標応答に基づいて前記加振機を制御する加振機制御部とを備え、前記数値モデル演算部と前記供試体と前記加振機と前記加振機制御部とで構成される制御ループを安定化させる安定化補償器を有し、前記数値モデル演算部から出力される目標応答および前記供試体を加振して得られる供試体の応答を入力し、補正出力を生成する補正出力演算部を設け、生成された補正出力を前記目標応答に加えて前記加振機の加振指令とした。
【0009】
そしてこの特徴において、前記供試体を加振して得られる供試体の応答は、この供試体の加速度と速度と変位の少なくともいずれかの物理量であり、前記補正出力演算部に入力される供試体の応答は、この供試体の応答と同じ物理量であるのがよく、前記補正出力演算部は、前記目標応答を記憶する目標応答記憶部と、前記供試体の応答を記憶する供試体応答記憶部と、前記目標応答と前記供試体の応答の差分である誤差応答を生成する誤差生成部と、この誤差応答に基づいて補正出力を演算する繰り返し補償手段と、この繰り返し補償手段で得た補正出力を記憶する補正出力記憶部と、この補正出力記憶手段に記憶した補正出力を前記加振機に出力する補正出力部とを有するものでもよい。
【0010】
また、前記繰り返し補償手段は、前記目標応答から前記供試体の応答までの伝達特性と、前記供試体応答から前記反力までの伝達特性と、前記反力から前記目標応答までの伝達特性を有するものがよく、前記補正出力演算部は、前記目標応答と前記供試体応答の差分である誤差応答に前記繰り返し補償手段の伝達特性を乗じた出力を、前回の補正出力に加算して、新たな補正出力とするものでもよい。
【0011】
さらに上記目的を達成するために、目標加速度を発生する波形発生装置と、評価対象構造物の一部を構成する供試体を加振する加振機と、前記供試体を加振したときにこの供試体から前記加振機へ加えられる反力を計測する反力計測手段および前記供試体の応答を計測する応答計測手段と、前記目標加速度および前記反力を入力し、前記供試体に仮想的に接続され評価対象構造物の残りの部分を構成する数値モデルを用いてこの数値モデルの振動応答を演算し前記加振機への目標応答を出力する数値モデル演算部と、この数値モデル演算部からの目標応答に基づいて前記加振機を制御する加振機制御部と、前記応答計測手段からの応答信号を用いて供試体が前記加振機に加える反力を推定し、補償出力を出力する外乱推定補償部とを有する。
【0012】
そしてこの特徴において、前記外乱推定補償部は、前記加振機の伝達特性の逆特性を示すブロックと、ローパスフィルタとハイパスフィルタとバンドパスフィルタのいずれかと、外乱推定部を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の振動試験装置によれば、加振機制御系と数値計算シミュレーションを含んだハイブリッド実験システムの安定性を確保する補償器と、加振機の目標値追従特性向上を図る補償器を独立に設計することで、加振可能な周波数帯域を拡大でき、ハイブリッド振動試験の性能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態の振動試験装置を、図1〜図4を用いて説明する。
【0015】
まず、本実施形態の振動試験装置の概要を図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、振動試験装置の構成を模式的に示す図であり、図2は、図1に示した振動試験装置における補正信号演算部の構成を模式的に示す図である。
【0016】
振動試験装置100は、波形発生装置11と、数値モデル演算部12と、加振部101と、補償部102とを備えている。この振動試験装置100は、評価対象構造物の一部分に供試体16を用い、この供試体16を実際に加振することで供試体16からの反力を計測する。それとともに、評価対象構造物の残りの部分を数値モデル化し、数値計算シミュレーションによって振動応答を計算する。すなわち本振動試験装置100は、加振実験と数値計算シミュレーションとを実時間で組み合わせ、振動試験するいわゆるハイブリッド振動試験装置である。
【0017】
波形発生装置11は、地震波形などの指令信号41を発生させる。波形発生装置11は、数値モデル化した評価対象構造物への入力加速度を生成する。
【0018】
数値モデル演算部12は、数値モデルの振動応答を計算する。ここで、評価対象構造物の供試体16以外の部分を数値モデル化して、数値モデルを生成する。数値モデル演算部12は、波形発生装置11からの指令信号41と、供試体16に取り付けた反力計測手段17が計測した反力(荷重)48とを外力として、数値モデルの運動方程式を解く。数値モデル演算部12は、供試体16に与えるべき変位または速度、加速度の少なくともいずれかを計算し、目標応答42を出力する。
【0019】
加振部101は、評価対象構造物の一部分である供試体16と、供試体16を加振する加振機15と、加振機15を制御する加振機制御部14と、供試体16の加振時における供試体16からの反力(荷重)を計測する反力計測手段17と、供試体16の加振時における反力以外の応答を計測する応答計測手段18とを備えている。なお、反力計測手段17と応答計測手段18とを、加振機15に内蔵してもよい。反力計測手段17は、ロードセルのような力を計測できるセンサである。応答計測手段18は、供試体16の変位と速度、加速度の少なくともいずれかを計測可能であり、レーザ変位計やエンコーダ、加速度ピックアップ等が対応する。
【0020】
補償部102は、加算器13a、および安定化補償器13、補正出力演算部19(図2参照)を備えている。数値モデル演算部12からの目標応答42と補正信号演算部19からの補正出力49とを加算器13aで加算し、安定化補償器13に加振機指令43を出力する。安定化補償器13は、加振機制御部14へ加振機指令出力44を出力する。
【0021】
ここで、安定化補償器13を設ける理由を、以下に説明する。振動試験装置100において、数値モデル演算部12および加振機制御部14、加振機15、供試体16を、制御ループ(以下、フィードバック制御系と称す)とすれば、安定化補償器13は、フィードバック補償器として作用し、振動試験装置100の安定性を確保できる。
【0022】
つまり、フィードバック制御系の不安定の一因は、加振機15の応答遅れであるから、安定化補償器13として、フィードバック制御系における一巡伝達特性のゲイン交差周波数付近の位相を進ませる位相進み補償器を用いる。安定化補償器13は、加振機制御部14及び加振機15に対するフィードフォワード補償器として動作する。なお、フィードバック制御系の安定性を重視すると、加振機15の目標値追従特性が劣化し、精度の良いハイブリッド式の振動試験を行うことができない。
【0023】
そこで、加振機15の目標値追従特性を改善するために、補正信号演算部19の出力である補正出力49を、フィードフォワード補償信号として加算器13aに入力する。補正出力49は、数値モデル演算部12の出力である目標応答42と応答計測手段18の出力である供試体応答47を、補正信号演算部19に入力して、生成される。補正信号演算部19の詳細については後述する。
【0024】
次に、ハイブリッド振動試験機100を用いた振動試験の手順を、以下に説明する。波形発生装置11から地震加速度に相当する指令信号41が、数値モデル演算部12へ入力される。それとともに、数値モデル演算部12には、加振部101が有する反力計測手段17が計測した反力48も入力される。数値モデル演算部12では、供試体16以外の部分を模擬した数値モデルを用いて振動応答計算し、供試体16に与えるべき変位と速度、加速度の少なくともいずれかを演算する。すなわち、数値モデル演算部12は、加振機15を用いて供試体16で再現する目標応答42を、加算器13aに出力する。目標応答42は、補正信号演算部19へも入力される。
【0025】
補償部102では、加算器13aにおいて、目標応答42に補正信号演算部19からの補正出力49を加算する。加算器13aの出力43は、安定化補償器13に入力されて、加振機指令出力44に変換される。
【0026】
加振機制御部14は、安定化補償器13で変換された加振機指令出力44に従って、加振機15を制御する。加振機15は、制御指令45に従って供試体16に加振力46を付与する。供試体16が加振されたら、反力計測手段17を用いて反力48を計測する。それとともに、応答計測手段18が供試体16の供試体応答47を計測する。ここで、応答計測手段18が変位検出センサであれば、供試体16の応答変位が計測される。同様に、応答計測手段18が速度検出センサであれば、供試体16の応答速度が、応答計測手段18が加速度検出センサであれば、供試体16の応答加速度が計測される。上記手順を繰り返すと、1個の地震波に対する1回の振動試験が完了する。
【0027】
次に、図2を用いて、補正信号演算部19における信号処理を説明する。補正信号演算部19には、数値モデル演算部12から目標応答42が入力される。それとともに、応答計測手段18から供試体応答47が入力される。入力された目標応答42および供試体応答47は、例えばAD変換器等によりディジタル信号に変換され、目標応答記憶部21と供試体応答記憶部22へそれぞれ入力される。そして、それぞれの試行(1個の地震波に対する1回の振動試験)における応答として記憶される。
【0028】
目標応答記憶部21に記憶された目標応答42と供試体応答記憶部22に記憶された供試体応答47とは、誤差生成部23に入力され、減算処理により、目標応答42と供試体応答47の誤差信号50を生成する。生成された誤差信号50は、繰り返し補償手段24に入力されて、繰り返し補償出力51を生成する。
【0029】
繰り返し補償出力51は、加算器61で補正信号記憶部25が記憶している1試行前の補正出力49と加算され、補正応答記憶部25に補正出力49**として入力される。なお、第1回目の試行においては、1試行前の補正出力49が存在しないので、繰り返し補償出力51をそのまま補正応答記憶部25に入力する。
【0030】
補正応答記憶部25では、入力された補正出力49**を補正応答出力部26へ出力する。補正応答出力部26は、補正出力49を補正信号演算部102の出力信号として出力する。この補正出力49を、次回の試行時に使用する。
【0031】
試行毎に目標応答42と供試体応答47の差である誤差信号50が小さくなるように、補正出力49を目標応答42に加算する。これにより、加振機100の目標追従特性を向上させることができる。補正信号演算部19の上記処理において、目標応答42と供試体応答47の差である誤差信号50を零にできれば、両者は完全に一致し、ハイブリッド振動試験における評価対象構造物の正確な振動応答が得られる。
【0032】
補正信号演算部19が有する繰り返し補償手段24が、補正出力49を生成する手順を、図3に示すフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS11で振動試験が開始され、第1回目の試験が完了すると、補正信号演算部19に目標応答42と供試体応答47が入力される。次いで、ステップS12で、供試体応答47と目標応答42とから、誤差生成部23で誤差信号50を生成する。
【0033】
誤差信号50に対してFFT(高速フーリエ変換)等の手法で時系列データを周波数領域のデータに変換し(ステップS13)、誤差信号50について各周波数成分が得られる。周波数成分毎の誤差信号50について、以後の演算に不要な成分を省くマスク処理が施される(ステップS14)。ここで、マスク処理する例としては、振動試験において、地震波に含まれる周波数成分以外の周波数成分を取り除くことが挙げられる。
【0034】
マスク処理した後の誤差信号50に、繰り返し補償手段24(図4にて示す伝達特性)を乗算し、繰り返し補正出力51を生成する。生成された繰り返し補正出力51は、1回前の試行(第1回目は補正せず)により生成された補正出力49と加算され、新たな補正出力49**を生成する(ステップS15)。新たな補正信号49**は、周波数成分毎に分解された信号であるから、IFFT(高速フーリエ逆変換)を実行して、時系列での補正信号を生成する(ステップS16)。
【0035】
ステップS11からステップS16までの繰り返し演算が所定回数繰り返されたか否かを、ステップS17で判定する。設定された繰り返し回数だけ試行されていれば、試験を終了する。終了の判定には、ユーザが予め定めた指定回数を用いても良いし、誤差信号50が零になったときとしても良い。なお、設定された繰り返し回数だけ試行されるまでは、ステップS11に戻り、以上の試行を繰り返す。
【0036】
繰り返し補償手段24の伝達特性について、図4を用いて説明する。ここでは、一例として目標応答42と供試体応答47がともに、変位である場合について説明する。図1に示した振動試験装置100は、等価的に図4のブロック図で表すことができる。図中の点線部12は、数値モデル演算部12である。
【0037】
数値モデル演算部12内は、等価的に、2階積分で表現できる伝達特性(G(s))31と、反力48から数値モデル変位信号までの伝達特性(G(s))32とで表すことができる。加振機指令出力43から供試体応答変位47までの伝達特性33をG(s)、供試体応答変位47から反力48までの伝達特性34を、G(s)とする。繰り返し補償手段24の伝達特性52を、W(s)とする。
【0038】
繰り返し補償出力51と現試行時に使用した補正出力49を加算して、次回試行時の補正出力49**とする。ここで、n回目の試行における誤差信号50をE(s)とすると、下記の式(1、1)が得られる。
【0039】
【数1】

このとき、最小回数で誤差信号50が零に収束するためには、繰り返し補償手段24の伝達特性52は式(1.2)となる。
【0040】
【数2】

上記実施形態においては、供試体応答47に供試体16の変位を用いているが、供試体応答47に供試体16の速度を用いた場合は、目標応答42は速度信号となる。同様に、供試体応答47に加速度を用いた場合には、目標応答42は加速度信号になる。なお、目標応答の種類に応じて、伝達特性31および伝達特性32、繰り返し補償手段24の構成を変化させる。
【0041】
本実施形態によれば、加振機制御系と数値計算シミュレーションを含んだハイブリッド実験システムを1個の制御ループと考え、安定化補償器13をフィードバック補償器として付加したので、ハイブリッド実験システム全体の安定性が向上する。また、加振可能な周波数帯域を拡大できる。さらに、加振機の目標値追従特性を向上させるために、補正信号演算部19を設けたので、数値モデルの出力である目標応答42と供試体応答47を一致させることができ、評価対象構造物の振動応答を精度よく演算できる。
【0042】
本発明に係る振動試験装置100の他の実施形態を、図5および図6を用いて説明する。図5は、振動試験装置100の構成を模式的に示す図であり、図6は図5に示した振動試験装置100が有する外乱推定部77の制御ブロック図である。本実施の形態が、上記実施の形態と相違する主な点は、図5に示したように、外乱推定補償部60が外乱推定部77を有すること、および外乱推定補償部60からの応答出力70を加振機制御部14にフィードバックしたこと、補正信号演算部19を省いたことにある。
【0043】
すなわち、補正信号演算部19の代わりに、外乱推定補償部60が設けられている。外乱推定補償部60は、センサノイズやオフセットを抑制するフィルタ75、加振機伝達特性の逆特性76、外乱推定部77を有している。加振機制御部14は、加振機15をフィードバック制御するFB(フィードバック)制御部28と、加振機15への指令信号を算出するサーボアンプ30と、加算器29とを有している。
【0044】
図6のブロック線図を用いて、外乱推定補償部60の処理動作を説明する。外乱推定補償部60に、応答計測手段18が計測した加振機15の加速度信号61と加振機15の差圧信号62が入力される。入力された加速度信号61に、加振機15の質量71(M)を乗じて、第2の出力信号65を得る。加速度信号61は、また、積分器73にも送られ、速度信号63が得られる。
【0045】
加振機15は油圧加振機なので、ピストン―シリンダ型である。ここで、差圧信号47について説明する。油圧加振機のシリンダ内には作動油が充満されており、ピストンにより区切られたシリンダの2つの空間に対応して、作動油の圧力を検出する圧力センサが設けられており、その2つの圧力信号の差を取ったものが加振機15の差圧信号62となる。加速度信号61から得られた速度信号63に、加振機15のピストンの粘性抵抗係数74(Caf)を乗算して、第1の出力信号64を得る。第1の出力信号64と第2の出力信号65とを加算器78で加算し、第3の出力信号66を得る。この第3の出力信号66は、減算器79に送られる。
【0046】
差圧信号62に、加振機15のピストンの受圧面積72(Aa)を乗算して、第4の出力信号67を得る。第4の出力信号67も、減算器79に送られる。減算器79では、差圧信号である第4の出力信号67から、加速度信号である第3の出力信号66を減算し、推定外乱信号68を算出する。
【0047】
算出された推定外乱信号68は、センサノイズを抑制するローパスフィルタ、または推定外乱のオフセットを抑制するハイパスフィルタ、この両者の機能を有するバンドパスフィルタの少なくともいずれかであって伝達特性F(s)であるフィルタ75に送信される。フィルタ75に送信された推定外乱信号98は、フィルタ75でフィルタリングされて第5の出力信号69に変換される。
【0048】
得られた第5の出力信号69に、さらに加振機15の伝達特性の逆特性G(s)を演算して、第6の出力信号70を得る。この第6の出力信号70は、図5に示すように、FB(フィードバック)制御部からの出力信号27に加算器29で加算され、サーボアンプ30に送られる。サーボアンプ30では、加振機15への指令信号45を生成し、加振機15に送信する。
【0049】
本実施の形態によれば、加振機15に供試体16から加わる外乱を、外乱推定補償器77が推定し、バンドパスフィルタ75を通過させる。これにより、正確に外乱成分だけを抽出して、加振機伝達特性の逆特性76を通過させることができ、正確に再現したい加振機の特性を除き不必要な外乱分だけを加振機制御部14に出力できる。その結果、加振機制御部14で、不必要な外乱分を除いた制御指令45を加振機15に出力することができ、供試体16から加わる外乱の影響を加振機15が受けるのを回避できる。その結果、供試体を加振機がどのように加振しても、所定の加振特性に基づく不必要な外乱分の影響を除いた目標波形を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態の振動試験装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態の振動試験装置おける補正信号演算部の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明における繰り返し補償のフローチャートである。
【図4】本発明における繰り返し補償のブロック線図である。
【図5】本発明の他の実施形態の振動試験装置の構成を模式的に示す図である。
【図6】図5に示した振動試験装置が有する外乱推定部の制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0051】
11…波形発生装置、12…数値モデル演算部、13…安定化補償器、13a…加算器、14…加振制御部、15…加振機、16…供試体、17…反力計測手段、18…応答計測手段、19…補正信号演算部、21…目標応答記憶部、22…供試体応答記憶部、23…誤差生成部、24…繰り返し補償手段、25…補正応答記憶部、26…補正応答出力部、27…出力信号、28…FB制御部、29…加算器、30…サーボアンプ、31…2階積分特性、32…反力から目標応答までの伝達特性、33…目標応答から供試体応答までの伝達特性、34…供試体応答から反力までの伝達特性、41…指令信号、42…目標応答、43…加振機指令出力、43A…出力指令、44…加振機指令出力、45…制御指令、46…加振力、47…供試体応答、48…反力、49…補正出力、50…誤差信号、51…補償出力、60…外乱推定補償部、61…加速度信号、62…差圧信号、63…速度信号、64〜67…出力信号、68…推定外乱信号、69、70…出力信号、71…加振機質量、72…ピストン受圧面積、73…積分器、74…粘性抵抗係数、75…バンドパスフィルタ、76…加振機伝達特性の逆特性、77…外乱推定部、78…加算器、79…減算器、100…振動試験装置、101…加振部、102、102A…補償部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体とこの供試体に仮想的に接続された数値モデルとからなる構造物を用いて振動試験する振動試験装置において、
前記供試体に付与する目標加速度を発生する波形発生装置と、
前記供試体を加振する加振機と、
この加振機を制御する加振機制御部と、
前記供試体を加振したときに、この供試体から前記加振機に加えられる反力を計測する反力計測手段および前記供試体の応答を計測する応答計測手段と、
前記波形発生装置が発生した目標加速度および前記反力計測手段が計測した反力を入力し、前記数値モデルの振動応答を演算して目標応答を出力する数値モデル演算部と、
この目標応答と前記応答計測手段が計測した供試体の応答とを入力し補正出力を出力する補正信号演算部とを備え、
前記補正出力を前記波形発生装置と前記加振機制御部間に加算したことを特徴とする振動試験装置。
【請求項2】
前記波形発生装置が発生した目標加速度から前記補正出力を減算する減算器と、この減算器の出力および前記反力計測手段が計測した反力を入力し、前記数値モデルを用いて前記加振機制御部に入力する数値シミュレータとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の振動試験装置。
【請求項3】
前記数値モデル演算部と前記供試体と前記加振機と前記加振機制御部とで構成される制御ループに、この制御ループを安定化させる安定化補償器を設け、前記補正出力を前記数値モデル演算部と前記加振機制御部間にフィードバックしたことを特徴とする請求項1に記載の振動試験装置。
【請求項4】
目標加速度を発生する波形発生装置と、
評価対象構造物の一部を構成する供試体を加振する加振機と、
前記供試体を加振したときにこの供試体から前記加振機へ加えられる反力を計測する反力計測手段および前記供試体の応答を計測する応答計測手段と、
前記目標加速度および前記反力を入力し、前記供試体に仮想的に接続され前記評価対象構造物の残りの部分を構成する数値モデルを用いてこの数値モデルの振動応答を演算し前記加振機への目標応答を出力する数値モデル演算部と、
この数値モデル演算部からの目標応答に基づいて前記加振機を制御する加振機制御部とを備え、
前記数値モデル演算部と前記供試体と前記加振機と前記加振機制御部とで構成される制御ループを安定化させる安定化補償器を有し、
前記数値モデル演算部から出力される目標応答および前記供試体を加振して得られる供試体の応答を入力し、補正出力を生成する補正出力演算部を設け、
生成された補正出力を前記目標応答に加えて前記加振機の加振指令とすることを特徴とする振動試験装置。
【請求項5】
前記供試体を加振して得られる供試体の応答は、前記供試体の加速度と速度と変位の少なくともいずれかの物理量であり、前記補正出力演算部に入力される供試体の応答は、前記供試体の応答と同じ物理量であることを特徴とする請求項4に記載の振動試験装置。
【請求項6】
前記補正出力演算部は、前記目標応答を記憶する目標応答記憶部と、前記供試体の応答を記憶する供試体応答記憶部と、前記目標応答と前記供試体の応答の差分である誤差応答を生成する誤差生成部と、この誤差応答に基づいて補正出力を演算する繰り返し補償手段と、この繰り返し補償手段で得た補正出力を記憶する補正出力記憶部と、この補正出力記憶手段に記憶した補正出力を前記加振機に出力する補正出力部とを有することを特徴とする請求項4に記載の振動試験装置。
【請求項7】
前記繰り返し補償手段は、前記目標応答から前記供試体の応答までの伝達特性と、前記供試体の応答から前記反力までの伝達特性と、前記反力から前記目標応答までの伝達特性を有することを特徴とする請求項6に記載の振動試験装置。
【請求項8】
前記補正出力演算部は、前記目標応答と前記供試体の応答の差分である誤差応答に前記繰り返し補償手段の伝達特性を乗じた出力を、前回の補正出力に加算して、新たな補正出力とすることを特徴とする請求項6または7に記載の振動試験装置。
【請求項9】
目標加速度を発生する波形発生装置と、
評価対象構造物の一部を構成する供試体を加振する加振機と、
前記供試体を加振したときにこの供試体から前記加振機へ加えられる反力を計測する反力計測手段および前記供試体の応答を計測する応答計測手段と、
前記目標加速度および前記反力を入力し、前記供試体に仮想的に接続され前記評価対象構造物の残りの部分を構成する数値モデルを用いてこの数値モデルの振動応答を演算し前記加振機への目標応答を出力する数値モデル演算部と、
この数値モデル演算部からの目標応答に基づいて前記加振機を制御する加振機制御部と、
前記応答計測手段からの応答信号を用いて供試体が前記加振機に加える反力を推定し、補償出力を出力する外乱推定補償部とを備え、
前記補償出力を加振機制御部にフィードバックしたことを特徴とする振動試験装置。
【請求項10】
前記外乱推定補償部は、前記加振機の伝達特性の逆特性を示すブロックと、ローパスフィルタとハイパスフィルタとバンドパスフィルタのいずれかと、外乱推定部とを有することを特徴とする請求項9に記載の振動試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−102127(P2008−102127A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235659(P2007−235659)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)